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小説、短編をつくってみたコミュのノー・ライフ・クイーン4

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「・・・・・中に入って」


大久保さんは表情を変えないままそう言った

普段の会話の流れで女の子の部屋に誘われるのは歓迎するところだが
今のこの状況は少々悩む所が有る

実は弟は本当に具合が悪くて弟の見舞いをさせてくれて自身の疑いを晴らすのか?
僕を殺害、もしくは監禁する為に室内という密室に誘い込むつもりなのか?

まあ前者はほぼ無いだろうな・・

一つだけ分かっているのは
部屋の中で楽しく談笑と言うのは絶対に無いと言う事だ


僕は最悪の事態を想定していた
僕が部屋に入ってドアを閉める時に位置的にどうしても大久保さんに背後を取られてしまう
その隙に首を締めるとか手近に置いてある鈍器で頭を殴りつけるとか


「心配しなくても私にアナタをどうにかする力なんて無いわ」


どうすれば良いか僕が考えあぐねているのを察したのか大久保さんはため息混じりにそう言った

そう言われればそうだ
小柄でどう考えても腕力は僕の方が有るだろう
それに幾ら背後を取ったからと言って警戒している人間を一撃で仕留めるのは成人男性でもなかなかに出来るものではない


僕は小さく頷くと最大限に警戒しつつ部屋に脚を踏み入れた


部屋の中は外と変わらない位暗い
いや室内だから外より暗いかも
電気が点いてない?消しているのか?


「電気は通って無いので足元に注意してください」


大久保さんはそう言いながら僕の横をスッと通り過ぎていった
とりあえず背後から襲われると言う危機は去った

しかし電気が通って無いとは

部屋の間取りは僕の部屋と同じ様だったので特に注意することも無くリビングまで行けた

床にはビニールシートが敷かれており砂?の様なジャリジャリした感触が足の裏に感じる
隅の方に小さなテーブルと一人掛けの小さな椅子がある
テーブルの上には蝋燭と燭台、ウチのお店で買ったであろう本が数冊置いてあった


大久保さんは蝋燭に火を灯した
真っ暗な部屋が暖かい光に照らされる

暗闇で確認したとおりほぼ何も無い部屋だ
こんな部屋でずっと一人で居ると言うことを考えると気がどうにかなってしまいそうだ


「あの子は?別の部屋に?」

「ええ多少弱ってはいるけど心配は要らないわ」


少し安心した
今ならまだ誘拐だけで殺人犯として捕まる事も無いだろう


「でもあの子を返すわけにはいかない」

「どうして!?」


声を荒げてしまった
大久保さんの体がビクっと反応するのが分かった


「アナタは生きる為に食事をしますよね?」

「??そりゃあもちろん・・?」


大久保さんは小さく深呼吸をした
何かされるのではないかと僕は身構えた


「吸血鬼はご存知ですよね?」

「え?・・・まあ」

「単刀直入に言いますと私は吸血鬼と呼ばれる種族の者です」

「え?」


何を言っているのか分からない
自分を吸血鬼と信じる余り少年を誘拐し血を飲んでいるって事なのだろうか?

それとも大久保さんは好血症とか言う病気で血を飲むことに快感を得てしまうのだろうか?
そう言った自分の姿を吸血鬼に例えたのだろうか?


「解かり易く言った方が良かったですか?私は吸血鬼と呼ばれる種族で
人の血を吸わないと生きて行けないのです。また直射日光に晒されると灰になってしまいます」

「ちょっと信じられないです」

「・・・そうでしょうね、でも私は実際吸血鬼になってから人間の食事を取っていませんし、昼間も外に出られません」

「単に昼間出歩かないだけじゃ・・?」

「いえ私も最初信じられなくてお昼に外に出ようとした事もあります
その時に太陽に焼かれた痕もまだ残っています・・」

「・・・・」




「少年はコチラです」


少し間を置いて大久保さんは隣の部屋に案内してくれた

隣の部屋には中央に申し訳程度の布団とその上に件の少年が寝かされていた
周囲にはかなり大型の注射器これで血を抜いているのだろうか?

少年に駆け寄り様子を見てみる

かなり衰弱しているようだがまだ息は有るようだ
朦朧としているが眼球が動いている

僕の呼びかけに「あ〜」とか「う〜」とかだが返してくる辺意識も有るようだ


「まだ間に合います!少年を返してあげましょう!」

「なんで!?」


大久保さんは声を荒げた


「なんでって、こんなのオカシイですよ」

「何がオカシイの!?アナタ達だって生きる為に食事をするでしょう!?」

「まだそんな事言ってるんですか!?これは犯罪ですよ!」

「それは人の決めたルールでしょ!?」

「人の決めたって・・・・貴方も人間でしょう!?」

「違う!」

「違うって・・僕には大久保さんがどうしても人間にしか見えない」

「・・・・・」


大久保さんは灯りの灯った燭台を床に置き服を脱ぎだした

下着姿になった大久保さんの身体には黒く焼けた痕が生々しく残っていた
まるで沸騰するまで熱した油を全周囲から彼女に向かって投げつけたようなそんな不自然な焼け跡
首から右腕にかけて
左鎖骨から腹部
背中に渡っても・・・

