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【S.S.G特設会場】コミュの【See and Go】

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――――
──ピロリロピロリロ…


午前7時。



至はベッドの中で、目覚まし代わりの携帯のアラーム音を聞いた。
靄掛かった脳ミソから指令を出された腕が、枕元に置かれた携帯を掴む。

電源ボタンを押そうとしたところではたと気付いた。
今日は休日の筈だ。


怪訝に思いディスプレイを見ると、そこには『着信』の2文字。
携帯を電話の体勢に持ち直し、至──『市荷 至(しにいたる)』は通話ボタンを押した。


ピッ

「もしも「てめーさっさと出やがれ!」

スピーカーから離れていてもハッキリと聞こえそうな大声に、顔を一つしかめた。
「朝っぱらから大声出すんじゃねぇよ、保」


受話器の向こうに居たのは『友垣 保(ともがきたもつ)』。至の幼なじみである。

(まあ俺達の場合は『幼なじみ』じゃあなく『老けなじみ』、とでも言うべきなんだろうが…)
などと考えている間に、保の側は大いに話が盛り上がっていた。


「だからよォ…て、聞いてるか?」

「ん、ああ、スマン。メロンパンの件までは聞いてた」

「…全然聞いてなかったろ?」

保は呆れた声で続けた。
「サプライズパーティだよ。今日はお前の誕生日だろーが」


この言葉に、至は驚いた。

この粗暴な幼なじみが自分の誕生日を覚えていた事に。
そして誕生日を祝おうなどと殊勝な考えをした事に。
何より、

(サプライズって本人に言ったら意味なくないか…?)

その馬鹿さ加減に驚いていた。
ここまで至を驚愕させたのだから、ある意味サプライズは成功とも言える。


「とにかく、準備したらすぐ来い、俺ん家近所のマツエル前な!酒の買って昼過ぎには始めるぞ!」

「買い出しまでやらせるのか…てかそれ夜までやる気か!?」

「当然ッ!」

保にとってパーティ=飲み会。そして飲み会=夜通し、である。
開始が何時であろうと。


「どんだけ飲むんだお前!」

「俺はどれだけ飲んでも大丈夫だ」

「俺は大丈夫じゃない!殺す気か!?」

「もう死んでるじゃねーか。こまけーこと気にすんな!
とにかくさっさと来い!」
一気にまくしたてると、保は一方的に通話を切った。



静けさを取り戻した部屋で─騒がしいのは至の耳元のみであったが─、至はゆっくりと幼なじみの言葉を反芻する。
一度胃袋に収めた言葉を、吐き出し、咀嚼する。


(……もう死んでる、ねぇ…)


──そう、保が言ったように、至はかれこれ三十年程前に死亡している。
彼だけではない。保も、誰も彼も、この世界に居る者は1人残らず死人だ。


ここは、死後の世界なのである。





【See and Go】





死後の世界。

こう言って、大抵の人間が想像するのは天国と地獄。あるいは輪廻転生。あるいは無。


事実はそのどれとも違う。


死んだ生物の魂は全てこの世界にやってくる。
そして自分が生きたのと同じだけの時間を、ここで若返りながら過ごす。
若返りきったところで魂は漂白され、新しく生まれる命へと与えられる。
考え方としては、輪廻転生に近いか。


(…俺も若くなったもんだ、もう随分いろんな事を忘れちまった)


至が想うのは『未来』の記憶の事。

若返るのは脳も例外ではないらしく─精神体である魂に脳があるというのも変な話だが─、若返りに合わせて記憶は欠落していく。

それは忘却というより、その記憶がない状態に戻るというのが正確な表現ではある。
が、彼らにとって失われるという意味ではどちらでも同じことだった。



(…それにしても、昼過ぎから始めるにしたって起こすのが早過ぎないか?)

