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◆◇交換小説◇◆コミュの《交換小説 第一弾》

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コメント(4)

―――『彼』は人間でありながら、鳥たちの言葉にもしばしば耳を傾けるのだった。

それ故この森の鳥たちも彼を慕い、彼は森の鳥たちに『賢者』と呼ばれていた―――



『おはよう。賢者さま。おはよう』
小鳥たちが、コンコンと窓をつつく。

彼は目を覚まし、ベッドから起きだして窓を開けた。

途端に、小鳥たちが窓を抜け、彼の肩にとまる。

「みんなおはよう。今日もいい天気だね。」

小鳥たちと戯れながら、彼は朝食の準備をする。
簡単な食事を作り、お茶を用意した。
小鳥たちの分も小皿に分け、お茶も冷めやすいように、浅い器にそそぐ。

「今日はアップルティーだよ。もう少し冷めてからお飲み。」


いつも入れ替わり立ち替わりやってくる鳥たちに食事をふるまうのが
彼の日課だった。


食事を終えると、住まいにしている山小屋を出て、森の奥へ向かう。
朝なのに、既に夏の日差しが眩しく、目を眇めながら歩きだした。


『賢者さま、おはよう。今日は暑くなるよ。』
『おはようございます。賢者さま。明日の朝は、僕たちが遊びに行くよ』

森を歩くと、たくさんの鳥たちが話しかけてくれる。

一羽一羽に応えながら、ときに集まってくる鳥たちと戯れる。

そこに大きな鷹がやってきて、彼の頭上でバサッと大きく一つ羽ばたくと、
小柄な鳥たちはその鷹のために身を引いた。

鷹は彼が伸ばした右腕にとまると、彼を見て話しかける。

『やぁ、おはよう。賢者さん。今日もいい天気だね。これからあの場所へ行くの?』

「おはよう。あぁ、そうだよ。今日も、この森にかわりはないかな。」

いつも森を見回ってくれる鷹に、彼はたずねる。

『あぁ、ないとも。それじゃぁヤツによろしく言っておいてくれよ。」

そう言って、鷹は飛び去った。

森をしばらく進むと、切り立った崖が壁のようにそびえていた。
崖に沿って少し歩くと、洞窟がぽっかりと口を開け、そのすぐ脇には樹齢2000〜3000年はあるだろう
巨木がのびていた。

洞窟の入り口まで行くと、上からひときわ大きなコンドルが下りてきた。

『やぁ賢者さん、いらっしゃい。今日もこの中に行くのかい?』

「やぁ。いつもありがとう。今日もいってくるよ。」

そう短く言葉を交わすと、コンドルはまた崖の上の巣に戻り、
彼は洞窟の奥へと歩を進めた。

―――『彼』は人間でありながら、暗闇をものともしなかった。

なぜなら彼には魔法が使えたからである。

『あの時』も、いつも笑い者にされて泣いていたトナカイ『ルドルフ』のその真っ赤なお鼻に、彼はこっそり魔法をかけてこう言ったのだった。

「暗い夜道は ピカピカの お前の鼻が 役に立つのさ」―――




洞窟の入り口の、ちょうど彼の左手が触れた辺りというのは、

『あるもの達』が仮住まいとしている場所だった。

その『あるもの達』とは、ひかりごけ達の事である。

彼女等は彼にこの洞窟に仮住まいさせてもらう代わりに、いつも彼の役に立ってくれた。

そう、『あの時』も。。。


今度もあの時と同じように、

彼は彼女等の身体をほんのひとつまみだけ分けてもらい、そうして何かを唱え始めた。

するとどうだろう、

こけは火花となり、まるで生き物のように彼の手を離れ飛び回ると、

真っ暗な洞窟の中はどんどんと鮮やかに明るくなった。

こけの飛び回った通り道は、やがて落ち着いてぼんやりと神秘的な光を帯び出した。

「いつもありがとうね。今日もキレイだよ。」

彼はそう言うと、洞窟の奥へ一歩一歩踏み締めながら入っていった。

何本もの分かれ道を通るが、それを正しく進んでいくと、急激に道が拡がっていき、途端に『ある部屋』に出た。

そこには、彼がこの世の中で最も深く愛した女性が眠っているのだった。

 ―― しかし『彼』は人間だからこそ、歳という名の年月を知っていた。

 その部屋につくと、彼は肩を軽く払った。洞窟はしめったく、そして手入れされていないので、気をつけてもどうしても肩に埃ついてしまう。簡単に身なりを整えて、そして会釈。
 もちろん彼女は寝たままで、こちらを見る訳ではないのだが。

