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SCG-JATzコミュの森羅万象・アニマ仮面(話別読み用) 13話

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 宮ノ内健詞(ミヤノウチタケシ)は、先日の風見ほむらの一件以来、探偵の下請け仕事を放り出して、一日中何か考えている。
 一方、当事者である宮本純三郎(ミヤモトジュンザブロウ)の方はと言うと、かなり楽観的に構えているようだった。
 今日も、呑気にほむらを連れて、宮ノ内探偵事務所にやって来た。

 「おい、純。いいのか、そんな呑気に出歩いて。」
 「バカだなぁ、健詞。」
 「何がバカだよ。」
 「この事務所が一番安全じゃないか。何しろ、天下のアニマ仮面様の根城だからな。」
 「風見さんを守るって言ったのは、お前じゃないか。」
 「ほむらを守る為には、手段を選ばん。」

 純三郎は、いつの間にかほむらを呼び捨てにしている。
 健詞は、

 「へぇへぇ。」

と半ば呆れ気味になり、少し考えるのをやめて、探偵業を片付けることにした。
 健詞は、物占(モノウラ)を始めた。
 その割と怪しい所作を、ほむらは熱心に観察している。
 純三郎は、勿論ほむらを信用している。しかし、その熱心な観察振りに、一抹の不安を覚えたのも正直なところだ。

 「ひょっとして、健詞の技術を分析して、オプティムGに報告するつもりでは…。」

 純三郎の脳裏に、ふとよぎったその疑念を、純三郎は頭を左右に振って掻き消した。
 健詞は、仕事が一段落つくと、フゥと溜め息を漏らし、

 「風見さん、俺の手法をそんなに熱心に見て、どうするつもりだい?」

と言った。
 折角、純三郎が掻き消した疑念を、健詞はいとも簡単に暴き蒸し返してしまった。
 純三郎は思わず立ち上がった。だが、健詞の意図は違っていたのだ。
 健詞は、ほむらの行動を、純粋にミヤノカガリビに対する興味の表れと受け止めていた。
 言葉とは、受け取りようによって、かようにも意味を違えるものである。

 「あたしは、ミヤノカガリビに近付きたいの。アニマに感謝してその力を借りるっていうのが、一体どういうことかと思って…。」
 「ミヤノカクリドは、元々悪しきアニマの掃除を担ってきたんだ。排除を旨とする者が、一朝一夕に共存を理解できるものでもないよ。」
 「でも、純ちゃんと一緒に居て、宮ノ内さんとも出会って分かったの。ミヤノカガリビもミヤノカクリドも、根は一つだってことが。」
 「それが本質だな。そこまで理解しているのならば、後は…。」

 健詞はそこまで言うと、滝壺でオプティムGと交わした会話をふと思い出した。

 「風見さん。実はオプティムGもそれを分かっているんだよ。」
 「え?」
 「オプティムGは、志の違いだと言った。しかし、ヤツは勘違いしている。ミヤノカガリビとミヤノカクリドを隔てるのは志ではなく、アニマに対する気持ちの違いなんだ。」
 「気持ちの…違い。」
 「オプティムGの言う志は、ミヤノカクリドの過激派とそうでない者たちとを隔てるものだ。ヤツには、それが分かっていない。」

 ほむらは、健詞の言う事を半分しか理解できなかった。
 健詞は、ほむらの様子を見て、

 「いや、すまん。オプティムGのこととなると、つい…。」

と言い、頭を掻いた。

 「こいつ、冷静に見えて結構熱くなりやすいからな。」

 純三郎が健詞を茶化す。
 健詞は、バツの悪そうな顔をして、冷蔵庫のある一角へと向かった。
 ほむらは、健詞の姿が見えなくなると、それを待っていたかのように、

 「宮ノ内さん。」

と声をかけた。

 「何だい?」

 健詞は、ほむらに聞こえるように返事をした。

 「ここからは、あたしの独り言として聞いて欲しいの。」
 「分かった。」

 それまで会話に入れなかった純三郎は、

 「一体何を話すつもりだい?」

とほむらに聞いた。

 「オプティムGのことよ。」

 健詞は冷蔵庫のドアをパタンと閉めた。

 「オプティムG…。」

 健詞と純三郎は、ほぼ同時に呟いた。

 「オプティムGは、ミヤノカクリド・ツクヨノモノツカイ。ミヤノカクリドには、ツカサとモノツカイの二つの階級があるの。モノツカイは、この日本に多くとも3人しかいない。」
 「…その3人とは。」

