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なうとぱすとコミュの◇いくつもの僅かな世界◇chap.1「小さな嘘、僅かな願い」

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「ねえ、空ってどこまで続いているの?」

彼女と出会い、初めて行ったふたりきりの海。
君は星空が見えない曇りがかった空を見つめながら
僕にそう聞いてきた。

「どうしたの?」

彼女は空を見つめたまま
ただ静かにため息をつく。

「ううん。何でも無いの…」

季節はまだ寒さがほんのり残る夏の始まり。
出逢ってから随分と時間を過ごしてきたはずなのに
ふたりで海に来たのは初めてだった。
いつもは明るい表情しか浮かべない彼女が
初めて僕の前で少し憂いな表情を見せていた。

「珍しいね。いつもは笑ってばかりいるのに。」

彼女は静かに僕の方に視線を向けながら
そっと囁くように口を開く。

「そうかなあ。気付かなかっただけじゃない?」

聞いた瞬間に僕は一瞬にして固まってしまった。
僕はいつも笑顔の彼女しか知らない。
いや正確には、
笑顔の彼女しか見ていなかったのかもしれない。
いつもとは違う場所で
初めて過ごす時間の中で
いつもは気付かなかった彼女の表情を
初めて気付いただけなのかもしれない。

「今、何を考えてるの?」

僕は不躾に彼女に聞いた。

彼女は少し笑った様な表情を見せながら
僕の方を見ながら言った。

「空の向こう側のこと。」

僕はここから先何を言えばいいのか分からず
ただこちらを見つめる彼女の手を握った。

彼女も呼応するかのように
僕の方によりかかりながら
静かに瞳を閉じた。

「ねえ、僕には空がどこまで続いているのか
 答えることが出来るほど
 偉い学者さんじゃないけれど
 君が今想う先まで続いているんじゃないかな?」

彼女は静かに頷くように
僕の体温を掴んだ。

「そっか。
 じゃあそこには星が輝いているのかな?」

少し震える様に彼女が囁いた。

「例えばそこが同じ様に雲がかかって
 星が見えない夜だとして
 それでも君の想いが
 ただ輝いているんじゃないかな?」

「ロマンチックすぎじゃない?」

笑いながら彼女が言う。

「今見ている様に曇っていたら
 そしたら願い事は叶わないの?」

「流れ星?」

「そう。流れ星が見えないから。」

「でもね、流れ星は雲の上で今日も
 いっぱい流れてるんだよ。」

「だから?」

「だからね。
 雲さえ突き抜ける様な想いで
 強く願っていれば
 きっと想いを運んでくれるんだ。」

「そうかな?」

「そうだといいかな…」

「自信なさげすぎだよ。
 もうちょっと頼り甲斐あるとこ見せなきゃ
 嫌いになっちゃうよ。」

「それは困るな。」

「困るんだ。ふふ。」

ふざけ合う様に僕達は
静かに浜辺で寄り添った。

「ねえ、僕達が見ている空は同じ空かい?」

「どうしたの?急に?」

「なんだか急にさ、
 僕達が見ている空が違う様に思えてきて。」

「同じだよ。同じところにいるんだから。」

「そうかな?
 おなじとこにいても
 違う空を見ていることだってあるさ。」

「意味が分からない…」

「そうだよね。」

例えば今、
それぞれ違う場所にいても
同じキモチで空を見上げているふたりがいて
そのふたりは
違う場所にいても
ただ切り離された空を
距離を越えて共有してたりするのかな。
今、僕と彼女は同じ場所にいるのだけれど
目の前にある空は違う空。
そんな感覚が僕の中に
急に芽生えてきた。

「お腹空かないかい?」

「うん。空いた。」

「よし、旨いもんでも食べにいくか!」

「うん。あともう少しだけ空見たら。」

ココロの中に芽生えた
小さなざわめきを
僕はコトバに出来ないまま
ただ彼女の側に寄り添った。

流れ星
雲の上で
今、流れていますように…

僕は今日、彼女に小さな嘘をつき
そして儚い願い事をした。

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