温暖化で地球全体が熱くなってるそうだ。でも僕はそんなことなどお構いなし。
今年もよいよ夏を向かえ、我が家の20年物の霧が峰も、温風しか出なくなり買い換えることにした
以前、原子炉ライターを売っていたという骨董品店はすでに更地となり、半径100キロに及ぶ広大な空き地ができていた。
そこに10メートルをこす猫じゃらしや20メートルにも及ぶカラスムギやハコベ、蚊帳つり草が生い茂るジャングルとなり、それらを刈り取り、バイオエタノールを生成する工場やプラントが立ち並ぶ工業地帯となっていた。
そこには多くのエコロジーの研究所が無造作に立ち並んでいる
僕はその中にある一軒の家電販売店に入っていった。
そこには大安売り10％引き、
超大安売り20％引きとあり、
猛大安売り50引きコーナーがあって、その中に「ポータブル原子力エアコン」
というものがあったので、すかさず店員に聞いた。
「これ、なんですか？」
「はい、へやこんですね」
店員はそういった。ずいぶん訛りがひどいようだ
「エアコンじゃないの」
そういうと、店員はあわてて看板にマジックでエアコンと書き直していた
「店員さん大丈夫なの?」
「はり、ワラしはだいひょうぶれす」
全然大丈夫じゃない。
「あ、もういいから、店長いませんか？」
そういうと、店員はあわてておくに走って呼びに行ったようだった。
その後姿はどこかぎごちない
おいおい。
でも気になるのはその値段。
ポータブルなのに5千円？安いな。でも中古かもしれないし。
しばらくして奥からすごい生ごみの匂いがしてきた。
ん〜臭い。
たまらなく鼻をつまんだとき、奥から大男が現れた。
その姿は、まるでゲームにでてくるギガースそのものだった。
汗だくの体で、ネクタイを締めなおすと
「いらっしゃいませ。この商品お買い上げですか？」と聞いてきた
「いや未だ決まったわけではないんですが、原子力ってなんですか？」
「お客さん、原子力って言うのはメーカーの名前ですよ」
「聞いたこと無いなあ。でも、5千円って安くない?」
「そりゃもう、当社で製造し、直売していますので、その途中の輸送費も、卸も一切介していません」
「ふーん、そうなんだ、でも、ポータブルってそんなに冷えないでしょう?」
「お客さん、原子力ブランドを侮ってはいけませんよ。こんなに小さくとも、カロリーは莫大です」。
「へ〜そうなんだ。でも、本当に原子力ってメーカーなの？」
「疑い深いですね。横に正式名Atomic energy companyって書いてあるでしょ。これは共和国製の製品です」
「はあ、だから安いのか」(それにしても安すぎないか）
「どうされます」
男の悪臭は最大限となり、僕は吐き気を模様してきた。もうこれ以上はたまらないので買うことにした。
「わかったわかった、とにかくこれをもらうよ。その代わり、家にある霧が峰を引き取ってもらえない?」
「お客さん、うちは伊達にこの商品を大安売りしているわけじゃないんですよ。その分考慮してほしいものです。当店は引き取らないし、配達もしません。自分でお持ち帰りください」
おいおい、ずいぶんと高飛車な店だな。でも安いことは確かだ。
｢判った、持ち帰るよ」するとあの不気味な店員が出てきて梱包し始めた。
「さ〜〜〜〜ぶすけんがおむちでしゅか？」
何言ってるんだかさっぱり判らない
「どうでもいいから早くして」
「ぷあい、ぎょせんあんです」
店員にお金を渡すと僕は店を見渡した
確かここには行方知れずの骨董屋の親父がいて、被爆して死んだってはなしだったような。原子力、なんか引っかかるな
「はい、おまくどうさらです」
わけの判らぬ声に僕はむかついて返事を返さなかった
ん、しかし重いぞ、一体どうやって持って帰ればいいんだ
僕が四苦八苦している姿を、あの生ごみ臭い店長が見るに見かねて教えてくれた。「お客さん、その商品は横にキャスターが付いているでしょ、そのまま斜めにして引っ張ればいいんです。くれぐれも足をひかないように」。
僕は臭くってたまらないので手を振って挨拶しただけだった
行きに40分、帰りに2時間かかってようやく家にたどり着く
説明書は見たこともない外国の文字で埋め尽くされていて、その横には使用法に準じた絵の説明があった
