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エーテル絵本コミュの首が落ちてくる

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ある夏の話だ。
盆休みに入るといつもふたつ年上の従姉妹が遊びに来ていた。シヨリだ。シヨリに兄弟はなく、さらにわたしも一人っ子だったためお互いに姉妹のような感情を抱いていた。シヨリはわたしのことを大変可愛がってくれたし、わたしもシヨリが大好きだった。
シヨリは盆休みの夜、いつも怖い話をしてくれた。シヨリの中学校であった話や、ベタで都市伝説じみた話など、今思い返せばどれも同じような内容で全く怖くはないのだが、小学生のわたしを恐怖に陥れるには十分な物語だった。
そしてある暑い夜のこと、わたしはいつものようにシヨリに怖い話をしてほかしいとせがんだ。シヨリは、またトイレに行けなくなっても知らないよと、脅してみせたが、わたしはシヨリの話を聞くのが何より楽しみだったので何度もお願いした。するとシヨリはいつもと少し違う雰囲気であるところに…と話はじめた。
「あるところに、花子ちゃんという女の子がいました。花子ちゃんはお母さんとお父さんと三人で仲良く暮らしていました。ある日花子ちゃんがトイレに行くとトイレの電気がチカチカしたいたので花子ちゃんは天井を見上げました。するとお父さんの首が落ちてきたのです。花子ちゃんは驚いてトイレから飛び出しました。その一週間後、花子ちゃんのお父さんは亡くなりました。何日かして、花子ちゃんはまたトイレの天井を見上げていました。すると今度はお母さんの首が落ちてきました。花子ちゃんは驚いてトイレから飛び出しました。その一週間後、花子ちゃんのお母さんは亡くなりました。そ
れから…」
いやだ!もうやめて!というわたしの声にシヨリが話を止めた。今日のは少し怖かったかな、ごめんね。もう寝よう、そういってシヨリはわたしに布団を掛け、おやすみと言った。次の朝目覚めると、シヨリは既に家に帰ってしまったらしく居なかった。これがシヨリに会った最後の盆休みになった。翌年の盆休みからシヨリは家に遊びに来なくなった。

あれから7年が経ち、シヨリのことなどすっかり忘れてしまっていた。それがどういう訳だかいま突然、この深夜のトイレの中で思い出した。シヨリ、という名前がモノクロで頭に張り付いたまま剥がれない。シヨリは今何をしているのだろうか。そう思ってふと天井を見上げた。が、何も落ちてこない。落ちて来るはずがない。あれはシヨリの作り話だったのだから。そしてトイレを出ようとドアノブに手を掛けた瞬間、壁に掛けてあったカレンダーが落ちた。わたしは恐る恐るカレンダーを手に取り、シヨリ?と聞いてみた。トイレにはさっき流した水がまだチョロチョロと音を出しているだけで、シーンとしている。もちろん返事もなかった。まさかね、なんて笑いながらカレンダーをもとに戻そうとした時、そのカレンダーのかかっていた場所だけ壁の色が違うことに気がついた。そこだけ昔のまま、まだ新しい色をしている。




次の日わたしは母にシヨリの所在を尋ねてみた。しかし母は一瞬驚いた顔をして、シヨリはもういないと教えてくれた。シヨリは中学2年の時、数年前からシヨリと母に暴力をふるうようになった父をナイフで刺し、そのあとすぐに行方を眩ましたらしい。どこへ行ったのか、今何をしているのか何もわからないという。そしてシヨリの母も同様に、所在がわかっていないらしい。


シヨリは今何をしているのだろうか。元気だろうか、ちゃんと食べているのか?なぜだか不思議と"最悪の事態"は想像しなかった。浮かんでさえこなかった。わたしの頭にあるのは、優しい姉のようなシヨリだけ。わたしにたくさんの話をくれた、あのシヨリだけなのだ。シヨリが虐待を受けていたことも、実の父を刺して行方を眩ましていることも、なぜだか大丈夫なような気がした。






今、シヨリに会えるのはわたししかいない。カレンダーを外せば、壁はいくらでも顔を変えることができるのだ。


シヨリ、そこにいるんでしょう。




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