ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

眠れぬ夜の物語コミュの睡眠療法士の相馬さん

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「白石、お前いい加減にしろ!」
フロアに怒声が鳴り響いた。
「一体何度、俺はお前に言ったらいいんだ? 社内会議だったらまだいい。
ソトの人間と会ってる時にやらんでもいいだろうが!
全くお前にはキンチョウカンってものがないのか!」
川北次郎はこめかみに青筋を立てながら怒声を上げ、テーブルに拳を叩きつけた。
ドシン、という重い音がフロアを揺るがし、
ふたりの様子を覗いていた周囲の人々がそそくさと目をそらす。
「はぁ。」
「はぁ、じゃないだろ! もう俺がこうしてお前を叱るのは何度目だ?
いい加減数えるのも面倒になってきた」
白石公孝、29歳。
彼には、ある悩みがあった。
「ったく、出先でも会社でもデスクでも所構わず寝おってからに!」
……驚異的な頻度での居眠り。それが彼の悩みだった。
「いいか、大体においてお前は自己管理がなっとらんのだ。第一なんだそのヒゲは!
っておい、寝るな! 白石!!」

彼がこの「居眠り体質」に気が付いたのは、幼稚園のお遊戯会の出し物で
「赤頭巾」を演じた時のことだ。当時から身長が高かった公孝は、
同劇の花形である「狼」の役を任されていた。物語の佳境で、おばあちゃんを
丸呑みにした狼が赤頭巾ちゃんと対面した際に、彼は全力で眠ってしまったのだ。
呼んでも叩いても起きない狼。当惑する赤頭巾。なんともシュールな場面が展開され、
最終的には眠りっぱなしの狼のおなかから猟師によって
おばあちゃんが救出されるという、締まらない結末に。
この頃はまだ「子どもだから」で許されてきたのだが、
次第に事態は予断を許さなくなっていった。

高校受験の試験中、運転免許の講習中、婚約者の両親との面談中。
眠気は所構わずやってきて、彼から幸運を奪い去っていった。
昼はどんな場面であろうと眠ってしまうのに、逆に夜は不眠状態に悩まされた。
彼はこの不眠の時間に常人が昼やるであろう作業をこなすことで、
日常になんとか適応してきた。
夜間に人一倍勉強をこなしたことで学業成績は高水準を保ち、
彼の症状に理解のあった教師の推薦を受け、
面接と小論文の試験で大学入試をパスし、夢でもあった美大に入学した。
自分が好きな美術やデザインの世界に進めば、
就職後に唐突な入眠が甚大な被害をもたらす
「営業」や「会議」に出なくて済むし、作品で自分の力量を把握してもらえる。
そう考えたからだ。

美術史や一般教養など制作が関わらない机上の講義は、
成績の採点を試験ではなくレポート提出で行うものを選び、
講義をフルでテープレコーダーに録音することで対応した。
卒業後、思惑通り大手のweb会社にデザイナーとして入社した公孝。
「居眠りの多い不良社員」として叱責を受けることは多々あったものの、
担当したデザインの質は高く、安定した評価を得て正に順風満帆であった。
……昇進するまでは。

異例の抜擢で、29歳の若さで「デザイン統括部長」になって以降、
公孝はクライアントとの打ち合わせに出席しなければならなくなってしまった。
そうなると、これまでは仕事の質で許されてきた「居眠り」が
大きなネックとなってしまった。自ら降格人事を願い出たこともあったのだが、
会社は彼の抜擢を「webデザインに新風を吹き込む」と大々的に
喧伝してしまっていたため、退路は既に絶たれていた。

職を辞することも考えたが、今の会社が「大手」であるため、
他社が受け入れてくれないことは用意に想像できたし、
独立したところで自分でクライアントとの折衝をこなすことなどできようはずもない。
公孝を取り巻く状況は、正に八方塞がりだった。

河北専務取締役の前を辞し、自分のデスクに戻った公孝。
PCのモニターに貼られた付箋に書かれた、
自分を奮い立たせる為の「ネムルナキケン」の文字が空しい。
「部長」
気が付くと、背後に部下の沢井恵が立っていた。
「またやっちまった、クライアントの前で大いびきだ」
「……そうですか」
恵は公孝の婚約者でもある。心配して声をかけてくれたのは解る。
……それが解るからこそ、公孝は恵の目を見ることができなかった。
「今日は仕事を続ける気になれないや。悪いけど、先にあがる」
ミーティングのおかげで今日のコアタイムはとうに過ぎている。
フレックスタイム制でよかったと、公孝は安堵する
「……あ、あの」
「また後で連絡する」
そう言い残すと、公孝は鞄も持たずに席を立った。

