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一生勉強、そして努力 コミュの[おすすめ本] その科学が成功を決める

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■その科学が成功を決める … リチャード・ワイズマン博士 木村博江[訳] 
文藝春秋 / 1,619円+税

(『はじめに』から)
「あなたは今の自分を変えたいですか?スリムになりたい?理想の相手を見つけたい?
とにかくしあわせになりたいなら、次のことを実行しましょう!」

「目を閉じて、生まれ変わった自分を想像するのです。企業のトップまで登りつめ、贅沢な革張りの椅子にゆっくりと腰掛けるあなた、目標を達成でき、大金持ちになった自分を強く想像するのです」。

このたぐいのことを実行するようにすでに何年も前から自己啓発の本やセミナーは勧めている。だが、あいにく大規模な調査によると、このたぐいのことを実践しても効果はなく、悪くすると有害な場合もあるとう結果がでている。

理想的な自分の姿を想像するのは、たしかに気分がいい。だが、こうした現実逃避を続けると、落とし穴が待っている。成功へのけわしい道のりに対して心構えがないため、困難を乗り越えることができず、最初の障害で早くも挫折してしまうのだ。地上で天国を夢見るだけでは、夢を現実には変えられない。

生き方が変わるとうたわれた数々の自己啓発の方法にも同様なことが言えるようだ。
たとえばマイナス思考を頭から閉め出して、ひたすら「自分は幸せだ」と思う方法は、逆に自分をふしあわせにすることばかり考える結果を招く。(1)

何人かが集まってたがいにアイディアを出しあう集団思考の方法(ブレーンストーミング)は、個人が一人で考える場合にくらべて独創的なアイディアが出にくい。(2)

枕を叩いて大声でわめくという方法は、怒りやストレスを解消さえず、むしろ増やしてしまう。
(3)
そしてかの有名な「イェール大学の目標達成研究」はどうだろう。1953年に、ある研究チームがイェール大学の高学年の学生に面接し、うち3%の学生に人生で達成したい目標を書き出してもらった。20年後、同じチームが追跡調査をおこなった結果、目標を具体的に書き出した3%の学生のほうが、書き出さなかった97%のクラスメートより成功していたという。感動的な話であり、目標を立てるとそれが力になる実証例として、自己啓発の本やセミナーでよく引用された。だがこの話には小さな問題が一つだけある。

現在わかっているかぎりでは、この実験が実際に行われたという形跡がないのだ。2007年に、アメリカのビジネス誌「ファスト・カンパニー」の記者ロレンス・タバクがこの研究について追跡を試み、話を引用した自己啓発本の著者数名と、1953年にイェール大学にいた学生部職員や研究員に連絡をとり、実験の事実をたしかめた。(4)

だが誰一人実験がおこなわれた証拠を見つけだせず、タバクはこの話を広く流布した都市伝説にすぎないと結論した。自己啓発の権威たちは、事実を確認しないまま根拠として使っていたのだ。

世の人たちもビジネス界も、こうした現代の神話を頭から信じたために、目標や野心をかえって達成できなかった可能性もある。しかも悪いことに、挫折した人の多くは、自分には人生を切り拓く力がないと思い込んでしまう。これはとても不幸なことだ。

「ごくささいなことでも、無力感はその人の自信や幸福、さらには命にまで影響しかねない」。

ハーヴァード大学教授のエレン・ランガーがおこなった、有名な研究がある。ある介護施設で入居者全員に鉢植えの植物を配ったうえで、半数にはみずからその世話をしてもらい、べつの半数には植物の世話は施設の職員がすると言った。

6ヶ月後。そんなちょっとした仕事もさせてもらえなかった人は、植物の世話をした人に比べて幸福感、健康、活力が大幅に減少した。
さらに悲しいことに、その間の死亡率を比べると、植物の世話をした人たちの死亡率は15%だったのに対し、世話をしなかった人たちの場合は30%だった。(5)

そして教育、仕事、健康、人間関係、ダイエットなど多くの分野でも、同様な結果がでている。そこからはっきり読み取れることがある。

自分には人生を変える力がないと感じる人は、その力があると思う人より成功する率が少なく、精神的にも肉体的にも健康が保ちにくい。

数年前、私はソフィーという友達とランチをした。ソフィーはそのとき、しあわせになるための方法が書かれた有名な本を買ってみたが、実際あなたは自己啓発本についてどう思うかと尋ねられた。

私は自己啓発で勧められている方法の中には、科学的にかなり疑問のあるものもあると話し、自分を変えられなかった挫折感がどれほど精神的に人を傷つけるか説明した。
ソフィーは表情をくもらせ、そして「心理学的な根拠があり、かつ、手っとり早い自己啓発の方法は作れないのか?」と訊ねた。
ソフィーの言葉に刺激され、私は数ヶ月の間多岐にわたる心理学の研究論文が載っている専門誌を読みあさった。調べていくうちに、期待できそうなパターンが見えてきた。それぞれ違う分野で研究している科学者たちが、目標や他心を数ヶ月ではなく数分で達成する方法を開発していた。
私は行動科学の各分野から数百種の研究結果を集めた。気分にかかわることから記憶まで、説得から先延ばし行動まで、回復力から対人関係まで。
それらの結果から見えてきたのは、手っとり早く自分を変えるための新しい科学だった。
昔から伝わる有名な話がある。講義の息抜きによく使われる、壊れたボイラーを修理する男の話だ。男は何ヶ月も悪戦苦闘したのだが、直すことができない。
彼はついにあきらめて専門家を呼んだ。技術者がやってきてボイラーの横を軽く叩くと、あっという間に直ってしまった。技術者が請求書を差し出すと、男は「1分しかかからなかったのだから」と修理代を値切った。
すると技術者は「この請求額はボイラーを叩いた時間に対してではなく、叩くべき場所を正確に見分けられるまでにかかった年数に対しての金額です」と説明した。
(これがしろうとと専門家の違い)
このベテラン技術者と同じように、この本で紹介する人生改善の方法には、じつのところ1分もかからない。肝心なのは、どこを叩けばいいかを正確に知っていることなのだ。

(1)D. M. Wegner (1989). White Bears and Other Unwanted Thoughts: Suppression, Obsession, and the Psychology of Mental Control. New York Viking
J. L. S. Borton and E. C. Casey (2006). ‘Suppression of Negative Self-Referential Thoughts: A Field Study’. Self and Identity, 5, pages 230-46.
J. A. K. Erskine (2007). ‘Resistance Can Be Futile: Investigating Behavioural Rebound’. Appetite, 50
(2) B. Mullen, C. Johnson and E. Salas (1991). ‘Productivity Loss in Brainstorming Groups; A Meta-Analytin Integration’.Basic and Applied Social Psychology, 12, pages 3-23.
(3) B. J. Bushman (2002). ‘Does Venting Anger Feed or Extinguish the Flame? Catharsis, Rumination, Distraction, Anger, and Aggressive Responding’. Personality and Social Psychology Bulletin, 28, pages 724-31.
(4) L. Tabuk (2007). ‘If Your Goal is Success, Don’t Consult the Gurus’. Fast Company,18 December.
(5) J. Rodin and J. E. langer (1997). ‘Long-term Effects of a Control-Relevant Intervention with the Institutionalized Aged’. Journal of Personality and Social Psychogy,35 (12),pages 897-902.