 健詞は、ワザと姿を見せずに問い返した。

 「ツクヨノモノツカイ、スサノモノツカイ、アラハバキノモノツカイよ。つまり、モノツカイとされた者は、強力なアニマ使いということになるわ。」
 「なるほどな。」
 「今、ツクヨノモノツカイの元に、宮ノ内さんを抹殺するために集ったミヤノカクリドは、あたしと、この間現れたウゴムシノタマツカサ、それからチノハシラツカサ、ハナブサノモノツカサ…。」
 「4人か。」
 「いえ、5人よ。あと一人は、スサノモノツカイ…。」
 「モノツカイが2人も…。」

 健詞は、テーブルに戻ろうとした。
 しかし、ほむらがまた離し始めたため、冷蔵庫の前に留まった。

 「そして…。メディアラプターの宮村雅麿(ミヤムラマサマロ)が、オプティムG。ミヤノカクリド・ツクヨノモノツカイよ。」

 純三郎は驚愕した。
 しかし健詞は冷静だった。

 「…やはり、そうか。」
 「メディアラプターは普通の大企業だけど、上層部はほぼ、秘密結社・ヤミノスメロギのメンバー。」
 「ヤミノスメロギ?」
 「影の皇統を継ぐと云われる、ヘッドを頂く結社。それがヤミノスメロギ。ミヤノカクリドの組合的な組織の性格も…。」
 「組合…か。相互扶助がいつの間にか、野望にすり変わったワケだな。」

 健詞はそう言うと、テーブルに戻ってきた。

 「風見さん、あなたの独り言を立ち聞きしてしまったが、許して欲しい。」
 「…。」

 純三郎は、健詞のとぼけ方に感心した。
 そして、一瞬でもほむらを疑った自分を恥じた。

 「だが、俺がその事実を知ってしまった以上、あなたは無事では済まされない。例え独り言を聞かれただけにしろ、な。」
 「覚悟の上よ。」

 健詞は、白紙と鉛筆を取り出し、乱雑な筆跡で何かを書き始めた。
 例によって、メディアの設計書らしい。

 「頼むぞ、純。風見さんを守る為なら、お前も手間を惜しまんだろ。」
 「バ…バカを言え。」

 純三郎は赤面しながらも、すぐに宮ノ内探偵事務所のガラクタ庫へ向かった。
 ガラクタ庫には、メディアの材料になりそうな物が山ほど眠っている。
 いつになく真剣な様子で、純三郎はガラクタを物色している。
 やがて、ガラクタを両小脇に抱えた純三郎が戻ってきた。

 「鳥居みたいな形だな。」

 純三郎は健詞に確認した。
 健詞はパソコンの前に座ってディスプレイを眺めており、

 「うーん。」

という気の抜けた返事で答えた。
 純三郎は、カッターナイフとピックだけで、みるみる形を整えていく。
 ホウキの柄の残骸と思われる木片をうまく組合せ、鳥居のような形に仕立て上げた。
 中央に、五芒星を象ったアルミ製の飾りを付けると、純三郎は「フゥ」と溜め息を漏らした。
 だが、純三郎の手は止まらない。
 続いて、ロープを注連縄(シメナワ)のように編み上げ、素早く鳥居に飾り付けた。

 「よし。」

 純三郎が立ち上がると、神々しい雰囲気さえ湛えた鳥居のミニチュアが、テーブルの上に立っていた。

 「さすがは純だ。素晴らしいメディアだよ。」

 健詞はことさらに感心した。
 ほむらも、純三郎のあまりの手つきの良さに、感動を通り越して戦慄すら覚えていた。

 「純ちゃんって…一体…。」
 「さぁて、折角いいメディアが出来上がったんだ。風見さんをしっかり守るよう、コトノハをかけておくかな。」

 健詞は、ほむらが何か言おうとしたのを遮った。

 「待てよ、健詞。ほむらはミヤノカクリドだろ? お前がコトノハをかけたメディアを持ってて、大丈夫なのか?」
 「言ったろう、ミヤノカガリビとミヤノカクリドを隔てるのは、アニマに対する気持ちだと。風見さんは、既にアニマ使いの本質を掴んでいる。ミヤノカガリビが使うアニマの力を、受け入れることが出来るよ。」
 「そ、そんなもんか?」
 「純ちゃん、あたしは大丈夫よ。宮ノ内さん、お願いします。」

