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アミクエコミュのアミクエ2【ヨコシマの黒】

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注意事項

※ 物語の途中、僕が考えた
「キャラクターのケータイメールアドレス」
や「サイトURL」が幾つか出て来ますが、
当然、全て実在しない架空の物です。
なので、ドメインや文字配列を並び変えて
実際にメールを送ってみるなどの行為は
おやめ下さい。
当たり前ですが、メールなんか届きません。
届いたとしても、
何の関係も無い赤の他人様です。
迷惑なので、やめませう。

※ ネタとして有名人の名前や
有名フレーズ等のパロディ・ワードが
幾つか出てきますが、
それらのファンの方々がもし、
気分を悪くされたら、先に謝っておきます。

ゴメンナサイ(´_>`)


以上、注意事項ですた。
全て承諾戴けた方のみ、
"最初から読む"を押して
本編をお楽しみ下さいませ。

コメント(176)

#.137

市立病院に到着した亜美は、
早速窓口に母の様態を問い合わせた。

亜「あのっ…スイマセンッ!
お産の知らせを聞いて来ました奈倉です!」

看「奈倉さんのお身内の方ですね。
分娩室前で座ってお待ち下さい。
じきお呼び致しますので。
こちらの名簿にご記入だけお願い致します」

亜「はいっ…」

看護婦の冷静な案内を受け、
来客者名簿に記入し、
分娩室の前に着くと扉の上部の
"分娩中"と表示されたランプが
赤々と点灯していた。

中から母の陣痛に苦しむうめき声と
フォローに勤める助産婦の落ち着いた声が
微かに聞こえる。

亜(予定より早いよね…?
早産なんて…大丈夫かな…。
お父さん早く来てよぉ…!)

(ぐぅぅぅ…!痛いぃ……っ!!)

(大丈夫ですよ〜!気をしっかりと持って!
今娘さんが来たから、
一人じゃないですよ!)

(亜美が…?ハァ〜〜ッ…
ハァ〜〜ッ…うぐっ…!!)

(息を深く吸ってー!
ヒィーヒィーフゥーッ…
ヒィーヒィーフゥーッ…)

(スゥ〜…ハァ〜…スゥ〜…ハァ〜…
ヒィーヒィー…フゥーッ…
ヒィーヒィー…フゥーッ…)

(はいじゃあ、ゆっくりと力んで〜?)

(はぐっ…!うぐぅぅぅぅぅ…!!
あぁぁぁぁ…!!)



亜(お母さん…苦しそう…あせあせ(飛び散る汗)頑張って…!)

不安を抱え亜美はただ、
座りながら無心に手を合わせ、
無事に出産を終える事を
ひたすら祈っている。

父「亜美っ…!」

声のした方へ振り向くと、
ワイシャツの袖を捲り、
脱いだ背広を腕に持って息を切らした
汗だくの父が到着していた。

亜「お父さん…」

父「遅れてすまんな。どうだ?様子は…」

亜「頑張ってはいるみたいだけど…
まだ少し早いよね…?
流産したらどうしよう…苦しそうで…」

父は隣に腰掛け、
娘の肩をしっかりと抱いた。

父「…心配するな、母さんを信用するんだ。
お前の時もそうだった」

亜「…そうなの…?」

父「あぁ…今でも忘れやしないさ…。
2600gの華奢な体で産まれて来てな、
それまでに知り合いの赤ん坊を
抱いた事があって、
それに比べて随分頼り無いもんだったから、
母さんと二人で何があっても
命がけでこの子を守り、
大切に育てて行こうと誓ったものさ。
あの時は両方とも嬉しくて
涙が止まらんかったわい」

亜「…命懸けで…?」

父「あぁ…玉の様に可愛い子だったからな。
例え遊んでばかりでも、
お前はわしらの自慢の娘だ。
母さんが苦しい思いをして
必死に産んだ子なのだから」

亜「…やっぱり、誰かを愛するという事は
その人の為に命を懸けるって事なのかな…」

父「ハッハッハッ…
大袈裟だがそうかもしれん!
ワシも若い頃は"お前の為なら
この命くれてやる"等と
臭いセリフで母さんを口説いたものだ」

亜「…誰かを愛する…って、
痛みを伴うもんなんだね…」

(奈倉さん頑張って!ご主人も来たわよ!?)

(はいっ…あぐっ…うぅぅぅぅぅぅ…!!
ハァッ……ハァッ……)

父「菫!ここにおるぞ!?
負けるな!お前なら大丈夫だ!」

立ち上がり、扉ごしに中へ声をかけ始めた。

(ンニャーァ!ンニャーァ!
ンニャーァ!ンニャーァ!)

(頭が出て来たわ!あと少しよ!?)

父「いいぞ!踏ん張れ!
ワシらが付いとるからな!?」

父の瞳は、潤んでいた。
近い我が子との対面に
高鳴る胸を抑えている。

(ンニャーァ!ンニャーァ!
ンニャーァ!ンニャーァ!
ンニャーァ!ンニャーァ!)

(ハァーッ…ハァーッ…
ハァーッ…ハァーッ…)

亜美が到着してから、かれこれ約三時間。
向こうから無垢な産声が聞こえ出すと、
やがて分娩室のランプは消え、
ガチャリと扉が開かれた。
中から顔を覗かせる助産婦は
父と向かい合ってそっとマスクを外し、
フッと柔らかで優しい笑みをこぼしながら
一言。

助「おめでとうございます…。
誉君、無事産まれました。中へどうぞ」

父「おぉ…!ありがとうございます!
亜美、来い!」

亜「はいっ…!」

父は思わず大粒の涙を溢していた。
遂に待ちわびた尊い
新たな生命との対面である。
分娩室内では息を落ち着かせつつある母が
安堵の表情で寝台に横たわって居た。

父「菫!よくやった!よくやったぞ!」

母「あなた…安心したわ…。
ほら、誉を抱いてあげて…?
フフッ…せっかちな可愛い子。
よっぽど早く私達に会いたかったのね…。
亜美も、付いててくれてありがとう!
心強かったわよ!?」

亜「うん…お疲れ様。良かったね…!」
#.138

放課後を迎えたC組の教室で、
帰宅へと席を立つ朱里の肩を
後ろから軽く叩く者が居た。

(ポンッダッシュ(走り出す様))

梓「朱里、一緒に帰ろ?」

朱「ムスカ…うさぎ…いいの…?」

葵「アハハッ…いいの?って、なんで?
どういう意味よ!」

朱「あたしに構ってたら、
茜丸達に嫌われるよ…?」

梓「バカね〜アンタ、アイツら
そんな小さな器じゃないよ。
あぁ言いながらみんな、
アンタの事を気にかけてんだから
気にすんなってwww」

葵「そうそう。
ひねくれてるだけだから大丈夫!」

朱「…ありがとう。じゃ、帰ろっか♪」

梓「それそれ!その♪マーク!
それでこそ朱里だよ」

(コッ…コッ…コッ…コッ…コッ…)

(コッ…コッ…コッ…コッ…コッ…)

三人が仲良く渡り廊下を行くと、
朱里は向かいから鞄を肩に担いだ
聖が歩いて来ている事に気付き、
咄嗟に顔を伏せる。

聖は、髪型と雰囲気がガラリと変わった
朱里に気が付かずに真っ直ぐ
前方を向いたまま、
そのまま彼女達とすれ違った。

葵「…今の…聖君だよね…」

朱「…いいの。いいから行こ…?」

梓「あ、朱里…ちょっと待ってよ」

朱里は頬を赤らめ、戸惑いを覚えながら、
梓と葵を置いて逃げる様に
階段を降りて行った。

その後ろで、彼女達の方へ
聖は振り向いていた。

聖(…?今の…亜美…?
柳や水野と一緒じゃねぇのか…?
……………まぁ、もう俺にゃ
カンケーねぇか…)

そして聖はトボトボと、
軽音部部室に向かう。

(ガラガラ…ピシャリ)

後輩「あ、小笠原サンちゃーすっ!」

後輩勢「ちゃーすっ!!」

聖「おー…顧問居るか?」

後輩「はい、居ますよ。どしたんすか?」

(ガラガラ…)

エ「うぇーい」

杉「うぇーいお疲れ〜。よぉ、聖。
話ってなんだよ、やっぱ曲のアレンジは
部室ですんのか?」

たった今、聖から連絡を受けていた杉山、
エロ本、キムチが部室に来て
無礼奴のメンバーが揃った。

聖「ちげぇよ」

エ「だったら何だよ、
メールで大事な話とかいいやがっから
アレンジかミーティングかと思うだろーが」

杉「あれ?そういやなんで鞄だけ?
ベースは?」

顧「おー、小笠原。どした?呼んだか?」

顧問の先生も聖の下に集う。

聖「コレ(ピラッ)」

聖は杉山達の前で、
先生に何かの用紙を手渡す。

顧「ん?なんだこりゃ(ピラッ)
………………………。」

それは退部届けだった。

顧「…どうしたんだ?小笠原…今更」

杉「え、何々?どーゆーコト…?」

聖「…俺、バンド辞めるわ…」

杉Σ(゚Д゚)

聖「…後の無礼奴は任せる…」

エ(゚目゚)!?

聖「…わりーな」

キ(´д`)

後輩(゚Д゚)(゚Д゚)(゚Д゚)(゚Д゚)(゚Д゚)(゚Д゚)


杉「…え?なんでよ?何かあったんか?
ちゃんと説明しろや」

エ「そうだぞ!キッチリ納得いくように
けじめつけろや!」

聖「………シラケちまってよ…」

杉「…それだけか?」

聖「…おぅ」

エ「…え、ガチで言ってんの?
そんならこれからどーすんのお前」

聖「…さーな、何も考えちゃねぇーよ。
どーせ卒業したら活動もしねぇんだろ?」

杉「イヤイヤイヤ…こないだパイセンから
イベント出演オファーが
来てたじゃねぇか…。
乗るんじゃなかったんけ?」

聖「…もう、ベースは
ぶっ潰しちまったからよ…、
再起不能だからキャンセルしといてくれや」

(ボグッ!!…ドタッ)

杉山は、聖を殴り倒した。

杉「(…ペッ)見損なったぜクソが…。
パイセンへの断りはテメーでやっとけ。
分かったな?」

聖の顔に唾を吐き捨てた杉山は
淡々と部室を後にした。

エ「…ヤキが回ったもんだな…。
せめて卒業まではお前と一緒に
バカやってたかったぜオレは…」

続いてエロ本もゆっくり退室し、
キムチがそれにいそいそと、
気まずそうに付いて行く。

聖「………ケッ…」

(スクッ)

顧「…らしくないなぁ、小笠原…」

聖「…放っとけよ…」

気だるそうに起き上がる聖も、約三年間、
数々の青春と思い出を詰め込んだ
部室に背を向け、退室した。
#.139

8:00 PM

病院の新生児室で幸せそうに、
誉を抱きかかえる母と、
それに付き添い共に感動を分かち合う
父の姿を見届けた亜美は、留守番に就く為に
一足早く帰宅した所である。

今日明日の父は、妻と我が子の
退院準備を進めながら同伴で
病院に泊まり込む手筈と、
亜美は知らされていた。

駅からの帰りついでに、
コンビニで買って来たパスタで
この日の夕食を手軽に済ませ、
入浴の後に部屋に戻ると、
窓の外はすっかりと暗くなり始め、
ベッドの上にチョコンと座るラリックマは
静まり帰る暗い部屋の中で
物憂い翳りを帯びていた。
時計の針は20時を過ぎている。

亜(…誉…可愛かったな…。
あんまり実感が湧かないけど、アタシ…
ホントにお姉ちゃんになっちゃったんだ…。
これからはしっかりしないとな…)

(チッ……チッ……チッ……チッ…)

亜(…お母さんが痛みに耐えて
産んだ子…か…。
産まれる時の赤ちゃんって…
なんで泣いてるんだろ…。
産まれる時に、痛いから…?苦しいから…?
悲しいから…?辛いから…?
嬉しいから…?自分が産まれた時は、
どうだったんだろ…覚えて無いや…)

(チッ……チッ……チッ……チッ…)

亜(ゲームばっかりやってる
お姉ちゃんなんてみっともないんだから…
これからはあんまり熱中する事の無い様に…
とは頭では分かってても、
そうなるとやっぱり、退屈だな…。
この際だからダイエットでも始めて、
自分を磨こうかな…)

(チッ……チッ……チッ……チッ…)

亜(…2011年10月18日…今日が誉の誕生日…
誉…お母さんやアタシ達に
そんなに早く会いたかったのかな…。
それとも、お腹の中から"脱出"して
自由になりたかったのかな…)

(チッ……チッ……チッ……チッ…)

ベッドに腰掛けながら、
上の空で考え込んでいると、
亜美はある事を思い出した。

亜(脱出…そう言えば、
黒と約束を交わしたのが先週の11日…。
今日は18日…もう、続きを
プレイしないなら…
約束を破る事になっちゃう…)



― あと一週間だけ我慢したら ―
― もう一度ここから抜け出す ―
― 挑戦をしていいんだね…? ―
― 僕、死にもの狂いで頑張るよ! ―



― 血も肉も骨も内臓も ―
― 細かな細胞の一つ一つまで ―
― 亜美を形作る全てを ―
― 僕だけの"物"にする ―



亜(…黒の…正体は……)

(チッ……チッ……チッ……チッ…)

(スゥーッ…)



まだ照明さえも点けず、
真っ暗な部屋で重苦しい不安感を感じながら
暫く躊躇していた亜美が、やがて恐る恐る、
『ヨコシマの黒』のカートリッジを
しまい込んだデスクの引き出しを開けると、
そっとそれを、手に取ってみた。

(ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…)

亜(…やっぱり出来ない…出来ないよ…。
だって…あんなに小さな男の子だったのに…
6日も何も食べさせて無いんだもん…。
絶対にもう…死んでる…。
例え邪悪な存在じゃなかったとしても…
普通の人間で…まだ生きてるにしても…
こんな風に見捨てたアタシに…もう一度
心を開いてくれるワケなんか無いし…、
言霊も効くワケが無い…。怖いよ…)

(スゥーッ…)

やはり亜美は踏ん切りが着かず、
またそれを引き出しの奥に直した。

亜(…もう…寝よう…)
#.140

鈴虫が本格的に鳴き始める季節の晩、
聖は部屋でひたすらシケモクを焚き、
自堕落にうなだれながら煙を燻らせて居た。

聖「…フ―――ッ……(ツマンネェな…)」

(ブーッ…ブーッ…ブーッ…ブーッ…ブーッ…)

その時、テーブルの上で無造作に
放り捨てられたひび割れのケータイが
着信で振動した。

聖「………。」

(スパーッ…スパーッ…喫煙)

聖はケータイへ気にも留めず、ただ、
宙をぼんやりと見つめて居た。
やがてケータイは動きを止める。

聖(…酒飲みてぇな…)

(ブーッ…ブーッ…ブーッ…)

完全に自暴自棄となった青年が、
善からぬ考えを巡らせ始めると、
再びケータイが着信した。

聖(…誰だ…しつけーな…
今ケータイは触りたくねーんだよ…)

(ブーッ…ブーッ…ブーッ…ブーッ…ブーッ…)

(コトッ)

聖「(ピッ)…あ゙…?」

8回目のコールでようやく聖は
鬱陶しそうに電話を取った。
ディスプレイの表示は、
メモリ未登録の番号が通知されていた。

朱「あ…あの…おが…小笠原君ですか…?」

受話器から聞こえて来た
聞き覚えあるその声は、
極度の緊張に震えている様だった。

聖「……ダレ…?」

朱「ハィあのっあせあせ(飛び散る汗)…にs…西荻です…あせあせ(飛び散る汗)」

聖「………。」

朱「………あせあせ(飛び散る汗)あせあせ(飛び散る汗)あせあせ(飛び散る汗)」

聖「………なん?」

朱「あの、電話大丈夫でしすか……?
(しまった…噛んだ…あせあせ(飛び散る汗))」

聖「……おー、だからなんよ」

朱「こないだのboogieの事…
ホントにゴメンナサイ…」

聖「…もういいっつーの…。じゃーな」

朱「あ!ま、ま、待って…!」

聖「なんなんだよ!?
っといい加減にしとけよな?オメー」

朱「ゴメンナサイ…あせあせ(飛び散る汗)
ほんとゴメンナサイ…!
あ、あの…話があるの…!」

聖「だから〜…何?」

朱「直接会って話したいんですけど…
あの…その…今からとかって…
会えませんか…?」

聖「はぁ…?電話で言やいいべ…?」

朱「イヤ、あのっ…あせあせ(飛び散る汗)
真剣に話したい事だから…どうすても…
会った話すがせたくって…
(あぁ〜っ…もうダメだ…
噛み過ぎだろあたし氏ね)」

聖「…イカレてんのか…?大丈夫かよ」

朱「うんっ…あ!ハィ…あせあせ(飛び散る汗)大丈夫です…あせあせ(飛び散る汗)
(大丈夫じゃないです死にそうです)」

聖「…どーゆー内容…?」

朱「なっ…内容…え…と、その…あせあせ(飛び散る汗)」

聖「…何処に行きゃあいい?」

朱「えっ…?会ってくれるの…!?」

聖「…オメーがそう言ったんだろーが」

朱「えっ…tじゃああたしが動きます!
何処に行けば会えますか…?」

聖「いーよどーせヒマジンだからよ〜…。
俺が出張ってやんよ…ドコ?
オメーに動かれると追い返すのが
メンドーなんだよ。
ナシが済んだらサッサと帰んぜ?おりゃー」

朱「ハッ…ハィ…分かりました…あせあせ(飛び散る汗)
じゃあ…えと…えと………あせあせ(飛び散る汗)」

聖「………。」

朱「え〜…あっ、じゃあ…勘座町南の
『粉雪並木通り』は分かりますか…?」

聖「………おー…。
(ちっと距離があるな…
バイクは返したばっかだし…。
畜生メンドクセェ…電車で行くか…)」

朱「じゃあ…そこの広場で待ってます…」

聖「…よっしゃ。今からだと…そーだな…
30分くれぇで着くと思う。じゃーな」

朱「ハィッあせあせ(飛び散る汗)(プツッ…ツー、ツー)」

聖(…なんか、やけに
萎らしくなったなアイツ…。
また何企んでやがる…)」

電話を切ると、聖は外出の用意を
適当に整え、財布の中に往復分の
電車賃を確認すると、
心の底から面倒くさそうにのっそりと
家の玄関を出る。











丁度そこに、
麻雀から帰って来た龍と鉢合わせした。

龍「おぅ、どっか行くんけ?」

聖「まーな」

龍「ほーん…、さいなら」

聖「バイク、貸しt」

龍「氏ぬか?オイ」

聖「チッ…(;¬皿¬)」

言い終える前に、龍に瞬殺で
一蹴された聖は、渋々と
駅に向かって歩き始めた。

































電車に揺られ、勘座町駅を降りると、
キョロキョロと周囲を見渡しながら、
駅前の案内板を細目で確認。
朱里の待つ『粉雪並木通り』の
広場に赴いた。

すっかり日も落ち、薄暗くなった
並木通りの佇まいは、
暖かな色の街灯が照らし、
秋らしい澄んだ空気と、
キンモクセイの微かな薫りに彩られていた。

(コッ…コッ…コッ…)

聖が広場に到着すると、
そこには黒髪ショートカットの後ろ姿で
少女がベンチに座って居た。

聖「なんで…ここに亜美が居んだよ…!?
ハメられた…!?」
#.141

まさかの亜美と生き写しの後ろ姿に
動揺した聖は、一瞬たじろいだ。
しかし、その気配に気付いた"その相手"は
ゆっくりと振り向く。

朱「………。」

聖(あぁ…なんだ、人違ぇかよ…。
紛らわしい頭しやがって…。
西荻はどこだ…?
人を呼びつけといてなんだよ…。
粉雪並木通りの広場って、
ここで合ってるよな…?)

