ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

小説『白夜行』の謎 コミュの笹垣の執念?後編

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

亮司は高校を卒業して家を出た。
1982年(昭和56年)笹垣は弥生子の店に顔を出す(p831)。弥生子の話では高校卒業を境に、ぷっつりと姿を消してしまったということであった。以来、たまに足を運ぶようになったのは、亮司の情報を知りたいというだけではなく、弥生子の身辺に危険が及ばないか、という笹垣の配慮があったのであろう。
一方の松浦が、「きりはら」を辞めた後、大阪で怪しい商売をしているということは把握していたはずである。

未曾有のゲームソフト偽造事件が発覚するのが1986年の正月明けである。
首謀者と見られるファミコンショップの古物商を営むブローカーが失踪。それが松浦であった。
笹垣はここでピンときたであろう。
暴力団が関与しており、失踪した松浦の生命が危機にさらされている、という判断から捜査一係の刑事である笹垣が動いたのか、それとも単に彼の独断か。おそらく後者であろう。行方不明というだけで捜査一係の刑事が腰を上げる訳にはいかない。
そして捜査担当班の人間にお願いして、松浦の店の押収物を調べさせてもらう。
そこに、
「パソコンショップ MUGEN(「無限企画」ではない)
                          代表 桐原 亮司」
と印刷された帳簿類、或いは設計仕様書などを、笹垣は発見したのであろう。
笹垣は亮司の拠点であった古いマンションの一室に足を運ぶ。
しかし、亮司は既に先手を打っており、賃貸契約は既に解除され、部屋は蛻の殻であった。
そこで1月10日、パソコンショップMUGENを訪問。店員の園原友彦に事情の聞き込みにあたる。
松浦と懐かしげに話していた、という友彦の証言をどうとらえるべきか。
しかし、肝心の亮司についてはあきれるほどの手際の良さで雲隠れしていた。
ふと壁の額に飾られた切り絵に目が向いた。
男の子と女の子が手を繋いでいる姿。
亮司はどんな思いでこの切り絵を作ったのであろう。
松浦と亮司はどこへ行方をくらましたのか?

その後しばらくした後(笹垣が友彦を訪ねた翌年1987年である p845参照 1992年から数えて5年前と記載されている)、弥生子の店に足を運んだ。そこで、酔った弥生子はとんでもないことを口にした。
桐原洋介に幼女趣味があり、どこかの子を養子にしようとしていたのである。

笹垣が長い間気がつかなかった「動機」が、ようやく、明らかになった。
亮司と雪穂が必死になってあの事件の痕跡を消したがっている理由もわかった。
同情すべき点はある。しかし・・・、
西本文代を死に追いやったのは、やはり雪穂であろう。
亮司と共謀して行った藤村都子のレイプ未遂事件
まるで、相利共生の関係ではないか。
同様の事件が大学時代にもあったことは聞き込み調査でわかっている。

もしかしたら、これらはほんの氷山の一角なのではないか?

亮司にはアリバイがあったが、それは母と松浦の証言だけが根拠である。
松浦が生きて捕まれば、最初の事件が蒸し返されるかもしれない。亮司と雪穂にとっては最大の脅威である。
とすれば、松浦は・・・殺害されている可能性が高いであろう。

手掛かりは何も無いまま月日は流れていく。
笹垣は退職までの数年を、質屋殺しのあった管轄署である西布施に戻って過ごしていた。
定年まではあと9ヶ月足らずである。(1991年8月ごろ)
雪穂は1985年の10月20日に結婚し、幸せな生活を送っているように見えたが、約3年後の7月に離婚したようだ。夫、高宮誠の家庭内暴力が原因ということで、離婚の慰謝料として南青山の土地付店舗の所有権を、そのまま雪穂が手に入れたようである。時価にすれば数十億円という目のくらむような数字に違いない。
笹垣は手に入れた南青山の「R&Y」の土地の登記簿謄本を見つめた(注:申請すれば誰でも手に入るので、当然笹垣は取り寄せているはず)。
所有権は当初別人であったが、1987年1月、売買によって高宮誠に所有権が移転している。
という事は、雪穂は何千万円(ひょっとすると億か?)もの敷金を払い、店舗工事を行ってから店を開店させているはずだ。そんな金はどこから出てきたのか?高宮が全部出したのか?高宮はお坊ちゃんだが、妻の商売に気前良くまとまった金を出せるほどのボンボンじゃないだろう。
金主は別にいる・・・亮司。
手を汚すことを躊躇わない人間の所には金が集まる。
笹垣は刑事としての長い経験からそう考えた。
スーパーマリオの件では捕まえ損ねた。だが、暴力団がらみの商売に手を染めていたことは明らかである。一体、亮司は何をしているのか?

