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オリジナルストーリー創作コミュの攻殻機動隊のオリジナルストーリーです(1)

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コメント(69)

(イシカワ。ヴェノムは確か生体パーツの開発をしている企業だったな?)

素子の問いにイシカワは、一瞬我を忘れていたが

(ん?あぁ〜、ヴェノムは確かに生体パーツ…しかも完全な生身の身体の研究をしている

義体以外での身体の再生を…それがこの企業の謳い文句だ

まだまだ、俺達が使う高性能義体に匹敵するほどの金がかかるらしいが、研究が上手くいけば義体とは違う選択肢を病人や怪我で身体の一部を失った人間に提供できる

まさか…少佐、シェインが自分のクローンを作っていたなんて考えているんじゃ…)


人工的に人間の身体を新たに作る…その技術が行き着く先は…


(さぁ…そこまで考えるほどの判断材料はまだないわね

シェインのデータが管理されているのは、研究本棟の地下最深部か…)


素子はシェインの検索を終えると、モリタニに関する情報を探す


(モリタニは…イシカワ。モリタニに肉体が不能になる病歴はあるか?)

素子の問いに、やや間があり


(調べたが、主だった病歴はないな)


(そうか…)


ならば何故モリタニが、生体パーツの研究被験者に登録されている…


素子は有線を外すと、管理室を後にした

この部屋で手に入る情報はない


「あとはシェインが関わった研究室に行くか」

素子は光学迷彩を展開し、研究本棟最深部に向かった





研究本棟の地下へは素子はエレベーターシャフトをワイヤーを伝い降下する



「ここか」


素子が侵入した研究室には、ところ狭しと様々な機会が置いてある。

そして何より目を引くのは、研究室の中央に設置されているカプセル型のベッドのような物だ


楕円形の形のカプセルは上部の強化ガラス部分がハッチになっており、そのハッチが閉じれば完全密閉のカプセルベッドになる仕組みだ


中には何も入っていない…というよりこの研究室自体、今は使われていないようだ。



「何を研究していたんだ」

素子は呟きながら、端末を立ち上げデータを確認してみる


だが中央管理室で得たデータ以上の物を、この研究室では分からなかった

正確にはデータが消去されているのだ


その時だった…


素子がいる研究室に近付く足音があった


誰かくる…


素子の中に緊張感が走る
研究室のドアが開く


「誰かいると思ったが気のせいか…」


入ってきたのは2人の男性

2人とも白衣を着ており、研究所の所員であるのは間違いない


「ひょっとして比良坂さんが帰ってきたのかと思いましたよ…」


2人の内、若い方の研究員が話す


「主任が戻ってくる筈がないさ。

彼女はシェインさんの願いも会長の考え方を否定したんだ…」


年上の研究員がそう返す


「しかし本当に良かったんでしょうか…

あの娘のにとって…」

「それ以上言うな…

会長が決められた事だ。
そんな事より、片付けを始めるぞ」


年上の研究員はそう会話を止めさせ、研究機器の片付けを始めた






素子はそんな研究員2人のやり取りを上から聞いていた


研究員が入ってくる直前に、素子は部屋の上部にあるダクトから天井裏へと身を隠した



作業を黙々と進める2人の研究員…

年上の方が、若い研究員に聞こえないように呟いた


「確かにこれで良かったのか…

あの人は…」


素子にはその呟きが聞こえた














トグサが降り立った福岡空港は雨が降り続いていた


「やれやれ、新浜に戻るのはまだ掛かるな…」


本来新浜空港に到着する筈が、ターミナルでの爆発テロにより飛行機が福岡空港に着陸場所を変更したのだ


「アズマは大丈夫だろうか…」

トグサは着陸直前に9課からの電通で状況を把握していた


一刻も早く9課に合流したかった


この手元にある資料が役に立つ筈だ



(課長…福岡に到着しました

新浜へは今から超高速道で向かいます

ロンドンで話した資料も手元に)


(そうか。分かった。
9課本部で待っておる)


(アズマの容態は?)
トグサにとっては一番今気掛かりだ


(手術は終わった。

後は奴次第だ)


(そうですか…)







