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オリジナルストーリー創作コミュの攻殻機動隊のオリジナルストーリーです(つくりなおし)

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コメント(21)

(あと1分…)


ボーマに女性アンドロイドオペレーターからの電通が響く


残ってる配線は10本…外す基盤は3つ…


だが、ボーマには焦りはない。

やる事は変わらない。
どれだけシステムが高度化・複雑化しても爆弾解体という任務の本質は50年前と変わらない


使う道具や、相手する爆弾の姿が変われど、結局は人と爆弾との一対一だ


ボーマの視界には様々なコードや様々な機械類が取り囲んでいる

ボーマはその巨体の半分を精密機械の塊に突っ込んでいた

手際よく、しかし慎重にコードを切っていく。

もはや半ば反射神経の部類だ


(残り30秒)

電通からのカウントダウンは続く




さて…仕上げだな


ボーマは目の前にある二つのコードとにらめっこをしていた


赤か青か…

映画のクライマックスによくあるラストだ


だが現実は、自分のラッキーカラーで決めたり、恋人の好きな色で決めたりなどしない


不条理がまかり通る戦場では、爆弾解体は常に筋が通った世界だ


「どうしたの?何百人もの命を救った英雄には見えないわね」
バーで独り座るボーマへ少佐が声を掛けた。

「どうも腑におちないんですよ」手に持つグラスが、やたら小さく見える。

「爆弾を仕掛ける場合、最後の絶縁線は処理班にだけは悟られてはいけない。」
グラスを凝視しながら氷をまわす

「でも、あえて分かりやすく絶縁線は配置されていた・・・」
少佐はバーテンダーに一杯追加のオーダーをした。


「少佐、俺の眼は微量の電流でも探知できるようになっている。爆弾処理には不可欠な装備だ。それ以前にアタリとハズレが違う素材というのは、あまりにも幼稚すぎる・・・」

「自分の仕事として許せない?」

「そこまでは・・・」

新浜の夜は何事も無かったかのように過ぎていく。

(パズ、お前の知り合いか?)

(いや、見たことも無い)

(本当か?お前、自分が忘れただけじゃないのか?)

(すまない、そうかもしれない・・・)

「義眼の大男」と、「痩せ型の伊達男」の行く手を阻むように、高級感漂う服を着た「紳士」とは言えない「殺気を帯びた男」が3人現れた。

(めんどうな連中だな・・・どうする?)

「邪魔だ!」

伊達男・・・パズが応える間もなくバトーが3人の一番でかいやつに飛びかかった。

やれやれ・・・と目を伏せようとした瞬間、相手の一人が構えた。
「バトー!左だ!」

叫びながらパズは懐のナイフを振りかざした。

「お前もナイフ使いだな・・・」

特殊鋼と特殊鋼のぶつかり合う音とともに、火花が飛んだ。
二人の男は間合いをとる。

(大丈夫か、)バトーは残る2人を拘束し、本庁のデータとの照合を行う。

(こいつのナイフも照合してくれ、恐らく3人ぐらいやられている・・・)

