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◆◇交換小説◇◆コミュのすとろべりーそーだ

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退屈しのぎにちょっと描いてみた作品です。






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「あんた、誰?」
当時好物だった粉末のいちごソーダを啜っていると、女の子に話しかけられた。


母方の実家は、更別という名のいわゆる典型的な片田舎であり、
北海道民でもない限り、
知っている人の方がむしろ珍しいだろうというような場所である。

山の麓にある為か、起伏の激しい、
それでも見渡す限り田んぼか畑しか見えない。

当時はもう、村と言うよりはいっそ集落に近いような、
そんな場所だったと思う。

お盆の時期になると、札幌から家族全員で、
更別の田舎へ行くのがほぼ通例となっていた。

それは俺が小学校6年生になるまで続いた。

俺の密かな楽しみはサービスエリアで買ってもらうジュースだった。
普段は何を言ってもなかなか買ってもらえるものではなかったジュース。

それを買ってもらえるだけでも、田舎に行く意味は充分あった。
当時の俺にとって、じいちゃんとばあちゃんに会うのは、「その」ついでだ。


田舎のじいちゃん家は、当時は地主さんだったので、
辺りの家から毎日のように来客がある。

殆んどの家でスイカを作っているのに、お土産はなぜか大抵スイカだ。
それ故、じいちゃん家の倉庫には、
夏の間ずっと、スイカが何百個と山積みされていた。

家の脇には小川が流れていて、そこから田んぼに水を引いている。

余談にはなるが、スイカは川で冷やして食べるのが一番うまいものだと、
俺は大人になった今でも思っている。

母やばあちゃんにはよくスイカを冷やしに小川まで行かされたものだったが、
行く途中の風景の、都会にはないのどかさと涼しさがとても気に入っていて、
俺は快くいつもそのお役目を引き受けた。

見渡すと、そこには限りない「緑の海」が広がっていた。
俺はそんな平和な田舎の夏が好きだった。





ばあちゃん家の目の前には、神社がある。

まあ神社とは言っても、小さな丘の上に立ち、こじんまりとしていて、
おおよそ人の良さそうな神様が祀ってあるに違いないと思わせるような、
それはそれは可愛いらしい神社だった。

その周りだけ、やたら背の高いくぬぎの木が密集し、
まるで夏の太陽の日差しから、
ちょうど神社を守ってくれているような格好になっていた。

俺は、なんとなくその場所が好きだった。

この何もない田舎の入り口、と言っても車でも30分はかかる所にある、
母が子どもの頃からあるらしい、老舗の駄菓子屋さん。

そこでじいちゃん家に来る前にいつもまとめ買いしてくる粉末いちごソーダ。
タバコくらいの大きさのアルミらしき袋に粉末が入っていて、
そこに水を注いでよく飲んだ。

神社の階段に腰掛けて、かかとで階段の石を叩きながら、
波打つ緑の海と大きな入道雲を眺め、細い白のストローに勢いよく吸いつく。

子どもながらに、至福の時間を感じていた。





ここは豪雪地帯、冬になれば建物の一階部分は雪で埋まってしまう様な場所だ。

こっちの友達から「2階の窓から登校した」などといった、
今考えると「それは自慢なのか?」と、
よく分からなくなるような子どもらしい自慢話を度々聞かされるものだった。

しかしちょうどその分、夏は短かった。
花火もなければ、盆踊りもない。

そんなこの村の夏だったが、毎回絵日記が一杯になるほど、俺は楽しかった。
特に小学校3、4年生の頃は毎日が本当にワクワクだったのを今も覚えている。

それはきっと・・・あの娘が居たから。





「あんた、誰?」
好物の粉末のいちごソーダを啜っていると、女の子に話しかけられた。

この近辺の子は大体知ってるつもりだったが、その女の子は見た事が無かった。
だって集落みたいな所だ。一番近い信号機まで、車で20分は掛かるのだ。

そんな所で知らない子に会う事自体が珍しい事だった。

「僕?ゆうと。よしだゆうと。ばあちゃん家に遊びに来てるんだ。」

「ふーんそっか。じゃあそれなーに?」

「これ?・・・いちごソーダだよ。知らないの?飲む?」

「いちごソーダ♪おいしそう!ちょーだいちょーだい!」


神社の脇にある地下水をくみ上げるポンプをギコギコ2人で引いて、
俺は得意になっていちごソーダを作ってあげた。

「はー!しゅわしゅわするー!」

「うん、しゅわしゅわでしょ?」

都会にいる子に比べると決して小綺麗な格好ではないが、
自分の好物のいちごソーダに対し、
キラキラした笑顔をくれるその女の子に好意を抱いて、
俺は何個も何個もいちごソーダを作ってあげた。

