Yua's factoryコミュのFinal Destiny 3-15

喧騒。阿鼻叫喚。地獄絵図。逃げ惑う城兵。

躯(からだ)は膨張し、３メートル強はあろうか。黒い髪は白く染まり腰まで伸びる。眼は吊り上がり白眼は黄色に染まる。肌は浅黒く変色していき肉感は感じられない。裂けた口には鋭い牙が生え、蛇のように長い舌が空気を嘗めるように宙空で這う。
ドニスは今、怪物となった。

「ふは、ふははははっ！力が、力が溢れる！これが魔の力か！」

地鳴りのように低い声が城内に響き渡る。
ドニスの姿を目の当たりにした兵達はある者は逃げ、ある者は腰を抜かし、ある者は剣を抜く。

「……腹が減ったな」

ドニス、今やドニスだったモノは一人の剣を向ける兵士に目をやると瞬時に頭から喰らった。
胸から上を丸々無くした兵士は勢いよく血を噴き出して倒れた。

「わ、わぁあああっ！！」
「ば、化け物！」
「ギャアアアッ！」

魔王は消え、新たな恐怖がここレキアスより始まった。
人界はドニスの変体によりおよそ魔界となった。

「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおっ！！」

ドニスは雄叫びを上げる。
それだけで城壁には亀裂が入り、ガラスが割れる。
人界の終わりが始まった。



※※※※※※※※※※※


――ボルノ 宮殿内――

北の国ボルノ、東の国テス、西の国ラーマは共同戦線を張ることになり、今現在の各国部隊の総隊長はソニアとなった。
その共同戦線の調印式にて、サスケの部隊である斥候がレキアス王の異変をソニアに伝えに来た。

「なに！？ドニスが！」
「はっ。魔物と化しました」
「……分かりました。私が突入します」
「我らは」
「各国の兵士に防備を固めるよう伝えて下さい」
「ソニア殿のお供は」
「無用です」
「はっ」
「何か指示があれば追って伝書鳩を使います。それまで国境を死守して下さい」
「御意」

ソニアはロッドを握り、シリウス、ティグリス、トゥレラの前まで行き、膝を付く。

「申し上げます。現在斥候によりレキアスの王ドニスが魔物になったと報を受けました」
「なに！？」
「え？うそ」
「ドニスが…」

それぞれの王の次の言葉を待たずにソニアは続ける。

「これより私がレキアスに乗り込み、ドニスの力量を測って参ります。そしてもし叶うなら首を取ります」
「……分かった。兵は？」
「要りませぬ」
「それはまかりならん。勇者といえどあまりにも危険だ」
「畏れながら王、この度はドニスの首を取ることよりも戦力を測るのが目的です。基本スニーキング・オペレーション(潜入捜査)だと思って下さい」
「しかし」
「王、兵は足枷になりかねないのです。今回の作戦は潜入という点。そして人が魔物になるとどれくらいの力が備わるか不明という点。そして、時間は無いという点」
「時間が無い？」
「ありません。魔物になり、好戦的になっています。現に自国の兵士を一人頭から喰らったそうです」
「なっ…」
「王、早急に御許可を」
「……分かった。行け」
「はっ！」

シリウスの許可を受け、ソニアは漸く立ち上がる。

「必ず、生きて帰れよ」
「畏まりました」

ソニアは言って駆ける。
宮殿のテラスの手摺(てすり)に片手を添えて軽く飛び越えると、フワリと地面に着地する。
白馬は既にスタンバイしており、羽根のように飛び乗ると腹を蹴って脱兎の如く駆ける。

実のところ、ソニアは血が沸騰しそうな程に興奮していた。
人界に最早敵は居ない。あのガルーダという人造魔獣も期待外れであった。
思う存分に振るう暴力。それを試せる価値が、ドニスにあるのか。
ソニアの細腕に幾本も走る動脈と静脈が血液の流れを早くする。
知勇備えた女勇者は馬上で笑みを零す。

「玩具(ドニス)は私のものだ…！」

手綱を握る手に力が籠る。
病的なまでの戦闘狂。それを抑える為に常日頃は淑やかに、上品に振る舞っている。
それはシェリルに言いつけられたものであった。


『ソニアは綺麗なんだから勿体ないでしょ！』
『私が良いって言うまで《本気》出しちゃ駄目よ？』


ああ、シェリル様…。
早く貴女に逢いたい。
その前に、力の解放を御許し下さい。

ソニアはその言葉を胸の内で静かに唱え、馬の腹を再び蹴ってレキアスへと急いだ。






続
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