 健詞は、仮面を取り出して着けた。

 「闇に蠢く怪異を討つ! 森羅万象・アニマ仮面!」

 ほむらは、少し呆気にとられた。この名乗りに関しては、まるで予想外だったからだ。
 純三郎は、そんなほむらの様子を見て、クスッと笑った。

 「ワレ、ミヤノカガリビ・アメノミタマツカイ。神々しき鳥居のアニマよ、風見ほむらを守る力を示せ。」

 健詞は構わず続けた。
 鳥居のメディアを左手に取り、右手をかざしたり、鳥居自体を上下させたりした。所作は美しいが少々せわしない印象を、純三郎は抱いた。

 「ネガイタテマツリ、モノミタマ!」

 健詞が気合を吐くと、鳥居に付けられた五芒星が、一瞬閃光を放った。
 鳥居は健詞の手を離れ、ほむらの方へ向かって浮遊した。
 ほむらは、掌を広げて鳥居を受け取ると、健詞の方を見た。

 「純の作るメディアは、恐ろしく強力なものだ。恐らく、ミヤノカクリドは手出し出来ないだろう。しかも、もしあなたが、御霊(ゴリョウ)や疫神(エキジン)を使おうものならば、容赦なくその鳥居のアニマが排除するだろう。」
 「え、ええ…。分かったわ。」
 「すまない。俺はあなたを信用してはいるが、針の先ほどの可能性をも、封じておきたかったからな。」
 「その方がいいわ。あたしも自分を戒められる。でも…。」

 ほむらはうつむいた。
 純三郎は、ハッとした。自分の作ったメディアが、ほむらを苦悩させているのではないか。

 「あの…。」

 ほむらは、言い出しにくそうにしながらも、何とか口を開いた。

 「結構大きいよね、これ。」
 「は?」
 「どうやって持ち歩こうかと思って…。」

 純三郎は、腰を抜かしてソファに尻餅をついた。
 こういう部分において、ほむらはお嬢様的なズレた感覚を有している。

 「これでどう?」

 純三郎は、スーパーの買い物袋を取り出した。

 「ち、ちょっと…。」
 「これに入れたら…。」

 今度は、健詞が家電量販店の紙袋を取り出した。

 「ご、ごめんなさい…。」

 ほむらは、苦笑している。
 すかさず、健詞は某有名ブランド店の紙袋を取り出して、ほむらの目の前に掲げた。

 「あ、これ、いただきます。」

 ほむらは、紙袋を受け取った。

 「健詞、何でこんな袋持ってるの?」

 純三郎には、健詞が某有名ブランド店に出入りしているとは、とても思えなかった。

 「俺だって高い買い物くらいするさ。」
 「ふ〜ん。」
 「その返事は、信じてないな。」

 健詞は、机の引き出しからプラチナのネックレスを取り出した。
 純三郎はそれを手に取ろうとしたが、拒まれた。

 「これは大事なものだからな。いくらお前でも、触るのはNGだ。」
 「そうかい。」

 ほむらは、ネックレスを見て、

 「それ、カルティアーニでしょ。いい趣味ね。でも、それって女性が身に着けるものよ。」

と言った。
 健詞は、

 「すまないが、詮索はよしてくれ。これは、いわゆる思い出ってヤツでな。」

と答え、すぐに引き出しの中へしまった。
 純三郎は、健詞の意外な一面を見た気がした。
 健詞には、センチメンタルな感情が殆どないと思っていたからだ。

 「じゃぁ、この袋も思い出なんじゃない? いいの? あたしなんかが貰って。」
 「ああ、その袋はただとってあっただけだ。」
 「健詞は、紙袋を捨てられないタチなんだよ。」

 純三郎が健詞の変なクセを暴露すると、ほむらはクスッと笑った。

 「紙製のものは強力なメディアになりうる。紙袋もしかりだ。」

 健詞は、言い訳とも真面目ともとれる、妙な理屈でその場を収めた。
 ほむらは、健詞にもらった紙袋に鳥居を入れると、

 「あたしは、この辺で。」

と言って席を立った。

 「おい、本当に大丈夫なのか? 健詞。」
 「お前、自分の作ったメディアを信じろよ。」

 純三郎は、心配そうに鳥居の入った紙袋を眺めた。
 見かねた健詞は、

 「大丈夫だ、純。お前のメディアは特別だ。俺が保証する。」

と言った。
 純三郎は、真に安心したわけではないが、とりあえずほむらを送るべく、事務所を出た。
 純三郎たちが出て行くのを見た健詞は、背筋が寒くなるのを感じた。

 「宮村…雅麿…。オプティムG…。」

 オプティムGとは何度か対峙した。同一人物の雅麿とも2度会っている。
 健詞は、雅麿がオプティムGであることに、何となく気付きはしていた。
 しかし、断言されると半信半疑になってしまう。

