意味がわかると怖い話。コミュの夕闇図書館完結くみver前編 (リレー合作)

vol.1
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vol.12
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　　――　◇　◇　◇　――

「澄人君っ！」
「すみ…」
扉が開かれた時の二人の反応は対照的だった。
希望と絶望、あるいは天国と地獄といった感じだろうか。
嬉しさのあまり、足が速くなる千夜。
その千夜の反応を敏感に感じ取った和輝の顔は、悲壮に満ちていた。
今まで手を繋ぎ、和輝の一歩後ろを走っていた千夜が、手を離し失速する和輝から離れていく…。そんな千夜の後ろ姿を、和輝は半ば睨むようにして見つめた。下唇を噛みしめ、眉をしかめる和輝。
すると、和輝に異変が起きた。黒いスーツが全身タイツへと変わり、黒いシルクハットは頭全体を覆いつくし始めていった。
「行くなっ！」
叫ぶやいなや、和輝は千夜の肩を掴み、態勢を崩した千夜の身体を器用にお姫様抱っこしたかと思うと、そのまま踵を返し、間近まで迫っていたドール達をハイジャンプでかわした。
そして、人ひとりを抱えているとは思えない程のスピードで部屋の隅へと移動すると、そっと千夜を降ろし、軽々と長机を持ち上げバリケードを築きあげた。
本当にあっと言う間の出来事だった。
もともと和輝は運動神経が良い方ではあったが、その動きは人間が持ちうる能力を遥かに超えていた。

「え？」
訳が分からず、千夜が呆然として和輝を見ると、そこには黒いヘルメットに黒いタイツ、黒に銀のラインが入った革ブーツに、同じく黒に銀のラインが入った長手袋、そして腰にはよく分からないボタンがやたらとついてる黒いベルトを締めた、細身マッチョの男がいた。それはまるで、子供達が憧れる特撮……
「ヒーローとかそんなんじゃねーよ。お前の事は俺が守る。ただ、そう決めただけだ」
それは確かに和輝の声だった。
顔すら確認できないマスクから、聞き慣れたぶっきらぼうな声がするのを聞き、千夜は泣いた。
それが変わり果てた友人に対する恐怖からなのか、悲しみからなのか、千夜にはもう分からなかったが、不思議と危険だとは思わなかった。むしろ、側に居てほしいとすら感じていた。
「そうだ。千夜はもう何も考えなくていーから。…ただ俺の側に居るだけで、いいんだ」
どことなく照れを含んだような声は、確かな自信に満ちていた。
それから和輝は、千夜を背に隠すようにすると、長机のバリケードを破ろうとする四体のドール達に向き合った。

―――そのころ澄人は、迷走していた。
扉を開けた瞬間、和輝の服装が変化したかと思うとハイジャンプをかまし、その向こうから無表情のドール達が一斉に押し寄せてきて澄人を押し倒し、何事も無かったかのように立ち去っていったのだから無理もない。
『え？俺、完全無視？』
……いろんな意味で澄人はダメージを受けていた。
結果、またしても一人放置状態となった澄人に詩織が駆け寄る。
「君、大丈夫？」
「あ、司書さん。もう何がな……」
言いかけた澄人の声が突然、悲鳴に変わった。
「ぅあぁぁあーっ!!!!」
心配そうな詩織の傍らに、足の無い少女が浮かんでいたからだ。
「あ、この子？大丈夫よ。さっき、今回は何もしないって約束させたから」
平然と言い放つ詩織。
『え？約束させたって、幽霊と何か交渉したってこと？は？できんの？そんなこと…いや、その前に…』
詩織のとんでもないオカルト発言に、更にパニックに陥った澄人だったが、事態の把握が困難だと判断した澄人の脳は…
「よく分かんないっすけど、分かりました」
パニック状態のまま何もかもを受け止める決意をした。
まあ、それが出来たのも、さっきの事があったからなのだが。
そして澄人は何よりも聞きたいことを詩織に尋ねた。
「あの、恵美は何処に居るんですか？」
「恵美ちゃん？あぁ、あそこよ」
詩織の指差す方を見ると、恵美が飄々とした青年と何故か戦っていた。
すぐさま澄人は加勢しに行こうとしたが、詩織に止められた。
「大丈夫よ。彼女が傷つけられることはないから」
その言葉の真偽など見極めようもなかったが、澄人はそれを素直に信じることにした。
「そっすか。じゃ、アイツと戦ってる間は、恵美は無事ってことですね」
澄人の言葉に詩織は驚いた顔をした。
「随分、のみこみが良いのね。もしかして君もアレを見せられたの？」
その問いかけに澄人は頷いた。
「そう。じゃ、君も答えちゃったのね…」
頷いたまま顔をあげない澄人を、詩織は悲しい眼差しで見つめた。

澄人が見たもの。
それは偽千夜に扮した少女の悲しい人生と、この図書館に纏わる忌まわしい過去だった。

　　――　◇ 続く ◇　――