振り向いて目が合ったまるっきり
"素っぴん"の朱里に気が付かないまま、
聖は辺りをキョロキョロと見回した。

朱「小笠原君…」

聖「…うぇ…?」

またしても間抜けな声を出して、
改めて聖が朱里の方へ視線を戻した。

朱「来てくれて…ありがと」

聖「お……め…西荻か…?」

朱「うん…///」

思わず目を疑った聖は、
女性に対して明らかに失礼な程
朱里をマジマジと見つめた。
その姿はboogieで見た私服とは
かけ離れたイメージの物で、
スウェットパンツに薄手のカーディガンを
羽織っただけの至極、地味な不恰好だった。

聖「…幾らなんでも化け過ぎだろ…。
カメレオンかオメーは!!」

朱「…せめて狐か狸って
言って欲しかった…あせあせ(飛び散る汗)そんなに…変かな…。
似合いませんか…?」

聖「イヤ似合うとか似合わない以前に…
誰だか最初分かんなかったぜ…たらーっ(汗)」

朱「…それより、ケガ…平気ですか…?」

朱里は心配そうな顔で、
そっと杉山に殴られた跡を撫でた。

聖「こりゃあん時のケガじゃねぇ…。
すぐ治らぁ。…つか、
マジで色々と変わっちまったなぁ…?
なんだよその喋り…
あの馴れ馴れしい西荻だよな?オメー…」

朱「だってまた馴れ馴れしくしたら、
もっと嫌われちゃうと思って…」

聖「…じゃその髪型はよ…?前髪、
横っちょだけ朱色に染めてなかったか?」

朱「…奈倉さんの髪型、真似てみました…」

聖「…そ、そーか…たらーっ(汗)つか、
キモチワリーから敬語やめれ」

朱「はい…あせあせ(飛び散る汗)」

聖(返事から既に敬語じゃねーかよ。
駄目だこりゃ)

朱「あのっ…話ってゆーのは…あせあせ(飛び散る汗)」

聖「おー」

朱「あたし…小笠原君に嘘を
ついてたんです…の…」

聖「あー、もー、無理にタメ口
利かなくていーからよ〜…
テケトーに喋れや…たらーっ(汗)
で、嘘ってなどういう了見よ」

朱「…こないだのboogieのライブ…
ホントはあたし、cendrillonじゃなくて…
狂乱マングース目当てに来てたんだ…です」

聖「ほ〜ん…。ホントは
マングース見に来たのに、
cendrillon見に来たっつってたのが
嘘って事か?」

朱「うん…あ、はい…」

聖「それが?」

朱「え…?」

聖「それがなんだっての?」

朱「…あたし、最初小笠原君に
狂乱マングースを奨めて貰ってから、
彼らのライブスケジュールを
調べてみたの…。ライブに顔を出せば、
小笠原君に会えるかもしれないと思って…。
そしたらたまたま、こないだの
ノンジャンルイベントでcendrillonが彼らと
対バンで出演するって分かったから、
もし実際に会えたら、偶然を装って
小笠原君に近付けると思ってたんだ…」

聖「なんで偶然を装う必要があるワケ?」

朱「…わざわざ小笠原君と会う為に、
ライブを見に来たって知られたら、
ストーカーみたく思われて、
増す増す避けられちゃうから…。
それに…」

聖「それに…?何よ」

朱「偶然に見せかけられるなら、
戦略的にも好都合だから…」

聖「は…?戦略…?なんだ?そりゃ…」

朱「…今日はそれを全部
正直に白状したくて…会おうと思ったの…。
実はあたし…小笠原君を誘惑して、
奈倉さんとの仲を
引き裂こうとしてたんだよ…?」

聖は、ドーナツみたいに目を丸くした。

聖「…なんでよ」

朱「…あの時、ホントに小笠原君に会えて
ラッキーだったし、奈倉さんも来てたのに、
誰も見てないトイレ前で酔い潰れてる所に
二人きりで居合わせた時も…
ハッキリ言ってチャンスだと思った…。
やるなら今しかないってね…」

聖「…ほぅ」

朱「…あの時、小笠原君が酔いに任せて
"その気"になって、あたしに手を出したり、
気持ちが揺れ動いたら…、
証拠になる様なネタが上がり次第、
奈倉さんにバラして、破局に追い込んで、
その後小笠原君があたしに
"落ちてた"としても…
相手にしないつもりだった…」

聖「…俺になんか恨みでもあんのか?」
#.142

朱「ううん、小笠原君だけじゃない…。
あたしね?今までずっと何人も、
自分に言い寄って来る男や、
彼女持ちの男とかをターゲットに
思わせ振りな態度で近付いて、
"その気"になるのかどうかを試しては、
振り回して来たんだ…」

聖「…なんでそういう事するわけ?」

朱「友達と一緒に賭けをして遊んでたの…。
あたしが数々の男達相手に色を仕掛けて、
落とせるのかどうかっていうお遊びだよ」

聖「ほぉ〜…イッパシの小悪魔気取りかよ。
随分モテんだな。いいご身分じゃねぇか。
んな事して楽しいんかよ?あ?」

朱「…うん、楽しかったよ?
だって、男達があたしの言う事を
従順に聞いてくれる様子が、
あたし達を最高に楽しませてた。
どうせ男なんか、どいつもコイツも、
スケベで、卑怯で、傲慢で、
女を食い物か都合のいいオモチャ程度にしか
考えてない生き物だと思ってるし、
あたし、周りからずっとそういう
浅ましい遊びに味を占めた
卑しい女として蔑まれてきたから、
そんな世の中が恨めしくて仕方なかった…。
幸せそうな奴らが憎らしくて…
みんな大嫌いだった…
全て滅茶苦茶にしてやろうと思った…
だから、そんな賭け事を楽しむのが、
あたしにとって何よりの
"憂さ晴らし"だったの…」

聖「…タチわりぃー…」

朱「そんな言い方しないで…。
あたしだって好きでそんな事する様に
なっていったワケじゃないよ…」

聖「どーゆーコト?」

朱「あたしだって…あたしだって…!
本気で人を好きになった事があった…!
真剣に愛した人が居た…!
その人の事を本当に信じてた…!
それなのに…それなのに…!」

朱里は何かのスイッチが入ったかの様に、
次第に声を荒げ出した。

聖「オ、オイ…なんだ…!?どした!?」

朱「あたし…裏切られたのっ!!
弄ばれたのっ!!悔しいのっ!!
憎くて憎くて仕方なかったの!!」

(ポツッ………ポツッ……ポツッ…)

感情が高ぶり始めた朱里を
宥めるかの様なタイミングで
雨が降りだした。

聖「ちょっ…落ち着けって!あせあせ(飛び散る汗)とりあえず
どっか屋根のあるトコに移ろうぜ!?
傘とか持ってねぇだろ!?
降りだして来ちまった…」

聖はそんな朱里の様子と
崩れ始めた天候に焦りだす。

朱「もう二度と誰も愛さないって思った!!
傷ついた…辛かった…胸が苦しかった…
いっぱいいっぱい苦しかった…。
心が堪らなく痛かった…!
守ろうとしたのに!!」

朱里はますます取り乱し、
泣き混じりの鼻にかかった声で
口角をヒクつかせながら喚き始めた。

聖「分かった、分かったからあせあせ(飛び散る汗)
落ち着けって!お天道さんも
頭冷やせって言ってんぜ!?
何があったってんだよ…!?
裏切られたって何!?」

小雨の中、朱里は自分の過去について
少しずつ語り始める。





















ひとしきり話が終わった頃には
ベンチに座って隣り合わせに二人、
ずぶ濡れになって居た。

シトシトと静かに降りしきる雨が
傷付いた繊細な心に滲みている。

聖「…ソイツの居場所…、
分からねぇんだよな?当然…」

朱「…うん…」

聖「…もし会えるものなら…
そんな下衆野郎、俺が代わりに
半殺しにして晒し上げてやんのによ…」

朱「…今更そんな事、
してくれなくてもいいよ…。
小笠原君に話をちゃんと
聞いて貰えただけでも十分…
嬉しかったから」

聖「…イイ女だなぁ、オメー…」

聖は目を合わせぬまま、ポツリと呟いた。

朱「…小笠原君にそう思って貰えたら…
嬉しいな…」

聖「…褒めてねぇよ」

朱「…え…?」

聖「…どうでもイイ女って意味で
言ったんだよ」

朱「…どうでもいい…か…」

聖「…おぅ、どうでもいい事ばかり
気にする女だ…」

朱「そんな言い方って無いよ…!
あたし…好きな人の事を
必死で知ろうとして
背丈に合わせようと勉強して、
努力してきたのに!!
好きな人の為に尽くす事がどうでもいい
だなんてあたし…思ってない!」

聖「そうやって媚びて、へつらって、
のめり込み過ぎるから
相手は付け上がるんだよ。
男はどいつもコイツも、スケベで、
卑怯で、傲慢な生きモンだぁ?
…ごもっともだ、分かってんじゃねぇか。
だからこそ、一方的に情熱を押し付ける事が
女の正しい恋愛の在り方だとは
おりゃあ思わねぇぜ」

朱「………。」
#.143

聖「好きならそんだけで
十分なんじゃねぇのか?
話ぃ聞いてる限り、俺に言わせりゃ
オメーは無理に背伸びし過ぎたせいで
足元すくわれちまったんだよ」

朱「…お説教ならもう沢山…。
自業自得だって事も分かってるし…、
自分のしてる事が子供じみた、
ただの八つ当たりだって自覚もある…」

聖「…で?結局、なんでそのハナシを
俺に聞かせよーと思ったんだ?
お陰で風邪ひいちまいそーだぜ…」

朱「…小笠原君に…本当のあたしを
知って欲しかったから…」

聖「………。」

朱「…貴方になら、ありのままの自分を
曝け出せると思えたから…」

聖(…だから素っぴんなんか…)

朱「…あたしの過去の全ての罪を、
貴方に許して欲しかった…。
受け入れて欲しいと思ったからだよ…」

聖「…何処にそんな筋合いがあんだ…?
おりゃあイエス・キリストじゃねぇ」

朱「…ううん、小笠原君は…
あたしの神様です…。
だって…もう二回もあたしを
体を張ってまで守ってくれたじゃない…」

聖「…ケッ、めでてぇ女だな。
全部俺が自己満足で
しゃしゃり出ただけのケンカ祭りだ。
おめぇを庇い立てしたつもりなんか
無かったぜ」

朱「…でも、そのお陰であたし…、
もう一度だけ…真剣に恋をしてみようって
思えたんです…」

聖「…そりゃ結構な事じゃねーか、
まぁガンバレや。応援はしねーけどな。
さ、帰って風呂ぉ入るわ。あばよ」

無愛想な態度で冷たく吐き捨て、
立ち上がり場を去ろうと聖は
朱里に背を向けて歩き出す。

朱「ま、待って…!」

(パチャッ…)

聖「………どけ」

(サァ―――――――…)

雨が打ち付ける中、
朱里は聖の真っ正面に回り込み、
下唇を噛み締めながら、
真っ直ぐにその瞳を見つめた。
尋常ではないその眼差しは、

まさに真剣そのものだった。



朱「………。」

聖「…まだなんか
言いたい事でもあんのか…」

朱「…アタ…アタ…あたし…、
小笠原君の事…」

聖「………。」

(カクカクカクカク…)

少女は下顎と声を震わせている。

朱「た、大切にします…。
絶対に幸せにします…!
何があっても裏切ったりしません…!
だから…!だからっ…!!」

その頬に伝う涙は雨に流され、
聖に気付かれる事は無かった。

聖(………ガチだなコイツ…)

朱「だから………奈倉さんと別れて…
あたしと付き合って下さいっ…!!」

聖「………。」

朱「ハァ……ハァ……ゴクッ。
(い、言っちゃった…)」

(トクン…トクン…トクン…トクン…)

聖「…ん、気持ちは伝わった。でもよ?
答えは分かってんだろ?よく言えたよな…」

朱「分かって…ます……。
でも…でも……好きなんです…!
好きになっちゃったの…!
こんな気持ちになるなんて…
自分でも思って無かった…!」

朱里は、遂に地べたに尻餅を付き、
両手で顔を覆い、やりきれなさに
愕然と泣き崩れた。

聖「…もしかして…だから
亜美の髪型を意識していっぺんに
切り落としちまったのかよ…?
ああいう髪型が俺の
好みなんだと思ってか…?」

(コクリ…)

朱里は、肩を震わせながら頷く。

聖「…そんなにかよ…」

朱「………。」

(コクリ…)

聖「…そこまでして…
そんなに焦がれる程、
思いつめてやがんのか…?」

朱「………。」

(コクリ…)

聖「…まぁいいから立てよ…。
幾ら既に全身びしょ濡れだからって
ケツが汚れちまうだろーが…ホレ(グイッ)」

聖は雨に濡れた地面に座り込む
朱里の手首を掴み、
立ち上がらせようとゆっくり引っ張った。

聖「!…おめ…なんだよコレ…!」

すると聖は朱里の手首に刻み込まれた
無数の傷痕に気付いた。

朱「…あたし…精神疾患なんです…」

聖「…自分でキッたってのか…!?
自分を殺しちまおうとしやがったんか!?」

朱「浅く刻み込んだだけだよ…。
それくらいじゃ死ぬ程の血なんて
流れないから…大丈夫。
もう、傷口も治ってるし…心配しないで」

聖「なんでそーゆー事すんだよ!?
馬鹿な真似してんじゃねぇよ!!」

朱「貴方にあたしの何が分かるの!?」

聖「!!」

朱「…貴方にこそ分かって欲しいとは
思ってるけど…」

聖「………。」

朱「自分の血が流れる所を見なきゃ…
生きてるって実感する事も…
アイデンティティーを再確認する事も
出来ない人だって居るんだよ…。
偏見はやめて…」

聖「だからって自分の体を
痛めつける様な奴ぁー俺は許せねぇな。
もしおめぇの事を大切に思ってくれる奴が
見たらどう思うとか考えた事あんのか!?」
#.144

朱「グスッ……ごめんなさい…。
でも、今はもうそんな事してないし、
昔の傷だから気にしないで…。
それより…答えはやっぱり、NOですか…?」

聖「…まぁ、別れるも何も…。
アイツにゃあ昨日、
フられちまったけどな…」

朱「…え……?」

聖「………。」

朱「だったら…だったらあたしが
奈倉さんの代わりにはなれませんか…!?」











聖「…それでもおめぇとは付き合えねぇ」

朱「やっぱり…嫌いだから…?」

聖「ちげぇーよ」

朱「………。」

聖「………。」

朱「じゃあ…どうして…?」

聖「おめぇには、俺じゃねぇだろ…」

朱「あたしは…小笠原君がいいと思ったから
言ってるんだよ!?」

聖「エロ本ともメールしてんだろ?
アイツなんかどーよ。
ろくでもねぇ野郎だけど、
悪い奴じゃねぇぜ?」

朱「嫌」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

エ「ハッ…ハッ…ハァァァックショォォンッ…ダッシュ(走り出す様)大魔王〜♪
フッ…また誰かポクの噂をしてる…
参ったな…ぴかぴか(新しい)」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

聖「おめぇにゃもっと器がデカくて、
寛大な野郎が必要なんじゃねぇのか…?」

朱「そんな事ないよ…?そんな事ない…。
あたしなら…小笠原君の
"ナンシー"になれると思ってる…」

聖「!」

朱「貴方の理想に近付ける様に…
精一杯頑張るから…!」

聖「…ナンシーって…あのナンシーか…?」

朱「そうだよ…?シドの恋人だった
"ナンシー"…色々と調べてる内に
分かったんだ…。
ジャンキーになって、恋人のナンシーを
殺した後に死んじゃったんだよね…?」

聖「………。」

朱「…あたしなら、ナンシーがシドを
愛した気持ちが理解出来る…。
だって、やっぱり似てるもの…小笠原君…。
あたし、小笠原君にならナンシーと同じ様に
殺されたって構わない…。
だからあたしは…貴方を支えたいの…。
側に居たいんだよ…」

聖「…亜美にゃフラれても…、
まだ俺ん中じゃ終わってねぇ…。
やっぱりおりゃー亜美じゃなきゃ
ダメなんだよ…」

朱「…辛いなら、きっとあたしが
奈倉さんの事を忘れさせてあげる…!
一緒に幸せになろ…?ね…?(ギュッ…)」

朱里は、聖をそっと優しく包み込む。

聖「…忘れられるワケがねぇ…」

朱「…小笠原君…言ったよね…?
"俺はアイツに命を懸けてる"って…。
だったらあたしも貴方に命、懸けます…!
愛し抜いて見せますっ…!
だからお願い…あたしの事を見てよぉ!!」

聖「…アイツ…俺に
"アタシなんかの何処がいいの?"って…
聞いて来やがんだ…。
ゲームしか能がねぇ、
根暗なオタクだからって事を
コンプレックスとしてな…。
でも俺がアイツに情を入れ込むのには、
理由が有ってよぉ…"借り"があるんだ…。
どうしても譲れねぇ"借り"がな…。
恐らく本人は、からっきし
覚えちゃいねぇだろうけど…」

朱「…うん…」

聖「俺は…いつかその"借り"を
アイツが思い出して、
自分で気が付いて催促されんのを、
ずっと待ってた…。例え一生掛かってもな。
ソイツは、おめぇがあくまで
俺に固執するのと同じように、
俺がアイツを愛し抜こうと腹ぁくくった
立派な"きっかけ"だ。
だからおりゃあ…どうしてもアイツだきゃー
裏切るワケにゃいかねぇんだ…」

朱「…"どうしても裏切るワケには
いかない"か…。マジ羨ましい………」

聖「………。」

朱「ヒッ……ヒッ……ウグッ……ヒクッ…」

雨が止んだ。しかし、今度は
"哀しみの雨"が本格的に降り始めた。

(ポタッ…ポタッポタッ…ポタッ…ポタッ…)

朱「ひっぐ…アタ…あたしも…
奈倉さんより早くに…ひっぐ…
ウクッ…小笠原君の言う"きっかけ"を
掴みたかった…!ヒッ……ヒッ…」

聖「…わりぃ…」

朱「ウグッ…ウグッ…!もっと早く…
もっと早く小笠原君と
出逢いたかったよぉぉぉぉぉっ!!」

朱里は聖の懐に顔を埋め、
胸をひたすら泣き濡らした。



聖「…西荻よぉ…頼む…、
分かってくれや…あせあせ(飛び散る汗)」

朱「スンッ…スンッ…最後に聞いていい…?」

聖「…なん?」

朱「…もし…あたしが、
奈倉さんよりも早くに小笠原君と出会って…
その"借り"をあたしが作ってたら…
あたしの事を…真剣に
愛してくれましたか…?」

聖「…おー…間違ぇねぇー。
ぞっこんイカれてたろうぜ…?」

朱「グスッ…グスッ…ハァ…分かりました…。
諦めます…。じゃあせめて…一つだけ、
ワガママ聞いて下さい…」
#.145

11:00 PM

聖「あ?ワガママだ…?」

(チラッ)

朱里は広場の時計台にチラリと目をやり、
時間を確認した。

朱「はい…今、23:00です…。
帰りのタクシー代は負担しますから…
あと一時間、日付が変わるまで…
このまま側に居て欲しいんです…」

聖「要らねぇ…テメーの女以外にゃ
借りは作らねぇ主義だからよ。
つか、なんでよ?」

朱「…午前零時の魔法が解ける迄は…
貴方の前でcendrillonで居たいんです…」

聖「…は?ワケワカメ…」

朱「アハッ…説明なんてしなくても、
時間が来れば分かりますよ…。
それまでは、何か思い出に残る様な
楽しい話を聞かせて下さい…。
取り敢えず、座り直しませんか…?」

悲しい作り笑顔で微笑む朱里に
再度ベンチへと促されるまま、
聖は渋々と隣同士腰をかけた。

朱里の髪からは露が伝い、
雨上がりの街灯の光が反射して
黒々と輝いていた。
そこからはほのかに、
リンスの匂いが薫り立つ。

聖「楽しい話だぁ…?そんなモン知るかよ…」

朱「なんで…?小笠原君の好きな話。
何かありませんか…?あ、
奈倉さんのノロケ話以外でお願いします…。
今のあたしには酷ですから…」

聖「んな事言ったってよぉ…」

朱「じゃあ…バンドの話、聞かせて下さい。
無礼奴の事とか、ベースの事とか…」

聖「…出来ねぇ」

朱「…なんで…?」

聖「…おめぇにとっての
"亜美のノロケ話"と同じだ。
今の俺にゃあ酷過ぎる…」

朱「…なんかあったんですか…?」

聖「…まーな」

朱「…なら…ホントに何も
話す事が無いなら…手を繋いでて下さい…」

聖「っ!なんでそーなるんだよ!?むかっ(怒り)」

朱「だって…最後くらい
いいじゃないですか…あせあせ(飛び散る汗)
このままあと一時間も何も話さないまま
じっとしてるのも気まずくて…」

聖「…チッ…勝手にしやがれ…」

朱「わぁい揺れるハート(ギュッ…)」

朱里は嬉しそうに、それでいて慎ましく、
聖の手先を軽く握った。

朱「…エヘ…♪
小笠原君の手…暖かいです…」

聖「…そーかよ///」

朱「…照れてる…揺れるハート」

聖「照れてねぇーよ!!
生ウタってやがったら
けぇんぞおりゃーっむかっ(怒り)」

聖は手を振りほどこうとした。

朱「ヤダごめんなさい帰らないでっあせあせ(飛び散る汗)」

聖「(//皿//)ったくよー…」

朱「…クスッ…。Take a rest…
at my chest a little if ♪
tired from being in love…♪」

聖「…?」

朱里は唐突に、鼻歌混じりのバラードを
静かに口ずさみ始めた。

朱「…Because though it's not a bad…♪
thing to indulge in sorrow…♪」

聖「………。」

聖はただ黙ったまま、前を向き、
偉そうにふんぞり返りながら
そのメロディーに耳を傾けて居た。

朱「…I do it on the day when a wound
is healed immediately again…♪」

聖「…何よ、その歌…」

朱「ん…?あたしの好きな歌ですよ?
open your mind…♪
for the eyes of my angel who slept…♪」

聖「………優しい歌だな」

朱「………はい」

















朱里が奏でる旋律に演出されながら
悠久の時を刻むかの様に二人、
いつまでも会話らしい会話すら
交わさぬまま、やがて時刻は零時となり、
広場の時計台の短針は
12の数字を指し示した。

(リンゴーン…リンゴーン…リンゴーン…)

たちまち時計台の鐘が鳴り響く。

朱「…時間ですね」

聖「…おー…」

朱「…ガラスの靴なんてないけれど…
あたし、貴方の前では
cendrillonのつもりで居られました…。
その魔法も、たった今、
解けちゃいましたけど…」

聖「…おめぇの言うcendrillonって何よ…
バンドの話か…?」

朱「ううん…cendrillonていうのは、
フランス語で"シンデレラ"っていう
意味なんです…。
とても幸せな一時でした、
夢を見せてくれてありがとうございます…」

聖「………。」

朱「…I'm cendrillon…
Please before a bell of zero o'clock…」

聖「!」

(グイッ)

(チュッ)

一瞬、聖は何が起きたのか
理解出来なかった。
朱里は聖の瞬きの合間に唇を奪い、
素早く左手に"何か"を握らせて

(タッタッタッタッタッタッ…)

走り去って行った。

聖は呆気に取られながら
刹那の口付けの余韻に浸り、
ふと左手を開いて見てみると、
そこにはタクシー代と思われる
五千円札があった。

聖「…バカヤロウ…」
#.146

駅前で拾ったタクシーの中で、
聖は思いに耽っていた。

聖(…西荻が望んだ通り…もし亜美よりも
早くにアイツと出逢ってたとすりゃあ、
俺とアイツの運命は
どう変わってたんだろーな…)

(カチッ)

料金のメーターがまたくり上がる。

聖「…おぅ、そこの路地を
右に曲がってくれ。
(…んなとりとめのねぇ事
考えたってしゃあねぇ…。
それにしても…
すっかり濡れちまったなぁ…。
亜美にフラれて、雨にまで降られるたぁ…
ツイてねぇぜ…ったく。
…ん、待てよ…?こんだけ濡れちまって…
ケータイ大丈夫か!?)」

その事に気が付いた聖は、
慌ててポケットをまさぐる。

(ゴソゴソ…ゴソゴソ…)

聖「(うぉ…ねぇっ!ねぇぞオイ…!?
何処やった!?もしかすっと…
さっきのベンチに
置き忘れて来ちまったんか…!?)
おっ…おいオッサン!
ちょ…さっきの所まd…」

運「はい…?」

ドライバーのおじさんは呑気に
ルームミラー越しに聖を見た。

聖「(いや待て…アイツと会ってからおりゃあ
いっけぇもケータイなんか触ってねぇ…。
…そもそもハナっからケータイを
持って来てたんか…?
部屋に置きっ放しで来ちまったんじゃね?)
あ、いや…わりぃ…あせあせ(飛び散る汗)何でもねー…
あ、そこの角を曲がった所でいいぜ」

ドライバーは聖の濡れた不恰好と
横柄な態度に嫌そうな顔をしながら
自宅前にタクシーを止め、
料金を受け取った。

運「…はいどーも。あんがとさん」

聖「サンキュー」

タクシーから降りた聖は、
ケータイの有無を確認する為に
急いで部屋に駆け戻った。

(カチャッ)

部屋の中に入ると、テーブルの上の
灰皿の隣にディスプレイが開きっ放しの
ケータイが放置されていた。

聖(ホッ…ダッシュ(走り出す様)なんでぇ…やっぱ忘れてたんか…
マヌケな取り越し苦労だったぜ…ん?)