体育座りで頬杖ついて、美味しそうにいちごソーダを飲んでくれた。

あかり、と言う名前だった。
波長が合ったとでもいうのか、俺はすぐにあかりと仲良くなった。
どうやらこの辺りの駄菓子屋では、いちごソーダは手に入らないらしかった。

「あ、カラの袋どうしようか?」

「神社の下に投げればいいよ。」

そうやって、その夏は神社の下にカラの袋がどんどん溜まっていった。

お昼過ぎに待ち合わせては、クワガタやトンボを取ったり、鬼ごっこしたり。

あかりは俺にとってちょっとした淡い恋心を抱ける女の子であると同時に、
一緒に遊んでいて一番楽しい悪ガキ仲間だった。

そんなある夜。ふとばあちゃんが言ったのだ。

「あの子と遊ばん方がいい。」

なんで?

どうして?

聞けば、村のはずれに越して来たばかりの子なのだが、
片親でその父親の素行があまりに悪く、
家族ごと村八分にされているとの事。

しかし僕は、まぁ関係ないやと思ってよく遊んでいた。
だが、周りに住んでいる子ども達は入ってくる素振りを決して見せなかった。

これがあかりと出会った最初の夏だ。





翌年になり、俺はいちごソーダと、
新たについ最近飲むようになったメロンソーダの粉末を握り締めて、
あの娘が待っているであろう田舎へ向かった。

どこからか、僕が来たと言う噂を聞きつけて、あかりは神社で待っていた。

「ひさしぶり!あかりちゃん!」

へへへっ!!とまるでガキ大将のように彼女が笑うと、
僕らは一瞬で一年前に戻った。

だけど僕は知っていた。

一年前のソーダのカラ袋を神社に放置して、神主さんにあかりが叱られた事。

全部ばあちゃんから聞いていた。
が、ばあちゃんは僕が共犯、むしろ主犯格だったとは全く知りもしなかった。

でもあかりは何も言わず、仲良くなった一年前と同じ様に遊んでくれた。

今年新しく持ってきた、メロンソーダを勧めてみたが、

「やだ!あたしはこっちの方が好き!」

と、メロンソーダに乗り換えた僕を一蹴した。

そして持ってきた小さくて細い白ストローで、
あかりはいちごソーダ、僕はメロンソーダを飲み干すと、
一年前の楽しかった思い出を確かめるように二人でうんと遊びたおした。

この頃には俺はあかりを完全に好きになっていた。

俺は卑怯で、一人で怒られたがそれをあかりが何も言ってこない事に対して、
ただただラッキーだと思っていた。

それを理由に、もしかしてあかりも俺のことを好きなのかもしれない。と勝手に思い込んだ。





しかし、翌年、更にその翌年の2年間、あかりは姿を見せなかった。

俺は理由も聞けず、どこか物足りない夏を過ごしていた。

あかりはきっと、あの時謝らなかった俺に嫌気が差したんだろうな。
まぁ、当然と言えば当然だ・・・。

あかりとは会えなかったが、代わりにこの2年で、
こっちに新しい悪ガキ仲間が増えた。

夏の間しかいない俺に、
冬は2階の窓から登校するというへんてこな自慢をみんなに揃ってされるので、
その間だけは俺は自分が部外者なんだと感じて面白くなかった。





中学生になり、俺は弓道部に入った。
体育会系文化部、いや、文科会系体育部、
もうどっちだろうとノリだけは完全に体育会系だった為、
夏休みなんていうものは存在しなかった。

