こみや'S創作長編物語集コミュの私の思慮の浅さと父のプライド

もうすぐ父の還暦祝い。

私は精神科に入退院を繰り返し散々父には迷惑をかけた。

そんな父の還暦を誰よりも豪勢に祝ってやりたかった。

弟と相談し高級焼肉店へ父の誕生日に予約。

数日後には九州旅行。

全ての手はずは整えた。

…かに見えたのだがふと思い立った。

父は五人兄弟だ。

兄弟からもお祝いメッセージをもらえたら喜んでくれるに違いない。

そう確信し父の兄弟全員に電話をかけた。

「父の還暦祝いに一言手紙を書いて頂けないでしょうか」

数日後父の兄弟の長男から手紙が届いた。

嬉しかった。

そして今日。

もう1人の父の兄から電話があった。

「真由ちゃん、姉さんと相談して天ぷらと犬の洋服を送りました」

え！！！

私は手紙を書いてもらえれば良かったのに…

「お金を使わせてしまって申し訳ありませんでした」

私は謝った。

「兄弟やないか。」

父のお兄さんはそう答えてくれた…

届いた天ぷらは生物なので誕生日当日まで隠せない。

私は父に白状した。

実は皆に手紙を書いて欲しいと電話をしたと。

父は…

怒った。

「そんな手紙を下さいなんて言ったらもの送れといっとるようなもんや！思慮が浅い！怒ってもないが嬉しくもない！」

なんて難しいんだろう。

兄弟なんだから還暦にお祝いしてもらって喜んでもらいたかっただけなのに…

来週弟が帰ってくる。

三人で超高級焼肉店に行くのだがこれも怒りだすんじゃないかとまで心配になってきた。

ここまで近い距離にいてもどうすれば相手が喜ぶかを推察する難しさをひしひしと感じた。

和室に戻った父はそれでも台所の私に叫んだ。

「お姉ちゃん面白いテレビやってるよ～一緒に見んか？」

なんだかんだ言って嬉しくもあったのかな。

お父さん。実はあなたに手紙を書いています。

感謝と愛を込めて。

お父さんへ

60歳の誕生日おめでとう。
毎朝起こしてくれて朝御飯を作ってくれてありがとう。

入院時は休みの度に洗濯物を持って見舞いに来てくれてありがとう。

お父さんに似て私は(も？)結構人気者です。

明るくて感謝の気持ちを大切にする大きなお父さんを心から尊敬しています。

真似していたら人気者になれました。

まだまだ一人前にはなれません。長生きして下さい。それだけが私の願いです。

嘱託になったら散歩しようね。お母さんはいないけれどお父さんには私がいることを忘れないで下さい。

こみや家万歳！

お父さんのこどもで幸せです。

ありがとう…。