見るとメールを一件、受信している様だ。

(カチカチッ…カチッ)


Date; 2011/10/19 0:17
From; angel_slept_eyes@softpunk.ne.jp
Title; さっきは本当にありがとう

実はさっき、ケータイを自分の部屋に
置き忘れたまま待ち合わせ場所に
行っちゃってたあせあせ(飛び散る汗)
あたし、雨が降るなんて思って無かったから
ヤバかったぁ(゚Д゚;ノ)ノ彡

ちゃんと合流出来て良かったね…ほっとした顔ダッシュ(走り出す様)

小笠原君のケータイは、大丈夫ですか?
もし壊れちゃってたらあたしのせいだし、
心配だからあと一度だけ
メール下さいm(__)m

- END -

聖(…おめぇもかよ…たらーっ(汗))

To; angel_slept_eyes@softpunk.ne.jp
Title; Re; さっきは本当にありがとう

おー、俺も同じ様に部屋に忘れたまま
出ちまってたからセーフだぜ。

タクシー代、明日学校で返すからよ。

- END -

(送信しました)



(ブーッ…ブーッ…ブーッ…)

(カチカチッ…カチッ)

Date; 2011/10/19 0:40
From; angel_slept_eyes@softpunk.ne.jp
Title; 安心しましたあせあせ

ううん、要らないよ?
最後の最後までワガママに付き合ってくれた
小笠原君の優しさに対する、
せめてもの償いの気持ちだから…バッド(下向き矢印)

それに、また学校で顔を合わせたりすると
未練がぶり返しそうで怖いので、
教室へは来ないで下さい…涙

貴方と色々なお話が出来たこの十日間。
本当に幸せでした。
沢山迷惑をかけてしまったよね…。
本当にごめんなさい…。
これが、あたしから送らせて貰う
最後のメールです。

サヨナラ…。









hjrictl

- END -
#.147

聖(ん…?なんだこりゃ…?hjrictl…)

聖は、朱里に送られたその最末尾の
謎の文字列に違和感を覚えた。

To; angel_slept_eyes@softpunk.ne.jp
Title; おい、ちょっと待て

ご挨拶は結構だけどよ、最後の
よく解らねぇアルファベットはなんだ?

- END -

(送信しました)



(チッ……チッ……チッ……チッ…)

聖(…返事、来ねーな…)

暫くしても、質問に対する
返答が返らないまま、
時間はただ過ぎていく。

そんな中、聖は謎の七文字を見つめながら、
得体の知れない胸騒ぎを覚えていた。

聖(…hjrictl……hjrictl…。
どういう意味だ…?
なんかのキーワードか…?
気になるじゃねぇかよ…。ラストで
謎かけなんか仕掛けて来やがって…、
どういうつもりだよ…)

悶々と頭を抱える聖は、受信した文面の中に
何か解読のヒントになる一節が無いか、
じっくりと読み返した。

― "最後の最後"までワガママに ―
― 付き合ってくれた小笠原君の ―
― 優しさに対するせめてもの ―
― 償いの気持ちだから… ―

― これが、あたしから送らせて貰う ―
― "最後"のメールです。サヨナラ…。 ―



そして、数時間前に交わした
朱里との会話の中で、
少し気になる一言があった事を思い出す。



― っ!なんでそーなるんだよ!? ―

― だって…"最後"くらい ―
― いいじゃないですか… ―

(ドクンッ…!)

― あたし、貴方の前では ―
― cendrillonのつもりで居られました ―
― その魔法も、たった今 ―
― 解けちゃいましたけど… ―

(ドクンッ…!)

その一言の"言葉の裏"を勘繰った聖は、
更に朱里の手首に残ったおびただしい
傷痕の様を鮮明に思い返す。
途端に聖の脳内でアドレナリンが
急速に分泌され始めた。

(ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…)

聖(…心が荒んだ奴だったからな…。
まさか…結局俺にフられちまった事を
気に病んで、あん時の陸奥みてぇに…
自殺しようなんて考えてんじゃ
ねぇだろーな…?
このアルファベットはアイツが
何処で死のうとしてるかを指し示す
暗号みてぇなモンで…
俺に止めに来て欲しくて
SOSを発してるってんじゃ…!?
おいおい勘弁してくれよマジで…!!)

朱里の意味深げな言葉の一つ一つが
自殺をほのめかしているように思えた聖は、
着信履歴から朱里の物と思わしき
番号を探しだし、嫌な予感を胸に孕ませ、
直ぐ様電話をかけた。

(トゥルルルル…トゥルルルル…トゥルルルル…)

聖(出ろ…!頼むから出てくれや…!!)

(トゥルルルル…トゥルルルル…トゥルルルル…)



朱「(ピッ)…はい、もしもし…?」

聖「もしもしじゃねーよ!」

朱「…え…?」

聖「今のメールのケツに書いてた
アルファベットは何なんだよ!?
おめーまさか…死のうとしてんじゃ
ねーだろうな!?」

朱「…アハッ、心配して
かけて来てくれたんだ…。
やっぱ小笠原君て優しいですね…」

聖「止めてくれよマジでっあせあせ(飛び散る汗)なっ!?」

朱「…大丈夫…。そんな事しません。
ありがと…」

聖「(ホッ…ダッシュ(走り出す様))おー…頼むぜホント…。
で、結局はなんだよ。アレ。
なんか意味あんのか?」

朱「…はい…」

聖「教えてくれよ。気になるじゃねーか」

朱「…自分で考えて下さい」

聖「………。」

朱「………。」

聖「なんか、ヒントとかねーのか…?」

朱「…小笠原君の愛を見つけて下さい」

聖「愛…?どーいうイミ?それ…」

(プツッ…ツー、ツー)

聖「お…おいっ!?」

電話は切られた。

聖「………なんだよ…」

それから聖は、改めて
朱里のメールを読み返し、
暗号のスペルを確認した。



― hjrictl ―



聖(…俺の愛を見つけるって
どういうこった…?)

(チッ……チッ……チッ……チッ…)


聖(………分からねぇ)
#.148

(ザァ―――――…)

亜(雨が…降ってる…)

亜美は起き上がり、
どしゃ降りの雨音に誘われて、
窓辺に移った。
カーテンを開き、二階の部屋の窓から
外の様子をアンニュイな眼差しで覗き込む。

亜(…凄い大雨だな…)

水滴が伝う窓を指でなぞりながら、
ふと、何気なく家から出た最寄りの
マンホールを見下ろした。

(…ゴゴッ)

亜(…!)

突然、マンホールの蓋が微かに
   動いた。

(ゴゴッ…ゴゴゴゴゴッ…)

亜(…な…何…!?)


(…ゴトリ)


ゆっくりと押し開かれたその蓋が
やがて動きを止めると、
そこから世にも不気味な異形の物が
ズルリ、ズルリと音を立て、
這い上がって来た。

どす黒く腐乱した子供の死体の様な
その"物"は、フラフラと立ち上がり


亜美の方へ顔を向けた。

「…みぃ〜つけた…!」

(ビクッ)

亜(ヒッ…!?)

目が合った"ソイツ"はニタリと笑った。
赤黒く汚れたボーダーの布切れを纏い、
今度は玄関の入り口の方へと視線を向ける。

「ギヒヒヒ…あみ…いまいくよ…?
すぐいくよ…?まっててね…?
ひじりをコロしてあげるから…!
クヒヒヒヒヒヒヒ…」

亜「黒…なの…!?嫌…!!来ないで…!!
あたしは聖じゃない…!!」

すると、"ソイツ"は唐突に素早い動きで
玄関扉のドアノブに飛び付いた。

亜(えっ…!?玄関の鍵…
ちゃんと締めたよね!?アタシ…)

(ガチャガチャガチャガチャッ!!
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャッ!!!!)

「ウヒウヒウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ…!!
あとちょっとだよあみ…!
もうちょっとであえるよあみっ!!
あみっ!あみっ!!あみっ!!!」

(ガチャガチャガチャガチャッ!!
ガチャガチャガチャガチャッ!!)

亜「嫌っ…!嫌ぁぁっ…!!来ないでっ…!!
誰かタスケテッ…!!」

亜美はあまりの恐怖に腰を抜かし、
部屋の隅っこに踞った。

(バキィッ)

下の階から何かが壊された音が響き渡る。

「ア゙ミ゙ィ゙ィ゙ィ゙ッ!!
ア゙ミ゙ィ゙ィ゙ィ゙ッ!!
ずぐい゙ぐがら゙ね゙ぇ゙ぇぇぇっ!?
ま゙っででね゙ぇ゙ぇぇっ!!??」

(ミシッ…ミシッ…ミシッ…ミシッ…)

亜(来るっ…!階段を上がって来てるっ!!)

ただならぬ気配が凄まじい勢いで
せり上がってくるのを感じた亜美は、
その危機感から咄嗟に、
クローゼットの中へと身を隠す。

(カチャリ)

"ソイツ"は部屋の扉を開け、
遂に中まで侵入して来た様だ。

「あ゙れ゙ぇ?あ゙れ゙ぇ〜…!?ア゙ミ゙?
どごべイ゙ッぢゃっダの゙ォ?
ビジリ゙ががぐじじゃっだの゙がな゙ぁ〜!?
ウヒッ…ウヒヒヒヒッ…」

(ガクガクガクガクガクガク…)

(バクンッバクンッバクンッバクンッバクンッ)

亜(怖いっ…!怖いよぉぉっ…!
殺される…!)

亜美は自分の心臓の音さえも、
相手に聴こえている様な気がしていた。

「ぐんぐん…ぐんぐんぐん…
ん゙はぁ〜っ…!
ア゙ミ゙の゙に゙お゙い゙がずる゙ぅ〜っ!
ア゙ミ゙の゙ジャンブーの゙に゙お゙い゙だぁ〜」

その声は、クローゼットの戸を隔てて
亜美の方へと向けられていた。

亜(死にたくない…!死にたくない…!)

「ごごがな゙ぁ〜?」

(キィ〜〜〜ッ…)

亜「あ…あ…っ!」

「…み゛づ げ だ ハートビ ジ リ゛」

亜「ち…違っ…許し…許してぇぇぇぇ!!!!」

(カツッ…)

「ん゙?」

その時、"ソイツ"の背後にある部屋の窓に
何か固いものがぶつけられたような
乾いた音がし、"ソイツ"は
そちらへ振り向いた。

「あみーっ!たすけにきたよぉーっ!?
いまワルいヤツから
まもってあげるからねーっ!?」

その声が家の外から聞こえると"ソイツ"は
何故か動きを止め、外の声の主が
階段を駆け上がってくる音が
遠くエコーとなって響き渡る。























(ザァ―――――…)

亜「…はっ…!?」

(バクン…バクン…バクン…バクン…)

亜(ま…また怖い夢…見ちゃった…)


(ザァ―――――…)
#.149

2011年10月19日 2:00 AM

二度目の悪夢から汗だくで
目を覚ました亜美は、上体を起こし、
実際に雨が降りしきる窓の外へと
目をやった。

(ギュッ…)

脇に寝かせておいたラリックマを抱き、
ベッドから降りると、カーテンを開け、
今夢で見た事を現実で再現するかの様に、
雨粒に打ち付けられるがままの
マンホールを見下ろす。

亜(………。)

(ザァ―――――…)



亜(…正夢になんて…なるワケないか…。
ホンット怖かった…)



(ザァ―――――…)



亜(…目が覚める直前…黒みたいな
男の子の声がした気がする…。
夢の中では、ホントにアタシを守る為に
助けに来てくれたんだね…)



(ザァ―――――…)



亜(…じゃあ…あの気持ち悪い姿の
"アイツ"は…一体何だったんだろう…?
ズタボロの血塗れで…黒ずんでいて、
原型を留めて無かったけど…
"アイツ"もボーダーの囚人服を着てた…。
まるで、敵にボロボロにされてしまった
直後の黒みたいに…)



(ザァ―――――…)



亜(…やっぱり…黒はまだ…
生きてるのかな…)

(スゥ―ッ…)

そう考えた亜美は、デスクの椅子に着き、
手前の引き出しをそっと静かに、開けた。

そして、また『ヨコシマの黒』を手に取り、
それをじっと見つめる。

亜(…黒…ごめんね…?
本当に、ごめんなさい…。
あなたはきっと、こんな最低なお姫様を…
心の底から憎んでるよね…?
その想いが…アタシにあんな怖い夢を
見せているというの…?)

(カサッ…)

亜(…これ…あの時の手紙だ…)

亜美がまたカートリッジをしまい込もうと
引き出しを開けると、
今まで気にも留めなかった
"ある物"に気が付いた。

それは一年前の"アミクエ事件"の際、
亜美を誘拐した張本人である犯人、
陸奥 武流が亜美に遺した手紙だった。
その奇妙な誘拐劇が繰り広げられた
約一週間という期間を通して、
陸奥との信頼関係を築く事となった亜美は、
本人が存在した証として、又、
大切な形見として、現在に至るまで
引き出しの中に保管していたのだった。

亜美はつい懐かしくなり、
陸奥の面影を求め、リボンで丁寧に
封をされたその手紙を広げては
一年以上ぶりに文面に目を通し始めた。



――――――――――――――――――――

勇敢なる英雄 奈倉 亜美 様

ゲーム完遂、おめでとう。
そして本当に、よく頑張ったね。偉いね。
君がこの文書を見つけ、
読んでくれているという事は、
僕のお祝いのプレゼントを
目の当たりにしてくれている、
という事なのかな?

どーかな…僕の贈り物は。
気に入って頂けただろうか。
それとも、嘆いてくれてたりなんて…
するんだろーか。
なんせ君は、この上無い
『泣き虫毛虫ちゃん』だからね。
君がここへ拐われて来た日から、
きっとこれを読んでくれている今も、
僕は君の事、泣かせてばっかりだったね。
ポカリスエットの1.5L…
二本ぽっちじゃ全然足んなかったね(笑)
水分消費パネェェェェ!!
もっと沢山、買っといてあげれば良かった。
か弱い女の子イジメて泣かしてばっかの、
サイテー男です。ぼかぁ。

君の事だからきっと、
僕を見て罪の償いから逃げた、
大ウソツキのイカサマ野郎だなんて
詰って居るんでしょう。
僕の部下であり、初の生還者でもある、
裕美のゲームクリア時のエピソード、
覚えているかなぁ。
僕は、その時までは彼女の主張通り。
ただ、ゲームを作った側の主観しか知らない
人の痛みや苦しみを考える事の出来ない、
愚かな人間でした。
#.150

自らが命を懸け、二人目の
生還者となる事で、とても大切な事を
学んだつもりで居たんです。
人の神経が、こんなにも精密で
生々しいものだった…。
生きている、この瞬間。
この世に『自分』が存在しているという
重みを痛感させられた…。
死んでしまう。それがどれ程恐ろしくて、
辛く哀しい事なのかを肌で感じた…。
生きる為に、恐れて何もしない事は
死んでいる事と同じだと感じた…。
…そんな想いを、学びました。
命の尊さを、学びました。

亜美ちゃんは、もう
気付いてるかもしんない。
もっと早くに、気付いてたかもしんない。
コインの事。
そう、アミクエは、ディーラーに
命を託すRPGなんだ。

だから、運命をその手に委ねる上で、
信頼関係が成立しなければ、
ゲームクリアはまずあり得ない。
成り行きの舵を取り、プレイヤーの生命力を
コントロールする重要な役割だから。

だから、ね。亜美ちゃん?
君は、僕が正直で、誠実で、
勇敢だと言ってくれたね…。
あの時、この胸は張り裂けそうなくらい、
嬉しかったよ。
だけど、アミクエを作った張本人として。
君の命を預かるディーラーとして。
君にはどうしてもプレイして欲しかった…。
だから君の信頼を勝ち得る為に、
何を犠牲にしてでも正直になり、
全てを曝け出しただけなんだよ…。
本当の僕は、こんなにも身勝手で
嘘つきなどうしようも無い男だ。

僕を信じ、命を懸けてゲームに
付き合ってくれた君の為に、
用意してあげられる結末は。
同じ命を代償に祝いのメッセージとして
捧げるくらいしか方法が
思い浮かびませんでした。
こんな不器用な男をどうか許して欲しい…。
そして本当に、巻き込んでしまって、
ごめんね…?

小笠原 聖君とも、仲良くね。
彼は立派な、君のナイト様でした。
ありがとう、さようなら。

2010.7.24 16:05
陸奥 武流

――――――――――――――――――――

亜(…黒も、人として
精密な神経を持っていた…。
自分が存在している重みを、
痛感してただろう…。
アタシの為に戦いを挑む事で、
たった一つの尊い命を失ってしまう事は、
この上無く恐ろしかったと思う…。
だけど…リアルな"痛み"と向き合う事で
自分自身の存在を確かめ、
陸奥さんや、"あの時のアタシ"みたいに
何もしなければ死んでいる事と同じ
だなんて考えに至ったんだよね…?)

(ザァ―――――…)

亜(…アミクエは、
ディーラーに命を託すRPG…。
陸奥さんがアタシの命を握っていた様に、
一度はアタシも黒の命を握った…。
黒は…必死でアタシとの信頼関係を築こうと
努力していた…。
今は…アタシがディーラーなんだ…)

(ザァ―――――…)

亜(…そう言えば、あの時の聖も
アタシの為に命懸けで、
体を張って守ろうとしてくれたよね…。
自らが盾となって…
庇ってくれたんだよね…)

(ザァ―――――…)

亜(…そんなに、好きだったのか…)

延々と考えを巡らせる亜美は、
聖と付き合い始めた馴れ初めの一つ一つを、
走馬灯の様に鮮明に思い出し始めた。
#.151

2010年8月下旬

去年の夏休みが半分以上過ぎて、
あの事件のほとぼりがさめてきた頃、
残暑が厳しくて家の中で
うなだれてたある日、聖から
メールが届いたんだっけ…。


(ミ゙ーンミ゙ンミ゙ンミ゙ンミ゙ンミ゙ンミ゙ンミ゙ー…)



亜(暑いな〜もぅ…。
かれこれクーラーつけっぱなしだよ…)

(ブーッ…ブーッ…ブーッ…)

亜(あ、メール…)

(カチカチッ…カチッ)

Date; 2010/08/20 14:05
From; 小笠原君
Title; よぉ、久しぶり。

あれから、調子はどうだ?
気持ちは少しは落ち着いたかよ?

あのよー、もし良けりゃ、
今日学校の近くの神社で
祭りがあんだけどよー、
なんなら一緒に行かねーか?

小笠原 聖

- END -

亜(…小笠原君…。どうしよう…
今月お小遣いピンチだけど…、
夏休みらしい事あんまりしてなかったし、
気分転換に丁度いいかな…)

To; 小笠原君
Title; Re;よぉ、久しぶり。

うん、久しぶりだね。もうあれから
1ヶ月経つんだね!早いなぁ…あせあせ(飛び散る汗)

警察の方は落ち着いたし、
気持ちもすっかり元の日常に戻ったから、
大丈夫だよ。

お祭り、いいね!行こっかぴかぴか(新しい)
何時頃に行けばいい?

- END -

(送信しました)



その晩、約1ヶ月ぶりに
顔合わせしたんだ…アタシ達…。
学校がある間は毎日教室で会ってただけに、
あの時はなんだか新鮮だったなぁ…。


(ザワザワ…ザワザワ…)

聖「おぉ、奈倉!こっちこっち!」

亜「あ、居た。ごめんねっあせあせ(飛び散る汗)
遅くなって…。探してた…」

聖「おぅ、いーぜ。元気だったかよ?
夏バテしてねーか?」

亜「夏バテ真っ盛りだよ…あせあせ(飛び散る汗)だから、
今日誘って貰えて丁度良かったかも。
小笠原君は?」

聖「おりゃー夏男だからな。
そんなモンしてる場合じゃねぇや。
杉山達と海行ったり山行ったり
大忙しだったぜ」

亜「…ふぅん。どうりで真っ黒に
日焼けしちゃってるワケだ…。
凄いアクティブだね…。
夏休みの宿題は?ちゃんとやったの?」

聖「バカヤロおめー…んなモン最終日に
杉山らとチームプレーで瞬殺よ!」

亜「何が瞬殺よ…たらーっ(汗)
ソレって反則じゃないむかっ(怒り)」

聖「ウゼーよ。それよか、
浴衣は着て来なかったんけ?」

亜「浴衣なんて持って無いもん。アタシ」

聖「マジか?んだよソレ…、勿体ねぇ…
おめぇだったらぜってぇ似合うのによ」

亜「似合わないよ…アタシなんか」

聖「似合うって!」

亜「似合いません」

聖「あー、そーかよわーったわーった!
じゃ、行くか」

亜「あ、うん…それにしても
凄い人混みだね…」

聖「…(ボソッ)
はぐれそうで不安なら、手ぇ…」

亜「…え…何て…?」

聖「………いや、その…あせあせ(飛び散る汗)
はぐれそうになったらちゃんと呼べよ?
待っててやるから」

亜「うん、分かった」


あの時の聖…手を繋ぎたかったのかな…。

その後、二人して雑踏に紛れ込んでは
屋台を巡って、金魚すくいしたり…
射的をしたりして遊んだよね…。
ふと、アタシがリンゴ飴に目が留まった時、
聖ってば…


聖「…ん?リンゴ飴、食いてぇのか?」

亜「え…?うん、買おっかな」

聖「よっしゃ、奢ってやんよ」

亜「ちょっ…あせあせ(飛び散る汗)いいよ!自分で買うから!」

聖「気にすんなって!よぉ、おっさん!
その一番デケェ奴くれ!」

オッサン「はいよ毎度あり、500円ね〜」

亜「もぅっ!
そんなおっきいの食べきれないよっあせあせ(飛び散る汗)
ちっちゃいヤツ買おうと思ってたのにむかっ(怒り)」

聖「別にいいじゃんよ?
残ったら食ってやらぁ。そらよ」

亜「…ありがと…」

あの時の強引さにはちょっと…
引いちゃったな…。
気持ちは嬉しかったんだけどね。
ひとしきり境内を一巡した頃、
前を歩いてた聖が見つけたのは…


聖「…おっ?花火じゃん」

花火屋さんの屋台だった。

亜「ホントだ…火薬の匂いがする…」

聖「おめぇこの夏、花火とかやった?」

亜「ううん…やってない…」

聖「じゃあ、やらねーか!?」

亜「え、何処で?」

聖「その辺で」

亜「えぇ!?バケツとか火は!?」

聖「何もバケツが居る程
たらふく買おうってワケじゃなくてよ、
線香花火だけでもいいじゃん!
風流だぜ〜っ?火種なら
ライター持ってっからよ!」

亜「なんでライターなんか持ってんの!?
もしかして…!」

聖「………。」
#.152

亜「小笠原君…煙草吸ってるの…!?」

聖「…おー… 」

亜「ダメじゃん!」

聖「…かてぇ事言うなよ…
大したことねぇべ?」

亜「大したことあるでしょお!?
ルールは守らなきゃ!」

聖「っせーなわーったよ!
おめぇが嫌なら止める」

亜「…ホントに?」

聖「…おー。だから、やろーぜ?
花火…しっかり後始末すりゃいーんだろ?」

亜「…うん」

聖「…よぉ、おばちゃん。
線香花火一袋くれや」

オバハン「しゃっしゃっしゃ〜。
150円になりやっしゃ」

聖「サンキュー」



線香花火を買ったアタシ達は、
人気の無い所を探してる内に、
なんとなく自然と神社のやしろの
裏側に入って行った。

袋を開封して、線香花火を取り出すと、
二人で一本ずつ持って、
一緒に火を点けた…。

(ジジ………ジジジ…)