今は7時半。
のんびり準備で一時間。
最寄りのマツエルまで一時間強。

保の家への移動時間を考えても、買い出しに二時間以上かけることとなる。

至の平日の起床時間にわざと合わせたのか、それとも計算ができていないのか。

どちらにしろ馬鹿であると結論付けた至は、たっぷり三時間ほどかけて準備を済ませる。

朝食は摂らず家を出た。
必要がないからだ。



殆ど違いが無い生前の世界と死後の世界。
数少ない目立った相違点のうちの1つがこれである。

『食事の必要がない』

魂の状態には体力が存在しない。あるのは精神力のみだ。
──精神力しかない、とも言える。

精神力の回復には睡眠を取るのが一番効率が良く、それのみで事足りる。
それ故、極論すれば寝てさえいれば死なないのである。

大概の怪我では死ぬことはなく、それさえも寝れば回復する。
ゲームをしたことのある人間ならば、RPGの宿屋を思い浮かべるだろう。


しかし長年の習慣を払拭することは困難であり、食品も少なからず『嗜好品』としての販売がされている。

コメント(5)

「おせー!」

「お前が早いんだ」

保の恨み言を聞き流しつつ『嗜好品』を買い、保の家へ向かう。
荷物で両手の塞がった保の代わりに、扉を開けた。

両手いっぱいの荷物を下ろすのに苦戦する保を余所に、至は違和感を感じた。

人の気配が無い。
リビングを覗いてもやはり、誰も居ない。


「なぁ、皆はどこ行ったんだ?ていうか誰呼んだの?」

荷物を下ろし終えた保が答える。
「呼んでねーよ」

「はぁ!?」

「今家には俺とお前と大五郎しか居ない」

「酒じゃねぇか!大五郎酒じゃねぇか!パーティとは名ばかりのサシ飲みじゃねぇか!
ちくしょう…誕生日に2人きり…男と…」

ちょっと涙目だった。

「まーまー、こんな日は飲んで元気だせよ!」

「お前の…グスッ、せいだ…」

こうして、2人はなあなあで飲み会に傾れ込んだ。




「…なぁ、知ってるか?通り魔の話」

「ん?…あー、磨り潰し連続殺人のことか?」

「そうそう。それ、この辺に潜伏してるかもしれないんだってさ」

「こえーよな、うん」


会の開始から十時間が経過した頃。

ゲームをし、食事をし、既にやることもなくなった2人はダラダラと雑談をしていた。
保の私物である、しにものがかりのライブDVDは随分前からかかりっぱなしで、見るともなしに見ている状態だ。

「保お前、ちゃんと聞いてるー…ん、あれ?」


そんな中、遂に運命の瞬間が訪れる。



酒が底をついた。



場に沈黙が流れる。
それを破ったのは保。


「まだ飲める!買い出しだ!」


「嫌だ」

「じゃあジャンケンで俺が勝ったら買い出しに付き合ってもらうぜ!」

「じゃあの意味が分からん!」

「だっさなっきゃまっけよー」

「それはズルい!」



十分後──

「…どうせ負けるなら出さないで拒否れば良かった」

─マツエルへの薄暗い道程を保と至は歩いていた。


「はっはーん!俺のジャンケン勝率をなめるなよ!もう第二のスタンド能力と言っても過言じゃねーな!」

(何を言ってるんだこいつは)

至が心の中でツッコミを入れた、丁度その時。


角を曲がった先に、それは居た。




大人が1人。

それを挟むようにして子供が2人。


少し距離がある上、相手は街灯から離れた位置に居る為ハッキリとは認識できない。
が、確かに3人の人間がそこには居た。

どうやら手を繋いでいるように見える。


そう認識し終えた時、その瞬間に。
2人の小さな人影の間にいた大きな人影が、突然─、



──潰れた。



ぐちり、と音を立て。

腕が、脚が、頭が、腹が。

全身が。

歪み、ひしゃげ、潰れた。

グズグズと、赤く柔らかな、汁っぽい固体に成り果てた。


まるで、『 磨 り 潰 さ れ た 』かのような姿に。



人影がその形を失っていく様を見た至の思考が停止する。
状況の理解が出来ない。

一瞬の間を置いて再び動き出した至の脳は、家を出る前に保とした会話を再生する。


─『磨り潰し連続殺人…』

─『この辺に潜伏してるかも…』




「っ馬鹿避けろッ!!」


保の叫びにより意識を引き戻された至の眼前に迫る2つの手。

避けないと。いや、間に合わない!

