私はツイていない。
日頃は安全運転を心がけているのに、
うっかり軽い違反をしたときに限って警察に捕まってしまう。
不注意の信号無視、たまたま急いでいたときのスピード違反…。
狙ったかのように白バイやパトカーがやってくる。
善良な市民を捕まえて、何が楽しいのか。
「いつもはきちんと守ってるんですよ。
私よりも、あなたがたが捕まえるべき危険運転の常習者は他にいるでしょう？」
そう言いたいのをこらえて違反金を払う。
おかげで、免許証がゴールドだったことは一度もない。
「えっ？免許証ブルーなんだ？かわいそうに（笑）」
ゴールド免許を掲げながら、運転が荒い同僚に笑われる始末だ。
夜間、普通に運転をしていたのに、止められて職務質問されたことまである。
「こんな時間にどちらまで？」なんて、失礼極まりない。
世の中、正直者がバカを見る…。
最近、近所の神社のそばで妙なものを拾った。
木でできた小さな升で、裏には
「願い事叶えマス（笑）升の中で願い事を囁いて、三回なでてね」
と書いてある。
ばかばかしい。酷いダジャレだ。
でも、気まぐれでそっと囁いてみた。
「軽い交通違反で警察に捕まらないようにしてほしい」
三度なでてみる。
…なんてな。われながらおかしくなってきて、升をポイッと投げ捨てた。
そんな折、祖母が亡くなったと連絡があった。
最近は会っていないが昔はよく遊んでもらったものだ。
葬儀で会った親族が私に話しかけてきた。
祖母は毎日欠かさず家族の健康を祈っていたが、
取り分け不器用だった私のことを気にかけていて、
免許を取ったと聞いてからは交通事故を起こしませんように…と毎日祈っていたと。
最近ご無沙汰で会いに行かなかったことを申し訳なく思った。
葬儀場の駐車場は満車で、近くの路肩に駐車したのだが、
同様に駐車した列席者たちの車には一斉に駐車違反の札が張られていた。
「こんな場所だから事情はわかるだろうに！これだから警察は！」
と皆、憤慨していたが、
なぜか私の車だけ違反の札が張られていなかった。
珍しいこともあるもんだ。
その後、どうもこの件で地域住民と警察ですったもんだがあり、
交通課はすっかり嫌われ者になったらしい。
数日後、同僚が
「今朝、国道通って来たか？皆が飛ばすところがあるだろ？
通勤時間にあんなところでネズミ取りしてやがった…おかげで遅刻だ！」
と激怒していた。
私は同じ時間帯に通ってきたが、気が付かなかった。
少し速度違反もしていたが…捕まりはしなかった。
夕方、ニュースで白バイの事故があったと報道されていた。
この近所のようだ。警官は亡くなったらしい。物騒だなぁ。
その後、不注意で一旦停止を忘れたときもハッと周りを見渡したが警察の影はなかった。
そういえば最近、白バイやパトカーさえ見かけない。
ツキが回ってきたかな…。ちらりとあの升を思い出した。
このままいけば夢のゴールド免許まであと少しだ、と思い始めたある日、
息子の誕生日にも関わらず休日出勤をさせられた。
早く帰ると約束したのに、結局遅くなってしまった。
外は雨。どうしても気が焦る。
少し飛ばしながら住宅地に入り、家が近付いてきて気が緩んだとき、前方に影がよぎった。
アッと思ったときには遅かった。
思いっきり踏んだブレーキは滑り、鈍い衝突音の後に何かがタイヤに巻き込まれる感覚がした。
さらに車は電信柱へ運転席側から激突した。
押しつぶされた運転席の隙間から、たった今轢いてしまった子供の手に、
息子に今朝プレゼントした腕時計を見た気がした。
見間違いであってくれ…。
薄れる意識の中で思った。
思えばこの20年間、違反で捕まることはあっても、
自損も含め自動車事故は一度もしたことがなかった。
○○に守られていたのか…
そして△△が事故になる前に未然に防いでくれていたのかもしれない。
あんな願い事なんてするんじゃなかった。
あの升には悪魔でも住み着いていたのだろうか。
取るに足らない、身勝手な願い事を叶えるために私は何人の命を…。
違反は違反…と反省して、善良な市民のままでいればよかった。
遠くで狂ったように一人息子の名を呼ぶ妻の声が聞こえた気がした。
日頃は安全運転を心がけているのに、
うっかり軽い違反をしたときに限って警察に捕まってしまう。
不注意の信号無視、たまたま急いでいたときのスピード違反…。
狙ったかのように白バイやパトカーがやってくる。
善良な市民を捕まえて、何が楽しいのか。
「いつもはきちんと守ってるんですよ。
私よりも、あなたがたが捕まえるべき危険運転の常習者は他にいるでしょう？」
そう言いたいのをこらえて違反金を払う。
おかげで、免許証がゴールドだったことは一度もない。
「えっ？免許証ブルーなんだ？かわいそうに（笑）」
ゴールド免許を掲げながら、運転が荒い同僚に笑われる始末だ。
夜間、普通に運転をしていたのに、止められて職務質問されたことまである。
「こんな時間にどちらまで？」なんて、失礼極まりない。
世の中、正直者がバカを見る…。
最近、近所の神社のそばで妙なものを拾った。
木でできた小さな升で、裏には
「願い事叶えマス（笑）升の中で願い事を囁いて、三回なでてね」
と書いてある。
ばかばかしい。酷いダジャレだ。
