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小説、短編をつくってみたコミュのヒトガタ3

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 それから数日が過ぎた、正月気分も抜け世間一般では仕事始め。お店へ向かう途中に見える駅のホームを覗くと、そんな世間の喧騒を垣間見る。
 美香さんが飛び出して行ってもう一週間になるが、まだ戻ってきては居ない。どこまで行ったのだろう?何をしてるんだろう?そんな事を考えながら坂を登っていると、お店が見えた所で違和感を感じた。
 お店の様子が少し・・・いや、かなりおかしい、と言うか騒がしい。確認しなくても分かる、これは美香さんが帰ってきたのだろう。気が付けば、なんとなく肩の荷が降りた気がする。心配をしていた訳では無いが、やはり居ないと寂しいもので、どこかピースの足りないパズルの様な感覚だった。
 とりあえずは美香さんに文句の一つでも言ってやろう。そう思い僕はお店の戸を引いた。

「おはようございます」

 挨拶しながらお店に入ると、厚手のコートを翻しながら美香さんが満面の笑みを浮かべていた。

「いよう少年!あけましておめでとう!」
「あけましておめでとうございます。遅かったですね、何処へ行ってたんですか?」
「フフフ・・これ」

 そう言うと美香さんは、抱き抱えていた人形を僕に向けて掲げてみせた。
 人形とは言っても、おもちゃ屋に並んでいるような物とは一目で違うと分かる。結構大きく60cm位有るだろうか?とても精巧な作りで、西洋風の顔立ち、腰まで届きそうなブロンドの髪、赤く大きなリボン、透き通った青い瞳、紅を帯びた頬、薄く桜に染まった唇、今にも動き出しそうな細い指先。服はエプロンドレスと言うのだろうか?空色に近い青の洋服に、白いレースやフリルをあしらった前掛けの様な物、細かな装飾にかなりの拘りが見られる。
 今まで見た事が有る人形のどれよりも、美しくその憂いを秘めた表情に惹かれる物が有る。一見して本当に人間がそこに居るのではないか?と錯覚するほどだ。とても古い人形の様だが、手入れが行き届いているのだろう、それでも長い時を感じさせる様に青い洋服は若干くすんでおり、白いレースやフリルは端の方が日に焼けていて、髪も傷んでいる。
 そしてどことなく懐かしい匂いが漂ってきた。

「これは?」
「呪いの人形」
「なっ?」

 僕はとっさに、その人形を受け取ろうとした手を引っ込めた。美香さんのその一言を聞いて、奥に居る大久保さんも一歩引いたのを僕は見逃さなかった。またエラくとんでもない物を持って帰って来たものだ。美香さんはそんな僕らなど意にも介さない様子で自慢げに語りだした。

「彼女はね、ある資産家のおじいさんの物だったらしいのね。そのおじいさんは、若い頃に奥さんを亡くしてから寂しかったのね、有名な人形作家に依頼して彼女を作らせたらしいの。それからおじいさんは毎日の様に彼女に話しかけたり、髪をといてあげたり、仕立て屋に服を作らせたり、それはもう周りから見ても異常だったらしいのよ。そのおじいさん結構な資産家だったらしくて、当然親族の間でも遺産の事が話題になって、誰がそのおじいさんの面倒を見るかって話で親族同士の争いも有ったらしいのね。でも面倒を見ていた親族達が病気になったり、事故に有ったりしたらしいのね。で、その親族達は口を揃えて『あの人形は呪われている』って言っておじいさんの下から離れて行っちゃったの」
「実際何か有ったんですか?」
「結構凄かったらしいよ。髪が伸びるとか、手が勝手に動くとか当たり前で。夜中に呻き声をあげたり、お寺に供養に持って行こうとした人が事故に遭ったりとか、霊媒師を呼んだら、その霊媒師は『私には手に負えません』って逃げ帰ったとか」
「・・・それは」
「後はね、彼女の向きをどんな方向に向けても、気がついたらおじいさんの方向を向いて手を伸ばしてるんだって」
「・・・ゾッとしますね」

 予想以上の代物に、思わず全身が毛が逆立つのが分かる。それよりも・・・話が始まった途端に、大久保さんは居間の方に逃げ込み、エリーに向かって一生懸命話し掛けている。現実逃避を決め込んだようだ。年頃の女の子としては分からなくも無いが、アナタはお化けを怖がっちゃいけない気がする。
 ふと視線を人形に戻すと、人形と目が合った。と言うより、人形が僕を追いかけている?

