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左団扇コミュの小説板

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僕の席の斜め前にメガネをかけた女の子がいる。
名字は高原さん。名前はわからない。
メガネも洒落っ気のないもので、もう高校2年生にもなるのに
化粧する様子なんてひとつもない。

朝、たまにあいさつはするのだが、なにを言ってるかわからないような
返事が返ってくるだけで、それ以上の話をしたことはない。
それどころか、他の人としゃべっている声も聞いたことがない。
授業中、先生にあてられると真っ赤な顔でうつむいてしまうような子だ。
いつもは休んでても気付かないその子のことを
今日はずっと目で追っていた。




昨夜、伸也と啓の3人で味もわからないお酒を飲んで
盛り上がってしまい、いつの間にか恋愛の話になり
好きな人の名前を聞かれたときに出てきたのが「高原さん。」だった。
 
二人が驚いたのは言うまでもないが、
誰より驚いたのは僕で、二人にも言ってないが
僕はまだ恋なんてしたことがなかった。
好きな人もいなければ、人を好きっていう気持ちもわからなかった。
ただ、お酒の勢いと二人への張りあいだけで出てきたのが
「高原さん。」だったのだ。

伸也はニヤニヤしながら「どこが?」とか絡んでくるし
一番もてる啓は「応援しちゃる。」などと言いながら
ありがた迷惑にも口説き方講座を始める始末。
そうしてお酒の怖さを思い知りながら、いつの間にか寝てしまっていた。


ただ、あのときすぐにあの子の少しはにかんだような
それでいて照れたような笑顔が思い浮かんだのは、
まぎれもない事実だった。

コメント(31)

「高原さん、、かぁ。あいつ、僕のことどう思ってるのかな。」
なぜ高原さんの名前が出たのか自分でも不思議だったが、一度気になると頭から離れない。
自分をごまかすように今日の予定に頭を巡らせた。


今日は学校が終わったら、バイトの面接に行く予定だ。
というのも来週から夏休みで、部活もやっていない俺はファミレスでバイトをしようと思っている。
もちろん夏休みを思いっきり遊びたいのだが、それには財布の中身があまりに不安だった。

偶然彼女とバイトを共にすることなど全く予想することもなく、いつものように朝飯をすませて家を出た。
 学校はどうということもなく、いつも通りに終礼を迎えた。
 期末試験も終わったし、授業は短縮授業だ。これは昨日と同じ。
 高原さんは誰とも口を利かずに教室から出て行く。これも昨日と同じ。
 違うことといえば、僕の鞄には履歴書が入っていることぐらい。すでにバイト先には連絡してある。今日、この履歴書をもっていくことから、僕の夏休みが始まるのだ。

 “アソシエ”は個人経営でやっているこの町だけのファミリーレストランだ。レンガを貼った壁のモダンな造りで、お値段はホンの少し高め。僕はどちらかというと、駅前の牛丼屋のほうがよく行くお店だったりする。
 それでもお店は流行っているようだ。時間は午後三時。ランチタイムも終わりだというのに、客席は空き席のほうが少ない。 
 そんなことを分析しながら、僕はバイトの女の子に案内されて事務所に通された。女の子の制服はスカート+エプロン。
 そう、この店の制服はかわいいのだ。
 男手の募集……空きがあるかどうか、僕は不安になってきた。

 
 
面接には、三好という飲食店に似合わない長髪をなびかせ
年齢に似合わないさわやかさをふりまく男が出てきた。
三好はどうやら店長らしく、後で知った話では店の人気の半分は
三好目当てのマダム達だとかいう都市伝説もあるらしい。

面接は、人生で初めての不安と緊張でどうなるかと思ったが
いきなり
「好きなMSは?」
と聞かれたところから話は異様に盛り上がり、
コンコン・・・とノック音が聞こえ
「店長すいません・・・次の方が随分お待ちなのですが・・・」
という声がかかるまで、1時間近く経っていた。
「あぁ、もうそんな時間か。え〜君、採用でいいから。」
と、拍子抜けするほど簡単にバイトは決まった。
まだ小説版のアムロについてブツブツ言っている三好さんに
若干の不安を覚えたが、深く考えるのは止めておいた。