電車に乗った所までは覚えていたが、また眠ってしまったようだ。
気が付くと、電車は終点の中野で停車していた。
「またかよ」
自嘲的に笑うと、公孝は車外に出た。
すぐに取って返してもよかったのだが、仕事を早く切り上げたために
時間はたっぷりとあった。

今日のミーティングのデザインに取り掛かるのは、
もっと夜が更けてからでも遅くはない。
なんせ、彼にとっての「夜」はひたすら長いのだから。
公孝はなにげなく、中野の町を散策してみることにした。
町は夕暮れに染まりつつある。サンプラザ前の広場に腰掛けて、
夕焼け空を眺めていると、なぜか居眠りの記憶ばかりが浮かんでくる。
高校生の頃、部活の合宿で行った葉山の海でランニング中に居眠りして倒れ、
憧れていた先輩に介抱してもらったこと。
卒業課題の油絵の制作中に眠りこけて、カンバスに右手の跡を残してしまったこと。
この手の形の陥没が作品に微妙な味わいを与え、作品の評価を高めてくれたっけ。
「意外と悪い記憶ばっかでもないもんだな」
ひとりごちて、その後で苦笑する。その数百倍はある「イヤな思い出」を
すぐに思い出したからだ。

「……なんでこんな体質に生まれちまったんだろう」
言っても仕方がないことはわかっている、だが、言わずにはいられなかった。
茜色の空の向こうで、カラスが鳴いているのが聞こえる。
「カラスが鳴くからかーえろ、ってか」
公孝がすっかり重くなった腰を上げたその時、目の前のビルに掲げられた
緑色の看板が目に入った。
『睡眠療法・あなたの悩み解決します!』
そして、その下にはこんな文字。
『キャンペーン中:相談無料』
……無料だったら、ダメ元で行ってみるか。
公孝は、なんだか運命じみたものを感じながら、そのビルに向けて歩き始めた。


「はい、白石さんこんにちはー!」
「は、はぁ。」
奥の部屋から出てきた自分より一回りは小さい女性は、
なにが嬉しいのか満面の笑みを浮かべながら、
教育テレビのうたのおねえさんのような調子で挨拶してきた。
肩までの長さに切り揃えられた髪、赤いフレームの眼鏡の奥では
好奇心旺盛そうな大きな瞳がクリクリと動いている。
白衣の胸元にある「相馬」という名札がなければ、助手か研修生にしか見えない。
無料キャンペーンを打つ位だから想像は出来ていたのだが、
この『相馬睡眠療法所』は相当お客に困っているようだった。
他の患者の姿はなく、入るなり即奥の部屋に通され、
この元気な女性と対面することになった。
……公孝は既に後悔し始めていた。