人々のざわめきを遠く聞きながら、
アタシ達はしゃがみ込んで、
パチパチと小さな火花を撒き散らす
先端に見とれてた…。



亜「…綺麗だね…」

聖「…だなー…」

(ジジジジジジ…ポトッ)

亜「あ〜…小笠原君の、
先に落っこちちゃったね…」

聖「…へっ、一回戦はおめぇの勝ちだな」

亜「アハハッ…やったぁ…」

聖「………。」

そのうち二回戦になって、
もう一度花火に火を点け、
二人とも夢中になって
ソレを見つめていると、聖は唐突に
ポツリと呟いたな…。

聖「…おめぇが生きてて…
ホント良かったぜ…」

亜「…ん…?うん…ホントソレ…」

聖「…怖かったろ…?」

亜「…最初はね。
本気で殺されるかと思った…」

聖「………。」

亜「…でも、まさか陸奥さんが
ああいう人だとは思わなかったから…
話せば話す程、安心した…」

聖「…何考えてんのか
サッパリだったけどな…」

亜「…それは今もわかんないよ…。
きっと、一生理解出来ず終いだと思う…。
だから、もうあの人の話は禁止。
済んだ事だよ…」

聖「…そーだな…」

(ジジジジ…ジジジ…ポトッ)

亜「あっ…今度はアタシが負けちゃった…。
もう一本頂戴」

聖「………。」

亜「…小笠原君…?」

聖「…俺ん中では、
まだ終わってねぇ事もあんだけどよ…」

亜「…え…?」

聖「…あん時おりゃあ、おめぇへの気持ちを
聞かれるがまま吐き出した」


― アタシの事…どう思ってるの…? ―

― …好きだ… ―

― ハッキリ言ってよ聞こえなぁーい!! ―

― …好きだぁぁぁぁぁっ!!!!!! ―


亜「…うん…」

聖「…結局、ソレッきりかよ…」

亜「………。」

聖「…返事、聞かしてくんねぇのか…?
俺、ずっと待ってんだぜ…?」

亜「…アタシなんかで、いいの…?」

聖「…そうでなきゃ、
そうそうあんな無茶できっかよ…」

亜「…分かった…」

聖「あ…?付き合ってくれんのか…!?」

亜「………うん」

聖「…っ…っ!…ガチで嬉しいわ…!」

亜「…バカ」


あの瞬間から、アタシ達は本格的に
付き合い始めたんだっけ…。
長続きする気は全くしなかったけど…。

それからというもの…、毎日毎日、
聖からのお熱いメールが
一気に届く様になった…。
あんなにはしゃいで…、
よっぽど嬉しかったのか…。



(ブーッ…ブーッ…ブーッ…)

亜(…また小笠原君からだ…。
も〜…今度は何…?)

(カチカチッ…カチッ)

Date; 2010/08/31 22:30
From; 小笠原君
Title; いよいよだなーうれしい顔

明日から二学期だぜexclamation & question
また毎日おめぇのツラを拝めると思うと
嬉しくてよぉーぴかぴか(新しい)
楽しみだなぁexclamation & questionおいーっグッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)グッド(上向き矢印)

- END -

亜(…あんまり周りにバレる程
露骨に騒がないでよね?恥ずかしい…)

To; 小笠原君
Title; Re;いよいよだなーうれしい顔

それはいいとして、結局宿題は
ちゃんとやったのexclamation & questionちっ(怒った顔)

- END -



で、アタシが痛い所を突くメールを
送った途端にピタリと返信が
来なくなるのよね…たらーっ(汗)
呆れた神経の持ち主だこと…。
#.153

2010年9月1日

始業式を終えたその日は
下校時刻が早くって、
まだ夏休み気分の抜けない聖が
帰りかけのアタシに声をかけて来た。



聖「奈倉、一緒に帰らねぇか?オィ」

亜「…え?」

千「えっ…!?」

恵Σ( ゚Д゚)

亜「あ、いや…アタシ千夏達と(ry」

恵「(*-ω-)/イヤイヤイヤイヤ…いーって。
いーって事よアミーゴ三等兵!
私らの事は気にしなくていーカラ!
アンタらは水入らずで仲良く帰りなさいよ。
ねっ?千夏」

千「そうだね。邪魔しちゃ悪いわね。
じゃ、帰ろっか」

亜「ちょっと…待っ」

恵「(*゚∀゚人)嬉し恥ずかしお持ち帰り〜揺れるハート」

聖「おぅ、わりぃな」

千「全然平気〜!亜美、頑張んな!」

亜「もぉ〜〜〜っあせあせ(飛び散る汗)」



空気を読んで気を利かしてくれた
つもりなのかしんないけど…
あの時に二人共、アタシ達の関係に
勘づいてたのかな…。恥ずかしかった…。
その後、聖と一緒に自転車で帰ってた途中…



聖「あ…あ、あのよぉ奈倉…」

亜「なぁに?」

聖「お…俺んち…俺んち…」

亜「………?」

聖「そ、その…ちょっとだけ…
俺…んち…あせあせ(飛び散る汗)」

亜「…なんなの?ハッキリ言ってよたらーっ(汗)」

聖「だからぁ〜…あせあせ(飛び散る汗)
おっ…俺んち、来ねぇか…!?」

亜「…うん、行く…」

聖「!?…お、おぉっ!じゃ、
付いて来いよ!こっちだ!」

…あの時の聖の顔ったら…
分かりやすかったなぁたらーっ(汗)
ホント単細胞なんだから…。



(キィ〜ッ)

聖「けぇ〜ったぞぉ〜。
アニキィ〜。居んのかぁ〜!?」

龍「おぅ。今日の昼メシは蕎麦屋の出前で…
おっ…!?おっ…!?」

亜「あ…あせあせ(飛び散る汗)は、初めまして…あせあせ(飛び散る汗)
アタシ…小笠原君と同じクラスの
奈倉と申します(ペコッあせあせ(飛び散る汗)あせあせ(飛び散る汗)あせあせ(飛び散る汗))」

龍「<;`∀´>やっ…ヤハハハハハ…たらーっ(汗)
こりゃドーモイラッシャイ…
(ヒソヒソ)おぃコラ聖!!
誰だこのカワイコチャンは!?」

聖「(ヒソヒソ)誰もクソも
俺の客にキマッてんだろがむかっ(怒り)
失礼なリアクションしてんじゃねー!」

龍「(ヒソヒソ)だってテメーが
オンナ連れ込むとか
想定外もいいトコだろーが!!
付き合ってんのか!?え!?)」

聖「(ヒソヒソ)だったらなんだってんだよ!!
ウゼーよむかっ(怒り)いいから早くズボン履け!」

初めて会った聖のお兄さん…、
なんだか怖そうな人だったけど、
パンツ一丁でいい人だったな…。




亜「(;・▽・)あの…たらーっ(汗)」

龍「Σ<;`∀´>ハッ…いやいや、
うちのクソガキが世話になってます!
どうぞゆっくりしてって頂戴!」

亜「(;・▽・)あ、ハィ…お邪魔しま…す」

聖「おぅ、こっちだ。早く来いよ。
…シッシッ…!」

龍「<#`∀´>誰に向かってやってんだそれ。
…おぅ、じゃ、ちょっくら
パチンコ行って来るわ」

聖「おーおー行って来い行って来い」



初めて入った聖の部屋は、なんだかいかにも
"男の子の部屋"って感じで…、
ダンベルとか…少年誌とか…
テーブルの上には吸い殻の溜まった
灰皿とかが雑然と放置されてたな…。

聖「ちっと散らかってるけどよ…、
まぁその辺でテキトーにくつろいでくれや」

亜「うん…。
(テレビゲームとかは無いのかな…)」

聖「………。」

亜(キョロキョロ)

聖「…どうだ?俺の部屋はよ」

亜「…どうって?
(…やっぱ無いみたいだね。
小笠原君はあんまりそーゆーの、
好きじゃないのかな…)」

聖「なんつーか…その、
自分の部屋と比べてどうとか…だよ…」

亜「…ん〜、分かんない…。
うちに有るモノはなんにも無くって、
うちに無いモノが沢山ある…」

聖「あ…?例えばなんよ…?」

亜「…ドレッサーとか、洋服とか、
ぬいぐるみとか…かな。
(テレビゲームとか…)」

聖「…野郎の部屋にそんなモンあったら
ドン引きだよな…」

亜「…そうだね」

聖「………。」

亜「………。」

聖「………あせあせ(飛び散る汗)」

亜「………あせあせ(飛び散る汗)」

聖「…茶ぁ入れて来るわ…あせあせ(飛び散る汗)
喉とか渇いてんだろ?」

亜「あ、うん…ありがと…あせあせ(飛び散る汗)」

家の人が誰も居ない時に、
部屋で初めて二人っきりになって、
なんだかお互いギクシャクしてたなぁ…。

亜(…灰皿…吸い殻が山盛りだ…たらーっ(汗)
マメに捨てたりしないのかなぁ…
だらしないな〜もぅ…)

(コトッ…パサーッダッシュ(走り出す様)…キュッ…キュッ…)

吸い殻をゴミ箱に捨てて、
ハンカチで拭いてあげてたら、
スタンドみたいな金具に
立て掛けられたベースと、
その付近に散らかされた
手書きの楽譜みたいなモノに
自然と目が行っちゃってた…。
#.154

(カチャリ)

聖「…何やってンだオメー…たらーっ(汗)」

亜「…灰皿拭いてあげてるの…」

聖「わざわざんなコトしなくていーって…
貸せよオラ、どーせすぐ
汚れちまうんだからよ」

亜「どうして汚れるの?」

聖「あ?」

亜「お祭りの時、アタシが嫌なら
煙草は止めるって言ったじゃない」

聖「………。」

亜「約束を守れるなら、
次にアタシが来るまでこの灰皿は
綺麗なままの筈でしょ?それとも、
アレはおざなりなハッタリだったの?」

聖「そんなモン…結局吸ったって、
前もって自分で綺麗にしとけば
何の証拠にもならねぇべ?」

亜「ううん…。アタシ、小笠原君が
証拠隠滅だなんて姑息な事
するような人じゃないって信じてるもの。
だから、ハンカチを汚してでも
拭いてあげようって思ったんだよ?」

聖「…わーったよ。じゃあ、
そのハンカチ、貸せよ。
洗って返してやっからよ」

亜「いいよ。大した汚れじゃないから」

聖「…確かに"アレ"と比べりゃ
大したことねぇわな…」

亜「…え…?」

聖「…なんでもねぇーよ」



あの時聖が言った"アレ"って…
何のコトだったんだろ…。



聖「むぎ茶しか無かったけどよ、
良かったら飲めよ(ズズッ…)」

亜「うん…ありがと。戴きます…(ズズッ…)
そう言えば、ソレ、なぁに?」

聖「あ?どれよ」

亜「その楽譜みたいなの…」

聖「…見ての通り、何のへんてつも無い
ただの楽譜だ。…ベースのな」

亜「ふぅん…。誰の曲?」

聖「………///」

亜「…?ねぇ、誰の曲なの?」

聖「………オメーの知らねぇ歌手んだよ///」

亜「知ってるか知らないかなんて
聞かなきゃ分かんないじゃんっダッシュ(走り出す様)
なんて歌手?(…まぁ、確かに歌手なんて
ろくに分かりゃしないケド…)」

聖「っせーな!誰のだっていーだろ///
なんでそこ食らい付いてくんだよ!///」

亜「いいもん、自分で見て考えるから!
…あ、歌詞が書いてある(パサッ)」

聖「うっ…!?バカヤロおめ、勝手に見(ry)」

亜「………?」

ami

作詞・作曲 俺様



(ガサッ彡)

聖「うぉぉおおっ!見るなーっ!!///
見るんじゃねーっっっ!!///」

亜「…もしかして…小笠原君が
アタシに書いてくれた曲…?」

聖「ふわぁぁぁぁっ!!///黒歴史だぁぁぁ!!
過去の不発弾だぁぁぁ!!
見なかった事にしてくれぇぇぇ!!///(ビリッ)」

亜「Σ(;゚Д゚)ちょっ…!待って!
破かないで!!分かったからっ!!」

聖「(*TДT)うぅ…畜生…!ヘタなエロほんが
見つかるより屈辱的だぜ…!
死んじまいてぇ…」

亜「…そんなに…?」

聖「おー…」

亜「…良かったら、聴かせて欲しいな…」

聖「あ?…マジか!?」

亜「うん…どんな歌なのか、
聴いてみたいよ…聴かせて…?」

聖「…やなこった」

亜「なんで!?」

聖「ぜってぇ笑いやがるもんよ…」

亜「笑わない!絶対に笑わないから!あせあせ(飛び散る汗)」

聖「…んとかよ…」

亜「うん、うん、約束する!ダッシュ(走り出す様)」

聖「…チッ…しゃーねぇーなぁ…。
じゃ、ベース取れよ」

亜「はい(ヒョイ)」

聖「…スゥ〜〜〜…ハァ〜〜〜…
よし、歌うぞ?ガチで歌うかんな?
しっかり聴けよ?」

亜「ハイッ」

聖…ベースを抱えて
メチャクチャ緊張してたなぁ…。

聖「(ビヨヨ〜ン♪)…俺がぁ〜惚れた女ぁ〜♪
その名はぁ〜亜美ぃ〜♪」

亜(うわぁ〜…これはヒドイ…たらーっ(汗))

聖「この世にぃ〜一人のぉ〜♪
イカしたぁ〜女ぁだぁぜぇ〜♪」

亜(…ヘタっぴだなぁ〜…あせあせ(飛び散る汗))

聖「(ビヨヨ〜ン♪)そのらぶりーな瞳にぃ〜♪
俺のハートはゾッコンLOVE〜♪
L ・ O ・ V ・ E
らぁ〜ぶゆぅ〜ベイベ〜♪おぅいぇ〜い♪」

亜「…ップ…!(危ない…!吹きかけた!)」

聖「オンリィ〜ロンリィ〜マイスウィ〜ツ♪
なぁ〜ぐらぁ〜♪あみぃ〜♪」

(パチパチパチパチ…)

亜「凄い…感動しちゃったアタシ…
ありがと…揺れるハート」

聖「ヘヘッ…そーかよ…?///じゃあ、
また新曲が出来たら歌ってやんよ…///」

亜「Σ(;・∀・)えっ…?あぁ、
うん…そうだね…あせあせ(飛び散る汗)楽しみにしてる…あせあせ(飛び散る汗)
(気持ちだけで結構です)」
#.155

聖(奈倉…目を潤ませて…
俺の歌がそんなに嬉しかったってのか…)

亜(あ〜…笑いを堪えるのに必死で
涙出て来ちゃった…)

聖「奈倉…」

亜「はい…」

聖「もーちょい…そ、側に来いや…///」

亜「うん…///」

ガチガチに緊張しながら、
そっと肩を抱き寄せてくれた聖の手は…
普段のぶっきらぼうな性格からは
意外な程に遠慮がちで…、
脈拍が伝わって来る様な気さえした…。

(ギュッ…)

聖「奈倉…お、俺…た、た、た…
大切に…するからよ…///」

亜「…はい…///」

聖「そ…その…キッ…キs…キs…あせあせ(飛び散る汗)」

亜「(…小笠原君て…
こんなにもウブだったんだ…
アタシだって初めてなんだけど…)
…いいよ…して…?」

聖「…!」

亜「…んっ…フッ…!」

…ヤダ、思い出したらドキドキしてきた…。
あの時は…何分くらいしてたんだろ…。
今思えば呆れるくらい時間を忘れて
くっ付いてた気がする…///
少しだけ…煙草の匂いがしたのはそれだけ
普段から沢山吸ってたからなのかな…とか
キスの最中、妙に冷静に考えてたっけ…。

聖「(…ッチュ)…最後まで…いいのか…?」

亜「ハァ…ハァ…お兄さんは…?
帰って来たらどうするの…?」

聖「アイツ、閉店常連だからよ…。
打ちに行ったら負けが込もうが
そうそう帰って来やしねぇ…」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(チーンッ☆701番台、スタートデス)

(ジャンジャンバリバリジャンジャンバリバリ)

(ジャララララララララララッ…)

龍「うおおおおおおおおお!!
連チャン止まらねぇええええええええっ!!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

亜「あ…アタシ…初めてなの…あせあせ(飛び散る汗)」

聖「…おめぇが嫌ならしねぇよ…」

亜「そうじゃなくて…優しくして…?」

聖「…いいのか…?マジで…」

亜「…うん…"聖"なら、いいよ…?
抱いて…?」

聖「!!…"亜美"…!」





















初めての『キス』



初めての『呼び捨て』



初めての『契り』



初めての『恋』



何もかもが初めて尽くしだった
世間知らずで、奥手なアタシを、
受け止めてくれたのが彼で本当に
良かったって…幸せだったんだなって…
今となっては思う…。

それは、この先、未来にどんな
素敵な出逢いが待っていたとしても、
変わらぬ想いであって欲しいと
切実に願うよ…。

初めては「痛い」ってよく言うケド…
性の「痛み」も「悦び」も知らない
鈍感な頃のアタシは、真っ最中の事は
イマイチ覚えてないや…。
だって、ドキドキし過ぎて…
頭の中が真っ白になっちゃって
気持ちいいのかどうかさえも
よく分からなかったし、そんな事、
どうでも良かった…。

ただ、ただ、繊細で壊れやすい体でも
扱うかの様に丁寧に触れる臆病な手とか…
アタシを良くする為に、必死になって
動いてくれる彼の湿った肌の
擦れる感触とか、汗の匂いとか、
不器用な息遣いとか、逐一かけてくれる
優しい言葉が何よりも愛しかった…。

そうだ…あの時あの瞬間…アタシ…
ずっとこの人の側に居たいって
確かに感じてた…。

ちゃんと"好き"だったんだ…。

自分の劣等感にかまけて、
長い月日を共有する内に
少しずつボヤけて行った、
最も大切なあの"感覚"を
どうしてもっと早く、
彼を"傷付けてしまう前"に
思い出せなかったんだろう…。

もっとちゃんと…彼の気持ちと
向き合う努力…すれば良かった…。

あんなに愛してくれたのに…!

聖も、黒も…あんなに愛してくれたのに…!


― 願わずとも恵まれた現在さえ ―
― 大切に出来ない奴に ―
― 未来で待っているのは後悔だけだよ ―


今なら、あの時のキャサリンの言葉を
理解出来る…。
失ってからじゃなきゃ、大切な事に
気付けないなんて…
アタシってやっぱ…バカだなぁ…。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(ポタッ…ポタッ……ポタッ…)



過去を振り返る程に蘇る記憶は
切ない想いを込み上げさせ、
溢れ出る涙がまた、懐に抱いた
ラリックマの額を濡らし始めた。



(ザァ―――――…)

外は、やはり変わらず降りしきる大雨。

亜(…今更…聖に逢いたい…
だなんて想いは、身勝手だね…)




































(カツンッ)
#.156

3:00 AM

(ビクッ…)

突然、窓に小石か何か、
固い物が当たった音がした。

(ザァ―――――…)

亜(な…に…!?)

(バクン…バクン…バクン…バクン…)

つい先ほど見た悪夢と同じ様に、
外から何者かが呼び掛ける合図と
不吉な予感を感じた亜美の中で、
危険を知らせるシグナルが鳴った。

ラリックマをお守りの様にして抱きかかえ、
亜美は思わず肩を強張らせながら
窓の方を見ている。



(ザァ―――――…)



緊張したまま、
暫く身動きを取れずに居た亜美は、
やがて恐る恐ると窓に近づき、
覗き込む様にして外を見下ろした。

そこに立って居たのは
























電柱の傍らで傘を差し、
悲壮感を湛えた眼差しで
こちらを見ている聖だった。

亜(聖…!?)

その姿を見た亜美は驚き、
一瞬目を丸くすると、直ぐ様
一階に駆け降りて玄関を開けた。

(ガチャッ)

亜「…何してるの…!?」

聖「…こんな時間に…わりぃ…。
非常識は百も承知だけどよ…、
どうしても話がしたくて、
居ても立ってもいらんなくてよ…。
来ちまった…」

亜「………。」

(バサァッ)

亜「!!」

顔を伏せながら呟いた聖は、突然、
持っていた傘を杜撰に放り捨て、
冷えた体で亜美を

強く

強く

抱き締めた。

(ザァ―――――…)

亜「っ…!くる…しいよ…」

(ギューッ…)

聖「…西荻とは話を着けて来た…」

亜「………。」

聖「…おめぇを…失いたくねぇ…!
俺の"気持ち"はまだ終わってねぇ…!」

亜「………。」

聖「他のヤツなんか要らねぇ…!
誰も要らねぇ…!おめぇが欲しい…!
全部…全部俺にくれよ…!!」

亜「!…それって…聖なりの、
精一杯の愛情表現なの…?」

聖「おー…頼む…!」

亜「アタシは…"モノ"なんかじゃないよ…
そんな言い方しないで…!」

聖「俺を西荻に譲ろうだなんて…
モノ扱いしてたんはおめぇだろが…!」

(ズキッ…!)