挨拶をしてから席を立ち、部屋から出ると
かわいらしい女の子がプルプルと気の毒になるくらい
緊張した様子で立っていた。
一瞬目が合うと、驚いた様子で俯き、
真っ赤になってプルプルの速度を上げた。
その様子がたまらなくかわいく思え
「いい人っぽかったから、きっと大丈夫ですよ。」
と声をかけると、またビックリしたように
一瞬こちらを見てから、再び目をそらすと
僕に向けたのかどうかもわからないようなか細い声で
「ありがとう・・・。」
と言って、部屋の中に消えていった。
初日は、1日中皿洗い。
正直、顔を上げなくていいし人と話さなくてもいいから、人生初のバイトで緊張していた僕には好都合だった。
厨房には料理を作る男の人が数人いたけれど、仕事の事しか話さないし、半分以上がさっぱり意味の分からない言葉。
僕はもくもくと皿を洗い続けた。
皿を洗って、拭いて、所定の場所に納めて行く。それが僕に与えられた仕事だ。
2日目も同じ。3日目も同じように始まったけれど、すぐにいつもとは違うと感じた。
その違和感の正体が気になって、僕は顔を上げた。最初に気づいたのは、僕が下ばかり見なくても手を動かせるようにもなってきている、ってこと。それから気づいたのは、白いロボットみたいと思ってたシェフの人たちが、時々人間みたいな表情を見せる、ってこと。それから、なんとなく厨房に、昨日までは無かった活気のようなものがある?ってこと。

「とくっち、8番のデザート3つ、特急でいける?」
元気のいい声がホールから飛び込んで来て、僕の思考は中断する。
声の主は、ホール係の女の人。黒い髪をキレイにまとめ上げて頭の後ろでお団子にしている。カウンターから身を乗り出すようにして厨房を覗き込む。
「えみちゃん、無茶言うなよー!」
『とくっち』らしき人が眉をしかめる。けれど『えみちゃん』の次の台詞は
「ありがと! 助かる!!」
白い歯を見せてニカ!
かと思うと、身を翻してホールへ戻って行く。とくっち、徳田さんは怒るでも無く、少し苦笑い見せて、次の瞬間隠し芸みたいに華麗な手つきで3枚のお皿を広げた。

えみちゃんさんだ。違和感の正体、えみちゃんさん。
えみちゃんさんのよく通る声が厨房に響くたび、ロボットが人間みたいな表情見せたり、僕にも意味の分かる言葉を口にしたりするんだ。
「永田さん! チキン3つグリルに入れておいてよ!
 今カヨが案内してる3人組、たぶん日替わり3つだから、さ!」
「ホントかよ〜?」
「違ったらアタシのまかないが豪華になっちゃうね!」
「えみにまかないなんか無ぇよ。3つともオレが食う。」
「よかった。じゃ、違っても無駄にならないんだ!?」
またニカッ!と笑って身を翻す。
えみちゃんさんの言葉のテンポにつられて厨房の回転スピードがアップしてるみたいだ。
結局僕は、えみちゃんさんから目が離せないままバイト3日目を終えた。
「僕はこのまま皿洗って時給もらえりゃいいんだけど、あの人はそうじゃないんだろなぁ。」

 僕の場合は、夏休みのお小遣い稼ぎという小さな目標と
あわよくば高原さんをデートに誘いたいという大それた目標があった。
 もちろん、電話番号も知らないので、いわゆる妄想というヤツだ。

ただ、そんな妄想でも僕に仕事のやる気を与えてくれたようで
「なかなか見所あるね」
なんて、えみちゃんさんに微笑みかけられると
それはそれで嬉しいものだった。
 
 バイトを始めて2週間が経ち、そろそろ仕事にも慣れてきた。
今日からは、帰省客の休憩場としてこの店も忙しくなるようだ。

「は〜い!ちゅうも〜く!」
という例のよく通る声が響き渡り、
「今日から新しいバイトの子が来るからみんなよろしくね〜」 
「今、忙しいからあとは三好さんに聞いといて。」
と言うと答える間も与えず嵐のように去っていった。
 
しばらくすると寝ぐせとクタクタのYシャツ姿の三好さんが出てきて
「う〜ん。今日はホール忙しいみたいだな・・・。じゃ、とくっちよろしくな」
「え〜。ホールの子なんでしょ?店長の方が・・・」
「お前、今のオレ見て接客業してるように見えるか?」
「そんなこと威張って言われても・・・」
「じゃ頼むな。」
「・・・。」
「・・・。」
「じゃ新人同士、仲良く頼むな。流れ教えるだけでいいし。」
といつの間にか僕に振られ、断れるはずもなく
できるはずもない新人の教育係をやらされることになった。



「そうそう、高原さんって子だからね〜。かわいい子だったから良かったね。」
と最後に無責任にも楽しそうな声を残して三好さんは消えていった。
その瞬間に、そのまま止まってしまうんじゃないかと思うくらい
どくんと一回心臓が動いた。

「え? 高原さん……ですか?」

申し訳程度に訊いてみたが、
もちろん三好さんは既にいない訳で。
徳田さんは親指を立てながら眼以外の笑顔を僕に向けて、
さっさと下ごしらえに取り掛かってしまった。


期待と不安が、もうとんでもない位ごちゃ混ぜになったまま
更衣室前の通路で高原さんを待つ。

この扉の向こうにあの高原さんが……
なんて妄想を振り払ったのは、勢いよく開いた扉の音だった。

「あれ?アナタが教育係の人? 宜しくお願いしま〜す♪」

普段はメガネだけど今日は違うんだ。コンタクトでも入れてるのかな。
学校だと大人しくて照れ屋だけど、バイトだと明るい感じなんだね。
なんか、全然印象変わっちゃったけどどうしよう。
やっぱりデートの場所とか考え直した方がいいのかな。