□(2)しあわせは、なぜ大事なのだろう。

ひとつには、そう、気分がよくなるから。だが、それだけではない。幸福はあなたの人生を楽しくすると同時に、人間としての成功にも仕事上の成功にも影響を与える。
数年前、カリフォルニア大学の心理学者ソニア・リュボミルスキーは2005年に仲間と共同研究をおこない、参加者をいい気分にさせたあと、その幸福感がどんな効果をもたらすかを観察した。(1)

気分をよくするためにとられた方法は、摘みたての花の香りをかがせる、前向きな言葉を声にだして言わせる(「私はすばらしい人間だ」など)、チョコレートケーキを食べさせる、ダンスをさせる、笑える映画を見せるなど、さまざまだった。ときには意図的に「あなたの知能テストの結果は、非常に優秀だった」と伝えたり、“たまたま”道に落ちていたお金を拾わせたりもした。
そしてどのような方法をとっても、導きだされた結果は明白だった。幸福は成功から生まれると同時に、成功を生む原因にもなるのだ。

25万人以上を対象にした何百件もの調査結果から、リュボミルスキーは幸福感の大きなメリットを発見した。幸福感は人を社交的にし、他人思いにさせる。自分と自分以外の人たちに対する愛情が強まり、問題解決能力が高まり、免疫システムも丈夫になる。その累積効果によって、人はよりよい人間関係を築き上げることができ、充実した人生を長く健康に送れるようになる。
そんなふうに、幸福には有形無形のメリットが数多くあるので、誰もがそれを望むのも無理はない。だが、たえず笑顔でいるために最も効果があるのはなにか、そう尋ね場合、一番多く返ってくる答えは、「お金」ではなかろうか。

数々の調査を見ても、幸福のために「欠かせないもの」の筆頭に“分厚い財布”があがっている。(2)

だが、しあわせは本当にお金で買えるのか。お金を求める者には、破滅への道が待っているのではいないのだろうか。

(1)S. Lyubomirsky, L. A. King and E. Diener (2005). ‘The Benefits of Frequent Positive Affect : Does Happiness Lead to Success?’ Psychological Bulletin,131,pages 803-55.
(2)D.G.Myers(2000). ‘The Funds, Friends, and Faith of Happy People’ American Psychologist,55,pages 56-67.

□(3)宝くじに当たった人はしあわせになれた?

その疑問に一つの答えを出したのが、1970年代にノースウェスタン大学のフィリップ・ブリックマンが仲間とおこなった画期的な研究だ。(3)

ブリックマンは、経済的で夢がかなったとき、人の幸福になにが起きるのか調べてみたいと考えた。たなぼた的な運の良さで手に入れた幸福は長もちするのか、ひょっとすると最初の興奮はたちまち色あせ、恵まれた身の上が当り前に思えてくるのではないか。ブリックマンは、イリノイ州の宝くじで莫大な賞金を引き当てた人たち(100万ドルを獲得した人もいた)に連絡をとった。同時に比較対照グループとして、彼はイリノイ州の電話帳から無作為に参加者を選びだした。そして全員に自分の現在のしあわせの度合いと、将来どれくらいしあわせになりたいかを答えてもらった。
さらに、毎日どれくらい楽しいことがあるかについても訊ねた。
友だちと話す、笑える冗談を聞く、誰かにほめられる、などである。
えられた結果から、幸福感とお金の関係について驚くべき事実が明らかになった。
一般に考えられているように、宝くじに当たった人のほうが当たらなかった人よりもしあわせ、ということはなかったのだ。
そして将来のしあわせに関しても、両者のあいだに大きな違いはなかった。実際に、違う点は一つだけだった。
「宝くじに当たった人に比べ、当たらなかった人たちのほうが日々の単純なことがらに喜びを見いだす度合いが高かった」のだ。

ただし宝くじに当たるというのは、富を得る方法としては例外的だ。そこで心理学者は、働いて富を得た人たちの収入と幸福感との関係についても調べた。

その一つが、社会心理学者デヴィッド・G・マイヤーズがおこなった大規模な調査だった。
人々に自分の幸福度を査定してもらい(「非常に不幸」から「非常に幸福」までの十段階で評価)、国民総生産(GNP)に照らし合わせてその国の平均的な幸福度を割り出したのだ。(4)

その結果、非常に貧しい国の人たちは富裕な国の人たちほどしあわせではないが、国家が適度なGNPを獲得した段階でその差はなくなることがわかった。
給料と幸福との関係を調べた研究でも、同様なパターンが見られた。

イリノイ大学のエド・ディーナーが仲間とおこなった研究では、フォーブス長者番付トップ100に入る人たちでさえ、平均的なアメリカ人よりごくわずかにしあわせなだけだった。
そのすべてを総合すると、一つの単純な事実が見えてくる。
生きていくうえでの必要がみたされた場合、収入が増えても人の幸福度が大きく変わるわけではない。

なぜ、そうなるのか。
人が環境に慣れやすいということも、原因の一つだ。人は新車や新しい家を買っても当座は気分が高揚するが、すぐに慣れてしまい、喜びの度合いは購入前の状態にもどる。
心理学者デヴィッド・マイヤーズはこう指摘している。
「名声や財産に対する人間の適応能力のおかげで、昨日の贅沢も、たちまち今日には当り前に、そして明日には思い出になってしまう」。(5)

お金で幸福が買えないとしたら、あなたがずっと笑顔でいるために、どんな方法が一番なのだろう。
リュボミルスキーの研究結果によると、あいにく人の幸福感のおよそ50%は遺伝で決まっていて、変えることができないという。(6)

そして10%は、急には変えられない環境(教育、収入、既婚者か独身かなど)で決まる。
だが、さいわい、残り40%はあなたの日常的な行動や、あなたが自分や身の周りの人たちをどう受け止めるかによって変わってくる。つまり、ほんの少し知識があれば、あなたのしあわせ度はわずか数秒で大幅にアップするのだ。

(3)P. Brickman, D. Coates and R. Janoff-Bulman (1978). ‘Lottery Winners and Accident Victims: Is Happiness Relative?’ Journal of Personality and Social Psychology,36,pages917-27.
(4)D. G. Myers (2007). The work relating to the relationship between GNP and happiness involved examining data from the World Bank and the ‘happiness’ and ‘life satisfaction’scales of the 1990-1991 World Values Survey.
(5)同前
(6)S. Lyubomirsky, K. M. Sheldon and Schkade (2005). ‘Pursuing Happiness: The Archhitecture of Sustainable Change’. Review of General Psychology,9,pages 111-31.

□(4)プラス思考はしあわせをもたらす?