高校も同じく。
むしろ、道の選抜メンバーになれるかもしれないということで、
俺はより一層燃えていた。

高校で弓道に燃えすぎた為か、大学に入るために1年浪人し、
キャンパスライフはみんなから1年遅れでようやく手にする事が出来た。

今まで封印していた欲求の解放、連日連夜の合コン、宴。

見事なまでの典型的大学デビュー、その中で初めて出来た彼女には、
今思うと、確かにどこかあの娘の面影があったようにも思えなくはない。

そんな俺のピンク色の大学生活の中には、
田舎の夏が入り込む余地は1ミクロンも無かった。

社会人になり、彼女とも別れ、
たいした楽しさも感じられない気の抜けたような毎日を過ごしていると、
ふと楽しかったあの頃の事を思い出す。

もうかれこれ15年も行ってない田舎や、
あの時俺のせいで会わなくなってしまったあの女の子の事を思い返すと、
しばしば俺はとても甘酸っぱい気持ちになっていた。

「アンタ、今年の夏は?更別行けるの?」

頭の中を見透かされたかのように、突然母にこう聞かれた。
さすが母上。

26にもなって恥ずかしいが、
短い短い夏休みの予定は、友人とサッカーすること以外には特に無かった。

何より、ばあちゃんを去年亡くして、
おそらく寂しがっているであろうじいちゃんに、
元気なうちにちゃんと会いに行かなきゃなと思い、結局田舎に行く事にした。

ばあちゃんの葬儀さえも、俺は忙しさにかまけ、
他の家族に任せっきりにしていたのだから。





15年前すごく遠かった田舎は、今となっては簡単に行ける距離になっていた。
じいちゃん家に着いて、親戚への挨拶も一通り終えて、
俺はちょっとだけ散歩に出ることにした。

隣近所に居た友達は村を出ていて、残ってるのはもう2、3人だけらしい。
結局その時会えたのは1人だけだったが、
いきなり大人になった者同士で会話も弾まなかったので、
早々と帰路につくことにした。

