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SCG-JATzコミュの森羅万象・アニマ仮面

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登場人物

宮ノ内健詞(ミヤノウチタケシ)

 あまり流行っていない宮ノ内探偵事務所を経営。この人物がアニマ仮面だ。

宮本純三郎(ミヤモトジュンザブロウ)

 健詞の親友。中学教師で理科を担当。運動神経抜群で手先が器用。

宮村雅麿(ミヤムラマサマロ)

 IT企業・メディアラプターのダメ社員。健詞の探偵事務所に会計システムを納品しにきた担当者。

コメント(239)

第14話第7節

 「もう一度言うが、後悔することになるかも知れんぞ。」
 「わ、分かったわ。承知の上よ。」

 健詞は、あづさと自分に、一体何があったのかを話し始めた。

 「一年前。まだ、俺がお役所勤めだった頃の話だ。」

 一年前のある日。
 健詞は、仕事を片付けて最寄の駅に向かった。駅前で待ち合わせの約束だった。
 健詞は、前日にカルティアーニのネックレスを買い求めた。
 今日は、そのネックレスをある人に渡すつもりなのだ。
 健詞は駅前に到着すると、あたりを見回した。約束の相手は、まだ来ていない。
 しばらくすると、後ろから声が聞こえた。

 「ごめんなさい。ちょっと片付けに手間取っちゃって。」

 現れたのは、あづさだった。

 「いや、さっき来たばかりだから。俺もなかなか仕事が片付かなくてね。」
 「どこ行こうか。」
 「そうだなぁ、俺は中華がいいな。」
 「OK。」

 健詞とあづさは、中華料理店に入り、小一時間ほど食事に費やした。
 店を出ると、既に日は落ちていた。しかし、周囲は入店前より人通りが激しくなっていた。

 「あ、あのさ。」

 健詞は突如、あづさに声をかけた。

 「何?」
 「これ…。」

 健詞は、例のネックレスが入った箱を、あづさに見せた。

 「どうしたの? これ。」
 「あづさへの、プレゼント。来週、誕生日だろ? 来週は、ちょっと青森に行くことになってしまったから。」

 青森。
 健詞がアニマ使いに目覚めるきっかけとなった、古墳のある場所だ。
 数日後その古墳で、健詞はアメノナナオヨロズノウツワと出会う。

 「ありがとう。」

 あづさは、箱を受け取った。

 「開けていい?」
 「ああ。どうぞ。」
第14話第8節

 あづさは箱を開けた。
 すると、思いがけないことが起こった。
 あづさは、途端に箱を投げ捨てたのである。

 「手が…痺れる…。目が…痛い…。」

 あづさは呻いてうずくまった。

 「ど、どうしたんだ!」

 健詞が慌てて駆け寄り、あづさの肩に手をかけた。
 ところが、あづさはその手を振り払った。

 「健詞…ごめんなさい! さようなら…!」

 あづさは、溢れる涙もそのままに、逃げ出すように走り去った。

 「ど…どうしたと言うんだ…。」

 健詞は、呆然としたまま、落ちたネックレスを拾った。

 「…と、いうわけさ。」

 健詞は、一年前のこの出来事を、半ば自嘲気味に語った。
 あづさは、信じ難いといった表情で、健詞を見た。

 「今だから分かるんだが、あの時、このネックレスを手にとって、君は感じたんだ。俺がミヤノカガリビであることを。」
 「!」
 「あの頃、俺はまだミヤノカガリビとしての自覚が全く無かった。だが、俺が真剣に選んだネックレスは、元々ミヤノカガリビが使うメディアに適したものだったということさ。」
 「で、でも。」
 「まぁ待て。まだ続きがある。」

 あづさは、やっとソファに腰掛けた。

 「このネックレスを手に取り、衝撃を受けた君は、俺がミヤノカガリビであると直感した。元々ミヤノカクリドとして生きてきた君は、俺の元から立ち去るしかなかった。」
 「つ、作り話だわ。」
 「フッ、そう思うのも無理はない。君は恐らく自分にマジナイをかけたんだよ。俺のことを忘れるために。アニマ使いならば、そのくらい出来るだろう。」
 「…。」
 「ミヤノカガリビだろうが、ミヤノカクリドだろうが、出会って、恋に落ちることもある。光と影、表と裏、お互いの属するものには気付かない。やがて、アニマ使いとしての本領が発露したとき、それは破滅する。…皮肉なものさ。」

 あづさは、涙を流し始めた。

 「な、何なの…この涙は…。私は、一体、私は…。」
第14話第9節

 あづさは、綺麗に整った長い髪をかきむしって、泣きはじめた。

 「健詞くん…。」

 あづさが自分の名を呼ぶのを聞き、健詞の涙腺が、一瞬緩んだ。
 ようやく、愛しい人に再会した。そんな気分が健詞を支配した。

 「あづさ…。」
 「健詞くん…、ごめんなさい。あなたの言うとおりよ。今、思い出したわ。」

 あづさは、乱れた髪を整えながら、冷静な口調で話し始めた。

 「私はミヤノカクリドだから、あなたと一緒に居るわけにはいかなかったのよ。とても辛かったわ。だから、自分にマジナイをかけて、あなたのことを忘れた…。」
 「やはりな。だが、あづさ。」
 「何?」
 「もう心配することはない。君は、ミヤノカクリドであることを捨てればいい。」
 「捨てる?」
 「ああ。アニマ使いの根本は同じだ。君にその気さえあれば、ミヤノカガリビとして生きることもできる。」
 「そんなバカな。ムリよ。」

