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夢野台高校18回生コミュの当津先生のエッセー33

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教師なれば・・・4

 昔のアルバムを開きながら、なつかしい気持ちにかりたてられるのは、やはり老いの心境
に入った証拠であろう。はじめて教壇に立ったのは何十年も昔のことになってしまった。

 人間というものは、そのとき、その年齢にふさわしいものが美しいとは言うが、駆け出
しの頃の私の講義を受けた人たちから、その当時の私の講義ぶりや物の見方、考え方など
を聞くときは面目なく思うばかりである。思索も行動も未熟な青二才の思い上がった言行
の数々への呵責の念は強まるばかりだ。

 今の私が感じもしない、思いも及ばない人生哲学のようなものをその当時は得意になっ
て押し付けていたのかと思うとなんともバツの悪いことである。取り返しのつかないヘマ
をやったようで恐縮するやら情けないやらである。純情とか情熱だけが取り得といえよう
が、青二才の情熱だけでは仕事になるまい。

 長い時の流れは、全てのものを押し流しながら全く別なものにつくりかえてしまう力が
ある。残しておきたいものまで容赦なく流しさってしまうが、アルバムの中に収まってい
る写真やその頃の手記は、褪せてはいるがそのまま残っている。てれくさく、気まずい思
いはするが、やはりなつかしい。

年賀状

 親しい人達や縁の出来上がった方々と交わす年賀状は、日本の美しい風習として大切に
して置きたいものの一つである。元旦の清々しい気分で拝誦する年賀状には美しい物語を
見ているかのような感動を覚えることがある。

 趣をかえ、工夫を凝らした芸術作品、干支に因んだ科学もの、名句を添えた文学の香り
のするもの、教訓を垂れ賜うものもあれば、吹き出しそうな漫画や洒落の利いたイラスト
入りの年賀状など、様々の思いを込められた年賀状が束になって届く。いただいた年賀状
を手前勝手な了見で、力作だ、傑作だ、面白いなどと呟きながら並べてゆく。杯を傾けな
がらのゆったりとした正月の楽しみである。

 毎年、決まって同じ内容の年賀状を寄こすご仁がいる。余程、お気に入りなのか、それ
とも、いちいち考えるのは面倒と思ってのことか、ともかく、全く同じものが十年も続く
と印象的だ。個性的であったものが、無粋な既製の印刷物にかわってきたりするとがっか
りするが、捌ききれなくなったころの我が身におきかえて納得するのである。

 一見、誰からの年賀状だとわかっていたものが、ワープロで来ると面食らう。時代の推
移とともに変化するのは年賀状に限らないが、字の下手くそ野郎には恵みの新兵器であろ
う。字の上手、下手と人格とは全く関わりのないことなのに文字の国のつまらない評価に
こだわるのか、ワープロのものがふえてきた。

 筆がワープロにかわっても、センスのあるものは、それなりに趣がある。昨年までの手
書きの丁寧な年賀状に変わって、誰かの代筆で来るといろいろ案じながら、松の内の過ぎ
るのを待って電話で御機嫌伺いとなる。困った年賀状の一つにあいさつ文もメッセージも
ない白紙のものがある。二枚重ねたまま書いたのであろう、もう一枚の方は宛先がなくて
迷っていることであろう。ご自分の名前を書き忘れたものも気になる。返礼が出来なくて
正月早々気のもめることだ。

 続いていた年賀状が来なくなるのも気になる。それなりの事情あってのことであるが、
十年ぶりにひょっこりと舞い込むとまるで邂逅の喜びだ。子育てや介護に追われてついつ
い・・・という断り書きを見ると、たった一枚の年賀状にも人生が込められている。

 古い話だが、かつて、お年玉くじで二等に当たったことがある。年賀状はがきの六桁の
番号に揃って矢が当たるという幸運を喜ぶ前に、そのはがきをくれた人に感動した。
経済的理由によって、年末に高校を中退したA君から貰った年賀状であったその年の二等
賞は毛布であった。大きな箱に入った毛布をかかえて、A君に当選の喜びと感謝の気持ち
を伝えてから、賞品を差し上げたい旨を告げると、A君は、お世話になった感謝の気持ち
を郵政省が肩代わりしてくれたと言って電話を切った。美しい心根にふれた年賀状の思い
出である。

 お年玉の下二桁が当たると切手シートがもらえる。行きつけの郵便局から切手シートを
十枚程譲って欲しいと頼まれたことがあった。窓口でのミスのために商品の切手シートが
不足して困っている、余分がないのだという。毎年、三十枚前後の当たりくじのある私の
ことを知ってのことを思っての依頼であった。勿論、快く進呈することにした。

 もう時効になっている昔のことであるが、市長選挙に立候補している人が、早朝に訪ね
てきて、支持をしてくれという。全く面識のない人が名刺を箱のままおいて平身低頭をす
る。いい加減に返事をして引き取って貰ったのだが、何故、我が家にやってきたのかを探
るとどうやら年賀状の多い家を調べ上げての戸別訪問であった。年賀状の動きを見ている
人がいるのだと思った。情報化時代の一つの話題である。

 当津 隆

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