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切手のない手紙コミュのピックがない。

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もう、何度ピックの夢を見たか分からない。
帰宅して食事を済ませ、誰も居ない冷たい部屋に入ると、ストーブの前に丸くなってじっとしています。信じられないでしょうが、音楽もかけずにじっと丸くなっています。
そうしてると、どこからかピックが駆け寄ってきていつものように体を擦り付けてくるような気がするのです。

高校生の頃、築80年のボロ家に初めてピックを連れてきた時、まだ目があいたばかりのピックは母親をさがしてニャアニャアと鳴きながらウロウロしていました。
ピックは後に自動車学校の教官になる友達宅で産まれた子猫で、ミルクでおなかぽんぽこりんにして眠ってる数匹の子猫のうちから私が選んだんです。茶トラと白い毛並みがふわっふわで、それはもうかわいかった。産まれたばかりの時は、別の猫をもらう予定だったけど、なぜか無性にピックの毛並みに惹かれたんです。
家に連れて帰り、買ってきた哺乳瓶へ人肌(猫肌?)にあたためたミルクを入れて飲ませてやった。割と素直に飲んでくれるものの、やはり母猫が恋しくてあちこちを探し回るピック。その姿に胸が痛む・・・。私は無理に抱きしめたりせず、鳴きながらウロウロするピックの近くに寝転び、じっとしていました。今日からは私がお母さんの代わりだよというメッセージ。
かなりの時間が経って、さすがに鳴きつかれたのか、ピックはのろのろと私の近くに寄ってきて体をすりつけてきた。それから、グルグルと喉を鳴らしながら母猫のお乳を探るしぐさをしてました。まんまるの目を硬く閉じて、ずっとそうしてました。

コメント(8)

そのボロ家が火事になって全焼したとき、ピックは行方不明になった。
ついさっきまでそこにあったものが巨大な炭のかたまりになって、まだ有毒な白い煙をあげているんだから、ピックには何がどうなったのか想像つかなかったんだと思います。
何が起こったのか苦しいくらい理解できる我々人間でさえ、その焼け跡の前にしばし呆然と立ち尽くしたものです。
私たち家族は隣にあったおばあちゃんの家に身を寄せ合って、いろんな手続きやらお金の工面やら解体の依頼やらに奔走していました。焼け跡を見た小学生達が「なにこれ?オバケ屋敷や!!」と言って笑っているのを聞きながら、互いに励ましあいながら、たまに悔しくて泣きながら、何とか人並みの生活をしようと必死でした。でも気がかりは行方不明になったピックの安否。きっと近くに居るに違いないと私は思ってました。近くで身を隠し、ピックなりに何が起こって、これからどうしたらいいのか考えているんだと思いました。
1週間過ぎたある日、ガリガリにやせてピックが帰って来た時は家がなくなってしまった悲しさや不安を吹き飛ばすくらいの喜びに家族みんなで泣いたのです。
私たち家族はたくさんの借金の上に新しい家を建てました。
私は初めて2階に自分の部屋をもらいました。
職を転々としたし、長い間仕事がみつからなくて自暴自棄になった時もありました。持病の偏頭痛もひどかったし、彼女にもあきれられて別れ、家族には顔をあわせるたびに「まだ仕事見つからんのか?」と言われました。どこにも居場所がなく、誰にも本音を言えない日々に疲れ、大量の薬を飲んだこともありました。でも偏頭痛以外では健康そのものだった私は翌朝には薬を全部吐いてしまい、その後も愛想笑いと現実逃避の日々を過ごしました。
そんな中、ピックだけは私を許してくれましたね。
いつも私を必要としてくれたし、財布の中身がからっぽになってもそばにいてくれました。

やがて私はあるレンタルビデオ屋で長時間のバイトをするようになり、なんとか自分の年金を払ったり、好きな服を買えるようになりました。
そこでUTAKATA君と出会い、初めて親友と呼べる人が出来ました。ピックとUTAKATA君と私の3人で朝まで遊んだこともありました。
UTAKATA君はバイトを辞め、学校を卒業するとちゃんとした社会人になりました。私はあいかわらずビデオ屋でのバイト。
みんなちゃんと大人になっていく。
私だけが取り残されていくような気がしていました。

ピックにも家族ができたようです。
白と黒のスマートな野良猫ちゃんがピックと一緒に家に入ってくるようになりました。しょうがないから二人分の缶詰を出してやると、仲良く頭をならべて食べています。
私たち家族はその野良猫ちゃんを「奥さん」と呼ぶようになりました。奥さんは生まれながらの野良猫ちゃんで、家に入ってゴハンをたべるくせに、それが終わると私たち人間には近づこうとしません。でも夕方になるとまたやってきて、ピックと二人でゴハンを食べるのです。
やがて、ピックと奥さんの間に一匹の子猫が産まれました。
顔つきはピックに似てるけど、毛の色は奥さんと同じ白黒。
名前はいつの間にか「チビちゃん」になってました。
チビちゃんは奥さんと二人で外で暮らしているようです。ゴハン時になると二人でやってきて、ピックと三人でゴハンをたべています。奥さんはだいぶ私たちに慣れて体を触らせてくれましたが、チビちゃんは警戒心が強くて近寄ろうとはしません。
野良として生きていくにはそれくらいの警戒心がないといけないんだな・・・などとぼんやり思いました。
チビちゃんは隣の怖いオッサンが住む家に入ってしまい、1週間ほど閉じ込められた事があった。私と母とで救出したけど、チビちゃんはますます警戒心が強くなったようです。

