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SCG-JATzコミュの森羅万象・アニマ仮面(話別読み用) 14話

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 宮本純三郎(ミヤモトジュンザブロウ)は、風見ほむらの両親に挨拶するため、風見邸に初めて足を踏み入れた。
 純三郎とほむらは、互いに知り合って日も浅く、「お付き合いする」という宣言こそあれ、実際はあまり明確ではない関係である。
 しかし、ほむらの周囲は、先日のミヤノカクリド達による襲撃など、不穏な空気に包まれており、純三郎としては放っておけなかったのである。
 純三郎は、意を決して自分とほむらの関係を明確にし、自分がほむらを守る決心を固めたのだ。

 純三郎は、先日の事件の後、何度か宮ノ内健詞(ミヤノウチタケシ)に相談を持ちかけた。
 しかし、健詞は何となく寂寥感に苛まれている様子で、純三郎の相談にあまり耳を貸さない。
 ただ、健詞は純三郎に一つだけ忠告した。

 「お前がミヤノタカユカだという事を、ミヤノカクリドの連中にも知られてしまった。お前の危険性を鑑みて狙ってくる可能性もある。気をつけろ。」

 健詞が言った内容は、大体こんな感じだった。
 純三郎は、未だに「ミヤノタカユカ」が何たるかを理解していない。
 「メディアの匠」と健詞は言っていた。
 だが、「それがどうした」というのが、純三郎の正直な感想である。

 「俺がメディアの匠だって? 俺が狙われるだって? 冗談じゃないぜ…。」

 風見邸の広い庭を案内されながら、純三郎はボーッと考えた。
 やがて、ほむらの両親の待つ部屋に通された純三郎は、恭しく頭を下げた。

 「はじめまして。宮本純三郎と申します。この度は、ほむらさんとのお付き合いをお許し頂くべく、ご挨拶に参りました。」
 「ああ、どうもどうも。ほむらの父です。よろしく。」
 「母でございます。この度は、ほむらの危ないところを助けて頂いたそうで。ささ、お座りになって。」
 「あ、失礼いたします。」

 純三郎は、ほむらのようなお嬢様との付き合いなど、ほむらの両親が許すわけはないと考えていた。
 ましてや、名門と呼ばれる風見家である。門前払いがオチだとも考えた。
 ところが、ほむらの両親は実にフランクであった。
 純三郎は激しく拍子抜けした。
 雑談に花を咲かせると、やがてほむらの両親は本題を持ち出してきた。

 「ところで、宮本君。」
 「あ、はい。」
 「私は君が大いに気に入ったよ。是非、風見家の後継者になってもらえんだろうか。」
 「え、え?」

 付き合う許可を貰いに来たのは、純三郎の方だ。
 ところが、事態は純三郎の予想を遥かに超える様相を呈し始めた。

 その頃、宮村雅麿(ミヤムラマサマロ)は、メディアラプターのCEO室にある秘密の隠し部屋に居た。
 その日は、ミヤノカクリド達を早々に帰宅させ、久々にCEOと談笑していた。

 「参りましたよ…。」
 「オプティムGにしては、珍しく弱音ですか。」
 「まぁ、愚痴の一つも言わせてください。ホッパーα。」
 「ハハハハ…。」

 雅麿はこのところ、ミヤノカクリド・カゼノオニビツカサこと風見ほむらに裏切られ、ミヤノカクリド・ハナブサノモノツカサこと山吹あづさにまつわる不穏な空気にも悩まされていた。
 アニマ仮面討伐の為の精鋭チームが、わずか数日の間に屋台骨の揺らぐ事態へと追い込まれたのである。

 「私は天運など信じないのですが、今回ばかりは…。」
 「確かに、悪いことが続きますな。」
 「全て、アニマ仮面が関与してはいるのですが、彼がアニマを使わなくとも、事態はどんどん暗転して行く。実に歯がゆい。」
 「お気持ちは分かりますが、少々焦り過ぎでは。」
 「焦り…。」
 「ええ。最近のオプティムGには、ちと焦りが感じられますぞ。」
 「そうですね…。戒めなければなりません。」

