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なつみ館(仮)コミュのそんな『設定』は俺がぶっ壊してやる!【第一話】

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そんな『設定』は俺がぶっ壊してやる!(仮)


  この物語は「これからはそういう『設定』で!」の続編である。

【第一話】

  サスが舞台中央を照らし出す。

  舞台上には大きな鎌を持った死神が立っている。
  怪しい雰囲気を醸し出している。

死神「私は死神。人間の寿命を決め、命を奪うもの。
   私の仕事は死期の近づいた人間に寿命を告げ、
   人生の最期を美しく演出し、死した人間の魂を頂くこと。
   私は人間の死に様が好きだ。
   人間は死せる時が最も美しく輝くのだ。
   この街では多くの命を刈ることができた。
   さて、次は貴様の街に現れ、貴様の魂を、命を頂くとしよう」

  天使が現れて、死神を殴り飛ばす。

天使「そんなやついるかーっ」
死神「へぶしっ」

  死神、退場。

天使「私は天使。世の中のみんなを幸せにするために下界に降り立ちました。
   人々の幸せ、それを祈るのが私の使命。
   さあみなさん、一緒に幸せになりましょう」

  悪魔が現れて、天使を殴り飛ばす。

悪魔「そんなやついるかーっ」
天使「へぶしっ」

  天使、退場。

悪魔「ふはははは・・・俺様は、悪魔だ!
   決して死神とキャラがかぶってなどいないさ!
   俺様は、貴様等を恐怖のどん底に──」

  宇宙人が現れて、悪魔を殴り飛ばす。

宇宙人「ソンナヤツイルカーっ!」
悪魔「へぶしっ」

  悪魔、退場。

宇宙人「我々ハ、宇宙人ダ──」

  サンタクロースが現れて、宇宙人を殴り飛ばす。

サンタ「そんなやついるかーっ」
宇宙人「へぶしっ」
サンタ「我々て・・・一人じゃねえか!」

  宇宙人、退場。

サンタ「やあみんな──」

  トナカイが現れて、サンタクロースを殴り飛ばす。

トナカイ「うほっ! うほうほっ!!」
サンタ「へぶしっ」

  サンタクロース、退場。

トナカイ「うほっ、うほっ、うほうほっ!!」

  魔法少女が現れて、トナカイを殴り飛ばす。

魔法少女「日本語しゃべれや!」
トナカイ「うほほーっ!!」

  トナカイ、退場。

魔法少女「(はけたトナカイに向かって)お前だけなんか違うからな。
     みんなこんにちは、あたしは、魔法少女・プリティ・マイコ☆
     ごく普通の魔法少女よ! 
     ある日突然魔法の力を手に入れたあたしは、魔法少女に変身してしまったの!
     その正体は誰にも秘密なの!
ほんとは32才なの!
     秘密だよ☆」

  主人公が現れて、魔法少女を殴り飛ばす。

主人公「そんなやついるかーっ」
魔法少女「いやーっ」

  魔法少女、退場。

魔法少女の声「だ、だめ・・・変身が解けちゃう・・・32才に戻っちゃう!
       いやーっ」

主人公「・・・・・・・・・」

  気を取り直して客席にアピール。

主人公「俺の名前は、主人公。この物語の主人公だ。
    俺のこの拳は、全ての設定をぶっとばすことができる。
    俺はこの拳で、お前たち全てのキャラクターを、設定を、なかったことにしてやるぜ!」

  間。今までテンポよく次々にキャラクターが現れていたのに、突然次が出てこなくなる。

  主人公、次のキャラクターが現れるのを待っている。

  手でカモンとジェスチャーでアピールするが誰も出てこない。

  周囲を気にしながら仕方なく、名乗り直す。

主人公「俺の名前は、主人公だ! この物語の主人公にして、主人公だ!
    俺の拳は全ての設定を──
かかって来いやぁっ! 俺は主人公だぞ!
・・・あれ? 誰か来いよ! おいっ! 来いってば!
    ・・・誰か、誰か俺の設定を殺しにこーいっ!!」