 彼女の眠る側に立ち、そっと彼女に触れるものの、その頬は冷めている。しかしながら、低い体温が彼女の体をめぐり、聞き取れないほどの小さな吐息を繰り返していた。
 はしばみ色の髪の毛が、随分と長くなっていた。ベッドから落ち、床にもかかるほどだった。彼女が眠り始めた時には、まだ肩のあたりだったのに。

「ああ自分だけ、随分歳をとったものだ」

 あごのひげに手をかけて、うっすら苦笑いを浮かべた。彼女と出会った時より、自分だけが随分と年をとってしまっていたのが指先の感触で分かる。
 自分は賢者と呼ばれていて、鳥達の言葉も聞き分け、そして魔法すら使えるというのに、ただ年齢だけはごまかすことができずに、相応のままだった。

 どれほど昔になるだろう。あぁそうだ。自分が今、手にかけているひげが、まだなかった頃のことだ。

 ……………

 この森には、彼のほかに人間がいた。厳密にいうと、森の近くの村に住む少女である。この森に住むのは、風変わりな彼のみで、他の人間は里に住んでいた。しかし、その彼を訪ね、彼女はよく森に通った。

「ハロー、小鳥さんたち。今日も元気ね」

 彼女は鳥とよく話した。彼女は持参したアップルティーを淹れて、それを鳥達にやる。彼が今でも朝、鳥達にアップルティーをあげるのは、彼女の影響かもしれなかった。森に、鳥に、彼女は非常に愛されていて、彼もまた彼女を愛していた。
 彼女は鳥に挨拶を済ましたあと、彼の側にやってきた。

「ねぇ、指輪をつくってほしいの。この間、カラスが素敵な指輪をどこからか持ってきていたのよ。いいなぁ、私もほしいなぁって思ったの。」
「どんな指輪」
「えっとね、キラキラしてて……」
「ああ、もう後で聞くよ。ねぇ、それより、そこのスコップとって。」

 彼女は口を尖らせて、スコップを手にした。

「何よ、いじわるね」

 しかし、彼の夢中になってる姿を見ると、彼女も少し興味がわいたようで、そっと隣にやってきてひざを曲げて覗き込んだ。

「わぁ綺麗」

 彼のスコップの先、少し掘り返した土の上に、キラキラと光が宿っている。
 彼はそっとそのスコップからひかりをつまむと、彼女のくすり指に乗せてやった。

「ひかりごけだよ、そこらの指輪より素敵だろ?」

 彼女は少し笑って頷いた。

「えぇ、本当ね。こっちのほうが、ずっといい」
「気に入った?」
「ええ」
「そうか…、じゃあひかりごけ。うちに来るかい? うちの近くにある…知ってるかな。大木にあるんだが、洞窟を住まいに貸してあげよう。その代わり、勿論、光ってもらったり、手伝ってもらうこともあるけどね」

 ひかりごけは嬉しそうに瞬いた。

「この光が来るの? じゃあ私、その洞窟に住もうかしら」
「洞窟に?」
「ええ、あの洞窟の奥。部屋をつくったらいいと思わない? そうしたら、通わなくて住むもの」
「そうだね、こしらえようか。」

 分かりにくい、プロポーズのような言葉。そして、彼女が森にやってくるという約束。
 すべてが幸せに包まれたような瞬間だった。

 ……………

 「あの時から、君は何も変わらないね」
 そっと髪を撫でる。

 『あの時』から、まるで電気のスイッチが切れたように、彼女は瞳は開かない。何年も、何十年も。
ただしかし、彼女はずっと眠っているだけのようだった。水を飲む訳でもなく、食べ物を口に運ぶわけでもない。そして、老いるわけでもなかった。
 ただ、彼女は森の中で、「自然に」生きているのだった。

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