 健詞は立ち上がって、座っているあづさを見下ろした。

 「風見さんだって、俺がアニマを宿したメディアを持っていても、平気になったんだ。だから…。」

 健詞は、自分では気付いていないが、必死にまくし立てている。
第14話第10節

 「…ごめんなさい。健詞くん。」
 「え?」

 あづさは、ゆっくりと立ち上がった。

 「あなたを討つことは出来ない。でも、ミヤノカガリビ側に居ることも出来ないの。」

 健詞は呆然とし、言葉も出ない。

 「あなたには多分理解してもらえないと思うけど、ヤミノスメロギは来るべき災厄に対する備えをしているわ。私は、それに力を尽くす義務がある。」
 「またヤミノスメロギか…。またオプティムGか!」

 怒りに震える健詞は、拳を壁に打ち付けた。

 「健詞くん、いずれあなたにも理解して欲しいの。ヤミノスメロギが成そうとしていることを。もしかしたら、ミヤノカガリビとミヤノカクリドは…。」
 「もう沢山だ。すまないが、帰ってくれないか。」

 健詞は、後ろを向いたまま、あづさの話を遮るように言い放った。

 「分かったわ…。チャンスがあったら、また来るわね…。」

 あづさは、健詞が見ていないと知りつつも、笑顔を作って事務所から出て行った。

 「これじゃぁ、色恋沙汰じゃないか。」

 健詞は、雅麿に対する嫉妬心に気付き、密かにそれを恥じた。
 慌てて、事務所を出たあづさを追いかける。
 だが、既にあづさの姿はなかった。

 健詞は決心した。
 オプティムG=雅麿が何をしようとしているか、突き止めなければならない。
 ミヤノカガリビとして、アニマの均衡を破るようなことは、断じて許してはならない。

 「アニマの均衡? そうか。ヤミノスメロギは、ミヤノカクリドの社会を作ろうとしているのかも知れん。」
第14話第11節

 健詞は、あづさを探すために事務所を飛び出した。
 しかし、あづさはミヤノカクリドである。探査は容易ではない。
 健詞はふと気付き、ネックレスをポケットから取り出した。

 「これだ…。ワレ、ミヤノカガリビ・アメノミタマツカイ。銀鎖のアニマよ、一年(ヒトトセ)の前に触れたるミヤノカクリドを探せ。」

 ネックレスは、瞬く間に健詞の身体を宙に浮かせた。
 すぐに健詞は、左手に持っていた仮面を着け、空を行く姿を人目より隠した。
 数分後、健詞はメディアラプターの本社ビル上空に居た。
 あづさが、ビルへと入っていく。
 寸前で、健詞はあづさの眼前に降り立って、それを阻止した。

 「待ってくれ、あづさ。」
 「た、健詞くん…。」

 健詞は仮面を外すと、あづさを近くのカフェへ誘った。
 カフェに入ると、二人は同時にラテを注文した。

 「あづさ、教えてくれ。ヤミノスメロギの本当の目的を。」
 「健詞くん…。声が大きいわ。」

 あづさは、健詞が話を聞く姿勢になった為か、心なしか嬉しそうな顔をしている。

 「あ、すまん。」
 「私の話を聞いてくれる気になったのね。」
 「ああ。あづさ、俺は、ヤミノスメロギの目的を知る必要がある。頼む、何でもいいから教えて欲しい。」
 「分かったわ。でも、私にも分からないことは、まだ沢山ある。」
 「断片でもいい。」
 「いいわ。ただし、私はあくまでミヤノカクリドよ。ミヤノカガリビになるつもりはない。あなたは私を説得しない。これを約束して欲しいの。」

 思えばかつて、健詞はネゴシエイションに長けたあづさに惹かれたのだった。
 そんなあづさは、今でも変わっていない。

 「いいだろう。じゃ、始めてくれ。」

 健詞は、目一杯格好をつけてみた。
第14話第12節

 しかし、あづさはそれに気付く様子もなく、淡々と話し始めた。

 「私は、ミヤノカクリド・ハナブサノモノツカサ。アニマ仮面つまり健詞くんを抹殺するために招聘された、ミヤノカクリドの精鋭部隊の一人よ。」
 「そんなのは、知ってる。」
 「いいじゃない。ちゃんと聞きなさいよ。」
 「…わ、分かった。」

 健詞はタジタジだった。
 その様子を見て、あづさは、

 「もぅ。じゃ、どこまで知ってるのか、先に言って頂戴。」

と言った。

 「俺が知っているのは、ヤミノスメロギがミヤノカクリドの組合的結社で、その中枢がメディアラプターの上層部を占めているということと、ヤミノスメロギが組合の活動を超えて、何か企んでいること。そのくらいだ。」
 「OK。ならば、健詞くんの知らないことは、ヤミノスメロギの真の目的ってことね。」
 「!」

 あづさはいきなり核心を突いてきた。健詞は身を乗り出した。

 「そんなに慌てないで。」

 健詞は、あづさのその言葉を受け、姿勢を元に戻した。

 「ヤミノスメロギが目指しているのは、ヤミノスメロギのヘッドであるステラ・ジ・Ωによる、日本の皇統の奪回と、日本政府の転覆よ。」

 健詞は驚愕した。
 健詞の中で、色々なことがパズルのように繋がった。
 ケニンは、混乱による民衆統制の為。
 雅麿の言う、マツリゴトは、アニマと乖離すべきじゃないという論。
 オプティムG=雅麿は、目的に向かって滅私して働いていたのだ。
 健詞は、少し雅麿に同情した。が、すぐに心中で撤回した。

 「そうか、あづさ。それだけでもう分かったよ。ヤミノスメロギの目的は、正統の皇統を主張するそのヘッドが、祭祀としてのマツリゴトと政治としてのマツリゴトを同一化し、日本を掌握することだな。」
 「さすが健詞くんね。頭が切れるわ。」
第14話第13節

 「ありがとう、あづさ。」
 「もういいの?」
 「いや、ちょっと待ってくれ。あづさは、その目的が正しいと思っているのか?」
 「それは…。」
 「どうなんだ?」
 「疑問を持つことはある。でも、確実に悪しきアニマは増え続けているわ。こんなに悪しきアニマが増えるということは、日本におけるメディアとコトノハ、そしてシャーマンの力が弱まっている証拠。」