  突如、照明が消える。

主人公「あれ、消えた? 暗い・・・照明さん? 照明さーんっ!?」

  音楽が流れ始まる。

  照明がつく。

  島村が現れる。

  島村、主人公を殴り飛ばす。


  島村、マイクを取り出し、歌い始める。

  左目には眼帯を、右腕には包帯を巻いている。
  服装は黒ずくめ。

  歌の合間にセリフを言う。

島村「俺の名は『漆黒の闇・アンリミテッド・ルール・ブレイカー』。この世界のバランスを保つために戦う、調停者だ。この世界では島村桃子と名乗っている。七つの人格を持つ我らには、1つの人格につき1つの能力が与えられている。が、この俺に与えられた能力は二つ。この左目、『現実剥離』と、この右腕だ。左目に宿った『現実剥離』はこの世界のものではない物を見ることができる。この右腕の包帯はわけあって外すことができない。この腕に封じられし『鬼』が暴れ出してしまうからな。俺はこの鬼を『昴』(スバル)と呼んでいる。こいつの能力は『ルール・ブレイカー』。この世の理を否定することができる力だ」


  歌の途中に『敵』が何体も現れる。拳で戦う島村。

  全てを撃退する。

  歌が終わる。

  右腕が疼きだす。

島村「く・・・こんなときに。昴、そんなに血に飢えているのか。仕方がないな。おい、貴様たち! この俺の左目、見たいか? ふふふ・・・やめておけ。命は保証できないからな。はっはっは。はーっはっは!」
山田「先輩、ひとりごとがうるさいです」


第一話、島村トウコ

  /

  場面は倉庫。学校の、演劇部の、倉庫。

  いろいろとガラクタが転がっていて、山を作っている。

  その山の中に、中年のオッサンが寝転がっている。その名を宮本という。

  山田が倉庫に入ってくる。

宮本「やあ。いらっしゃい」
山田「いらっしゃいじゃないだろオッサン。ここはあんたの家じゃない」
宮本「確かにここは僕の家庭ではないが、ここは僕の住居ではある。ホームではないが、ハウスではある」
山田「いや、お前の住居じゃねえよ」

宮本「ときに。山田くんさあ、君、悩みがあるね?」

山田「唐突になんだよ。いつものセリフを言いやがって。そりゃ生きてるんだから悩みの一つや二つあるだろうよ」
宮本「今まさに、困った顔を、しているね」
山田「今まさに目の前に困ったオッサンがいるからな。ていうかなんで七五調なんだよ」

山田(この男は、この演劇部の倉庫をあろうことかねぐらにしてしまっている。
   不審者で、浮浪者だ。誰か警察を呼んでくれ)

宮本「でもあれだよねえ。山田くんもさ、生まれて初めて彼女ができたんでしょ。それってものすごくハッピーなことなんじゃないの? それこそ、踊り狂ってしましそうなくらい」

  宮本、突然暴れ出す。

宮本「ひやっほー! 彼女ができたぜーっ!」

山田「落ち着けオッサン!」
宮本「あれれえ、おかしいなあ。僕は君の心の叫びを代わりに体現してあげただけだっていうのに。それともなにかい? 君は神崎ちゃんと付き合えることを、そんなに喜ばしいことだと思えていないということなのかな?」
山田「別に、そういうわけじゃないよ。普通に、うれしいよ、そりゃ」
宮本「普通に、うれしい、ね。その普通にって表現が僕は気に食わないなあ。普通って定義はなんなの、って話しにならない?」
山田「そういった論法は面倒くさいので一切受け付けません!」
宮本「そうかい。それじゃあ普通の少年である山田くんよ、もう一度訊くよ。君は、君の彼女、神崎ちゃんと付き合う事ができて、踊り狂って死ぬほどに、うれしくはないのかい?」
山田「・・・・・・」