 雅麿は立ち上がり、グラスを取り出してブランデーを注いだ。

 「いかがです? ホッパーα。」
 「私はまだ結構。一応、業務時間内ですからな。」
 「フフ…。差し詰め私は不良役員といったところですかな。」

 雅麿の冗談に、CEOは軽く笑った。

 「どうです? オプティムG。またケニンでも作ってみますか。」
 「いや、ケニンを使った実験は、今のところ必要ないと考えます。」
 「それは、そうですな。」
 「さらに、ケニンによるアニマ仮面討伐も、どうやら無意味です。」
 「と言いますと?」
 「彼の元には、ミヤノタカユカが居ます。ミヤノタカユカが居る限り、ケニンを差し向けても恐らく…。」
 「ミヤノタカユカ…。メディアの造作に長けると言われる…あの…。」
 「そうです。」

 その時、モニターにステラ・ジ・Ωの姿が映し出された。

 「お久しぶりです。オプティムG、ホッパーα。」
 「ステラ・ジ・Ω。ご機嫌麗しゅう。」
 「お久しぶりにございます。」
 「おや、オプティムG。昼間から飲んでらっしゃるとは。」
 「これは、お恥ずかしい所をお目にかけました。まだ一口です。」
 「オホホ…。まぁ、それも宜しいでしょう。最近は調子を崩しているようですね。」

 雅麿は、グラスをテーブルに置いて伏目がちになり、

 「近況は、報告申し上げたとおりです。アニマ仮面討伐は、遅々として進んでおりません。」

と言った。

 「召集したミヤノカクリドは、役に立ちませんか。」
 「いえ、滅相もございません。ただ、どうも一人一人の事情が、アニマ仮面に絡み、討伐に支障をきたしているのです。」
 「私情をはさまれては…。」

 ステラ・ジ・Ωがそう言いかけたのを、雅麿は制止した。

 「いえ、私情は仕方ないものと認識します。申し訳ございません。全ては私の力不足故…。」
 「まぁ、いいでしょう。しかし、ヤミノスメロギの最終目的までは、もうあまり時間がありません。アニマ仮面討伐、何とか果たすのです。」
 「承知いたしました。」
 「では、ごきげんよう。」

 雅麿とCEOが頭を下げると、モニターからステラ・ジ・Ωの姿が消えた。
 雅麿は、深い溜め息をつき、ソファに腰掛けた。

 「ステラ・ジ・Ωに申し訳ないですな。」
 「まぁ、それほどご自分を責められませんよう…。」

 CEOは、テーブルの上のグラスを、雅麿に手渡した。

 「すみません。」

 雅麿は、グラスの中身を一口で全て空けた。

 「お体に悪いですぞ、オプティムG。」
 「ええ。しかし今日は目をつむっておいて頂きたいです。」
 「フフ…。アニマ仮面、相当な使い手ですな。」

 CEOは、ステラ・ジ・Ωの姿が映っていたものとは別のモニターのスイッチを入れた。

 「差し出がましいことかも知れませんが、インフォラプターを派遣してあります。」
 「おお、なかなか興味深いことを。」

 モニターに映し出されたのは、ほむらと純三郎、そしてほむらの両親であった。

 「風見家は使用人を雇っておりましてね。インフォラプターから素性を隠して一人ほど派遣しております。」
 「有難いご配慮で。…風見ほむら、カゼノオニビツカサの件は、私の誤算でした。」
 「誤算は誤算ですが、あの時点では誰も分からなかったでしょう。オプティムGの落ち度ではありません。」
 「この宮本純三郎という男、ミヤノタカユカの業を持つ者…。アニマ仮面側に居る限り、我々にとっては邪魔者以外の何者でもない…。」
 「どうなさるおつもりで。」
 「果てさてどうしたものか。」
 「策はありませんか。」
 「ありません。まずは、彼の弱点でも探ってみなければ。策を講じるのはそれからです。」
 「承知しました。インフォラプターの者には、まだ潜入させておきましょう。都度、報告を上げさせます。」
 「助かります。」

 さらにその頃、健詞の事務所に、一人の女性が訪れようとしていた。
 山吹あづさ。ミヤノカクリド・ハナブサノモノツカサである。
 ミヤノカクリド達と共に、メディアラプターを早退させられたあづさは、アニマ仮面である健詞と話をしようと思ったのだ。