 オプティムGは尊大で冷徹なアニマ使い。
 1度目に会った雅麿は、オドオドして落ち着かない様子。
 2度目に会った雅麿は、オプティムGと同様に尊大な態度ではあったが、悪事を働くような人間には見えなかった。

 健詞は、メディアラプターに行って、直接雅麿と会うことにした。

 メディアラプターに到着すると、健詞はまず、その建造物の威圧感にめまいを覚えた。

 「この建物には、良いアニマは宿らんだろうな。」

 健詞は思わず呟いた。

 「ミヤノカクリドの拠点だとすれば、仕方ないということか。しかし、こんなビルで仕事してたら、ミヤノカクリドじゃないヤツは体を壊すな…。」

 健詞は知らないが、事実、メディアラプターは多数の病人を輩出することで、業界では有名な存在である。
 勿論、悪しきアニマに対して敏感な者もいれば、鈍感な者もいる。
 敏感な者は、運の悪いことに、メディアラプターにおける勤務を苦痛としてしまうのである。
 ただし、メディアラプターは日本有数のコングロマリットであり、待遇が良いため、その風説に反して人は山ほど集まってくる。

 「このビルに、果たして俺は入れるだろうか。」

 健詞は、一応ミヤノカクリドに対する策として、鈴状のメディアと、例のネックレスをポケットに忍ばせている。
 例のネックレスを握り締めて、健詞は思い出していた。
 かつて、このネックレスを渡す筈だった女性のことを。

 「よし、入るか。」

 健詞は意を決して、社屋に踏み入った。
 何と、ロビーには雅麿が居た。
 雅麿は健詞に気付いて、近付いてきた。

 「やぁ、宮ノ内さん。本日はどうなさいました?」

 健詞は、雅麿のペースにはまらぬよう、笑顔を作った。

 「こんにちは宮村さん。今日はあなたに会いに参りました。」
 「ほぅ、私に。で、どんな御用で?」
 「フフ…。風見ほむらさんのことです。」
 「ハハハハ…。では、もうお分かりというわけですね。」

 雅麿は静かに笑った。
 雅麿の傍には、いつの間にか4人の男女が集っていた。
 その中には甲嶋虹清(コウジマニジキヨ)がおり、健詞はすぐに、ミヤノカクリド達だと直感した。
 今度こそ、健詞は雅麿がオプティムGであることに納得した。
 同時に、状況が明らかに健詞にとって不利だと分かった。
 だが、雅麿は意外なことを言い始めた。

 「私はこの会社が大事なものでしてね。ここで一戦交えるわけにはいかないんですよ。」

 健詞は、この雅麿の言を一笑に付した。

 「らしくないな、オプティムG。」
 「ほぅ。」
 「ヤミノスメロギ以外に興味はないのかと思っていたよ。」

 雅麿は、肩を震わせて笑った。

 「あなたは何もお分かりでないようですね。メディアラプターこそ、ヤミノスメロギの拠点。」
 「そうだったな。俺としたことが、忘れていたよ。」
 「何をおっしゃいます。申し訳ないが、少々わざとらしい。」
 「フフ、そうさ。全て風見さんから聞いたよ。お前の弱みもバッチリな。」
 「残念ながら、それはあり得ません。私には弱みなどありませんから。」
 「…。」

 健詞は、何とか雅麿を自分のペースに巻こうとしていた。
 しかし、健詞の思惑は空回りするばかりであった。

 「さて、我々はこれから出かけます。ヤミノスメロギに背を向けた、カゼノオニビツカサを…。」
 「…風見さんを…どうするつもりだ。」
 「本意ではありませんが、抹殺いたします。」

 健詞には、ほぼ予想通りの答えであった。

 「やはり、な。だが、本意でないのならば、何故手を下す。」

 雅麿は、健詞から目をそらし、ロビーの天井を見た。

 「ミヤノカクリドを一人でも失うのは、耐え難い。しかし、ミヤノカクリドのより多くを失う要因となるものは、排除しておく…。」
 「なるほどな。組織の運営としては、正しい選択かも知れん。だが…。」
 「何でしょう。」
 「俺個人としては、許すわけにいかない。既に風見さんの存在は、特別になっている。」