それには、この機械はスターリング形爆縮ドライヴ仕様というもので、本体の上部にある突起を重さ20キロのハンマーで叩くことにより起動することがわかった。
パネルは共和国製なので細かいことは一切無い。ただよこに判りやすいように白熊の絵の位置とペンギンの位置と狐や熊の絵が書かれている場所に溝が切ってあって、無骨なレバーがこれ見よがしに突き出している
その姿はまるで冷房機には程遠い、縦型のストーブのようにも見える。
僕はとりあえず家のハンマーを使って突起を叩いてみた。しかし動く兆しが無い。というか、びくともしない
今度はボーリングの玉がテレビの上においてあったのでそれを思いっきり落としてみたが全く起動すり兆しも見えなかった。
そこで僕はもう一度説明書を読んだ。そこに書かれていた絵には、どうやらプレヒートが必要らしい。その温度は摂氏450度
中にはいっている金属ナトリウムを溶かさないといけないらしい。僕は頭にきた。何だよこれ。普通じゃ動かないじゃないか。あの親父。へんなものを売りつけて。
僕はあの原子炉直営店に電話した
するとあの大男が出てきてこれから向かうという。
僕は黒光りするその冷房装置が早く動いてほしかった。もう既に汗だくである。
全くあの国は何考えてるんだ。原たち紛れにテキストを読んでいくうちに背筋が凍ってきた
ナトリウムとかスターリングとかかかれているけど、そこには一枚の写真があり某有名な将軍様の絵が掲げられていたのだ。
（これ、もしかして原爆だったり・・・この突起が雷管?）
僕はへんな想像をしてしまった。そうしたら怖くて怖くてたまらなかった。どどど、どうしよう・
ソウコウしている間にあのお店のマークを掲げた車がやってきた。
あの大男が出てくると、深々とお辞儀をし、「先程お買い上げの方ですね」
とアクセントの無い平たな言葉使いで話してきた
「そうなんです。これ、使えないのでお返しします」
「何をいまさら、そんなことできませんよ。だってこの商品は不良品じゃないからね。動いたらきっと満足しますよ」
「そそ、そうなんですか。でも。うごかないよ」
「あ〜コリャいけねえな。だめだよこんなんじゃもっと腰据えて。でも、本当に起動させていいんですね。責任はあなたですよ」。「僕は爆発さえしなければかまいません。でも、 返品は無理？」「それはさっきもいったでしょ、それじゃ始めますよ」男はそういい終わると地面に穴を掘り始めた。「何を始めるんです?」
「ああ、これからプレヒートの準備です。危ないからちょっとどいて」
男はそういい、スイッチを熊や狐にあわせると、深々と掘った穴のそこに冷房機を固定した。その回りにはマグネシュウムとアルミニウムの粉をなみなみと入れた。
「危ないからマスクして」店長は私にマスクを渡すとその上に新聞紙と薪を載せてマッチで着火した。その姿はまるで焚き火の要領である。
「ライターありますよ」そう言うと「これは儀式なので。将軍様もこうしてやっていました」ときっぱり断られた僕は何がなんだかわからずにただ言われたとおりにしていた。其の時だった。弱弱しい新聞に燃える火が突然閃光を放って大燃焼し始めた。「あつい！たかがエアコンじゃないんですか？何でここまで」
「あなた達は自分が先進国だというつまらない自負がある。文明の標準はあくまで自分達だとでも？先進の発明は私達にもあるんですよ。まあ黙ってみていてください」
火柱は上空100メートルにも及んだ。あの重さはこの火の勢いに耐えるためだったんだろう。それから5分位して男は軽トラックの中から重さ20キロの巨大ハンマーを持ち出してきた。「それ、どうするんですか？」「んあ、これね、ここにある突起を叩く」
すごすぎる。先進国か発展途上国なのか全くわからない。
四の五の言ってるうちに男はそのハンマーを力の限り振りかざしたのだった。
バコーン！と、ものすごい音の後、機械は作動しはじめた。
ピストンが子気味よく動いている。カタカタカタカタ・・・
周囲の火はすでに消えていて僕はホット胸をなでおろした。
「お客さん、この機械はこうして地面の中に埋めておきます。一週間くらいするとこのあたりの温度は20度くらいに下ります」。
「え、この地域？そんなに冷えるんですか?」