荒巻はトグサの電通を病院から受けていた


荒巻の目の前には、集中治療室にいるアズマがベッドに横たわっていた


手術は終わり、依然予断を許さない状況ではあった。

執刀した医師からも、助かっても全身義体の可能性もあると言われている


今は必死に戦っている部下を、ただ見守る事しかできなかった。


これまでにも何度かあった光景だが、どんな仕事よりキツイ

部下が助かるのを祈るしかできない




不意に荒巻の後ろに誰かが近付くのを感じた

「容態はどうだ?」


よく聞き慣れた声だ


「今は奴の生命力にかけるしかない…

わざわざ見舞いにきたのか久保田?」


荒巻が振り返ると、眼鏡を掛け髭を生やしている防衛省・情報部の久保田が立っていた


「アズマは俺の紹介で9課に入ったからな。
大丈夫だ。奴ならな。」


久保田の言葉に荒巻は無言で頷く。

そこで荒巻は、久保田の後ろに一人男が立っているのに気がついた。


荒巻の視線で気がついたのだろう


「紹介しておこう。今度ウチに来た沖田だ。
若いが中々キレる」


沖田と呼ばれた男性は荒巻に向けて軽く頭を下げた


年齢は30代中盤か…


理知的な目に通った鼻筋。


なるほど…確かに有能な印象を受ける


「お前の後継者か…」

荒巻は彼を見て、久保田にそう漏らす


「お前らの所ばかりに有能な人材を持っていかれてはかなわんからな」


だが如何に久保田が目をかけてる若手でも、アズマの見舞いだけなら連れてこないだろう

「何か起きたか?」


荒巻は久保田に本来の目的を確認する


「ん…いやまだ起きたという訳じゃない。

だが、ちょっと気になる情報があってな。

シェイン委員長の失踪に関わっているかは分からんが、一応お前の耳に入れておいた方がいいと思ってね。

沖田。」


久保田は後ろにいる沖田を呼ぶと、沖田は荒巻の前に進み出てファイルを荒巻に渡す


「これをご覧下さい」























9課ビル内にある検視室


そこには一人の男性が横たわっていた。


空港ターミナル爆破事件の第一容疑者であり、バトーの目の前で射殺されたモリタニだ


バトーは物言わぬ死体になったモリタニを見つめる。


「大したものだな。

狙撃した犯人は、モリタニという人間をよく知っている」


鑑識・クロマの言葉にバトーが訝しむ


「どういう意味だ?」
クロマはモリタニの検視結果が書かれた書類を手に…


「モリタニの義体化率は70パーセント。

心肺機能こそ義体化していないが、全身義体に近い。

しかも軍時代に施された義体だ

一般に出回るような代物じゃない

これを狙撃するなら的確に狙わないとな

バトー。君が狙撃手なら全身義体の人間を狙うなら何処を撃つ?」

いきなり質問され、バトーは戸惑うが


「ん?一発で仕留めるなら頭だな」

全身義体化した人間は下手に弾が当たっても、倒れない場合がある

特に軍などで使う義体なら、脳殻を撃ち抜くなどするしかない


「そうだ…普通ならそうする。

モリタニの身体の義体化率から考えるなら、彼も頭部を狙うべきだ
だが、頭部は狙われていない。

綺麗なものだ」


「何が言いたいんだ?」

バトーは少し苛ついた声をだす

目の前で手掛かりを消され、その下手人が分からないままなのでバトーも気が立っていた。


「まぁ、聞いてくれ。
これはモリタニの脳殻だが…」


クロマはイラつくバトーをなだめ、モニターに脳殻の映像を映す


「彼の脳殻なんだが、材質はカーボンナノファイバーにチタン合金なので構成されている。

この脳殻を撃ち抜こうと考えたら、微声拳銃程度では無理だ。

ましてや、タチコマのセンサー範囲外から狙撃している。」


「つまり、どういう事だ?

モリタニは小口径程度の銃では、ヘッドショットできない…」

バトーはまだ要領を得ていない。


「うん。そこでさっきの話しに戻す。

頑丈な脳殻でヘッドショットができない相手を、小口径で狙うならどうするか…

義体化されていない生身部分…

彼の場合は心肺機能になる

モリタニは心臓の右心房と左心房に一発ずつ受けている。」


クロマの説明にようやくバトーが気づき始める


「撃った奴はモリタニの義体化レベルを知っていた…」


クロマは頷き

「あぁ、でないと遠距離からわざわざ心臓を狙う説明がつかない。
始めから心臓を狙わないと死なないと知っていたのだろう…」


こちらに気付かれず、しかもこれだけの芸当をする使い手…


まさか本当に中国の…

バトーの疑惑がそこに向いた時だった


(バトー。少佐は?)

荒巻の電通が入る


(課長。少佐ならまだ研究所の中だ。

今サイトーが向かっている)


(聞いてるわ、課長。
その感じ…何かあったって感じね)
素子は研究所を後にし、乗ってきた車に戻る途中だった


後ろにはもう一台車

サイトーだ


(まずはこれを見てくれ)

荒巻は一人の男性を電通で繋がっている全員に見せる

髪を後ろに全て纏め、オールバックにしている男性が映る


アジア系の顔立ち…

だが何より目を引いたのは彼の右目だ


義眼なのだが、普通に物を見る為の義眼とは明らかに違っている

四角の形のアイパッチは、何処と無くサイトーの鷹の目を連想させる


「こいつ…」

サイトーはその映像に反応する


(サイトーは知っているか。

奴の名はクワン・リー。

全世界に国際指名手配を受けている戦闘サイボーグだ)


名前は聞いた事がある。

小説の設定にありそうな金の為なら何でもする殺し屋だ。


「千里眼のリー…」

サイトーは呟いた

その声には驚きと、若干の恐怖からくる怯えが入っていた
「サイトー?」

初めて見るサイトーの姿に素子も戸惑う


(なんだ?千里眼って…)

バトーがサイトーに電通で尋ねる


(奴の義眼の名前さ…
俺の鷹の目と同じ超長距離狙撃用の補助システムだ

衛星とのデータリンクシステムで狙撃対象の情報を得る

だが千里眼の違う所は、衛星からの情報だけでなく狙撃対象自体の動きも監察する

人体の体温や周囲の空気の流れ、その他の狙撃対象の直接データからその物の動きを予測把握する…

鷹の目の1.5倍の射程を誇る…

それが千里眼だ)


サイトーの説明にバトーは感心したように

(大したものだな。
そんなのに狙われたらオチオチ外も出られん)



バトーの若干能天気な感想に


(リーに狙われたら間違いなく命はない…

大戦時…一度だけ奴に遭遇した事があるが…)


珍しく弱気なサイトーに一同は黙り込む


「奴にはポーカーフェイスは通用しない…」

サイトーは素子にしか分からない呟きを放った


(で?その殺し屋はどうしたんだ?)