「あの、おにーさん聞いてます?」

その言葉で一気に現実に引き戻される。
「えーと、高原さん……でいいんだよね?」
困惑気味に聞いてみる。
「はい!今日からこちらで働かせてもらう高原陽菜です!
 ヒナって呼んでもらって構いません!」
僕の問いにニッコリと満面の笑みを浮かべて答える高原さん。

確かにメガネを外して長い髪をアップにしたらこんな感じになるのは認める。
でも、僕の中では未だに学校での姿とのギャップを埋められずにいた。

「ええと、まずは……し、仕事の流れなんだけど……」
と、説明をしかけた所で、高原さんに遮られる。

「あ、ちょっと待って下さい。ほら、挨拶しなよ」
ひょいと一歩横にずれた高原さんの後ろにもう一人、
僕のよく知っている、メガネをかけた真っ赤な顔でうつむいた、高原さんが立っていた。
「もー仕方ないなぁ。こっちのメガネかけてるのが双子の妹の琉菜です。
 二人とも宜しくお願いしますね。センパイ♪」

ヒナちゃんの太陽のような笑顔の横、
眼鏡越しの満月のようなルナさんの眼と眼が合った瞬間、
どくんと一回心臓が動いた。
 とは言っても、厨房にいる僕にはホールの細かいことまではまだ分からない。注文用紙の書き方、厨房への連絡方法、出来上がった料理の出し方、そういった流れを説明することにした。
 僕の説明を、ヒナちゃんはフンフンと相槌を打ちながら、ルナさんは黙ったまま聞いてくれた。ヒナちゃんは大丈夫そうだけど、ルナさんは理解してくれてるのかも分からない。
 心配になる僕をよそに、突然やってきたえみちゃんさんが二人を連れて行ってしまった。
「お、基本は教えてくれたんだ。ありがと。後はアタシに任せなさい」
 笑いながらホールへ向かうえみちゃんさんの背中を見ると、僕は大きく息を吐いた。まずは安心、続いてちゃんと説明できたか心配になってきた。
 もちろん、二人にどう思われたかも気になるところだ。話しやすい先輩だと思ってくれたなら、嬉しいんだけど。
 まぁ、今できることは全部やった。あとはこれから話していければいいな、と思い直して僕は厨房へ戻った。
 ヒナちゃんはしっかりしてるし、えみちゃんさんもついてる。後は僕がフォローしてあげれば、ルナさんとも仲良く……。
 そんな僕の妄想を裏切り、最初にミスをしたのはヒナちゃんの方だった。
ランチタイムのホールでちょっとした事件が起きてたなんて、僕は知らなかった。
休憩室でたまたま一緒になったヒナちゃんに、どことなく元気ない雰囲気感じて、それでもルナちゃんよりはずっと表情も言葉数も豊かなんだけど、「どうかした?」と声かけて、それでヒナちゃんの口から直接「事件」について知ったんだ。

「うん。。。アタシ、失敗しちゃってさ。」
イタタ、って具合に片目を閉じておどけてみせてはいたけれど、バイト開始早々の失敗なんて、落ち込むだろうな。ここは「優しい先輩」をアピールしないと。
事件のあらすじはこんな具合。
2人組の女性客のうちの1人が「デザートが来ないんだけど。」と言って来た。
ヒナちゃんはすぐに確認して、女性客に全ての料理を出し終えていることを伝える。
「でも来てないのよ! 私が嘘を言ってるっての!?」と女性客、キレる。

なんでも、その女性客はオーダーの時に「ランチって、全部デザート付きなの?」と質問していたらしい。「ランチ」という言葉を「ランチセット」と解釈したヒナちゃんは「はい」と応えた。けど、彼女の「ランチ」という言葉は「ランチタイム」、もっと言えば「ランチタイムサービス」というくらいの意味だったらしいのだ。
全てにデザートが付くのなら、メニューに「デザート付き」と書かれている4種類のランチセットから選ばなくても、好きな単品を頼もうと考えた。けど、いつまでたってもデザートが来ない。で、「デザートが来ないんだけど。」となった。
ヒナちゃんはデザートが付くのはサービスメニューのランチセットだけだと説明しようとしたけれど全く話が通じず、逆に女性客のテンションは上がる一方で、尋常じゃない雰囲気を察したえみちゃんさんが間に入って
「オーダーを受けたものに勘違いがありました。申し訳ありません。」
とヒナちゃんが悪者になり、お詫びとしてキレてる女性客にはデザートとお茶を、すでに自分のデザートを食べ終えてたお連れさんにももう1杯お茶を出して一件落着となったらしい。