「それでは白石さん、今日はどんなお悩みですか?」
クリップボードに置いたカルテにスラスラと記入しながら、
相馬は先ほどと同じ無邪気なトーンで公孝に話し掛けてくる。
「睡眠に障害というか、問題がありまして……」
「なるほど。不眠ですか? それとも居眠りですか?」
居眠り、という言葉がすぐに出てくるとは思っていなかったため、公孝は面食らった。
「は、はい。居眠りが多くて、しかも夜は不眠です。でも、なんで……」
「はい?」
相馬は相変わらずニコニコと公孝の顔を見ている。
「なんで、居眠りってすぐにわかったんですか?」
「そうですね、顔です、白石さんのお顔」
「顔……ですか?」
「はい。睡眠に障害があるという割には血色がいいです。
不眠や入眠時に障害を抱えているの人の場合、もっと目の周りにクマが出たり、
わかりやすい特徴がありますから」
この人……この人、案外頼れる人なのかもしれない。公孝は安堵した。
「白石さんの場合、ナルコレプシーの可能性が高いですね」
「なるこ、れぷ?」
「ナルコレプシー。日中において場所や状況を選ばず起きる
強い眠気の発作を主な症状とする睡眠障害、のことです。
この症状の面白いところ……面白いなんて言っちゃいけないんですけど、
一日をトータルで見ると、健常者と睡眠時間の総量が大差ないところなんです。
白石さんは先ほど『不眠』とおっしゃっていましたが、
昼間寝すぎているせいで、夜眠れなくなっている、
と解釈してもらうとわかりやすいと思います」
「なるほど……」
「日本ではまだ『病気』として認識されていないんで、苦労されたでしょう?」
相馬は眼鏡の位置を治しながらそう言い、カルテから目を離して公孝をまっすぐに見た。
「……はい。とても」
「心中お察しします。拝見したところ、今日はお仕事の帰りですよね?
この症状の場合、社会生活を支障なく行うのはとても難しいんです。
これまで本当にお疲れさまでした。でも今日からは大丈夫!
私にドーンと任せて下さい!」
相馬はそう言って、さほど大きくはない胸を反らした。
そのコミカルな仕草で、公孝は救われた。
自分より年少そうなこの女性の前で、泣かずに済んだのだ。
「基本的には神経伝達物質の異常なので、薬を飲むことで
抗し難いほどの強烈な眠気は抑制することができます。
今日処方するお薬を、毎日2回、朝夕に飲んでください。
これで当座の眠気を抑えられます。ただ、これはあくまで抑制であって、
治療薬じゃありません。治療のために、このクスリをお渡しします」
そう言うと、相馬は白衣の胸ポケットから一本の茶色のビンを取り出した。
ビンには薬名が書かれたラベルが一切貼られておらず、
底の部分にはタールの様に黒いなにかが沈殿しているのが見える。

「このビンの中のクスリを、今夜家に帰ったら開けてみて下さい」
先ほどまで、「薬」と言っていたのと調子を変えて、
相馬は「クスリ」と言った。そして、「飲め」ではなく「開けろ」といった。
その言葉に軽く不安を覚えながら、公孝はその怪しいビンを受け取った。
「だいじょーぶ、変なものは入ってませんから」
公孝が不安がっているのを感じ取ったのか、
相馬はまた微笑みを浮かべながらそう言った。
「は、はい。わかりました、ちゃんと開けます」
「よろしい! じゃあ、これで今日の診療は終わりです、お疲れさまでした」
「あ、これだけですか?」
「そうですよ。あとは、お渡しした薬とクスリに期待して下さい」
部屋に入ってから、まだ20分程度しか経っていない。
20年以上悩んできたこの症状に、20分で答えが見つかるなんて。白石は苦笑する。
「ありがとうございます、相馬先生」
「イエイエイエ! 人の悩みに答えるのが、私の仕事ですから」
慌てたように手をブンブンと振って、相馬は恐縮する。
この人ほど、「先生」という言葉が似合わない人もいない。
「じゃあ、失礼します」
「はい、お大事に。今日は初回なので、無料でオッケーです。
入り口でお薬もらってくださいね!」
「わかりました、ありがとう」
部屋を出た公孝を見送ると、相馬はドアを閉めながら呟いた。
「じゃ、また夜に」

家に帰り、食事とシャワーを済ませると、公孝はまず恵にメールを入れた。
[帰り道、病院に行ってきた。どうやら病気だったみたい。
薬をもらってきたよ。これで明日から、もうちょっとがんばってみる。
心配かけてごめん]
いつも恵には心配をかけてばかりだった。
相馬からもらった薬……とクスリで、状態が改善すればいいんだけど。

思いながら、相馬から預かったラベルの無い茶色の小ビンを取り出す。
……やっぱり、なんだか不気味だ。
ええい、やんぬるかな!
しばし躊躇した後、公孝はビンの口を一気に開いた……


「白石さん、白石さん!」
どこかで聞いたような、誰かの声が聞こえる。それほど昔ではないような……。
「起きてクダサーイ!」
この声は?
「相馬先生?」
「はい! 相馬です!」
目を開けると、白い霧の中に公孝はいた。
足元はなんだかぬかるんでいて、立っているおが気持ち悪い。
霧は数メートル先さえ見渡せないほど深く、
近くに立っている相馬の姿も霧に邪魔されておぼつかない。
「先生? ってことは眠っちゃったのか、俺」
「そうですね、白石さんは今、身体的には眠っています。
ですが、精神的には非常に活発に活動してます」
「的確な分析ありがと。それってつまり」
「そう、夢を見ているってことです」
相馬は腕を腰に当て、夕方と同じように胸を反らしてみせた。