「久々に楽しめそうだったが、残念だ」男はそう言うとパズへ閃光弾を投げつけ、素早く逃げた。

追いかけようとするバトーをパズは静止した。

「どうせ立件できるかどうかの瀬戸際だろ・・・」

「証拠はナイフの形状分析次第ってか?」
バトーも拘束した2名を放置すると歩き出した。

「知り合いだったのか?」バトーが尋ねる。
「いや、知らないやつだった・・・」

「本当か?」

「多分、また現れる・・・」
「はあ?勘弁してくれよ。」
バトーは天を仰ぎ、パズは煙草に火をつけた。
サイトーは深呼吸を一度してから、ブリフィーングルームに入る。

別に緊張している訳じゃない。

アフリカでの任務の際、身体機能を補う為に心肺を義体技術で増設してから、何となく深呼吸を時々しないとしっくりこないからだ。

ふと、バトーに前に言われた事を思い出す。
アフリカからの任務から戻った時だ

「心肺機能を義体で補い出すと、歩留まりが効かなくなるぞ」

この仕事を以上仕方がない…

そう応えたが、あの時のバトーの表情は今でも覚えている


扉をあけるとメンバーは、既に揃っている


適当な席…バトーの隣に座る


「よう。遅かったな」
バトーの挨拶代わりの言葉に

「すまない。そっちも昨日は大変だったな」
サイトーの言葉にバトーは些か眉をひそめ

「モテる男と一緒だと、命が幾つあっても足らないな」


昨晩、別任務中だったバトーとパズが襲われた事件は既に聞いていた。


「相手はまだ分からずか?」

「あぁ…結局データベースにヒットせずだ。
課長に報告したがな…」

バトーは腕組みをしながらぼやいた


「狙われたパズが覚えてないんだろ?」

「むしろ、有りすぎてどれだか分からないって奴だな」


サイトーとバトーが小声で話していると、鋭い眼光の老人がブリフィーングルームにあるモニターの前に立つ



9課長の荒巻大輔だ


「揃ったな。では始める。トグサ」


荒巻のとなりに立つ男性…トグサはリモコンを操作し、背後のモニターに機械の塊を写す。


「これは昨日…新浜空港の地下電気施設に仕掛けられた爆弾だ」


それはボーマが解体した爆弾だった


「中国外務次官の訪日の為、新浜空港はレベル3の警戒体制だった。

次官が空港到着する30分前に発見され、幸い爆弾は無事解体し最悪の事態は免れた。」

トグサは一瞬ボーマを見やり、再び周りを見ながら話を続ける


「知っての通り、次官訪日に先立ち…政府に次官の訪日を中止するように…要求が呑まれなければ強力な妨害行動にでる…と脅迫があった」


「今回の次官訪日は、環太平洋安全保障条約の事務レベル会談の為の極秘訪日…しかもマスコミにすら流れていない極秘事項だ。それなのに脅迫犯は、その訪日を知っていた。

そして、この爆弾だ…
事態が事態の為に9課も空港警備に参加した訳だが…事前の消毒にも関わらず、爆弾は設置された。犯人はかなりの実行力を持っている事は間違いない」
「ついでだが、昨夜バトーが拘束した2人の身元が分かった。」

