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こみや'S創作長編物語集コミュのばあちゃんのありがとうの魔法

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歩いて数十分のところにばあちゃんは住んでいた。

早くにじいちゃんを亡くし、女手ひとつで父さんを育て上げたばあちゃん。

父さんも母さんもそんなばあちゃんに頭が上がらなかった。

幼い頃からよく俺は一人でばあちゃんの家に遊びに行った。

「今日はとっておきの魔法をおまえに見せてやるよ」

ばあちゃんはそう言うとニヤリと笑い、ハンカチを取り出した。

「あの人にしようかね」

前から30代くらいの男性が歩いてくるのが見える。

すれ違い様ばあちゃんはヒラリとハンカチを落とした。

「あ」

男性がハンカチに気付く。

「落とされましたよ」

男性はそう言うとハンカチを拾い、ばあちゃんに声をかけた。

「ああ、これはこれはありがとうございます。」

ばあちゃんは嬉しそうにハンカチを受け取る。

男性もニコリと笑い、去って行った。

「咲人、いいかい。ありがとうは魔法の言葉なんだ。言った方も言われた方も幸せな気持ちになる。だからばあちゃんはこうしてたまにわざとハンカチを落とすのさ。相手も自分も幸せな気持ちにしているって訳さ。凄いだろ?父さんには内緒だよ」

そう言うとばあちゃんはイタズラっぽく笑った。

ありがとうの魔法…

母さんのお手伝いをするとありがとうと言われ嬉しい気持ちになるものだ。

ありがとうが嬉しい気持ちになることはなんとなく感じていたので

ばあちゃん面白いことするなあと感心した。

「ばあちゃん、すごいね!」

前から若い女性が歩いてくるのが見えた。

「俺もありがとうの魔法、やってみる!」

俺はばあちゃんを真似て女性とすれ違い様ハンカチを落とした。

トントンと小さな肩を叩かれる。

「ぼく、落としたよ。」

女性はハンカチを拾い差し出してくれた。

「あ!ありがとう!ありがとうございます!」

「フフ」

女性は嬉しそうに笑い去って行った…。

とてもあたたかい気持ちになった。

「ばあちゃん!すごいや!この魔法面白いよ!」

「だろ?またやろうね。」

ばあちゃんは嬉しそうに笑った。


小学生になり

俺は友達数人にこの話を得意げに披露した。

みんなぽかーんとしている。

「ふぅん。」

あまり感動がない。

「す、すごくない?」

「すごいって言うか、なあ?」

みんなクスクスと笑う。


ばあちゃんに話した。

「みんなバカにするんだぜ?」

俺は悔しかった。

「そうかい。人は人だよ。気にしないこった、どうだい、久しぶりに、やってみるかい?嫌なことは忘れようよ」

前から若い学生がスマートフォン片手に歩いてくる。

「うん!」

ばあちゃんは学生とすれ違い様ハンカチを落とした。

が。

学生は気づかない。

スマートフォンに夢中で、なんのリアクションもなく立ち去っていった…。

ばあちゃんと俺は言葉をなくす。

戻ってそっとばあちゃんはハンカチを拾った。

「分かりやすく落としたんだけどねぇ。失敗、失敗。」

「ばあちゃん…」

すごく悲しい気持ちになった。

「もう…やめようぜ!バカバカしいよ!」

俺は半べそをかきながら叫んだ。

「咲人…」

その時のばあちゃんの悲しそうな顔は忘れられない。

「そうだね。今の時代に合わないのかもしれない。潮時だね。」

ばあちゃんは小さく微笑んだ。


大学生になった。

あれ以来ばあちゃんのありがとうの魔法の話は恥ずかしくて誰にもしていなかったのだが、サークルで仲良くなった女友達に酒の席でつい話してしまった。

「なあ〜牧田。俺も可愛かったんだよ〜〜」

かなり酔っていた。

牧田はしかし意外にも真剣な顔をしていた。

「おばあちゃんはそれ以来、ハンカチを落としていないの?」

「え?ああ、多分。少なくとも俺とは…」

「そう…なんか、さみしいね。」

しばしの沈黙が流れた。

「そうだ!」

「え?」




「いやあここが咲人の通う大学かい。キレイだねえ」

俺は大学祭にばあちゃんを誘った。

「なあ、ばあちゃん」

「ん?」

「ガキの頃よくやってたあの…その、ハンカチのありがとうの魔法、覚えてる?」

「ああ、覚えてるよ。懐かしいね。」

前から牧田が歩いてくるのが見えた。

「あ!あの子!優しそう!なあ、久しぶりにやってみようぜ?な!な!」

もう一度ばあちゃんに喜んでもらいたいと言う牧田からの提案だった。

「え…」

ばあちゃんが戸惑う。

「ほら!」

強引にハンカチを手渡した。

「わ、わかったよ!やってみようじゃないか!」

牧田とすれ違い様ばあちゃんはハンカチを落とした。

「あ!」

牧田!声がなんかでかいぞ!バカ!

「おばあちゃん、ハンカチが落ちましたよ」

牧田が笑ってばあちゃんにハンカチを手渡す。

「あ、ありがとう…ありがとうございます…」

「いえ。では。」

牧田は去って行った。

「ば、ばあちゃん!やったな!」

「ああ、こんな寸劇に付き合ってくれるなんて優しい彼女じゃないか。大切にしなよ。」

え。

「彼女にはチョンバレだったなんて話すんじゃないよ。おまえに出し抜かれるほど老いぼれてはないようだね、わたしも。だまされたフリができなくてごめんよ。咲人、久しぶりのありがとう、嬉しかったよ。ありがとう。」

ばあちゃん…




「えへへ。大成功!緊張しちゃった!わたしの演技、なかなかだったでしょ?」

嬉しそうな牧田を前にまさか本当のことは口が裂けても言えなかった。

「大切にしなよ」

ばあちゃんの言葉で初めて牧田を意識した。

「牧田…」

「ん?」

「こんな寸劇に付き合ってくれて、いいやつだよな、おまえ…」

「いいやつなんかじゃないよ。」

牧田は答えた。

「咲人君のおばあちゃんだから喜んでもらいたかった。咲人君に喜んでもらいたかった。ようは、咲人君によく思われたかっただけかもね。」

牧田は恥ずかしそうに笑った。



大学を出て

社会人になり

牧田のお腹に赤ちゃんが出来た。

「デキ婚です!すみません!」

真っ先に頭を下げたのは両親ではなく、ばあちゃんだった。

「今は授かり婚って言うんだろ?」

意外な反応だった。

「彼女とこどもを幸せにするんだよ。元気なうちにひ孫が見れるなんて幸せなこった。咲人、ありがとう。」

ばあちゃんは嬉しそうに笑った。




「咲也、いいかい?」

今ばあちゃんはひ孫にハンカチの魔法を披露している。

ばあちゃん、そう言えば俺、今までばあちゃんに言ったことなかったな。
ごめん。いつもありがとう!



コメント(2)

ありがとうは感謝の言葉、幸せを感じることができる言葉、そしてあとひとつ、大切な人との最後のお別れのことば…
>>[1]
コメントありがとうございますメモそうですね、ありがとうという言葉について考えてみたのですが、お別れの言葉にも使われる言葉ですね。沢山のありがとうに囲まれてこの世を去りたいです顔(笑)

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