バトーは荒巻に話の続きを促した
幕営地に到着した装甲車から一人の男が降り立った。

「ご苦労様です」
隊長と呼ばれる自衛軍指揮官は敬礼をした。

「・・・」

男は隊長を無視し、指揮車両の端末へ自分を接続した。

「ふん、所詮AIだな・・・」
不機嫌な隊長をよそに、男・・・AIは無表情で装甲車運転ソフトを破棄し、代わりに指揮管制システムのダウンロードを開始した。


「彼は?」
隊長のそばで指揮車両のメンテナンスをしていた隊員が問いかける。

「あ?あれは極秘の支援AIだ・・・メガテックボディ社の容量では表情や言語、聴覚まで間に合わなかったようだな」

「なぜ今更AIなのですか?」
部下の問いに隊長は煙草をふかしながらゆっくりと話し始めた・・・

「わが国の迎撃システムは不十分だ、発見したミサイルに対して有効な迎撃はミサイルしか使用できない・・・」

「そのための管制システムやイージス艦なのでは?」

「配備されていないところはどうなる?」

「それは・・・」

「もしもだ、通常兵器で・・・そう、歩兵が携帯兵器で大陸間弾道弾を迎撃できたら?」

「それは・・・申し訳ありませんが・・・不可能では?」

「その実験を行うのだよ・・・あのAIでな・・・」




朝焼けがまぶしい・・・誰も知らないところで危険な訓練が始まろうとしていた。



「隊長、各部隊への接続が完了したようです」
通信兵は報告を行う

「あとは姫君のお言葉待ちか・・・」
隊長の一言にコーヒーを運ぶ一人が反応した。

「姫君?ですか・・」

「ああ、このAIはパスコードがなければ一番重要な管制システムが起動しない、そのコードは俺にも良く分からんが・・・」

「姫君が知っている?ですか」

「そうだ・・・面倒だがこれも作戦のうちだ、仕方ない・・・」

「仮想的國ミサイルは何時発射なのですか?」

「これは訓練だ、システムが完全に起動してからになるだろう」


日本海沿岸地区、海岸沿いのパーキングエリア・・・

ここも自衛軍の幕営が行われていた。

「ふん、この国ではキャンプも軍隊も一緒だな・・・」

やせ顔のサイボーグは口を動かさずに呟いた。
義体である・・・といっても自衛軍ハイブリッド義体のような「動かせない」顔ではなく、「動かさない」ようである。

男は工具箱のようなものを開く・・・その中には分解されたライフルがあった。

ワルサー社の狙撃銃・・・以前少佐が国連軍に所属したころ持ち歩いたライフルに似ている。
決定的な違いは銃口のサイズと、銃身の長さ。
少佐は308口径、ショートバレルであったのに対し、男の組み立てる銃は50口径、ロングバレル・・・サイズが一回り大きく、重量もかなりのものである。

心拍数を調整、呼吸を一定速度まで落とす・・・右目が開き、座標の測定が始まる。

「3・2・1」



弾丸は指揮車両の通信システム・・・接続されたAIを凹ませ、そのまま車両そのものまで貫通した。


「?」

隊員は「ガン」という変な音に反応した。

次の瞬間銃声とともに爆発が起きた。








(クワン・リーは2週間前に日本に来日した可能性がある…)


荒巻の言葉にバトーが顔しかめる


(ちょっと待てよ。

そんな危ない奴が入国していて、なんで俺達に情報が下りてこない。)


バトーの言葉は9課の全員の気持ちを代弁していた


(確証がないのが理由だ。
入国時にそれらしき人物が空港の監視カメラに写っていた事以外、足取りが掴めない…

最初に把握した防衛省の情報部も、入国以降の情報が皆無だったそうだ…)


バトーは面白くないが、一応引き下がる事にした。

悔しいのは自分らだけではない…

課長もそうなのだ…



(でも、それならこのタイミングで情報が?)


素子の疑問に荒巻は…

(リーが入国した2週間前…その3日前にリュー・シェインは日本に亡命しようとした)

(課長は繋がりがあると?

確かに偶然にしては良くできているけど…

繋がりを示す物は何もないわ)


だが、ここにきてバトーが反応した


(いや…モリタニへの狙撃…これが繋がりじゃないか?

課長。奴は軍人上がりか?)


バトーの質問に、荒巻は久保田達から渡された情報を改めて見直す

(ん?確かに元軍属だ。

中国人民解放軍に所属していた)


(バトー…)

繋がりが見えたのか、素子にも緊張感がでる

(あぁ…モリタニを狙撃した犯人の獲物は、人民解放軍の特殊部隊が好んで使うものだ)

(だとしても、リーの目的が読めないわね…
シェインが暗殺の目的なのか…それともシェインが雇ったのか…)



まだパズルが組み合わさるには、ピースが足りなかった…


(ともかく、今はヴェノムを手掛かりに捜査をするしかあるまい…
クワン・リーは今のところ久保田達が探す事になる。

我々の任務はリュー・シェインの行方だ。

少佐、研究所での手掛かりから何としてでもシェインを見つけ出せ。)


