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眠れぬ夜の物語コミュの眠れぬヨルの子守唄

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【12月3日】

今日はとても寒いのに、雪ではなく雨が降った。
家に帰って着替えていたら、窓の外から声がする。誰かが呼んでいるような。
外に出てみたら、声の主はすぐにわかった。道路の脇の植え込みに、濡れてゆがんだダンボール。中に、ちいさな黒猫がいた。
子猫を抱き上げた瞬間、怒りが倍増した。なぜ、このこが捨てられたかが解ったからだ。
子猫の後ろ足は二本とも、普通の半分くらいの大きさしかなく、奇妙な方向にねじれていた。


【12月7日】

拾ったその足で、近所の獣医さんに診てもらった。先天的なもので、手術をしても歩けるようにはならないと。
だから今日、先生に頼んで、後ろ足の部分に車をつけた。ちいさな車輪がふたつ。台車の上に座っているような格好だ。
うちではペットは飼えない。ここにおいてあげて、保健所へは連れて行かないで、と必死で頼んだ。
特例だよ、と先生は言った。先生もたぶん、私と少しは同じ気持ちでいたんだろう。だってこのこは、今までずっと居場所なんてなかったのだ。


【12月24日】

だんだん車輪の使い方が上手になってきたみたい。前足を使って、よたよたと歩く。先生は「患者兼ペットとして」と、部屋をひとつあけてくれた。クリスマスプレゼントだ。
私からのプレゼントは、名前。
ヨル。
まっくろな体に、きいろい目。月のきれいな夜みたいだから、そう名づけた。


【1月12日】

年が明けて、はじめてヨルに会った。子猫って大きくなるのが早いなあ。最近はミルクだけでなく、牛乳で煮たおかゆも食べられるようになった。


【1月23日】

悲しいニュース。
先生の見立てでは、このこの持っている病気は、足だけに影響があるものではない。ヨルの命は、もって4ヶ月だろうと。
世の中にはほんものの不公平が存在するんだ。悔しさで涙が出た。ヨルのきいろい瞳は曇らずに、じっと私を見上げていた。


【2月9日】

今年はじめて雪が降った。暮れは雪が降らなかったから、ヨルは雪を見たのは初めてだ。開け放した出窓に乗せてやると、目をまんまるに見開いて、落ちてくる白いものを見つめる。ときどき、前足でちょっかいをだす。
出窓から見える位置に、「ヨルだるま」を作った。耳があるころのドラえもんみたいだと、先生が笑った。


【2月18日】

身長測定!2ヶ月前は15センチもなかったのが、倍近くになった、すごい!


【3月3日】

今日は私の誕生日。夜中に目がさめて、ああ、十代が終わっちゃったなあと思った。
そして思った。あのこは、一度でも誕生日を迎えられるだろうか。


【3月17日】

どうしよう、
ヨルが倒れた。
奥の部屋でいろんなチューブにつながれて、先生は会わせてくれない。


【3月22日】

目を覚ます可能性はもうないかもしれないと言われた。
そんなのいやだ。
いかないで、
目を開けて、お願い!
抑えようとしても、声を上げて泣いてしまう。神様なんていなくても、お月様、あのこを助けて!!


【3月31日】

奇跡だ!ヨルが目を覚ました!!
お月様ありがとう!!


【4月19日】

近所の公園にヨルを抱いて桜を見に行った。
月光の中の桜はすごくきれいで、雪に似ていた。けど、ヨルは前のようには手を出さず、桜の木をじっとみていた。
もうこの景色は見れないかもしれないと、思っていたんだろうか。


【5月5日】

ヨルは男の子だから、おもちゃのこいのぼりをプレゼント。
なのに、午後にはもうビリビリ。
おばかー!