「はい、あのスライドスイッチを真ん中にしてあります。くれぐれも白熊やペンギンにはしないでくださいね。将軍様もそこでのテストは成されていません。あと、この機械を提供してくれたのは日本人のアントニオ何とかさんだって聞いたことがあります。いや〜日本はすごい国だ。私は日本大好きです。これからこの売り上げでお酒とケーキかって本国に帰ります。今度来るときはもっとすごいもの作ってくるよ」
「ぁ、なんだかわからないけど、助かりました」
「あと、早々、言い忘れたことがある。この機械。スイッチ無いから、壊れるまでとまらないよ。将軍様は無限ドライヴにお強いかたでいらっしゃる。ざっと10年は動くよ。よかったな。それでは」
「ああ、ちょっと待ってよ、電気屋さん」電気屋は眼もくれず一目散に立ち去っていった。
ん、なんか電気屋にすっかり振り回されてしまった。
僕はしぶしぶ家に帰ってぶっ壊れた霧が峰にスイッチを入れた
しかし暑い一日だった。
あれから約束の一週間が過ぎた。
この機械はもしかしたらすごいかもしれない。僕はこの機械のすごさに思い知らされた。
本当に止まらないし、僕のうちを中心に5キロ圏内はゆうに5度はさがった。
しかし、10年止まらないとさすがに世間の目もあるので、この機械を地中深く埋めることにした
すでに地面は凍ってしまって別に穴を掘ることにした
ある日、このあたりの温度が下っていることを近所の子供嗅ぎ付けてきたようだった。
僕のうちから半径5キロを過ぎると地球温暖化の影響ですでに40度をこしていたからだった。
それにあの規則正しい音が地面から聞こえることに子供は不思議がっていた。
子供の探究心は大人には到底手に負えない。
とうとう発見されてしまい、子供達はスライドスイッチを白熊からペンギンにずらしてしまったのだ。
その瞬間、熱交換のピストンの速度は一気に跳ね上がり、中心部が赤く光りだしたらしい。
その光は内部にたまった熱の光だったんだろう。
しかし内部のナトリウムの粘度が下ると、その問題も解消したようだ。
僕が子供に呼ばれてきたのは、すでに相当時間がたった後だった。僕はその話を聞いて急いだ。
庭は霜柱が一気に成長し、家を捻じ曲げていた。植木も庭の銀杏の木も立裂きに割れて原型をとどめていなかった。
お友達がすでに凍り付いている。
僕はあわててスライドスイッチに手を。
その瞬間、指の皮が凍り付いて引きちぎれてしまった。
「まずい、大変なことになる」
僕はあの電気屋に電話したが、
すでに店はたたまれていて来年の春まで店主は国から帰ってこないという。
僕は手袋を取り出すと、何とか凍りついたお友達を外に運び出すことができた。
その段階で僕の家は真夏のたっぷり含んだ水蒸気をこの機械が凍らせてるために、
ダイヤモンドダストで今にも埋まりそうだった。
その勢いは周囲の家にまで及び、このままではまずいと思った僕は警察に連絡した。
しばらくすると、特殊装甲車とクレーン、それに発泡スチロールをつめこっむだけ詰め込んだ特殊運搬車と、自衛隊の爆破処理班、さらに数十機のヘリコプターと放送局の車がやってきた。
放送席には、日ごろ、将軍様のことを批判する共和国専門のコメンテーターと、技術提供したアントニオなにがしが放送席に座って熱心にトークしている。
僕は其の時、機械を買った経緯と、なぜこのようなことになったのか、延々と事情聴取されていた。
事情聴取最中、カウンターの横の処にあったテレビでアントニオ何がしのしていた話が聞こえた
「いや。僕は彼らにマグネットで動く無限動力の話は持ちかけたけど、こんな装置の設計があったとはきいていないな。無限である以上、止まらないでしょう。がっはっは」。おいおい、勘弁してくれよ。結局、放送局なんて、ただの野次馬でしかない。あの連中が来ても、こじれるばかりで決まるものなど無い。
その後も防寒服を着た自衛隊員はどんどん凍傷で運び出されている始末。しかも、立ち入り禁止区域および避難勧告のエリアがどんどん広まってゆく。
僕はポータブルなんて大丈夫なの？といったあの言葉を、今になって後悔した。
(将軍様。お助けを〜)
それから10日後、立ち入り禁止区域はとうとうあの巨大化した牧草地一体を飲み込んでしまった。
