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実務家からみた司法試験コミュの倒産法  中規模都市での民事再生の現状

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5年くらい前にかいたものですが、いまもあまり事態はかわっていません。

  中規模都市での民事再生の実用性

                     弁護士 岡本 哲
1 23年間の変化
2 個人の破産と再生
3 給与者再生はつかえない

1 23年間での変化
  書庫を整理していたところ,谷口安平「倒産処理法(第二版)」(筑摩書房・昭和59年(初版・昭和51年)がでてきた。23年間で社会情勢も法律の内容もかわってしまった。学問としての進歩もあった。初版当初は倒産関係の法律一般をさす「倒産処理法」という概念自体が新鮮だったようであるが、現在ではあたりまえに使われている。それ以前は法律ごとに破産法・和議法・会社更生法と本がつくられていた。昭和32年から発刊が開始された有斐閣の法律学全集などがその例である。この本では、実務上重要な任意整理について章が独立にされたりして、学術上の議論よりは実務を意識した展開になっている。現在の目からみると、貸金業規制法が昭和59年施行のためか、消費者破産については別個の章はもうけられていないし、個人免責についてあまり重点はない。当時現在の再生法はおもかげもなく、和議法について解説がなされている。23年間で法人ではなく個人の破産が破産部の主流になり、免責手続の重要性があがったことが最大の相違点であろう。筑摩書房の法学全集は1990年代に絶版となり、おなじシリーズの「国際私法」「民事訴訟法」は有斐閣、「債権総論」は悠々社、といった具合に出版社をかえて改訂版がだしつづけられているが、「倒産処理法」はでないようである。著者がWTO日本代表となって常時海外におり、判例百選の執筆もできないような状況では、それより負担のおおきい基本書の執筆ができないのも無理はない。
 現在の(少なくとも数的には)主流の個人の倒産処理が中規模都市の弁護士の民事事件の収入源でかなりの割合をしめている。筆者の場合は年間受任事件の3割くらいになるかもしれない。法人の破産でも代表者や連帯保証人の破産が付随してくる。倒産処理の内容としてはほとんどが破産か任意整理であるが、再生もときどき使っている。
再生法については和議法の欠点を修正するかたちで法律が制定されたものであり、企業の再生を念頭につくられた精緻な法律であるが、岡山市などの中規模都市だと法人の再生などの大型案件はあまりなく、個人の任意整理のなかでより大きな債権者の譲歩を迫る手段として使われることがおおい。

2 個人の破産と再生
筆者の事務所の破産と再生の限界の基準は以下のとおりである。
負債の整理の相談にみえた依頼者について、すべての債権者に取引経過の開示をしてもらい、利息制限法にひきなおしたうえでの住宅ローン以外の負債総額が年収(可処分所得ではない、年収である)を上回るか否か、これが第一のポイントである。これを超えるとなると、任意整理や再生をやるにしても、ちと負債がおおきすぎるのではないか、というわけである。スポンサーがつくような場合はスポンサー提供金額を減額する。(この場合スポンサーは無償供与に限られる。借金というかたちであるなら短期負債を長期負債にするだけにすぎず、更正という点ではあまり意味がないからである)
負債のなかに、住宅ローンがある場合は、住宅確保に情熱があるかどうかを聴く。住宅確保をしたい場合は再生可能性をさぐるわけであるが、まず不動資産価格と住宅ローンの残額を比較する必要がある。住宅ローンの残額のほうが不動産価格より大きい場合には、破産するほうが経済的にはトクなことになる。スポンサーが別にいるようであれば、オーバーローンの場合は抵当権抹消請求と組み合わせたあとに再生や破産することもありうる。また、オーバーローンでない場合でも、住宅ローン以外の負債がまったくないとした場合に住宅ローンをはらいおわることができるのか否かを検討しておく必要がある。再生で2〜3年苦労して住宅ローン以外の借金がなくなったとしても、住宅ローンが結局はらえなければ苦労はあまり報われたともいえず、最初から破産しておけばよかったということになりがちだからである。
読者のなかには、そんな払い終わるような見込みのないような住宅ローンがそうそうあるわけない、と思われるかたもおられるかもしれない。しかし、建設業などの1990年代に業態が悪化した業種のサラリーマンや営業主の場合、住宅ローン設定が現在の目でみると無理であったと評価されるべきものがけっこうでてくる。パオロ・マェツァリーノ「つっこみ力」(筑摩書房・2007年。これも筑摩書房であるが、帯には吉田戦車画伯による゛なまず髭をはやしたイタリア人ふうの著者の肖像画が描かれており、くだけた感じのものであって、ちくまも変わったという印象を筆者に与えている…)のなかで日本人の自殺の原因を考察し、平成10年からの自殺率の急上昇の原因分析のなかで日本では住宅ローンが人を自殺に追い込む仕組みになっている仮説を提示している。
「平成一〇年(自殺)急増の陰には平成五年ごろに公庫が大量に貸し出した『ゆとりローン』というシステムがあったことは、住宅関連業界では有名な話です。
ゆとりローンでは最初の五年は返済額がとても低く抑えられていたので、貧乏人でも家賃並みの返済額で夢のマイホームが持てる、と評判のいいシステムでした。しかし平成一二年に廃止されます。夢のように思えたシステムが、じつは悪夢だったことが、わかったからです。
最初がラクなぶん、六年目からの返済額は二倍近くまで跳ね上がるのです。具体例を調べてみたら、当初は月々六万円、ボーナス月三七万円の返済だったのが、六年目から月一〇万、ボーナス月六四万円の支払になったケースがありました。年間の返済額が、いきなり約一〇〇万円もアップするんです。
この仕組みは、給料が五年後に大幅アップしていることを前提にしないと成り立ちません。それがおりからのデフレ不況で給料が上がらないせいで――といいたいところですが、ちょっと違います。たとえ景気がいいときでも、そんなに給料は大盤振る舞いで上がりゃしません。厚生労働省の統計でひとりあたりの現金給与の推移を見ると、バブル絶頂のころだって五年かかって年収にして八〇万円程度のアップでした。ゆとりローンを始めた九五年とその五年前を比べると、せいぜい四五、六万円のアップでしかありません。六年目から一〇〇万円もふえる返済をできるはずがないんです。ゆとりローンが始まったころから、あれはヤバい、詐欺まがいだぞと、危惧する声はあがっていたのです。
(中略)
平成一〇年は、このゆとりローンの犠牲者たちが返済六年目に突入する年にあたっていまして、案の定脱落者が大量に出たのです。
住宅ローンを申し込むと、たいてい、生命保険の加入と保証会社との契約を求められます。生命保険は当然、もしもの場合にローン全額を埋め合わせるためのものです。保証会社ってのは、借りた人を保証するのでなく、貸した側を守るためのものです。
(中略)
日本では、家の価値は購入価格よりかなり安くなってしまうので、家を差し出して処分してもらっても、ローンを全額ちゃらにすることはできません。家がなくなってローンだけが残ります。ローンを確実にちゃらにできる唯一の方法は、生命保険です。
日本の庶民にとって、マイホームは生涯一度の夢なのです。一度つかんだ夢を手放すことをかたくなに拒む人がいるんです。」同書201〜204頁
保険についても自殺で支払う約款の問題性があるが、このような事情かあっては自殺でも支払う特約条項はなかなか日本ではなくなることはないだろう。
筆者の事務所があるような中規模都市では不動産の価格が高騰するということは考えにくいのでオーバーローン状態では家をあきらめたほうが経済的には合理的なのであるが、あきらめる決断は困難な場合おおい。パオロ氏のいうとおりである。よほどせっぱつまって債権者の取立が家や勤務先にくるようになってようやくあきらめがつくひとが半分くらいであろうか。