【5月29日】

先生に、4ヶ月なんか過ぎちゃったよっていったら、外れたなあって嬉しそうに笑ってた。
誕生日を迎えられないのなら、一日一日を誕生日みたいに過ごせばいいんだ。生きて今日を迎えられたことを、お祝いすればいいんだ。


【6月3日】

また、ヨルの具合が悪い。今度は急じゃなく、だんだん。
怖い。すごく。
先生に頼んで、病院に泊めてもらった。ヨルの部屋に布団をしいて、一緒に寝た。
夜中、目が覚めたらヨルがいなかった。捜したら、どうやって登ったのか、出窓の上にいた。そこで、ヨルは歌っていた。
ちいさくちいさく、鼻を鳴らす。高く、低く、やさしく。まるで子守唄みたい。
歌う猫なんて、聞いたことないよ。ヨルの横顔を見ながら、そう思って小さく笑った。もっと聞いていたかったのに、心地が良くていつのまにか眠ってしまっていた。


【6月12日】

このごろはもう、目を開けている時間がとても少ない。
いよいよだといわれた。


【6月16日】〜【6月17日】

瞼が腫れて重い。
先生がチューブをはずして、中に入れてくれた。
ヨルってよんだら、耳がぴくっとうごいたけど、目は開かなかった。
頭をなでた。お腹をなでた。ちいさくねじれた足をなでた。
がんばったね。
がんばったね。
ヨルの名前を呼び続けた。声が枯れればヨルが目を覚ますなら、声帯ごとあげたって構わない。
どれくらいたった後か、先生がきて私の声を止めた。
ヨルは冷たくなっていた。

明日、動物火葬場に持っていくからと先生は言った。
わがままを言って、最後にヨルと寝かせてもらった。
どうしてか、涙は出ない。窓の外の夜空は曇りで、月は見えなかった。目を閉じるとどこからか、あの日ヨルが歌っていた声が聞こえるような気がした。





あのね、ヨル。
目を閉じても眠れないときは、どうすればいいか考えたの。
夜は、よくも悪くも人を正直にさせる。闇が無防備にさせるから。私は今までずっと、夜が怖かった。外の闇と、自分の中の闇と、向き合うのが怖かった。
でもね、
いま、この月夜が、あなただとすれば。
夜の闇は、あなたがくれたプレゼント。
自分の闇が、怖いことに変わりはない。けど、夜は決して敵じゃない。だってほら、夜空を見上げれば、きいろい優しい瞳が私を見守ってくれる。自分に正直になる時間を、ヨルがくれたんだ。

それでも淋しくて眠れない夜は、あなたの子守唄を思い出すね。


やさしい夜を、ありがとう。
愛してるよ、
ヨル。

コメント(9)

ヨルくんの子守歌が聞きたくなりました(´ω`)
どんなに寂しい夜でもヨルくんが一緒にいてくれるんですね★
あー…泣いてしまいました
私も、寂しくても怖くても
心を整理して乗り越えられるようになりたいな…
優しいトピをありがとうございますわーい(嬉しい顔)

とても感動しました涙

自分に正直になる時間…

それが夜なら、少しだけ夜に対する思いが楽になりました。
>ともさん
ありがとうございます。
思い出すばかりではきっと泣いてしまうから、そう思いたいだけなのかもしれないですが・・・

>ぼやさん
乗り越える、とは難しいですよね
心が整理できたら、その結果を受け容れることが大切なのかもしれないですね

>ヒカルさん
正直さは、よくも悪くもなのでやっぱり苦しいことも多いのですが、
夜自体は私もそんなに怖くはなくなりました。
ヒカルさんの心も楽にできたのなら、良かったです。

>グミさん
そうですね。
誕生日も迎えられずに一生を終えてしまった子だったけど、あのこは幸せだったと私たちが信じることが、あのこが一生懸命生きた証になると思います。

>ハッピーヒーラー猫さん
あれを歌だととるのは、私のロマンチズムかもしれませんね。
もしも私への子守唄だったのなら、ちゃんとありがとうが言いたかったな。。
夜は優しい


闇のなかで動きを増す姿なき生き物たち

ヨルは
そこにいる


短い命を
精いっぱい輝かせてあの子守歌を歌いながら


切なくて
綺麗なお話を
ありがとうぴかぴか(新しい)

>アロマの魔女さん
ありがとうございます。
切ないのも、きれいなのも、夜なのでしょうね。

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