自衛隊のすべてのメカは、凍結し走行不能となり、関東一円に世界中から発泡スチロールの板や防熱材の援助が届いた。ある学者は、東京の地下にある富士火山帯のマグマをここまで導けないものかと真剣に議論し始めた。
国会は非常事態宣言を発令し、国民はとりあえず地方に疎開することになった。疎開先で都会の小学生が地元の子供に散々虐められて、多くの子供が自殺してゆく。僕の所にはマスコミが殺到し、「あんた、一体子供達の幸せをどうしてくれるんだ」と詰め寄られる始末。悪いのは僕じゃない。あの電気屋がやった事だ。なのに、何で僕のせいになるの？
事故と呼べるのだろうか。
あの機械が動き出して一年三ヶ月。とうとう首都圏の機能はすべて停止し、今は未だ温暖化の影響のある福島の阿武隈山中に国会と都市機能は全て遷都した。
つぎ込まれた国家予算は1200兆円。国は世界銀行に借金をし、その付けを僕に回してきた。もう間違いなく焦げ付く不良債権だ。
静岡の掛川当たりでは、アイスホッケーで市民が楽しんでいるというニュースを僕は刑務所の中で聞いていた
あれから5年。
とうとう日本は全島凍土と化してしまった。
僕は今小笠原の父島に収容されている。
凍結はとうとう日本海に及び、共和国と、わが国に反感を抱く同盟国との一触即発の状態が続く。翌年、日本人のオーストラリア移民が終了する。
父島の刑務所に家族からカンガルーと撮った写真が送られてきた。みんな楽しそうだった。そのころ、日本を中心とした、大気に異常があることが観測された。低気圧の勢力範囲が、今までシベリアで発達していたのが、徐々にカムチャッカの方に移りつつあるという。偏西風の流れも変わり、ヨーロッパはサバンナのように暑い土地となってしまった。
氷床は、この地域を中心として発達し、ベーリング海と、北太平洋、オホーツク海は氷結し、海洋深層水の方向もすっかり変わってしまった。カリフォルニアのオレンジももう取れなくなってしまった。
そのころ、日本海では同盟国と共和国がわが国と交戦状態になっていた。事の発端は日本が人道支援しなかったために、夜中に夜襲をかけられて、食料品のすべてを奪われてしまったということだそうだ。僕は父島にいてよかったと思うが、最近、山のてっぺんが少し白みかけているようだ
あの機械が始動してそろそろ7年。僕はグアムに移送されていた。家族は、弟達は結婚し、地元で幸せに暮らしているという。すでに英語は父も母もぺらぺらだという。
この日事件が起こる
たった7年しかたっていないのに寒冷前線がこのグアムにまでやって来たのだ。ここは赤道直下。そのエネルギーはすさまじく、やしの木を根こそぎ奪い取ってゆく台風311号メデューサ発生。
中心気圧840ｈｐ、最大風速計測不能。ああもうだめだ。僕は助からないかもしれない。台風の北側はその威力によって一気に寒冷前線を引き下げてしまった。もちろん、海洋温度の低下をもたらし、北半球の偏西風もその足並みを崩されてしまった。
また、台風312号がすでに付近まで近づいており、同時に5個の巨大台風が同時発生し、史上最悪の状態が太平洋を襲っている。
アメリカの原潜が避難するようむかえにきた。何とか助かったかもしれない
世界情勢はその後10年で大きく変わってしまった。
地球は日本を中心として全世界の80％が凍ってしまった。
僕の所に来た回収不能の借金もいつの間にか忘れられてしまった。
世界人口はその後100分の1となり、
あれだけ騒がれていた地球温暖化の話もどこかに消えてしまった。
いつの間にか僕は悪魔から神に祭り上げられ、
死ぬまでこの災難で命を奪われた人たちに祈りをささげるだろう。
寿命が10年といわれたあの機械は最近になって止まったことが確認された。それは機械が故障したのではなく熱交換が終了したからだった。
分解した科学者が驚いていたのは、その中身の精巧さで、とても地球の技術では作ることができないということだった。その情報は僕にだけ、アメリカの国防省からそっと教えられた。
あの骨董屋の跡地に立っていた電気屋の店員はやはり。
そう、地球の温暖化の深刻さを我々人類が解決できないことを知った宇宙人の仕業だったのだ。
僕は国防省に連絡し、動かなくなったポータブル原子力エアコンと、あの霧が峰を見つけ出し、地球教総本部の祭壇に祭ることにした。
この機械が人類を救ったのだ。
おしまい
