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なつみ館(仮)コミュの転

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【シーン3】

  舞台が明るくなる。

  舞台上には誰もいない。

  舞台が明るくなったり暗くなったりを繰り返す中、
  アリサの声が聞こえる。

アリサの声
 「私、本当は気づいてた。
  あの子のステップに、歌声に、体の使い方、バランスの取り方、仕草、
  その所作の一つ一つに──
  それは、私のような模倣じゃない。
  あの人から、注ぎ込まれた、純粋な原液。
  私はあの子の中に、あの人の遺伝子を見つけた」


  舞台袖に明かりが灯り、アリサが現れる。
  走ってきた様子のアリサ。
  呼吸を整えながら、

アリサ「はあ、はあ、こんな時間になっちゃた・・・。
    忘れ物しちゃうなんて。まだ教室開いてるかな」

  アリサ、顔を上げるとふと気づく。稽古場にまだ人影があることに。

アリサ「あれ・・・? ユキホ、まだ残ってたのかなあ」

  舞台袖の明かりが消えながら舞台全体が明るくなる。

  アリサが袖にはけると、場面は稽古場。

  そこにはユキホとウミが練習をしていた。

  時刻は夕暮れ。

  夕焼けが全体を照らす中、だんだんと日が落ちて暗くなり始めている。

ウミ 「そろそろ終わりましょうか」
ユキホ「ま、まだ、お願いします!」
ウミ 「ユキホ、無理な練習は体に負担がかかるばかりですよ。
    体を休ませることも鍛錬のうちです」
ユキホ「でも私、全然ダメだから、もっともっと練習したいんです」
ウミ 「ユキホ・・・」
ユキホ「私、もっと上手くなりたい。私、アリサみたいに上手くないから・・・」
ウミ 「・・・確かに、アリサの方が歌やダンスのセンスはあるのかも知れません」
ユキホ「そっか・・・」
ウミ 「でも、基礎体力や、身体能力の基礎はユキホの方が現段階では勝っているでしょう。
でもそれは、今後の練習次第でどうとでもなるものなのです」
ユキホ「・・・でも私、才能ないから」
ウミ 「才能なんてものは、誰にもないと、私は思っています。
    人は、自分ができないことを他人ができるのを見て、才能と呼ぶのだと思います。
    本当は、その人だってどれだけの時間を費やしてきたか。
    そこに至るまでに、どれだけの努力をしてきたことか。
    私は、人を感動させるそれを、才能だとか天才だとかそんな言葉で括ってしまいたくない。
    きっとそこに至るまでには数多くの努力を積み重ねて来たのでしょうから。
    そのがんばった時間を、私は尊いと思うのです。
    まあ、個人差はありますし、誰にでも得手不得手、向き不向きはあるんですけどね」
ユキホ「ウミさん・・・」
ウミ 「さあ、今日は帰りましょう。また明日から、夜は稽古をつけてあげますから」
ユキホ「・・・わかりました。ありがとうございます」
ウミ 「いえいえ。こんなこと、大したことじゃないですよ」

  ウミ、荷物を持ってその場を去ろうとする。
  それをユキホが引き止める。

ユキホ「ウミさん」
ウミ 「なんですか?」
ユキホ「ウミさんは、どうして私にこんなにいろいろしてくれるですか?
    ウミさんだって、生徒会で忙しいはずなのに」
ウミ 「そうですね。たぶん、ほっておけないからだと思います」
ユキホ「私、そんなに頼りないですかね?」
ウミ 「いえ、そういうことではなく。
まあ、あなたのお姉さんには世話を焼きまくりですからね、
その延長なのかも知れません」
ユキホ「ははは・・・なんかすみません」
ウミ 「謝らなくていいんですよ。世話を焼いたり、心配したりは当たり前です。
    だって、大切な後輩なんですから」

   ウミ、ユキホの頭を撫でる。

ウミ 「帰りましょうか」
ユキホ「はい!」

   ウミとユキホが雑談をしながら去っていく。
   だんだんと声が遠ざかっていく。

   ウミとユキホが去ったあと、アリサが入ってくる。
   全てを聞いていたアリサの表情は暗い。

   アリサ、イヤホンを耳につけ、壁を背にうずくまる。

   照明が少し暗くなり、場面転換のBGMが流れる。

   扉からハナヨとユキホが入ってくる。

   舞台上が明るく照らされ、BGMがカットアウト。

   うずくまっていたアリサはイヤホンを外し、顔を上げる。
   さっきまでの暗い表情はなく、平生の状態である。

   ハナヨが元気よく話し始める。

ハナヨ「アイドルに必要なのは歌って踊ることだけじゃないの!」
ユキホ「えっと、笑顔?」
ハナヨ「そういうことだけじゃないの。たとえば、ライブでのMCや、
    アイドルとしてのキャラ作りよ」
アリサ「キャラづくり?」
ハナヨ「そう、キャラ作り。例えば、そうだなあ、
『みんなのハートに笑顔届ける、みんなのアイドル、ラブリー☆ユキホ(はーと)』
    ・・・(真顔になって)こんな感じです」
ユキホ「私の名前使われたっ!?」
ハナヨ「こんな風に、みんなに親しみやすく、他のアイドルとの差別化を図るために、
    キャラづくりはとても重要なの」
ユキホ「そうなんだっ!?」
アリサ「なるほどなるほど」

  アリサ、言いながらペンとメモ帳を取り出し、メモをしている。

ユキホ「メモってる!?」
ハナヨ「現在は、アイドル多様化、且つ大量生産の時代。
    人類の約半分がアイドルと化した、アイドル戦国時代なのよ」
ユキホ「そんなにはいないよねっ!?」
ハナヨ「そんな時代を生き残るためには、アイドルとしての個性を磨いていかなければならないの」
アリサ「ふむふむ」
ユキホ「言いたいことはわかるんだけど、言ってることがわからないよ・・・」