 健詞は思い出した。
 以前、雅麿も同じようなことを言っていた。
 もしかすると、雅麿に限らず、ミヤノカクリドたちは感覚的にそれを悟っているのかも知れない。

 「ミヤノカクリドは、悪しきアニマの掃除人だけど、かなり手を焼いているのよ。」
 「そうなのか。」
 「それはそうよ。いくらなんでも、悪しきアニマを掃除できる数には限りがあるわ。日本が安定していれば、こんなことはない。」
 「日本の安定か。だが、ミヤノカクリドが日本を掌握したら、もっとマズいんじゃないのか?」
 「それはあなたの見当違い。ステラ・ジ・Ωはミヤノカクリドではないのよ。」
 「そうなのか…。いや待てよ、そういえば影の皇統とか言ってたな。てことは…。」
 「私も詳しいことは知らないけど、今の日本の皇統とは別の皇統だと言われているわ。ステラ・ジ・Ωは、れっきとしたシャーマンなのよ。」

 健詞は理解した。
 ステラ・ジ・Ωと呼ばれる、ヤミノスメロギを統べる人物が、マツリゴトを司るに相応しい人物だとされていることを。
 確かに、正統なるシャーマンが君臨する日本は、正しい姿なのかも知れない。
 だが、本当にそれでいいのか。
 あづさの卓抜したネゴシエイションに飲まれているだけじゃないのか。
 そのあづさは、ステラ・ジ・ΩひいてはオプティムGに、心酔しているだけではないのか。

 「あづさ。」
 「何?」
 「本当に、それがあづさの思う、正しい日本の姿か…。」
第14話第14節

 「待った。そういう話はナシって言った筈よ。私は迷わない。ミヤノカクリドの利益は…。」
 「ミヤノカガリビが!」

 健詞は、必死であづさに食い下がった。

 「ミヤノカガリビが、日本のアニマの均衡を取り戻すよう、活動すれば…。」
 「バカね。健詞くん一人でどうするの。ミヤノカガリビはあなた一人じゃないの。」

 健詞は、鋭い指摘に言葉を失った。
 あづさは畳み掛けた。

 「探せばイイなんてこと、考えてないでしょうね。そんなことムダよ、組合もないのに。ミヤノカクリドは歴史的に組合が発達するきっかけが豊富だったけど、ミヤノカガリビのような表舞台のアニマ使いには、組合なんか必要なかったのよ。」
 「あ、そ…その…。」

 健詞は完全にノックアウトされた。

 「秘密結社なんてこと言ってるけど、中身はあなたが思っている程、黒々としたものでもないわ。ツクヨノモノツカイは人道的な人だし、ステラ・ジ・Ωはシャーマンたるに相応しい、ミヤビな方よ。」

 そうかも知れない。
 だが、オプティムGはサイバーテロリストだったじゃないか。
 言いかけた言葉を、健詞は飲み込んだ。
 あづさにそんなことを言っても、今更ムダな気がしたのだ。
 しかしながら、ステラ・ジ・Ωとは、かように立派な人物なのか。

 「じゃあね、健詞くん。」
 「あ、あぁ。」
 「ヤミノスメロギは、優秀なミヤノカガリビのアニマ使いさんを歓迎するわ。お待ちしています。ヤミノスメロギのネットワークがあれば、ミヤノカガリビを見つけるのも簡単かもね。」

 あづさは、イタズラっぽい笑みを浮かべながら、カフェをあとにした。
 カフェの扉から出る刹那、右目と右手だけ覗かせて、あづさは手を振った。
 健詞はしばらくボーッとして、それからカフェを出た。
第14話第15節

 カフェを出た健詞は、異様な空気を感じた。
 ミヤノカクリド同士が、互いに気を吐いている。
 健詞が右側に目を向けると、そこにはあづさと甲嶋虹清(コウジマニジキヨ)が居た。
 通行人には、恐らく分からないだろう。二人は実に自然な立ち振る舞いで、人込みに溶け込んでいる。
 しかし、互いに牽制していることは、ミヤノカガリビである健詞には容易に判別できた。

 「何の用? ウゴムシノタマツカサ。」
 「ツクヨノモノツカイは手ぬるい。あんたも裏切り者だ。」
 「あら、ご挨拶ね。」
 「ここでは目立つ。他へ移ろうか。」
 「フフ…バカね。てことは、私がここから動かなければ、あなたは手が出せないってことじゃないの。」

 健詞は、アニマを使って2人の会話を遠聞きした。

 「ウゴムシノタマツカサが、あづさを粛清しようとしている。だが、ウゴムシノタマツカサの言うように、ここでアニマを使うのは、あまりに目立ちすぎる。」

 健詞は手を打てない。

 「チッ…。」

 健詞が舌打ちしたのと同時に、虹清も舌打ちした。
 状況はどうやら、あづさに有利のようだ。
 しかし、この人込みは永劫に続くわけではない。いずれは虹清にチャンスが到来するだろう。

 「でも、私はじっと動かないような卑怯なことはしないわ。」

 何と、先に動いたのはあづさであった。
 あづさと虹清は、ビルの物陰へと消えていった。

 「あづさ!」

 健詞は思わず叫び、アニマを使うこともなく、走って2人の後を追った。
第14話第16節

 健詞がビルの物陰に踏み入ろうとした瞬間、無音だが凄まじい爆風のようなものが健詞の眼前で起こった。
 健詞は、咄嗟に身を低くした。

 「ウゴムシノタマツカサの蠱毒(コドク)かっ…!」

 健詞は、恐る恐る目を開け、顔を上げた。

 「フッフッフッ…。」

 そこには、勝ち誇る虹清の姿があった。
 虹清の足元には、あづさが倒れ伏している。

 「あづさ!」

 健詞は駆け寄った。
 あづさはピクリとも動かない。

 「裏切り者はこうなるのさ。ヤミノスメロギが人道的だって? 冗談じゃない。私はミヤノカクリドの力を行使してこその、ヤミノスメロギだと考える。ミヤノカガリビはこの世に無用な者…。」