聖「どんなに可哀想なヤツが居たって、
カンケーねぇんだよ…!
俺は…おめぇを幸せにしてぇんだ…。
おめぇじゃなきゃ意味がねぇんだよ…!」

亜「なんでアタシを選んだの!?なんで!?」

聖「…そんなに、
惚れた理由を知りてぇのか…」

亜「…だって…!ヒグッ……ウッ…」

(ポロッ……ポロッ…)

聖「…いつか、テメーで
思い出して欲しかったんだけどな…。
ホレ…(スッ)」

抱擁の腕を緩めた聖は、
ポケットから何かを取り出し、
泣きだした亜美に渡した。

亜「ウッ……グスッ…?」

聖「…ソレ…覚えてねぇか…?」

亜「…ハンカチ…?」

亜美の手に握られたソレは、
ハローキティのハンカチだった。

聖「北高に入学して間もねぇ頃…、
おめぇ…学校帰りに、ツラの原型が
留めてねぇくれぇに誰かに
コテンパンにのされて、
ゴミ捨て場でヘタり込んでた野郎に
そのハンカチを貸さなかったか…?」

亜「…?…あっ…思い出した…!これ、
アタシのお気に入りだったハンカチだ…!
いつの間にかどっかに
無くしちゃったと思ってたけど…
そんな事もあった気がする…」

聖「…やっぱ…おめぇだったんだな…。
ソレ、俺だよ…」

亜「!」

聖「その頃の俺は、バンドがやりたくて
早速軽音部の門を叩いた…。
北高は軽音の強豪高だからな、
上下関係がキツい中で、
一年坊だった俺は生意気にも
パイセン連中に楯突いた。
見下されて、しいたげられんのが
気に食わなくてよぉ…」

亜「………。」

聖「杉山達が大人しく
長いものに巻かれてた中、
俺だけがそんな風にチョーシこいて
てっぺん狙ってたもんだからよ…、
パイセン連中の反感を買ってな…。
ある日帰り道に待ち伏せで
"ヤキ"を入れられちまったんだ…」

亜「…うん…」

聖「喧嘩の腕に自惚れたおりゃあ、
パイセンだろうが叩き潰して
幅を利かせてやろうと
歯向かってはみたんだけどよ、
よってたかって散々
フルボッコにされた挙げ句、
ゴミ袋の山に捨てられ
吹き晒しにされてた…」

亜「…もしかして…」

聖「そーだ…そこに通りかかって、
俺を介抱してくれたんが
おめぇだったんだよ…」
#.157

2009年5月

(ヤダァ〜…何アレ〜…気持ち悪ぅ〜…)

(誰だろ〜…イジメにでもあったのかな〜)

聖「…う゛〜…ん……。
(痛ぇな〜畜生……。
視界がボヤけてやがる…
ちったぁ加減しろってんだ…)」

ボロクソになってゴミに埋もれてた俺を見て
通り過ぎる奴らは誰一人、
手を貸そうともしやがらねぇ…。
たりめーだよな?
パンパンに腫れたツラした負け犬に
情けをかけてやろーなんて奇特な奴なんざ
そう居ねぇだろうしな。

みっともねぇからサッサと帰ろうと思って、
身を起こそうとしたその時だったぜ。
正直たまげたわ。

亜「あの…だ、大丈夫ですか…?あせあせ(飛び散る汗)」

聖「…あ゙…?」

亜「(ビクッ…)あ、あの…あせあせ(飛び散る汗)
救急車呼びましょうか…?」

聖「…イラネ」

亜「で…でも…あせあせ(飛び散る汗)
そんなに血が出てるのに…(スッ…)」

聖「ウッ…?な…やめとけよ…
気持ちわりぃべ?」

亜「気持ち悪いけど…あせあせ(飛び散る汗)
放っとけないじゃないですか…あせあせ(飛び散る汗)」

無様に倒れ込んだ俺を見て、
同情したのかしんねぇけどよ…。
なりふり構わず、通行人共の視線も気にせず
俺を気にかけてくれるなんて…
随分肝が据わったネーチャンだなぁって
感心したぜ…。
そん時にこのハンカチで血に汚れた
俺のツラを丁寧に拭いてくれたよな…。

(フキフキ…フキフキ…)

聖「………っ!」

亜「あっあせあせ(飛び散る汗)ゴメンなさい…痛みますか…?」

聖「…大したことねぇ…。
わりぃな…、洗って返すからよ…」

亜「いやっ…い、いいですっ…あせあせ(飛び散る汗)
あげます…ソレ!」

(タッタッタッタッ…)

結局俺の血でベトベトになったハンカチを
放置して逃げられちまったし、
瞼が腫れてたせいで
顔がよく見えなかったし、
名前も聞き損ねちまってたから、
あん時はおめぇだって
分からなかったけどよ…。
あのお人好しで乳クセェ優しさに
俺は想った。

聖(………惚れたぜ…)


あげるとは言われても、
カリはキッチリ返すのが俺の流儀だが、
いかんせんツラも覚えてねぇし、
名前も知らねぇ相手を
どうやって探し出すかに頭を悩ませてた。
だけどよ、洗濯してキレェになった
ハンカチをよく見たら、A・Nって
イニシャルが書かれてんのを見っけてよ…
ソレを手掛かりにおめぇの事を
捜そうとしてみたんだわ…。

聖(…名字がNになる奴なんか
幾らでも居やがんな…。
俺のクラスだけでも6人…。
中西と野田は男だし、根岸、沼井、
内藤は下の名前がAじゃねぇ…。
新田はAだが、聞いても
知らねぇっつってるし…。
もしかすっと下手しぃ
一学年じゃねぇかもしんねぇ…。
全校の中から探し出すのは、
生徒名簿があったとしても至難の業だぜ…)

そう考えた俺は途方に暮れた…。
だけどよ、諦めはしなかったぜ…。
毎日毎日、休み時間になる度に
各クラスを回ってよぉ、
色んな奴に名前を聞いて回った。
そうこうしてる内に、ある日廊下で
おめぇとすれ違ったんだ。

(フワッ…)

聖(…今のオンナ、名札を一瞬見たら、
奈倉って書いてたな…Nか…。
いや、まさかな…)

(タッタッタッタッ…)

俺は追いかけて、声をかけた。
確かめる為にな。

聖「よぉ、ちょっといいか?」

亜「え…?」

振り向いたおめぇと目が合った瞬間、
不覚にも、焦った。

聖「(うっ…あせあせ(飛び散る汗)やべぇ、
超まびぃーっ!!(死語))
あ、その…奈倉っていうんだな…あせあせ(飛び散る汗)」

※ 超まびぃーっ!!→超マブい→超眩しい
つまり可愛いという意味。
最近の若者はこの様な表現は
おそらくしないと思われる。

亜「…はぁ…たらーっ(汗)」

聖「あのよ…下の名前、
なんていうんだ?あせあせ(飛び散る汗)」

亜「え…?」

聖「だ、だからよ…下の名前だよっあせあせ(飛び散る汗)
おめぇの!」

亜「……亜美…ですけど…たらーっ(汗)」

聖「(亜美!?こいつはA・Nか!)
マジで!?俺の顔、見覚えはねぇか!?あせあせ(飛び散る汗)」

そん時の俺のツラはすっかりと治ってたから
判んなかったのかもしんねぇな。

亜「え゙…?ちょ…分かんないです…あせあせ(飛び散る汗)
(なんなのこの人…)」

(タッタッタッタッ…)

そん時も、また逃げられちまったよ。

聖(…違ったか…。
通学路のゴミ捨て場だったが、
この学校の生徒じゃ
なかったんかもしんねぇ…。
声はなんとなく似てた気がすんだけどな…、
今の奴…)

それ以来、自分のやってる事のバカさ加減に
気付いたおりゃあ、
なんとなく気恥ずかしくなっちまってな…。
ハンカチは結局、借りパク状態で
持ち主捜索を断念したんだ…。
#.158

2010年5月

それから2年に上がって、
クラス変えがあった。
教室に入って、クラス編成の中に
おめぇの姿を見た時は相当
テンション上がったぜ?

聖(うっ…!?アイツ…あん時の…!
やりぃーっ!!超ラッキィーッ!!
この一年は当たり年になんぜー!!
あ〜…やっぱ可愛いツラしてやがんなぁ
畜生べらんめぇ〜…///
なんか話しかけてぇ〜…)

杉「聖ぃー、何奈倉の事
チラチラ見てんだよ〜っ!
気があんのか?オメー」

聖「あ゙!?何がじゃ!?あせあせ(飛び散る汗)そんなんじゃねーよ、
奈倉じゃなくてその向こうを見てただけだ。
勘違ぇすんな!むかっ(怒り)」

杉「…ほぉ〜、向こうに何があんだよ?」

聖「掃除用具箱があんだろーが!
オメーの目は節穴けぇ?おぉ!?」

杉「ほぉほぉ、ナルホドな。
掃除用具箱をチラ見してやがったのか。
そーか。あの掃除用具箱、
なんかイカすもんなぁ?
そりゃついつい、見ちまうよなぁ〜。
分かるぜ、その気持ち。
デザインなんか最高!」

聖「クッ…むかっ(怒り)」



恵「(*・ω・)ノ ねぇねぇ、あたしゃ
水野 恵ってモンだけどさ、
奈倉さんってゆーの?
席、隣同士だから仲良くしとくれよ〜」

亜「あ、うん…!水野さんかぁ、
こちらこそ宜しくね!亜美でいいよ」

恵「(*・ω・)亜美かぁ、じゃあ
アミーゴって呼んでいい?」

亜「いいよっ。じゃあアタシも、
メグって呼ぶね!」

恵「(人≧ω≦)お〜っぴかぴか(新しい)イイヨイイヨ!
ちょいとちょいと千夏!
新しい隊員が増えたよ!?」

千「え?何よ」

亜「Σ(;'▽')え…?隊…員…?」

恵「(*゚∀゚)/アミーゴ!紹介するね〜。
この子が黒髪喪女親衛隊長、
柳 千夏殿であらせられる!」

千「おバカ…たらーっ(汗)あぁ、ゴメンね奈倉さん。
気にしないで?このコ、
黒髪喪女特攻隊長を自称してる
ちょっと変なコでさ」

恵「\(`Д´)ノ変ゆーなダッシュ(走り出す様)」

千「黙らっしゃい。
…てな訳で、私も宜しくね!」

亜「うん、宜しく!(アタシも黒髪だから
親近感が涌いたのかな…たらーっ(汗)まぁ…
確かにアタシも喪女だけど…たらーっ(汗))」

恵「(*゚∀゚)ダッシュ(走り出す様)ねぇねぇ、
所でアミーゴ三等兵ってさ、
彼氏とか居るの!?リア充!?」

亜「三等…兵……って何…?たらーっ(汗)たらーっ(汗)たらーっ(汗)」

   バシッ
千(;-"-)/(*゚∀゚)イテッ

亜「彼氏なんて…居ないよ…」

       ナカーマ
恵「(//_//)/\(゚∀゚)/\(;-"-)」



聖(男は居ねぇのか…。
……チャーーーンスッ!!)

杉「…気持ちわりぃなオメー…、
何ほくそ笑んでやがる…たらーっ(汗)たらーっ(汗)たらーっ(汗)」

聖「うるせぇよ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

聖「…そんなこんなでよ。
ずっと近くの席で柳や水野と話をしてる
おめぇの声を聞いてる内に、
そのハンカチのイニシャルはぜってぇに
おめぇだって確信が涌いたんだ…。
気が付きゃ完全に好きになっちまってた…」

亜「………。
(…じゃあ、聖も最初はアタシの外見で
好きになった訳じゃなかったんだ…)」

聖「…今、ようやく二年以上ぶりの
カリを返した。
それでもおめぇは…俺と別れてぇのか…?」

亜「………まだ…間に合うの…?」

聖「…おぅ…間に合うぜ?いつでも…
いつまでも…俺が受け止めてやる。
おめぇの事なら何だって
受け止めてやんよ…!」

亜「…聖も…西荻さんも…"あのコ"も…
みんな…愛されたいと強く願う程に…
一人で勝手に傷付いて…必死だったのに…。
それなのにアタシは…自分の殻に閉じ籠って
コンサバになってた…。情けない…。
アタシだって変わりたい…。
もう一度真剣に…あなたを愛したい…」

聖「…あのコってなんだ…?
誰の事を言ってんだよ…つか、
親父とお袋は…?
俺から押し掛けといてなんだけどよ、
あんま玄関で長いことべしゃくってて
マズくねぇか…?」

亜「…お父さんとお母さん…今、病院…。
誉…産まれたから…」

聖「マジか…?良かったなぁ!?」

亜「うん…ホント良かった…。
今、家にはアタシだけだから…上がって?
風邪引いちゃうよ…。
今抱き締められた時、随分冷えてたし…」

聖「いいのか…?わりぃな…邪魔するぜ?」

家に上がり、聖は亜美の部屋に通された。
亜美は風呂場からバスタオルを
持って上がり、体を湿らせる聖に貸した。
#.159

亜美に借りたバスタオルで濡れた肩を
拭きながら、デスクの椅子に腰掛け、
聖は切り出した。

聖「…そーいやよ、西荻と話が終わって、
家に帰って来たら、最後の最後に
妙なメールよこしやがってよ…」

亜「妙なメール…?どんな?」

聖「(パカッ)コレ…」

聖は朱里の最後のメールの文面を
亜美に見せた。

亜「………。」

聖「最後になんか、よくわからねぇ
アルファベットがあんだろ?」

亜「うん…hjrictl…どういう意味だろ…」

聖「俺もサッパリわかんねぇんだ…。
ヒントを聞いたら
"小笠原君の愛を見つけて下さい"だと」

亜「iだったら四文字目にあるじゃん…。
…あっ!この最初の四文字って
聖の事じゃないの?h(ひ)j(じ)ri(り)。
あとはctlだね…」

聖「あぁ…なるほどなぁ…。
愛じゃなくてiかぁ…。
なんかの頭文字を取ってんのか…。
となると、もしかしてcは
cendrillonのcか…?」

亜「西荻さんの好きなバンドだね…。
そうなると、tlは…?」

聖「聖…cendrillon…タワーレコード…。
cendrillonのCDがお奨めで
タワレコにも売ってるから
俺も買って聴いてみろって事か…?」

亜「レコードの頭はLじゃなくてRでしょたらーっ(汗)」

聖「あ、そか…あせあせ(飛び散る汗)ダメだ、やっぱ分からねぇ…」

亜「tl…tl…た…ち…つ…て……
(t)東京ネズミー(l)ランド…?
今度cendrillonがネズミーランドで
ライブするって事かな…?」

東京ネズミーランドとは、
ネズミーマウスを筆頭に
ウォルト・ネズミーの愛くるしい
キャラクター達がやっさもっさと活躍する
夢の国をコンセプトとした
有名テーマパークである。

聖「んなアホな」

亜「…だよねたらーっ(汗)あー、
なんかモヤモヤするなぁ…」

聖「…いや、待てよ…?アイツ曰く。
cendrillonてフランス語で
シンデレラって意味らしーぜ…?
確かネズミーのアニメで
シンデレラって無かったか…?
案外その考えは的を射てんじゃねーの?
ネズミーランドにシンデレラ関連の
アトラクションとかねぇか…?」

亜「…仮に方向性が合ってたとして、
そんな事を聖に伝えてどうするのよ…たらーっ(汗)」

聖「亜美をネズミーランドに連れてって、
今度は亜美をシンデレラにしてやってくれ
って意味なんかもしんねーだろが。
俺の愛を見つけろって、
そういう意味じゃねーの?
ネズミーランドで見つけて来い!ってな」

亜「なワケ無いでしょバカじゃないの?
…確かにネズミーランド
行ってみたいけど…。
小笠原君のiを見つけて下さい…か…。
…てゆーか、西荻さん…なんて…?
どんな話をしたの…?」

聖「…俺らを破局に
追い込むつもりだったんだってよ…。
ギャンブルの対象にしてな…」

亜「そんな…やっぱりそうだったの…?
でも…なんでそれを
正直に話したんだろう…?」

聖「…遊び半分で絡んでる内に
結局はガチになっちまったから、全てを
洗いざらいさらけ出そうと思ったんだと…」

亜「…それって…
好きになっちゃったって事…?」

聖「…そう言って泣き付かれたぜ…」

亜「…それなのにアタシの為に
戻ってきてくれたんだ…」

聖「…たりめーだ。だから言ったべ?
アイツがどんな過去を背負った
哀れな奴だろうが、
おめぇにゃカンケーねぇ」

亜「…その話も聞いたんだ…」

聖「…おー、確かに若干同情はするがな。
アイツはアイツで
ひた向きなモンを持ってる…。
だからこそ、俺以外に相応しい奴が
必ずどこかに居ると思うぜ…?」

亜「…うん…だといいな…。
(…西荻さんも…陸奥さんみたいに正直に、
全てさらけ出しちゃったんだ…。
だったら…アタシも…)」

聖「………。」

亜「…ねぇ、聖…?」

聖「…あ?どした…?深刻なツラして…」

亜「…アタシ…聖に謝らないと
いけない事があるの…」

聖「なん」

亜「…呆れたりせずに…
真剣に聞いてくれる…よね?」

聖「聞くまでもねーだろ」

亜「本当に信じられない話だけど…
ちゃんと聞いてくれるんだよね…?」

聖「だから〜…そう言ってんじゃねぇか…。
なんだよ?ちゃんと聞くっての。
ケツ割って話すんだべ?」

亜「それを言うなら腹でしょたらーっ(汗)
うん…あのね…?あの…アタシ…
ホントは…浮気してたんだ…」
#.160

聖「………。」

聖は耳を疑い、小指で耳をほじくり返した。

亜「………。」

聖「…マジか…?」

(コクッ…)

聖「…相手は何処のどいつだ」

亜「…今…この部屋の中にいるの…」

聖( Д )

聖は絶句し、

(゚Д゚;≡;゚Д゚)!?

目を白黒させながら思わず部屋の中を
キョロキョロと見回すと、
クローゼットの方へ目をやった。

聖「さ、さっきまで一緒に
居やがったってのか…!?まさか…」

亜「………。」

聖「おい!何コソコソ隠れてやがんだ!?
出て来いやコラむかっ(怒り)」

聖はクローゼットに向かって怒鳴りつけた。

亜「違う…そこには居ない…。
もう、死んじゃってるかもしれないから…
返事も出来ないよ…?」

聖「(;゚;目;゚)死ん…え゙っ…!?なっ…!?」

亜「アタシが悪いの…。
もしかしたら…アタシ、
人殺しになっちゃったかもしれない…」

聖「(?゚Д゚)お…
おめぇが殺し…たってのか…!?なんで…!?
ど…何処だよ!?死体は…!?何があった!?」

亜「その机の引き出しの中…」

聖彡(゚Д゚ノ)ノ ヒィッ!?

(ドタッダッシュ(走り出す様))

デスクの椅子に座って居た聖は、
情けない声をあげながら、
驚愕のあまりもんどうりを打って
椅子ごと後ろにコケた。

聖「ばっ…ばっ……バラバラにして
そん中に隠し込んじまってんのかよ…!?」

亜「違ぁ〜う!たらーっ(汗)…まぁ、
そんな風に考えるよね普通…」

(スッ…)

亜美は立ち上がりデスクの引き出しを開け、
『ヨコシマの黒』の
カートリッジを取り出すと、聖に手渡した。

亜「アタシの"浮気相手"は…
その中に居るの…。
名前は…黒っていうんだ…」

聖「…ゲーム…だよな…?コレ…。
その、くろって奴ぁー…
キャラクターかなんかの事か…?」

亜「…うん…。天使なのか悪魔なのか…、
それともただの男の子だったのか
分かんないけど…、そのゲームの中の
牢屋に閉じ込められた、
生きた生命だったの…」

聖「…なんか…また
よく解んねぇ話だけどよ…、
そーゆーのは、浮気とは
言わねぇんじゃねーのか…?」

亜「…少なくとも、"向こう"は
聖の事を亜美の浮気相手だと本気で憎み、
毒念を燃やしてたよ…?今では、
生きてるのか死んでるのか
分かんないから、過去形で言うべきか
現在進行形で言うべきか困るけど…」

聖「…なんつーか…その…あせあせ(飛び散る汗)
ハマり過ぎだろそりゃ…たらーっ(汗)」

亜「呆れたりしないって言ったでしょ!?」

聖「わーったよ!それで?」

亜「…アタシ…一度は黒の事を
本気で好きになった…。
聖を差し置いて…。完璧に魅入られてた…。
だから、周りから見て、一般常識の尺度で
ゲームにハマり過ぎてたんじゃなくて…、
プラトニックな意味合いで、
聖の事を…紛れもなく裏切ってた…。
気持ちの上では十分に
立派な浮気だったの…。
こんなサイテーなアタシを…貴方は心から、
許してくれますか…?」

聖「?…お、おぅ…たらーっ(汗)」

亜「だけど…アタシは無責任に、身勝手に、
残酷に、そんな黒を突き放し、見捨てた…」

聖「…なんでよ?」

亜「…なんだか…怖くなっちゃって…」

聖「…よーするに、このゲームん中に
くろってリアルな人間が居て、
そいつを殺しちまったかもしれねぇ
って事なんだな?」

(…コクッ)

聖「…それを確かめる事は出来ねぇのか?
かもしれねぇって話をしてたって
ラチが開かねぇだろうが」

亜「…出来るけど…確かめるのが怖いの…。
もし生きてたとしても…聖が
殺されちゃうかもしれないから…余計に…」

聖「(…アフォか!)
…殺されるわきゃねーだろ。だったらよ、
今から確かめてみよーぜ?
俺が隣に付いててやっからよ。
それなら怖くねぇべ?
モヤモヤしてるモンをスッキリしちまえや」

亜「…でも…」

聖「デモもヘチマもねぇんだよ!
サッサとゲーム機出せオラッダッシュ(走り出す様)」

(カチャカチャ…)

亜「…ヤダッ…やめてよぉ!あせあせ(飛び散る汗)」


ビデオラックから強引にゲーム機を
引っ張り出そうとする聖を、
亜美は焦りながら止めにかかる。

しかし、聖は動きを止め、
そんな亜美に対してゆっくりと諭し始めた。

聖「…亜美…俺、ベース辞めたんだ…」

亜「…え…?」
#.161

聖「…楽器を処分したってこった。
杉山らにもナシ着けて、バンドも辞めた。
もう、再起不能だぜ?」

亜「なんで…!?アタシのせいなの!?」

聖「ちげぇよ…ただ、昨日…いや、
日付は変わったから一昨日か…。
おめぇにフラれちまった後、
俺…考えたんだ…」



― バンドばっかでろくに ―
― 連絡しねぇ期間があって ―
― 冷めちまったのか…? ―

―…それは…ちょっとあるかも… ―



― 聖は…アタシの事なんて ―
― ちっとも解って無いんだよ… ―



聖「…俺、バカだからよ…。
頭がわりぃから、ベースを必死に練習して、
上手くなって、バンドに打ち込む事でしか
おめぇに対するアピールが
ずっと思い浮かばなかった。
カッコいい所を見せつけて、
ぜってぇに惚れさしてやるんだってな…」

亜「…不器用だね」

聖「…だな。とんだ勘違い君だったぜ。
それでもおめぇはちゃんと、
ライブだって見届けてくれたし、
ライブハウスにも付き合ってくれた。
どんなに歌に興味が無くても、
俺の下手クソな歌を、笑わずに、
真剣に受け止めてくれた」

亜(…ごめんなさい…本当は
笑っちゃってました…たらーっ(汗))