チビちゃんはすくすくと大きくなり、親離れの時期がやってきました。いつも仲のいい親子なのに、ある日から奥さんがチビちゃんを威嚇するようになりました。それでもゴハンだけはピックを含めて3人で食べる日が続いたけど、チビちゃんが奥さんに甘えようとすると噛み付かんばかりに追い払うのです。
やがて母の役目を終えたと確信したのか、奥さんは姿を消しました。きっとどこかでまた新しい家族を作ってるんだろうな。
チビちゃんはたまにゴハンを食べに来てはピックと遊んで、またどこかへ帰っていく日が続きました。
チビちゃんもあまり来なくなった頃。
私はビデオ屋を辞めて、またしばらく雇用保険を食いつぶしながら生きていました。
その間、ハローワークの職員にすすめられるまま無料のパソコン教室へ行く事に。いままでパソコンなんて使ったことなかったけど、この教室へ行けば雇用保険の給付期間が延長されると聞き、それが目当てで行くことにしたのです。
パソコン教室は殆どが女性で、男性は私とひとつ年上のN君ひとりだけ。でも何か毎日が楽しかった。私は学ぶことの楽しさを知り、教室内では冗談ばかり言って人を笑わせることに生きがいを感じていました。
何も知らなかったパソコンも「教室で一番の使い手」とまで言ってもらえるようになり、ブラインドタッチのタイピングレースではいつも1番か2番。そのタイピングレースで毎回デッドヒートしてた女性と付き合うようにもなりました。家に帰るといつものようにピックが居てくれるし、今思うと怖いくらいに幸せな日々でした。でもそれもパソコン教室が終わるまでの2ヶ月間だけ。終わってしまうとまた職なし能なしのダメ人間。
やはり彼女は呆れてフラれ、家族も呆れてグチも言われなくなりましたねぇ。
その頃、utakata君と音楽をやっていて、時間だけはあるものだから何曲もレコーディングしてました。ダメな自分を歌にすることで前のように大量の薬を飲もうと思うことはなくなりました。

ピックはというと、もうかなりの年寄りになってるはずだけど私にとってはまだカワイイ息子。ピックにとっても私はいつまでも母であり父。寒い冬はもちろん、暑い夏だってくっついて過ごしていました。
私は狂ったように曲をつくっては歌い、昼夜を問わずレコーディングし続けていました。
たまにコンビニでバイトして、車のローンやギターのローンを払う他は、およそ社会人とは呼べない生活。

ピックはまた外で新しい家族を作ったようです。
朝ごはんを食べたらすぐに外出して、夕方か夜になると帰ってきてゴハンを食べ、私に甘えてきます。
私はギターを置いて、ピックに話しかけながらなでてやる時間が好きでした。これが仕事ならいいのにとバカな妄想にふけることもありました。

ある日の事、例のパソコン教室の先生をしてた人から電話があり、ある事務所で働かないか?と誘ってくれました。
パソコンのできる男性を探してるらしく、教室で一番成績の良かった私に声をかけてくれたのだという。
自分ではそんなにパソコンを使いこなせると思ってなかったからちょっと迷ったけど、いつまでもコンビニのバイトばかりしててもしょうがないと思って雇ってもらうことにしました。
そこが今も働いている職場です。
最初はバイトだったけどやがて正社員にしてもらい、金額はびっくりするほど少ないけど久しぶりの月給制となった。僅かながらボーナスも出る。両親も喜んでくれてるみたいなので、しばらくは頑張ろうと思いました。
よく人から「ピックって豚という意味じゃなかったっけ?」と聞かれる。
「いや、それはピッグやん」
と私は答える。
家族でさえ何度説明しても豚のことだと勘違いする。
ギターを弾く人とか音楽に興味ある人じゃないとピックって知らないんですね。
ピックが家に来た時、私はギターのピックを集めるのが趣味だったんです。楽器屋でかわいいピックを見つけては買って帰り、チョコボールの缶に入れて、そいつを眺めたり気に入ったのを取り出してギターを弾くのが楽しかった。
だからカワイイ子猫ちゃんを見たとき、自然とピックという名前が浮かんだんです。ピックもその名前が気に入ってくれたのか、ギターのピックの話をしてるときでも反応してましたw