  間。

山田「うれしいさ! そりゃうれしいよ! これで満足か!?」

  山田、激しく踊り始める。
  「神崎好きだー!」とか叫びながら。

  島村が入ってくる。

  凍りつく空気。

山田「死んだ!」

  山田、倒れる。

宮本「ほんとに死んじゃうくらいにうれしかったんだあ。やけるねえ」

  /

宮本「いらっしゃい、かわいこちゃん」
山田「なんか、毎回言うのな、それ」
宮本「だって、かわいい子には旅をさせろ、じゃない、かわいい子にはかわいいって言わなきゃ失礼じゃないか」
山田「いや、言い間違った意味がわからん」
宮本「それはそうと、君の名前を聞かせてもらっていいかな?」
島村「島村桃子です」
宮本「島村ちゃん、ね」
山田「この人、ここの演劇部の部長だから、対応に気をつけるんだな、オッサン。この演劇部の倉庫から追い出されるぞ」
宮本「言ってしまえば大家さんみたいなものかな。おお恐い恐い」
島村「元部長、ね。もう引退したから」
島村「それで、君の悩みごとはなんだい? 島村ちゃん。
   もちろん君も、悩みごとがあって、相談があって来たんだろ?」
島村「そうです。・・・信じてもらえないかもしれないけど、聞いてもらえますか?」
宮本「ほう、信じてもらえないかもしれない、とは前置きとしてはこれほど恐ろしい文句はないねえ」
山田「宮本のオッサン、島村先輩は言動の大半が妄言だから気をつけろ」
宮本「もうげん、ねえ。それは妄想の妄かい? それとも猛暑の猛かい?」
山田「言語がたける意味が全くわからねえよ!」

島村「・・・信じてもらえないかもしれないけど、私は世界の敵と戦っているの」

山田「敵ってなんだよ・・・」
宮本「ほう、興味深いね。続けて」

島村「どこから話したものかわからないのだけれど・・・。この世界には『方向性』というものが存在している。それは大きく二つ。世界を変化させようとする方向性と、世界を変化させまいとする方向性。
   敵というのは、世界を変化させようとする、世界から生み出されたモノ。世界の端末の一つ。
   そして私は、その敵と戦うために、世界を変化させまいとする方向性として力を与えられた。世界から、世界の端末として。それが、これ」

  島村、袖をめくって右腕を見せる。
  右腕には手首から肘のあたりまで包帯が巻かれていた。

山田「出た。中二病」
宮本「ほほう、融合型の契約者の類か」
島村「わかるの?」
山田「わかんねえよ! オッサンも話を合わせるな! 話がややこしくなる!」
島村「私の右手には、『鬼』が封じられている。彼の名前は昴。そして彼の能力は、この世の理を壊すこと。『アンリミテッド・ルール・ブレイカー』──それが、彼の、否、私の能力」
宮本「ほう」
島村「そして、私の左眼は『魔眼』が埋め込まれている。その名も、『現実剥離』(げんじつはくり)。この世のものではないものが視える」
宮本「それはすごい。『魔眼』に、『ルール・ブレイカー』。『設定殺し』か」
山田「やめて! 本当に存在する体で話を進めるのはやめて!!」
島村「知っているの──?」
宮本「知っているも何も、僕はその手のことには詳しい。いや、君のその右手のことに詳しいというわけではなく、そういった世界の裏事情的なことに詳しい、という意味だ。一応、世界業界ではプロだからね」
山田「世界業界て・・・もう意味があり過ぎて意味がわからん」
宮本「設定殺し、ルール・ブレイカーは、この世のあらゆる現象を、関係を、存在を、名前を、物質を、空想を、設定を、否定する力だ。世界そのものを消滅しかねない、危険な力だ」
島村「正直、半信半疑だったけど、あなたは、本物のようね」
宮本「詳しいってだけで、本物だとは限らないんだけどね。それで、君の本当の名前を聞いていなかったね」
島村「申し遅れました。『アンリミテッド・ルール・ブレイカー』を右手に宿した、我が名は『漆黒の闇』。名前はまだない」
山田「今、我が名はって言っただろうが」
島村「この世界では『島村トウコ』と名乗っている」
山田「もともとここの世界の住人だろうが」
島村「私の使命は、世界のバランスを維持すること。守ること。人は私を『調停者』と呼ぶ」
山田「誰も呼ばねえよ。ていうか呼び名とか単語とかが多すぎて、全くついていけません! この、中二病がっ!!」