「ほう、それでどこのバカだった?」
不機嫌なバトーはトグサと目線を合わせない。

「名前は分からないが、海外製義体から分析した結果、東南アジアからの密入国者の可能性が高い。」
荒巻課長が代わりに答えた。

「まてよオヤジ、あの身なりからすると、安く見積もっても暴力団だぞ!」
二つの義眼が課長を睨みつける。

「襲ってきた男のナイフも、特殊鋼のシースナイフだった。難民の安物ではないぞ・・・」
珍しくパズが呟いた。

「それにあの構えは・・・」バトーが何か言いかけたが、確証が無いのか、途中で言葉を止めた。


「東ヨーロッパの特殊部隊だった・・・」
少佐が淡々と続けた。

「少佐やダンナの分析が正しければ、これは政治的背景も視野に入れて行動しなければならない。」
トグサもいささか緊張していた。




「ともかく、この件も無視できんが次官の訪日を妨害しようとした犯人を逮捕し、これ以上のテロ行為は未然に防がねばならん。

バトーとパズを襲った連中は引き続き捜査するとともに、次官の身柄安全に全力を尽くす」

荒巻の言葉に9課の面々は頷き、トグサはメンバーにそれぞれ任務を振り分けた。

部屋には荒巻・トグサ・素子・バトー・パズが残る。

「俺達が残された理由は…襲われた事か?」

バトー少し機嫌を損ねたのか、声音が低い


「そう拗ねるなよダンナ。別に捜査から外そうって訳じゃない。だが命を狙われたんだ。慎重にはなるさ…実は念のために護衛…とも思ったが…」


「必要ねぇ」

バトーは更に機嫌が悪くなる


「貴方達に護衛をつけても、守る側が守られそうだな…」

トグサは苦笑しながらバトーをなだめた


「すまない。今回は俺が原因だ。バトーはたまたまその巻き添えに過ぎない。」

今まで黙っていたパズが、ここで始めて口を開く


「連中に心当たりはないんだな?」


「今は…な…」

トグサの言葉にパズはそう応え続けた

「これは俺の個人的な話だ。9課の任務には邪魔になるだけだ。片は俺だけでつける。以前にもあったが、今回も俺の存在が9課の邪魔になったら…トグサ、迷わず俺を切れ」

パズはそう言うと、一人ブリフィーングルームを出た。


「あいつ…」

バトーが先程とは違う意味で機嫌が悪くなる。


「課長…」トグサが荒巻に視線を向ける


「やむを得まい。パズにはパズなりの考えがある。今はそれを優先させよう。それが奴が9課のレギュラーになった要因でもあるからな」


荒巻の言葉に、まだ納得いかないのか、バトーは憮然とするも、それ以上は何も言わなくなった




9課本部・地下駐車場


パズが車に乗り込もうとすると…

車の前には一人先客がいた。


「少佐…」


ブリフィーングルームで彼女が何も言わなかった時点で、恐らくこの展開になると思っていた


「すまないな。面倒な部下で…」

「別に迷惑を受けた事はない。それにもし謝るなら、私じゃないわ。」


「・・・」


「今の9課の隊長はトグサだ。」
「そうだな…アイツからすれば、俺は扱いにくい人間だろうな」

パズが珍しく饒舌になっていた

この重大時に、自分の問題が表面化した事に責任を感じているせいか…

「9課の任務に支障は出さない。それにこの件は俺だけで十分だ」

パズはそう言うと素子の横を通り抜け、車のドアに手をかける


「貴方を心配してはいないわ。それはトグサ同じよ。それに馴れ合うつもりもない。私達はプロよ。だがこれだけは忘れるな…9課にはお前が必要だ」


パズは一瞬車に乗り込む動作が止まるが、何も言わずに車に乗り発進していった







9課の解析ラボ


そこには義眼のスキンヘッドの大男が、赤い独特な作業着をきた鑑識班と一緒にいた

彼らの目の前には、大小様々な大きさになった機械の塊があった。

新浜空港でボーマによって解除された爆弾だ。


「爆弾は隅々まで解析をした。特に普通の爆弾だ…何かを意図した仕掛けがあるわけではないな」


マツイの言葉にボーマは、部屋一面に置かれた機械類を見渡す


「あぁ…何もこれといって特徴がない。いや…特徴が無さすぎる」

「それが問題だと?」
ボーマの言葉にマツイが怪訝そうに聞き返す

「マスコミを徹底管理してまで、極秘りに行われている中国外務次官の訪日を知り、限界体制の空港にこれだけの規模の爆弾を仕掛けながら、あっさり見つかり、然したる苦労もなく解除できた…引っ掛かりがあるとは思わないか?」