「ぷっ。やっぱり、夕方みた先生をちゃんと再現してるんだなぁ」
「ふふふ。そう思うでしょう? でも、私は実在しているんです、あなたの夢の中に」
笑う公孝を見ながら、相馬はいたって真剣にそう言った。
「はぁ……」
「あの小ビンには、微量の笑気ガスと一緒に、
相馬家秘伝のある物体が入っています。それを対象に吸入させると、
人の夢に一定時間、定着できるんです……ってちょっと、聞いてます?」
「わはははは。いや、そんな御伽話みたいなこと突然言われても」
「……信じられませんよね、普通」
相馬はそう言うと、少し悲しそうに笑った。
「でもいいんです、私は私の仕事をするのみ! では、治療を続けましょうか!」
「え……今日はもう終わりって」
「ええ。昨夕の診療は終わりました。でも私、こうも言いましたよ?
『また夜に』って。私は精神科医でも神経外科医でもなく、
『睡眠療法士』なんです。睡眠中に、人の心を治す。それが本業です」
「は、はぁ」
公孝は、笑おうとして失敗した。

「じゃあ、説明を始めます」
そう言うと相馬は、三歩ほど公孝から離れた。
「この世界は、白石さんの夢の世界。精神世界と言い換えてもいいでしょう。
この昼か夜かもわからない霧の海、そして足元のぬかるみが、
あなたの精神を端的に示しています」
「……」
よく見ると、公孝の足はぬかるみの中に脛まで浸かっているのに、
相馬の身体はぬかるみから5センチほど浮き上がっている。
なるほど、俺が囚われているぬかるみだから、彼女に干渉しないのか。
細部までよくできた夢だ。
「昼か夜かもわからないから、あなたはどの時間でも寝てしまう。
足をそれだけ深くぬかるみに囚われているから、
その状態から抜け出すこともできない。
ほら、よく疲れきって眠るときに『泥のように眠る』って
慣用句を使うでしょう? あれ実は、比喩じゃないんです。
疲れきったときって、人の心は本当に沼に落ちて泥と一体化してるんです」
相馬の説明は的を射ている。相馬は公孝が言葉の意味を咀嚼するのを待って、
更に言葉を繋げる。
「まずは、この霧を晴らしましょう。そして、太陽と月を作りましょう。
それで、あなたの眠りに昼と夜が生まれます。さぁ、どうぞ!」
相馬は相変わらずニコニコと微笑みながら、公孝に両手を差し伸べた。
「いや、いやいや、どうぞと言われても」
「ここは夢の世界でしょう。そしてあなたはデザイナー。
さぁ、絵筆を思い浮かべて」
「思い浮かべるって言っても」
「いきなりイメージして、って言われても難しいか」
そう言うと、相馬はフワーッと浮いたまま公孝の元へと近づき、彼の両手を握った。
「私の腕、わかります?」
「は、はぁ」
「じゃあ、目を瞑って下さい。私があなたに、筆を渡しますから」
目を瞑ると、手になにかが押し付けられた。
「あ……筆、だ」
「しかも、学生の頃使ってた愛用の筆、です」
「なんでこれを?」
「あなたが、自分で見つけたんですよ。……じゃあ、目を開けて、
霧に向かって描いてください。筆には太陽の色の絵の具が付けてあります」
目を開くと、公孝はダメで元々、とばかりに空に向けて筆を振った。
不思議なことに、色は霧の中にどんどん浸透していく。
重ね塗りすれば、油絵で書いたように物理的な厚さを増していく。
自分が描いた太陽の塗りが厚くなるに連れて、周囲の気温は上がり、
霧は徐々に薄くなっていく。それが不思議で、公孝は絵筆をさらに進める。
「太陽の完成。じゃあ、振り向いて見てください」
振り返ると、そこには「夜」が生まれつつあった。太陽を書いたことによって、
陰が生まれたのだ。
「そこに月を描きましょう。夜に、夢に、迷ってしまわないように」
公孝はもう感覚を掴んでいた。無言でひたすらに、
自分が思い描く最も美しい月を、夜のキャンバスに描きつける。
色を失っていた背後の景色が、月明かりを浴びて少しずつ色付き始める。
「これで昼と夜ができました。迷うことは少なくなるはずです」