宮本「──しかし、驚いたね。概ね正解だ」
山田「正解?」
宮本「その通りだよ山田くん。妄想──いや、空想だけでここまで【世界】の【理】を言い当てることができるだなんて、この子はある意味本物と言えるかも知れない」
山田「はあ?」
宮本「君は、菊川に会ったのだろう?」
山田「ああ」
宮本「彼こそが、世界を変化させようとする存在。そして僕が、世界を変化させまいとする存在。彼はその手に持ったルービックキューブで、世界の設定を変化させることができた。僕たちは、島村ちゃんの言葉を借りるなら、世界の端末ということになる」
山田「じゃあ、菊川さんや、宮本のオッサンは、人間じゃないってことなのか?」
宮本「人間じゃない、って言い方もどうかな。厳密に言うと、確かに普通の人間じゃあないけど・・・。例えば、目の前に外科医とコンビニ店員がいます」
山田「はあ」
宮本「例えば君は、この二人を見て、ああ、「医者だ」とか、ああ、「バイトだ」とか思うかい? まずは彼らを一人の人間として定義するんじゃあないのかい?」
山田「いや、病院に行ったら医者として会うし、コンビニに行ったら店員として接するだろ」
宮本「じゃあ君は、プライベートで私服を着ている彼らに会ったところで、こいつは「外科医」だとかこいつは「コンビニ」だとか認識するのかい?」
山田「そりゃしないだろうよ。知らない人だし。知ってたら、まあ、「先生こんにちは」とか「あ、あそこのコンビニの人だ」とかは思うだろうけど。ていうか、今、しれっとバイトの事をコンビニって呼んだな」
宮本「とまあ、その程度に認識ということだ。僕が人間か人間じゃないかなんて、とてもとても些末なことなんだよ」
山田「あんたらの役割が、職業みたいなものだって言いたいのか?」
宮本「その通り。医者は手術をするから医者なんじゃない。医者だから手術をするんだ。僕だってね、強いられているんだよ、在り方を。かつての神崎ちゃんのようにね」
山田「設定、か」

山田(この世界にはあらゆる【設定】が転がっている。
   そうであると、決められた大前提が。)

宮本「それで、島村ちゃんの悩みってのはなんなんだい?」
山田「というか、無関係の人間に世界の話とか設定の話とかしちゃってもいいのかよ」
宮本「まあ、構わないだろう。どうせ誰も信じないだろうし、信じても、目の前にいるような思い込みの激しい人畜無害な子供の戯言さ」
山田「言い方がなんだかなあ」
宮本「それで、君の本当の悩みは、なんなんだい?」
島村「私の悩みは、さっき言ったことが全てなんですけど。というか、敵がいることが、それとどう向き合っていくべきなのか、それが、今の私の悩みです」
宮本「いや、違うな。それが本当の悩みではない。君が言うところの、その敵っていうのが本当に存在するとして、だからってそれを僕なんかに相談して、解決できると思っている、とは僕には思えない。それとも何かな、君のその世界観を誰かと共有したかったって、そういうわけかな?」
島村「・・・・・・」
宮本「そういうわけだったら、よそをあたってくれないか? 空想好きの友達作りなら、ネットでもなんででもやってくれ。僕が助言できるのは、今目の前で起こっている問題だけだよ。さて、もう一度訊くが、君が今、抱えている問題は、なんだい?」
島村「・・・ちょっと、山田くんの前では言いにくいです」
山田「え?」
宮本「そういうわけだそうだ、山田君、ちょっと席を外してくれないかい?」
山田「あ、ああ」