「美香さん・・・これ、目が・・」
「ああ、目はね〜多分グラスアイってヤツだと思うよ。腕の良い職人の作った物は何処から見ても人形と目が合う様に見えるんだって」
「へ〜、そんなの有るんですね、初めて知りましたよ。」

 その瞳は、どこまでも僕を追ってくる。左に動けば左に、右に動けば右に。上から見れば上目使いに、下から覗き込めば人形は見下ろす様な視線を僕へ向けた。
 僕が興味深く、人形を色々な角度で覗き込んでいると、またどこかで嗅いだことのある懐かしい匂いがまた漂ってきた、どうやらこの人形からのようだ。

「あれ?この人形・・?」
「あ、そう言えば宿題ちゃんとやった?」
「え・・?宿題って?」
「あれ?あの本読まなかったの?」
「いや、読みましたけど」
「なら良いじゃん」
「・・・え?宿題って、本当にあの本読むだけだったんですか?」
「ちゃんと紗季ちゃんにもそう言ったよ?」

 思わず大久保さんの方を見ると、彼女も僕の方を見て驚いた表情をしている。あのヒネクレ者で意地悪な美香さんが、何の捻りも無く文字通りの宿題を出していた事に僕らは驚愕した。美香さんはそんな僕らを交互に見ながら、不思議そうな顔をしている。

「さて・・」

 美香さんは改めて、僕をまっすぐに見つめると意地悪そうな顔をした。まさか僕らの考えている事を悟られたか?

「じゃあ、宿題の成果を見せてもらおうかな」

 美香さんは不敵な笑みを浮かべてそう言い放った。来た。嫌な予感が的中した。有る事無い事想像し、美香さんの宿題を曲解した罰を受ける時が来たのだ。
 美香さんは居間に上がり人形を炬燵の上に座らせた、そして炬燵の上に置いてあった本を手に取り、表紙が僕に見えるように構えると、

「この本の作者を答えよ」
「え?」

 思わず拍子抜けした。この流れで、この質問の回答は一つしか思い浮かばない。それに・・あの匂い、最初にあの本を開いた時に漂ってきた、おじいちゃんの家に行った時の様な懐かしい匂いと同じ物だと思った。
 しかし人形が本を書くのだろうか?そう思ったが、これ以外の回答を今の僕には用意出来そうにない。

「まさか、その人形ですか?」

 自分でも情けない程に、自信の無さそうな言い方だったと思う。しかし美香さんの表情は、先ほど迄の挑発的なものから、とても穏やかなものへと変わり、

「ちゃんと読んでたんだね、上出来上出来。で、何でそう思ったの?」
「え?あ〜、匂い・・ですかね?」

 そう言うと、美香さんは少し驚いた様だった。

「へ〜、匂いねえ。紗季ちゃんはどう思う?」
「はひぃ?私ですか?」

 まさか自分に振られるとは思っていなかった、と言うよりも関わりたく無かったのだろう。大久保さんは嫌そうに美香さんの方を向くと、腕を組み片手を口に当て、しばらく考えるような仕草をした後、

「匂いってのは、私には分かりませんけど、その人形とその本は同じ感じ・・と言うよりも繋がっている・・ううん、同じ物?何て言っていいか分からないんですけど、そんな気がします。それにその人形、中に・・・居ますよね?」
「うん、そっちが正しい回答かな」

 そうなのか・・。そっちの回答の方が僕には理解出来ない。それよりも大久保さんや美香さんは、あの本や人形の匂いが分からなかったのだろうか?そちらの方が僕には疑問だった。それに中に居るって何ですか?いきなり怖い事を言わないで欲しい。