 「御免下さい。」

 あづさは、明瞭な発音でそう挨拶した。
 事務所の扉を開けると、健詞がソファに座っていた。
 座っていると言っても、背もたれに思い切り身を預け、テーブルに両足を乗せている。
 あづさは顔をしかめた。

 「客を迎える態度かしら。」
 「…。」
 「アニマ仮面、今日はあなたを殺しに来たワケではなくてよ。」

 あづさは、知性に溢れた言い回しで過激なことを言う。

 「何の用だ、あづさ。」
 「何故、私の名前を知っているのか。今日はそれを訊きに来たのよ。」
 「何故…ねぇ。」
 「私は、あなたのことなど知らない。会ったこともないわ。」
 「会ってるのさ。」
 「え?」
 「会ってるどころか…。フッ、今更何を言っても仕方ないがな。」
 「仕方なくないわ。…きちんとお話を、聞きたいものね。」
 「後悔することになるかも知れんぞ。」
 「後悔? 馬鹿げた言い草ね。」

 健詞は、ポケットから例のネックレスを取り出した。

 「そ…それは…。」

 あづさは反射的に身構えた。

 「もう一度言うが、後悔することになるかも知れんぞ。」
 「わ、分かったわ。承知の上よ。」

 健詞は、あづさと自分に、一体何があったのかを話し始めた。

 「一年前。まだ、俺がお役所勤めだった頃の話だ。」

 一年前のある日。
 健詞は、仕事を片付けて最寄の駅に向かった。駅前で待ち合わせの約束だった。
 健詞は、前日にカルティアーニのネックレスを買い求めた。
 今日は、そのネックレスをある人に渡すつもりなのだ。
 健詞は駅前に到着すると、あたりを見回した。約束の相手は、まだ来ていない。
 しばらくすると、後ろから声が聞こえた。

 「ごめんなさい。ちょっと片付けに手間取っちゃって。」

 現れたのは、あづさだった。

 「いや、さっき来たばかりだから。俺もなかなか仕事が片付かなくてね。」
 「どこ行こうか。」
 「そうだなぁ、俺は中華がいいな。」
 「OK。」

 健詞とあづさは、中華料理店に入り、小一時間ほど食事に費やした。
 店を出ると、既に日は落ちていた。しかし、周囲は入店前より人通りが激しくなっていた。

 「あ、あのさ。」

 健詞は突如、あづさに声をかけた。

 「何?」
 「これ…。」

 健詞は、例のネックレスが入った箱を、あづさに見せた。

 「どうしたの? これ。」
 「あづさへの、プレゼント。来週、誕生日だろ? 来週は、ちょっと青森に行くことになってしまったから。」

 青森。
 健詞がアニマ使いに目覚めるきっかけとなった、古墳のある場所だ。
 数日後その古墳で、健詞はアメノナナオヨロズノウツワと出会う。

 「ありがとう。」

 あづさは、箱を受け取った。

 「開けていい?」
 「ああ。どうぞ。」

 あづさは箱を開けた。
 すると、思いがけないことが起こった。
 あづさは、途端に箱を投げ捨てたのである。

 「手が…痺れる…。目が…痛い…。」

 あづさは呻いてうずくまった。

 「ど、どうしたんだ!」

 健詞が慌てて駆け寄り、あづさの肩に手をかけた。
 ところが、あづさはその手を振り払った。

 「健詞…ごめんなさい! さようなら…!」

 あづさは、溢れる涙もそのままに、逃げ出すように走り去った。

 「ど…どうしたと言うんだ…。」

 健詞は、呆然としたまま、落ちたネックレスを拾った。

 「…と、いうわけさ。」

 健詞は、一年前のこの出来事を、半ば自嘲気味に語った。
 あづさは、信じ難いといった表情で、健詞を見た。

 「今だから分かるんだが、あの時、このネックレスを手にとって、君は感じたんだ。俺がミヤノカガリビであることを。」
 「!」
 「あの頃、俺はまだミヤノカガリビとしての自覚が全く無かった。だが、俺が真剣に選んだネックレスは、元々ミヤノカガリビが使うメディアに適したものだったということさ。」
 「で、でも。」
 「まぁ待て。まだ続きがある。」