「わざと発見させた…そういう事か?」


マツイの言葉にボーマは、多数にのぼる機械の塊から一つを見つけ歩み寄る


「爆弾ってのは作る人間の性格がでる。そしてそれは爆弾の中心部である起爆装置と爆薬の種類にな…」

ボーマが近づいたのは、爆弾の起爆装置部分だ。

大きさにし、タバコの箱程度…


四方が3メートル程の巨大な爆弾だが、解体すると起爆装置はわずかタバコの箱程度の大きさしかない…


ボーマが空港で解除した爆弾は、2つの液体が混ざる事によって化学反応を起こして爆発する仕掛けだった。


液体の混ざり度合いで、爆発への時間も調整できる…

針の先に僅かつく程度の液体で、人体を壊せるぐらいの威力がある…


空港にあった爆弾には、その混合される2つの液体が5リットルずつあった。

爆発すれば空港のターミナルは跡形もなくなるだろう…
「なるほど…だが、爆弾には犯人の痕跡らしき物はない。部品からも今のところ何も手掛かりが掴めなかった」

マツイの言葉にボーマは軽く笑いながら

「別に痕跡がなくてもいいさ。この爆弾の作り方から犯人がある程度想像できる」


「爆弾屋にしか分からん世界だな」

マツイは肩をすくめ、ボーマの構造解析を手伝うべく作業の準備に入った。




ダイブルームには数名の人間が、作業に没頭していた

その内の一人9課で荒巻について年長であるイシカワが、ダイブ装置から一旦目をはずしバイザーを上に上げる

「謎だな…あれだけ特殊な薬品だ。紛失すればそれなりに騒がれると思うが…」

イシカワはアゴ髭をいじりながら、疑問を口にした


同じくダイブ装置のバイザーを上に上げたプロトも、イシカワの言葉にうなずく。


「えぇ…今回爆弾に使われた液体爆薬・PT8を研究・保管している全ての研究施設や企業には、盗難や紛失の報告がありません。もう既に半年も遡ってます…これで記録がないのは…」


「どうだ。爆薬から何か分かったか?」

イシカワとプロトのやり取りをしていると、ダイブルームに荒巻とトグサが入ってくる


「それが妙なんです。使われた爆薬は、PT8と言われる液体爆薬なんですが…」


「PT8って、確かTNT火薬に変わる新しい火薬って言われる液体爆薬だよな?」

トグサが記憶を思い返しながら訊ねる


「あぁ。官民合同で開発された火薬だ。αとβ…2つの液体を混ぜると化学反応を起こし爆薬する…威力はTNT火薬の非じゃない…しかも2つの液体を混ぜなければ、どんな衝撃や熱を加えて無害という画期的な液体爆薬だ」


「うむ…軍事のみならず、土木や宇宙開発に至るまで、様々な分野で活躍・応用が期待されている物だ」

荒巻がイシカワの説明につけ加える

「そのPT8なんですが、取り扱っている全ての研究施設で盗難や紛失といった報告がないんです。そもそも、官民合同の開発とはいえ、まだ民間にはおいそれと行き渡る代物じゃありません。ほとんどが国が管理をし、開発に携わった企業もごく僅かな量しか保持してない筈です。無くなれば大騒ぎになる」