ハナヨ「それじゃあ、甘々なキャラを作って、会話をやってみようか!」

  以降、即興劇が始まる。

ハナヨ「私のキュンキュンパワー、みんなにわけてあ・げ・る」
アリサ「アリサはネコ耳パワー全開だよ!」
ユキホ「ユキホはユキリン星から来た、宇宙人だよーっ」

  みたいな感じで、みんな間違ったアイドル像の痛いキャラを演じる。

  アドリブで繰り広げられるカオス空間。

  そんな中、ウミが扉を開けて入ってくるが、三人は気づかずに続ける。

  ウミ、冷めた目で、三人を眺めている。

ユキホ「だ、だめ、私はあなただけのユキホにはなれないっ!
だってユキホはみんなのアイドルなのだからっ☆」

ウミ 「はあ。」
三人 「!?」

   勢いよく後ずさる三人。

ウミ 「呆れたものですね」

   その場に崩れ落ちるアリサ。
   「恥ずかしい恥ずかしい」と繰り返しながら地面を転がる(のたうち回る)ユキホ。
   ハナヨは恐怖で体をガタガタと震わせながら硬直している。
ウミ 「まったく、練習もしないで、あなたたちは遊んでばっかりで」
三人 「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
ウミ 「特にハナヨ!」
ハナヨ「は、はいっ」
ウミ 「あなたは部長としての自覚がないのですか。本番まであと残り少ないというのに」
ハナヨ「ご、ごめんなさいぃ〜」

  がみがみとハナヨに説教をするウミ。
  ウミはその迫力でハナヨを壁際に追い詰める。

  少し離れて、アリサとユキホが小声で話す。

アリサ「(小声で)さすがウミさん。すごい迫力だね」
ユキホ「(小声で)そうだね。ウミさんは、敵に回さない方がいいね、絶対」
ウミ 「聞こえてますよ」
アリユキ「ひいっ!!」

  背筋がぴんとなるアリサとユキホ。

ウミ 「まったく、あなたたちときたら・・・」
ユキホ「ごめんなさ、つい」
ウミ 「しょうがないですね、ユキホは」
ユキホ「へへへー」
アリサ「・・・ユキホさ、最近、ウミさんと仲いいよね・・・」
ユキホ「え、そうかな?」
アリサ「うん」


  ウミが去る。

  ユキホ、新しいターンを披露する。

ユキホ「ねえアリサ、今のどうかな?」
アリサ「・・・私、そんなこと教えてもらってない」
ユキホ「え?」
アリサ「私、ウミさんにあんな言葉、かけられたことない!」
ユキホ「アリサ、どうしちゃったのさ」
アリサ「わたし、ね、見ちゃったんだ」
ユキホ「・・・見ちゃったって、なにを?」
アリサ「ユキホとウミさんが二人きりで練習してるの」
ユキホ「・・・あー、そっかあ、見られちゃってたかあ。
    そうなんだ、実は、特訓つけてもらっててさあ。
    ほら、私って、ダンスとかあんまり上手くないじゃん?
    だから、ウミさんに頼みこんで、コーチしてもらうことになって、
    あははははー」
アリサ「・・・どうしてそんな抜け駆けみたいなことするの」
ユキホ「え?」
アリサ「どうしてそんな、一人で勝手に、抜け駆けみたいなことするの。
    ユキホ、私がウミさんのことすごく憧れてるって知ってるよね?
    なのに、どうして・・・」
ユキホ「なにそれ。抜け駆けってなに。
    上手くなりたいって思っちゃダメなの?
    ウミさんは、アリサだけのものなの?
    アリサ、なんか言ってることメチャクチャだよ」
アリサ「違う、そうじゃないよ。どうして一人で黙って練習してたの。
    二人で練習すればいいじゃない」
ユキホ「二人でって・・・。アリサには、アリサには私の気持ちなんてわからないよ!」
アリサ「ユキホ?」

ユキホ
「アリサはいいよね! 憧れてるだけで! 憧れてるだけだもん、好きなだけだもん。
 アリサはウミさんみたいになりたいの! 
 アリサは憧れているでけで、そうなりたいだけで、本当に。
 アリサは、誰のことも見てない。私のことも──」


  その場を飛び出すユキホ



【結パーツ】



アリサ
 「衝撃だった。
  私はいったい、どこまで独善的だったんだ。
  私たちはミューズにはなれない。ミューズにはならない。
  そう、結論を出したはずだった。
  私自身、そう決めたはずだった。
  だというのに、私はまだ、あの人たちの幻想を追いかけていたのだ。
  ユキホに言われてはっきりした。
  私は、あの人たちのようになりたいんじゃない。
  私は、あの人たちに憧れるあまりに、あの人たちになりたいと、思ってしまっていた」




ウミの独白

「アリサを、妹を頼むわね」
そう託されたその瞬間から、私にとってアリサは、これまで以上に特別な存在になった。
まるで、本当の妹のような、
大切な大切な、私の後輩。
彼女が私に憧れてくれていることはわかっている。


彼女の中に見つけた才能を、私が育てたいと思った。
私だけが、この手で。

それが、夢を追いかけることができなくなった、
今の私のわずかな抵抗。

私は、そんな自己顕示欲を満たすために、彼女を利用してしまった。
彼女に、私のそんな醜い戯れに、付き合わせてしまった。

そう思えばそう思うほどに、私は彼女に甘くなってしまう。

その結果、私は彼女を傷つけてしまった。

それどころか──

私は、自分自身の望みさえも摘み取ってしまったのだ。

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