 あづさは、やっとソファに腰掛けた。

 「このネックレスを手に取り、衝撃を受けた君は、俺がミヤノカガリビであると直感した。元々ミヤノカクリドとして生きてきた君は、俺の元から立ち去るしかなかった。」
 「つ、作り話だわ。」
 「フッ、そう思うのも無理はない。君は恐らく自分にマジナイをかけたんだよ。俺のことを忘れるために。アニマ使いならば、そのくらい出来るだろう。」
 「…。」
 「ミヤノカガリビだろうが、ミヤノカクリドだろうが、出会って、恋に落ちることもある。光と影、表と裏、お互いの属するものには気付かない。やがて、アニマ使いとしての本領が発露したとき、それは破滅する。…皮肉なものさ。」

 あづさは、涙を流し始めた。

 「な、何なの…この涙は…。私は、一体、私は…。」

 あづさは、綺麗に整った長い髪をかきむしって、泣きはじめた。

 「健詞くん…。」

 あづさが自分の名を呼ぶのを聞き、健詞の涙腺が、一瞬緩んだ。
 ようやく、愛しい人に再会した。そんな気分が健詞を支配した。

 「あづさ…。」
 「健詞くん…、ごめんなさい。あなたの言うとおりよ。今、思い出したわ。」

 あづさは、乱れた髪を整えながら、冷静な口調で話し始めた。

 「私はミヤノカクリドだから、あなたと一緒に居るわけにはいかなかったのよ。とても辛かったわ。だから、自分にマジナイをかけて、あなたのことを忘れた…。」
 「やはりな。だが、あづさ。」
 「何?」
 「もう心配することはない。君は、ミヤノカクリドであることを捨てればいい。」
 「捨てる?」
 「ああ。アニマ使いの根本は同じだ。君にその気さえあれば、ミヤノカガリビとして生きることもできる。」
 「そんなバカな。ムリよ。」

 健詞は立ち上がって、座っているあづさを見下ろした。

 「風見さんだって、俺がアニマを宿したメディアを持っていても、平気になったんだ。だから…。」

 健詞は、自分では気付いていないが、必死にまくし立てている。

 「…ごめんなさい。健詞くん。」
 「え?」

 あづさは、ゆっくりと立ち上がった。

 「あなたを討つことは出来ない。でも、ミヤノカガリビ側に居ることも出来ないの。」

 健詞は呆然とし、言葉も出ない。

 「あなたには多分理解してもらえないと思うけど、ヤミノスメロギは来るべき災厄に対する備えをしているわ。私は、それに力を尽くす義務がある。」
 「またヤミノスメロギか…。またオプティムGか!」

 怒りに震える健詞は、拳を壁に打ち付けた。

 「健詞くん、いずれあなたにも理解して欲しいの。ヤミノスメロギが成そうとしていることを。もしかしたら、ミヤノカガリビとミヤノカクリドは…。」
 「もう沢山だ。すまないが、帰ってくれないか。」

 健詞は、後ろを向いたまま、あづさの話を遮るように言い放った。

 「分かったわ…。チャンスがあったら、また来るわね…。」

 あづさは、健詞が見ていないと知りつつも、笑顔を作って事務所から出て行った。

 「これじゃぁ、色恋沙汰じゃないか。」

 健詞は、雅麿に対する嫉妬心に気付き、密かにそれを恥じた。
 慌てて、事務所を出たあづさを追いかける。
 だが、既にあづさの姿はなかった。

 健詞は決心した。
 オプティムG=雅麿が何をしようとしているか、突き止めなければならない。
 ミヤノカガリビとして、アニマの均衡を破るようなことは、断じて許してはならない。

 「アニマの均衡? そうか。ヤミノスメロギは、ミヤノカクリドの社会を作ろうとしているのかも知れん。」

 健詞は、あづさを探すために事務所を飛び出した。
 しかし、あづさはミヤノカクリドである。探査は容易ではない。
 健詞はふと気付き、ネックレスをポケットから取り出した。