「確かにな…2つの液体が、それぞれ5リットルも盗まれれば何かしらの報告がありそうだ…」

トグサはこの場にいる全員の考えを代弁した
行きつけの店の様子がおかしい。

セブロM5の弾倉を確認すると、パズはホルスターへ拳銃をしまった。

いつもと同じ店内・・・いや、変わっていないことがおかしい・・・
「なんでもいい」
マスターへの合言葉である。

「すみません、これしかなくて・・・」
テキーラがグラスで出される。「異常あり」の合図。

カウンターの右側に座っていた男が、拳銃を突きつけた。
「動くな!」

声と同時に、何かが落ちた。
今しがた男が構えていた拳銃と、右手首だった。

「な、なに?」

「騒ぐな、とっとと消えろ」

右手には拳銃ではなく、ナイフが握られていた。
パズはそれを丁寧にたたむと、懐へ素早くしまい、煙草をくわえた。

店にもう一人客が入ってきた。
「やはり、俺じゃなきゃダメだな」

あの夜の男が、ゆっくりとパズに近づいてきた。




恐らく身体の8〜9割は義体化しているだろう…


パズは改めて相手を観察した

相当な手練れである事は間違いない…だが…

「ここまで熱烈な歓迎はありがたいが、悪いが見覚えない…。何処かで会ったか?」


やはりパズには相手の見覚えがなかった。


男はゆっくりとナイフを抜くと…

「俺を殺したければ、いつでもこい…本当に憎ければな…」

初めてパズの表情が変わる

その言葉には覚えがあった…

だが相手は…


次の刹那、パズに向かって殺意のこもった一撃が飛ぶ


パズは反応が遅れる…

いや、更に正確に言うなら反応できなかった。

普段のパズを知る人間なら、今の姿は衝撃的に見えるだろう

それぐらいパズは動揺していた…


ナイフが当る…男は悲願だった相手の命を奪えると確信した瞬間


乾いた一つの音と、それに伴う右腕に来た衝撃が男の悲願を阻んだ。


「2度も襲うとはいい度胸だ。当然覚悟は出来てるんだろうな」


光学迷彩を解き現れたのは…


「バトー」


発砲音でパズは我に返り、自分の命を救った相手の名前を呟いた


いや…我には返っているが、まだ何処か心はここにあらずといったとこか…


「ちっ…」

男は文字通り壊れた右腕を、だらしなくぶら下げたまま店のドアにダッシュする


「逃がすかよ」

バトーは立て続けにFNハイパワーカスタムを連射する


もはや、手加減も躊躇う理由もない。あれは単なる義体ではない。命を壊す事を目的に作られた戦闘用義体だ…

バトーが放った銃弾は男に向かって延びていき、男の身体を穿っていく。


対義体用にスットピングパワーを強化してある…更に義体用の貫通弾だ。

自衛軍が使う義体ぐらいなら、問題なく制圧できる


…が、男は衝撃は受けるが倒れる気配もなく更に加速し、ドアを蹴破り外に出ていく


「くそ…タチコマ!」

男が店の外にでると、そこには1台の四本の奇妙な機械がいた


青い塗装に2本のマニュピレーター。三つの穴型のセンサーボール

「くそ!9課の思考戦車か…」


男の前に立ちはだかったのは、9課が誇る思考戦車…タチコマだった。
男は右手をひきちぎり、タチコマへ投げつけた。

途端に緑色の煙が広がり、思考戦車のセンサーが一瞬ぶれた。

「逃がすかよ!」
弾倉を交換し終わった銃をバトーが構える・・・

が、次の瞬間バトーは体制を崩し、その場に膝をついた。

「スペツナズナイフか!」

バトーの右膝、右足首には刃先が突き刺さっていた。





バトーは痛覚を遮断する。

戦闘時は義体の感覚器官を敢えて切らずにいるが、ダメージを負い戦闘力が低下した今、痛覚は集中力の邪魔になるだけだ

銃を左手に持ち変え、次の攻撃を警戒する


だが…

煙幕が消えると、相手は消えていた。

自らがちぎった右腕を残して…


「タチコマ!奴は?」

「駄目デス…センサー範囲内にはいません」

タチコマの言葉にバトーは正直安堵した

僅かしか手合わせしてないが、並の相手ではない…

手負いの状態では危なかっただろう


「バトーさん大丈夫ですか?」


タチコマはバトーを気遣う

「たいしたことはない。まぁ、ちょいとメンテが必要だろうがな…」

バトーは店の方を見る。

パズが出てきた。

「大丈夫か?」

どうやら元のパズに戻っているようだ…少なくとも外見は…


「まぁな…死ぬほどじゃない」

バトーは銃を収め、刺さっている2つのナイフを抜いた

ご丁寧に駆動部分を貫いていた


たいした腕だ…

バトーはそう考えると同時に…

「あれだけの奴が狙ってるんだ。本当に思い当る節がないのか?」

バトーはタチコマに手をつきながら、立ち上がる


「奴にはな…」

パズはスペツナズナイフを拾う。


俺を殺したければ…


男が言った言葉…

それはかつて自分がある人物に言った言葉だ

あの男は何故その言葉を…


「バトー…すまないな。タチコマ、バトーを頼む」