(了解。
イシカワ、ヴェノムインダストリーの研究員に比良坂という人間がいないか調べろ。

どうやらシェインが関わっていたの、その人物らしいわ。

それと課長。ヴェノム自体にも探りが必要かもよ。

会長自体も確実にシェインと関わりがあるみたいだし…)
煙と炎の熱…


しかも、この匂いは硝煙独特の物も混ざる

金属が熱で溶ける際の嫌な匂いもある為、自衛軍の隊員達は顔をしかめていた…


だが、匂いだけで彼らがしかめている訳ではない。


「生存者は?」

指揮官なのだろう辺りを見回しながら、後ろから駆け寄った隊員に声をかける


「現在のところ3名です。

小隊長の浜島三尉、技術部の二階堂一尉の遺体を確認しました…

死者21名です。

他行方不明が数名いますが、炎上している車両の火が強く確認が…」


彼らが到着した時…

幕営は地獄絵図そのものだった

車両は全て炎上し、各種装備はどれも破壊されていた


今回の極秘実験は万全を期す為、10分事の定時報告を入れていた。

もし一度でも連絡がなければ、即座に輸送ヘリにより完全装備陸自1個小隊が5分で駆けつける


無論、実験に参加している部隊にもそれ相応うの装備が施されている

例え何者かに襲撃されても、応援がくる5分間持ちこたえればいい…



だが実際に定時連絡が途切れ、応援部隊が到着した時…

彼らが見たのは死屍累々の隊員と、破壊された装備・車両だった



襲撃した連中はどれ程の装備で襲ったんだ…



応援部隊の指揮官にはその疑問があった。


最後の定時連絡直後に襲われたとしても、敵は15分で襲撃・撤収をやった事になる



「AIは?」


「身体はありました…
ただニューロチップが入っている頭部が見つからず…

持ち去られた可能性も…」


部下の青ざめた表情が事の重大さを物語る


あれを奪われたら…


「直ちに幕僚総監部に連絡しろ」


誰にも予想できない事態が起きようとしていた…
「やはり始まったか・・・」
久保田は残念そうに受話器を置いた。

沖田も事情を察知したようであった。
「作戦の中止手続きを行います」

「いや、このまま続けさせろ・・・」
「それでは明日発射される仮想敵国のミサイルは・・・」

「弾頭だけ模擬演習用に交換だ」

沖田は久保田の判断から全てを理解した・・・この人は見た目とは違って平和主義者などではない、根底にあるのは公安9課長と同じく「攻性の組織」であることを・・・


久保田は淡々と続けた
「沖田君、自衛軍の装備は世界でもトップクラスだ、しかし先制攻撃に対する迎撃作戦というものを知らない・・・だから今回の作戦はたとえ捨て駒になっても行わなくてはいけないのだよ・・・」

「しかし、幕僚への報告では既に2つの基地が破壊されて・・・」

眼鏡を拭きながら久保田は言葉を遮った。
「軍人が攻撃に耐えられないというのは・・・恥と言わずして他に何と言う?」

「それは・・・」

「様子を見よう。何でも手伝ってやれば自分の頭を使わなくなる・・・」
朝8時。


彼の出勤時間は正確だ。

いつも同じ時間に出勤する

妻が亡くなった日も同じ時間に出勤した。

ヴェノム・インダストリー会長、進藤雅信は昨日上がった部下の報告書に目を通す。



そこで…


「会長…公安9課の荒巻という方がいらしております。」



きたか…


進藤に特別驚きはない。

いつかは来るだろうと考えていた。



「お通ししなさい。」

進藤は静かに秘書に内線で指示を出すと、会長室の窓からの景色を眺める。

新浜の全景が見える…

ヴェノム・インダストリーの本社の53階会長室


やがて静かにドアが開く


「失礼します。」

荒巻は静かに挨拶をする


「お待ちしてました…
と言うのはオカシイですかな…」


「私が来るのを予想していた…

そんな所ですか」


荒巻は敵意こそないが、最大限の警戒感を持って進藤と対していた。



二人の男の見えない心理戦が始まった
「作戦続行?」
隊長の声に隊員たちはざわつき始めた。

「どうしました?」
副隊長であろうか、伍長の襟章の男が声を掛ける。

「AIの破壊とチップ強奪にも関わらず・・・作戦は続行だ」
隊長と思われる「少尉」は部下へ告げた。


「しかし、AIのデータが無ければバックアップなしで迎撃訓練を・・・」
隊長は伍長の声を遮った。
「分かっている、作戦は困難であり、場合によってはここも狙われる。だが、我々は軍人だ・・・大戦時もこういった邪魔は入ったものだ・・・」