「単品でもデザート付くなんて、そんな都合のいいハナシ、あるわけないじゃんね?」
物わかりよく、僕は言った。ヒナちゃんを励ますつもりで。
「うん、アタシもそう思ったんだけど。。。」
うんうん、分かってるよ、僕には!
「でも、えみさんに言われちゃったんだ。『接客で大事なのは、何が正しいか、じゃないんだよ。』って。」
内心ニヤリの僕だったけれど、なんだか雲行きが。。。?
「接客サービスって、お客様に喜んでもらえたらこっちの勝ち、不快な思いさせてしまったらこっちの負け、なんだよ、って。」
そう言うヒナちゃんの表情は、けれど「叱られて悔しい」とか「落ち込んだ」とかって感じじゃなく、なんと言うか。。。
「アタシね、アソシエのお料理、大好きなんだよね。
 ここでバイトしようって決めたのも、従業員価格で食べられたりしたらおいしいな、とか、どんな風に調理してるのか見れたらいいな、とか、そんな考えだったのね。
正直、『接客』とか『サービス』とかって頭、全然無かったの。
でも、なんて言うか、えみさんに言われてさ、なんか、『プロだな』って、思ったの。」
うん。と、自分で自分の言葉を確かめるように、ヒナちゃんは小さく頷いた。
「かっこいいよね、えみさん。」
なんと言うか、ヒナちゃんの顔は「悪者にされた」とか「叱られた」って顔じゃなく、何かを決意したような、強い表情になっていた。
理不尽に叱られた後輩を慰めるモードに入ってた僕の方がおろおろしてしまう。
でも、イヤな間があく前に何か言わなきゃ。
「ヒ、ヒナちゃんって、お料理に興味あるんだ?」
我ながら、気の利かない台詞。
でも「え?」と僕を見たヒナちゃんは夢から覚めたようにいつものヒナちゃんになっていた。
つまり、くるくると表情が変わる、明るく茶目っ気のあるヒナちゃんに。
「似合わないでしょ? アタシがお料理とかって!
 でも実はルナより上手なんだよね。」
調理の専門学校に行きたいんだとか、いつか小さなカフェをやってみたいのとか、かわいい雑貨とかも扱ったりしてさ、とか、女の子らしい夢を聞かせてくれて、ヒナちゃんとずいぶん仲良く慣れた気がするのはいいんだけど、結局僕には気の利いた台詞は一度も言えなかった。
さらには、今後ルナさんに気の聞いた一言をかける事が出来るのかとても不安になってきた。
僕はいつもルナさんに声をかけようとして気後れしているのだ。


数日後、ルナさんとの距離を縮める事ができそうな、願っても無いお誘いを唐突に受けることとなった。
それはバイトが終わっての帰り際に、同じくバイトを終えたヒナちゃんに呼び止められての事だ。
「小次郎(主人公:僕の仮称)クンって、伸也クン啓クンと仲いいんだよね?」
「そうだね。いいと思うよ。」
「じゃぁさ。夏休みの思い出に海でも行かない?ルナも一緒に!」

思いがけない提案に体が硬直したが、人生で最大のチャンスを
逃すわけにはいかず、混乱しながらも勇気を振り絞り出た言葉が
「海って・・・よろしいのでしょうか?」
だった。

一瞬、間が空いたような気がしたが、
ヒナちゃんが見事なスルーを見せたおかげで終わらずにすんだ会話は
「ボヤボヤしてると休みなんてアッという間に終わっちゃうんだから、
遊びにも一生懸命にならないとね」
「ルナも行きたがってたし、よろしくね」
「えっ!?あっ・・・ハイ。」
というなんとも間の抜けた返事で締めくくられた。



・・・高原さんが行きたがっている・・・だと?



その日からマグネットコーティングしたかのように働く僕を見て、
「なんかいいことあったんでしょ?」
なんてえみさん達にからかわれたりもしたが
そんなことも気にならず、決戦の日は近づいていった。
 それから数日間のことは、後になって思い出そうとしても思い出せない。
 それぐらいあっという間に日々は過ぎ、約束の日が来て、電車に乗って、皆でお喋りをして、気がつくともう海の家の更衣室だった。
 男三人の着替えなんてあっという間だ。僕達は顔を突き合わせて女の子達を待っている。
 伸也は落ち着かない様子でうろうろしているし、啓はこういうときはどうしたら良いのかご高説を聞かせてくれるが、その足はカクカク鳴っている。
 こうは言うものの、僕もソワソワして二人とそう変わらない、ひょっとしたらもっとヒドイ有様だったかもしれない。このドアの向こうに、水着の高原さんが……
「おまたせ!」
 ヒナちゃんの元気な声に、僕達は一斉に振り向いた。
 彼女はフリルつきのビキニ+スカート。ぱっと見オレンジ色かと思ったけど、よく見ると小さい花柄だった。
「ヒナったら時間かけすぎ〜」
 この子はヒナちゃんのお友達のケイちゃん。フリフリのワンピースに上着を羽織っている。彼女とヒナちゃん、高原さんで男女比率は1:1だ。
「あ……お、お待たせしました…」
 高原さんは定番の三角ビキニ……って、この中では一番大胆な水着姿だった。これは予想していなかった。
 いつも以上に真っ赤になった高原さんは、いつも通りお姉さんの後ろに隠れてしまう。そんなに恥ずかしいなら、もっと大人しい水着にすれば……いや、これでいい!
 それ以上何も言えなくなってしまった高原さんは、バッグをまさぐり、おたおたと眼鏡をかけた。よく周りがみえてないから、余計に落ち着かなかったらしい。
 そんな彼女から、僕は目が放せなかった。
 その恥ずかしそうな目でも、控えめな胸でも、お尻でもない。僕が見ていたのは、彼女の胴に浮いた肋骨だった。その僅かな段差が、マンガじゃない、本当の女の子がそこにいるのだと教えてくれた。
 ぼんやりしてしまった僕には構わず、伸也と啓はヒナちゃん達と一緒に走っていってしまった。
「あ……」
 高原さんは手を伸ばして何か言いかけたが、もう間に合わない。僕達二人だけが、海の家に残されてしまった。