部分部分再生の出来ている所は有るが黒く変色し明らかに細胞が死滅しているであろう箇所も幾つか確認出来た
目を逸らしたくなる様な痛々しい傷跡



「・・・・見て・・もう私は太陽の下を歩くことは出来ないの・・・・」

「・・・・これは・・・」

「さっき話した・・・お昼に外に出ようとした時に付いた痕・・・慌てて日陰に逃げ込んで灰になるのだけは免れたけど・・・」

「・・・」

「全身を焼かれながら私は絶望したわ、”ああもう私は普通の生活は出来ないのね”って
何度も死のうと思った事も有ったわ、包丁で心臓を刺したり、ビルから飛び降りた事も有ったわ
でもその度に想像を絶する程の痛みと深い絶望しか残らなかったわ
太陽の下に出れば簡単に灰になれるのだろうけどそんな勇気は私には無かったの・・・・」

「・・・」

「それから一応、形だけは食事をと思って人間の食事を取ったりしていたけど傷は治らないし体も弱って行くばかりだったわ
歩くのも苦痛に感じ始めた時女の子を見つけたの。運が良かったのね・・・
具合が悪いから手を貸してって言うと簡単に向こうから近寄って来てくれたわ・・・」

「それが最初の・・・」

「ええ、その子は血を吸いきった後に身動きが取れないようにして太陽の下に当たる所に放置したわ・・・
あとは綺麗に灰になって終わり・・・」

「どうして灰に・・・?」

「私と同じ苦しみを味わって欲しくないの・・・だけど生きる為には仕方ないじゃない・・・
私だって最初にそうして殺してもらえたらどんなに幸せだったことか・・・・」

「そんなの自分勝手過ぎます!」

「そんなの分かってる!」



そういえばリビングに入ったときも何か砂の様な感触が・・・
リビングのシート・・・
足の裏の感触・・・
灰になって・・・


「もしかして・・この部屋でも何人か・・・・?」

「ええ・・・月に二回程・・・どうしても必要な時にだけ・・・」

「それが満月の夜ですか?」

「・・・・」


大久保さんは肩を震わせている


「・・・だからってこの子を殺していい理由にはなりません」

「じゃあどうすれば良いの!?飢えて渇ききっても死なない!その苦痛をずっと味わえって言うの!?」

「・・・・」

「・・・・不老不死の本を読んで何とか血を吸わなくても生きていける方法も探してみたけど
とてもじゃないけど私には理解出来なかった・・・
才能が無いのね・・・昔からそうだった・・私は勉強もスポーツも何一つ上手に出来なかった
家の手伝いも友達付き合いも・・・・本当に何も出来なかった・・・
何も出来ない・・・死ぬことも・・・」





大久保さんは何時の間にか泣いていた
ずっと話せなかった苦しみを誰かに話した事で感情が溢れて来たのだろう
その小さな身体に余るほどの大きな悩みを抱えて生きていくのはさぞ辛かったと思う

何時どうやって吸血鬼になったかは知らないが
生きる為に誰かを殺し、その血を啜って生きてきた
その度にひどい自己嫌悪と罪悪感に苛まれてきたのだ


死にたくても死ねない
そんな勇気も無いと言っていた
それは甘えかも知れない
彼女はもう後戻りの効かない所まで来てしまっている

このままではいつか完全に壊れてしまって夢遊病の様に太陽の下に飛び出す事になるだろう
その時誰も気がつかない
彼女が居た痕跡は灰になって消えてしまうのだから

そんなのは悲しすぎる


僕は彼女に歩み寄る


「来ないで!」


大久保さんが強く声を上げる
だがその表情はとても怯えきっている


「・・・」


僕は彼女を強く抱きしめた
腕の中で彼女は激しく抵抗をする


「ちょっと!?離して!!」


何をすれば良いか、何をしてあげれば正解なのか?
そんな事は分からない
でも目の前に居る彼女を放ってはおけない


「僕が何とかします・・・だからもう誰も殺さなくて良いんですよ・・」

「・・・・・」



何時の間にか抵抗をしなくなった腕の中の彼女の小さな肩が震えている
顔は見えなくとも彼女の顔は今、悲惨な泣き顔になっていることだろう
服の上からでも分かる、彼女の顔から暖かい物が伝わってくる

部屋には彼女の喚く声だけが響いていた

僕は彼女が泣き止むまでの間ずっと抱きしめていた
その時間はとても長く感じられた

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