今年もよいよ夏を向かえ、我が家の20年物の霧が峰も、温風しか出なくなり買い換えることにした
以前、原子炉ライターを売っていたという骨董品店はすでに更地となり、半径100キロに及ぶ広大な空き地ができていた。
そこに10メートルをこす猫じゃらしや20メートルにも及ぶカラスムギやハコベ、蚊帳つり草が生い茂るジャングルとなり、それらを刈り取り、バイオエタノールを生成する工場やプラントが立ち並ぶ工業地帯となっていた。
そこには多くのエコロジーの研究所が無造作に立ち並んでいる
僕はその中にある一軒の家電販売店に入っていった。
そこには大安売り10％引き、
超大安売り20％引きとあり、
猛大安売り50引きコーナーがあって、その中に「ポータブル原子力エアコン」
というものがあったので、すかさず店員に聞いた。
「これ、なんですか？」
「はい、へやこんですね」
店員はそういった。ずいぶん訛りがひどいようだ
「エアコンじゃないの」
そういうと、店員はあわてて看板にマジックでエアコンと書き直していた
「店員さん大丈夫なの?」
「はり、ワラしはだいひょうぶれす」
全然大丈夫じゃない。
「あ、もういいから、店長いませんか？」
そういうと、店員はあわてておくに走って呼びに行ったようだった。
その後姿はどこかぎごちない
おいおい。
でも気になるのはその値段。
ポータブルなのに5千円？安いな。でも中古かもしれないし。
しばらくして奥からすごい生ごみの匂いがしてきた。
ん〜臭い。
たまらなく鼻をつまんだとき、奥から大男が現れた。
その姿は、まるでゲームにでてくるギガースそのものだった。
汗だくの体で、ネクタイを締めなおすと
「いらっしゃいませ。この商品お買い上げですか？」と聞いてきた
「いや未だ決まったわけではないんですが、原子力ってなんですか？」
「お客さん、原子力って言うのはメーカーの名前ですよ」
「聞いたこと無いなあ。でも、5千円って安くない?」
「そりゃもう、当社で製造し、直売していますので、その途中の輸送費も、卸も一切介していません」
「ふーん、そうなんだ、でも、ポータブルってそんなに冷えないでしょう?」
「お客さん、原子力ブランドを侮ってはいけませんよ。こんなに小さくとも、カロリーは莫大です」。
「へ〜そうなんだ。でも、本当に原子力ってメーカーなの？」
「疑い深いですね。横に正式名Atomic energy companyって書いてあるでしょ。これは共和国製の製品です」
「はあ、だから安いのか」(それにしても安すぎないか）
「どうされます」
男の悪臭は最大限となり、僕は吐き気を模様してきた。もうこれ以上はたまらないので買うことにした。
「わかったわかった、とにかくこれをもらうよ。その代わり、家にある霧が峰を引き取ってもらえない?」
「お客さん、うちは伊達にこの商品を大安売りしているわけじゃないんですよ。その分考慮してほしいものです。当店は引き取らないし、配達もしません。自分でお持ち帰りください」
おいおい、ずいぶんと高飛車な店だな。でも安いことは確かだ。
｢判った、持ち帰るよ」するとあの不気味な店員が出てきて梱包し始めた。
「さ〜〜〜〜ぶすけんがおむちでしゅか？」
何言ってるんだかさっぱり判らない
「どうでもいいから早くして」
「ぷあい、ぎょせんあんです」
店員にお金を渡すと僕は店を見渡した
確かここには行方知れずの骨董屋の親父がいて、被爆して死んだってはなしだったような。原子力、なんか引っかかるな
「はい、おまくどうさらです」
わけの判らぬ声に僕はむかついて返事を返さなかった
ん、しかし重いぞ、一体どうやって持って帰ればいいんだ
僕が四苦八苦している姿を、あの生ごみ臭い店長が見るに見かねて教えてくれた。「お客さん、その商品は横にキャスターが付いているでしょ、そのまま斜めにして引っ張ればいいんです。くれぐれも足をひかないように」。
僕は臭くってたまらないので手を振って挨拶しただけだった
行きに40分、帰りに2時間かかってようやく家にたどり着く
説明書は見たこともない外国の文字で埋め尽くされていて、その横には使用法に準じた絵の説明があった
それには、この機械はスターリング形爆縮ドライヴ仕様というもので、本体の上部にある突起を重さ20キロのハンマーで叩くことにより起動することがわかった。