 「これだ…。ワレ、ミヤノカガリビ・アメノミタマツカイ。銀鎖のアニマよ、一年(ヒトトセ)の前に触れたるミヤノカクリドを探せ。」

 ネックレスは、瞬く間に健詞の身体を宙に浮かせた。
 すぐに健詞は、左手に持っていた仮面を着け、空を行く姿を人目より隠した。
 数分後、健詞はメディアラプターの本社ビル上空に居た。
 あづさが、ビルへと入っていく。
 寸前で、健詞はあづさの眼前に降り立って、それを阻止した。

 「待ってくれ、あづさ。」
 「た、健詞くん…。」

 健詞は仮面を外すと、あづさを近くのカフェへ誘った。
 カフェに入ると、二人は同時にラテを注文した。

 「あづさ、教えてくれ。ヤミノスメロギの本当の目的を。」
 「健詞くん…。声が大きいわ。」

 あづさは、健詞が話を聞く姿勢になった為か、心なしか嬉しそうな顔をしている。

 「あ、すまん。」
 「私の話を聞いてくれる気になったのね。」
 「ああ。あづさ、俺は、ヤミノスメロギの目的を知る必要がある。頼む、何でもいいから教えて欲しい。」
 「分かったわ。でも、私にも分からないことは、まだ沢山ある。」
 「断片でもいい。」
 「いいわ。ただし、私はあくまでミヤノカクリドよ。ミヤノカガリビになるつもりはない。あなたは私を説得しない。これを約束して欲しいの。」

 思えばかつて、健詞はネゴシエイションに長けたあづさに惹かれたのだった。
 そんなあづさは、今でも変わっていない。

 「いいだろう。じゃ、始めてくれ。」

 健詞は、目一杯格好をつけてみた。
 しかし、あづさはそれに気付く様子もなく、淡々と話し始めた。

 「私は、ミヤノカクリド・ハナブサノモノツカサ。アニマ仮面つまり健詞くんを抹殺するために招聘された、ミヤノカクリドの精鋭部隊の一人よ。」
 「そんなのは、知ってる。」
 「いいじゃない。ちゃんと聞きなさいよ。」
 「…わ、分かった。」

 健詞はタジタジだった。
 その様子を見て、あづさは、

 「もぅ。じゃ、どこまで知ってるのか、先に言って頂戴。」

と言った。

 「俺が知っているのは、ヤミノスメロギがミヤノカクリドの組合的結社で、その中枢がメディアラプターの上層部を占めているということと、ヤミノスメロギが組合の活動を超えて、何か企んでいること。そのくらいだ。」
 「OK。ならば、健詞くんの知らないことは、ヤミノスメロギの真の目的ってことね。」
 「!」

 あづさはいきなり核心を突いてきた。健詞は身を乗り出した。

 「そんなに慌てないで。」

 健詞は、あづさのその言葉を受け、姿勢を元に戻した。

 「ヤミノスメロギが目指しているのは、ヤミノスメロギのヘッドであるステラ・ジ・Ωによる、日本の皇統の奪回と、日本政府の転覆よ。」

 健詞は驚愕した。
 健詞の中で、色々なことがパズルのように繋がった。
 ケニンは、混乱による民衆統制の為。
 雅麿の言う、マツリゴトは、アニマと乖離すべきじゃないという論。
 オプティムG=雅麿は、目的に向かって滅私して働いていたのだ。
 健詞は、少し雅麿に同情した。が、すぐに心中で撤回した。

 「そうか、あづさ。それだけでもう分かったよ。ヤミノスメロギの目的は、正統の皇統を主張するそのヘッドが、祭祀としてのマツリゴトと政治としてのマツリゴトを同一化し、日本を掌握することだな。」
 「さすが健詞くんね。頭が切れるわ。」
 「ありがとう、あづさ。」
 「もういいの?」
 「いや、ちょっと待ってくれ。あづさは、その目的が正しいと思っているのか?」
 「それは…。」
 「どうなんだ?」
 「疑問を持つことはある。でも、確実に悪しきアニマは増え続けているわ。こんなに悪しきアニマが増えるということは、日本におけるメディアとコトノハ、そしてシャーマンの力が弱まっている証拠。」