  山田、倉庫から出て扉を閉める。

山田「なんなんだろう。ていうか、オッサンと女子高生が密室に二人っきりってちょっと危なくないか、この状況?」

  /

宮本「もういいよ、入ってきなよ、山田くん」
山田「なんで七五調なんだよ」
宮本「島村ちゃん、今日は帰りなよ。君にも、気持ちの整理が必要だ」
島村「はい」
山田「・・・・・・」
島村「ありがとうございました」

  島村、帰る。

山田「で、島村先輩の悩みってなんだったんだよ」
宮本「いやあ、それは言えないねえ」
山田「なんでだよ」
宮本「言えない言えない。だって君、人に相談した悩みごとを他の人に勝手に伝えられていたら、それはものすごく嫌だろ、人として」
山田「それは、嫌だろうけど。ていうか、俺には聞かれたくないってのがものすごく気になったんだけど」
宮本「それは、まあ、そうだねえ。君には聞かれたくない。でもそれでいて、悩んでいることを知って欲しいからこそ、君がいるときを見計らって来た、というわけか」
山田「どういうことだよ」
宮本「・・・・・・『中二病』。彼女が患っている病は、そういう類のものだ」
山田「だから俺が最初っからそう言ってるじゃないか。
   というか、いつもみたいに相談ごとに『病』として名前をつけるんだな」
宮本「別に、名前をつけることが目的ではないよ。僕は現象を定義しておきたいだけさ」
山田「どうだか」
宮本「そもそも、中二病とはいったいなんなのか」

宮本、スマートフォンで検索する。

山田「え、ちょっと待て! オッサン、そんなハイカラなもの持ってたのかよ!?」
宮本「山田くん、ハイカラって死語だと思うよ」
山田「死語も死語だよ、オッサン」
宮本「ダメだ、この『死語』は死後数年は経過している」
山田「ギャグがわかりづらいわ!」

  宮本、検索結果を読み上げる。

宮本「『中二病(ちゅうにびょう)とは、思春期の少年少女にありがちな自意識過剰やコンプレックスから発する一部の言動傾向を小児病とからめ揶揄した俗語である。伊集院光がラジオ番組の中で用いたのが最初と言われている。』
   さらに中二病には様々な症状があるようで、『不思議な・超自然的な力に憧れ、自分には物の怪に憑かれたことによる、発現すると抑えられない隠された力があると思い込み、そういった設定のキャラ作りをしている。』──だってよ」
山田「へー。まあ、俺もなんとなくしか知らなかったな、『中二病』って単語は。
   で、島村先輩の問題は解決したのか?」
宮本「いや、解決は、まだしていない」
山田「まだってことは、見通しは立ったのか?」
宮本「いや、見通しも、多分立たない」
山田「はあ?」
宮本「ただ一つ言えることは、彼女の今の願いは叶わないということ。しかし、それは敵に敵わないということとなんら変わりがなく、問題がないということだ」
山田「悪い、意味がわからん」
宮本「君はさ、問題や障害は全て解決したり乗り越えたりしなければならないと思うかい?」
山田「そりゃあ、解決できるならできた方がいいんじゃないのか?」
宮本「確かに、できないよりも、できた方がいい。でもね、世の中には上手くいかないことの方が多いんだよ。それを諦めたり、妥協したり、折り合いをつけたりも一つの解決手段だと僕は思うんだ」
山田「先輩には、諦めてもらうってこと?」
宮本「まあね。まあ、決めるのは彼女だけどね」
山田「へえ、あんたでも助けない人間がいるんだな」
宮本「やめてくれよ。僕は正義の味方じゃあない。僕は世界の変化をごくごく最小限に抑えたい、それだけさ。それに僕がするのは相談に乗って助言をすることくらいだけ。僕は全知でもなければ全能でもないんだからさ」
山田「全能ではないにしても、ほぼ全知って感じはするけどな。なんでも知り過ぎだよ、あんた。島村先輩の中二的設定話によくあそこまでついていけたな。まるで最初から知ってたみたいに。え、あれって設定じゃなくて、マジな話なのか? 俺が知らないだけで、世界ってそんなタイヘンなことになってんのか? 敵とか本当にいるのか?」
宮本「いるわけないだろ」
山田「はあ?」
宮本「あれはね、全部彼女の妄想だよ。あんな話を信じるのかい? 君は本当にお人よしだなあ。バカじゃあないのかい?」
山田「ひどい言われようだな」
宮本「いやしかし、『現実剥離』・・・という単語は覚えておいた方がいいかもしれないな」
山田「なんでまた?」
宮本「それは、彼女を救うキーワードとなるかも知れないから、さ」
山田「彼女って、島村先輩か?」
宮本「・・・それはさておき」
山田「さておくのかよ」
宮本「まあ、世界を変える菊川と世界を変えない僕を彷彿とさせる、そのへんのくだりは確かに、驚いたのだけれど、やっぱりそれも全部、彼女の妄想さ」
山田「・・・だったら、どうしてあんなに詳しく話を合わせることができたんだよ。自分は専門家でプロフェッショナルみたいな顔しやがって」
宮本「それはね、これだよ」