3 給与者再生はつかえない
 平成12年の民事再生法改正により個人である債務者を念頭に置いた再生手続の特則として住宅資金特別条項が定められ小規模個人再生・給与者再生と並行して用いることが可能になっている。
 住宅資金貸付債権に関する特則により、住宅ローン債権の担保として住宅につけられている抵当権は原則として再生手続によらないで権利行使ができるのが(53条2項)、住宅ローン債権の弁済方法についての再生計画が認可されると、住宅資金貸付債権者は抵当権の行使ができなくなる。住宅貸金貸付債権に関する特則は通常の再生手続でも小規模個人再生でも給与者再生でもつかうことができる。
小規模個人再生と給与者再生の比較については一般的には次のようなことがいわれている。

「小規模個人再生の手続きをする場合、債権者の半数以上の反対が出てしまうと再生計画の認可が下りず、借金の整理ができなくなってしまいます。
これに対して給与所得者再生の場合、債権者の反対が出ても問題なく裁判所より再生計画の認可が下ります。
つまり給与所得者再生を選択した方が手続きが確実なものになります。」
 しかし、債権者の半数以上の反対がでない場合は、計算が簡単で、ほとんどの場合給与者再生より弁済総額が少なくなる小規模個人再生がトクということになる。(実際問題破産されるよりはすこしでも配当があるほうが経済合理的なので債権者が個人ではなく法人の場合は賛成が得られることがおおい)。債権回収機構による反対がないことが予想されるのであれば小規模再生をまずだしてみることがよいし、実際にそうしている。なお、反対がおおそうであれば給与所得者再生に切り替える便宜的な方法があるが、岡山以外でこのようなことをやってくれるか否かは不明である。
 小規模個人再生では、将来において継続的または反復して収入を得る見込みのある個人が対象で、再生債権の総額が5000万円を超えない場合に利用可能である。別除権つき債権は再生債権から除外されるので、たとえば住宅ローンが3000万円、その他の債権が3000万円ということで負債総額3000万円でも、住宅ローンに抵当権がついている場合は、再生債権3000万円ということで小規模個人再生は利用可能である。
 再生計画にもとづく弁済総額については加減があるが、これが3000万円〜5000万円の場合は債権総額の10分の1、3000万円〜1500万円のときは300万円、1500万円〜100万円のときは5分の1または100万円のどちらか大きい額、100万円以下の場合は負債総額が下限となる。下限ぎりぎりで作成してしまだけなら計算はラクとなる。
 これを3年が原則であるが、特別な事情かあるときは5年間で返済し、住宅ローンはそのまま継続することになる。

給与者再生は小規模再生のさらに特則としてつくられているが、小規模再生を選択できる個人でさらに債務者が給与所得者でその変動の幅が少ない場合に利用できる。原則として可処分所得の2年分を3年間で計算する計画となる。この可処分所得の計算がややこしい。再生計画案の提出前2年間の再生債務者の収入の合計から所得税・住民税及び社会保険料金を控除した額を2で除し、その額から再生債務者およびその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用を控除した額に2を乗じた額以上の額でないと認められないとしている(241条2項7号)。この扶養のレベルが案外低いので小規模再生の最低限よりはかなり大きな数字になりがちである。また、住宅ローンが滞る場合の原因として子女の学費が大きな割合をしめていることがおおく、給与者再生ではこの学費部分が控除されないので、結局、再生可能レベルな計画がたてられないことになってしまう。
そこで、一般的には小規模再生が利用されることになる。

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