パズはタチコマにそう言うと、バトー達に背を向ける。


「おい!パズ。相手は生半可な奴じゃないぞ。一人で行くのは危険だ」

バトーは、その場を立ち去ろうとするパズに声をかける。


「分かってる…だが、これは9課の仕事じゃない…俺個人の問題だ」


パズはそういうと、夜の街に消えていった
「俺を殺したければ、いつでも来い…本当に憎ければな…」


何処か嬉しそうに少女は口ずさんだ


バトー達が争ったバーからは、1ブロック程度しか離れていない高層ビルの上に少女はいた。

年の頃16〜7か…

こんな時間・場所にはそぐわない…

黒い髪・透き通るような白い肌・大きく愛らしい目

その華奢な身体は全てが生身であり、電脳化を除けば身体を機械化した箇所はない。


その容姿は場所が場所なら、タレントスカウトが声をかける事もあるだろう…


だが、そんな外見にそぐわない雰囲気を少女は持っていた

その最たる理由は少女の眼差しだろう

冷たい…その瞳で見つめられれば、温度が10度は下がった…そんな錯覚を感じる程の冷たい光を放つ瞳だ。


ある世界に生きる人間が、その瞳を見れば少女がどんな人間か瞬時に理解するだろう。

目的の為なら手段もモラル問わない

人の命に重さを全く気にしない…

表情こそ微笑んでいるが、瞳の光が少女自身の雰囲気を支配していた


普通に生きるならば、16〜7の子供が達する境地ではない




「やり過ぎだ。」


少女の後ろに一人の男性が立つ

男性は細身だが、決して華奢ではない…

洗練された体型だ

少女とは逆で男は全身義体とすぐに分かる

少女は目の光はともかく表情は豊かだ。だが、男は逆に無骨であり無表情だ。全身義体とは言え、顔にも神経ネットワークが張り巡らされている

男の無表情さは、機械だからではなく人間性からきている

長髪を無造作に後ろに束ねており、高層ビルの屋上にいるが所以の強風にたなびいている

男の瞳もまた、日常に生きるには無縁な光を瞳にたたえていた。

この男も、ある業界に深い関わりがある人間なら、どんな人間かすぐに分かるだろう

兵士の目だ…それもとびきりの狂犬だ


「今は9課に我々の存在を知られる訳にはいかない。子供のお遊びは我慢しろ」

男は静かな声だが、人の心を圧する凄みがある

頭が正常に働いく人間なら、男の傍に寄らない…そんな判断を下すだろう


だが少女は男の異様な存在感を全く気にしていない
「契約を忘れた訳では…」

自分の言葉に反応しない少女に、男が更に言葉をかけようとすると…

「貴方達に協力し目的を達成する…その後、私の目的の為に貴方達が私に協力する…でしょ?忘れてないわよ。貴方達への協力を疎かにはしていない。私を監視している貴方が一番理解している筈じゃない?」


「ならば!」

今度は男が少女の言葉を遮る。口調も荒くなっていた

だが少女は、それでも全く気にしない。

「私の行動を制約するとは契約にはなっていない…違う?」

少女は男の方を振り返る。

「貴方達に協力しているんだから、私個人の行動までとやかく言われる筋合いはないわ。心配しなくても、9課に存在を知られたりしないわよ。それは私も困るんだし」


男はそれ以上は何も言えない。

本心は痛い目をみせて身体に分からせる…そうしたい気分だ。

相手が未成年だろうが関係ない…むしろ、そんな子供をいたぶる事を男は快感に感じるだろう。

だが、そうしたくてもできない。

男の上に立つ存在は、それを許さない…男はあくまで少女の監視役なのだから。

それに例え実力行使ができた所で、痛い目をみるのは自分だった…

高性能の全身義体を持ってしても、目の前の少女に勝つ事はできない。


それが男の上の存在が、少女と手を組む理由でもある


「とにかく今はこれ以上は手を出すな。次の段階にもうすぐ入るんだ」


男はそう告げると、少女の前から立ち去った。





「暴力があれば何でもねじ伏せられると思う…憐れね」


少女は男が立ち去ると、そう呟いた。


「挨拶よパズ。楽しみましょ…貴方が姉さんと楽しんだようにね」

少女の瞳の冷たさは、最後の言葉を紡いだ時によりいっそう強くなっていた。






















トグサは9課の自分のデスクで、バトーからの電通を受けていた


(そうか…旦那はどうするんだ)


トグサはバーでの一連の流れの報告を受け、バトーに改めて質問をした

パズが狙われている…バトーはその状況を看過できずに、トグサに話して密かにパズの後をつけていたのだ。


(俺は奴を放ってはおけない。さっき襲った奴にしても、単なるチンピラじゃねぇ。頭の悪いゴロツキが逆恨みしているとかのレベルじゃない…それに…)

バトーは一瞬言い澱む

だがトグサには、バトーが何を思っているか直ぐに分かった。

(パズはわざと9課から事を遠ざけようとしている…そう感じるんだろ?)