  宮本、手に持ったスマートフォンをひらひらと揺らす。

山田「は?」
宮本「ネットに載ってた」
山田「はあっ!?」
宮本「自分の世界観を持ってる奴ってのは、それを誰かと共有したがるものなのさ。なんとなく、今日はこのへんの問題が転がりこんできそうだから、チェックしておいたのさ」
山田「なんとなくって、やっぱりオッサン、あんた全知全能なんじゃね? だいぶ大雑把ではあるけれど」
宮本「だったら、全知全能ついでに、島村ちゃんの悩みごとの件はなんとかなると、僕がお墨付きをあげておこう」
山田「おすみつき、ねえ」
宮本「おすみつけるためには──お酢(或いはオス、雄)を見つける、みたいな意味じゃないよ?」
山田「わかってるよ」
宮本「お墨付きをあげるためには、山田くん、君に確認しておかなければならないことがある」
山田「なんだよ、あらたまって」
宮本「島村ちゃんのためにこれは重要なことだ。心して答えてくれよ」
山田「あ、ああ。先輩のためにできることなら、なんでもやるよ」
宮本「君は、神崎ちゃんのこと、好きかい?」
山田「え? なんの関係があるんだよ」
宮本「答えるんだ」
山田「・・・ああ、好きだよ」
宮本「それは、何があっても揺るがない?」
山田「ああ、揺るがない」
宮本「もう一度訊く。山田くん、君は神崎ちゃんのことが好きかい?」
山田「ああ、俺は神崎が好きだ」
宮本「ふうん。じゃあ大丈夫だ」
山田「大丈夫って、何がだよ」
宮本「若者が患う病は、中二病だけじゃあないってことさ」

コメント(1)

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  島村がどこかにもたれかかっている。

  山田が島村に近づく。
  
山田「・・・・・・」
島村「・・・・・・」

  きまずい雰囲気。

山田「・・・どうも」
島村「ん、おはよう」

  沈黙。

  山田が何かを言いかけようとする。

  が、それを遮るように、

島村「まったく、オープニングもエンディングもないなんて、今日は最終回なのか?」
山田「そもそも日常生活にオープニングなんかねえよ」

  (エンディング、終わりはあるかもしれないけれど、そう思ったが、山田は口にはしなかった。)

  ──なんだ、いつもの先輩だ。

島村「そう言わないでよ、山田くん」
山田「言わずにいられないですよ」
島村「すみません、患っているもので」
山田「中二病を?」
島村「いえ、なんとかの病を」
山田「・・・・・・」
島村「・・・・・・」