 伸也達が荷物も置いていってしまったので、僕は高原さんと一緒に荷物を運んだり、パラソルを借りたりすることになった。
 しかし、なかなか空いている場所が見つからず、結局海水浴場の端っこ、岩場に近いところに僕はパラソルを突き立てた。
 少し歩き疲れたのか、高原さんはパラソルの下に腰掛けたので、僕も隣に座ることにした。
「……」
 しかし、一瞬で話題が尽きた。
 すぐにでも泳ぎに誘えば良かったのだが、伸也達と合流するのを待とう、と言ってしまったのが悪かった。
 高原さんは自分から話題を振るような子ではないし、僕は彼女が喜ぶようなことを知らない。ヒナちゃんが相手ならこんなこともないのだけど。
 高原さんは海に目を向け、ヒナちゃん達を探していた。しかし、見つからないので、ため息をついてうなだれてしまった。
「いたっ」
 その時、高原さんが小さい悲鳴を上げた。
 手をついた先に岩が出ていて、指先をぶつけたみたいだ。うっすらと血がでている。
「あ、大丈夫です。絆創膏もってきてますから」
 そう言いながら高原さんはバッグに手をいれた。なんとか片手で絆創膏をみつけたが、さすがに指先に絆創膏は巻けない。
 見かねた僕は彼女の手をとって、絆創膏を巻いてあげた。
「あ…ありがとう…ございます…」
 高原さんはもつれる舌でなんとか言葉を発した。
「私、ドジだから、絆創膏とか、持ち歩いてるんですよ」
 そう言った高原さんの口が優しい形になった。
 それは、僕が初めて見た高原さんの笑顔だった。

 
そのまま、会話のやり取りを続けて、高原さんと親しく……

と行けたらよかったのだけれど、現実はそううまくいくはずもなく、
あまり、話も出来ないままとても長い時間が流れた。(自分体感時間調べ)

「宮地さんは……」

高原さんに話しかけられた。
その事実だけで、心の中は小躍りどころかサンバ状態だったけど、
出来るだけそれを押し殺して自然な会話を続けようとする。

「は、はいっ!」

不自然にも程があった。

「どうしてアルバイトを始めたんですか?」

もちろん、高原さんと遊ぶ資金を……
等と言えるはずもなく、

「せ、せっかくの夏休みだしさ、ただ遊ぶだけっていうのも何も残らないかなって、
 それなら何かアルバイトでもした方がいいんじゃないかって思ったんだ」

心中はもはや、先程までのお祭り騒ぎどころか綱渡り状態である。
やけに大きく聞こえる鼓動でそのまま死んでしまいそうだった。

「高原さんこそ、どうしてアルバイトを?」

さっき名前を呼ばれたのが初めてなら、今名前を呼んだのも初めての経験だった。
高原さんは少し考えてから、

「姉に誘われた、というのもあるんですけれど……
 将来の夢の為になるかも、というのが理由だと思います」

その時、自分の脳裏に浮かんだのは、いつかヒナちゃんと話した言葉、
「いつか小さなカフェをやってみたいんですよ」
やっぱり、高原さんも同じようにカフェとかやってみたいんだろうか。
逡巡した後、訊いてみようと思った所で、高原さんに先んじられてしまった。

「宮地さんは……姉さんは名前で呼ぶのに、私は名字なんですね……」

さっきまで訊くつもりだった諸々の事は頭から吹っ飛んでいた。
高原……いや、ルナさんのその言葉にちょっと拗ねたような、
寂しさのような感情が浮かんでいたのはもしかしたら自分の気のせいだったかもしれない。
どういう意味だろう?
普通に考えて、「私も名前で呼んで欲しい。」って、そう受け取っていいんだろうか?
つとめて冷静に頭を巡らせてるつもりではいるけれど、心臓のドキドキが止まらない。まるで脳みそが心臓になってしまったみたいに耳元で鼓動が響く。
ドキドキを飲み込むようにつばを飲んだせいで、僕が「ルナさん。。。」と言うより一瞬前に彼女が先に次の言葉を言った。