聖「…それに比べて、俺って奴ぁ…
カッコつける事に夢中で、
趣味を押し付けてばっかで、
おめぇの好きなモンを知ろうとする姿勢が
なってなかったって気付いたんだわ…」

亜「………。」

聖「…自己満足な恋愛はもう、ヤメだ。
もう二度とおめぇに
寂しい思いなんかさせねぇ…。
だから…俺にゲームってモンを
教えてくれよ。これからは一緒にヤろうぜ?
それがおめぇを理解する事に繋がるなら、
幾らでも付き合ってやっからよ…」

亜「…うん…分かった。ありがと…でも…」

聖「…どした?」

亜「一緒に、黒の生死を
確かめてくれたとして…。
もし、生きてたら
どうしてあげればいいのか…」

聖「…おめぇはソイツを
どうしてやりてぇんだよ」

亜「救い出してあげたいの…でも、
そうする事で聖に危害が及んだら…」

聖「…俺なら大丈夫だ。
何があったってくたばりゃしねぇ。
おめぇが居てくれんならな。
もし、ソイツがゲームん中から飛び出して
喧嘩売って来やがったら、
キッチリ買ってやんよ」

亜「…止めて、そうじゃなくて…
諭してあげて欲しいよ…。
黒は、まだ小さな男の子なんだから…」

聖「…ガキか…。ん、わーった」

亜「…じゃあ、始めるよ…?」

聖「おー」

亜(…黒が恐ろしい悪魔で…
聖を殺そうとしたり、
アタシに何かしようとしてるなら…
それでもいい…。
今度はアタシが体を張って、
聖を守る番だ…。
アミクエ事件の時みたいに、
この人が側に居てくれるなら、
もう何も恐れない。それに、
陸奥さんを信じた様に、同じ様に、
今こそ黒を信頼してあげるんだ。
もう、逃げないよ…)

亜美は決意を胸に秘め、
再びゲームを始める為のセットを行った。

(カチャ…カチャ…)

そしてテレビを点け、チャンネルを
外部入力に切り替え、
本体のスイッチを入れた。

(カチッ)



表示されたタイトル画面の下、
カーソルは













"再会"を指し示している。

亜「…まだ…生きてるかもしれない…!!」

聖「…そうなんか?つか、
気味のわりぃ画面だな…、
赤い文字を見てたらゾッとすんぜ…。
どーゆーゲームなんよコレ?」

亜「黒はアミクエの時のアタシみたいに、
拉致監禁されてる…。
今のアタシの立場は、あの時の
陸奥さんみたいなものなの…。
アタシがその命を握ってるんだ…」

聖「…ほーん…」

亜美は、そっとコントローラを手に取った。

亜「…始めます」

聖「…よっしゃ」

(ポチッ)
#.162

4:00 AM

ボタンを押し、一週間ぶりに
画面が牢屋に切り替わった。

奇妙なBGMをバックに、
くろは独房の隅っこでピクリとも動かずに
背を丸めて横たわって居た。

閉じた目の下の隈が酷く、
肌は真っ白になり、体は華奢な程、
ガリガリに痩せ細っている。

亜美は、五十音入力を試みた。



[ くろ…? ]



反応は無い。



[ くろ! ]



やはり、反応は無い。



亜「…やっぱり…死んじゃってるのかな…」

聖「コイツがくろってヤツか…。
そーやって話をするゲームなんか?
文字の入力が面倒臭そうだが、
慣れたモンだな。
さっき玄関で言ってた"あの子"ってのも
コイツの事だったんけ?」

亜「うん…そうなんだけど…」

[ ねぇ くろ!?いきてる!?しっかりして!? ]



暫く様子を伺ってみても、
やはり無反応である。

亜「あぁ…もう、ダメなの…?」

聖「…気持ちわりぃ音楽だな…。
つか、なんでこーなっちまったんだ?」

亜「…向こう側の世界は電源を切ってても、
カートリッジを本体から抜いてても、
実際の時間の流れとシンクロしてるの…。
だから、生身の体を持つ黒は
自然とお腹を空かせたりするから、アタシが
ごはんを食べさせなきゃいけないの…
いけないのに…アタシは…」

聖「…なげぇ事
放っぽらかしにしてたんけ?」

亜「うん…」

聖「…だからこんな
コケムスになっちまったのか…。
まだ決まったワケじゃねぇべ?
もーちょい根気良く声をかけてやれよ…」

亜「分かったよ…」



[ くろ!ねぇ くろってば! ]
[ めをさまして!! ]



(ムクッ…)

亜「!」

聖「おっ…?」



くろは不意に目を開けると、
力無く頭を持ち上げて、亜美達の方を見た。

亜「良かった…!生きてる…!!
生きてるよぉっ!!」

聖「おうっ!やったな!」

くろの生存を確認し、希望を見出だした
亜美と喜びを分かち合う様に、
聖は腕を組んで同調した。

しかし

[ ιц…? ]

亜「え…?」

[ くろ…?アタシだよ…?あみだよ…? ]

(ポロッ…ポロッ…)

[ ιц…!ιц…! ]

亜「…黒の言葉の文字が…
おかしくなってる…」

表示されるくろの台詞のフォントは
バグっているかの様に形が崩れていた。

くろはポロポロと涙を溢している。

[ くろ!どうしたの!? ]
[ うまくしゃべれないの!? ]

[ §Δ¶… ]

(コクリ…)

くろは極限の栄養失調により、
実に弱々しく、やっとの思いで一度だけ
首を縦に振った。

亜「…すっかり衰弱してる…。
もしかして…あの時のアタシの言霊で
精神を病んだあまり…
喋れなくなっちゃったのかな…」

聖「言霊ってなんだよ…?」

亜「魔法だよ…。この子にとって、
アタシが伝えるありとあらゆる言葉が、
魔法になって、体や心に強力な影響を
与えてしまうの…。
アタシ、この子が実は
恐ろしい悪魔なんじゃないかって疑って…、
やめる前に"気持ち悪い"だなんて
酷い事言っちゃったの…。
それで傷付いたせいで…、
黒が…壊れちゃった…」

聖「………。」



[ くろ?ハンバーグ わかる? ]

(コクリ)

くろは頷いた。

聖「…なんだ?ハンバーグって…」

亜「…この子、アタシ達の姿が見えないの。
こうやって、声をかけてあげる事によって
気配だけを感じてるみたいなの…。
だから、アタシの事が好きなあまり
アタシが本人なのか
聖なのかを疑ってるの…。
いつか、つい聖の事を恋人だと
口を滑らせちゃったせいで…」

聖「…だから俺がおめぇの
浮気相手だってのか…」

亜「うん…だから、この子と二人で決めた
正真正銘アタシ本人である事を示す合言葉が
"ハンバーグ"なの…」

聖「…それがコイツの心を開く為の
鍵ってワケかよ…」

亜「とにかく…すぐに何か
食べさせてあげないと…」

[ くろ?つらかったでしょ…? ]
[ ほんとうにごめんね…? ]
[ すぐにごはんあげるからね? ]

(コクリ)

亜美は、栄養満点の雑炊にしっかりと
息を吹きかけて冷ます所をイメージした。

[ めしあがれ ]

[ !…ζБζБ…ζБζБ… ]

くろは目を閉じながら、懸命に口を
モグモグさせている。

聖「…なんだ…?なんもしてねぇのに、
なんか食ってやがんのか…?」

亜「うん…このゲームはね…?
アタシのイメージでこの子に、
色々な事をしてあげられるの…。
頭の中で思い描いた食べ物を
食べさせてあげたりね…」
#.163

暫く同じ様にして、
色々な物を食べさせていると、
少しだけ体力を取り戻したのか、
くろはヨロヨロと立ち上がり、
悲しそうな、実に悲しそうな表情で
しきりに何かを訴え始めた。

[ ΓФтΞγ⊆!&〓√ЙгеоΥΣ!? ]
[ 仝‡ЛЁ┰нΔΖυπΛδТЧЧЫ!! ]

[ くろ…?ごめんなさい… ]
[ あなたのことばがわからないの… ]
[ おこってるよね…? ]

(フルフル…)

くろは首を横に振った。

[ じゃあ さみしかったの…? ]

(コクリ…)

[ アタシ あなたのことをうらぎって ]
[ みすててしまってた… ]
[ とりかえしのつかないことをして ]
[ あなたをふかくきずつけてしまった… ]

(ポロッ…ポロッ…)

くろは涙を溢し続け、
亜美の話を聞いている。

[ きのうがあなたとの ]
[ やくそくのひだったのに… ]
[ あんなにやくそくをまもってと ]
[ いっていたアタシが… ]
[ やくそくをじぶんで ]
[ やぶってしまいました… ]
[ なんてあやまればいいのか… ]

(フルフル…フルフル…)

[ こんなにひきょうで みがってで ]
[ むせきにんで ひどいアタシを… ]
[ あなたは ゆるしてくれるの…? ]

(コクコク!コクコク!)

[ それでもずっと アタシをしんじて ]
[ まっててくれたの…? ]

(コクコク!コクコク!)

くろは瞳を潤ませ、何度も頷いている。

[ あなたはいまも アタシのことを ]
[ すきでいてくれるの…? ]

(コクリ)

くろは確かに、頷いた。

亜「黒の心は…閉ざされてなんていない…。
まだ間に合うかもしれない…!」

聖「…どーいうこった?」

亜「アタシの言霊で、もう一度黒が
ちゃんと話が出来る様に、
治してあげられるかもしれない…」

聖「そんなコト出来んのか?」

亜「…分かんない…。
その為にはアタシが本当にこの子の事を
好きで居なきゃダメなの…」

聖「…なんだそりゃ…。
つか、好きじゃねぇのかよ?」

亜「…好きだよ…?好きだと…思う…。
だけど…一度は見放しておいて、
今更そんな都合良く、
魔法が効いたりするのかな…って。
そんなの本当に好きだと言えるのかな…
って思うの…」

聖「…やってみなきゃ
分かんねぇだろがそんなモン…。
おめぇが償いの気持ちでコイツを
救い出してぇってんなら、せめて今は
そう思い込んでやんのが
ケジメってモンだろーがよ…」

亜「…聖は、それでも平気なの…?」

聖「ナメ過ぎだろオメー…たらーっ(汗)
たかがゲーム相手に焼き餅なんか妬くかよ」

亜「ゲームじゃないの!!現実なんだよ!?
これ!!本当に黒は生きてるんだから!!」

聖「わーったよたらーっ(汗)
じゃあ早く治してやれってあせあせ(飛び散る汗)」

[ くろ…?いま ]
[ なおしてあげるからね?だいすき! ]

[ …÷‰ПЭ…? ]

[ きいてないの…!?だいすき!だいすき! ]

(フルフル…)

[ ρдччщ… ]

亜「やっぱり…駄目なんだ…」

聖「………。」

亜「………。」

聖「さっき打ち込んでた、
昨日の約束ってなんだ…?」

亜「…この牢屋から出ると、
恐ろしい化け物達が
行く手を阻んでいるの…。
黒はそいつらと戦い、
このダンジョンから抜け出して、
聖からアタシを守る為に、
会いに来るつもりなの…。
その為にずっと、ずーっと…
ひたすらトレーニングを重ねて
努力して来たの…」

聖「…コイツん中では、おりゃあ
悪の大魔王かなんかってワケかよ…」

亜「うん…。その挑戦をする為の
約束の日が昨日だったの…」

[ くろ?いまからことだまで そこから ]
[ つれだせるかためしてみるからね? ]

(コクリ)

亜美は目を閉じ、
鉄格子の向こうに続く不気味な通路から、
光差す地上迄の道のりを思い描き、
イメージの中の痩せ細ったくろを
抱き締め入力した。

[ ワープ ]

[ ……… ]

画面の中のくろは不安げな顔で
立ち尽くしている。失敗の様だ。

亜「アレ…?やっぱ…無理なのかな…?」

今度は、今、自分と聖が居るその部屋に
くろが存在している様な光景を
イメージしながら入力した。

[ テレポーテーション ]

[ ιц…? ]

(フルフル…)

くろは残念な顔で、
また首を横に振っている。

[ エスケープ ]

(フルフル…)

[ リレミト ]

(フルフル…)

[ デジョン ]

(フルフル…)

[ だっしゅつ ]

(フルフル…)



亜「…やっぱ…無理なのかな…」

聖「………。」
#.164

(ポロッ…ポロッ…)

亜「黒…」

亜美の幾度かの試みが空振りに終わり、
遂に絶望を極めたのか、
くろは更に泣きじゃくりだした。

[ くろ…なかないで…? ]

[ ♯ÅΕΞ…!δОЯЬ…! ]

亜「どうしよう…」

聖「………。」

聖までもが悲しそうに口を尖らせている。



亜(…そうだ…!)

[ りく ]

[ …¢? ]

亜美が唐突に、その二文字を入力すると、
くろは不思議そうな顔をして、
ピタリと泣き止み、こちらを見た。

[ あなたの あたらしいなまえだよ ]
[ りく ]
[ おぼえてる?ずっとまえにあたしが ]
[ かんがえてあげるっていったの… ]

(コクリ…)

陸は、人差し指を口に当てながら、
幼さの残る無垢な仕草で、
ゆっくりと頷いた。

[ あたらしいあなたをしめす ]
[ このすてきななまえを ]
[ いっしょにかんがえてくれた ]
[ ひとがいるの ]



聖「…オメー…」

聖は、コントローラで素早く入力を打ち出す
亜美の横顔を見た。

[ もし りくがやっぱり ばけものたちと ]
[ たたかうのがこわいなら ]
[ やくそくなんてわすれて これからも ]
[ いままでどおり ]
[ おいしいごはんをたべながら ]
[ たのしくおはなしをしてすごそ? ]

[ ……… ]

陸は瞳を伏せ、戸惑っている。

[ でも どうしてもりくが やくそくどおり ]
[ アタシとめぐりあうために ]
[ そこからぬけだそうと ]
[ たたかいをいどむかくごがあるなら ]
[ ぜんりょくであなたのことを ]
[ まもってみせる こんどこそ ]
[ ぜったいに にげたりしないよ ]

[ ……… ]

[ あなたにあわせたい ]
[ すてきなひとがいるから… ]

聖「………。」



[ ………ΨХΣΖ! ]

(コクリ)

陸は顔を上げ、意を決したかの様な
勇ましい表情で首を縦に振った。
そしてゆっくりと出入口の扉に向かう。

[ あっ りく!ちょっとまって! ]

[ ? ]

陸はピタリと足を止め、
こちらに振り向いた。
亜美は、リポビタンDを思い浮かべた。

[ めしあがれ ]

[ !…Λπ…Λπ… ]

陸に届いた強力な滋養強壮剤は
その弱った肉体の芯から
体力をみなぎらせた。

[ りく がんばって!!アタシ ]
[ あなたをしんじてるから!! ]

(コクリ)

そして、亜美の"がんばって"という
言霊により、この瞬間陸の胸に
不屈の精神が宿った。

亜「…聖…?」

聖「…あ?」

亜「陸は…たった今から
凄惨な苦痛に耐えながら、
出口までの茨の道を
進まなければならないの…」

聖「…ほぉ」

亜「それは、アタシ達の想像を遥かに絶する
見るに堪えない程恐ろしい光景だと思う…。
それでも、目を背けたりせずに、
一緒に見届けてあげてくれる…?」

聖「…たりめーだ。
だから陸って名付けたんだべ?」

亜「ありがとう…聖も、
応援してあげて欲しいよ…」

聖「よっしゃ」



(キィ〜〜〜…… ガシャン)

今、陸によって牢屋の扉が
ゆっくりと押し開かれた。
そして、また再びその勇敢な一歩を踏み出し
通路を歩き始めた。

(バクン…バクン…バクン…バクン…)

亜美の鼓動が空気を伝い、
緊迫感と共に聖にも伝わっている。












亜「!」

聖「うぉっ…?」

画面が黒く覆われた。
最初の敵と遭遇した様だ。

(キシャァァァァッ…!)

聖「お、オイ…なんか聴こえんぞ!?」

亜「陸を殺そうと
襲い掛かってくる化け物だよ…」

聖「オイオイ…マジかよ…!?
いかにもゲームらしい
子供騙しなクオリティだったクセに、
いきなりリアルになりやがった…!?
オイ陸!負けんなよ!?」

[ ∇РИФюёёшΩ!! ]

まるで聖の声援に
応えるかの様なタイミングで、
陸は何かを叫んだ。

(ブギャァァァァッ!!!?)

(ボコォッ!!)

(ピチピチピチッ…)

スピーカーから鮮血がほとばしる様な
水々しい効果音が飛び出す。

聖「ちょ…なんだこりゃ!?
なんも見えねぇぞ!?やり合ってんのか!?」

亜「そう…だから、決着が着くまで
陸の姿を確認する事が出来ないの…」

聖「じゃあ、俺らは陸がどんなヤツと
やり合ってんのか見れねぇって事か!?」

亜「…うん…」

聖「クソったれ…!」
#.165

(ボクッ!!)

(ビャワワッ…!)

(ズボッ)

[ ΘС!! ]

[ だいすき!! ]

(ガッ!)

(ギャブッ…)

(ガンッ!!)

(ブァギャッ!!)

(ズブッ)

[ ◎〒…!! ]

[ だいすき!!だいすき!! ]

聖「…なにやってんだ!?」

亜「回復呪文だよ!こうやって
アタシの気持ちを伝えてあげる事で、
ブラインドの向こうでズタズタにされてる
傷付いた肉体を癒してあげられるの!
そうしなきゃ死んじゃうから!!」

聖「………。」

(ガツッ!!)

(グポァッッッ…!!!!)

聖(ビクッ)

亜「!」



徐々に画面が明るくなり、
亜美達は陸の姿を確認する事が出来た。

亜「勝った…!」

聖「なんだ…?随分呆気ねぇな…。
やるじゃねぇか」

亜「凄く…強くなってる…!
トレーニングの成果が出てるんだ…!」

聖「うわ、なんじゃこりゃ…!
よく見りゃ…なんか肉片や血が
飛び散ってやがんぞ!?」

亜「陸が今倒した敵の残骸だよ…」

聖「…きめぇ…」

[ りく!だいじょうぶ!?まほう きいた!? ]

(コクコク!)

陸はまた服を血で汚しながらも
こちらを向き、元気そうに
意思表示している。
そして、また進行方向を向いて、
更に突き進み始めた。

聖「…敵とバトってる時の音がエグいな…」

亜「うん…」




それから暫くの間、陸は亜美達の
予想に反して破竹の快進撃を見せつけた。
数匹の敵を順調に撃破しながら
着実に通路を突き進みつつある。

そこで、亜美達はある事に気が付いた。

聖「順調だな…もしかすっと、
このまま無事に陸を
救出してやれるかもしんねぇ…」

亜「…だったらいいんだけど…」

聖「つーかよ、さっきから連勝する毎に
なんとなくうっすらとバトル中の陸達の姿が
見えてきてる様な気がすんだけど…
気のせいか…?」

亜「やっぱ聖もそう思う…?
アタシも思ってた…。
それに…画面が心なしか、
少しずつ明るくなってきてる気がする…」

聖「出口が近くなってきてんじゃねぇか?」

亜「そうなのかな…。でも、あとね…?
段々と魔法を唱える回数が
増えてきてる気もするの…」

聖「敵が強くなってきてんじゃねーの?」

亜「ううん…なんだか…少しずつ
効かなくなってきてる感じ…」

聖「…マジか…?」

亜「…うん…あっ!!」

また敵と遭遇し、暗闇に覆われた。

聖「おい、来たぞ!?気をしっかり持てよ!
陸が好きなんだったら効果が出るんだべ!?
好きだって念じまくれ!!」

亜「分かった…!」

(イギイギイギイギイギイギイギイギ…)

(バキィッ!!)

(ギャパゥッ!?)

(ズチュッ!!)

[ 。@…!! ]

[ だいすきだいすきだいすき ]

亜「あっ…ホラ、やっぱり…さっきよりも
また更に明るさが増してる…!」

聖「だよ…な…?なんか敵のシルエットが
ぼんやり浮かんでっけどよ…
おりゃあてっきりバカデケェ姿の
バケモンをイメージしてたが、
案外そうでもねぇんだな…。
まるっきし陸と等身大じゃねぇか」

亜「うん…。(…このシルエットは…)」

(バキィッ!)

(プギャウッ!?)

(バキィッ!)

(プギャウッ!?)

亜(…まさか…!?)

微妙な程に少しずつ浮かび上がってきた
化け物のシルエットを凝視する程、
亜美はいい知れぬ胸騒ぎを覚えた。

(ボキッ…!!)

[ §Π…!! ]

聖(骨がイッたか…!?)

[ りく!だいすき!!だいすき!! ]

[ εКЁнх… ]

[ だいすき!だいすき!だいすきぃーっ!! ]

亜「…!?」

(イギイギイギイギイギイギイギイギ…)

その時、格闘を続ける陸の背面方向から
もう一体のシルエットが出現し、
近付いて来た。
その二体のうめき声は、スピーカーから
立体音響となって亜美達をも取り囲んだ。

(イギイギイギイギイギイギイギイギ…)

聖「オイ、挟み撃ちかよ…!?
そんなんアリか!?」

(イギイギイギイギイギイギイギイギ…)

亜「し…信じられない…!!」

[ りく!!うしろにもいるよ!?きをつけて!! ]

その言葉に反応した陸は、
振り向きざまに回し蹴りを放った。
背後の化け物の脇腹に陸の足がめり込み、
致命傷を負わせた事が大きな隙を産み、
その瞬間、陸の背中はがら空きになった。

一匹目の化け物はそこを目掛けて、
鋭く尖った腕を大きく振りかぶり、

(ズブォッッッ!!)

[ ξ!? ]

亜「ひっ…!?」

聖「っ…!!」

陸の胴体を貫いた。
#.166

亜「いやぁっ…陸が…!!」

[ κζМ…! ]

陸の口から泡立った血が吹き出した。

[ りく!!しっかり!!だいすきだよ!? ]

(ズブッ!!)

[ ⊇ヰГП!! ]

(グヂュッ!!)

[ νлжь…!! ]

立て続けに陸の腹部が二匹がかりで
滅多刺しにされ始めた。

聖「クッ…!キタネェ!!」

[ やめなさい!!ひきょうよあんたたち!! ]

(ウヒヒヒヒヒ…ヒキョウ?)

亜「!?」

(ズブッ!!)

[ Ф∬Δ!!Ё∪〓!! ]

(ウヒウヒウヒヒヒヒ…ヒキョウッテ、ナ゙ニ゙ガナ゙?)

(グッチャグッチョグッチャグッチョ)

[ πКЯтшν!! ]

(ガクガクガクガク…)

聖「しゃ…喋りやがった!?」

刺される度に陸は白眼を剥き、
あまりの激痛にもがき苦しんでいる。

[ あなたたちはいったいなにものなの!? ]
[ それいじょう ]
[ りくをきずつけたりしたら ]
[ ただじゃおかないわよ!? ]

(ウヒッ…ウヒッ…ドウ"タダジャオカナイ"ノ゙ガナ゙ァ?)