問題なのは、自己啓発の本やセミナーであたえられる助言が、科学的な研究結果と一致しない点だ。
たとえば、プラス思考の威力。しあわせへの道はマイナス思考を頭から閉め出しさえすれば、本当に開けるのだろうか。研究報告によると、そのように思考を抑えつけた場合、実際にはふさぎの虫が減るどころか増えてしまう可能性が高い。
1980年代のなかば、ハヴァード大学の心理学者ダニエル・ウェグナーはドストエフスキーの著作『冬に記す夏の印象』の中に、少々風変わりながら興味をそそるつぎのような文章を見つけた。
「ためしに自分に向かってこう命令してみたまえ。北極熊のことを考えてはいけない。するとその呪われた熊が、いつも君の頭から離れなくなってしまう」。
ウェグナーはこの話が本当かどうか、単純な実験をしてみた。参加者に一人ずつ部屋に入ってもらい、“ドストエフスキーの白い熊のことだけは考えないように”と頼んだのだ。
そして禁じられた熊が頭に浮かんだら、そのたびにベルを押してもらった。するとあっという間にベルの音があちこちで鳴り響き、ドストエフスキーの言葉の正しさが証明された。ある考えを抑制しようとすると、人はかえってその考えにとり憑かれてしまうのだ。(7)

この効果が実生活にあたえる影響を調べたのが、ニューヨーク州ハミルトン大学のジェニファー・ボートンとエリザベス・ケイシーだった。
2006年に二人が行った実験は、思考の抑制が人の気分と自信にどのような影響を与えるか
を、鮮やかに示して見せた。(8)

ボートンとケイシーは、参加者全員に自分自身の最大の欠点を書き出してもらった。そして半数の人たちには続く11日間はそのことを考えないように伝え、残りの半数にはふつうに暮らしてもらった。そして全員に、一日ごとに自分の欠点についてどのくらい考えたか書きだしてもらい、毎日の自分の気分、不安レベル、自信度を評価するよう頼んだ。
結果は、ウェグナーの「白熊」実験の結果とほぼ同じだった。自分の欠点について考えまいとしたグループは、実際にはふだん以上に欠点について考えていた。そして思考を抑制したグループは、ふつうに毎日をすごしたグループに比べ、自分自身について不安であり、憂鬱で、自信がないと答えた。すでに20年以上にわたる研究で、この矛盾した減少が私たちの日常さまざまな面で起きることがわかっている。
たとえば、ダイエット中の人にチョコレートのことを考えないようにしなさいと言えば、よけいチョコレートを食べてしまう。そして国政に馬鹿者を送りこんではいけないと大衆に訴えると、ジョージ・ブッシュに投票してしまうのだ。
というわけで、マイナス思考を抑えつけることが解決にならないとしたら、どうすればいいのだろう。一つの可能性は、気をまぎらわすこと。家族と過ごす、パーティーにでかける、仕事に熱中する、新しい趣味を見つける、などだ。
ただしこの方法は人を短期的には幸福にさせるが、長期的な幸福感につながりにくい。それをおぎなうために、研究者たちは効果の高い日記をつけること、小さな親切を実行すること、感謝の気持ちをもつことを提案している。

(7)D. M. Wegner (1989). White Bears and Other Unwanted Thoughts: Suppression, Obsession, and the Psychology of Mental Control. New York: Viking.
(8)J. L. S. Borton and E. C. Casey (2006). ‘Suppression of Negative Self-Referential Thought: A Field Study’.Self and Identity, 5, pages 230-46.

□(5)悩みを他人に相談しても気持ちは晴れない

人は誰でも、生きているあいだにつらいできごとを経験する。長く続いていた関係が壊れる、愛する人が死ぬ、会社をクビになる。悪くすると、一日の間にその三つが重なったりしかねない。いわゆる常識も、さまざまな心理セラピーも、不幸を乗り越える最良の方法はつらさを人と分けあうことだと教えている。「問題を分けあえば、つらさが半分になる」というこの方法を実行する人は、自分の感情を吐き出せば気持ちが浄化され、マイナスの感情を追い出して前に進むことができると信じている。たしかにいい方法に思えるし、感覚的に受け入れやすい。1999年の調査によると、実際に90%の人が、不幸な体験をほかの人に話せば気持ちがらくになると考えている。(9)
だが、それは本当に事実だろうか。

(9) E. Zech (1999). ‘Is it Really Helpful to Verbalize One’s Emotions?’. Gedraf en Gezondheid, 27, pages 42-7. 

□ (6)嫌なことがあったら人に話すより、「打ち明け日記」を書こう

この問題について、ベルギーのルーヴァン大学の心理学者エマニュエル展ゼックとベルナール・リメが、2005年に重要な実験をおこなった。(10)

二人は参加者たちに自分が体験した嫌な体験の中から、電車に乗り遅れた、駐車スペースが見つからなかったなどのささいなことがらはのぞいて「最も精神的に苦痛だったこと、いまも忘れることができず、人に話す必要を感じる出来事」を選び出してもらった。
身近な人の死から離婚、病気から虐待まで、問題は深刻だった。そして半数の参加者には、そのつらいできごとについて話してもらい、もう半数の参加者には、ごく普通の典型的な一日について話すように頼んだ。
一週間後と二ヶ月後に、全員が研究室にもどり、自分が感じている幸福感についてアンケートに答えた。
自分のトラウマ体験を実験者に話した人たちは、話したことが役に立ったと感じていた。
だが、アンケートの結果はべつの事実を物語っていた。実のところ、話したことでなにかが変わった形跡はなかった。参加者は自分の嫌な体験を誰かと分け合うと気持ちが軽くなると考えていたが、実際の幸福感の度合いは、平凡な一日について話した人たちと大差なかったのだ。
というわけで、嫌な体験を専門家以外の相手に話してもむだだとしたら、過去の苦痛を癒すにはどうすればよいのか。すでにご紹介したように、マイナス思考を抑えつけるのはよくない。
(11)
かわりに、「打ち明け日記」を書く、という方法がある。
トラウマ体験をした被験者に、毎日数分で自分の内部にある考えや気持ちを書いてもらう実験がいくつか行われている。(12)
例えば、ある実験では解雇されたばかりの人に、失業が個人としての自分と職業人としての自分にどう影響したか、本音を書くように頼んだ。
短時間で簡単に書いてもらったのだが、書き出すことで、被験者は心理面でも肉体面でも大いに元気づけられ、健康が回復し、自信や幸福感が増した。(13)
これらの結果は、心理学者に謎を残した。トラウマ体験を話してもほとんど効果がなかったのに、それを書き出すとなぜこれほど効果が上がるのだろうか。
心理学から言うと、話すことと書くことは大いに違う。話をすると、とりとめがなくなり、あちこちに飛んだり混乱したりする場合が多い。
かたや文章には筋道や構成があり、できごとに意味をもたせ、解決へ向かわせる力がある。ひとことで言えば、話すことは混乱をさらに深める可能性があるのに対し、書くことは系統だった問題解決への手段となるのだ。
この方法が、トラウマ体験をした不幸な人たちの役に立つのは明らかだ。だが同じような方法で、ふつうの人たちの日常的な幸福感も高めることが可能だろうか。たがいに関連のある三つの研究が、可能だと伝えている。
(10) E. Zech and B. Rime (2005). ‘Is Talking About an Emotional Experience Helpful ? Effects on Emotional Recovery and Perceived Benefits’. Clinical Psychology and Psychotherapy, 12, Pages 270-87.
(11) S. Lyubomirsky and C. Tkach (2003). ‘The Consequences of Dysphoric Rumination’.
C. Papageorgiou and A. Wells(eds), Rumination: Nature, Theory, and Treatment of Negative Thinking in Depression, pages 21-41. Chichester,England: John Wiley & Sons.
(12) S. J. Lepore and J. M. Smyth(eds). The Writing Cure: How Expressive Writing Promotes Health and Emotional Well-Being. Washington, DC: American Psychological Association.
(13) S. Spera, E. Buhrfeind and J. W. Pennebaker(1994). ‘Expressive Writing and Coping with job Loss ’. Academy of Management Journal, 3, pages 722-33.