「ううん。宮地さんだけじゃないんです。みんな、そうなんです。」
冷静に、とか言いつつ実際には頭の中が120%、自分に嬉しい解釈に満たされていた僕には、すぐには彼女の言葉の意味がわからない。
「ヒナは、明るいし元気だし、太陽みたいで、誰とでもすぐに仲良くなってしまう。」
違う。本当はわかってた。そう、そういう意味だ。彼女の見せた寂しそうな横顔は、そう、そういう、意味。
極限の緊張が一気に萎えて、一気に萎えすぎて、僕はなんだか楽しくなって来てしまった。彼女の言葉を勝手に誤解してドキドキして、そのドキドキが体から抜けていく時に、彼女との初めてのぎこちない時間に対する緊張も一緒にどこかに行ってしまったみたい。
自分でも驚くくらい、僕はリラックスしてしまったのだ。
細い肩越しに彼女の横顔を見る。頬にかかる2筋の黒髪。あ、意外と睫毛、長いんだ。
僕は砂浜からの強烈な照り返しさえ楽しみながら口を開く。
「バイト始めた時にさ、一日中皿洗いでさ、でも楽だったんだよね、下を向いていられたから。」
「え?」と彼女は小さく言った。僕は構わず続ける。
「人生初のバイトで、人生初の厨房で、分からないことばかりですっごい緊張してて、だから誰とも目を合わさず話もせずもくもくと下向いて手を動かしてりゃいいことが楽だったんだよ。」
彼女は黙って聞いてくれている。
「知らない場所で知らない人と、何を話していいかなんて分からないよ。自分がどう見えてるんだろうとか、つまらないことで頭が一杯になってしまう。下を向いて皿洗いしてたら、つまんないこと考えずにいられた。皿洗いマシーンだよ。何も考えずに一日中皿を洗ってたら、高原さんのことが頭に浮かんだ。」
彼女の肩がピクリと揺れた。
「教室でさ、いっつも下を向いてるコだな、って。なんで下ばっかり向いてるのかな、って。ほら、僕の席からよく見えるからさ、いっつも気になってたんだよ。バイトして、下向いてるのって楽なんだな、って分かった気がした。・・・どう、当たり? ハズレ?」
彼女はうつむいたまま。
僕の方は、リラックスを通り越して怖いもの知らずだ。
「ヒナちゃんは、確かにお日様みたいなコだと僕も思う。自分の意見ははっきり言うし、でも、ただ一方的に自分の主張を通しちゃうんじゃなくて、人の言葉を素直に聞ける、そういう所もあって、なんていうか、すごく真っすぐ生きてる感じがする。だからこっちも、真っすぐ付き合える感じがする。
ヒナちゃんが僕を『コジコジ』って呼ぶから、僕も彼女を『ヒナちゃん』って呼ぶ。それが彼女にとっての『普通』なんだろうと思うから、そうなるんだと思う。・・・って、ヒナちゃんのことそんなに知ってるワケじゃないんだけど僕の読み、当たり? ハズレ?」
うん、沈黙!
声色を変えておどけてみる。
「どうですかな、妹君?」
コレが受けた。
彼女は小さく吹き出して、それから遠くを見るように顔を上げた。
「どうでしょう?」
そのまま遠くの空を見ながら考える。下向きだった睫毛が、今はピンと天を向いてる。
「わたしには、近すぎて分からないのかも。でも、ヒナが『普通』と思ってることが周りの人にもうつっちゃう、ってのは、うん、そうなのかも。」
僕には、僕のヒナ評が当たってるかどうかよりも、高原さんが下を向いてないことが嬉しかった。
ますます楽しくなって来てしまった僕は無意味に目の前の砂を両手でかき集めて無駄に砂山を作り始めた。
「何が普通かなんて、人によって違うんだと思う。僕には、初めてのバイトではとりあえず下を向いてることが普通だったし、でもえみさんや徳田さんが気さくに話しかけて来てくれるようになったら、下ばっか見ててもつまんないな、と思って周りを見るようになったのも、普通のことだった。ヒナちゃんが全く人見知りせずに人と話すのを見ると、彼女には普段の自分より気さく度を当社比150%くらいで話すのが普通なのかな、って思うし。でも150%アップでもまだヒナちゃんの勢いに押され気味だから、全然ヒナちゃんの『普通』と僕の『普通』は違うんだと思う。」
話しながらも手を休めず築き続けた砂山は今や両腕で抱えきれないほどに育っていた。より多くの砂をかき集めようと大きく広げた僕の腕の動きが視界に入ったのか、彼女が反射的に顔をこちらに向けて、一瞬固まって、そして笑顔になった。
「何やってるんですか!?」
そして、壮絶な戦いが幕を開けた。ビーチの隅っこの僕らを探し当てた伸也達に突っ込まれるまで、僕らは壮絶な「砂山崩し」を続けてたのだ。

