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眠れぬ夜の物語コミュのサラリーマンと都会の猫

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カラスが鳴いていますよ。
もう朝のようです。
ウィスキーのボトルを抱えてラッパ飲みしている私は、公園のベンチで泥酔しているようです。
自分のかばんよりも大事そうにウィスキーの瓶を抱えています。
九月になると、北海道という地は、とても冷え込んで、毛布でもなければ風邪を引きそうなくらい寒いです。
それもこれも、外で寝ているせいなのですが、あの夏の暑苦しさは、ロウソクの火を吹き飛ばしたように簡単に消えてしまうようです。
よく北海道の人間は、青森から山口まで続いている大きな陸地を「本州」というのですが、あの本州の東京や京都あたりの、いつまでの抜けない暑さとは大違いのようです。
白み始めた空が、青色に染まっています。
どうやら私の嫌いな、まぶしい朝がくるようです。
どうしてまぶしい朝が嫌いかというと、人が動き始めて、何もかもリセットしたように動き出すからです。
人生には、リセットなどという概念はないはずなのに、私のサラリーマン人生はどうにも単調すぎて、私には、とにかく会社というものが「欠陥を出す人間よりも、次々と機械のごとく正確に仕事を覚え、AIのように思考し、疲れず、そして働き続ける奴隷」のようなものを望んでいるのではないかという恐怖感にさいなまされながらも、またこうして、朝になれば会社に行こうと、犯人に脅された被害者のように勝手に体が動くわけです。
もちろん心はとても嫌がっているのですが、何しろ家庭のある身。ちゃんと稼がなければいけないのです。
どうして、今日は公園で酔っ払って寝てしまったかというと、昨日の夜に、私の仕事が忙しくて、食べて会話もろくにせず、疲れてすぐ寝るものですから、妻がとうとうかんしゃくを起こしまして、子供の世話もしないわ、妻にもかまわないわで、私は夫ではなく、ただの同居人だとこっぴどく叱られまして、家族ではないのなら、この家を出て行ってくださいと言われ、仕方なく公園に寝ているわけです。
それにしても、あの家のローンは私が組んだものですし、もちろん私もパートの妻の収入は多少加えているものの、私が40年ローンでちゃんと払っているものですから、私の家には間違いなく、昔の私の親父のように、「お前は誰の稼いできた金で食っていけると思っているんだ」と、その後に続く口汚い罵りを加えて、親父ように妻を叱れればよいのですけれど、なにぶん気が弱いものでして、妻にはろくな反論もできず、追われるままに家を出され、こうして公園で朝を迎えたわけです。
よく考えてみれば、私の生活はと言えば、仕事をして帰ってきて、テレビを見ながらご飯を食べて、妻との会話も、夜のいとなみもなく、疲れた寝る、と言って寝て起きて、会社に行くだけの生活のようにも思えますが、これも一家を支えるための苦労と思って、必死に自分を奮い立たせてきましたが、どうにも理解されずに、ついにこうしているわけなのです。
頭が随分とゆらゆらいたしまして、自分で酒臭いかどうかよくわからないのですが、昨日買ったウィスキーのボトルが半分もなくなっているということは、相当酒臭いのであろうと思いましたので、公園の水道で多量の水を飲み、そろそろ、少しでも胃の底からわき上がる不快な異臭を消そうとしたときに、私の前を猫が通りました。
捨て猫でしょうか、ずいぶん汚いのですが、眼光が鋭く、腑抜けたような私の目とは大違いの、百戦錬磨の眼光を持った猫のように見えたもので、そこで私は毎日のように叱られる、部長のあの鋭い眼光をも思い出しまして、猫一匹に震える思いでしたが、私にすぐに興味をなくしたのでしょうか、人間ならば肩を張るように歩くというのでしょうか、威風堂々とした威厳のありそうな歩き方で、私の元を去ろうとするのでありました。
私はぼんやりと猫の後姿を見ていましたが、きっと猫が言葉をしゃべれるのならば、「ふん、人間か」ぐらいの、なんの感慨もないしらけた呟きを吐き捨てながら去っていく猫のように思えました。
別にそれほど興味がわいたというほどでもなかったのですが、なんとなくあとをついて行くと、時折こちらを振り向き、気にしながらも、他の猫のようにさっそうと逃げる雰囲気も見せず、やはり堂々としながら歩いて、路地の中へと入っていくわけです。
その様子をじっと見ていたのですが、裏路地には残飯があるらしく、猫のあさり場になっているようでした。
飲食店の裏なのでしょうか、食べ物の腐ったような特有の異臭が多少いたします。
朝のご飯の時間なのでしょうか、猫が集まっているのですが、先ほどの猫はどうやら部外者らしく、他の猫とのにらみ合いと威嚇が始まっています。
縄張り争いなのでしょうか、どうやらボスらしき、やはりあの猫と同じように威厳があり、鋭い眼光を持ち、左目の横に傷のある猫と、緊張感漂うにらみ合いが続き、お互い背を尖らせ、毛を逆立て、のどの奥から、「シーッ!」っと威嚇を続けております。
その様子をじっと周りの猫たちは見ているのですが、どうやら私の追ってきた猫にとって、ここは完全に相手領地であって、この領地を奪うために乗り込んできた一匹猫のようでした。
ついに、お互いの緊張が破裂したのでしょうか、戦いが始まり、これが本当に猫同士の戦いなのだろうかと、まるで雄ライオン同士の雌の取り合いを見ているような迫力で、噛み付き、鋭い爪で引っかきあいながら戦いは続きました。
お互いの体の各所からは血が流れ出て、私の追ってきた猫は、相手の爪で右目をつぶされ、ついに敗走してしまいました。
私は敗走した猫の後を追ったのですが、すばしっこく、見失ってしまったため、あきらめかけていたのですが、ちょっと入り組んだ裏路地のゴミ捨て場に、その猫は血を流しながらうずくまっていました。
どうやら、もう動けないらしく、近づく私を相当警戒し、攻撃しようとも試みていたのですが、もはや体力尽きたと見え、私から逃げることも、攻撃することもできずに、ただにらみつけるだけでした。
私が猫と話せるのならば、この猫に、「ああ、お前はどうして、そうまでして戦わなければいけないのだ」と、聞いてみたい気持ちでいっぱいでした。
きっと、この猫は、「生きていくためさ」と答えるのでしょうが、私にはどこか、どう考えても納得できないものがありました。
この猫はどうして野良猫になったのだろうかと、あれこれ考えをめぐらせました。
きっとこの猫は、飼い主の勝手な都合で捨てられ、人間を信用しなくなったのかもしれないと思いつつも、逆に拾われてかわいがられる猫のことも同時に思い浮かび、「お前がもう少し肩肘張らずに生きていれば、もしかしたら誰かに拾われていたのかもしれないな」などと考えたりしたのですが、これはこれで、この猫が選んだことで、きっと猫と話が通じても「人間なんか」の話は、猫の耳が持たないとも思いましたので、それ以上は猫へ口出しするのをやめて、じっと猫を見ていたのですが、猫のことばかり考えていると、どうにも私という人間も、居場所を追われた捨て猫のように思えて、この猫にとても親近感がわくのでした。
私がこの猫と同じように過去を思うのならば、「私が何を悪いことをしたのだ」と、自分の生活を省みることでしょう。
いや、そんなことを思うのは私だけで、猫はもっと現実を受け入れて、「今日生きていくにはどうすればよいのか」を命をかけて実行していっているわけで、私には、この猫のような気迫もなく、ただ流されるままに生きているわけで、今日の会社では酒臭くて、ついに首を切られたりはしないだろうかと、悩んでいる人間です。
うつむきながら、自分の精神的なもろさを哀愁あふれる心で感じていたわけですが、ふと猫のほうへ目をやると、死んでしまったのか、目を閉じています。
そっと体に触れてみると、まだ心臓の脈は感じられ、生きていることにほっとしながら、傷だらけのこの猫をどうしてもほうっておけず、私は拾い上げて、少し傷の手当をしようと、家へと足を向けました。
妻は猫が大嫌いで、抜け毛やらノミやら、不衛生だと、神経質に騒ぎ立てると思うので、とてもこの猫は家では飼えそうもないことはわかっておりましたが、私はどうしても、今日を生きようとする傷だらけの猫を放ってはおけず、なにか自分の姿と重なるような気がして、痛いだろうけれど、消毒だけはしてやろうと思いました。
気がつけば、夜はすっかり朝日の光で払われ、私の嫌いなまぶしい朝が、すでに来ておりました。
きっと、猫の右目は治らないであろうことはよくわかりました。
朝はまるでリセットされたように動き始めても、傷跡だけはリセットされずに残っていくことを思うと、人生は当然のごとくリセットされずに続いていくのだと私なりに思慮深く考えたりするのです。
それは、傷があるから人生は続くのではなく、生きているから朝を迎えるのだということ。
あまり難しいことは苦手なのですが、生きることと戦うことは、どこか一緒だということを、この猫に教えられたような気もします。
私は、朝日を見上げながら、ほんの少しの心の癒しを求め、淡くもまぶしい光に目を細めたのでありました。

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