 健詞は思い出した。
 以前、雅麿も同じようなことを言っていた。
 もしかすると、雅麿に限らず、ミヤノカクリドたちは感覚的にそれを悟っているのかも知れない。

 「ミヤノカクリドは、悪しきアニマの掃除人だけど、かなり手を焼いているのよ。」
 「そうなのか。」
 「それはそうよ。いくらなんでも、悪しきアニマを掃除できる数には限りがあるわ。日本が安定していれば、こんなことはない。」
 「日本の安定か。だが、ミヤノカクリドが日本を掌握したら、もっとマズいんじゃないのか?」
 「それはあなたの見当違い。ステラ・ジ・Ωはミヤノカクリドではないのよ。」
 「そうなのか…。いや待てよ、そういえば影の皇統とか言ってたな。てことは…。」
 「私も詳しいことは知らないけど、今の日本の皇統とは別の皇統だと言われているわ。ステラ・ジ・Ωは、れっきとしたシャーマンなのよ。」

 健詞は理解した。
 ステラ・ジ・Ωと呼ばれる、ヤミノスメロギを統べる人物が、マツリゴトを司るに相応しい人物だとされていることを。
 確かに、正統なるシャーマンが君臨する日本は、正しい姿なのかも知れない。
 だが、本当にそれでいいのか。
 あづさの卓抜したネゴシエイションに飲まれているだけじゃないのか。
 そのあづさは、ステラ・ジ・ΩひいてはオプティムGに、心酔しているだけではないのか。

 「あづさ。」
 「何?」
 「本当に、それがあづさの思う、正しい日本の姿か…。」
 「待った。そういう話はナシって言った筈よ。私は迷わない。ミヤノカクリドの利益は…。」
 「ミヤノカガリビが!」

 健詞は、必死であづさに食い下がった。

 「ミヤノカガリビが、日本のアニマの均衡を取り戻すよう、活動すれば…。」
 「バカね。健詞くん一人でどうするの。ミヤノカガリビはあなた一人じゃないの。」

 健詞は、鋭い指摘に言葉を失った。
 あづさは畳み掛けた。

 「探せばイイなんてこと、考えてないでしょうね。そんなことムダよ、組合もないのに。ミヤノカクリドは歴史的に組合が発達するきっかけが豊富だったけど、ミヤノカガリビのような表舞台のアニマ使いには、組合なんか必要なかったのよ。」
 「あ、そ…その…。」

 健詞は完全にノックアウトされた。

 「秘密結社なんてこと言ってるけど、中身はあなたが思っている程、黒々としたものでもないわ。ツクヨノモノツカイは人道的な人だし、ステラ・ジ・Ωはシャーマンたるに相応しい、ミヤビな方よ。」

 そうかも知れない。
 だが、オプティムGはサイバーテロリストだったじゃないか。
 言いかけた言葉を、健詞は飲み込んだ。
 あづさにそんなことを言っても、今更ムダな気がしたのだ。
 しかしながら、ステラ・ジ・Ωとは、かように立派な人物なのか。

 「じゃあね、健詞くん。」
 「あ、あぁ。」
 「ヤミノスメロギは、優秀なミヤノカガリビのアニマ使いさんを歓迎するわ。お待ちしています。ヤミノスメロギのネットワークがあれば、ミヤノカガリビを見つけるのも簡単かもね。」

 あづさは、イタズラっぽい笑みを浮かべながら、カフェをあとにした。
 カフェの扉から出る刹那、右目と右手だけ覗かせて、あづさは手を振った。
 健詞はしばらくボーッとして、それからカフェを出た。

 カフェを出た健詞は、異様な空気を感じた。
 ミヤノカクリド同士が、互いに気を吐いている。
 健詞が右側に目を向けると、そこにはあづさと甲嶋虹清(コウジマニジキヨ)が居た。
 通行人には、恐らく分からないだろう。二人は実に自然な立ち振る舞いで、人込みに溶け込んでいる。
 しかし、互いに牽制していることは、ミヤノカガリビである健詞には容易に判別できた。

 「何の用? ウゴムシノタマツカサ。」
 「ツクヨノモノツカイは手ぬるい。あんたも裏切り者だ。」
 「あら、ご挨拶ね。」
 「ここでは目立つ。他へ移ろうか。」
 「フフ…バカね。てことは、私がここから動かなければ、あなたは手が出せないってことじゃないの。」

 健詞は、アニマを使って2人の会話を遠聞きした。

 「ウゴムシノタマツカサが、あづさを粛清しようとしている。だが、ウゴムシノタマツカサの言うように、ここでアニマを使うのは、あまりに目立ちすぎる。」

 健詞は手を打てない。

 「チッ…。」

 健詞が舌打ちしたのと同時に、虹清も舌打ちした。
 状況はどうやら、あづさに有利のようだ。
 しかし、この人込みは永劫に続くわけではない。いずれは虹清にチャンスが到来するだろう。

 「でも、私はじっと動かないような卑怯なことはしないわ。」

 何と、先に動いたのはあづさであった。
 あづさと虹清は、ビルの物陰へと消えていった。

 「あづさ!」

 健詞は思わず叫び、アニマを使うこともなく、走って2人の後を追った。
 健詞がビルの物陰に踏み入ろうとした瞬間、無音だが凄まじい爆風のようなものが健詞の眼前で起こった。
 健詞は、咄嗟に身を低くした。

 「ウゴムシノタマツカサの蠱毒(コドク)かっ…!」

 健詞は、恐る恐る目を開け、顔を上げた。

 「フッフッフッ…。」

 そこには、勝ち誇る虹清の姿があった。
 虹清の足元には、あづさが倒れ伏している。

 「あづさ!」

 健詞は駆け寄った。
 あづさはピクリとも動かない。

 「裏切り者はこうなるのさ。ヤミノスメロギが人道的だって? 冗談じゃない。私はミヤノカクリドの力を行使してこその、ヤミノスメロギだと考える。ミヤノカガリビはこの世に無用な者…。」

 虹清は、ブツブツと何か言っている。
 健詞はしばらくあづさを失った事に対する憤りを我慢していたが、遂に怒りを爆発させた。

 「許さん。ウゴムシノタマツカサ…。」
 「アニマ仮面、所詮は貴様も表街道の人間。どんなに憎くあれ、私を殺すことはできない。」
 「俺を見くびるなよ…。」

 健詞は、驚くほど長く息を吸い込み、また驚くほど長い時間をかけて、息を吐き出した。
 健詞は、深呼吸によって怒りを抑えたのだ。
 健詞は、懐から仮面を取り出して被った。

 「闇に蠢く怪異を討つ、森羅万象・アニマ仮面の力、見せてくれよう。アニマの昇華たる神々に成り代わり、罪に穢れたお前を清めようぞ。」
 「ゴタクを!」

 虹清は先手を打つとばかりに、両手に黒い塊を握り締め、健詞に向かって投げつけようとした。

 「ハッ!」

 健詞は、虹清の遥か頭上へと飛んだ。

 「何ッ?」

 虹清は目を疑った。
 健詞はコトノハを唱えていないのに、アニマの力を行使している。
 アメノナナオヨロズの器が、傍にあるわけでもない。
 虹清は、頭上の健詞に向かって、黒い塊を投げつけた。
 どこから取り出すのか、次々と黒い塊を手にとっては、健詞に投げつける。
 健詞は、飛んでくる黒い塊を目にも留まらぬ速さで回避していく。

 「いざ裁かん! 罪に穢れしミヤノカクリド・ウゴムシノタマツカサを! 同胞を裏切り、志を裏切った、黒き野望の虜を!」

 健詞は虚空で静止し、両手で例のネックレスを持った。
 ネックレスのプラチナの鎖は、みるみる伸びて行き、健詞の身の丈ほどの長さとなった。
 ネックレスを構えた健詞は、重力に逆らわず落下し始めた。
 あわや地上に激突せんという瞬間、地上スレスレで身を翻した健詞は、物凄い速さで地上と平行に飛んだ。
 そのまま、恐ろしさのあまり動けなくなった虹清の周囲を、健詞はスピードを緩めることなく一周し、虹清の後方へと飛び去った。
 同時に、虹清の首が虚空に舞った。
 健詞は、ネックレスを虹清の首に巻きつけ、切り飛ばしたのだ。