 虹清は、ブツブツと何か言っている。
 健詞はしばらくあづさを失った事に対する憤りを我慢していたが、遂に怒りを爆発させた。

 「許さん。ウゴムシノタマツカサ…。」
 「アニマ仮面、所詮は貴様も表街道の人間。どんなに憎くあれ、私を殺すことはできない。」
 「俺を見くびるなよ…。」

 健詞は、驚くほど長く息を吸い込み、また驚くほど長い時間をかけて、息を吐き出した。
 健詞は、深呼吸によって怒りを抑えたのだ。
 健詞は、懐から仮面を取り出して被った。

 「闇に蠢く怪異を討つ、森羅万象・アニマ仮面の力、見せてくれよう。アニマの昇華たる神々に成り代わり、罪に穢れたお前を清めようぞ。」
第14話第17節

 「ゴタクを!」

 虹清は先手を打つとばかりに、両手に黒い塊を握り締め、健詞に向かって投げつけようとした。

 「ハッ!」

 健詞は、虹清の遥か頭上へと飛んだ。

 「何ッ?」

 虹清は目を疑った。
 健詞はコトノハを唱えていないのに、アニマの力を行使している。
 アメノナナオヨロズの器が、傍にあるわけでもない。
 虹清は、頭上の健詞に向かって、黒い塊を投げつけた。
 どこから取り出すのか、次々と黒い塊を手にとっては、健詞に投げつける。
 健詞は、飛んでくる黒い塊を目にも留まらぬ速さで回避していく。

 「いざ裁かん! 罪に穢れしミヤノカクリド・ウゴムシノタマツカサを! 同胞を裏切り、志を裏切った、黒き野望の虜を!」

 健詞は虚空で静止し、両手で例のネックレスを持った。
 ネックレスのプラチナの鎖は、みるみる伸びて行き、健詞の身の丈ほどの長さとなった。
 ネックレスを構えた健詞は、重力に逆らわず落下し始めた。
 あわや地上に激突せんという瞬間、地上スレスレで身を翻した健詞は、物凄い速さで地上と平行に飛んだ。
 そのまま、恐ろしさのあまり動けなくなった虹清の周囲を、健詞はスピードを緩めることなく一周し、虹清の後方へと飛び去った。
 同時に、虹清の首が虚空に舞った。
 健詞は、ネックレスを虹清の首に巻きつけ、切り飛ばしたのだ。

 「裁かれよ。己の深き罪の穢れ、覚ゆがよし。」

 健詞がそう言うと、虹清の首が喋り始めた。

 「ア、アニマ仮面…。」

 健詞が着地すると、虹清の首と胴体の周囲で、竜巻が起こり始めた。
 竜巻がやむと、そこには呆然自失となって立ち尽くす虹清の姿があった。
 首はちゃんと胴体に繋がっている。

 健詞は、あづさの元に歩み寄った。
 動かないあづさを抱き起こすと、その身体はパラパラと崩れ去った。
第14話第18節

 「アハハ…。」

 驚く健詞の頭上で、笑い声がする。

 「何っ?」

 健詞が頭上を見上げると、ビルの屋上から覗くあづさの姿があった。

 「あ、あづさ?」

 あづさは、ビルの屋上から飛び降り、フワリと健詞の傍に着地した。

 「驚かせてごめんね。私は用心深いの。ちゃんと形代(カタシロ)を打っておいたのよ。」
 「か、カタシロ?」
 「私はハナブサノモノツカサよ。植物原料の形代なんて、すぐに打てるわ。それにしても、見事なお手並みね。」
 「あ、あぁ。」
 「コトノハを唱えないで、あんな芸当が出来るの。」

 あづさにそう言われて、健詞は初めて気付いた。確かにコトノハを唱えていない。
 試しに、心の中でアニマを使おうとしてみた。しかし、何も起こらない。
 さっきのは、偶然だったのだろうか。

 「何でコトノハなしに、あんなことが出来たのか、俺にも分からん。」
 「分からん…って、あなた冷静だったじゃない。」
 「そ、そう言えば、まぁそうだな。」

 健詞は、先程のことを懸命に思い出そうとしたが、どうも記憶に乏しい。
 2人の元へ、虹清が歩み寄ってきた。
第14話第19節

 「アニマ仮面…私に何をした…。」

 虚脱感に襲われつつ、虹清は必死で健詞に問うた。

 「お前のアニマ使いとしての力を狩ってやった。さっき飛ばした首は、ミヤノカクリド・ウゴムシノタマツカサと呼ばれるアニマの首さ。」
 「わ、私の首を…。」
 「お前の首ではない。アニマの首だ。」
 「…。」
 「もっとも、首を飛ばされようとアニマの本質は変わらん。アニマは形じゃないからな。お前は力を失ったに過ぎない。」

 あづさは、健詞の言葉に若干の戦慄を覚えた。少し手が震えている。
 ヤミノスメロギは、とんでもないアニマ使いを敵に回しているのかも知れない。
 あづさは、そう思った。

 「そ、そうか…。ハハハハ! 私はミヤノカクリドじゃなくなったのか…。」

 虹清は、空虚な笑いに支配されている。
 同情の眼差しを、健詞は虹清に向けた。
 この男・虹清も、ミヤノカクリドとして表の世界から遠ざけられてきたのだ。

 「アニマ仮面よ。ミヤノカクリドでなくなった以上、貴様に言っておくことがある。」
 「何だ。」
 「宮本純三郎は、いずれ消される。」
 「何だと? 本気で言ってるのか。」
 「宮本と風見ほむらは、ヤミノスメロギに監視されている。せいぜい気をつけておくことだ。」
 「…また、頭の痛い問題を…。」