 雅麿にとって、その答えは予想通りであった。

 「ご友人…宮本さんとかおっしゃいましたが…。」
 「悪いが、風見さんには指一本触れることは出来ない。身をもって思い知るがいい。」
 「大した自信ですね。」
 「フッ…。」
 「ま、とにかく我々は出かけます。失礼。」

 雅麿はそう言うと、出口に向かって歩き始めた。
 健詞は、オプティムGたちが社屋から出るのを見届けると、すぐに社屋を飛び出し、ビルの陰で仮面を着けた。

 「闇に蠢く怪異を討つ! 森羅万象・アニマ仮面!」

 そして、ネックレスを左手首に、鈴のメディアを右手首に巻きつけた。

 「ワレ、ミヤノカガリビ・アメノミタマツカイ。銀鎖のアニマよ、風の渦を鳥船(トリフネ)と化し、我を空高く運べ。」

 健詞がコトノハを唱えた瞬間、その体は静かに、しかも速く空へと運ばれた。

 「純、今行くぞ…。」

 その頃純三郎は、ほむらの家の前に居た。
 純三郎は、風見家の屋敷に圧倒された。ほむらの家を見たのは、これが初めてだ。

 「じ、じゃぁ、俺はこれで。」
 「ありがとう。」

 ほむらが門を開けるスイッチを押した瞬間、ほむらの背後に5人の人影が現れた。

 「カゼノオニビツカサ、ご機嫌麗しゅう。」

 雅麿と、ミヤノカクリドたちだ。
 ほむらは、驚きのあまり、その場に立ちすくんでしまった。

 「申し訳ありませんが、あなたにはご退場いただきます。」

 雅麿はそう言うと、右手をサッと振り上げた。
 その瞬間、4人のミヤノカクリドが、ほむらを取り囲んだ。

 「待て!」

 純三郎が叫ぶ。
 虹清は、純三郎に向かって黒い塊を投げつけた。
 純三郎はその塊を避けたが、地面に落ちた塊は、閃光と共に爆風を発した。
 爆風に晒された純三郎は、吹き飛ばされて地面に激突し、気を失ってしまった。

 「邪魔をするからだ。」

 虹清が冷たく言い放つ。
 ミヤノカクリドの一人、チノハシラツカサは、ほむらの腕を取った。
 しかし、チノハシラツカサの掌には電撃のようなものが走り、チノハシラツカサは咄嗟に手を離した。

 「な、何だ?」

 雅麿は、チノハシラツカサの動きを見て、何かを悟った。

 「用意周到…か。カゼノオニビツカサは、強力なミヤノカガリビのメディアを持っています。」

 ミヤノカクリドたちは、一様に驚きの表情を浮かべた。

 「お前たちは手を出せない!」

 空から聞こえたその声は、健詞のものだった。

 「アニマ仮面!」

 虹清は思わず叫んだ。
 健詞は、雅麿の背後に降り立った。

 「言っただろう。指一本触れられぬと。」
 「フフ…困りましたね…。」
 「ツクヨノモノツカイ、ならばカゼノオニビツカサ自身にメディアを捨てさせましょう。」

 進言したのはハナブサノモノツカサである。
 健詞は、

 「どうしようと言うのだ。」

と問うた。
 ハナブサノモノツカサは、答えもせず、いきなりブツブツとコトノハを唱えた。
 健詞は身構えた。
 何をするつもりか、まるで読めなかったのだ。
 健詞が気付いたときには、既に純三郎の周囲で異変が起こっていた。

 「じ、純!」

 健詞の叫びに気付き、純三郎は目を覚ました。
 目を覚ました純三郎は、自分に降りかかる恐ろしい現象に戦慄した。
 風見家の広大な庭に植えられた草木が、純三郎に襲い掛かってきたのだ。

 「ま、間に合わん!」

 健詞は、純三郎に襲い掛かる草木の速さに追いつけなかった。

 「やめて!」

 ほむらが悲鳴に似た叫び声を上げた。

 「純ちゃんは関係ないわ! 殺すなら、あたしを殺して…。」

 ほむらは、紙袋を手放そうとした。
 健詞には、この状況を打開する策がなかった。健詞は激しく歯噛みした。
 健詞が目を閉じて、すべてを覚悟したその時、純三郎の周囲に更なる異変が訪れた。

 「こ、これは一体!」

 雅麿が驚きの声を上げる。
 健詞が目を開けて雅麿の目線の先を見ると、そこには、目にも留まらぬ速さで草木を注連縄(シメナワ)状に編み上げる、純三郎の姿があった。
 その所作は、まるで無駄のない舞のようにも見えた。