と、襟首を掴まれ後ろに引かれた。手は空振る。
手の主は2つの人影。
至が思考を止め、思考に暮れた、その二瞬の間に四十メートル近くあった距離を詰めていたのだ。


そのスピード。そして街灯の下に晒されたその姿。

それは、明らかに人間の物ではない。


「こいつらスタンドだッ!迎え討つぞ!
至、早くスタンドに『成れ』!!」


背後から掛けられた言葉の意味が分からず、至は振り返る。

「さっきから何を…ッ!?」


そこに、保の姿は無かった。


逃げたか。いや、保は友人を捨て置き逃げるような人間ではない。
何より、たった今至に言葉を掛けたばかりなのだ。

混乱状態の至は、一瞬遅れて気付く。


自らの右腕が妙に重たいということに。


右腕に目をやるとそこには、腕に纏わりついている何か得体のしれないもの。

「な、何だコレぇ!!?」


混乱に追い討ちをかけるように、『何か』はみるみる内にグローブの形をとり至に語り掛けてきた。


「何やってる!さっさとしろ!」

「その声…保か!?どうしたんだお前!」

「そっちこそさっきから何言ってやがる!お前もスタンドを…」

「だからッそのスタンドってのは何なんだよッ!」



─何かがおかしい。

先程から噛み合わない会話、そしてその原因に保は思い当たる。


「お前まさか…『忘れ』ちまったのか!?スタンドの事!」
そう、若返りに伴う記憶の消失。

今朝の時点で、至は既にスタンドを知らない至だったのだ。


「よりによってこんな時に…!」

保の焦れた声に至が応える。

「俺は覚えてないが、お前の状態はスタンドってヤツのせいなんだな!どうすれば元に戻る!?」

「ちげーよ!この姿が俺のスタンドだ!あいつらも…」


言いかけて気付く。


あいつら。2つのスタンド。
始めの一撃以降、攻撃してくる様子が無い。


見ると、街灯の灯りの中に立ちこちらをじっと見ていた2体のスタンドが、口を開く。


「なぁんだ。スタンド使いみたいだから警戒しちゃったね」
澄んだ青のスタンドが言うと、

「装備型がたった1つじゃあ、恐れるに足りないわ」
くすんだ紅のスタンドが答える。

「これならば問題ないね」

「攻撃を再開するわ」

言うなり左右対称の動きで襲い掛かる2つのスタンド。


至の脳裏に先程の光景が過った。
形を失ってゆく人間。


─この世界では大概の怪我では死なない。
しかし、あのような『潰れた』姿は、大概の怪我に含まれる筈もない。

「うわぁぁあ!!」


至は避けた。必死で避け続ける。

「てか右腕重たい!離れろよ保!」

「いや、それじゃあどうにもなんねー!」

スタンド無しでは戦う事も逃げる事もできそうにない。
そして保のスタンドだけでは、満足に動くこともままならない。

「いいか至!今はスタンドを知らねーんだろうが、素質はある筈だ!
必 死 に な れ !そしたらなんとかなる!」

「もう必死だって!」

「もっとだ馬鹿!」

言いながら転がるようにして攻撃を避ける。

(しまったッ!)

そこへ迫る攻撃。
地面に腰を着けた至には避けられない。


「──ッ!!」

声にならない叫びが漏れる。



──その時。


ザ ワ リ



至の身体が、光に包まれた。



「「!!」」
2つのスタンドが咄嗟に飛び退く。


淡い光を放つ至の身体は、腹の辺りから広がるようにその色を変える。
腕、脚、頭の先まで。五体全てに変化の波が伝わり終えると、そこには黄色の滑らかな、しかしどこか鋭い姿をしたスタンドが居た。

生前は至に寄り添い、並び立っていたスタンドの姿である。




──スタンドとは精神のヴィジョンだ。


そして死後の世界とは魂の世界。精神の世界。

つまりここでのスタンドとは文字通りの自分自身。

これこそがスタンドを発現した至の姿、その名は──、



「『ポラリス』ッ!!」



思い出した─否、新しく理解した、自らの名を呼び立ち上がる。


「やぁーっと成ったな?」

聞こえた声に右腕を少し持ち上げると、そこには変わらずグローブの姿をした保。
スタンドに成り力が上がった為か、先程までと比べて随分軽く感じる。

(軽い…これなら、あいつらのスピードに対抗、いや、翻弄できる!)


