ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

小説、短編をつくってみたコミュのヒトガタ2

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加



 たしか今日は『この冬の最低気温を〜』なんてテレビで言ってた気がする。
 白い息を吐きながらそんな事を考える。僕は今、銭湯に行った後一度家に帰って着替え、コンビニで晩御飯を買ってお店に戻る途中である。ついでに大久保さんから、焼き芋アイスを買って来て欲しいと頼まれた。
 本を読むだけなら自分の部屋で一人でやっても良いのだが、宿題の件もあるここは僕一人で片付けるよりも、大久保さんからの違った視点からの意見も参考にして勧めたほうが効率的に進むだろう。
 と、言うのは半分。もう半分は、深夜の店番を年頃の女の子一人に任せるのは男としてどうかと思ったのと、気配が有るとは言え実質一人で居るのはどうにも心細い。・・・要は人恋しいのだ。

「もどりました」

 お店に戻ると、大久保さんが此方を爛々とした目で見つめてくる。
 彼女は肉やお米と言った一般的な食事は全くと言っていいほど取らないが、お菓子や特に怪しい色に染まった駄菓子が好物の様だ。。
 こんな事も有ろうかと、コンビニの駄菓子コーナーで適当に見繕っておいた。
 大久保さんはコンビニの袋を、宝箱を覗き込む様に眺めて『ほぅぅ・・』と感嘆の声をあげている。どうやらお気に召したようだ。
 僕はオニギリを片手に、本の続きを読むことにした。

───ああ、この腕はどうしてアナタに届か無いの?
───どうしてワタシは皆の様に自由に動けないの?


───どうしてアナタ以外の人達は、ワタシをオソロシイ目で見つめるの?
───どうしてアノ人達は、ワタシにオソロシイノロイの言葉を投げかけるの?


───どうしてアナタとあの人達は、いつもケンカをしているの?
───どうしてあの人達は、私が手を伸ばすだけ、見つめるだけで皆ニゲていくの?


 読み進めていく内に少しずつ分かって来た、自分の中で少し整理してみる。
 まずこの本の私と呼ばれる人物は、言葉使いなどから女の子と思う。また自由に体を動かせ無い、もしくは動かせる状況では無いようだ。
 そしてアナタと呼ばれる人以外の人達からは、彼女はどうも心良く思われてはいないようだ。それが同じ屋根の下での出来事なのか?また病院等の施設内での出来事なのか?そこまではまだ読み取る事は出来ない。
 また彼女の興味や疑問は、自分から周りの世界へ、周りの世界から自分の境遇へと変化している。これは彼女自身の心の成長を表しているのだと思う。
 僕は更に読み進める事にした。


───あの人達が、どこか知らない場所へ私を連れて行くと言っていた、どうして私達を引き裂こうとするの?
───私と貴方、二人の仲を邪魔する者は消えてしまえば良いのに


───あの人達は何処かへ行ってしまった。これからはずっと貴方の傍に居れるのですね?
───私が貴方と同じように、もっと話せたら、もっと動けたのならどんなに幸せな事でしょう?


───そんな悲しそうな顔をなさらないで・・私はずっとお傍におります
───私に話掛けなくても、触れて貰えなくても良い、ずっとお傍に置いてもらえるだけで良い


───もどかしい、貴方がこんなにも辛そうにしているのに、私は何も出来ないなんて
───どんなに手を伸ばしても誰にも届かない、どんなに声を上げても誰にも届かない・・・
───自分の身をこんなに呪った事は無い


───あの人達がやって来た、愛しいその人を何処に連れて行くの?
───私を置いていかないで、ずっと私をお傍に置いて・・・


───あゝ寂しい・・愛しいあの人は、どうして私を置いて、居なくなってしまったのでしょうか・・・



「・・・あの〜」
「うわあ!」

 大久保さんからの思わぬ呼びかけに、素っ頓狂な声が出てしまった。
 彼女も僕の声に驚いた様で、申し訳なさそうに此方を伺っている。

「あ、すみません。どうかしましたか?」
「いえ、何か分かったかなって」
「あ〜、いや特には、と言うよりは一回通して読んでみようって感じで特に考えてなかったです」
「なるほど。集中するのは良い事だと思いますけど、すこし休憩したらどうですか?」

 大久保さんはそう言うと、コンビニの袋から缶コーヒーやお茶を炬燵の上に無造作に置いた後、駄菓子特有の真っ赤に染まったゼリーやら、小さな器に入ったヨーグルトを宝石でも扱う様に丁寧に並べだした。
 一人でお菓子を食べるのが申し訳無くなって、僕を休憩に誘ったのだろうか?彼女なりに気を使ってくれてるのだろうか?それは分からないが今は好意に甘える事にしよう。
 炬燵の中央に置かれたドリンクの中から缶コーヒーを取る、ホットで買ったのだがコーヒーはすっかり冷えてしまっていた。
 思ったより本にのめり込んでいた様で、チラッと時計を見ると結構な時間が経っている。

「それで、どんな感じなんですか?」
「え〜と、大体読み終わったかな?」
「??」
「すこしページ余ってるけど、残りは空白なんだよね」

 僕は本の最後の方のページを炬燵の上に広げて見せた。最後の一行の後には以降何の書き込みも無く、残り数ページを残して空白になっているのだ。
 大久保さんを本を手に取り、ペラペラと数ページ流し読みしているようだった。
 そういえば彼女は元々、このお店のお客さんで本を中心に買っていたな、もしかしたらこの本にも興味が有ったのかも知れない。

「この本・・」

 そう言うと、大久保さんは本を炬燵の上に戻した。

「全体的に暗い印象を受けるんですけど、これって恋愛物ですよね?」

 ああ、なるほど。
 大久保さんに言われて納得する。僕はこの本を宿題としてしか見てなくて、本の内容がどうだとか、そう言う事は一切考えて無かった。
 とすると、美香さんが僕に出した宿題も、本の内容に即した物なのかも知れない。
 あらためて本を見てみると、節々にそれを思わせるような文が有る。

「と言う事は、この本の主人公・・彼女は、なにかの事情で体を自由に動かす事も、話すことも出来ないんだけど、貴方と呼ばれる男の人に恋をしてるって事で良いのかな?」
「そう思います、終わりの方で一緒になれた様に取れるんですけど・・引き離されてるんですよね。内容から引き離された原因は病気か、もしかしたら死別って事も考えられるんですが・・・」
「なるほどね。僕は宿題って事ばかり考えてて内容まで頭に入ってなかったよ」
「それで宿題の内容って何なんですか?」
「ああ・・あの人が文字通り『本を読むだけ』なんて事は無いからね」
「ええ、それは短い間の付き合いですが何となく分かります」

 僕の皮肉を込めた一言に、大久保さんは笑いながら乗ってきた。決して本人の前では言えないのだが。

「もしかしてこの空白、この本の先を考えろとか、作れとかそう言う事なのかな?」

 僕がそう言うと、大久保さんはしばらく考え込んだ後、

「それは無いんじゃないでしょうか?美香さんはお店の売り物に対しては正面から向き合って居るようですし、品物に管理やメンテナンス以外で手を入れる事は嫌ってる様に見えますが・・」
「うん。それは長い間一緒に仕事してるけど、その通りだと思うよ。まあ言ってみただけ、気にしないで」
「では宿題と言うのは・・」
「・・・」

 考えても答えは出ない、元よりあの人の考えが理解出来るはずも無い、僕はそんな事をぼんやりと考えていた。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

小説、短編をつくってみた 更新情報

小説、短編をつくってみたのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング