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夢野台高校18回生コミュの当津先生のエッセー30

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教師なれば・・・1

 今は亡きM先生と現代女性気質について語り合ったことがある。
逍遥歌の生まれた頃だからもう三十年も昔のことになるが、詩人的
センス豊かな彼の女性観にふれた懐かしい思い出である。その時に
登場してきた乙女達の中にK子もいた。

 K子たちが二年生のときの運動会でのことである。何百人もの女
生徒が二列渋滞で行進するのを、グランドの隅っこにむしろを敷い
て青年教師達があれこれと勝手な熱を上げていた。普段は高邁なこ
とを教える教師たちもやはり人の子、かぎろう若き血潮をむしろの
上で発散していたのである。

 そのとき、私の眼に焼き付いたのがK子であった。心に響くもの
を残して乙女の群像はつぎからつぎへと通り過ぎてゆく、特訓で鍛
えられた通り、胸を張り、足音高くブルーマースをふりふりの行進
である。彼らを教育的に眺められる来賓席の紳士、淑女、保護者の
善良な親たちの思いとは裏腹に、異質の世界から、若い教師の眼は
輝き、心ときめかしていたのである、社会科のK先生はY子に熱い
視線を送り、数学のT先生はNさんに想いを寄せながらの観覧である。

 私はその時K子のことを胸に秘めたまま誰にも打ち明けなかった。
青年教師と女性徒の恋はたまゆらのものであろうと考えていた。ま
た、美しい花を美しくおもい、かぐわしい花に近づきたいと思う気
持ちはあっても摘んではならぬと心に誓って教師の世界に飛び込ん
できたのであった。

 かつて哲学の演習の時、私は生真面目にそういう意味のことを発
表したことがあった若き日の気負いである。そういうことがあって
から二十年あまりたった年の秋、彼女たちの同窓会でK子とあった。
M先生がわざわざ私の席へK子を呼んだのである。M先生がいつぞ
や元町通でK子と邂逅のとき、お茶を飲みながら若き日の物語の中
に私を登場させてK子を驚かせたことがあるという。K子と私は暫
く杯を飲み交わしながらぎこちない話を空いた。

 K子との会話は初めてのことであった。可愛いお嬢さんのいるこ
とを知ったくらいでそのひはおわった。同窓会でのちょっとしたハ
プニングである。それから数年たって、K子から一通の案内状が届
いた、京風料理の店を始めたから来てくれというのである。開店の
日をわざと避けて少し落ち着いた頃を見計らって訪ねてみた。独り
で行きたかったが独りでは行けなかった。友人を誘っていった。

 この店の女将に収まったK子の和服姿は艶やかであった。六甲の
山並みが夜空に浮かび、星がまたたいていた。その後、K子から年
賀状や、何とか祈念という店からの招待状などが来たが、店にいく
ことはなかった。若き日の感傷も理屈もなくなっていたのであろう。

ところが潜在意識というのはどこかででてくるものなのか、ある夜、
偶然の機会にぶらりと飲みに行った。その時も友人を誘った。開店
してから六年にもなるという、それほど歳月が流れ過ぎたとは思え
ないほど店の佇まいもK子の艶やかさも変わっていなかった。酔う
ほどに若き日のエピソードを大声で語れるほどにK子も私もこだわ
りはなくなっていた。

 男と女、酒とか、夢に類した話題の多い店の雰囲気がそうさせる
だけではない。お互いに人生の風雪をくぐり抜けてきた年齢のせい
だろう。その時、ふと私の撮影した写真が目にとまった。かつて開
店の時に持ってきた白樺の写真だ。既に色あせて飾るには耐えない
ものを大切にしておいてくれているのであった。感動した。K子の
心情をこの時ほどたしかなものとして感じたことはなかった。K子
は、先生に頂いたものをお粗末にするような教え子ではありません、
と、「先生」ということばに力をいれていった。

当津 隆


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