 健詞は歯噛みした。
 虹清は一礼すると、人込みの中に消えていった。
 あづさが虹清を呼び止めたものの、その声は虹清に届かなかったようだ。

 「ミヤノカクリドである以上、私も抹殺に加わるのよ。どうする? 健詞くん。」
 「じゃあな、あづさ。」
 「え、ちょっと、もう帰るの?」
 「ああ。ちょっと疲れたからな。」

 健詞はそう言うと、さっさと振り返り、あづさから離れて行ってしまった。

 「もう…。人の話を聞きなさいよ。」

 あづさと別れた健詞は、宮ノ内探偵事務所に帰って来た。
 事務所の前には、何故か純三郎が居た。

 「よぉ、健詞。お前に報告があってな。」
 「何だよ。」
 「結婚することになった。」
 「ええっ?」
第15話第1節

 薄暗い宮ノ内探偵事務所で、宮ノ内健詞(ミヤノウチタケシ)と宮本純三郎(ミヤモトジュンサブロウ)は、話をしている。
 純三郎が、突如もたらした結婚の報。
 健詞はただ驚くばかりであった。
 しかも、内容がかなり奇抜だ。

 「風見家の財産を相続して欲しい、そういう話だった。」
 「はぁ? 純、お前それを真に受けたのか?」
 「真に受けるも何も、そういう話だからさ。」
 「騙されてるんじゃないのか?」
 「失敬なヤツだなぁ。ほむらの両親は、ちょっと変わってるけど、ウソをつくタイプの人間じゃない。」
 「ま、お前がそう思うのなら、本当の話なんだろうな。」

 純三郎は、腕を組んで頷いている。

 「ところで、財産相続って言ってるが、お前、養子になるのか?」
 「まぁ、そういうことだな。」
 「ほ、本気かよ。お前長男だったよな。」
 「意外に古臭いことを言うなぁ、健詞は。大丈夫さ。宮本家には、俺よりしっかり者の弟が2人もいる。」
 「…。」

 健詞は、しばらく黙っていた。
 純三郎は、こう見えても慎重な男だ。
 健詞は、純三郎がこういう重大な局面で、一時の感情に流されるような愚を犯すことはないだろう、と確信はしていた。
 だが、話があまりに突然すぎるのだ。

 「ま、純の好きにするがいいさ。俺はとやかく言わない。」
 「何だい。冷たいヤツ。」
 「は?」
 「こういうとき、何か言う事があるだろう。」
 「言う事?」
 「チェッ。とぼけるにしちゃ悪質だな。」

 健詞は、とぼけているワケではなく、本気で悩んだ。
 散々悩んだ末に出た言葉は、

 「まぁ、お幸せに。」

であった。
 純三郎はふて腐れつつ、健詞にコーヒーを所望した。
第15話第2節

 コーヒーを入れる間、健詞はふと思いついた。
 そして、テーブルにコーヒーを置く際、

 「おめでとう。」

と言った。

 「あ、ありがとう…。何だか照れ臭いな。言われない方がマシだったか。」

 そう言いながら、純三郎は頭を掻いた。

 「そうだ、純。お前に言っておくことがあった。」
 「何だ?」
 「ミヤノカクリドは、お前と風見さんの命を狙っている。」
 「そうか。」
 「は? お前冷静だな。」
 「まぁね。ミヤノタカユカだっけか? その俺と、ミヤノカクリドであることを放棄したほむらが、一緒に居るんだぜ。何もない方がおかしいじゃないか。」
 「そりゃそうだが、命を狙われてるんだぞ。」
 「大丈夫さ。こういうときの健詞ちゃん頼みだよ。」
 「そう来たか。」
 「ああ。そう来てやった。」

 二人は可笑しくなって、しばらく笑った。
 久々に屈託無く笑った気がする。健詞も純三郎もそう思っていた。

 「笑う門には…だな。健詞。」
 「ああ、そういうことだ。笑いは良きアニマの力を高める。だから、古来より魔除け、つまり病厄を祓う行為とされてきたんだな。」
 「じゃぁ、笑ってりゃヤツらも来ねぇと。」
 「バカなことを言うな。充分警戒してろ。」

 その後、特に意味のない世間話をして、純三郎は帰っていった。
 一人事務所のデスクに座った健詞は、あづさのことを考えた。
第15話第3節

 あづさは、純三郎の抹殺に加わると言っていた。
 あづさは、

 「もう…。人の話を聞きなさいよ。」

と健詞に言っていたが、健詞は勿論ちゃんと聞いていた。

 「さて、どうしたものか…。あづさを含め、ミヤノカクリド達は人殺しを厭わない連中なのだろうか。いくら何でも、あづさは躊躇すると思うが…。」

 健詞は、大きく溜め息をついた。
 何も考えられなくなった健詞は、寝ることにした。

 それから3日間は、特に何事も起こらず、平穏であった。

 4日後の朝。
 健詞はイヤな予感と共に目覚めた。
 虹清は「いずれ消される」などと言っていたが、その「いずれ」は、今日や明日のような気がしたのだ。
 健詞は、すぐに身支度を整え、風見邸に向かった。
 風見邸の門の前には、純三郎が居た。

 「よぉ、健詞。どうした?」
 「今日はいつもより用心してろ。イヤな予感がする。」
 「オイオイ…。おどかすなよ。」
 「俺は冗談を言いにきたワケじゃない。用心しろと言ったら用心しろ。」
 「わ、分かったよ。」

 そうこうしているうちに、門からほむらが出てきた。

 「あ、宮ノ内さん。お久しぶり。」
 「あ、ああ。」

 健詞は、ほむらの様子を見て一安心した。
 ほむらは、用心してか、例の鳥居のメディアを持っている。

 「純、風見さんが持ってるヤツ。」
 「は?」
 「アレと同じ物を作れ。今すぐ。」
 「今すぐったって…。」
 「純ちゃん、材料ならあたしが用意するわ。宮ノ内さんの言うとおり、早く作って。」
 「わ、分かったよ。」