しかし構える至とは反対に、2つのスタンドは力を抜いた。

と同時に、十歳程の少年と少女の姿へと変貌する。
とてもよく似た顔の2人の子供。


「どうやら目覚めちゃったみたいだねぇ」
少年が口を開くと、

「これじゃあ口封じ程度の気持ちだと怪我しちゃうわ」
少女も口を開く。

「まずは動きを止める事を優先しようね」

「望むところよ。…ああ、なんかいいタイミングだし、一応名乗ってあげるわ」

「『前田 歩(まえだあゆむ)』─それが僕の名前だね」

「『前田 進(まえだすすみ)』─それが私の名前だわ」

「「二人揃って、双子で不仲な前田兄妹」」

「よろしくねっ」


歩が言うのを合図に、双子は同時に地面を蹴ると、身体をスタンドに変貌させバラバラに殴りかかった。


(触られるのはマズいな…)

至は余裕を持って避けようとした──が、一瞬で肉薄した青のスタンド、歩にそれを阻まれる。
そのスピードは明らかに先程よりあがっていた。

繰り出された拳を思わずガードする。一瞬怯むが、潰れる様子はない。


「?…ッ!!」

至の訝しがる表情が、驚愕のそれへ上塗りされる。


歩の拳をガードしていた腕が、跳ね上がったのだ。


それによりガラ空きとなった至の腹に、歩は追撃を叩き込む。

スタンドとはいえ子供の拳、痛みはそう大きくない。
しかし、抉り上げる拳の動きに合わせて至の身体は上に吹き飛ぶ。

それを待ち構えるように─事実待っていたのだろうが─空中に跳んでいた紅のスタンド、進が拳を振り下ろした。
またしても衝撃は少ないが、それからは考えられない程の勢いで地面に叩きつけられた。

「がっ…あ…!?」


至は軋む身体を起こす。
砕けた地面の破片がパラリ、と落ちた。
「急にスピードが上がった…?」

至の呟きに対し、歩が応える。

「だからぁ、さっき言ったよね?『不仲』だって」

「こんな奴に合わせてさえなければこれぐらいのスピード、簡単に出せるわ。本当は組むのも嫌なくらい」

「それはこっちの台詞なんだけど、ねぇ!」


再び『バラバラに』攻撃を仕掛ける双子。


どうする?─焦る至の耳に、保の声が聞こえた。

「何を焦る事があるんだ至ちゃんよー、こんな時のお前の『能力』だろ?」

(俺の…能力?)



「遅いね!」

歩が先程と同様に至の腹部を殴り、上空へ飛ばす。
その背後から進が追撃を、今度は頭に入れるべく振りかぶり、



バ キ ィ ッ !



─進が、至に殴られ吹き飛んだ。


「は…?」

至近距離に居た進には何が起きたのか分からない。しかし歩には見えていた。

空中で前転をするように回転し進に向かう至の姿が。
そして、その膝と背中から出るジェット噴射が!


「これが俺の能力…そしてっ」

「おう!やれ!」

着地に合わせて地面を殴る。
すると乾いているはずの地面から、至を中心とした円状に飛沫が上がる。

王冠型の飛沫、ミルククラウンだ。

「これが保の能力か…」


上がった飛沫は瞬時に固まり、そこには高さ1m程のアスファルトの王冠が出来上がった。

飛沫を浴びる形になった歩は咄嗟に後ろに退くが、一歩間に合わず左足が共に凝固。
避ける際に跳んだ事により足が高い位置に固定され、バランスを崩す。
その隙を逃さず至は攻撃を仕掛けた。



「危ないわよ」


と、進が割って入り、至の腕を下に弾く。

その間に歩が捕まった足に手を遣ると、アスファルトは砕け、解放された足は勢いで振り上げられた。
足に触れたのとは逆の手を地につき、ハンドスプリングの要領で身体を正の向きに立て直す。