じいちゃん家に入る前に、
隣に変わらず佇むあのこじんまりした神社が目についた。

暑い日差しの中を神社に向かって歩く。

「確かに小さい小さいとは思っていたが、こんなに小さい神社だったっけか?」

あの時に腰掛けていちごソーダを飲んだ階段は、
明らかに幅が狭くなっている様に見えた。

今はそこでセブンスターなんか吸っている。
なんか妙な感じだな。

あかり、元気かな・・・。

ふと、後ろを振り返りたくなった。

が、そこにあかりがいるわけはなかった。

どこか遠くからうっすらと、へへへっ!!という笑い声が聞こえた気がした。





「おーい!!」

神社の階段の下の方で母親が呼んでいる。
ばあちゃん家に戻るなり、母親がニコニコした顔でこう言った。

「あかりちゃん結婚するんだって!覚えてるでしょ?
アンタずっと好きだったんだし。」

「・・・はっ?!!」

「そんで、あかりちゃんこれから挨拶しにここに来るんだって。」

「・・・え?!・・・えぇぇぇーーーーっ?!!」

もう、どっきり大成功!みたいな顔を思い切りしてしまった。
それにしても俺があかりを好きだった事に気付いていたとは、本当にさすが母上だ。

久しぶりに会うあかりはどんな娘になっているんだろうか。
俺なんかのこと覚えているだろうか。

あの時のことを思い出す。
あかりが顔を見せなくなった理由・・・

心の中のもやもやが、わずかに黒いシミを落とす。


久しぶりに会うあかりはどんな娘になっているんだろう。

ちょうどその時、玄関の方から、

「吉田のおじーちゃーん!こんにちはー!峰田ですー!」

と、持ち主の明るさを称えるようなよく通った声が、
本人よりも一足先にうちの中に入ってきた。





俺の心臓は爆発寸前だった。いや、なんなら既に爆発していた。

そして声の持ち主がちょうど見える頃にさしかかると、
今度は次第に頭が真っ白になった。


あかりはとびきりの美人になっていた。
急な緊張で、俺は生唾を飲み込んだ。

不意に目が合う。
だが、その目はあきらかに『知らない人』を見る目だった。

まあ、そりゃそうだ。

そりゃそうだ・・・。

俺は視線を外した。

べつに、なんということはない・・・。
言葉とは裏腹に、平静を装う自分にもしっかりと気付いていた。

ズドンと心が重くなる様が、
端から徐々に徐々に暗くなる視界が、
自分自身のことだからこそ、くっきりとわかっていた。

だが次の瞬間。

「・・・ゆうと・・・君?」

その声に、俺の世界は一気に色を取り戻した。

「やっぱりゆうと君だ!久しぶりだね!」

「あ、ああ。」

それだけ言葉を交わし、あかりはじいちゃん達と話し出した。


あかりの挨拶が済むと、二人は外に出た。
母に言われ、あかりを車で送ることになったのだ。

たった3分の、きっと二人の最後の時間。

「なあ、・・・旦那さんになる人って、どんな人?」

頭の中をぐるぐると何周もして、未だ勇気が出ない俺の口からは、
結局こんな台詞がこぼれてきた。

「どんなって、うーん。いや、優しくて頼れる人だよ〜。」

「・・・そ、そっか。」

車内での会話。終了。

あっという間にあかりの家に着いた。

「じゃあ、ありがとう。」

「おう。それじゃあ。」

車の向き変え、それだけ交わして、俺はあかりの家をあとにした。

「あ〜あ。俺って何も言えねーのな。」

ぶっきらぼうな言葉の余韻が、一人だけの車内を数瞬残って、そして消えた。

「あかりのやつ、ホント綺麗になってたなー。」

胸のチクチクを紛らわす為、
ふと入れたラジオから飛び出した曲は「ずっと好きだった/斉藤和義」。

俺は帰り道、口笛を吹いた。





この村の風習で、結婚式には村の全員が呼ばれた。母と俺も参加した。

披露宴までの時間に、近所に住んでいた野郎連中が俺に気付いた。

「あれー!!ゆうとじゃん!なつかしいなー!」

いや、ってかもうおまえらわかんねー!誰と誰だ!?

「あかりちゃんお見合いらしいなー。」

「昔は仲間はずれにしてたのに、今はあかり『ちゃん』かよ。」

俺はちょっとだけそれが面白くなかったので、彼らに小さく毒を吐いた。

「まあまあ、いいじゃんいいじゃん。
それよりあかりちゃんってホントは好きな人がいたんだってよ。
でもあかりちゃんの叔母さんがおじいさんが亡くなる前にって、
なかば強引にお見合いさせたんだってさ。」

「ふ、ふーん。つーかなんでお前らそんな事かぎまわってんだよ(笑)」

誰にも気付かれない程度に、俺はまたしても胸をチクチクさせた。


披露宴が始まった。田舎と言えど、会場には100人近い人、人、人。
重そうな扉が開き、新郎新婦が入場して来た。

真っ白なドレスに包まれた彼女は、
もう俺の知っている頃のあかりの面影など、すっかり残っていない様に見えた。

それくらい綺麗で素敵だった。

会場内に拍手が鳴り響く。

各テーブルの間を練り歩くように、2人はゆっくりと進む。
もちろん俺と母のテーブルの前も通る。

目が合ったので、拍手をしながら軽い会釈をすると、
あかりはお返しに笑顔をくれた。

新郎新婦が通り過ぎた後、不意に変なことを母に質問した。

「なあ。俺が最後にここに来た2年間って、
あかり遊びに来なかったのって覚えてるか?」

「あー。お父さん亡くなったからね。
ちょうどあの頃親戚のうちに引っ越してお世話になってたみたいよ。
あの子元々お母さんは小さい頃亡くなってるしね。」

と、母は答えた。

え、引っ越して!?俺が嫌になったからじゃ・・・?

「その後、なんでか村に戻りたがってねぇ。結局一人で戻って来たの。
友達もいないのに変な子だよって皆言ってたね。」


ドクン、ドクンと心臓が鳴った。


続けて母の口が動く。

「あ、神主さんのスーツ姿なんて初めて見るわね。ってそういえばアンタ、毎年毎年神社にいちごソーダの袋捨てて行ってるでしょ。
去年も一昨年も、毎年毎年捨ててあるって神主さん怒ってたわよ。」

「いや、・・・俺15年くらい来てないだろ?」

「あら、そうだったわね。じゃあ誰が捨てたんだろ?」

俺には・・・すぐにわかった。





「何かお飲み物はお持ち致しましょうか?」

しばらく席で考え込んでいた俺のそばに、式場の係の女性が近づきそう言った。


「じゃあ、・・・をください。」

「かしこまりました。」





今はもう大人になった俺達に。
両手にはストロベリーマルガリータ。

新郎新婦席で、へへへと笑うあの娘の面影を感じる花嫁に向かって、俺はゆっくりと歩き出した。

そして、「おめでとう」に混ざってしまいそうな、
「時間を巻き戻せたら・・・」という淡い思いは、
俺は小さな気泡と甘くさわやかないちごの香りにそっとしまって、
それを新婦に手渡した。


               (終わり)

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