でも、気まぐれでそっと囁いてみた。
「軽い交通違反で警察に捕まらないようにしてほしい」
三度なでてみる。
…なんてな。われながらおかしくなってきて、升をポイッと投げ捨てた。
そんな折、祖母が亡くなったと連絡があった。
最近は会っていないが昔はよく遊んでもらったものだ。
葬儀で会った親族が私に話しかけてきた。
祖母は毎日欠かさず家族の健康を祈っていたが、
取り分け不器用だった私のことを気にかけていて、
免許を取ったと聞いてからは交通事故を起こしませんように…と毎日祈っていたと。
最近ご無沙汰で会いに行かなかったことを申し訳なく思った。
葬儀場の駐車場は満車で、近くの路肩に駐車したのだが、
同様に駐車した列席者たちの車には一斉に駐車違反の札が張られていた。
「こんな場所だから事情はわかるだろうに！これだから警察は！」
と皆、憤慨していたが、
なぜか私の車だけ違反の札が張られていなかった。
珍しいこともあるもんだ。
その後、どうもこの件で地域住民と警察ですったもんだがあり、
交通課はすっかり嫌われ者になったらしい。
数日後、同僚が
「今朝、国道通って来たか？皆が飛ばすところがあるだろ？
通勤時間にあんなところでネズミ取りしてやがった…おかげで遅刻だ！」
と激怒していた。
私は同じ時間帯に通ってきたが、気が付かなかった。
少し速度違反もしていたが…捕まりはしなかった。
夕方、ニュースで白バイの事故があったと報道されていた。
この近所のようだ。警官は亡くなったらしい。物騒だなぁ。
その後、不注意で一旦停止を忘れたときもハッと周りを見渡したが警察の影はなかった。
そういえば最近、白バイやパトカーさえ見かけない。
ツキが回ってきたかな…。ちらりとあの升を思い出した。
このままいけば夢のゴールド免許まであと少しだ、と思い始めたある日、
息子の誕生日にも関わらず休日出勤をさせられた。
早く帰ると約束したのに、結局遅くなってしまった。
外は雨。どうしても気が焦る。
少し飛ばしながら住宅地に入り、家が近付いてきて気が緩んだとき、前方に影がよぎった。
アッと思ったときには遅かった。
思いっきり踏んだブレーキは滑り、鈍い衝突音の後に何かがタイヤに巻き込まれる感覚がした。
さらに車は電信柱へ運転席側から激突した。
押しつぶされた運転席の隙間から、たった今轢いてしまった子供の手に、
息子に今朝プレゼントした腕時計を見た気がした。
見間違いであってくれ…。
薄れる意識の中で思った。
思えばこの20年間、違反で捕まることはあっても、
自損も含め自動車事故は一度もしたことがなかった。
○○に守られていたのか…
そして△△が事故になる前に未然に防いでくれていたのかもしれない。
あんな願い事なんてするんじゃなかった。
あの升には悪魔でも住み着いていたのだろうか。
取るに足らない、身勝手な願い事を叶えるために私は何人の命を…。
違反は違反…と反省して、善良な市民のままでいればよかった。
遠くで狂ったように一人息子の名を呼ぶ妻の声が聞こえた気がした。
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コメント(3)
今更、1年近く放置していたのに気付きました^^;
一応解説です。
主人公はツイていないのではなく、本来不注意な運転をしている男。
祖母の祈りに守られ、交通事故になる前に毎回警察に捕まっていた、という設定でした。
（冒頭の部分はかなり自分の実話です）
軽い交通違反で捕まらないようにという願い→祖母の祈りが邪魔（亡くなる）→捕まえる警察も邪魔
（交通課が地域に嫌われ、捕まえにくくなる）→律儀に取り締まった白バイ警官も邪魔（亡くなる）→交通違反で捕まえられなくなった主人公は、交通事故を止める者がいなくなり、事故を起こしてしまう。
という流れでした。
よって、升のお願いによって奪われた命は
�〜鎚譟↓�白バイ警官、�Ｂ�子、�ぜ�分の4人。
さらに、最後の様子では、5人目、妻かもしれませんね…
男にとって本当にツイていなかったのは、自分の幸せに気付けなかった事かもしれません。
お読みいただき、ありがとうございました。
一応解説です。
主人公はツイていないのではなく、本来不注意な運転をしている男。
祖母の祈りに守られ、交通事故になる前に毎回警察に捕まっていた、という設定でした。
（冒頭の部分はかなり自分の実話です）
軽い交通違反で捕まらないようにという願い→祖母の祈りが邪魔（亡くなる）→捕まえる警察も邪魔
（交通課が地域に嫌われ、捕まえにくくなる）→律儀に取り締まった白バイ警官も邪魔（亡くなる）→交通違反で捕まえられなくなった主人公は、交通事故を止める者がいなくなり、事故を起こしてしまう。
という流れでした。
よって、升のお願いによって奪われた命は
�〜鎚譟↓�白バイ警官、�Ｂ�子、�ぜ�分の4人。
さらに、最後の様子では、5人目、妻かもしれませんね…
男にとって本当にツイていなかったのは、自分の幸せに気付けなかった事かもしれません。
お読みいただき、ありがとうございました。
- mixiユーザー
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