コメント(13)


□ (7)感謝を表す

幸福感を高めるための文章で大事なポイントの一つが、感謝を表すことだ。人はある音や風景や匂いを体験し続けるとしだいにそれに慣れ、やがて意識をしなくなる。
例えば、焼きたてパンのにおいがする部屋に入った場合。あなたはすぐにいい香りに気づく。だが、しばらくその部屋にいると、香りは消えてしまう。実際に、もう一度香りを意識するには、いったん部屋をでてまた入り直すしかない。
まさに同じことが、私たちの日常のさまざまな面で起きているのだ。幸福感もまた例外ではない。人は、なにかしらしあわせを感じるものをもっている。愛するパートナー、健康、かわいい子ども、やりがいのある仕事、親友、熱中できる趣味、やさしい両親、自分の家、きれいな飲み水、サイン入りのビリー・ジョエルのアルバム、お腹いっぱい食べれる量。
だが、時間が経つとともに、焼きたてパンの香り同様その存在に慣れてしまい、ありがたみを感じなくなる。古いことわざにあるように「ありがたみは失ってはじめてわかる」のだ。

心理学者のロバート・エモンズとマイケル・マカラックは、パンの香りのする部屋をいったん出て入り直したときと同じ効果が、人の幸福感にも生じるかどうかを探った。
人が自分の日常に存在するいいものを、あらためて意識したときの効果を調べたのだ。(14)
二人は参加者を3グループに分け、週1回つぎのような項目で短く書き出してもらった。第1のグループには、自分が感謝することを5つ。第2のグループには自分にとって嫌なことを5つ。そして第3のグループにはその週に起きたできごとを5つ。「感謝」グループは、夏の夕日を見たことから友達の親切までを走り書きした。「嫌なこと」グループは、税金のことから子ども同士のケンカまでを書き出した。「できごと」グループは、朝食の用意から車での出勤についてまで、こまかく書きだした。結果は驚くべきものだった。「嫌なこと」と「出来事」グループの人たちに比べて「感謝」グループの人たちのほうが幸福感が強く、将来に対して楽観的で健康状態もよかったのだ。

(14)R.A.Emmons and M.E.McCullough(2003).’Counting Blessings Versus Burdens:An Experimental Investigation of Gratitude and Subjective Well-Being in Daily Life’.Journal of Personality and Social Psychology,84,pages 377-89
 
いいことだけに目を向けるのが健康の秘訣(心理学)

毎日を健康的に暮らすためには、自分の身の上に起きたことのうち「いいこと」だけに注目することが大事だ。上司に起こられたこと、階段で転んだこと、ハトのフンが頭に落ちてきたことなどは、忘れたほうがいい。

嫌なことは完全に無視して、いいことだけに目を向けるのである。いいことだけを頭に思い浮かべるようにすると、それだけで健康になれる。

「私はツイてない」とか「私は不幸な運命のもとに生まれてきた」などと思っていると、どんどん気分が落ち込んでいく。しかもまた、身体的な不調も感じやすくなる。災難が我が身に降りかかってきたときは、「まぁ、そんなこともあるさ」と気楽に考え、すぐに忘れてしまうに限る。あれこれと思い悩むのは、百害あって一理なしなのだ。

今回の研究は「ポジティブ思考をもっと具体的な行動に移した」ものだ。
カリフォルニア大学デーヴィス校のロバート・エモンズ教授は、大学生たちに1週間が経過するごとに「先週、最も感謝すべき5つの出来事をリストにしてほしい」と頼んでみたことがある。ようするに各自にとっての「いいこと日記」をつけさせたわけである。これは10週間に渡ってつづけられた。

また、エモンズ教授は、別の大学生たちに「先週、最もイライラした5つの出来事をリストにしてほしい」とも頼んでいた。こちらのグループでは「最悪日記」をつけさせたわけだ。

10週間が経過したところで、エモンズ教授は両方のグループに(1)あなたは自分の人生に満足しているか? (2)来週も明るく過ごせそうか?(3)身体的な不調をどれくらい感じるか? (4)どれくらい運動する時間をとっているか? などの質問をしてみた。すると、「いいこと日記」をつけたグループのほうが、人生に満足し、未来に対して楽観的になり、身体的不調の数は減り、運動する習慣を持つようになったのである。つまりは健康になっていたのだ。
心理学から言うと、話すことと書くことは大いに違う。話をすると、とりとめがなくなり、あちこちに飛んだり混乱したりする場合が多い。
かたや文章には筋道や構成があり、できごとに意味をもたせ、解決へ向かわせる力がある。ひとことで言えば、話すことは混乱をさらに深める可能性があるのに対し、書くことは系統だった問題解決への手段となるのだ。

健康になりたければ、自分にとっての「いいこと日記」をつけてみるのはどうだろうか。自動販売機のジュースを買ったら、もう一本当たったとか、懸賞に当選したとか、クライアントにほめられたとか、とにかくその日その日のうちで、一番うれしかった事を日記に書きとめていくのである。

その日記には「いいこと」しか書いていないわけで、ちょっと落ち込んだときには、その日記を読み返してみれば、勇気が沸いてくるだろう。
自分にはこんなにいいことばかりがあるということに気づけるからである。「よし、私はツイている人間だから、大丈夫」という自信を取り戻せるのだ。

「いいこと日記」をつけるようにすると、小さなことでも喜べるようになる。それこそ、お昼に食べたおにぎりがとってもおいしかったというようなことでも本人にとっては十分に「いいこと」に感じるようになるのだ。
なお、この日記をつけるときには、悪いことを一切無視するのがコツだ。悪い出来事を思い出してみても、気分がめいるばかりでメリットはないから、絶対にやらないようにするのである。
日記をつけるのは、せいぜい、5分くらいのものだろう。毎日たった5分の時間で精神的にも身体的にも健康になれるのだから、こんなよいことはない。
□ (9)愛を込めて書く