 健詞と純三郎は、風見邸に招き入れられ、純三郎は、直ちに鳥居のメディアを作り始めた。
 その間、健詞は風見邸の絢爛な様子に目を奪われていた。

 「よし。出来た。」

 純三郎が鳥居を完成させると、健詞はブツブツとコトノハを唱え、鳥居のメディアに強力なアニマを宿らせた。

 「純、これを持っておけ。確実に危険は迫っている。」
 「ああ。」
第15話第4節

 その日、健詞は風見家で豪華な昼食と夕食を摂った。
 いささか落ち着かないままだった昼食とは違い、夕食は終始歓談ムードだった。
 少々酒の入った健詞は饒舌になり、アニマに関する知識を分かりやすく披露して、ほむらの両親に大変気に入られた。
 夕食の後、健詞がリビングでまどろんでいると、ほむらが傍にやって来て、

 「宮ノ内さん、誤解しないでね。あたしンちは、いつもこんな豪華な食事をしているワケじゃないのよ。今日は、純ちゃんと宮ノ内さんが来たから。」

と言った。

 「あ、ああ…。」

 健詞が上滑り気味の返事をしていると、今度はほむらの両親が握手を求めてきた。

 「いやぁ、宮ノ内君。君は実に個性的だ。ちょくちょく遊びに来てくれたまえ。」
 「何でしたか、アニメでしたか。面白いお話をありがとうございます。」
 「いえ、こちらこそ、大変ご馳走になりまして。」

 健詞は、ほむらの両親の笑顔に呆気にとられながらも、丁重に挨拶した。
 風見ほむらは、ミヤノカクリドではあったが、そのことに関して不自由な思いをしたことがないのでは。
 健詞はふとそう思い、あづさのことを思い出した。
 あづさは果たしてどうだったのか…。

 「では、我々はこれで。宮ノ内君、今日はウチへ泊まりたまえ。」

 ほむらの両親は、使用人に何かを言い伝えると、早々と寝室へと消えていった。
 健詞は、元々食事をするつもりも、泊まるつもりもなかったのだが、何となく風見家のペースに巻き込まれ、そのまま客人用の寝室に案内されることとなった。
 寝室は予想以上に広く、またもや健詞は呆気にとられた。
 使用人は、簡単にテレビなどの設備の案内をすると、何故か花瓶の位置を直した。

 「ちょっと…。」

 健詞は使用人を呼び止めたが、使用人はそれに気付かず、そのまま部屋を出てしまった。
第15話第5節

 健詞は、どうも使用人が直した花瓶の位置が気に入らない。

 「こっちの方が自然だろう。」

 健詞は花瓶を元に位置に戻した。
 すると、左手の薬指に違和感があった。
 健詞は、花瓶を回して、違和感のあった箇所を正面に向けた。

 「何だ? これは。」

 それは花瓶の文様にうまくカムフラージュされた、スイッチらしき突起であった。
 健詞は、丹念に花瓶を観察した。
 花瓶の文様を凝視すると、ある一点が一瞬光を反射した。
 健詞はさらに目を近づけた。

 「これは…レンズ?」

 健詞は考えた。
 風見家の誰かが自分を監視しているのか。
 しかし、そんなことをする必要はない。理由がない。

 「じゃぁ、一体何の為に…。」

 健詞の脳裏を、最悪の事態がよぎった。

 「これは、ヤミノスメロギの仕業か!」

 健詞は、先程の使用人を探した。
 風見邸は、敷地も広大だが、屋敷自体も広い。健詞は、随分探し回った。
 使用人を探しあぐねた健詞は、仕方なく、純三郎とほむらが居る部屋に向かうことにした。
 健詞が部屋をノックすると、中から、

 「開いてるわよ。」

というほむらの声が聞こえた。
第15話第6節

 「風見さん、失礼。実は、お手伝いさんを探しているんだ。」
 「お手伝いさんだって?」

 返事をしたのは純三郎だった。

 「純、この家にはヤミノスメロギの手が回っているぞ。」
 「はん?」
 「はん? じゃない。俺が通された寝室には、隠しカメラらしきものが仕掛けられていた。この部屋にも…。」
 「まさか。」

 ほむらはクスクスと笑っている。
 健詞は、二人の危機感のなさに呆れつつも、部屋を見回した。

 「見当たらないな…。」

 健詞は、さらに入念に部屋を見て回った。だが、見ただけでは分かるはずもない。

 「仕方ない。ワレ、ミヤノカガリビ・アメノミタマツカイ。この部屋に満たされし気のアニマよ。我が探り物の在り処を示せ。」

 健詞がコトノハを唱えると、部屋の空気が乱雑に動き始めた。
 空気の流れから逃れようと、純三郎とほむらは身を低くした。
 しばらくすると、部屋の本棚から本がバラバラと落ちた。
 健詞は、落ちた本を手に取った。しかし、別段怪しい部分は見当たらない。