結局泳がずに終わってしまった僕らは帰りの電車でも「荷物番」だった。泳ぎ疲れた4人は眠ってしまってたから。
だから、高原さんの「いつも下を向いてるワケ」を聞いたのは僕1人だけ。小学校の高学年で視力が急激に落ちた彼女は、無意識のうちに目を細めて焦点を合わそうとするようになり、それを人から「目つきが悪い」とか「生意気」とか言われて、軽く仲間はずれみたいにされたらしい。そのせいで、人を見ないように、下を向くようになってしまった。僕の「下を向いてるのは楽」って意見は、当たらずも遠からずってとこか。
とにかく、僕だけが知った彼女の小さな秘密は僕の中で熱を持って疼き、再び僕の体温を少し上げ、耳元でドクンドクンと脈打ち始めた。
僕は彼女に、恋をしたのだ。


先日の海水浴より、僕はバイト中でも高原さんを遊びに誘う方法をあれこれと考え始めた。
「やっぱ映画かな」とか「んじゃ何を見るかな」とか、色々考えるのはとても悩むけど楽しかった。
最近『タイタニック2』という映画が公開された。大作の続編とはいうものの駄作の予感が大きい。
しかし、初めてのデートということもあり、無難にメジャー作品を選択することにした。

バイトの休憩時間にヒナちゃんと会話していると話題が映画になった。
僕はリサーチのつもりで『タイタニック2』についてどう思うか、などと聞いてみた。
そして話は盛り上がり、なぜかヒナちゃんと『タイタニック2』を見に行くこととなった…。
「どことも離れた船の上で運命を共有するのって、怖いけど、」

続きは同時に。
「深い」
「よね」
どれだけ記憶を掘り起こしても異性と二人で映画なんてものは
10年以上前に行った母親との「ドラえもん」しか出てこないようで
どうやらこれはやはり初デートというもののようだった。
いやいや、そもそもこれは「デート」なのか?という疑問と
ちゃんとできるのか?そもそもちゃんとってなんやねんという
軽いパニック症候群のように陥り、
たかが映画がとてつもない一大イベントのような気がしてきた。

約束の日までまだ1週間もあるのに、何着て行こうか、映画の後どうするんだ?など
とても伸也や啓にも相談できないようなしょうもない悩みでいっぱいになり
あっという間に1週間が過ぎた。


まぁヒナちゃんとなら大丈夫だろうなんて
直前には開き直れる性格に生んでくれてた母親に感謝しつつ
普段から着ているシャツとGパンというラフな格好で
待ち合わせの場所に向かっていると
「よろしくねハート」
なんてメールがヒナちゃんから入り
???のまま到着すると
待っていたのは・・・高原さんだった。
 そう思ったのは、彼女がおとなしそうなロングスカート姿で眼鏡をかけているから。
「高原さん、ごめん。待った?」
 僕と目が合うと、彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。やっぱり高原さんだ。
 いつも通りの高原さんなのだから、いつものバイトと同じ感覚でリードできるような気がしてきた。そう思い、僕は映画館へと歩き出した。
 道中では前作を見たかとか、近作の前評判とかの話題をふってみたけど、高原さんは小さい声で、うん、とか、ええ、とか返事をしてくれる。これでも海へ行ってから、言葉が出てくるようになった、様な気がする。少しは仲良くなれたのかな、と思い僕は少し嬉しくなってきた。

 で、映画の方というと……実はよく覚えていない。
 隣に座った高原さんが、シーンが切り替わる度に、両手で口を押さえたり、息を呑んだりとなにかとせわしい。僕は彼女の手をとったりすることを夢見ていたが、それは叶わなかった。
 そうこうしているうちに、いつの間にか彼女から目が放せなくなっていた。スクリーンの中で船が沈むところまでは覚えているのだが、どうオチがついたのかまでは見てなかった。

 映画が終わると、ちょうどお昼時になっていた。まるで考えていなかったけど、自然と足はフードコートへ向かった。
 高校生である僕達は、いくらバイトをしているとはいえ、どうしてもファーストフードを選んでしまう。彼女も不満そうじゃないのが、僕には気軽で嬉しかった。
 僕が頼んだ新作バーガーはソースがべったりついていた。美味しかったのは美味しかったが、食べにくいことこの上ない。僕はペーパーナプキンに手を伸ばそうとしたけど、その前に高原さんがナプキンを差し出してくれた。
「はい、コジ…ろうさん」
 うわ、名前。今、名前で呼んでくれた!
 僕は一気に舞い上がり、そのあがったテンションのままゲームセンターでプリクラを撮ったり、喫茶店でケーキセットをつまんだりした。