最後にもう一つ、「愛情のこもった文章」の効果を調べた研究がある。愛のある人間関係が、その人の心身にいい効果をもたらすのは驚くにあたらない。だが、それは愛を受けるからか、愛をあらわすからか、それとも両方のためなのか。それを知るために、アリゾナ州立大学のコーリー・フロイドが仲間と共同研究をおこなった。参加者に自分が愛している相手について考えてもらい、20分のあいだになぜその相手が自分にとって大切なのかを書いてもらった。
比較対照のため、もう一つのグループに前の週に起きたことがらを書き出してもらった。
どちらのグループも、5週間のあいだに同じことを三回おこなった。この実験でも、こうした簡単な方法がめざましい効果をあげ、愛情をあらわす文章を書いた人は幸福感が大幅に増加し、ストレスが減り、コレステロール値もかなり下がった。(17)

というわけで手っとり早く日々のしあわせを自分のものにしたければ、ある種の文章を書きだすと驚くほど効果があるようだ。感謝の気持ちを示す文章、理想的な未来を記す文章、そして愛をあらわす文章である。その効果は科学的に証明されており、必要なのはペンと紙と数分の時間だけだ。
(17) K. Floyd, A. C. Mikkelson, C. Hesse and P. M. Pauley(2007). ‘Affectionate Writing Reduces Total Cholesterol: Two Randomized, Controlled Trials’. Human Communication Research,33,pages 119-42.

□(10) 実際に具体的にやってみる

あなたの日常に効果的な文章を書く習慣が取り入れられるよう、風変わりな日記をつぎのように考えてみた。その日あったことを記録する日記ではなく、幸福な未来を作りあげる項目に、自分で書き込んでいく日記だ。週のうち5日間、毎日違うテーマを立て、どの項目も数秒で書き込むこと。科学的研究によれば、1週間この日記をつけると、あなたは自分の気分や幸福感が変わったことに気づくはずだ。その効果は数ヶ月続く。(18)
効果が弱まってきたと感じたら、また日記をつけ直す。
(18)M. E. P. Seligman, T. Steen, N. Park and C. Peterson (2005). ‘Positive Psychology Progress: Empirrical Validation of Interventions’. American Psychologist, 60, pages 410-21.

○月曜日…感謝する

感謝すべきことはあなたのまわりにたくさんある。親しい友がいる。ステキな恋人がいる。誰かがあなたのためになにかしてくれた、やさしい家族がいる、健康である、住まいがある、ちゃんと食事ができている。好きになれる仕事がある。いい思い出がある、最近うれしい体験をした。とてもおいしいコーヒーを飲んだ。
知らない人がにっこり笑いかけてくれた。家に帰ったら愛犬が飛びついてきた、おいしいものを食べた。いいにおいの花の香りに思わず立ち止まったなど。
この一週間を振り返って、そんなことがらを3つ、書いてみよう。

○火曜日…しあわせな時間を思い出す
あなたの人生で最高の体験を一つ思い出す。突然うれしさがこみあげてあ瞬間、恋をした、すばらしい音楽を聞いた、感動的な舞台を見た、友だちと楽しいときを過ごしたなど。
そんな体験を一つだけ選び、その瞬間に戻ってみる。自分のまわりでなにが起き、自分がどんな気持ちになったかを思い出す。そしてその体験の内容と自分が感じた気分を書き出す。文法や文字の正確さや句読点などは気にせず、短時間で自分の思いをありのままに書き出す。

○水曜日…夢の将来

自分の将来について書く。すべてが順調にいったと想像する。あくまで現実的に。だが懸命に働いた結果、目的や野心がすべて達成されたと考える。なりたかった自分になれて、個人としても職業人としても夢がかなった場合のことを思い描いて書く。書き出すことがそのままあなたの目標達成につながるわけでもないが、気分はよくなり、笑顔になれる。

○木曜日…親愛なる、、、

自分の人生に欠かせない、大切な存在を思い浮かべる、、、自分の伴侶、親友、家族など。その人が自分にとってどれほど大切か、当人に伝えるチャンスが一回だけあると考える。相手に短い手紙を書き、どれほど愛しているか、自分の人生にどれほど力を与えられたかを伝える。

○金曜日…思い返す

その週の七日間を振り返って、とてもうまくいったことを三つ書き出す。ささいなこと、駐車スペースがすぐに見つかったなど、、、でも、もっとだいじなこと。新しい仕事やチャンスが舞い込んだなど、でもいい。一つ一つについてその内容と、自分の気分がよくなった理由を、短時間で書き出す。
ぜひ、一度やってみてください。
□ (11)しあわせはお金で買えるのか

不意にあなたの頭に、二つの言葉が浮かぶ。「買い物」「セラピー」。そのとたんあなたは、買い物をすればいまよりしあわせになれると確信して、すぐそばの靴屋や大型家電店へ走る。
だが、買い物セラピーは本当に効き目があるのか。新しい靴や、最新の家電を手に入れれば、実際にしあわせになれるのだろうか。なれるとしたら、そのしあわせはどれくらい続くのか。最新の研究が、これらの疑問に明確な答えを出している。重要なのは、同じ研究結果から、しあわせになるための賢いお金の使い方がわかることだ。

□ 物を買っても満足感は長続きしない

心理学者のリーフ・ヴァン・ボーヴェンヌとトマス・ギロヴィチは、はたして幸福はお金で買えるのか、お金は品物(最新の服やかっこいい携帯電話など)に使うほうがいいのか、経験(レストランでの食事、コンサート、旅行など)に使うほうがいいのかを調べた。二人はまず全国的な調査を行い、回答者に自分がしあわせになるためにお金をだした品物と体験を書き出してもらい、買い物で自分の気分が高揚した割合を答えてもらった。つぎにべつの両差で、参加者を任意に二つのグループにわけ、片方のグループには自分が最近買った品物、もう片方のグループには最近買った体験を書くように頼んだ。
そして現在の気分を二通りに評価してもらった。悪い(マイナス4)からよい(プラス4)までと、悲しい(マイナス4)からしあわせ(プラス4)までの二通りである。するとどちらの調査でも、短期的、長期的な幸福感の両方で、体験を買うほうが品物を買うより人の気分をよくするという結果がでた。(19)

それはなぜだろう。体験に対する人の記憶は時間とともに変わる(飛行機に乗ったときのイヤな思いでは薄れ、砂浜でくつろいだしあわせな瞬間だけが思い出される)。
かたや品物は時間とともに汚れたり流行遅れになったりして、その魅力を失いがちだ。そして体験は、幸福感を誘発する行動―ほかの人とすごすーをともなうことが多い。人との交わりは体験の一部に入り込むと同時に、自分の体験をあとで人に話すという形でも生じる。かたや最新の高価な品物は、それをうらやむ友人や家族からあなたを遠ざける場合もある。品物を人に取られまいとして、あなたが片意地で孤独な人間になってしまうかもしれない。

だが、しあわせを買うために品物より経験を選ぶということだけが、この話しのすべてではない。ここで、下記の十項目のリストを見ていただきたい。(20)
項目ごとに、自分にあてはまる度合を点数で書き出してみよう。いずれも長く考えず、正直に、そして先の評価結果を見たりせずに答えること。
(19) L. Van Boven and T. Gilovich (2003). ‘To Do or to Have: That Is the Question’ Journal of Personality and Social Psychology,85,pages 1193-202.
(20) M. L. Richins, and S. Dawson (1992). ‘A Consumer Values Orientation for Materialism and Its Measurement: Scale Development and Validation’. Journal of Consumer Research, 19(3), pages 303-16.

