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「ちがう、これは『あじさい』って読むんだ。」


その『あじさいのお兄さま』はボクにそっと言った。
ここに連れて来られた子達のなかで、ボクだけがいちばんヒョロでチビで酷く頭が弱く、その上、極めて間抜けだった。

だからか、ボクには(ほかのお兄さまもいたけど)『あじさいのお兄さま』がいちばん賢くて凛々しく立派でかなり切れのあるように見えた。

「ボク、『あじさいの兄さま』がいちばん好き」


そしてボクは毎日庭で草木に潜ったり、空の雲を数えたりの一般的幼児期を過ごして今に至る。

「菫、」
「なあに、兄さま?」


『あじさいのお兄さま』は未だにボクには優しいし、ほかのお兄さまより、ずば抜けて頼れる兄さまだった。
そしてボクは未だにお兄さまより背が低い。
「数学は解けたかな。」
哲学よりもね、と、お兄さまはボクの手元の書を見て言う。
「ほかの兄さま、楪のお兄さまには追い付きましたよ。」
ボクは自慢気に言う。
「それは、優秀だね。」
お兄さまはしっかりボクを褒める。
「菫は賢いからいけない。」
「兄さま?」


電気仕掛けのボクの身体は『あじさいのお兄さま』を見てしまう。

だからお兄さまがボクに黙れとかしょうがないこだなとか生意気だとかほかのお兄さまが知らないけど汚ない部分を触ったりだとか殴ったりだとか頸を絞めたり緩ませたりだとかなにかへんな電気が流れたりとか、それでもボクを愛してるの、大好きだのはなさないだのとか逆にむしろ枯れるまでボクにそれを強制させたりだとか。ううん、これは夢、きっとボクは薫、菫じゃないよ、男の子だよ。

「ほかの兄さまが来るのが怖いかい?」

時計仕掛けのボクの思考がギアチェンジするころに聴こえる郊外の鐘の音。
羊雲は今日も夕陽の狼の血に染まる。ボクは『あじさいのお兄さま』だけが、それでも神なんだと思う。
「お兄さまだけがいちばん賢くて凛々しく立派で大好きです。」

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