暫くして隊長の決断が下った。
「実弾を装填のうえ、A分隊は全方位に対して警戒態勢、B分隊は迎撃訓練の準備を予定通りに進めろ、AIへの狙撃に注意」

殺気立った空気が幕営地へ流れ始めた・・・
福岡難民居住区

繁華街とはお世辞にも言えないごちゃごちゃした店先に義足の老人がだるそうに座っている。

「豊田、相変わらずの物臭ぶりだな・・・」
白髪の老人は口元に笑みを浮かべながら義足の老人へ日本酒を差し出す。

「ほう、久保田か・・・お前はいつも上等な酒を持ってくるな・・・おい、グラスを3つ持って来い」
豊田と呼ばれる老人は、従業員らしき東洋人に声を掛けた。

「2つの間違いだろう?」
白髪の老人・・・荒巻洋輔は店先に並べてあるイスの埃を払いながら言い放った。

「ふん、そこの壁際で、薄気味の悪いのがなぁ・・・おい!出て来い、幽霊軍隊野郎が。こっちで一杯やらんか」

相変わらず態度も口も悪い老人である。

程なくして3つのグラスに今となっては奇跡としか言い様の無い高級な酒が注がれた・・・と同時に光学迷彩が解け、一人の軍人・・・ヤンが現れた。

「まずは、乾杯だな。」豊田はこういうときだけ上機嫌である。

「百戦錬磨の幽霊軍人が、何しに来たんだ?」
豊田の問いにヤンは答える。
「ちょっと人探しに・・・」

「将軍閣下か?それともおっかねえ狙撃手か?」

「それは物騒だな」洋輔はつまらなそうに呟いた。
荒巻が進藤のオフィスを訪れて5分ほど…


荒巻は出されたお茶に一切口を付けていない。

無言が部屋を支配していた。

進藤は荒巻から渡された数枚の書類に目を通していた。

進藤が全ての紙面に目を通さない限り話は始まらない訳である。


最後の書類に目を通した進藤は

「なるほど。貴方がここにいらした理由が分かりました。

確かにモリタニ君は我々ヴェノム・インダストリーの研究に関わっていたのは認めます。」


「認められるのですか?
進藤会長、彼は国際的重要人物の護送中に爆破・拉致をした疑いがある容疑者です。

彼との関わりは、この一連の事件への関わりにも疑いがでます。

それもご承知か?」


荒巻の言葉は静かだが、逃げ場がない迫力がある

だが進藤はその迫力を意に介さず

「いいえ。ご存知かとは思いますが、ヴェノム・インダストリーは戦争に繋がる技術の開発・研究は行いません。

それが私の経営理念でもあります。

確かに人工的に有機人体パーツの生成は、道を間違えば戦争や、もっと危険な世界への技術転用になりえます。

だからこそ、我々は自らの研究に厳しいルールを課している…

宗教観念、人権上のモラルなどの色々な非難を受ける。
そんな我々は争い事には決して手を貸さないの…それが誇りなのです
」


進藤は会長室から見える景色を眺めながら、荒巻に語りかけていた。

「荒巻さん。

モリタニ君は大戦時に従軍した兵士が患うシトレンゼ−症候群の患者でした。

彼はシトレンゼ−症候群の治療研究の一環として、我々の治験に参加していたのです」


「なるほど…」

モリタニがヴェノムで何をしていたのかは、推測すらできていない。

進藤の言葉を裏付ける物も、また疑う証拠もない。


「お疑いなら資料を用意させます。」


「お願いしましょう。
それと、もうひとつ…」

荒巻はもう一つの重要な質問をした。


「我々はあなた方とリュー・シェイン氏との繋がりがあるとの情報を掴んでいます。

それについてもお聞きしたい」


進藤は外の景色から、視線を荒巻に戻した。
「そこまでお分かりなら、シェインが身体がどうなっているか…

ご存知の筈だ」

荒巻は目を細める。

日本政府でも恐らく知らない…

諜報機関の類いでもトップシークレットな事を知っているのか…

荒巻はゆっくり口を開いた

「遅効性電脳硬化症」
ヴェノム・インダストリー本社から出てきた荒巻は、一台の車に近づく

「シェインが電脳硬化症とは知らなかったわ。

しかも遅効性電脳硬化症って、最近厚生省が特定難病になった電脳硬化症の変異体よね?
私達が知らない事を課長は知っていた訳…」

素子の言葉に助手席に乗り込んだ荒巻は

「嫌味を言うな。お前たちが知らない事だってある。

逆にワシが知らない事を、お前たちが知っている事だってあるだろう。


「あら〜私は課長には隠し事はしないわよ。
報告が遅れるだけでね」

荒巻は軽く苦笑すると

「で?バトー達は?
」


「モリタニの相方だった自衛軍の鹿島裕也という人物の行確に入ってるわよ。

あと少しでトグサも合流するはず」


素子は上司に報告すると


「それで?進藤会長をどう思った?