<やり方>
項目ごとに1(自分にはまったくあてはまらない)から、5(非常にあてはまる)まで点数をつける。

1、高級な車や家をもっている人にあこがれる
2、自分が買ったもので人生の成功を判断しがちである。
3、それほど必要ないものまで買いたがる。
4、効果な品物にかこまれているのが好きだ。
5、高級品をもっと所有できれば、人生はしあわせになると思う。
6、地部のほしい高級品を買えないといらつく。
7、高級品を買うと自分に満足感を覚える。
8、友人や家族より物質的なものへのこだわりが強いようだ。
9、ブランド品のためなら大金を払ってもいいと思う。
10、ほかの人がうらやましがる物をもつのが好きだ。

すべて点数をつけ終えたら、合計してみよう。
10〜20点=低い。 21点〜40点=中間。 41点〜50点=高い。

もうおわかりだろうが、この質問表はあなたの物質中心指向の度合を測るために考えられたものである。点数が高い人ほど物の所有を重視しがちで、物をしあわせの中心と考えることが多く、もっている物で自分や他人の成功を測るところがある。それに対して点数の低い人は物よりも自分の体験や人間関係に価値を置く。中間の人は、どちらの要素も平均してもっている。そして研究者がこうした質問表への回答とその人が感じる幸福感との関係を調べた結果は、予測通りだった。
点数が高い人は、ふしあわせで人生に満足していなかった。(21)

もちろん、物質主義者がみなふしあわせ、というわけではない。だからたとえあなたの得点が高くても、何も気にせず不運など跳ね飛ばせるかもしれない。
(ただし、ひとこと釘を刺しておこう。心理学の研究結果によると、人はマイナスの結果に直面したとき、自分だけは例外と思いたがるものである)
では、物質主義の人はなぜ幸福感が薄くなるのだろう。高級品をたえず自分のものにしようとして、経済的に行き詰まるからだろうか。いや、じつは問題は出て行くお金にあるわけではなく、お金を誰のために使うかにある。
物質主義の人は自己中心の傾向がある。たとえば100万円もらった場合、物質主義の人はそのお金を人のためより自分のために約3倍使う。そして他の人についてどの程度考えているかを測る質問(『私は家に客を呼ぶのが大好きだ』『私は友人によく物を貸す』など)をしてみると、彼らの答えはきわめて自己中心的である。つぎに紹介する研究結果が示すように、これは幸福感という点ではマイナス効果をもたらす。
(21) M. L. Richins, and S. Dawson (1992). ‘A Consumer Values Orientation for Materialism and Its Measurement: Scale Development and Validation’. Journal of Consumer Research, 19(3), pages 303-16.

□ (12)お金を自分のためより人のために使うと、幸福感が強まる
ブリテッシュ・コロンビア大学のエリザベス・ダンは、2008年に仲間と共同でお金の収支と幸福感との関係について調べた。彼女はある全国調査で、参加者に自分の幸福感について採点を頼んだうえで、自分の収支と、自分のために使う金額および自分以外の人や寄付に使う金額を書き出してもらった。そしてさらに別の研究で、会社員を対象に3000ドルから8000ドルのボーナスを受け取る前と受け取った後の、出費と幸福感の関係を調べた。すると、結果にはつねに同じパターンが見られた。収入の多くを自分のため以外に使う人のほうが、自分のために使う人よりはるかに幸福感が大きかったのである。(22)

もちろん、疑い深い物質主義者は、それでは因果関係が逆ではないかと反論するかもしれない。他の人にもお金を使うからしあわせになるのではなく、しあわせな人がほかの人にお金を使うのだと。うがった指摘であり、ダンとそのチームもその点に注目して画期的な実験を行った。参加者に5ドルないし20ドルが入った封筒を渡し、その日の夕方5時までにそのお金を使ってもらったのだ。参加者は任意に二つのグループに分けられ、片方のグループはお金を自分のために使うように、もう片方のグループはその思いがけない収入をほかの人(友人や家族など)に使うように、それぞれ指示された。その結果、「しあわせな人が他の人にお金を使う」説は、あたっていないことが判明した。じつのところ、自分がえた金額の大小に関係なく、友人や家族のためにお金を使った人のほうが、自分のために使った人よりしあわせを感じる度合いが明らかに高かったのだ。

なぜそうなるのか。答えはあなたの脳の中にあるようだ。オレゴン大学の神経経済学者ウィリアム・ハーボーは、2007年に実験を行った。架空の銀行口座に100ドルあるという前提で、参加者の脳の動きをスキャナーで調べたのだ。
参加者はまず、自分のお金の一部が貧しい人のために税金として強制的に徴収されると知らされる。そして残りの金額を寄付するか自分のためにとっておくか、決めるよう言われる。スキャンした結果、進化の中で古くから存在する二つの脳の部位、尾状核(びじょうかく)と側座核(そくざかく)の動きが、お金が貧しい人のために徴収されたときに活発になり、自発的にお金を寄付したときとりわけ活発になることがわかった。(23)

尾状核と側座核は、私たちの最も基本的な欲望が満たされたときに活発に働く部位である。おいしいものを食べたり、人からほめられたりするときなどだ。つまり、ほかの人を助けることと幸福感のあいだには、脳の働きと直結した関係があると言えそうだ。

というわけで、科学的に言えば、買い物セラピーをするなら、人のためにお金を使うほうが効果的だろう。あなたの脳に直接刺激が与えられ、あなたはしあわせを感じるようになる。もちろん、自分にはほかの人に寄付する経済的なゆとりなどないと言う人もいるはずだ。
だが、あきらめるのは早い。2005年に、幸福心理の研究家ソニア・リュボミルスキーは仲間との共同研究で、参加者にお金のからまない親切な行為を週5回、6週間にわたっておこなうよう頼んだ。内容は感謝カードを送る、献血をする、友達を手伝うなど、簡単なことだった。
参加者の中には一日一回ずつ親切な行為をした人も、一日で五種類の行為を全部した人もいた。一日一回ずつ親切な行為をした人は、幸福感が少し増した。かたや毎週一日のうちに五つの親切行為をすべてすませた人は、なんと40%も幸福感が高まった。(24)
(22) E. W. Dunn, L. Aknin and M. I. Norton(2008). ‘Spending Money on Others Promoters Happiness’. Science, 319, pages 1687-88.
(23) B, T. Harbaugh, U. Mayr and D. Burghart (2007). ‘Neural Responses to Taxation and Voluntary Giving Reveal Motives for Charitable Donations’. Science, 316(5831),pages 1622-5.
(24) S.Lyubomirsky, K. M. Sheldon and D. Schkade(2005). ‘Pursuing Happiness: The Architecture of Sustainable Change’. Review of General Psychology,9, pages 111-31. 
□ (13)自尊心の低い子どもは物質主義になりがち

