ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

眠れぬ夜の物語コミュの春一番

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
風のごうごうと強い日だった

塾でチューターをしている私は
東京の大手予備校から送られてくる
講義の予約を12本分セットし
今日これから訪れる塾生の予約状況を見ながら
受講するビデオと資料を一緒にしてカウンターの上に並べていた


そこへ個別学習室から勉強を終えた斉藤くんが降りてくる

おつかれさま。調子はどう?

あ、うん。これ、ありがとう。

受講を終えたビデオを受け取りながら、何となく元気がないのが気になる


高三生の彼はいつも私服でやってきて
ひとり真面目に勉強しているのだった
他の受講生が制服のまま集団でわいわいやってきて、どやどやと帰っていくのとは違って
色白の女の子みたいに静かな男の子だった

今日は真っ白なざっくりしたセーターにぴったりしたジーパン、ダッフルコートを羽織って
マンガにでも出てくるような可愛い女の子に見える
その彼にも、この街で一、二を争うお金持ちのお嬢様の彼女がいた
彼女は隣の英会話教室に通っているらしいけど、今日は教室がないらしい


さよなら。

と小さく言いながら、彼がドアを押し開けながらちょっと立ち止まった

風が強いから、気をつけてね。

硝子張りの廊下をうつむきながら何か思いつめたように歩く彼が見える

どうしたんだろ
なにかあったのかな


そう思いながら作業を続けていた
そのとき、びゅうと風が吹き込んで持っていた資料を巻き上げた
ドアのところに彼が真っ赤な頬っぺをして立っている


あ、あの。
あの、映画。映画を一緒に観にいきませんか。


ちょ、ちょっと待った、落ち着け私
何を焦っているのだ
相手は高校生、ましてや受験生だ


えっとね、卒業したら。そう、合格したらお祝いに観に行こう。

あ、う、うん。はい。
じゃあ。

頷いた彼は、赤い頬っぺをますます赤くして
でも爽やかな笑顔を残して走り出た
硝子窓の向こうに風となった彼が見えた

散らかった書類を拾い上げながら、何が起こったんだろうと
ぺたんと床に座り込んでしまった

硝子窓には枯葉がいくつも張り付いて、ごうごうと風は唸っていたけど
ブルーグレーの空低く金星が輝いていた





私のシフトが代わってしまったからか、それから斉藤くんの姿を見ることはしばらくなかった

3月に入ってしばらく経ったころ、お雛さまのようなふたりが英会話教室から帰っていくのが見えた
ぽかぽかとした土曜の昼下がりだった

コメント(4)

ホントに春1番みたいな突然の出来事ですねo(^-^)o

なんだかほんわかした気持ちになりました。
neco.さん

コメントありがとうございます。

はい。バイトしていた頃のできごとなのですけど、当時はほんのりとあたたかな気持ちとドキドキが入り混じっておかしな感じでした。
ふふ。私の春一番でした。
チョンちゃんさん

コメントありがとうございます。

覚えてくださっていたんですか!?
とっても嬉しいです^^

外はごうごうと唸るような風が吹いていましたけど、私の中には爽やかな風が吹きぬけていきました。
淡い色の思い出です。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

眠れぬ夜の物語 更新情報

眠れぬ夜の物語のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。