一代で医療界に革新を与えた大企業のトップらしく、堂々としてたみたいだけど…」


盗聴でやり取りを聞いていた素子は荒巻に感想を述べた


「彼は嘘は付いておらんだろう…

嘘はな…

だが全ては語っていない」


荒巻は車の窓からヴェノム本社を見上げた。






会長室では進藤がデスクに座り、一枚の写真を見ていた。

そこには二人の女性が微笑んで写っていた。

「荒巻は私を罰する為に、君が寄越したのか…

分かっている…庚…君が最も望んでいない道を、私は歩もうとしている」


カノエと呼ばれた人物は、写真の二人の女性のどちらかは分からない…


だが進藤の顔は何処か悲しげだった
「斥候に出た3名、戻りました」
自衛軍兵士3名は隣の幕営地を「確認」するために1時間前に出発していた。

「状況を報告しろ」
隊長は身を乗り出し、3名の乗った軽装甲車の中へ呼びかけた。

装甲車から降りた1名が詳細を報告する・・・


「2〜3名の狙撃だと」
隊長の驚きの声に、周囲の隊員の視線が集まった。


4名は装甲車の脇で暫く会話をしていた、その後何か決まったようで3名の兵士は自分の分隊へと駆け足で戻った。

「総員そのまま聞いてくれ」
隊長は肉声で隊員へ命令を行う

「敵は2〜3名の狙撃兵と思われる、目標はAI、標的にされやすい精密機器は車両内部で扱うこと。全車両に多目的装甲版を装着、さらにリアクティブ・アーマーを装備。」

「非常事態発生」から1時間後・・・迅速な「敵」の分析と対応といえる。

隊長は独り言を呟いた
「荒巻先生なら、次の手はどうするかな・・・」
バトーが3本目のタバコに火をつけた。


煙を吐きながら、車の運転席から望める景色に視界を転じる。

新浜の港南地区にある繁華街。

特にここは港南中華街と呼ばれる中華料理の飲食店が多い。

ココナッツのジュースを飲みながら、楽しそうに前を歩く若いカップル


助手席のドアを開けトグサが乗り込む。


「やれやれ〜せっかく日本に帰っても、家族にも会えず…

仕事とは…働く日本人の悲劇の典型だな」


そう自分を評する。


「なんだ?カミさんはお前の仕事を知ってんだろ?」


「子供がな…」


バトーはあからさまに落ち込むトグサの顔に、久しぶりにロンドンから帰国して再開した時の姿を思い出した






荒巻に渡して欲しいという資料をプロトに渡したトグサだが、更に別に荷物があった


30センチ四方の箱が、綺麗に赤い包装紙にラッピングされた…明らかにプレゼントと呼ばれる物だ


「他の荷物と一緒に自宅に送ればいいだろう?」

バトーの呆れた声に


「娘と息子へのサプライズなんだ。しょうがないだろ?」


これからテロリストと関連性が問われる人物に張り込みをかけるのに…

何にたいして「しょうがない」のか…








バトーは車の後部座席に置いてある赤い箱ををチラ見する


「で?そのカシマはどんな感じ?」


トグサは買ってきたココナッツジュースを口に含む。


「そんな甘い物を…

バトーは同じく買ってきたコーヒーを受け取り

「動きなしだ。店の店長らしく頑張って働いてるようだ…」


(タチコマ!変化なしか?)


バトーははす向かいにある中華料理店の屋根に光学迷彩を展開して、カシマを観察しているタチコマに確認する

(今のところ異常ありません。)

熱源・磁気センサーなどで中華料理の店内を写しているタチコマは、店の外からカシマの行動が手に取るように分かる


鹿島裕也は元・自衛軍の軍人だ

大戦末期、モリタニと作戦行動取ったこともある

それもあの根室上陸作戦だ


退役した後は、日本で有数の中華チェーン店の雇われ店長だ


(課長。いっそカシマを引っ張りませんか?)

バトーの言葉に


(ただ、モリタニの同僚とだけでは引っ張れん)


「それに繁華街でドンパチは困るだろ?」

トグサも応じる
「ふん、ようやく仲間がやられたことに気づいたようだな・・・」
人相の悪い軍人風の男2人組・・・その隣には義眼の狙撃手が光学スコープを覗く。

1人の男はドラグノフ狙撃銃を構える・・・と言っても光学サイトは自動電子制御・暗視・各種測定機能が備わったもので、ドラグノフであることを確認できるのはフロントサイトと木製のストックぐらいであった。

「千里眼っていうだけあって、俺たちとは射程が違うな・・・」
もう一人の男はモーゼル社の狙撃銃である。

「リー、今度はおれが始めてもいいよな?」
ドラグノフの男が訊いた。

リーは「勝手にしろ」と言いたげな顔をし、無視した。



狙撃手はドラグノフの照準を装甲車に合わせると、引き金を引いた。

着弾と同時に派手な爆発が起こった。
「見ろ!俺だってこんなもんだ」




「着弾!12時半の方角、対人ライフルの特殊加工かと!」
爆発したのはリアクティブアーマーであった。

「A分隊、装甲車を盾にして狙撃の方角へ一斉射撃、3名を残してやつらに照準を合わせられないように野営用投光機を照射。B分隊は警戒をしつつ、グレネードで弾幕を張れ!」

隊長の声とともに掃射が開始された。




「やばいぞ!どうする?」
つい今しがた誇らしげにリーを笑った狙撃手が狼狽する。

「撤収だ、炸裂弾が飛んでくるぞ・・・」明らかにリーにとってこの2人は邪魔者であった。

幕営地から紫煙がのぼり、サーチライトの明かりが照らされた。
3人の狙撃手は林から立ち去った・・・


(間違いないな?タチコマ)

バトーは念の為に再度タチコマに確認する


トグサは黙って横目でバトーを見ていた


(はい。間違いありません。バトーさん達の左にある店舗屋上に熱光学迷彩を展開した監視者が…

電通は常時暗号パターンを変えてます。

ヒシイ式変換電通です)


「ヒシイ式って…」トグサが思わず口にだす

特殊な…しかも日本の政府機関しか使わない電通だ…


「一体どこの…」

トグサは再び呟く


(少佐、課長…どう思う?)


車でバトー達に合流しようとしていた素子と荒巻は

(リューシェイン絡みで、同業者が張っててもおかしくないけど…
だとしても…)


素子の電通に荒巻も

(確かに…分かりやすく居るな)


(暗号パターンの変換シフトで、どこの同業者か分からない?)


だがタチコマは…

(すみません…電通傍受がやっとで…)


「なぁ…まさか、わざと俺達に気付かせているとか…」

トグサは全員が考えていた事を代弁する


(バトー、カシマに動きは?)

(いや…気楽にレストランで注文をとってる)


素子は
(トグサ…お前ならどうする?)