人を物質主義にさせるものは、なんだろう。所有欲が強くなる原因は、その人の生まれつきの性格、子ども時代の環境、あるいは人生体験にあるのだろうか。心理学者ラン・グエン・チャプリンとデボラ・レダー・ジョンが2007年に行った研究によると、物質主義のルーツは幼年時代にあり、おもに自尊心の欠如から生まれるという。(25)

二人はまず8歳から18歳までの子どもたちを集めて、自尊心に関する標準的なアンケートに答えさせた。「私は自分の外見に満足しています」などの項目を、自分にあてはめて採点してもらったのだ。次に二人はたくさんの絵がついたボードを用意した。ボードごとにテーマが五つに分かれていたのだ。趣味(キャンプ、スケートボードなど)、スポーツ(サッカー、テニスなど)、品物(新しい靴、自分専用のコンピュータなど)、人(友人や先生など)、そして自慢できること(いい成績、楽器が弾けるなど)である。
子どもたちにボードを見せ、「自分がしあわせになれること」というテーマで、絵を組み合わせて貼り絵を作ってもらった。研究者は、この遊びの中で子どもたちが、“品物”のボードから選んだ絵の割合を数え、子ども一人一人について物質指向を計算した。その結果では、自尊心と物質主義のあいだに強い関係が見られた。自尊心の低い子どものほうが、その他の子どもに比べ、はるかに物質指向が強かったのだ。

だが、この原因と結果は方向が逆ではなかろうか。物質主義の傾向があるために、自尊心が低くなるのでは?
この点を見極めるため、研究者は子どもたちにお互いのいいところを、紙の皿に書き出して、相手に渡してもらった。子どもたちの一人一人が、自分の長所や自分へのほめ言葉が書かれた皿を受け取ったのだ。この「私のいいところ」の皿は、子どもの自尊心を大いに高めた。もっと重要なのは、その後「私がしあわせになれること」のコラージュ作りで品物の絵を使う割合が半分に減った点だ。
つまり、自尊心の低さが物質主義の傾向を生み出すこと、そうした傾向は非常に幼いときから芽生えることが、はっきりと証明されたわけである。そしてこの研究からもう一つ読み取れることがある。他の人に少しお金を使ったり、小さな親切を実行したりすることと同じように、紙皿を使えばわずかな時間で人の考え方や行動が変えられる。
(25) L. N. Chaplin and D. R. John(2007). ‘Growing up in a Material World: Age Differences in Materialism in Children and Adolescents’. Journal of Consumer Research, 34(4), pages 480-94.
□ (14)成功へのステップ ― 買うなら品物より体験を
しあわせを買いたいという方へ。あなたの貴重なお金を、体験に使いなさい。食事に行く、コンサート、映画、芝居へ行く、休暇旅行へ出かける。ダンスを習う。バンジージャンプをする、など。他の人と一緒にできたり、あとでほかの人に話して聞かせたりできることであれば、なんでもいい。しあわせを求めるなら、本当にお金を払う価値があるのは品物より体験。
そのことをどうかお忘れなく。

□ お金を使うなら自分以外のことに

軽快にダンスのステップを踏んだり、赤ん坊のように泣き叫びながら地面に向かってジャンプしても、長続きするしあわせが得られるわけではない。お金は誰のために使えば、しあわせになれるか。そう訊ねられると、大多数の人は「自分のため」を答えるだろう。
科学は、それは間違いだと教えている。自分よりほかの人のために使うほうがしあわせになれると。
といっても、慈善事業や友人、家族、仕事仲間に収入の大部分を割く必要はない。実際のところ、小さなプレゼントが驚くほど大きくて長続きするしあわせをもたらすのだ。ほかの人のために使う数ドルは、最高に効果のある投資と言えるかもしれない。そして現金を使うゆとりがまったくない場合は、お金の要らない親切な行為を一日に五つ実行すれば、幸福感が倍増する。そのことを、どうかお忘れなく。

□ お金を使うなら自分以外のことに

軽快にダンスのステップを踏んだり、赤ん坊のように泣き叫びながら地面に向かってジャンプしても、長続きするしあわせが得られるわけではない。お金は誰のために使えば、しあわせになれるか。そう訊ねられると、大多数の人は「自分のため」を答えるだろう。
科学は、それは間違いだと教えている。自分よりほかの人のために使うほうがしあわせになれると。
といっても、慈善事業や友人、家族、仕事仲間に収入の大部分を割く必要はない。実際のところ、小さなプレゼントが驚くほど大きくて長続きするしあわせをもたらすのだ。ほかの人のために使う数ドルは、最高に効果のある投資と言えるかもしれない。そして現金を使うゆとりがまったくない場合は、お金の要らない親切な行為を一日に五つ実行すれば、幸福感が倍増する。そのことを、どうかお忘れなく。

□ (15)自分はしあわせだと思って行動すべし
人がなにを感じ、なにを考えているかは、そのしぐさや表情からだいたい読み取れる。悲しいときは泣く。うれしいときは微笑む。賛成のときはうなずく。それは不思議なことではない。
だが、“固有反射心理学”と呼ばれる研究分野では、同じことが逆方向にも働くと考えられている。人にある行動をとらせると、ある種の感情や考え方が呼び起こされるというのだ。この考え方は、最初は疑問視されたが、さいわいいくつかの説得力のある実験で裏づけがえられている。(26)
ある有名な実験では、参加者の片方のグループが眉をしかめるように、もう片方のグループがわずかに唇の端を上げて微笑むように頼まれた。このように顔の筋肉をわずかに動かしただけで、驚くほど参加者の気分に変化がでた。微笑みの表情を作ったグループほのうが、眉をしかめたグループよりずっとしあわせな気分になったのだ。
べつの実験では、大きなコンピュータースクリーンを移動するさまざまな品物を参加者に見つめてもらい、どの品物に魅力を感じるか尋ねた。品物は垂直方向に移動するもの(眺めている参加者はうなずくように首を動かす)と、水平方向に移動する品物(眺めている参加者は左右に首をふる)に分かれていた。結果を見ると、参加者は垂直方向に移動する品物のほうを好ましいと感じた。彼らは意識しなかったが、「イエス」と「ノー」の首の動きがその判断に影響していたのだ。(27)
まったく同じことが、幸福感にも言える。人はうれしいとと微笑むが、微笑むことでうれしくもなる。そして自分の笑顔を意識してもしなくても、この効果は働くようだ。
1980年代に、マンハイム大学のフリッツ・ストラックは仲間とともに実験をおこない、参加者の二つのグループに、ゲイリー・ラーソンの漫画「ファーサイド」を見せ、どれくらいおかしいと思うか、自分がどれくらいしあわせな気分かを採点してもらった。この実験は、風変わりな設定でおこなわれた。片方のグループには上下の歯で鉛筆をくわえさせ、唇が鉛筆につかないようにしてもらった。もう片方のグループには歯は使わずに突き出した唇だけで鉛筆をくわえてもらった。
すると、「歯だけ」の場合は、顔の下半分が微笑んだようになり、「唇だけ」の場合は不満げになる。実験の結果では、参加者の表情が当人の気分に影響する傾向が見られた。
「不満顔」の参加者よりも、微笑んだ表情をした参加者のほうがしあわせな気分になり、「ファーサイド」をおかしいと感じたのだ。(28)
2003年におこなわれたべつの研究では、しあわせな気分は人が微笑むのをやめても消えないことがわかった。幸福感は長く残り、行動のさまざまな面に影響をあたえ、他の人と積極的につきあったり、しあわせなできごとを思い出したりする割合が高まったのだ。(29)
これらの研究が伝えているメッセージは簡単である。明るい気分になりたければ、自分はしあわせだと思って行動すること。
(26) J. D. Laird (2007). Feelings:The Perception of Self. New York: Oxford University Press.
(27) J. Forster (2004). ‘How Body Feedback Influences Consumer’s Evaluation of Products’. Journal of Consumer Psychology, 14, pages 415-25.
(28) F. Strack, L. L. Martin and S. Stepper (1988). ‘Inhibiting and Facilitating Conditions of the Human Smile: A Nonobstrusive Test of the Facial Feedback Hypothesis’. Journal of Pesonality and Social Psychology, 54, pages 768-77.
(29) S. Schnall and J. D. Laird (2003). ‘Keep Smiling. Enduring Effects of Facial Expression and Postures on Emotinal Experience’. Cognition and Emotion, 17, pages 787-97.

□ (16)成功へのステップ ― 微笑む
あなたの日常ですぐにでも取り組めるしあわせは、たくさんある。なかでも大事なのが、“笑う”こと。ただし、感情のこもらない一瞬で消えるような笑いではない。
※笑顔を15秒から30秒続ける。
本物の笑顔を引き出すような場面、例えば友達からおかしなジョークを聞いたとか、来るはずだった姑が結局こなかったとか、を思い描きながら、できるだけ楽しい表情を浮かべる。
そして、繰り返し笑顔を浮かべるための合図を考える。時計やパソコン、携帯電話などに笑う時間をセットしたり、あるいはもっと大まかに、電話がなったらにっこりするというふうに決めておくのだ。

□ 背筋をのばす

姿勢も大事だ。コロラド大学のトミー・アン・ロバーツは、2007年の実験で参加者を任意に二つのグループに分け、片方には背筋をのばした姿勢で、もう片方には前かがみのし姿勢で、それぞれ椅子に座って三分すごしてもらった。そのあとで全員に算数のテストをあたえ、その後自分の気分の採点も頼んだ。すると背筋をのばしていた人の方が、前かがみになっていた人よりもずっとしあわせで、算数のテストの成績もよかった。興味深いことに、女性参加者にはこの結果があてはまらない場合が多かった。ロバーツは、背筋をのばして胸をつきだす姿勢に、女性は自意識を感じてしまうのではないかと推測している。(30)
(30) T. A. Roberts and Y. Arefi-Afsha (2007). ‘Not All Who Stand Tall Are Proud: Gender Differences in the Propioceptive Effects of Upright Posture’. Cognition and Emotion,21, pages 714-27.

□ 楽しげにふるまう

ビーレフェルト大学のペーター・ボルクナウ教授の研究によると、しあわせな人は、ふしあわせな人と行動の仕方が違う。(31)
この結果を応用して、しあわせそうにふるまうと、幸福感を高めることができる。つぎのことをお勧めしたい。歩くときは肩の力を抜き、いつもより腕を大きく振り、足どりを軽くする。
人と話すときは表情豊かに手を動かし、相手の話しにうなずく回数を増やす。カラフルな服を選び、プラスの感情がこもった言葉(とくに「愛」、「好き」、「良い」)をできるだけ多く使う。
自分自身を指す言葉(「私に」、「私は」、「私自身」など)はあまり口にしない。声の高さに変化をつける。早めにしゃべる、握手をするときは固くにぎる。これらの行動を日常に取り入れると、あなたの幸福感が高まる。
(31) S. Gosling (2008). Snoop: What Your Stuff Says About You. London: Profile Books. 
□ (17)苦労を新鮮な刺激と考える
心理学者のケネス・シェルドンとソニア・リュボミルスキーの研究結果を見ると、しあわせは楽をしていては手に入らないようだ。(32)
二人は2007年に数種類の実験をおこない、つぎの二種類の変化を最近体験した参加者を集めた。一つは「環境的変化」と呼ばれるもので、自分の環境にもたらされた重要な変化。
例えば引っ越しや昇給、新車の購入などである。もう一つは「意図的変化」と呼ばれるもので、目標達成や活動開始に努力が必要な変化。例えば新しいクラブに参加した、新しい趣味をはじめた、新しい仕事をはじめたなどである。
どちらのグループも自分の幸福感の度合いを、数週間にわたって評価するよう頼まれた。結果は一貫していた。どちらのグループも、変化を体験した直後は幸福感が急上昇した。だが、環境的変化を体験した人の幸福感は、すぐに以前のレベルにもどったのに対し、意図的変化を体験した人の幸福感は、長く続いたのだ。なぜだろう。
シェルドンとリュボミルスキーによれば、その原因は「快楽の習慣化」と呼ばれる作用にある。人はなにか新しいことを経験すると、高揚感を覚える。だが、そのすばらしい体験も、何度かくり返されると慣れてしまい、新鮮な喜びが失われる。残念ながら、環境的変化は快楽の習慣化を招きやすい。新しい家や昇給や新車は、最初のうちは人をわくわくさせる。だが、変化によってもたらされたプラスの感情は毎日同じなので、しばらくすると色あせてしまう。
かたや意図的変化は、快楽の習慣化が起きにくい。新しい趣味をはじめる、新しい職場で働く、計画に着手する、知らない人と出会う、新しい技術を学ぶ。
これらの場合は、たえず変化していく体験で脳が刺激されるため、習慣化が避けられ、幸福感が長く続く。
というわけで、しあわせ度を高めるためには、環境的変化より意図的変化を選ぶほうがいい。苦労をいとわずに、新しい趣味、大きな計画、はじめてのスポーツに挑戦してみよう。
自分の性格や価値観や能力にあった活動を選びだす。これまで自分がどんな活動が好きだったのか、なぜ好きだったのか考え、自分の嗜好を明確にしたうえで、その要素をふくむほかの活動を試してみる。たとえば線画を描くことが好きなら、水彩画を試してみよう。テニスが好きなら、バドミントンやスカッシュはどうだろう。数独ゲームが上手なら、クロスワードパズルで腕試しをする。いずれの場合も、自分が実行することの内容と実行する時間帯をこれまでと変え、快楽の習慣化を避けることが大事だ。一見大変そうだが、しあわせのためなら、努力のしがいは十分あると科学が証明している。
(32)K. M. Sheldon and S. Lyubomirsky (2006). ‘Achieving Sustainable Happiness: Change Your Action, Not Your Circumstances’. Journal of Happiness Studies, 7, pages 55-86. 

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