(ブチッ…グチョチョチョチョ…)

亜「いやぁぁぁぁぁっ!!!!」

聖「テ…メ…!?」

満身創痍になった陸は羽交い締めにされ、
もう片方の化け物に腰を掴まれると、
二体によってその体を強かに
引き千切られてしまった。

そのあまりにショッキングな仕打ちに、
亜美の意識は一瞬、遠のいた。

[ おねがい!!もうやめて!! ]
[ おねがいだから!! ]
[ もう りくはたたかえない!! ]
[ それでじゅうぶんでしょ!? ]
[ あなたたちのかちでいいから ]
[ もうゆるしてぇぇぇ!! ]

(………。)

(………。)

化け物達は、動きを止めた。

聖「オイ聞いてんのかゴルァ!!
それ以上手出ししやがったら
ゲームごと叩き潰すぞ!!」

聖は思わず叫んだ。

すると

(ズズッ…ズズッ…)

化け物達は陸から手を放し、
そのままゆっくりと画面の外へと
立ち去って行った。

亜「ハァーッ…ハァーッ…」

(バクン…バクン…バクン…バクン…)

(ポタッ…ポタッポタッ…)

聖「亜美、泣くな!!しっかりしろ!!
こんだけこっぴどくヤられても
魔法は通用すんのか!?」

亜「分かんないよ…やってみる…」

陸は、気絶していた。
床に転がる上半身と下半身の間には、
引き伸ばされた大腸や内臓が
グロテスクにはみ出ており、
ピクピクと生々しい痙攣を見せている。

[ だいすきだいすきだいすきだいすき ]
[ だいすきだいすきだいすきだいすき ]
[ だいすきだいすきだいすきだいすき ]
[ だいすきだいすきだいすきだいすき ]

亜美は陸の命を救う為に、
一心不乱に呪文を入力し続けた。

亜「き…効いてない…。どうしよう…!!」

聖「どうしよう…って…
どうにかなんねぇのかよ!!
このまんまじゃ…」

亜「陸が気を失ってて…
聴こえてないからなのかな…」

[ りく!!りく!!めをさましてよ!! ]
[ しっかりして!?りく!! ]

しかし、もはや肉の塊と化し、
退廃したその体からは、
ただ血が広範囲に広がり出すだけだった。
化け物の雑菌が感染してしまったのか、
亜美がモタモタと動揺する程に
細胞が肥大し、所々膿まで涌き始めている。

亜「ひ…ヒドイ…こんなのって…
こんなのって…!!」

聖「…マジで生身の人間なんだな…。
えげつねぇ…!!」

亜(もっと強力な言霊は無いかな…
これだけグチャグチャにされてしまった
体さえも元に戻せるような魔力を秘めた…)

[ りく!!ちょうすき!!めちゃくちゃすき!! ]
[ さいこうにだいすき!! ]

[ ……… ]

[ せかいで…このよでいちばん ]
[ あなたがだいすき!! ]
[ だいすきだから!!おねがい!! ]
[ しなないで!! ]

聖「…亜美…」

亜「……ウプッ…!!」

(ダッ…バタンッ)

聖「お、オイッ…!?」

その時、陸の姿を見つめ続けていた亜美は
突然の嘔吐感をもよおし、
堪らずトイレに飛び込んだ。













亜「オエ゛ーッ…!オエ゛ェェェーッ…!
ハァ―ッ…ハァーッ…ハァーッ…!!」

(ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…)

亜(…やっぱり…挑戦なんか…
させるんじゃなかった…!
こんな事になるなんて…!!)







聖「………。」



部屋に一人残された聖は、なす術も無く、
ただ画面の中の陸の姿を見守っていた。



聖「…よぉ…オメー、
このままくたばっちまうんか…?」



聖「…アイツに会えずじめぇでよぉ…」



聖「…陸ってなぁな、地に足がついた
立派な男にこそ相応しい名前なんだぜ…?
男だったらよ…どうにか元気んなって…、
会いに来てみろや…」



聖「…根性見せろよ…なぁ…?」
#.167

トイレの中で亜美は目眩を覚え、
意識が混沌としていた。

重圧感と自責の念に苛まれながら、
打開策や手立てを見出だせぬまま、
陸の生命力を取り戻す為の"言霊"を
自らの語彙の中から必死に模索していた。



亜「グスッ…ヒック……陸が死んじゃう…!
陸が死んじゃうよぉ…!
ヒグッ…ヒグッ…アタシ…
どうすればいいの…?
神様…助けて下さい…!」



混乱した頭の中で様々な言葉を
グルグルと思い巡らせている内に、
何故か突然、先程聖に見せられた
朱里のメールの不可解な暗号が
脳裏にチラついた。



亜(…hjrictlって…結局
どういう意味だったんだろう…。
…ヤダ…今そんな事
考えてる場合じゃないのに…)



自らを戒め、いくら思考を
切り替えようとしても、亜美の心の奥底に、
どうしても拭い切れない
違和感が引っ掛かっていた。



亜(…小笠原君のiを見つけて下さい…)



― 貴方と色々なお話が出来た ―
― この十日間。本当に幸せでした ―
― 沢山迷惑をかけてしまったよね… ―
― 本当にごめんなさい… ―
― これが、あたしから送らせて貰う ―
― 最後のメールです ―



亜(…西荻さんは…結局、本気で
聖の事を好きになってしまったの…。
それなのに、フられてしまって、
最後に聖へ一体何を
伝えようとしたんだろう…。
こんな風に、回りくどい
暗号にするという事は、
立場上ストレートに伝えるのが
躊躇われるような内容のメッセージが
隠されている様に思えてならない…)



― そしてアイツは ―
― ネットの世界に逃げた ―
― 現実から目を背ける為に ―
― ネット上で、自分の居場所を ―
― 探す為に日々、部屋の中で ―
― パソコンにかじりつきながらね… ―



― 特に今の若い世代の子達は ―
― 独自に次々と新しい言語を ―
― 産み出しつつあるわよね? ―
― そして、他にもネット用語や ―
― スラング等々…。それらの言葉にも ―
― 共通して言える事は ―
― 意味がある、という事―



亜(…西荻さんも…ネットをしている内に、
色んなネット用語を
使う様になったのかな…。
hjrictl…もしかしてこれも…
ソレらに近いものがあるのかな…)



― 人は、最も強く望む相手から ―
― 最も強く望む言葉を言われると ―
― それこそが"最大の回復呪文"となり ―
― その逆もまた然り ―
― 人間の叡知を越えた奇跡を ―
― 生み出す事さえもあり得るわ? ―
― みんなは、誰からどんな言葉を ―
― 貰えるのが、一番嬉しいかしら? ―



― うれしいことをいわれると ―
― あみにいちばんいわれたいことばを ―
― いってもらえると ―
― ぼくは そのたびに つよくなれる ―
― げんきになれる ―
― ことば と ことだま のちがいは ―
― たましいがやどるものか いなか ―
― あみが ぼくにたましいのやどる ―
― ことだまを あたえてくれるほどに ―
― ぼくは にくたいさえも とりもどす ―



亜(…陸が本当に求めている言葉…。
アタシに言って貰いたい言葉…。
そして…西荻さんの暗号の意味…。
分かった様な気がする…。
だけど…その"言霊"を
アタシなんかが使ったって、
本当に魂なんて…宿るのかな…)













亜(…ううん、宿してみせるよ。陸…)

(カチャリ)

亜美は立ち上がり、
トイレから出ると部屋に戻った。






聖「おっ…オイ…大丈夫か!?」

亜「うん…ごめんね…?目を背けずに
見届けるって言ったのはアタシなのに…」

聖「…しゃあねぇだろ…。
こんなどギツい場面見せられちゃ…
まともな神経なら普通オカシくもなんぜ…。
しかし、どうするよ…?」

亜「多分…大丈夫」

聖「あ…?」

亜「…今、最強の魔法。唱えてあげるから」

聖「お……マジか…?
そんなもんあんなら最初っから…」

亜美は、確信めいた表情で、
凛然とコントローラを手に取った。
#.168

2011年10月19日 5:00 AM

[ りく!!きこえてる!?きこえてたら ]
[ すこしでもいいから ]
[ はんのうをみせて!! ]

しかし、陸はピクリとも動かない。
はみ出た内臓は、
まだ微かに脈を打っている。

聖(まさか…もう息絶えちまったんか…?)

[ りくーっ!!!!りくーーっ!!!! ]

(ピクッ…)

亜「動いた…!?」

聖「うぉ…」

陸は、片方の目で
ほんの少しだけ、瞼を開いた。
亜美の懸命の呼び掛けに
意識を取り戻した様だ。

[ りく…よかった…あのね? ]
[ よくきいて!アタシは あなたのことを ]
[ あいしてる ]

(ビクッ!!…グジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュ…)



聖「うぉぉぉっ…!?すげぇっ!!」

(グジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュ…)



亜美が唱えた「魔法」は、
陸の耳に無事届き、心に染み渡った。
その瞬間、分離した陸の体は急激な速度で
まるで引き寄せ合う磁石の様に床を這い、
こぼれ出た臓器が浄化されながら
細胞の修復が始まった。



(ムクッ)

[ ア……ミ……モ…イチ……ド… ]

聖「こ、言葉が戻ったんじゃね!?
もう一度だってよ!?
早く打ち込んでやれ!!」

亜「うん!」

[ りく!あいしてるよ!? ]

(グジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュグジュ!!)

(スクッ)

亜「あ…あ…!陸…!陸!!」

聖「奇跡だぜ…!」

亜美の愛をその身に受け止めた陸の肉体は、
たちまち完全に再生を遂げた。
今や無傷となった姿で平然と立ち上がり、
活き活きとした眼差しでこちらを見ている。

[ アミ ボクモ アイシテイルヨ アリガトウ ]

(ポタッ…ポタッ…)

亜「うっ…うぅっ…良かった…!
本当に良かった…!!」

聖「喜ぶのはまだはえぇ!
陸のガチンコ勝負は
こっからなんじゃねぇのか!?
ここまで来たら後にゃ退けねぇだろ!?」

亜「グスッ…ズズッ……うん…そ…だね…。
まだ少し文字がおかしいけど…
でも…ホント、嬉しくって…」

[ りく…よかったね…! ]
[ ホントよかったね…!! ]

[ ウン モウイチド コウヤッテ ]
[ アミトオハナシデキルナンテ オモワナカッタ ]
[ アイシテモラエルナンテ ユメミタイダ ウレシイヨー ウレシイヨー ]

[ ごめんね…!? ]
[ つらいおもいをさせて…ごめんね!? ]

[ アヤマラナイデ アノトキ ]
[ アミヲコワガラセテシマッタボクガワルインダ ]
[ ソレデモ コウヤッテモドッテキテ ボクヲ アイシテクレタ ]
[ ソレダケデ ジュウブンダヨ ]

[ りく… ]

[ ナニヨリ アミヒメガブジデヨカッタ ]
[ ヒジリノマノテニカカッテシマッタノカト シンパイダッタヨ ]

聖「…なるほどな」

亜「気にしないでね…?」

聖「分かってら」

[ うん アタシはだいじょうぶだよ ]

[ リク リク リク…ステキナナマエダナァ… ]
[ ドンナニステキナヒトガ カンガエテクレタノ? ]
[ ボク アッテ チャントオレイヲイワナクチャ ]

[ うん!あえたなら りくにも ]
[ しょうかいしてあげるからね! ]

[ ……… ]

そこまで話すと、陸は急に
浮かない表情で俯いた。

[ りく…?どうしたの…? ]

[ ヤ ヤッパリ…ボク… ]

亜「…さっきのが余程痛くて、
苦しかったのかな…」

聖「…無理もねぇ…。
いくら最強の魔法があるっつっても、
ありゃあ拷問だぜ…」

陸は、怖じ気付いてしまったのか、
ガタガタと震えている。

[ りく…?こわい…? ]

[ ……… ]

(コクリ)

亜「……なんて…
声をかけてあげればいいんだろ…」

聖「…ちょっとの間、
そっとしといてやりゃー
いいんじゃねぇのか…?」

亜「…分かった…」

[ りく…?じゃあ ちょっとだけ ]
[ きゅうけいしよっか ]

[ ……… ]

そう声をかけると、陸は通路の壁際に移り、
小さく縮こまってしまった。

亜「…可哀想…」

聖「………。」

亜「……そういえば、
さっき陸と戦ってた二匹…」

聖「…おぅ、声を出して
喋ってやがったな…」

亜「うん…アイツらの声を聴いて…
デジャブを感じたの…」

聖「…どういうイミよ?」

亜「夢に出て来たの…。物凄く…怖い夢…」

聖「…どんな夢?」
#.169

亜「…まるでさっき集中攻撃にあって
ズタズタにされてしまった
陸みたいな姿をしていた…。
ソイツは体の腐敗が進んでいて…
どことなく…ううん、むしろまるっきり
さっきの二匹のシルエットに
声までもがそっくりだった…」

聖「…ソイツに
襲われそうになった夢かよ…?
そりゃこえーな…」

亜「うん…それでアタシ…思ったの」

聖「何をだよ」

亜「このゲームのタイトル…
『ヨコシマの黒』の"黒"っていうのは…
もしかして、陸の事じゃなくって、
行く手を遮る奴ら化け物達の
事なんじゃないかな…って」

聖「…出た出た。またなんか小難しい事
ボヤきはじめやがって…。
あん?どーゆー事よそれ?」

亜「…アタシの事を理解する為に、
ゲームを教えてくれって言ったのは(ry」

聖「ハイハイハイハイハイハイハイハイッッッあせあせ(飛び散る汗)
分かりやした!!ちゃんと真剣に考えます!!
向かい合いますごめんなさいあせあせ(飛び散る汗)」

亜「…興味無いなら無理にとは言わna(ry」

聖「だぁーっ…ショボくれてんじゃねーよ
悪かったって!あせあせ(飛び散る汗)態度を悔い改める
努力しますよってにあせあせ(飛び散る汗)」

亜「………むかっ(怒り)」

聖「………あせあせ(飛び散る汗)(この目がつれぇ…)」

亜美は、上目遣いの涙目で
聖を睨み付け膨れている。
聖は、思わずご機嫌を取る為に
亜美の頭を撫でた。

かかぁ天下コースまっしぐらである。



亜「…さっきの戦闘中のシルエットじゃ
ハッキリとした事は
確認出来なかったけど…。
夢の中にでて来た奴は、
ボロボロに腐り果てたボーダーの
布切れを身に纏っていた…。
アタシの推察では、もしかしたら
さっきの奴らもボーダーの囚人服を
着てたのかもしれない…。
つまり、それがどういう事なのか…」

聖「…おう」

亜「…牢屋の外で行く手を遮る
化け物達の正体は…今までこのゲームで
遊んだ過去のプレイヤー達が
救い出すのに失敗したくろの死体の
"成れの果て"なんじゃないかなって
気がするの…」

聖「………。」

亜「…過去のプレイヤーに
愛して貰えずじまいで、
脱出が叶わぬまま朽ち果てていった
亡者の黒達が…今また脱出に挑戦する、
プレイヤーに愛されている生きたくろを
妬んで、僻んで、羨んで、
自分達と同じ様に死に追いやって
引き摺りこもうとしてる…。
それがこのゲームの世界を形創る
悪循環のシステムなんじゃないかなって…
思うの…」

聖「…ゔ〜ん…よく分かんねぇな…。
じゃあよ?化け物共が黒で、陸も黒なら
いってぇ呼び名の何が違うんだよ?」

亜「このゲーム…
画面の中に表示される文字は、
タイトル画面のロゴ以外、
全て平仮名か片仮名なの…。
それで最初、陸が自分の事を
くろって名乗ったのを見た時、
タイトルの先入観につられて
漢字で書き表す黒なんだと
ずっと思い込んでたの…。
だからひょっとして…今生きてる陸は、
ボーダーの服を着ているだけの
"横しまのくろ"。つまり平仮名表記。
もし、アタシが陸を愛し切れずに
見殺しにしてしまったら、
あの化け物達みたいに憎悪に満ちた
"邪の黒"になっちゃうんじゃないかなって
思うの…」

聖「…お〜…なるほどなぁ…。
なんか、こえーな。そーゆーの…」

亜「このゲームね…?
先月の今ぐらいの時期に、
街の見慣れないゲームショップで
中古で買ったんだ…。
でも、こないだ話した裕美さんて人に
このゲームの事を話したら、
正規では存在しない物なんだって…」

聖「…ほぅ。そりゃまぁ、
なんか色々と不思議な感じだからな。
ヤベェ臭いがプンプンすんぜ…」

亜「でしょ…?だから、どこかの誰かが
これを個人で造って、
販売ルートに流出させた意図や、
ゲーム自体を創作した意図が…最近なんか、
陸奥さんがアミクエを作った意図と、
どこか近い物がある様な気がするの…」

聖「…そりゃ感情移入の
度が過ぎるワケだよな…。
だったら、今まで色んな奴らが
このゲームをプレイして、
感情移入もクソもねぇままに
ゲームオーバーになって、
つまんねぇからまた売って、
そんで違う奴がそれを買っての
繰り返しであの化け物共の
愚連隊が集まったってワケか…」

亜「…アタシはそんな風に解釈してる…。
真偽は解らないケド…」
#.170

聖「…それにしても、
黒って奴らも羨むワケだぜ…」

亜「…え…?」

聖「俺でさえオメーに愛してるなんて台詞、
言われた事なんかねぇってのによ…。
幸せなガキだよな…」

亜「…聖までヨコシマにならないで…。
そんなのちっともらしくないよ…」

聖「…へっ…」

亜美は、冗談ぽくふて腐れる聖を尻目に、
画面へと視線を戻した。

陸は未だに隅っこで震えている。

[ りく…?どうしよっか…すすむ…? ]

(フルフル…)

陸はイヤイヤと首を振る。

[ じゃあ…もどる…? ]

(フルフル…)

[ だったら…どうしたいの…? ]
[ ここでいつまでもじっとしてちゃ ]
[ またアイツらがきて ]
[ おそわれちゃうよ…? ]

[ コワイヨゥ…コワイヨゥ… ]
[ モウ イタイノハイヤダ… ]

亜「…どうしよ…このままじゃ…
また同じ事の繰り返し…」

聖「…チッ、情けねぇ…見てらんねぇや。
貸せよオラッ(パシッ)」

聖は亜美の手から
コントローラをひったくった。

亜「何するの!?やめてっ…!
返してよっ…!」

聖「俺にも話ぃさせろや!」

亜「何を話すつもり!?お願いだから
変に刺激する様な事言わないで…!
今一番ナーバスになってるんだから!」

聖「っせーな!ちったぁ信頼しろって!
男と男の話だってあんだろが!!」

亜「もぉっ…!(バシッ)」

亜美は半泣きで聖の背中を叩きつけ、
指が食い込む程きつく、その腕を掴んだ。

聖は慣れぬ手つきでぎこちなく
コントローラを握り、
モタモタと五十音入力を開始した。

[ おい りく ]

(スクッ…)

[ ダレダ?オマエ ]

聖「!」

亜(陸の目が…変わった…!?)

聖がメッセージを打ち込んだ途端、
陸は血相を変えて立ち上がり、
変貌を遂げた鋭い表情で、
こちらを睨み付けてきた。

[ おれが ひじりだ ]

[ ナンダト?アミハドウシタ? ]

[ あみは おれがいただく ]

[ ワタサナイ オマエナンカニ ]
[ アミハゼッタイ ワタサナイ ]

[ やんのか? ]

亜「ちょっと…何考えてんの!?やめて!」

聖「っせー黙って見てろ!」

[ ボクノナマエハ リク ]
[ アミヒメヲマモル ユウシャダ ]
[ アミニテヲダシタラ ユルサナイゾ!! ]

[ だったら そんなとこでびびってねえで ]
[ さっさとおれのとこまであいにこい ]
[ それまではなにもせずにまっててやる ]
[ にげもかくれもしねーからよ ]
[ あんまりおせーと ひめさまが ]
[ どうなっても しらねーぜ? ]

[ ………ノゾムトコロダ… ]
[ ノゾムトコロダッ!!マッテイロ!! ]
[ カナラズオマエヲ ]
[ タオシテヤルカラナ!! ]

[ じょーとーだ こら ]

聖「…そらよ」

亜「…信じらんない…」

聖は亜美にコントローラを返した。

聖に神経を逆撫でられた陸は、
今一度闘志を奮い立たせ、
立ち上がると共に、ダンジョンの
出口に向けて走り出した。



[ ウオォォォォォォォォォ!! ]

亜「陸…!」

聖「その意気だぜ陸…!
俺をぶっ殺しに来い!」



すると直ぐ様、更なる敵が立ちはだかり、
画面が少しだけ暗くなった。

[ ウワァァァァァァァァァァッ!!!! ]

(ズドォッ!!)

(ビクッ)

助走の勢いに任せて陸はそのまま
黒の顔面を殴りつけた。
スピーカーから飛び出すその凄まじい音に
圧倒された亜美と聖は、
思わず肩をビクつかせる。

(ギャハゥッ……ドシャァッ!!)

亜「嘘…一撃!?」

聖「よっしゃぁぁぁっ!!
いいぜ!?陸ぅぅっ!!」

倒れ込み地面と同化してゆく黒を
踏みつけ乗り越えると、陸は
更に更にと光射す方へ駆け抜けて行く。
その姿こそは勇敢な騎士そのものだった。

[ アミハ…アミハ ボクガマモルンダ…!! ]
[ ヒジリナンカニワタサナイ…!! ]

聖「…分かるぜ、その気持ち」

亜「聖…」

出口が間近なのか、
画面はいよいよと明るさを増してきた。



しかし




聖「うぉっ…!?」

亜「ひぃっ…!?」

ゴール目前に構えて居たのは、
おびただしい数の黒の群れだった。

(ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…)

(ココハトオサナイヨー!トオセンボー!)

(オマエモスグニナカマニ
イレテアゲルカラネー!)

(コロスヨー!コロシチャウヨー!
コロスカラネーグチャグチャニー!)

[ ドケェェェェェェェェッ!!!! ]
#.171

陸はおぞましい大群を前にひるむ事無く、
真っ向から果敢に立ち向かって行った。
今となっては一切のブラインドも無い、
真剣勝負の修羅場である。

[ りく!!まけないで!! ]

[ ウオオオオオオオオオオオッ!! ]

(ボコォッ!!)

(ギャプァッ…)

聖「っし…!一匹!」

[ ウァァアアッ!! ]

(ズブォッッッ!!)

(ゲヒャッ…!!)