 「裁かれよ。己の深き罪の穢れ、覚ゆがよし。」

 健詞がそう言うと、虹清の首が喋り始めた。

 「ア、アニマ仮面…。」

 健詞が着地すると、虹清の首と胴体の周囲で、竜巻が起こり始めた。
 竜巻がやむと、そこには呆然自失となって立ち尽くす虹清の姿があった。
 首はちゃんと胴体に繋がっている。

 健詞は、あづさの元に歩み寄った。
 動かないあづさを抱き起こすと、その身体はパラパラと崩れ去った。

 「アハハ…。」

 驚く健詞の頭上で、笑い声がする。

 「何っ?」

 健詞が頭上を見上げると、ビルの屋上から覗くあづさの姿があった。

 「あ、あづさ?」

 あづさは、ビルの屋上から飛び降り、フワリと健詞の傍に着地した。

 「驚かせてごめんね。私は用心深いの。ちゃんと形代(カタシロ)を打っておいたのよ。」
 「か、カタシロ?」
 「私はハナブサノモノツカサよ。植物原料の形代なんて、すぐに打てるわ。それにしても、見事なお手並みね。」
 「あ、あぁ。」
 「コトノハを唱えないで、あんな芸当が出来るの。」

 あづさにそう言われて、健詞は初めて気付いた。確かにコトノハを唱えていない。
 試しに、心の中でアニマを使おうとしてみた。しかし、何も起こらない。
 さっきのは、偶然だったのだろうか。

 「何でコトノハなしに、あんなことが出来たのか、俺にも分からん。」
 「分からん…って、あなた冷静だったじゃない。」
 「そ、そう言えば、まぁそうだな。」

 健詞は、先程のことを懸命に思い出そうとしたが、どうも記憶に乏しい。
 2人の元へ、虹清が歩み寄ってきた。

 「アニマ仮面…私に何をした…。」

 虚脱感に襲われつつ、虹清は必死で健詞に問うた。

 「お前のアニマ使いとしての力を狩ってやった。さっき飛ばした首は、ミヤノカクリド・ウゴムシノタマツカサと呼ばれるアニマの首さ。」
 「わ、私の首を…。」
 「お前の首ではない。アニマの首だ。」
 「…。」
 「もっとも、首を飛ばされようとアニマの本質は変わらん。アニマは形じゃないからな。お前は力を失ったに過ぎない。」

 あづさは、健詞の言葉に若干の戦慄を覚えた。少し手が震えている。
 ヤミノスメロギは、とんでもないアニマ使いを敵に回しているのかも知れない。
 あづさは、そう思った。

 「そ、そうか…。ハハハハ! 私はミヤノカクリドじゃなくなったのか…。」

 虹清は、空虚な笑いに支配されている。
 同情の眼差しを、健詞は虹清に向けた。
 この男・虹清も、ミヤノカクリドとして表の世界から遠ざけられてきたのだ。

 「アニマ仮面よ。ミヤノカクリドでなくなった以上、貴様に言っておくことがある。」
 「何だ。」
 「宮本純三郎は、いずれ消される。」
 「何だと? 本気で言ってるのか。」
 「宮本と風見ほむらは、ヤミノスメロギに監視されている。せいぜい気をつけておくことだ。」
 「…また、頭の痛い問題を…。」

 健詞は歯噛みした。
 虹清は一礼すると、人込みの中に消えていった。
 あづさが虹清を呼び止めたものの、その声は虹清に届かなかったようだ。

 「ミヤノカクリドである以上、私も抹殺に加わるのよ。どうする? 健詞くん。」
 「じゃあな、あづさ。」
 「え、ちょっと、もう帰るの?」
 「ああ。ちょっと疲れたからな。」

 健詞はそう言うと、さっさと振り返り、あづさから離れて行ってしまった。

 「もう…。人の話を聞きなさいよ。」

 あづさと別れた健詞は、宮ノ内探偵事務所に帰って来た。
 事務所の前には、何故か純三郎が居た。

 「よぉ、健詞。お前に報告があってな。」
 「何だよ。」
 「結婚することになった。」
 「ええっ?」

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