Yua's factoryコミュのFinal Destiny 3-16

何日経ったかも分からない。
ルーアは結局蓮花を捕らえるどころかかすりも出来ずに鬼ごっこを興じた。

『るぅあ君、そろそろ諦めたらぁ？』
「そ、そうもいかないんですよ」
『だってもう三日は経ってるわよぅ？しぇりるなんて人忘れてのんびりここで暮らせばいいのにぃ』
「グラスリール！」

蓮花の言葉を無視してルーアは呪文を唱えると、草木が触手のように伸びて蓮花に襲い掛かる。
蓮花は扇子を取り出すと蔓(つる)や草の触手を扇ぐ。するといとも簡単に触手は吹き飛ばされた。

『無駄だってばぁ。お酒もあるしご飯もあるし、女の子も選り取り緑よぉ？』
「そんなことで僕を縛れると思ったら大間違いですよっ」

再びルーアは地面を蹴って蓮花に飛び掛かる。
蓮花はルーアの頭に手をポンと乗せて逆立ちしながらルーアの後方へと着地する。勢い余ったルーアは前方に転げる。

『くどいわねぇ』
「まだまだぁ！」
「へぇっ！お前なかなか根性あんなぁ！」

ルーアの背後から突然に声を掛ける男がいた。
男、というよりも獣人のような…全身に茶色の毛が生えている。

「あなたは？」
『まあ！失礼な人ねぇ。この方を知らないの？斉天大聖様よ』
「せ、せいてん？」
『斉天大聖様』
「知らないけど…」
『あっきれたぁ』

斉天大聖と呼ばれた男はポリポリと尻を掻いて「やぁめろってぇ」と何故か照れている。

「知らんのも無理ねぇや！人界からだろ？あっちは広ぇからなぁ！」
「その、セイテンさんは」
「ああ、いいからいいから！そんな畏まった呼び方されちゃケツが痒くならぁな！元々オイラ悪さばっかしてたからよぉ！一応今は神扱いされてっけど！」
「そ、そうなんですか」
「悟空でいいよ！悟空で！」
「ゴクウ？」
「そっ！孫悟空！」
「孫、悟空…？聞いたことがあるような…無いような」
「キキッ！オイラも人界じゃ有名人なってたか！」

キキキッと猿のように…というよりも見てくれも猿そのものの孫悟空は笑って尻を掻く。

「ところで何で蓮花と鬼ごっこなんかしてんだい！？」
「いや、蓮花さんを捕まえないとシェリルさんと会わせてくれないって言うんですよ」
「しぇりるぅ？誰だいそりゃ！？」
「金髪の…瞳が青い綺麗な女性です」
「ああ！あの狼女か！」
「あ、そうか、獣人になってたんだ」
「でも蓮花を捕まえたって会えねぇぞ！？」
「へ？」
「もうここにゃ居ねぇかんな！それに蓮花捕まえるなんてオイラでも丸一日はかからぁな！」
「じゃ、じゃあやっぱり幻獣界に！？」
「そ！知ってんなら行きゃいいのに！」
「知ってても行けないんですよ！」
「なんで？」

悟空はまだ尻を掻いている。

「異次元に行く呪文はあるんです。でも何処に行くかは分からないんですよ」
「不便だなぁ！天竺(天界)に行くわけじゃあんめぇし、そんな難しくねぇよ！」
「か、簡単に言いますけどね！」
「簡単だって！」
「…へ？」
「ほら、あの桃の木の山の空があんだろ？あそこの真上を飛べば着くよ、幻獣界に！」
「と、飛べばって…」

確かに多少地面から浮く呪文はある。しかし空を飛ぶ呪文は無い。

「あん？おめえ飛べもしねぇのか！？」
「飛べるわけないでしょ！人ですよ僕は！」
「オイラは猿だけど飛べるぜ？」
「神と一緒にしないで下さい！」
「ああもう、わあったよ！じゃあこれをくれてやらぁな！」

悟空が「吽(うん)」と唱えるとボワンと音を立てて煙のようなものが目の前に現れた。

「これは？」
「觔斗雲だ！」
「キントウン？」
「乗れる雲だよ！自由自在に空を飛び回ることが出来るぜ！」
「そんな便利なものが…」
「これから人界は大変だからよ、それ使って何とかしてくれや！」
「人界が大変？」

今度はこめかみの辺りをポリポリと掻いて、悟空は真面目な顔を作る。

「おめえが蓮花と鬼ごっこしてる間にえれぇ怪物が出てきたんだ。あれは牛魔王並みだな」
「怪物？牛魔王？」
「兎に角えれぇ強ぇ化けもんだ。人間なんか頭っから喰われてたぞ」
「ば、馬鹿な…」

ルーアは顔が青冷める。
魔王はシェリルが倒して平和が訪れた。
その代わりに今度はレキアスの王が変わり、他国を侵略していく事も想定はしていた。
が、ここにきて再び怪物だと？

「人界は魔界へ変貌を遂げる。やべぇぞ」
「そんな…シェリルさんも居ないのに…」
「兎に角、急いだ方がいい。オイラ達は簡単には人に手を貸せねぇんだよ」
「…分かりました。この雲お借りします！」
「んなのくれてやっから！」
「はい、では頂戴します！」

ルーアは觔斗雲に飛び乗る。
羽毛のようにフワリと体を包む。
――――と、ルーアの背中にピタリと寄り添う蓮花。

「ちょっ、蓮花さん！何ですか一体！今はもう遊んでられないんですよ！」
『んふふ〜』
「離して下さいって！」

何を言うでもなく、蓮花はただ鼻歌を歌ってルーアにくっついている。
それを見てキキキッと笑う悟空。

「あー、蓮花に気に入られたんだよおめえ！厄介なのに好かれたなぁ！」
「ええ！？ちょ、悟空さん何とかして下さいよ！」
「無理無理。オイラにも蓮花は止められねぇよ！面倒だから連れてってくれや！」
「そんな、これからピクニックに行くわけじゃないんですよ！？」
「安心しろよ、蓮花はただ“鬼ごっこが得意なだけの女”じゃねぇから！」
「あ〜もう！どうなっても知りませんからね！？」
「おう、行ってこい！」
『んふふ〜』

ルーアは渋々ながら桃の木の山に目を向ける。ルーアの意思は觔斗雲に伝わり、爆発的なスピードで飛んだ。

「うわわわわわっ！！」
『んふふ〜♪』

あっという間に山頂に辿り着くと更に上空を目指して觔斗雲は飛ぶ。
空の色は暗転して、次元の狭間を駆け巡る。虹色の空間を抜け、やがて幻想的な世界に突入した。

「は、速かった…。ここが…」

そう、ルーアは漸くに幻獣界へ辿り着いた。







続
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