その様を見つめながら、至は思考を繰り返す。


恐らく、この双子は単体では人を殺せるだけの決め手を持っていない。
─あれば、先程のやり取りで既に至は殺されているはずだ。

アスファルトを砕くだけの力もない。
─あれば、あの王冠から抜け出す為に、能力を使う必要は無いはずだ。


予測、シュミレーション、保とのアイコンタクト─これは雰囲気で─を終え、導き出した結論を双子に投げ掛けた。




「降参してくれ」


「「…はぁ?」」

「お前達は俺達に勝てない、だから降参してくれ
子供を痛め付けて喜ぶ趣味は…まぁ『未来に』あったかもしれないが…」

「無かった!無かったからちゃんと自信持って喋れ!」

さらに続けられた至の言葉に反応し、双子はそれぞれ怒りを表わにする。


「嘗めたこと言わないで欲しいわ」
進は静かに、

「僕らこれでも、元は八十歳オーバーなんだよね!」
歩はあからさまに。


怒り方は違えど踏み出しは同時。
動きは違えど目的は同じ。

歩と進は、至と保を殺す為の攻撃を再開した。



交互に、あるいは同時に襲い来る攻撃を、身体の随所に現れたジェットエンジンの力で回避する。

「ふぅん…身体からジェットを出す能力、て所だね?」

踏み出した瞬間とは裏腹に冷静な分析をし、おもむろに前に屈んだ歩。
その前方に向く掌を進が踏み付け、跳躍した。


弾丸の如き速さで飛び込んでくる進に対し、至は右手で地面を殴る。



高く上がる飛沫。



これで、王冠が壁となる。
あわよくば、進の動きを止められるかもしれない。


問題は歩がどう…

─と、コンマ何秒間の思考する至の視界から、黒い壁が消えた。


消えた跡には、薄く笑いを浮かべる進。

その背後に歩の姿は無い。


咄嗟に横に飛び退く。
攻撃の空振った歩は、しかし逃がすまいと追い縋る。

「ダメだよ!もう逃がさないもんね!」

言葉の通り隙なく仕掛ける歩に、すぐさま進も加わり攻撃に転じる隙を完全に奪われた。


「オイ!このままじゃあ…」

保の焦った声により至の焦りも加速する。
(早く…、こいつらが隙を見せないと…)

その時、その想いに反応するように歩に一瞬の隙が訪れた。

(今かッ!)