9課の隊長であるトグサにふる

(知るべきですね。連中が何なのか…

しかも我々にわざと気付かせてるなら尚更だ)


素子は後部座席の荒巻に

「課長、総理から全権を任せられているんでしょ?」


「ん?あぁ…、仕方あるまい」


課長は直ぐ様、素子の言わんとしてる事を理解した

(挨拶にいけ。これは我々の仕事だとな)

荒巻の指示に


(了解。親睦を深めてくる)


バトーは返信すると、トグサと各々の拳銃に初弾を装填する


(タチコマはそのままカシマを張れ

パズ一緒に挨拶に行くぞ)
おおよそ諜報機関やその親類達は隠密行動が定石だ

いや死活問題と呼べるだろ

相手に存在を知られた時点で、ありとあらゆる面から終焉を迎えることになる


今まさに取り押さえられた彼らがいい例と言えるだろう…


バトー、トグサ、パズにそれぞれ組伏せられた3人の黒服は、公安9課が自分達より高度な技術をもった組織だと痛感させられた…



「お前ら〜どこの回しもんだ」


ヤクザかよ…トグサはバトーの柄の悪いセリフに毒づく…

バトー達はそれぞれが、思い思いの体術で相手を組伏せていた

共通していたのは3人とも黒服のこめかみに銃を突きつけた事だ…


「なぜ…分かった」

バトーの下になってる長髪ポニーテールの黒服が呻きながら呟く…

「あぁ?てめぇらがワザと俺達に存在を嗅ぎつかせたに決まってんだろ!

暗号しておきながら、わざと傍受させた電通…

ただ光学迷彩を展開しただけの身の隠し方…
気付いて欲しかったんだろ。

さぁ!望み通りにしてやったんだ。

言え!何が目的でカシマに張り付いてる。

お前らは何処の所属だ」


バトーは長髪黒服のこめかみに突きつけたFNハイパーカスタムを、更に強く相手に押しつける


「くそ…我々の擬装は完璧だと思ったのに…
こんな…」


自分が組伏せているスキンヘッドの言葉に、トグサは眉を潜める


「待ってくれ…お前達…本当に気付かれないと思ってたのか?」


トグサは思わずバトーと顔を見合わせる…


どうやら、我々にわざと存在を知らしめたようではないらしい…

9課が優秀なのか、彼らが未熟なのか…


この際どうでもいいが、この程度の隠密行動で気付かれないと考えたなら、どこの機関とは言え由々しき問題だ

「お前達は何者だ?」

トグサが改めて尋ねる…

口を割らなければ、脳潜入する事になるが出来れば避けたい…


だがトグサが思いが通じた訳ではないだろうが…

「我々は…警察庁外務監視室だ…」

スキンヘッドは苦々しく呟いた


「外監だと〜?」

バトーが聞き返す

警察庁外務監視室…

警視庁外事課とは別に警察に存在する、外国から日本への犯罪などの取締り監視をする部署だ


「その外監が何のようだ?」

バトーのセリフは次の驚きを呼ぶ事になる…

「我々は…お前達公安9課を監視にきた…」

バトー達が警察を取り押さえるという茶番劇を、中華街の古びた店舗の屋上を舞台に演じる羽目になった光景を約300メートル離れた場所から見つめる目があった…


「モリタニ程度を仕留めても、リーには認められんからな…」


狙撃ライフルを構えた男は右目についてる千里眼を、一瞬なでる…

コイツなしででもやってやる…


左目でスコープを覗くと、狙いを定める


そしてゆっくり引き金に指をかける

スコープの先にいる標的…バトーを撃つ為…
辺りに乾いた火薬音が響く

とほぼ同時に金属が金属を弾く音がトグサの耳に届く


「アイテ!」聞き慣れた…そして場違いな声…


「タチコマ!」

バトーは叫びながら、タチコマを盾にして発砲された方向を伺う。

トグサとパズも倣ってそれぞれ貯水タンクと物置に隠れる

「撃った奴は補足できてるか?」

既に3人が拘束したお粗末な警察官3人は解放していた。

狙われたのが誰だか分かっている

バトーは戦場にいた頃のあの懐かしい高揚感と不快感を感じていた…


くそったれ…狙撃されるのは、久しぶりだ
いつ感じても胸くそが悪い…


タチコマはセンサーをクルッとバトーに向け
「無論です!二度も逃しはしません」


バトーは後ろを確認する。

3人の警察官もそれぞれ身を隠していた

どうやらそれぐらいの技術はあるらしい


(トグサ、パズ。タチコマからの位置情報を確認をしろ。俺を狙ってる隙に確保するんだ。
9課を舐めた奴らを思い知らせてやれ)


(おい!正気か?相手はお前を狙ったんだぞ?)

トグサは反対するが…


(だからこそだ!このままボヤボやすると、また逃げられるぞ!それでもいいのか?)


バトーの言葉は一理ある

だがいくらバトーとは言え、クワン・リーを相手に…

昔のトグサならまだ躊躇っただろう…

だが少なからず指揮官として経験を積んだトグサは…


(分かった。パズ、左側からだ。俺は右側から行く。)




バトーを狙撃した相手はクワン・リーではない…

そして彼は、決してバトーのみを狙った訳ではない。

たまたま自分にとって3つの標的の中央にいただけだ…

狙いは公安9課自体だ…

おそらく今ので自分の位置は知られた。

今回は逃げられない。

モリタニの狙撃の際は、素早く行方をくらました。


だが、今回は標的を思考戦車に阻まれた…

射撃した次の瞬間には思考戦車が自らを盾にしたのだ。


狙撃手である俺を阻止せずに、対象を守ったのはそちらの方が早いと判断したのだろう…

「利口なAIだな…」
クライアントとリーからは「9課と対する際は、最大限の注意を払う必要がある…」

だが今の彼にはその警告の本当の意味が分かっていなかった…

いや…分かっていたが全身を巡るアドレナリンが、その警告を忘れさせた。

彼…ロトリはライフルに次弾を装填し次に備える

それは彼らと9課の第一ラウンドの始まりの合図だった
(バトー状況は?)