パネルは共和国製なので細かいことは一切無い。ただよこに判りやすいように白熊の絵の位置とペンギンの位置と狐や熊の絵が書かれている場所に溝が切ってあって、無骨なレバーがこれ見よがしに突き出している
その姿はまるで冷房機には程遠い、縦型のストーブのようにも見える。
僕はとりあえず家のハンマーを使って突起を叩いてみた。しかし動く兆しが無い。というか、びくともしない
今度はボーリングの玉がテレビの上においてあったのでそれを思いっきり落としてみたが全く起動すり兆しも見えなかった。
そこで僕はもう一度説明書を読んだ。そこに書かれていた絵には、どうやらプレヒートが必要らしい。その温度は摂氏450度
中にはいっている金属ナトリウムを溶かさないといけないらしい。僕は頭にきた。何だよこれ。普通じゃ動かないじゃないか。あの親父。へんなものを売りつけて。
僕はあの原子炉直営店に電話した
するとあの大男が出てきてこれから向かうという。
僕は黒光りするその冷房装置が早く動いてほしかった。もう既に汗だくである。
全くあの国は何考えてるんだ。原たち紛れにテキストを読んでいくうちに背筋が凍ってきた
ナトリウムとかスターリングとかかかれているけど、そこには一枚の写真があり某有名な将軍様の絵が掲げられていたのだ。
（これ、もしかして原爆だったり・・・この突起が雷管?）
僕はへんな想像をしてしまった。そうしたら怖くて怖くてたまらなかった。どどど、どうしよう・
ソウコウしている間にあのお店のマークを掲げた車がやってきた。
あの大男が出てくると、深々とお辞儀をし、「先程お買い上げの方ですね」
とアクセントの無い平たな言葉使いで話してきた
「そうなんです。これ、使えないのでお返しします」
「何をいまさら、そんなことできませんよ。だってこの商品は不良品じゃないからね。動いたらきっと満足しますよ」
「そそ、そうなんですか。でも。うごかないよ」
「あ〜コリャいけねえな。だめだよこんなんじゃもっと腰据えて。でも、本当に起動させていいんですね。責任はあなたですよ」。「僕は爆発さえしなければかまいません。でも、 返品は無理？」「それはさっきもいったでしょ、それじゃ始めますよ」男はそういい終わると地面に穴を掘り始めた。「何を始めるんです?」
「ああ、これからプレヒートの準備です。危ないからちょっとどいて」
男はそういい、スイッチを熊や狐にあわせると、深々と掘った穴のそこに冷房機を固定した。その回りにはマグネシュウムとアルミニウムの粉をなみなみと入れた。
「危ないからマスクして」店長は私にマスクを渡すとその上に新聞紙と薪を載せてマッチで着火した。その姿はまるで焚き火の要領である。
「ライターありますよ」そう言うと「これは儀式なので。将軍様もこうしてやっていました」ときっぱり断られた僕は何がなんだかわからずにただ言われたとおりにしていた。其の時だった。弱弱しい新聞に燃える火が突然閃光を放って大燃焼し始めた。「あつい！たかがエアコンじゃないんですか？何でここまで」
「あなた達は自分が先進国だというつまらない自負がある。文明の標準はあくまで自分達だとでも？先進の発明は私達にもあるんですよ。まあ黙ってみていてください」
火柱は上空100メートルにも及んだ。あの重さはこの火の勢いに耐えるためだったんだろう。それから5分位して男は軽トラックの中から重さ20キロの巨大ハンマーを持ち出してきた。「それ、どうするんですか？」「んあ、これね、ここにある突起を叩く」
すごすぎる。先進国か発展途上国なのか全くわからない。
四の五の言ってるうちに男はそのハンマーを力の限り振りかざしたのだった。
バコーン！と、ものすごい音の後、機械は作動しはじめた。
ピストンが子気味よく動いている。カタカタカタカタ・・・
周囲の火はすでに消えていて僕はホット胸をなでおろした。
「お客さん、この機械はこうして地面の中に埋めておきます。一週間くらいするとこのあたりの温度は20度くらいに下ります」。
「え、この地域？そんなに冷えるんですか?」