「中に居る、って言うよりもおじいさんと一緒に居る内に、彼女に自我が芽生えたって感じかな?ほら九十九神って有るじゃん」
「いや有りますけど、九十九神って物が百年経ったら人間になれると言う話で、何かの原因で九十九年で人間になりそこねた場合になるものですよね?」
「だから人間にはなれなかった。まあ実際九十九年経ってないけど、そこはおじいさんの念が入ったって事じゃないかな?それに例外は少年の身近にも在るじゃない?」

 美香さんは意地悪そうに笑う。痛い所をついてくる、現にその例外の”中”に僕は生活をしている。

「それにね、九十九神は付喪神とも書くんだよ。実際に九十九年の歳月を必要としない場合も有るのよ」
「へぇ〜そうなんですね。ところで・・・まさかその人形、ここに置くつもりじゃないでしょうね?」
「その為に苦労して持って帰ってきたんだよ、当然じゃない」
「いやいや、苦労して持って帰って来たって、その人形周りの人を不幸にするんですよね?」
「それは、おじいさんと彼女を引き離そうとしたからだよ」
「美香さんは違うと?」
「そう!私の所に来れば、何時か必ず貴女の愛しい人に会えるってね。その説得に時間が掛かっちゃって。おじいさんの親族の人は『この人形を持って行ってくれれば・・』って二つ返事で了解してくれたよ」
「売るんですか?元の持ち主に」
「何言ってんのよ?ウチは慈善事業じゃないのよ?私の苦労の分は払って貰わなきゃね」
「でもそのおじいさん、もう亡くなってるんじゃ・・?」
「少年は何時まで新人気取りなのかね?ウチは別に生きた人間だけを相手にしてるワケじゃないでしょ?人ならざる者だってウチの大事なお客さんなんだからね。おじいさんだって、何時か迎えに来てくれるでしょ、代金は彼女の宿代だと思ってくれるわよ」

 美香さんは小馬鹿にしたように僕に言った。だが嫌な気分ではない、とても暖かい優しい気持ち。最初は呪いの人形と怖がっていたが、今はそんな感じでは無い、この人形の持ち主が現れるその時まで僕らで協力しても良いと思う。

「そう言えば、美香さんはその人形を『彼女』って呼ぶんですね?」
「だって外見は人形でも、中に人と同じような魂が入っているのなら、それは人と同じように扱わなくっちゃ失礼でしょ?」
「・・そうですね。それじゃあ彼女を、棚の上にガラスケースにでも入れて飾っておきますか」
「あ!触っちゃダメ!」

 炬燵の上に座っている彼女を抱き抱えようとして手を伸ばした所を制止された。やはり触ると良くない事が起きるのだろうか?

「え?やっぱ危ない物なんですか?」
「ん〜そうじゃ無いんだけどね、少年はそう言う所がなってないからモテないんだよ〜」
「な、関係無いじゃないですか!?」
「女はね、惚れて心を許した相手以外に触られたく無いものなのよ」

 そう言うと美香さんは彼女を抱きかかえてお店スペースの方へ歩いて行き、手頃な椅子を用意しそこに彼女をちょこんを座らせた。

「あ、紗季ちゃん。というわけで、彼女のお手入れは紗季ちゃんの担当ね」
「ええぇ!」

 これからの彼女は、絶望や呪いの言葉など必要のない、希望に満ちあふれた物になるだろう。未完のあの本が完成を向かえるその時まで、彼女はこのお店の片隅で愛しのあの人を待ち続けるのだろう。
 そう思って彼女の方を見る。グラスアイの青い瞳が僕の方へと向けられる、憂いを秘めた表情だと思っていたその表情は、優しく微笑んでいる様に感じた。
 引き戸のすきま風に吹かれて、彼女の腕に括りつけられた『売約済』の値札が小さく揺れた。

コメント(1)

面白かったです。読みやすくて。まだ未読のもあるので少しずつ読み進めていこうと思います♪

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