トグサがバトーの言葉を代弁した


(あぁ…すまないがトグサ…)


(分かった。放ってもおけない。うちの人間が狙われてる訳だしな。だが中国外務次官の訪日妨害も最重要案件だ。悪いがこれ以上は人は避けない)


(いや十分だ。悪いな)


バトーの言葉にトグサは苦笑した


(そう思うなら、さっさとカタをつけてこっちを手伝ってくれ)


(あぁ。分かってる。お前じゃ不安だしな)
ようやくバトーらしい調子に戻ったな…トグサはそう感じた

(旦那、くれぐれも気をつけろよ)

トグサは最後にそう伝える


(分かってるさ。お前もな)

バトーはそう返事をすると電通を切った
素子がボーマに呼ばれて、解析室に入ったのは日付も変わる時刻だ。

「話とはなんだボーマ…」


細かく分解された爆弾の部品の中央にボーマは立っていた


「少佐…俺を9課にスカウトした時…もう一人爆弾屋がいたのを覚えてるか?」


少佐は唐突な質問に、一瞬返す言葉が直ぐに出ない。


「仙川トウマ…」

ボーマが言った名前。
その名前は素子の記憶を呼び起こさせる。

「奴か…」

素子の頭に一人の男の顔が思い浮かぶ。
素子がボーマと出会ったのは最後の大戦が終わって10年程たった時だった

日本はようやく戦災からの復興が軌道に乗り、国際社会に再び目を向け始めた頃だ


大戦は終結したが、東南アジアの政情不安は各国に渡っていた

カンボジアは大戦前から麻薬の黄金三角地帯があり、治安が不安定だったが大戦により、そこに戦災が混じり、部族間抗争・麻薬の利権・反政府活動が入り乱れ、いつしか「アジアの沸騰寸前の火薬庫」と呼ばれていた

アジアでの発言権を強め、復興を一段階上に上げたい日本は、米帝・英国・中国や、各国のからなる国連監視部隊又は多国籍軍に自衛軍の特殊部隊を送りこんだ


自衛軍の陣容は半島派遣されたPKF仕様の義体化部隊や、メキシコ派兵に参加したレンジャーなど、国際社会へのアピールとしては十分だった

素子・バトー・イシカワ・サイトーらは、そんな派兵された自衛軍の中にいた。


「しっかし暑いな…」

バトーは相棒のライフルをぞんざいに立て掛ける

「なんだ…お前感覚器官を切ってないのか?」

隣でタバコをふかすイシカワは、上半身はタンクトップだ


「切ってるよ…でもこの密林を見てるだけでな…。んで我らの上官殿は?」


「今度の作戦のブリフィーングに呼ばれてる」


「やっと、湿地帯での訓練ともおさらばか…」

バトー一言のように呟いた。



バトーはまだ知らない…

後に「モガディシュの悪夢再来」と呼ばれる戦いになる事を…
(プノンペン近郊のビルに、米帝の外交官とその家族が救援を待っている。我々はその援護を担当することになった。)

ヘリの爆音の中、4名の「日本から来た兵隊」は無言のミーティングを行っていた。
(援護ねぇ・・・・信用されていない証拠だな)
イシカワは一言言い残し、電通を切る。

市街地へ降下した4名はそれぞれ銃器のチェックを行う。

「北側に回りこみ、ゲリラのロケット砲を探す。」
サイトーはそう言い残し、布を巻きつけた狙撃銃を抱え足早に去った。
「それじゃあ俺は観測手だな・・・」
イシカワもグレネードポーチを掴み取るとサイトーの後を追った。

「恐らくジャミングは無い、私とバトーはこのままビルへ向かう。」

目標まで2kmの地点で4名は、二組に分かれた。






「しかし、お前はとんでもない手段を選んだな・・・」義眼の大男・・・ボーマはビルの地下駐車場で、もう一人の兵隊に声を掛けた。
「ここまでやらなければ、あいつらは諦めない。」
軍服を着てはいるものの、容姿は普通の男。これといった特徴は無いのだが、強いて言えば、この時代には珍しく義体化率が低い。