「はい、あのスライドスイッチを真ん中にしてあります。くれぐれも白熊やペンギンにはしないでくださいね。将軍様もそこでのテストは成されていません。あと、この機械を提供してくれたのは日本人のアントニオ何とかさんだって聞いたことがあります。いや〜日本はすごい国だ。私は日本大好きです。これからこの売り上げでお酒とケーキかって本国に帰ります。今度来るときはもっとすごいもの作ってくるよ」
「ぁ、なんだかわからないけど、助かりました」
「あと、早々、言い忘れたことがある。この機械。スイッチ無いから、壊れるまでとまらないよ。将軍様は無限ドライヴにお強いかたでいらっしゃる。ざっと10年は動くよ。よかったな。それでは」
「ああ、ちょっと待ってよ、電気屋さん」電気屋は眼もくれず一目散に立ち去っていった。
ん、なんか電気屋にすっかり振り回されてしまった。
僕はしぶしぶ家に帰ってぶっ壊れた霧が峰にスイッチを入れた
しかし暑い一日だった。
あれから約束の一週間が過ぎた。
この機械はもしかしたらすごいかもしれない。僕はこの機械のすごさに思い知らされた。
本当に止まらないし、僕のうちを中心に5キロ圏内はゆうに5度はさがった。
しかし、10年止まらないとさすがに世間の目もあるので、この機械を地中深く埋めることにした
すでに地面は凍ってしまって別に穴を掘ることにした
ある日、このあたりの温度が下っていることを近所の子供嗅ぎ付けてきたようだった。
僕のうちから半径5キロを過ぎると地球温暖化の影響ですでに40度をこしていたからだった。
それにあの規則正しい音が地面から聞こえることに子供は不思議がっていた。
子供の探究心は大人には到底手に負えない。
とうとう発見されてしまい、子供達はスライドスイッチを白熊からペンギンにずらしてしまったのだ。
その瞬間、熱交換のピストンの速度は一気に跳ね上がり、中心部が赤く光りだしたらしい。
その光は内部にたまった熱の光だったんだろう。
しかし内部のナトリウムの粘度が下ると、その問題も解消したようだ。
僕が子供に呼ばれてきたのは、すでに相当時間がたった後だった。僕はその話を聞いて急いだ。
庭は霜柱が一気に成長し、家を捻じ曲げていた。植木も庭の銀杏の木も立裂きに割れて原型をとどめていなかった。
お友達がすでに凍り付いている。
僕はあわててスライドスイッチに手を。
その瞬間、指の皮が凍り付いて引きちぎれてしまった。
「まずい、大変なことになる」
僕はあの電気屋に電話したが、
すでに店はたたまれていて来年の春まで店主は国から帰ってこないという。
僕は手袋を取り出すと、何とか凍りついたお友達を外に運び出すことができた。
その段階で僕の家は真夏のたっぷり含んだ水蒸気をこの機械が凍らせてるために、
ダイヤモンドダストで今にも埋まりそうだった。
その勢いは周囲の家にまで及び、このままではまずいと思った僕は警察に連絡した。
しばらくすると、特殊装甲車とクレーン、それに発泡スチロールをつめこっむだけ詰め込んだ特殊運搬車と、自衛隊の爆破処理班、さらに数十機のヘリコプターと放送局の車がやってきた。
放送席には、日ごろ、将軍様のことを批判する共和国専門のコメンテーターと、技術提供したアントニオなにがしが放送席に座って熱心にトークしている。
僕は其の時、機械を買った経緯と、なぜこのようなことになったのか、延々と事情聴取されていた。
事情聴取最中、カウンターの横の処にあったテレビでアントニオ何がしのしていた話が聞こえた
「いや。僕は彼らにマグネットで動く無限動力の話は持ちかけたけど、こんな装置の設計があったとはきいていないな。無限である以上、止まらないでしょう。がっはっは」。おいおい、勘弁してくれよ。結局、放送局なんて、ただの野次馬でしかない。あの連中が来ても、こじれるばかりで決まるものなど無い。
その後も防寒服を着た自衛隊員はどんどん凍傷で運び出されている始末。しかも、立ち入り禁止区域および避難勧告のエリアがどんどん広まってゆく。
僕はポータブルなんて大丈夫なの？といったあの言葉を、今になって後悔した。
(将軍様。お助けを〜)
それから10日後、立ち入り禁止区域はとうとうあの巨大化した牧草地一体を飲み込んでしまった。
自衛隊のすべてのメカは、凍結し走行不能となり、関東一円に世界中から発泡スチロールの板や防熱材の援助が届いた。ある学者は、東京の地下にある富士火山帯のマグマをここまで導けないものかと真剣に議論し始めた。
