こみや'S創作長編物語集コミュのピピちゃんの本当の家

ある日ベランダを眺めていた。

すると

パタパタ…とセキセイインコが飛んできたのだ。

ベランダの端にちょこんと座ったインコをそぉっと捕まえて叫んだ。

「お母さん！インコだよ！インコが飛んできたよ」

雛から人間に育てられたのだろう。手に乗ってくるのだ。

なんて愛らしい。

そしてしゃべる。

【ピピちゃん】

と。

前の飼い主が付けた名前だろう。

この子は私の家で飼うことになった。

何週間経っただろう。

ピピちゃんは我が家のアイドルだった。

少し離れたところを歩いていると張り紙がしてあるのだ。

すごく下手くそな絵と字で、インコの横顔とこのインコを探していますピピちゃんと鳴きますとあり、宛先が書いてあった…

あのピピちゃんに違いない…

どうしよう…

返したくない…

森下晴美とあった。

私は…

見ないふりをして帰った。

その晩の夕食である。

弟がインコを探しているクラスメイトがいると言い出したのだ。

「それって…森下晴美ちゃん…？」

「お姉ちゃん知ってるの？」

私はいきさつを家族に話した。

「理彩、返すべきだわ」

母が諭す。弟が叫ぶ。

「晴美ちゃんポスター30枚電柱に張ったって！」

「嫌！ピピちゃんはもう家の家族だもん！渡したくない！」

結局その晩に結論は出なかった。

翌日…

帰ってくると弟が真っ青な顔をしている。

「出してあげたんだ…ピピちゃん…したら窓開いてて…逃げちゃっ…」

「バカ！！」

私はすぐに家を飛び出した。

猫に食べられるかもしれない。

カラスに食べられるかもしれない。

気が気じゃなかった。

結局見つからず眠れない夜を過ごした次の日。

私はフラりとあの電柱にいった。

晴美ちゃんの気持ちが痛いほど分かった。

私…なんてことを…

晴美ちゃんに電話して謝ろう。

そう思って電柱を見た瞬間。

鳥肌がたった。

「ピピちゃんは帰ってきました。ありがとうございました」

嘘…！

私は慌ててお母さんに全てを話し、２人で晴美ちゃんの家を訪ねた。

小学一年生の可愛い女の子だった。

「晴美ちゃん…ごめんね…ごめんね…晴美ちゃんの張り紙知ってたんだお姉ちゃん。だけどピピちゃんを返したくなかった…ごめんね…ごめん」

そこには確かにピピちゃんがいた。

晴美ちゃんは笑った。

「ピピちゃんを大切にしてくれてありがとう」

そして

「お姉さんにならピピちゃんあげる」

一瞬耳を疑った。

「晴美ちゃ…」

「晴美はピピちゃんが幸せならいいの。お姉さんならだいじょうぶ、ね？」

この子は私なんかよりずっと大人だ…

「本当に…いいの？」

「うん！」

「いけません、理彩」

母だった。

「ピピちゃんは自力でここまで帰ってきたのよ？ピピちゃんが答えを示しているじゃないの。本当の家はどこかって。ピピちゃんの飼い主はあなたじゃないの。晴美ちゃんなのよ。」

涙が止まらなかった。

【ピピちゃん】

ピピちゃんが鳴く。

私達は帰路についた。

半年後。

弟が言う。

「晴美ちゃんがおいでって！」

なんだろう…

そこには三羽のインコの雛がいた。

「お姉さん！好きな子持って帰って飼ってあげて！」

「ありがとう…晴美ちゃん…」

一番ピピちゃんに似ている子を選んだ。

帰り道。

「ピピちゃんのこどもだからピコちゃんにしよう！」

【ピコちゃん】

今我が家にはピコちゃんの鳴き声が響いている。

晴美ちゃん。あなたには負けたよ、ありがとうね。