  沈黙。

山田「あの、先輩って、いつからその力に目覚めたんですか?」
島村「力、ね・・・。私、子供の頃から友達がいなくて、もともと一人で遊ぶのが好きだったわ。それで、一人で何人もの人格を作って遊んでいたの。それが気付いたら、本物になってしまっていた」
山田「ほんものって・・・」
島村「勘違いしないで、山田くん。私だって、別に空想と現実の区別がつかないほどバカじゃないわ。ただ、ちょっとごっこが過ぎただけ。君がいつも言ってるように、そろそろ卒業した方がいいのかもね」
山田「先輩・・・」
島村「私ね、今でも、友人と話していても、どことなく居心地の悪さを感じるときがあるの。
  『私は、生まれてくる世界を間違えてしまったのではないか、
   と、そんな感想を抱くようになっていた。
   まさにそれは、現実から剥離しているような状態だった。』
   なんて、ただ、人づきあいが苦手なだけなんだけどね」
山田「いや、俺もなんとなくわかりますよ。なんだか、自分と周囲が合致していないような、違和感というか、居心地の悪さというか、そういうのを感じるときが」
島村「山田くんって優しいのね」
山田「別に、そんなことは」
島村「私、そうやって、私のことを理解してくれようとしてくれている、山田くんのことがとても好きなんだと思うわ」
山田「先輩」
島村「山田くんがいなかったら、私、誰にも心を開いていなかったかもね。本当に、感謝してるわ」
山田「何言ってるんですか。先輩は、十分にちゃんとやれてますよ」
島村「ちゃんと、ね。ねえ山田くん、どうして君は演劇部に入ったの?」
山田「いや、別に、特に理由はないんですけど。ただ、何かしらの部活には入りたいとは思っていて。まあ、先輩に勧誘されて、勢いのまま、なし崩し的に、みたいな」
島村「ふふ、あの時に見つけて、捕まえていてよかったわ」
山田「まあ、結局は幽霊部員なんですけどね」
そういう島村先輩は、どうして演劇部に入ったんですか?」
島村「私はね、セリフを言うのが好きなのよ」
山田「・・・でしょうね」
島村「なに、その言い方」
山田「いや、別に」
島村「お芝居って、役者って、自分ではない別の誰かになれるじゃない? それに、みんなで一つのものを作り上げる、それが素敵だなって、それだけ」
山田「へえ、なんか意外だなあ」
島村「なにが?」
山田「なんだか、島村先輩がまともっぽいこと言ってるのが」
島村「どういう意味よ」
山田「いや、すみません。それで、高校卒業しても演劇って続けるんですか?」
島村「どうかしら。大学に入ったら、別のサークルに入るのも楽しそうね」
山田「どんな?」
島村「そうね、軽音楽部、とか」
山田「へえ。バンドですか。なんかかっこいいですね」
島村「あとは、アニ研?」
山田「はい?」
島村「アニメーション研きゅ──」
山田「フルネームで言わなくていいです」
島村「アニメーション研究会とか」
山田「言っちゃった!」
島村「まあ、そもそも私なんかの脳みそでどこかの大学に入れるのかも不安なんだけども」
山田「がんばって下さいよ、受験生・・・」
島村「うん。なんだか、普通ね」
山田「なにがです?」
島村「私、普通に、山田くんと、普通のことを話している」
山田「まあ、普通だけが俺の取り得みたいなもんですから」
島村「いや、君は十分に普通じゃないのだけれども」
山田「普通じゃないんですか」
島村「でも、こうやって普通に普通の話ができるのが、なんだか普通にうれしいな」
山田「そうですか」

島村「ねえ、山田くん」
山田「なんです?」
島村「君は、男女間の友情は信じる?」

  それは、いつかと同じ質問だった。

  山田、ほくそ笑む。

山田「信じますよ」

  島村、満面の笑顔で答える。

  これが、二人の結論だ。


第一話、完。

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