 あっという間の一日だった。気づくと日は傾き始めている。
 夏の陽は長い。明るいからといって油断していたが、もう高原さんを送っていかなきゃいけない時間になっていた。
 でも、それが名残惜しくて、名残惜しくて、我慢できない。
 だから、僕の口から自然と言葉が出てきた。
「高原さん、明日も会えるかな?明日も、明後日も、ずっと、ずっと!」
 高原さんはハッと息を呑み、そのままうつむいてしまった。
 どれぐらいそうしていただろう。永遠にも感じられる沈黙。
 あ、これ早まったか。
 と、後悔しかけた頃、高原さんが動いた。
 高原さんは黙ったまま僕の隣に立ち、そっと僕の手を取った。
 彼女の手はすべすべしていて、とても暖かった。
 そのまま僕等は、二人で歩いた。




 次の日も、僕等はアソシエで顔を合わせる。
 二人にしか分からないように、僕は高原さんに目配せをする。
 すると彼女はいつものように恥ずかしそうに目を伏せる。
 そして彼女はそくささと持ち場にもどっていく。
 その後姿を目で追いながら、僕は彼女の手の温かさを思い出していた。
 自然と僕の視線は彼女の手に移る。その指には小さな絆創膏が貼ってある。
 確か、海で僕が貼ってあげたものだ。まだ、治ってなかったんだ。

 え?なんだこの違和感は?
 僕の背中に冷たいものが走った。
 焦る僕の頭に、彼女のすべすべした手が思い出される。
 でも、高原さんの手には絆創膏がある。
 じゃあ、僕は一体誰に告白してしまったんだ? 
バイト中もその事がぐるぐると頭の中を駆け巡っていて、
休み時間になると同時に、裏にヒナちゃんを呼びだした。

「あの……昨日の映画の事なんだけどさ」

恐る恐る切り出してみる。

「はい。とっても楽しかったですよ」

屈託のない満面の笑顔でそう返されると、一瞬どうしていいか分からなくなる。
それでも、意を決して訊いてみた。

「なんであんな……」

そこで言葉に詰まってしまう。

ヒナちゃんからのメール
「よろしくね」まぁ、確かに本人が来たんだし、初めてだったんだから間違ってはいない。
昨日の格好
高原さん、いやルナさんのようなコーディネートだったが、本人はルナとは名乗っていない。

これってもしかして、からかわれただけなんじゃ?

「小次郎さん?」

その呼び方はまさしく昨日の呼び方で、その事がますます自分の中をかき回して行く。
でも、その時のルナちゃんの瞳は吸い込まれそうなぐらいに真っ直ぐだった。

「もしかしたら誤解しているかもしれませんけど……
 私は小次郎さんに対して悪い事をしたと思ってませんし、謝るつもりもありません」

少し戸惑ったけど、真剣な表情で話す陽菜ちゃんの話は最後まで聞かなければいけない気がした。
少し息を吸い込んだ陽菜ちゃんは、そこで周りの様子を窺ってほんの少しだけ頷いた。

「私は琉菜の当て馬とか代わりとか……とにかく高原姉という風に見られたくないんです。
私は高原陽菜として、小次郎さんに見られたいんです」

決して大きい声じゃなかったから、他の人たちには聞こえなかったはず。
それでも、自分の中では何度もその言葉が反響して、
そしてその意味を考えれば考えるほど、自分の心の中がかき回されていく気がした。


「おお、ちょうどよかった。コジ、また新人の教育頼むな」

三好さんの言葉で現実に引き戻された時には、ヒナちゃんの姿は見当たらなかった。
そして耳の奥に残る不穏な言葉。

「え?新人の教育?」

探す手間が省けただのと言う三好さんに聞き返す。

「ああ、ホラちょうどお前と同じ日に面接気に来てた子なんだけどさ、高原姉妹みたいな感じでよろしくな」

ポンポンと肩を叩いて去っていく三好さん。
そして自分の目の前には、記憶の中にある通りにプルプルと緊張で震えているような印象の女の子。

「えーと、たぶん三好さんから聞いてると思うんだけど……教育係になったっぽい宮地です。よろしく」

コミュニケーションの基本は挨拶からで間違ってはいないはずだ。

「えとえと……あの、あ……あま、天川昴流でしゅ」

思いっきり噛んでいた。
そして、自分でも気づいたらしく気の毒になるくらい、真っ赤になって俯いてしまった。
天川昴流。初めて聞く名前なのに、驚くほどスムーズに自分の中に入ってきたのが、
後から思い返してみるととても不思議だった。
「えー、天川昴流さん、かな、まずは、んー、仕事の流れから、あー、説明するよね。」
「すばでしゅ」

外人だからカタコトなんだ。

「スバデッシュさんはこういうお仕事のけいけんてあるのかななな?」
「(無いと言えばどうなるかわからないからどうしようがないでしゅ)」

「ニホンゴでOKあるよ」

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