 「あっ。」

 純三郎が声を上げた。

 「健詞、本棚…。」

 健詞が本棚を見ると、落ちた本が納まっていた場所の奥に、小さな機械が備え付けられていた。
第15話第7節

 健詞は、すぐにその機械をもぎ取った。

 「これは…。」
 「何だ、それ。」
 「これは盗聴器だよ、多分。」

 健詞は、探偵事務所の雑用仕事で、盗聴器の発見を頼まれたことがある。
 その時の盗聴器と、よく似ていた。

 「…。」

 ほむらは青ざめた。
 純三郎がそっとほむらの肩を抱く。

 「あのお手伝いさんが、やっぱり怪しいな。風見さん、あの人が来たのはいつ頃?」
 「…1週間くらい前よ。まだ来たばっかり。」

 ほむらは、部屋を飛び出し、使用人を探し始めた。
 純三郎、健詞も後に続いた。
第15話第8節

 一方その頃、メディアラプターでは、純三郎抹殺の算段が話し合われていた。

 「オプティムG、私は直接生命を奪うなどというやり方には反対です!」

 あづさは雅麿に対して意見していた。

 「落ち着いてください。ハナブサノモノツカサ。私は何も殺人を犯そうなどと考えていません。」
 「しかし…。」
 「先日、カゼノオニビツカサの抹殺に失敗しましたが、あの折も私は彼女を亡き者にしようなどとは、考えていませんでした。」
 「え?」
 「何と?」

 ミヤノカクリド達は一様に驚いた。
 特に驚いたのは、チノハシラツカサであった。

 ミヤノカクリド・チノハシラツカサ。
 本名を、大黒一心(オオグロイッシン)という。
 頑強で寡黙なこの巨漢は、ミヤノカクリドであることに、常にコンプレックスを抱き続けてきた男である。
 ミヤノカクリドの有り余る力は、一心の感情の殆どを奪ってしまった。命ぜられれば、短絡的に判断して動くマシーンのような男なのだ。
 一心は、メディアラプターに招聘されるまでは、主に用心棒のような仕事をしていた。
 その強力な腕力や体力を駆使し、敵対者を秘密裏に再起不能にしてきた、危険な男である。

 「オプティムG、私には分かりませぬ。抹殺の手段など、生命を絶つ以外に何がありましょうや。」

 一心は、抑揚の極端に少ない、古めかしい言い回しで雅麿に問うた。

 「チノハシラツカサ、それは認識不足というもの。私は、宮本純三郎に宿るミヤノタカユカのアニマを抹殺しようとしているのです。」

 あづさはふと思い出した。
 先日、健詞が虹清のアニマの首を飛ばした、あの瞬間を。
 アニマの抹殺とは、恐らくそういうことだ。

 「その為に、私はインフォラプターに準備させたのです。周到に、ね。」
 「…。」

 一心は、雅麿に聞こえない程度に唸った。雅麿の方針に納得できないのである。
第15話第9節

 アニマを使うのではなく、アニマによって倍加された自らの肉体の力を使う。
 それが、一心のやり方だ。
 メディアラプターに招聘されたは良いが、一心は大した「仕事」をしていない。
 ミヤノカクリドの力を自由に使いこなし、ヤミノスメロギのトップに君臨するオプティムG。
 自分とはあまりにも異なる世界に住む、雅麿の心情や考えなど、一心には到底理解できない。

 一心は悟った。雅麿は、自分に対してそれほど期待していないのだ、と。
 ならば、自分がミヤノカクリドの中でも、特に強大なパワーを持つ者であると証明すれば良い。

 「チノハシラツカサ、行きますよ。」

 静かに思いをめぐらす一心に、雅麿は言葉を投げかけた。

 「は…。」

 わずかに聞き取れる程度の短い返事を返した一心は、握った拳に一層の力を込めた。

 インフォラプターが風見家に仕掛けた情報ツールから、既に情報を得ていた雅麿は、迷わず風見邸へと向かった。
 雅麿達が風見家に到着すると、風見邸の中から人目を盗むように出てくる人影があった。
 インフォラプターから派遣された使用人である。

 「どうしました。」

 雅麿が呼び止めた。

 「これは、宮村さん。風見邸でどうも不穏な空気が…。我々の設置した情報ツールが露見したようです。」
 「構いません。既に準備は整っています。早くお逃げになって下さい。」
 「ありがとうございます。では。」

 使用人が去ると、雅麿は、

 「計算どおりに事が運んでいる…。」

と呟いた。
 雅麿は、健詞が風見邸を訪れ、アニマを使って情報ツールを見つけ出し、使用人を疑う機会を、この日まで待っていたのである。
 雅麿は今に純三郎やほむらが出てくる筈だと予想し、風見邸の外で待った。
第15話第10節

 雅麿の計算通り、純三郎は姿を現した。

 「ワレ、ミヤノカクリド・ツクヨノモノツカイ。この地に渦巻く疫神(エキジン)の鋭き牙を持ちて、ミヤノタカユカのアニマを亡き者とせん!」

 雅麿は、すぐにコトノハを唱え、純三郎めがけて目にも留まらぬ速さで近付いた。
 しかし、そこはさすが純三郎であった。
 優れた動体視力を発揮し、雅麿の魔手をかわした。

 「チッ…。」

 純三郎は、雅麿の読みをわずかに上回っていた。
 健詞の忠告を受けて作った鳥居のメディアを取り出し、その場で庭木の添え木にしてあった竹の棒と組合せたのだ。
 即席の武器は、鈍い光を放っていたが、純三郎が一振りすると、まばゆい光を放つ剣と化した。

 「そ、そんな…これがミヤノタカユカの力! しかも鳥居のメディアをこの男も持っていたとは…。」
 「オプティムGさんよ、俺を狙ったようだが、100年早いねぇ。」

 純三郎は、軽口を叩いて雅麿を威嚇した。
 だが、その程度で怯む雅麿ではない。すぐに反撃体制に入った。
 雅麿はブツブツとコトノハを唱え、手刀に黒い霧状のものを纏わせた。手刀を振り下ろすと、それは稲妻が常にスパークする黒い刀と化した。

 「いざ!」

 雅麿は純三郎に勝負を挑んだ。

 「来い!」

 純三郎も正面から受けて立った。
 激しい剣劇が開始された。
 純三郎の光る剣と、雅麿の黒い刀が打ち合わされた瞬間、光と稲妻の粒子が飛び散った。
 まるでSF映画のようだ。
 両者の実力は拮抗しているが、雅麿に比べ、純三郎の剣の腕がわずかながら勝っている。