相馬は、相変わらずふらふらと浮きながら、公孝の周囲を漂う。
心なしか、さっきより高く浮いているような気がする。
「少なく……ってどういうことですか?」
「まだ、白石さん自身が昼と夜がある世界になれていないんです。
昼夜逆転した生活をしちゃうと、どっちが昼でどっちが夜か迷っちゃいますから。
一ヶ月くらいは、しっかりした生活をして下さい。
朝陽を浴びて起きて、夜には寝るように」
夢の中でまで、しっかり先生しちゃってるんだな。
公孝は相馬の言葉に納得しながら、なぜかおかしくてたまらなかった。
「はい、わかりました。で、このぬかるみは……」
「ああ、それは。今、なんとかすることはできません。でも大丈夫です!」
さっきより相馬の浮きが高くなっている。そう言えば、相馬は夢にあらわれてすぐ、
「一定時間」と言っていた。その時間が終わりつつあるのかもしれない。
「さっき、昼を作ったでしょう? あの太陽が、少しずつ大地を暖めてくれます。
足元がしっかりしたら、治療完了……です」
「はい、わかりました。ありがとう、先生」
「イエイエイエ!」
また、同じ仕草だ。公孝は笑う。
「では白石さん、私にできることはここまでです。
それではお大事に……良い夢を!それから、彼女をダイジにしてあげなさいよ!」
そう言うと、相馬は文字通り飛ぶように、
昼と夜が生まれた公孝の夢の空の彼方へと消えていった。

「行っちまった」
呟いて、公孝は自分が起きていることに気が付いた。
「あれ? もう、朝か」
こんなにゆっくり夜眠ったのはいつ以来だろう?
それにしても、やけに鮮明な夢だった。
今日の夕方会った相馬が印象的だったせいもあるのだろうか。
あんなに鮮やかな夢は久しくみていなかった気がする。
公孝が見る夢はそう、いつも靄がかかったような夢。
……まさか。
本当に夢の世界に相馬が来たなんてことは。
そこまで考えて、公孝は首を振った。
本当に来てくれたことにした方が、御伽話として上出来だ。
なにより、お陰でゆっくり眠れたんだ。
枕もとにある携帯電話を手にとると、恵からの返信が着ていた。
[キミタカ君へ 私も手伝えることはなんでも手伝うから、
ふたりでがんばろうね。なにがあっても私は味方だから!]
不覚にも涙腺が弛みそうになって、それを隠すように、
公孝は立ち上がってカーテンを開いた。
これまた泣きそうになるくらい綺麗な太陽が、雲間から町を照らしている。
こんな気持ちで太陽を見るのは、久し振りな気がする。
「朝陽を浴びて起きて、夜には寝るように」
相馬の声が聞こえた気がした。
「了解です、先生」
公孝は呟いて、仕事の準備を始めた。


後日、すっかり状態が良くなった公孝は、
相馬に礼を言おうと中野で『相馬睡眠療法所』を探したが、
ついに見つけることができなかった。
諦めきれず、八方手を尽くして相馬を探そうとするのだが……。
でもそれはまた、別のお話。

コメント(18)

3作目、書かせてイタダキマシタ♪
コミュの趣旨に併せて、「夢」と「眠り」を題材に、
どこまで「お話」としてお料理できるか。

気に入っていただけると嬉しいです♪
>りんサン

ありがとうございマス!
次のお話かぁ。。。
主人公を別のヒトにして描いてみるのも面白いカモ!

「眠り」のメカニズムってわかってないコトばかりで、
調べるといろいろ面白いことがわかります。
また「夢」と「眠り」に関わる物語を書いていこうと思うので、
よろしくお願いシマス!
読んでくれてアリガトウ☆

>ももいサン
感想アリガトウです!
後日のお話……蛇足にならないようにまとめられたら、発表しようかと思います♪
またよろしくデス!
読んでくれて★ありがとう♪
物語に引き込まれますね!! 
やっぱり私akiさんのファンです!!
>とまとサン