亜「二…匹…!」

(ドスッ)

[ ブエッ…!! ]

[ あいしてる!! ]

(グジュグジュグジュ…)

[ ジャマヲスルナァァァァァァァッ!! ]

(ガツッ!ガツッ!)

(グパヘァッ…!)

(ピァーッ…!!)

聖「うははっ…すげぇっ!すげぇよ陸っ…!
無敵じゃねーか!」

(ドチャッ…)

[ オブッ…プ! ]

(グチャリ…ブプチュッ!!)

[ オゲェェェェェッ…!? ]

[ りく!あいしてる!! ]

(グジュグジュグジュ…)

[ アミヲッ… ]

(ドブッ!!)

(ギャウッ…!!)

(スパッ!!)

[ エブッ…!?ア゙ミ゙ヺ…マ゙モ゙ル゙ンダ…!! ]

[ あいしてる!!あいしてるよ!? ]
[ がんばって!! ]

亜「ウッ…ウッ…ヒグッ…ウッ…
り…く…!(ポタッ…ポタッ…)」

聖「大丈夫…!大丈夫だ…!
コイツだったらぜってぇやってくれる!
信じろよ!?」

亜「ハ…ィ…!会えた時は…
うんと幸せにしてあげるからね…?陸…!」

[ ボクハァァァァ!!!! ]

(バキィッ!!)

(クパッ…!)

(ドゴォッ!!)

(ゲァッ…)

(ガツンッ!!)

(ブプァッ…!)






[ ユウシャ リクダァァァァァァァァァァァァ!!!!!! ]

(バコォォォォォッ!!!)

(ギャプァッ!!)

(ダメダ!カナワナイゾ!ニゲロ!)

(マサカダッシュデキルクロガアラワレルトハ!!)

(ウラヤマシィィィィッ!!)

(ネタマシィィィィッ!!)

(ウラメシィィィィッ!!)

(ボクタチモ、アイサレタカッタァァァァァァッ!!)



獅子奮迅で闘う陸の圧倒的なパワーに
敵わないと見切りをつけた黒達は、
ぞろぞろとダンジョンの
奥深くへと退散して行った。

1人その場に残った陸は、
敵陣の背を見送ると振り返り、
目の前に眩しく照らし出された
ダンジョンの出口へと顔を上げ
暫しの達成感を噛み締めた。

[ アミ…ボク…トウトウココカラ デラレルンダネ… ]

[ うん…ほんとうに…ほんとうに… ]
[ よくがんばったね…! ]
[ うれしいよね…!おめでとう…りく! ]

聖「…ズズッ…んはぁっ……ケッ…」


聖も

亜美と共に

涙を溢していた。


[ ココカライッポ ソトニデタラ キット ボクノシラナイ ]
[ ヒロイセカイガ マブシイホドニ ヒロガッテイルヨ ]

[ うん そうだね… ]

[ センネンノジクウヲコエテ イクセンノジダイヲコエテ ]
[ ハテシナクヒロガル ヒロイセカイノナカカラ ]
[ アミト メグリアウコトハ キット トテモムズカシイコトダトオモウ ]

[ うん… うん… ]

[ トテモ トテモ タクサン ジカンガカカルカモシレナイ… ]
[ ソレデモ アミハ ボクノコトヲ ズット マッテテクレルカイ…? ]

[ うん…しんぱいしないで…? ]
[ アタシ ずーっと まってるから… ]
[ ステキなひとといっしょに ]
[ あなたのことをちゃんとまってるから… ]
[ あいにきてほしい… ]
[ こわれてしまうくらいに ]
[ だきしめてほしいよ… ]

[ …アンシンシタ… アンシンシタヨ…コレデボクハ ]
[ ユウキヲダシテ タビダテル ]
[ オイ ヒジリ ボクノコエガ キコエテイルカ? ]

亜「聖…!返事してあげて!」

亜美にコントローラを手渡されると、
聖は慌ててそれを持ち直した。

聖「わたたたた…あせあせ(飛び散る汗)な、なんだぁ!?」

[ あ?おれか? ]

[ ヤクソクシロ ]

[ なにをだよ ]

[ ボクガ アミノモトニ タドリツクマデ ]
[ ナニガアッテモ アミヒメヲ カナシマセタリ ナカセタリスルナ ]

[ おう いーぜ そんかわし ]
[ さっさとこいよな ]
[ おれもてめーのつら ]
[ おがんでやりてえからよ ]

[ ワカッテル ]

聖「へっ…生意気に…」

[ アミ ]

聖「おい」

聖はまた、亜美にコントローラを返した。

[ はい… ]

[ サヨナラ ]

陸は、最後の涙を流した。

[ うん さよなら…りく? ]
[ きっとアタシたち あえるよね…? ]



しかし陸は



亜美の問いには答えぬまま



背を向け



外の世界へと







旅立った











すると画面全体が白い光に包まれ、
暫くすると
#.172

2011年10月19日 6:00 AM

『ヨコシマの黒』のタイトル画面に戻った。

カーソルは、また
"出会い"を指し示している。

そして、"出会い"と"再会"の選択肢の下に
「正」の文字の一画目を示す「一」が
静かに表示されていた。



聖「終わった…のか…?」

亜「うん…全クリ…だね…」

聖「…なんか、一番下に
一って字が出てきてんぞ?」

亜「…多分…救出に成功したくろの
人数を表してるんじゃ…ないかな…」

聖「…てこたぁ、陸が初めての
生還者ってワケかよ…?」

亜「…かもしんない…。
また"出会い"を選んでゲームを始めたら…
新しいくろが生まれちゃうんだろうな…」

聖「………。」

(プツッ)

亜美は本体の電源を切り、
カートリッジを抜いた。

(チュンチュン…チュンチュンチュン…)

(ブロロロロ…)

窓の外から夜明けを知らせる雀の囀ずりと、
新聞配達のバイクが走り去る音が、
しんと静まり返る部屋の中に際立つ。
雨はすっかりと止んでいるようだ。

亜「…一緒に夜明けを迎えたの…
二回目だね…」

聖「…あ?初めてはいつだっけ?」

亜「…忘れちゃったの…?」

聖「………。」

亜「陸奥さんの家に、
アタシを助けに来てくれた時だよ…」

聖「あぁ…そうだったな…。わり」

亜「………。」

聖「………。」

亜「陸…逢いに来てくれるかな…」

聖「…おぅ、ぜってぇ来ると思うぜぇ?
凄まじい形相で
睨み付けてやがったからよ…」

亜「…クスッ。ぶっコロされちゃうね…」

聖「…へっ、覚悟は出来てらぁ。
タダじゃヤられやしねぇけどな…」

亜「…ううん、その時は…
アタシがちゃんと守ってあげるよ…」

聖「…ほぉ〜…珍しく強気だな」

亜「だって…二人共アタシの
大切な人だから…」

聖「………。」

亜「………。」

聖「…そーいやよ…」

亜「ん…?」

聖「西荻の暗号、
結局なんだったんだろーな…」

亜「…もう、いいじゃない…。
解んないなら仕方ないよ…。
わざわざ暗号にするって事は、
伝わっても伝わんなくても、
どっちでもいいって事だと思うよ…?」

聖「…そーだな。このゲームの存在といい、
陸奥の動機といい、世の中所詮、
解んねぇ事だらけだ…」

亜「(聖は…暗号の意味なんて
ずっと解んなくてもいいよ…。
西荻さんの想いを、一生引き継いで
生きていくのはアタシなんだから…)
………聖…?」

聖「…あん?」

亜「こっちを向いて…」

聖「?」






















亜「…愛してる」

聖「………。」

亜「………。」

聖「…俺もだ」





窓から射し込む

朝日に包まれた二人は

現実を忘れ

時間を忘れ

口付けを交わし

ただキツく

夢中で抱き合った























その後、亜美は『ヨコシマの黒』を
売却する事は無く。
またデスクの引き出しに封印した。

また次に、残酷な現実に苦しむくろを
誰かの手によって
生み出されてしまうのを防ぐ為に。
そして、陸の面影を肌身離さず
持って居たいが為に。

また1ヶ月前の日常に戻った亜美は、
ゲーマーとしての生活に区切りを着け、
産まれたての誉を含む四人家族で
本格的に受験生としての本分に着いた。
#.173

2011年11月中旬

(キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…)

(ザワザワ…ザワザワ…)

昼休み、今日も聖は購買部にて
焼きそばパンを調達し、
教室以外で食べる場所を校内に探していた。

B組の教室に居る杉山とキムチとは
未だにギクシャクしていたからだ。

聖(…天気もいいし、
どーせ誰も居やしねぇから屋上でいっか…。
最近また亜美の奴、付き合いわりーな。
そんなに俺より柳達の方がいいんかよ…。
ケッ…)



(♪〜♪♪〜♪〜♪♪〜)



その時、どこか遠くで美しい
ピアノの音色が聞こえてきた。

聖(…最近、どっかからこのメロディが
うっすら聞こえてくんだよな…。
どっかで聴いた事があるような気が
すんだけど…いっつも思い出せねぇ…。
モヤモヤすんぜチキショー…)



最近になって校内に小さく響くようになった
その優しい旋律に、
聖の胸はむしろもどかしさにくすぐられた。

気になって仕方ない聖は、
音の出所を探る為に、
聞こえて来る方向へと辿り始める。

暫く歩いて行き着いたそこは、
音楽室だった。

聖は、腰パンのポケットに
だらしなく手を突っ込んで扉に近付き、
そっと耳を傾けて中の様子を伺った。

(♪〜♪♪〜♪〜♪♪〜)

聖(………やっぱこの曲聴いた事あんぜ…!
あ゙ーっ…いつだっけなぁ!?
思い出せねぇぇぇっあせあせ(飛び散る汗))

聖は恐る恐ると少しだけ扉を開け、
隙間から中を覗き込んだ。

その視線の先の
ピアノの席に座って居たのは、
また見覚えある後ろ姿だった。

聖(…ありゃあ…西荻…?)

ピアノの練習でもしていたのだろうか、
朱里は演奏を止め、
楽譜を纏めて立ち上がり、
扉の方へ歩いて来る。

聖(やべっ…あせあせ(飛び散る汗))

聖は慌ててその場を去ろうと踵を返した。

(ガラガラガラ…)

朱「…あれ…?小笠原君…?」

聖「(やべ…見っかった…あせあせ(飛び散る汗))
お、おぅ…久々だな…」

聖はバツが悪そうに振り向く。

朱「うん…久しぶりだね」

聖「…今ピアノ弾いてたの、
おめぇだよな…?」

朱「え?…うん、
ちょっと前に始めてみたんだ…。
小笠原君の影響を受けて…」

聖「俺の?」

朱「うん…文化祭の時、小笠原君が
奈倉さんの為にラブソングを
歌おうとしてたみたいに、
あたしがいつも聴いてる好きな曲を、
いつかまた出会う大切な人の為に、
歌ってあげられたらいいな…って。
あたしも何か楽器を
始めてみようと思ったの。
ピアノだったら、ちっちゃい頃に
ちょっとだけ習ってたし…」

聖「(思い出した!さっきの曲…
会ってる時コイツが
口ずさんでやがった歌だ…!)
ほぉ〜。つか、勝手に音楽室のピアノ
弾いていいんか?」

朱「先生にお願いしてみたんだぁ。
なるべく近い内に自分の楽器を買うし、
それまでは昼休みに少しだけでいいから
音楽室を使わせて欲しいって…」

聖「…そーか。ま、ガンバレや」

朱「…………うん…頑張る…。
小笠原君も…ベース、頑張ってね…」

小さく言い残し、朱里は楽譜を抱え、
軽く会釈しては顔を伏せて
その場を立ち去った。

そんな朱里の哀愁を帯びた後ろ姿を、
聖はただ、黙って見送るしか出来なかった。


聖(俺の影響……か…)





(ブーッ…ブーッ…ブーッ…)

その時、ポケットの中のケータイが震えた。

聖(…お、誰だ…パイセン…?)

着信の相手は葛西 晃だった。

聖「(ピッ)オイッス」

晃「おぅ、聖けぇー。
放課後ちっとツラ貸せやー」

聖「…穏やかじゃねぇ呼び出しっすねー。
なんかやらかしやしたっけぇ?俺ー」

晃「っほぉー…身に覚えがねぇたぁ
めでたいオツムなこった。
いいから終わったら早速校門前来いやー。
いいモンくれてやっからよー」

聖「…リンチっすかぁ?
あんまカワイイ後輩
イジメね〜でやってクダサイよ〜」

晃「っせぇよ。その生意気な口
叩けなくなるよーなシロモンだ。
せいぜい楽しみにしとけや(プツッ…ツー、ツー)」

電話は一方的に切れた。

聖(…おーコワ…)
#.174

放課後。聖は葛西 晃の命令に従い、
チャイムと同時に教室を抜け出し、
校門前に赴いた。

(ザッザッザッザッ…)

聖「ウッス…なんすか?いってぇ」

晃「付いて来いや」

開口一番、そう言い放った晃の言葉に従い、
聖は怪訝な顔をしながら
全速力でチャリンコを走らせ、
前を走る晃の原チャを追いかけた。

先導に従い、辿り着いたのは、
マスタングの面々がよく打ち合わせや
ミーティングを行う場所とされている
北高軽音部員御用達の喫茶店だった。

聖(…ここ、パイセン連中の
溜まり場じゃねぇか…。
こりゃ本格的にリンチの線が濃厚だな。
何のいわれだか知らねぇが、
とりあえず腹だきゃくくっとくか…)

(カランコロン…カランコロン…)

店主「いらっ…おぉ、聖君。久々だねぇ。
無礼奴の調子はどうだい」

聖「…ボチボチっすわ、おやっさん…」

晃「いーからそこ座れ。
オヤジ、ミックスジュース二つ。
それと預けといたモン、くれ」

店主「はいな」

店の主人はカウンターの中から
楽器のハードケースの様な物を取り出し、
晃の手に返した。

晃はそれを傍らに置いて、
ドッカリと聖の目の前の席に座る。
ミックスジュースは間も無く運ばれて来た。

(コトッ…コトッ…)

晃「飲め」

聖「…奢りすか?」

晃「おう」

聖「…アザース(チュルーッ)」

聖は、強引に促されるまま
ストローに吸い付いた。

晃「まぁ、おめぇの奢りだけどな」

聖「ブフォッダッシュ(走り出す様)あせあせ(飛び散る汗)」

そしてむせ返り、逆噴射した。
聖の鼻から鼻水が垂れる。

聖「ケホッ…そっちから呼び出しといて
なんすかソレ…」

晃「いいモンくれてやるっつったべ?
それの代金代わりとしちゃ相殺だ」

聖「…いいモンってのは?」

晃「コレだよ」

晃は聖にハードケースを差し出した。

聖「…こりゃあ…?」

晃「使わなくなった俺のベースだ。
軽くヴィンテージ入ってっから
音は頼りねぇが、おめぇだったら
微調整できんだろ」

聖「………貰えねぇっすよ、
こんな上等なモン…」

晃「遠慮すんなや、受けとれ」

聖「遠慮とかじゃなくt」

晃「いいから黙って持ってけぇーれや」

聖「………。」

晃「………。」

沈黙に支配された二人の間に、
サイフォンコーヒーが煮立つ
芳ばしい香りと、穏やかで上品な
ブルースのBGMが流れる。

晃「…俺ら主催のイベントを
蹴りやがったから、
なんかあったんかと思って、
こないだ杉山に話ぃ聞いたらオメーよぉ、
無礼奴辞めたらしいな」

聖「………。」

晃「何がボチボチだよ。笑わせんなっつの。
聞けば理由がシラケちまっただぁ?
楽器までオシャカにしちまったってよぉ、
どーゆー事なんよ。
ナメてんのかコラ説明しろ」

聖「…女の為っすよ」

晃「あ?こないだboogieに
連れて来てたネーチャンか?
女に辞めろって言われたから辞めんのか?」

聖「ちげぇやすよ」

晃「じゃあなんよ」

聖「…アイツは、俺が
楽器なんかやってたって喜ばねぇすから」

晃「…んなコトねぇんじゃねーのか?」

聖「………。」

晃「あの娘、学祭ん時ドンチャン騒ぎに
巻き込まれてたバニガの娘だべ?
流れにノせられてオメーが歌うっつった時、
嬉しそうに照れてたじゃねぇか。
俺はちゃんと見てたぜ?」

聖「…その一件じゃ軽く
揉めやしたけどね…」

晃「…オメーは女に
媚びる為に生きてんのか」

聖「………。」

晃「それが今までテメーがウタって来た
パンクの生きざまか」

聖「………。」

晃「そんなテメーに
パンクを語る資格はあんのか」

聖「………。」

晃「女を腰にブラ下げて
語って居られる程パンクってなぁ
甘ったりぃモンじゃねーんだよ」

聖「…っせーんだよ!!
こんなモン要らねぇ!!(ドカッ)」

聖は先輩の言葉により激情に駆られ、
思わずハードケースを足蹴にした。

晃「誰に口利いてんだゴルァ!!」

晃はすかさず立ち上がっては
聖の胸ぐらを掴み上げ、怒声を張り上げた。

店主「おーおー…威勢がいいねぇ。
悪いけど外でやってくんな」

晃「…わりぃなオヤジ。
オラこっち来いや!!(グイッ)」

聖「離せやコラ!!っコロすぞ!!
(ブチッ…ブチチッ…!!)」

晃に外へと引き摺り出された聖は
顔を真っ赤にし、
胸元のボタンが弾け飛んだ。
#.175

(ドカッ…)

聖「…ってーなクソッタレ!!
余計な世話なんだよ!!」

店の裏手にある路地に
引き摺り込まれた聖は、
力任せに壁に押さえつけられた。

晃「じゃかぁしーわヴォケ!!
オラッ!!(ドスッ)オラァッ!!(ドスッ)」

聖「おぶぇっ…!!」

晃の拳に叩きのめされるがまま、
血気に溺れた青年は地にひれ伏す。

晃「いきがんのも大概にせぇや!!
テメー…一年坊の頃、生意気に俺らに
短歌キッて北高のてっぺん取るバンドを
演ってやるっつってたろーが!!
俺らの洗礼を受けてもヘコたれずに
この三年間テメーが懸けて来た情熱は
そんなヤワなモンだったんか!?」

聖「…ぐぅぅぅぅ…!!」

晃「ハァ…ハァ…うんとかスンとか
言ってみろコラァァァァ!!!!」

(ドカッ…バキッ…ボコッ…)

聖「おごぉぉ…」

晃は完全にグロッキーと化した
聖の髪を鷲掴み、目を真っ直ぐ見つめた。

晃「ハァ…ハァ…ハァ…!
よぉ、しっかり聞けや?
女の為にいいカッコしたくて
バンドやってたんなら
それはそれで構わねぇし、
ダセェ事だと俺は思わねぇ…。
だけどよぉ、バンド辞めてまで、
ベースを辞めてまで、
愛の歌ぁウタう事を辞めてまで、好きな女が
心の底から喜ぶわきゃねーだろが…。
そこを見失ってんなよ…」



― 文化祭だのライブだのに ―
― こだわんなくたって ―
― アタシの目の前で弾いて歌って ―
― 聴かせてくれれば ―
― いいんじゃないの? ―
― いつか聖の部屋でベース弾き語り ―
― してくれた時みたいに… ―
― もうやってくれないの…? ―

― 何言ってんだ、幾らでも ―
― やってやらぁそれぐれぇ ―

― じゃあまた、聴かせてね…? ―

― よっしゃ ―






聖「………。」

晃「…男だったら、何があっても
一旦デケェ口叩いて手を着けた事を
中途半端に投げ出すんじゃねぇ…。
杉山らには話しといてやる。無礼奴、
せめて卒業までは続けてみろ…な…?」

そこまで説き終えると晃は
店の中へと勘定を済ませに戻り、
原チャの走り去るエンジン音が、
どこかへ遠のいて行った。

(カランコロン…カランコロン…)

店主「…大丈夫かい?」

聖「おー…コレ、持ってけぇるわ。
置きっぱなしは邪魔になんだろ?」

店主「あぁ、邪魔だね。
ガラクタを放置されちゃ
商売あがったりだよ。
お代は済んでるから、今日は帰んな」

聖「…サンキュー、そのうちまた来んぜ」

聖はハードケースを担ぎ上げた。

店主「また来てくんな。サービスするよ」

(カランコロン…カランコロン…)

聖「…パイセンあざーす…」











































二年後 夏

米谷 裕美に陸奥 武流の
遺骨が納められている
霊園の場所を聞いた亜美達は、
三回忌を迎えたその人の
墓参りに訪れていた。

聖「亜美ー、供え物の団子
一個喰っちゃっていーか?」

亜「何言ってんの!? 駄目だよっ!
……ん〜重い…。聖、
桶と柄杓棒持ってよぉ…」

聖「だからこんなに
荷物要らねぇっつったべ!?
樒と線香なんか何まとめ買いしてんだよ…、
墓に毎日通い詰めんのか!?」

亜「もぉー…ウルサィなぁ…。
余ったモノはまた来る時の為に
取っとけばいいでしょ?ねー陸奥さん…?
今、お花手向けるからねー…」

聖「墓石、洗うんだよなー。
水、ちょっとずつかけちゃっていい?」

亜「うん、お願い…あっ!?
…何くわえてんの!?」

聖( ・・)φ

聖は目を点にしながら、
くわえた団子を口から離した。

亜「…バカッ……!!」


陸奥 武流の墓石の前で二人は供え物をし、
線香を上げて手を合わせた。


亜(陸奥さん、もう
寂しくなんか無いよね…?
アタシ達の心の中には、
ずっと貴方が居ます…。
家族だからね。独りじゃないよ…?
またいつか生まれ変わる日まで、
良ければアタシ達の事を、
見守って居て欲しい…)



陸「…あぷぅ〜…ママ…」

亜「はぁ〜い?どうしたのぉ?」

聖「…腹ぁ減ったんじゃねぇのか…?」

亜「どうだろ…?ん…?クンクン…!
ん、これは…たらーっ(汗)ねぇ誉?おじさんと一緒に
車からオムツ取って来て?」

誉「あーいっ!手(パー)」

聖「おぉ…ソッチかよ…たらーっ(汗)
つかおじさんじゃなくておにーさんだろがむかっ(怒り)
こんなトコで取り換えんのか?」

亜「う〜ん…そうだね…。後でいっかダッシュ(走り出す様)」

陸「びぇぇぇ…あせあせ(飛び散る汗)」

亜「あらららら…やっぱ車、戻ろっかあせあせ(飛び散る汗)」

聖「はい撤収撤収〜たらーっ(汗)オラ行くぞ誉。
荷物ちょっと持て」

誉「はぁ〜い手(パー)」






Fin
(´_>`)読んでくれてアリガトー

お疲れっしたー。


おまけ画像で締めくくり。




密

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