就職、安定した暮らし。
休みにはピックと遊んだり、曲を作る。
普通の幸せ。誰もがあたりまえに持ってた普通の幸せ。
それがやっと私の手にも納まるようになったんだと、毎日が楽しかったです。
しかし、やはり私もただの人間。
その普通の幸せが特にクライマックスを迎えることもなく永遠に続き、老い、死んでゆくのではないか?という不安。
そんな贅沢な不安に眠れない日がないでもなかったんです。
笑えない日もありました。
それでも、やっと人並みの苦悩ができるようになったという変な満足感みたいなものがありました。
少ないとはいえ、安定した収入。
贅沢はできないけど、ちょっとがんばれば欲しいものが買える。服もギターもレコーディング機材もいいのが買えましたし。
今まで思い悩み、ついに答えの出なかった「生きるってどういうこと?」という疑問に何かしらの光が見えるような気がしていたあの頃。
そして、思い描く未来図に当たり前のように傍にいてくれるピックの暖かい毛並み。

当時の私もまた、普遍と言う何の保証も無い思い込みに支配されていたのです。
92式白レビン、101式黒トレノ、そして高校生の頃から憧れの車だった70式黒スープラ。
車だけでもこれだけ乗り換えてきた。
変わらないものなどめったにない。
めったにないから不変と名のつくものは珍重され、美化されていく。しつこいようだけど、変わらないものなどめったにない。だから美化されたり珍重された分、それが変化した時に耐えられない苦痛を伴うのではないでしょうか?

ある朝。
いつもとかわらない普通の朝。
私はいつものように自宅からちょっと離れた空き地にある駐車場へ行ったんです。
スープラに乗り込んで出社しようとすると、空き地のはずれで沢山の子猫たちと遊んでやってるピックを見ました。
真ん中にちょこんと座って、周りをかこむ数匹の子猫たち(みんなピックに似ていた!!)にシッポを使ったりして楽しそうに、また、満足そうに遊んでるピック。
『ピックめ、またたくさん子供を作ったな(笑)』
私に気づいて、どこか照れくさそうにしているピック。
春の真っ青な空。
背骨をくすぐる暖かい風。

私がピックの姿を見たのはこれが最後になりました。

死の知らせを聞いたわけでもありません。
ただ、あの日以来、ピックもピックの子供たちも一度も見ることができませんでした。
当時、野良猫を大量に処分しようという運動が活発になってたことを忘れたかった。あの日の前夜、ピックの体を洗ってやったから、首輪をしていなかったことも忘れたかった。
あの後すぐそれに気づき、保険所へ駆け込んでいれば救えたかもしれないという思いも忘れたかった。

でも、未だにそのひとつひとつが重くココロにのしかかり、
今夜も家に帰ると、
私は冷たい部屋にひとり丸くなり、
ピックが駆け寄ってくるのを待っているのです。
いつの間にか私は人を愛することができなくなりましたよ。
自分に良くしてくれる人に何かお礼をする・・・そんな愛です。
人からは「それは違うやろ」と言われますが、愛のあり方はまだ誰も確立できない永遠の命題なのだから、違うと言われても私は聞く耳を持ちません。変わりにじゃあ君はどういうのが愛だと思ってるの?と尋ねると、どこかで聞いたことのある言葉だったり、聞いたことのある歌の歌詞だったり、ドラマのワンシーンのセリフだったりを恥かしげもなく披露される。その度にまた人を愛する自信がなくなります。

ただ確かな愛という奴を感じることがあります。
それは家族の理屈では言い表せない愛と、ピックに注いだ愛。
このふたつが、私のくだらない生涯の中で数少ない愛のあり方でした。
その半分を失くした今、何をどうすれば心の飢えを満たしてやることができるのか全くわかりません。

私は別に誰かに助けを求めてるわけでもないし、慰めてほしいわけではないのです。
ただ、ただ、ピックのあたたかい毛並みが恋しいのです。
似合わないくせにファー付の服を選んでしまうのはそのせいでしょうかね。
ファーに顔をうずめてると安心します。
自分を必要としてくれる存在がそこに蘇るのです。
ファー。
ファーアウェイ。

たまに自分自身を打ち崩したくなるときがあり、そう思うことの間隔が短くなればなるほど、またいつかの「なぜいきるのか?」という疑問がわいてきます。
自分に出来ることは各種ドナー登録を済ませたあとで、体が傷つかないようにスゥイサイド。もうこれしかないのかなと。
思ったり、思いとどまったり。

『簡単に死を口にするな』
「簡単に生きよと言うな」
『死ぬ気になればなんだってできるはず』
「死ぬ気になれば死以外は無だ」

ああいえばこういう。
それが社会を支えている。
それが社会を狂わせている。
学校で習った社会は、どこか紙芝居のように思える。
自分が登場しない、さしておもしろくもない紙芝居を終わらせたところで何の罪があるというのか、私にはわかりません。
お願いですからピックに会わせて下さい。

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