この地下駐車場に高性能爆薬が仕掛けられ、二人の男が何を目的とした兵隊なのかを予想すると、見た目のほのぼのとした雰囲気とのギャップが大きすぎた。

「タイマーは使わない、手動で爆破する」
小柄なほうの兵隊が起爆装置を手に、かみ締めるように言った。









ビルに到着した特殊部隊をおそったものは・・・何も無かった。
偵察衛星の捉えたビルを取り囲むゲリラも、そこには存在せず救出作戦は淡々と進んだ。

その様子をスコープ越しに見るサイトー・・・傍らでラップトップを開き、衛星データを調べるイシカワ。
「おかしいな・・・」
イシカワの呟きにサイトーが反応する。
「そっちもか・・・」
「ああ、衛星データが書き換えられている、目標のビルのほかは何も残っていないはずだが・・・」

二人の目の前にはバラックの住宅がひしめいていた。

途端に二人は強いノイズに耐えかねて、頭を押さえた。
「くそっ、ジャミングじゃねぇか・・・」

「バトー、状況がおかしい、何者かがジャミングをかけたようだ。」
少佐の鋭い声がバトーの歩みを止めた。

「それだけじゃねえ、目標の情報も間違っている。」

「ああ、目標のビルの周辺は空爆の影響で何もないはずだったが・・・」少佐の視線の先には、遮蔽物となるバラックが広がる。
「ニセ情報をつかまされたか・・・」
バトーは機関銃のベルトリンクを確認するため、カバーを開けた。

「いいや、この街は空爆の後に建てられた・・・その間衛星に何者かが偽の情報を与えた・・・」

「目を盗まれたってわけだ」
カバーを勢いよく閉めると、バトーは立ち上がった。
「どうするさ」

「ビルの南側から接近する。」
輸送ヘリが離陸するまでの間、攻撃型ヘリ2機が上空を旋回する。
眼下に広がる粗末な街並みに向かい、ガトリング砲が落ち着き無く動く。

「おかしいな、地上と連絡がとれない」
「仕方ない、この暑さと湿気だ、センサーがいかれたんだろ・・・」
空中のヘリの間ではこんなやりとりが続いていた。

次の瞬間、1機が爆発し、墜落した。

地上のヘリを残し、もう1機はガトリング砲を唸らせ、上昇した。
「ちきしょう、ロケット砲か?」

同時にビルの屋上めがけ、周囲の民家から銃撃が始まった。



「どうなってるんだ?制圧済みの筈だぞ」
米帝の特殊部隊は動揺を隠せない。
「それだけじゃない、対人センサーに反応しない!」
「ジャミングか?」

ビルの屋上から見下ろすだけの兵士は、3階から下の異変に気づかなかった。
「完全に孤立したな・・・」
米帝の兵士に、絶望感が漂った。
「ジュリエット6ー4、こちらジュリエット2ー5。民兵達の攻撃を受けている。繰り返す、民兵の攻撃で身動きがとれない。送れ」

最初に餌食になったのは米帝のヘリ…次にヘリから降下し周辺を警戒していた分隊だった。

義体化し戦闘力を飛躍的に上げた彼らは、その戦闘力を遺憾なく発揮するために、高度に電通などでシステム化をしていた


だが裏を返せば、高度なシステムに頼りきった人間はそのシステムの恩恵から外されればひ弱なものだ


そしてそれは米帝のデルタ達が正にそれだった…

電通を阻害され、対人センサーを切られた戦闘の達人は、引き金を引く事と弾倉を交換する事しか教わっていない少年兵達に無力化されていた


「ジュリエット2ー5、そっちから敵は見えるか? こちらかは見えない」


「6ー4ダメだ。くそ…そこら中から撃たれてる」


電通と対人センサーは阻害されていたが、部隊間の無線は無事だった。

だが、目と耳を塞がれた米帝達には対抗手段がなかった




「やれやれ…いいようにやられているぜ」

素子ともに目的地まで走り抜いたバトーは、デルタフォースの惨状に思わず呟いた。

素子はバトーの言葉を聞きながらも思考巡らせていた。


特殊部隊の電通を阻害する連中だ…単なる民兵とは思えない。

我々なみの高度なプロがいる



素子はまだ事態が動く事を予想していた

それもとびきり悪い方に…

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