 「ど、どういうこと? 草木には蛇蝎の疫神の手足となった筈!」

 ハナブサノモノツカサは驚いて、ただ呆然と純三郎を見ていた。

 「じ、純…。さすがだ。」

 健詞が感心していると、純三郎は手を止めた。
 純三郎の眼前で、見事に結い上げられた草木が、神々しさを湛えて鈍い光を放っている。

 「ご説明いただきたいですな、アニマ仮面。」

 雅麿は、健詞に答えを求めた。

 「お前も知っているだろう、ミヤノタカユカを。」
 「ミヤノタカユカ? まさか。にわかには信じ難い話です。」
 「現代にも居たのさ。天才的なメディアの匠がな。アニマ使いが居る以上、メディアの匠も居る。自然なことかも知れん。」
 「自然…ですか。あなたの受容性が羨ましいですよ。私には、到底受け入れ難い。」
 「フッ…。」

 健詞は、雅麿の言を軽く笑い流すと、

 「厳然たる事実さ。」

と言い放った。

 「俺は、純がひょっとして、ミヤノタカユカではないかという疑問を持つに至った。だから、確かめてみたのさ。」
 「確かめる…?」
 「そう。アニマを使って、近傍に存在するミヤノタカユカの在所を示せ…とな。」
 「ほぅ。」
 「すると、見事に純の居場所を示した…というワケさ。」

 先日、純三郎とほむらのデート現場に、健詞が用も無くひょっこり現れたのは、偶然ではなく、この探索の結果だったのだ。

 「健詞、俺は…。」

 純三郎は、自らの行為に驚き、まだ状況を把握しきっていない。

 「純! お前はミヤノタカユカ。かつて、土師氏としてマツリゴトに欠かせない祭祀具を作り上げた、匠のアニマを宿す者!」
 「お、俺が…。」

 純三郎は、不意にほむらを見た。
 ほむらも驚いている様子だった。
 その様子を見て、純三郎は、ようやく自分の置かれた状況を飲み込んだ。

 「そうか。俺は自分がアニマ使いだと思っていたんだけどなぁ。残念残念。」

 純三郎は、そう言っておどけてみせた。
 健詞には分かっている。
 それは、純三郎一流の人心掌握術だ。
 案の定、ミヤノカクリド達は一斉に気を抜いた。
 健詞は、すぐさまコトノハを唱えて宙に舞い、最も手薄なハナブサノモノツカサの背後に回ると、その腕をつかんだ。

 「な、何を!」

 ハナブサノモノツカサは、力の許す限り健詞の方に振り向いた。

 「おのれ…アニマ仮面!」

 その顔を見た健詞は、思わずつかんでいた腕を放した。

 「お、お前は…。」

 健詞は、仮面を外した。
 雅麿には、何が起こっているか分からない。

 「どうしたと言うのです、アニマ仮面。」

 雅麿が問いかけるものの、健詞には聞こえていない。

 「あづさ…。」

 健詞がそう呟くのを聞いた雅麿は、

 「何故、彼女の名を知っているのです?」

と再び健詞に問うた。
 しかし、やはり健詞には聞こえていない。

 「あづさだろ?」
 「気安く呼ばないで! アニマ仮面!」

 ハナブサノモノツカサは、必死の形相で健詞の視線から逃げ、雅麿の元に駆け寄った。

 「確かに、私の名は山吹あづさ。しかし、アニマ仮面、あなたとは初対面よ!」

 健詞は、左手首に巻いたネックレスをほどき、目の前に掲げて見せた。
 それを見て、あづさ=ハナブサノモノツカサはたじろいだ。

 「そ、それは…。ああっ!」

 あづさは、顔を覆って雅麿の側へと逃げた。
 雅麿は珍しく品のない舌打ちをした。

 「アニマ仮面…いや、宮ノ内健詞…。あなたは、何故我々ミヤノカクリドを混乱に陥れるのか…。」

 雅麿は、後ずさりしながら、ミヤノカクリド達に撤退を命じた。
 雅麿はあづさの肩に、そっと手を差し伸べた。
 健詞は、その様子を見て、ほんの少し嫉妬に似た感情を覚えた。

 「馬鹿を言え…。混乱してるのは、俺の方だ…。」

 純三郎は、ほむらの元へ駆け寄った。
 ほむらは、純三郎にすがりついた。
 ふと、健詞の方を見た純三郎だったが、呆然とする健詞に、かける言葉が見つからない。
 三人の動きは止まったままだが、空は刻々と赤く染まり始めた。

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