ある日、笹垣に情報が飛び込む。唐沢雪穂の事を調べている男がいるらしい。
誰が、何の目的で?
笹垣は東京に赴き、雪穂の元夫である高宮誠に会うことにした。今なら、既にああいう形で離婚しているから高宮も口を開くであろうし、雪穂に気づかれずに高宮と接触できるだろう。

そして高宮の口から今枝の名前が出る。
慎重に今枝の周辺を調べ上げ、玄関のチャイムを鳴らした。
会話を交わすも、今枝は口の堅い男で、たいした情報は得られなかった。ただ、何者かが雪穂の調査をこの男に依頼したことだけはわかった。
亮司の顔写真と昔の所在地、笹垣の連絡先を今枝に伝え、笹垣は大阪に戻る。

その後二週間ほどして、今枝が最後に漏らした言葉が気になった。
ラジオ?
あの場では何も思い浮かばなかったが、よくよく思い返してみる。
歩き回っているうちにラジオを聞いた?
私立探偵という職業の男が、この言葉を吐いたことの意味を、ようやく笹垣は理解した。
とすれば、今枝は盗聴について何か思い当たる節があったのであろう。
このことに気づき、笹垣は確認する為、今枝に電話をした。
しかし、何度かけても繋がらない。
笹垣の背筋に冷たいものが走る。
すぐに笹垣は東京に向かい、今枝の事務所を訪ねた。
案の定、誰もいない。郵便受けには一杯になっている。
笹垣はすぐに不動産屋に鍵を開けさせ、今枝の事務所を確認した。
一見、事件が起きたような形跡はない。
部屋の資料をざっと調べる。この前来た時にあったはずの唐沢雪穂に関する資料が一つも無い?古新聞から、最寄の新聞販売所の連絡先を調べ、電話を入れると、男の声で配達の中止依頼があったという。
今枝は何らかの事件に巻き込まれた、と笹垣は確信する。
ふと留守番電話の光が点滅している事に気づく。再生ボタンを押すとシノヅカという男からのメッセージがあった。唐沢雪穂と呼び捨てる男の声に、笹垣が常日ごろ雪穂に対して抱いているのと同質の警戒心を感じ取った。
シノヅカとは何者か?
その答えは意外にも簡単に高宮の口から出てきた。

篠塚一成という人物が、これほど雪穂の状況を的確に把握しているとは驚きであった。
雪穂の近況を知るため、その後一成とは頻繁に連絡を取り合うことになるだろう。

11月になった。
今枝の事務所に足を運ぶと、菅原絵里という若い女性がいた。
今枝の知り合いで、彼の消息を知るためにここに住み込んでいるという。今時の娘にしてはなかなか健気である。ここに絵里が住み込んでくれることは、笹垣にとっても好都合である。何かしらの情報を得られるかもしれない。

さらに一年が過ぎる
笹垣は既に刑事を退職していた。
菅原絵里からの情報で、カワカミとクリハラという二人の女性の来客があったことを知る。笹垣はこうした客を一応当たることにしていたが、最近では、めっきり事務所を訪問する人間も少なくなっていた。
絵里と別れた後、古賀が笹垣のために一席設けた。
あくる日、笹垣は篠塚一成と1年3ヶ月ぶりに会う。
笹垣は全ての経緯を話した。
レイプ事件で、藤村都子が狙われた理由は、笹垣も知らないものであった。そして、江利子の事件についても、今枝は同じような動機を想定していたという。笹垣の長年考え続けてきたことは、やはり間違えていなかった、と思わざるを得ない。相手の魂を奪う手っ取り早い方法、その根元にあるのがやはり、あの事件…。

その後笹垣は絵里から聞いた住所を手掛かりに二人の女性を訪ねる。
カワカミという女性は不発であった。
しかし、クリハラは・・・。

そこで笹垣は、亮司が秋吉雄一と名乗って栗原典子と同居し、彼女の薬剤師としての身分を使って篠塚製薬のネットワークにハッキングしていた事実を知る。

しかし、これだけでは亮司と雪穂を追い詰める決定打にはならない。
そう考えた笹垣は一成にハッキングの真相を告げ、篠塚康晴に近づくことを思いついた。
笹垣と一成は充分に打ち合わせをし、康晴のもとに向かう。
そこで、笹垣は、19年ぶりに雪穂と対面する。

康晴は笹垣の話を聞いて不愉快になり、手元にあったゴルフボールを無造作に投げつけた。
一成と家政婦が割れたサボテンの鉢植えの前で何か騒いでいる。
雪穂が大阪から運んできた鉢植えの土から、サングラスの破片が見つかった。
笹垣の頭が目まぐるしく働き始めた。
松浦はいつも、サングラスをしていたはずだ・・・。

笹垣は大阪に戻った。打つべき手は打った。全貌をほぼ解明した自信があった。
ただ、笹垣はある一点、亮司のアリバイだけが、引っかかっていた。
松浦と弥生子は犯行当時、情事に耽っていたのは間違いない。
弥生子の店に足を運んだのは、その最後の確認、というよりも、亮司の母親の顔を何となく脳裏に焼き付けたかったからであろう。
弥生子は最後まで何も話さなかったが、笹垣は確信した。
笹垣は弥生子について思う、子供のいない笹垣だからこそ理解できることがある。
それは、これだけ母性を欠いた母親ですら、息子を盲目的に信じきっている・・・、
それが母親の愛というものなのであろう。
だから、弥生子は19年前から、笹垣に対してシラを切り通した訳ではない、
19年間、息子を信頼し続けていたのだ。

笹垣は弥生子の店を後にした。
背中には12月の冷たい風が吹き込んでいた。

〜後編 終わり〜

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

小説『白夜行』の謎  更新情報

小説『白夜行』の謎 のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング