眠れぬ夜の物語コミュの柔らかいもの(仮)

朝、出勤前の時間は何でこんなにせわしないんだろう。
低血圧だから、と言い訳を振りまいてはいるが都はいつも朝の数分で慌しく準備をしていた。

満員電車は本当に苦痛だと都は思う。
身長が146cmしかない都にとって、ぎゅーぎゅーにつめこめられる満員電車ではひどい有様になっているのは言うまでも無い。

毎朝毎朝、電車から降りると都の髪の毛は恐ろしく乱れていた。

「今日もまた一段と乱れてますね。」
改札を抜け、ほっと一息ついていた都に真由子が話しかけた。
「あ、おはよう。今日ももみくちゃですよ」
「言わなくてもわかるよ、背が低いのも考え物だね。」

真由子はくすくすっと笑いながら都の髪の毛を直してあげた。

身長が高くて男みたい、と昔からからかわれていた真由子にとっては都の身長が羨ましく思うことはあるが、朝だけは自分の長身がありがたく感じる。

「仕事はなれたけどさ、この満員電車だけはなれないよ。」
「そう悲しい顔しないで、さあ今日もがんばりましょかー。」
二人はカツカツをヒールを鳴らして会社まで歩いていく。

「佐山さん、ごめんこれコピー10部ずつやってくれる？」
塚本は40代半ばの課長で、少しばかり人をひいきする所がある。
周りの社員には煙たがれている。
「わかりました。」
都は書類を受け取りコピー機の方に向かう。
そんな後姿を少しニヤニヤと見つめた後
「あ、あとコーヒー淹れてくれるかな。」と言った。

「はい。あ、でもまだ飲まれていないようなんですが。」
「ああ、これ冷めちゃっているし佐山さんが淹れたものではないからね。美味しくないんだよ。」
塚本はニヤリと音が聞こえるような不気味な笑みを浮かべた。

またか、そう嫌悪感を感じながら都は塚本のマグカップを持ちコーヒーを淹れに行く。

今日も真由子に愚痴を聞いてもらわなくちゃ、都はゆっくりコーヒーを淹れながら帰りにどこで呑もうか考えていた。

「都、大丈夫か？」
都がぼーっとしてると、森下が話しかけてきた。

「あれ、どうしたんですか？」
「いや、さっきの見えたからさ。」
森下はこそこそっと話している。
「ああいつものことですよ、ちょっと嫌ですけどね。」
こそこそ話す森下に、都は少し呆れてしまう。

「もしさ、よければ今日一緒に呑みにでも行かない？」
さっきよりも小さい声で言った。少しはにかんだ笑顔も見せながら。

そうだ、今日は水曜日だった。
都は少し考えた振りをして、誘いを断った。

「どうしてもダメかな？今日は特別に一日大丈夫なんだよね。」
「奥さんに怒られますよ。」
奥さん、という言葉を口にすると都の心はズキッと痛む。

「大丈夫だよ、今日はあいつ実家に帰ってるからさ」
ふふふっと笑い、更に小さい声で久しぶりに二人で呑みたいんだよ。と付け足した。

「それでも、ごめんなさい。今日は本当に用事があるんです。」
都は森下の目をじっとみて、はっきりと言った。

少しだけ声が大きかったのか、森下は少し慌てた。
「そうか、急ぎでもないのでまた今度にしようかな。」
「すいません。」
「いいよ、残念だけどまた誘うね。あと少し頑張ろうな。」
そう言いながら、ぽんと都の頭を撫でて森下は仕事に戻った。

都はどうにもこうにも、やるせない気持ちでコーヒーを見つめていた。

つづく。

コメント(1)

最初
全て
最新の40件

[1] mixiユーザー 03月01日 12:09

気がつけば、はずれくじばかりを引いているんだろうな。
真由子は都を見ながら残り少ないビールを飲み干した。

「今日はパーッと呑みますか」
そう、勢いよく息巻いていた都だったが、結局はいつもと同じ居酒屋に来ている。

こうなることはわかっていたので、真由子は文句も言わず、だよねーと笑いながらお店に入った。

今日はいつもよりも都のお酒のペースが早い。
「すいませーん。梅酒のソーダ割りと生中くださーい。」
「かしこまりました、少々お待ちください。」
とってもにこやかな店員さんが、ドリンク入りました！とすばやく仕事をしている。

「今日はなんだか、ペース早いなー。」
「いつも通りでっしょーい」

あまりお酒が強くない都は、３杯目の梅酒のソーダ割りを飲み干して、少し酔っ払っているようだ。
陽気に笑っている。

傍目からはとても上機嫌に見えるが、中学から付き合いがある真由子には都の空元気に気づいていた。

「で、なにがあったの？」
真由子の問いに、ケタケタと笑っていた都が固まる。
「なんだ、ばれてたのか。」
「長い付き合いですからねー。今日は都のおごりだね。」
と真由子が言い、今日は最後まで付き合ってあげるよ。と笑って付け足した。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