その一瞬を逃さず、右拳を肘からのジェットで加速させ、歩を殴り落とす。
と、同時に進には足払いを食らわせる。
バックステップで一気に距離を取り、

「立て直しだ!」

言うなり地面を殴り付けた。



三度目となる、保の能力。

しかし目の前に広がる黒い壁は、再び至の視界から消えた。

今度は、無くなったのではない。
遮られたのだ。


目の前に立つ双子に。


「言ったよね?逃がさないって」

本当の子供では不可能であろう、邪悪な笑みを浮かべる双子に。
周りを取り巻く王冠は、至と保が作ろうとしたものよりも明らかに高く聳えている。


「ちょこまかと動かれて面倒だから、貴方の能力を利用させて貰ったわ」

「ちょーっと隙を見せたら、思った通り使ってくれたね、そのチカラ」

歩は自らの手をヒラヒラと振り、続ける。
「この壁…あがる瞬間は液状だったもんね。だったら僕らにも多少は操れるかなーってね」

「さっきは私が試したら、案の定だったわ」

「そしたら今度は、僕の出番だ」



狭い面積に、高い壁。

逃げ場が、無い。


壁の破壊を試みようとするが、間に合わない。
至の腹を目がけ、歩と進が『左右対象に』掴み掛かった。




ミシリ、と


「僕のラララ・ヨーデルは、触れたものを僕から見て上に上げる」

「私のパパヤパ・ボッサは、触れたものを私から見て下に下げる」


─全身が軋む。


「2人が完全に同じ向きで触れれば、このとおり、だね」

「潰れて潰れて、挽肉になるといいわ」

上へと下へと押し合う力は、至の身体を押し潰す。
柔らかな内臓が潰れ、口から血が溢れる。


至は、押され、固定され、上手く動かない腕を無理矢理動かし、双子の肩を掴んだ。

太いシルエットの右腕で歩を。
細いシルエットの左腕で進を。


「ハンッ!今更、無駄だわ」

確かに、まともに動くこともできない至の行為は無駄にしか見えない。


しかし、嘲笑する進とは反対に歩の顔は青ざめていた。

「お、お前…友達は、何処にやった…?」


圧迫され続け歪みかけた身体で、しかして血塗れの唇を自らの意志で歪め、言う。



「ジェットエンジン、てのはなぁ…ジェットの『噴出口』の他に、『吸込口』が必要なんだよ」



未だ稼働していた右肘のジェット。その射出が止まる。

反対側、手首にはぽっかりと開いた吸込口。
そこに、吸い込まれ張り付いていた『瓦礫』達が、ゴツゴツと音を立てながら砕けた地面に還ってゆく。

「なっ!?」

「保が…俺の腕に居ない事に気付かれて、警戒されでもしたら…厄介だからな」

言いながら、至は膝を上げる。
「『隙(エサ)』に食い付いたのは、お前らの方さ」



その足には、太いシルエットのブーツ。


それを、重みにまかせ、能力で加速を加え、全力で下へ踏み抜いた。


手を離し退こうとするが、肩を掴んだ至の手がそれを許さない。

黒い飛沫が歩と進を巻き込んだ。


「さっき…」
手足の一部と頭以外は王冠に飲まれて尚、そこから脱出しようと試みる双子に語りかける。

「お前らは、2人一緒じゃないほうが、速く動けるって言ってたな?

…俺達も、そうなんだよ」


「だってよー、さっきまでは俺が手首の穴を塞いでたんだぜ?」
保が言葉を引き継ぐ。

口上は幼なじみに任せ、至は腰を落とし、

「吸込口塞がれちゃー、ジェットの威力もおちるわな」

両腕を後ろに引く。

「つまり、これがこいつの…ポラリスの、全力パンチだ」


双子の意味を為さない足掻きは未だ続く。
どんなに能力を使おうと、こうもしっかり固定されていてはスタンドパワーも時間も足りない。


「くらわせてやれ、至!」

「ひ、ヒィィ!」

「やめ…っ」


懇願も虚しく、両肘につけたジェットエンジンが稼働する。


至はその拳で、双子の腹部を黒い壁ごと、貫いた。






──アスファルトに座りながら、倒れた2人の子供を眺める。


怪我は睡眠で回復するとはいえ、大きな怪我の回復にはそれだけの時間がかかる。
すぐさま起き上がってくる心配は無いだろう。

そのまま眺めていると、警察に通報をしていた保が公衆電話からもどってきた。
無言で至の横に腰を下ろす。


「…あれ、ブーツ型」
ややあって、至が口を開いた。

「変形できるなら早く教えろよな。てっきりグローブ型にしかなれないのかと思ってたよ」

「あぁ、あれな、俺も初めて知った」

「え?」

「変な体制とってたせいで腰と首がいてー…」

「えええー?」


納得がいかない表情の至の耳に届く、遠いサイレンの音。

「来た来た。さ、けーるぞー」
状況を警察に説明できる筈もない。
所謂とんずらである。


「…ああ」

少し遅れて立ち上がった至に、保は笑いかけ言う。


「酒買って飲み直しだ!」

「いやいやいや!?怪我人だぞ俺!帰らせろよ!寝かせろよ!」

「俺だって腰いてーよ」

「内臓破裂と腰痛を並べるな!死んだらどうしてくれるんだお前!」

「もう死んでるじゃねーか」

「そうじゃなくてな…!」


至の少し控えめな叫び声と、保の気楽な声が、夜の町並に吸い込まれていった。


【終わり】
あとがきってどう書くの!
えっと、スタートから終わりまで自分だけで書き上げるというのはこれが初めての経験で、ひたすらいっぱいいっぱいになってしまいましたとおもいます。
なんだか特定のことに固執して、他に気が回らなかった感じ。

死後の世界は前々から書きたかったものでした。
ていうか、自分がそのままスタンドになるとか格好良くね?変身ヒーローじゃね?という感じでした。
矛盾が生じないように、細部まで練った上で書きたかったのですが、そこまではやりきれなかったのが残念です。
ちなみに現在は、ケイや儚が死後の世界にいったらどうなるのかを考えると申し訳なくなる輪廻。

今回は表に出せず燻らせていたアイデアを出来る限り詰め込んだので、小説を書いたというよりアイデアを放出したような感覚がします。
なので、それを褒められた時点である意味目標は達成されてしまっていて、文に対して頂いた批判等を自分の身にしていけるかがなかなか不安。なまっちょろメロコ。

でも頂いた感想は全部画面メモしてるよ!
それに、票くれた人にも、読んでくれた人にも、ねずみさんにも!全力でありがとうございました!へへーい!

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