いつもコメントありがとう♪
ファンだなんて嬉しいナ……(テレ

これからも期待にこたえられるようにがんばるから、
また読んでくださいネ♪

>じゅんちゃんサン
読んでくれてアリガトウ!
実は書きながら、
「長すぎてみんな読んでくれないんじゃないかなぁ」
って思ってたので、そう感じてくれて嬉しいデスっ!
草稿の段階では、治療の際に渡した薬の名前までリストアップしてありました(笑)。
一応、今一番処方されることが多いモダフィニルやリタリン、
コンセルタなどの中枢神経刺激薬をチョイスしてました。
ここで薬の名前や効果の半減期なんかの話を書いても
しょうがないと思いとどまり(丁度、お医者さんが患者さんに「なぜ一日3回飲むのか」について細かい説明をしないみたいな感じで)、現在の原稿にいたってマス。

じゅんちゃんサンは薬剤師さんだってことなので、
今度劇中に登場させるお薬について質問があったら
コソリとメッセージ送りますね(笑)!
また読んでくださいね〜!
昨晩このコミュ発見したんですが…すごくexclamationいいっすねexclamation なんか、こう、日常との継ぎ目がわからないくらぃするりと最後まで読めて、しかも電球後に爽やかな気持ちが残りましたわーい(嬉しい顔)相馬先生のキャラがまだ脳裏に焼き付いて、ちょっと肩をすぼませながら手を振っていたずらっ子みたぃな目力のあるくりんくりんの瞳で笑ってますわーい(嬉しい顔)久々に読みながら風景が見えましたっexclamation ×2他の作品も読みたいですっexclamation ×2
たろーサン
ありがとうゴザイマス♪
読みながら風景が見える……それって、サイコーのホメ言葉です!
ありがとう♪

何通かメッセージなどもいただきましたが、思った以上に
相馬先生が動いてくれて嬉しいです。
下の名前もあげてなかったのに……(笑…エナイ)。
また彼女には活躍してもらおうと思ってます♪
読んでくれてアリガトウ♪
またよろしくデス!
すげえ!
どんどん話に引き込まれてしまいました(^-^;)
Dr.COPEサン
ありがとうゴザイマス!
不思議な感覚を表現しきれているか、自信はないのですが、
感じていただけたみたいで嬉しいです♪
「アバウトさ」は夢の重要なエッセンスのひとつですが、
同時にディテールを深く記憶していることもあるから不思議ですよね。
その匙加減が本当に難しいデス。
針がファンタジーの方向に振れすぎてしまわないように、
どことなく現実感があって、どことなく不思議。
そんな感覚をうまく表現することは、今後の、、、
というより、一生の課題になるような気がしています。
また読んでくれてありがとうゴザイマス!

>かっつんサン
ありがとうゴザイマス☆
他の執筆者の方の作品と違って、
私のは行間が詰まっているし漢字は多いし、、、で
読みづらいなぁと心配しているんですが、
入り込んで読んでいただいたみたいで、本当に嬉しいデス!
また書くので、よろしくお願いします♪

>Pサン
読んでくれてありがとうゴザイマス!

次書くときは、もっと読みやすく、短く仕上げるよう努力します!
感想ありがとうゴザイマス!
またよろしくデス!
はじめましてぴかぴか(新しい)
私は昨日このコミュを見つけて今日初めてゆっくり見ましたわーい(嬉しい顔)
とても素敵なコミュでしかも物語が面白くて大好きになりましたハート達(複数ハート)
ファンタジーな小説をよむのが好きなので、もう食い入って読みましたたらーっ(汗)
また楽しみにしています目がハートハート達(複数ハート)ハート達(複数ハート)ハート達(複数ハート)
面白かったです♪一気に読んじゃいました!またぜひおねがいします☆
> うさこサン
コメントありがとうです!
想像以上に彼女のキャラクターが受け入れられたみたいで……。
作者の手を離れて、キャラクターが「動く」っていうのは
こういう感覚なのかも知れませんね。
空き時間を使って続編を執筆中なので、
また読んでクダサイ!

> かほサン
感想ありがとうございます♪
ファンタジーもの、って、現実感とあまりに離れてしまっても
いけないし、現実的になりすぎても良さがなくなってしまうしで、
本当に難しいなぁと書いていて感じました。
物語に没入してもらえたみたいでホッとしています。
また書くので、ぜひぜひ読んで下さいネ!

> Mickeyサン
何回か書いていますが、読んでもらえるか本当に心配だったんです(笑)。
まだ表現が硬すぎるところがあったり、改善点はたくさんあるので、
直しながらまた書いていこうと思っています。
また読んで下さいネ☆

ログインすると、残り7件のコメントが見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

眠れぬ夜の物語 更新情報

眠れぬ夜の物語のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。