国会は非常事態宣言を発令し、国民はとりあえず地方に疎開することになった。疎開先で都会の小学生が地元の子供に散々虐められて、多くの子供が自殺してゆく。僕の所にはマスコミが殺到し、「あんた、一体子供達の幸せをどうしてくれるんだ」と詰め寄られる始末。悪いのは僕じゃない。あの電気屋がやった事だ。なのに、何で僕のせいになるの？
事故と呼べるのだろうか。
あの機械が動き出して一年三ヶ月。とうとう首都圏の機能はすべて停止し、今は未だ温暖化の影響のある福島の阿武隈山中に国会と都市機能は全て遷都した。
つぎ込まれた国家予算は1200兆円。国は世界銀行に借金をし、その付けを僕に回してきた。もう間違いなく焦げ付く不良債権だ。
静岡の掛川当たりでは、アイスホッケーで市民が楽しんでいるというニュースを僕は刑務所の中で聞いていた
あれから5年。
とうとう日本は全島凍土と化してしまった。
僕は今小笠原の父島に収容されている。
凍結はとうとう日本海に及び、共和国と、わが国に反感を抱く同盟国との一触即発の状態が続く。翌年、日本人のオーストラリア移民が終了する。
父島の刑務所に家族からカンガルーと撮った写真が送られてきた。みんな楽しそうだった。そのころ、日本を中心とした、大気に異常があることが観測された。低気圧の勢力範囲が、今までシベリアで発達していたのが、徐々にカムチャッカの方に移りつつあるという。偏西風の流れも変わり、ヨーロッパはサバンナのように暑い土地となってしまった。
氷床は、この地域を中心として発達し、ベーリング海と、北太平洋、オホーツク海は氷結し、海洋深層水の方向もすっかり変わってしまった。カリフォルニアのオレンジももう取れなくなってしまった。
そのころ、日本海では同盟国と共和国がわが国と交戦状態になっていた。事の発端は日本が人道支援しなかったために、夜中に夜襲をかけられて、食料品のすべてを奪われてしまったということだそうだ。僕は父島にいてよかったと思うが、最近、山のてっぺんが少し白みかけているようだ
あの機械が始動してそろそろ7年。僕はグアムに移送されていた。家族は、弟達は結婚し、地元で幸せに暮らしているという。すでに英語は父も母もぺらぺらだという。
この日事件が起こる
たった7年しかたっていないのに寒冷前線がこのグアムにまでやって来たのだ。ここは赤道直下。そのエネルギーはすさまじく、やしの木を根こそぎ奪い取ってゆく台風311号メデューサ発生。
中心気圧840ｈｐ、最大風速計測不能。ああもうだめだ。僕は助からないかもしれない。台風の北側はその威力によって一気に寒冷前線を引き下げてしまった。もちろん、海洋温度の低下をもたらし、北半球の偏西風もその足並みを崩されてしまった。
また、台風312号がすでに付近まで近づいており、同時に5個の巨大台風が同時発生し、史上最悪の状態が太平洋を襲っている。
アメリカの原潜が避難するようむかえにきた。何とか助かったかもしれない
世界情勢はその後10年で大きく変わってしまった。
地球は日本を中心として全世界の80％が凍ってしまった。
僕の所に来た回収不能の借金もいつの間にか忘れられてしまった。
世界人口はその後100分の1となり、
あれだけ騒がれていた地球温暖化の話もどこかに消えてしまった。
いつの間にか僕は悪魔から神に祭り上げられ、
死ぬまでこの災難で命を奪われた人たちに祈りをささげるだろう。
寿命が10年といわれたあの機械は最近になって止まったことが確認された。それは機械が故障したのではなく熱交換が終了したからだった。
分解した科学者が驚いていたのは、その中身の精巧さで、とても地球の技術では作ることができないということだった。その情報は僕にだけ、アメリカの国防省からそっと教えられた。
あの骨董屋の跡地に立っていた電気屋の店員はやはり。
そう、地球の温暖化の深刻さを我々人類が解決できないことを知った宇宙人の仕業だったのだ。
僕は国防省に連絡し、動かなくなったポータブル原子力エアコンと、あの霧が峰を見つけ出し、地球教総本部の祭壇に祭ることにした。
この機械が人類を救ったのだ。
おしまい
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