 「ワレ、ミヤノカクリド・ツクヨノモノツカイ。黒き刀よ、疫神(エキジン)の鋭き牙で、その切れ味と力を増せ!」

 雅麿が黒い刀を二振りすると、刀にまとわりつく稲妻が、より激しくスパークし始めた。

 「ミヤノタカユカ、所詮はメディアの匠。アニマ使いの力、見るが良い!」
第15話第11節

 雅麿は高くジャンプし、黒い刀を純三郎の頭上から振り下ろした。
 純三郎は、顔を伏せたまま精神を集中した。光る剣を脇に構えている。

 「トァーッ!」

 雅麿が気合と共に斬りかかると、純三郎は光る剣を雅麿に向かって一閃した。

 「何…?」

 黒い刀は、霧散してしまった。
 雅麿は、驚愕した。

 「何故だ。何故アニマ使いでもない、ミヤノタカユカが…。」
 「オプティムG、アニマをウマく使えるか否かは、戦力の良し悪しにはならん。戦力の優劣は、メディアがいかに優れるか。そこで決まる。」

 現れたのは健詞であった。

 「遅かったな、健詞。」
 「アニマ仮面。ミヤノタカユカを得たからと言って、増長しているようですね…。しかし!」

 雅麿は左手を素早く振り上げた。
 純三郎と健詞が身構える。
 ところが、動いたのは、チノハシラツカサ=一心と、ハナブサノモノツカサ=あづさであった。
 純三郎は、咄嗟にほむらの危機を悟った。
 しかし、ミヤノカクリド二人の動きは非常に早く、ほむらは二人の手に落ちた。

 「何故だ? 風見さんは鳥居のメディアを持っている筈…。」

 健詞は我が目を疑った。
第15話第12節

 「残念でしたね、アニマ仮面。あなた方が追っていた使用人。彼にメディアを細工して頂いたのです。」

 あづさは、ほむらの持つ鳥居のメディアを取り出した。
 鳥居のメディアには、黒い紐がとぐろのように巻かれていた。

 「戦力の優劣はメディアが決める…フフフフ…。」

 雅麿は静かに笑った。

 「さぁ、ミヤノタカユカ、宮本さん。風見ほむら嬢を助けたくば、大人しくしていて頂きたい。あなたのミヤノタカユカとしての能力を、亡きものに…。」
 「ふざけるな! オプティムG!」

 怒りの声を上げたのは健詞であった。

 「貴様は卑怯者だ。ミヤノカクリドの力をもてあそび、不幸な人間を作り出そうとしている。そんな志の低い男に、政府転覆など笑止千万だ!」

 雅麿は、健詞の罵倒に対する怒りを抑えることが出来なくなった。

 「おのれぇっ! アニマ仮面!」

 雅麿が左足を踏み出した瞬間、ほむらの周囲で異変が起こった。

 「やめなさい! チノハシラツカサ!」

 あづさの悲鳴に近い声が上がる。
第15話第13節

 あづさは、ほむらの傍から跳ね飛ばされた。

 「ワレ、ミヤノカクリド・チノハシラツカサ。この地に鎮められた悪しき霊共(タマドモ)に命ず。我が腕に、人ひと時に殺めし悪しき力の現れを!」

 一心がコトノハを唱えるのを、かすかに聞いた健詞は、身を翻してほむらの元へ駆け寄った。
 純三郎も続いた。
 しかし、次の瞬間、目を疑わんばかりの光景が二人の眼中に飛び込んできた。

 「キャァァァァァッ!」

 ほむらの悲鳴が響き渡る。
 一心が右手を天にかざしている。
 いや、手を天にかざしているのではなく、既に何かが終わった後なのだ。
 健詞は、一心の手が指し示す方向を見た。
 身体の制御を完全に失ったほむらが、投げ上げられたタオルのように、空高く舞っている。
 そのまま地面に激突するかに思われたが、その直前、無数の稲妻がほむらに襲い掛かり、ほむらは再び宙に舞った。
 健詞は、アニマを使って一連の惨劇を制止しようとした。が、それらは全て遅すぎた。

 「ほ、ほむら…。」

 純三郎は、茫然自失となった。
 純三郎の目の前に、既に息絶えたほむらが、鈍い音を立てて落ちた。
 健詞は、ガクリと膝を落とした。

 「チノハシラツカサ、あなたは何という事を…。」

 雅麿は悪寒をおぼえた。

 「オプティムG、今ですぞ。」

 一心は、低く不気味な声で、雅麿にそう告げた。
第15話第14節

 雅麿は、全ての迷いを振り切るかのように、頭をブンブンと振り、再び手刀に黒い刀を発現させた。
 その目は、鬼神のものとなった。

 「ウォァァァァ!」

 叫び声をあげつつ、雅麿は純三郎に向かって行った。
 純三郎は、我を失っている。
 健詞が雅麿に気付き、すぐにコトノハを唱えた。
 しかし、いかなるアニマをもってしても、雅麿の猛進を止めることが出来ない。

 「マズい!」

 健詞は、身を挺して純三郎を庇おうと走り出した。

 「覚悟ォォッ!」

 雅麿が黒い刀を振り下ろす。
 健詞が間一髪、両者の間に滑り込んだ。
 健詞、純三郎、雅麿がもうもうと立ち込める噴煙の中に消えた。

 その場は、不気味なほどの静寂に包まれている。
 やがて、噴煙が風に吹かれて散り、健詞たちの姿が見えてきた。
 どうやら、健詞や純三郎は無事のようだ。
 しかし、雅麿は右腕に深手を負い、鮮血を滴らせている。

 「大丈夫かい? 先生。」

 それは、かなり年若き男の声であった。
 純三郎は、ふと我に返った。

 「た…高槻?」

 純三郎は驚いた。
 自分の教え子が、光る刀を携えて傍らに立っている。

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