素子は車を走らせながら電通を飛ばす


(警視庁の外監の連中を抑えたところで狙撃された…
恐らくクワン・リーだろう。
今トグサとパズが周り込んで確保する)


(バトー!リーは千里眼を持っている。下手に囮とかになるな。
狙撃で奴から逃げるのは至難の技だ)

珍しくサイトーが焦った感じだ


(分かってる。だが9課を甘くみた代償を分からせてやる)

バトーの問いにサイトーは一言呟く

「お前は知らないんだ…奴の恐ろしさを…」

「課長…」

素子はバックミラー越しに後部座席の荒巻を見る

「分かっておる…警視庁外務監視室が我々を行確していた…
そして、その矢先にこの狙撃だ…
どうやら政府の中で9課に隠し事があるようだな。」


「リューシェインの失踪…単なる中国の大物失踪だけではないかもね…」


素子の言葉に荒巻は目を細める…

「まさか…このまま状況に流されないわよね?」


「分かっておる。今回の事件は9課の存在意義に関わる事案だ」


(イシカワ。警視庁の外監の過去24時間の動きが知りたい。)


(ずいぶん無茶を言うな…曲がりにも諜報機関の端くれだぞ。それにウチらを監視してるんだろ?
そんなの尻尾を掴むのか?簡単にはいかんぞ)


(構わん。ハッキングや脳潜入してでも掴め!
ちょうどバトーの元に外監の刑事が3人いる)


(明らかな不正行為だな…まぁ、これが初めてじゃないが…)


イシカワは直ちに作業を開始した





素子達が自分達に降りかかる災厄の存在を感じ始めた中、トグサは屋根づたいに対象に迫っていた


タチコマから相手の位置情報は掴んでいた


(妙だな…狙撃してから何故動かないんだ?)


(まだバトーさんを狙っているのでは?)

タチコマが応えるが…


確かに仕留め損なった…

だが、だとしても同じ位置で頑張るのリスクが大き過ぎる


タチコマは対象の位置を、衛星を介して把握している

偽情報をかましているとは考えにくい


一方バトーはタチコマの影から、飛び出すタイミングを図っていた

(トグサ・パズ…配置ついたか?

俺が飛び出して奴が狙撃態勢についた時がチャンスだ。)


囮が出て、その隙に狙撃手を抑える…それがバトーの考えた作戦だ

だが…


奴らは最初に狙った奴を、まだ俺が狙っていると思っている筈だ…

だが9課の一人を仕留めればそれでいい…


俺が動かずに最初に狙った相手をもう一度狙撃しようとしている…
相手は俺が位置をまだ知られていないと考えているだろう…

それを逆手に取る。

俺を抑えようと迫る二人を、逆に仕留める。
俺に千里眼ある事を奴らは知らない

お前達が俺の位置を把握しているのと同様に、俺も貴様らの位置を手に取るように把握出来るんだ


ロトリはほくそ笑みながら、千里眼を展開する

左目にを覆っているアイパッチが左右に開く

昆虫のような複眼が千里眼の根本のシステムだ。

衛星からのデータリンク、また空気の流れ、大気中のチリ…その他様々な物理的に影響がでる全てのデータを千里眼は収集・解析・フィードバックする

「全てを見渡す眼」の名前がつけられる由縁だ


ロトリは自分が隠れる場所に周り込もうとする二人を察知した


動きを把握できても、一度に二人は狙えない…

先に仕留めるとしたら…右からくる奴だろう

それはトグサの事だった…
奴が物影から出てきたら仕留める…


ロトリは自分の相棒であるライフルをゆっくり構える…

千里眼からのデータによると右からくる人間は義体率が低い…

しかも義体化した箇所もまだ日が浅い

戦闘力という意味では3人の中で一番下だろう


「恐ろしいな…この千里眼…」

相手の位置だけでなく、得られる情報から相手の義体化レベル…そしてどの程度義体に馴染んでいるかも造作もなく分かる



悪く思うなよ…公安9課

雇い主からの指示だ


ロトリは迫る対象をまった…

出てくる・・・筈だった


だが…


カチャ

金属音ともに自らの頭に冷たい感覚が突如現れる


「狙いは悪くない…だが、与えられてるデータが本物かどうか少しは疑うべきだな」


ロトリはゆっくりライフルを地面に下ろすと、手をゆっくり上げる

ロトリの頭にはバトーが後ろから銃を突きつけていた


「馬鹿な…いつの間に…全く察知できなかったぞ」


「千里眼とやらに頼りすぎなんだよ」

バトーは話しながら、手早くロトリを拘束する


トグサはバトーが狙撃犯を確保したのを確認し銃をしまう


トグサは犯人が、敢えて場所を動かず罠を仕掛けようとしていると判断した。


サイトーの言う千里眼というがあるなら、それを使う筈


ならそれを逆手に取る…それがトグサが立てた作戦だった


「流石だな、旦那」


(お前達もよくやったぞ)


(エッヘン)(当然です)

タチコマ達は得意気に電通を返す


タチコマが千里眼の使っている衛星通信からの侵入ルートを見つけ、バトーが眼を盗む


「おいトグサ」

バトーの驚きの声にトグサは、電通から外界に意識を切り替えた


「こいつ…クワン・リーじゃないぞ」


「何だって!」


トグサはバトーが拘束している狙撃犯をよく確認する


髪の右前半分が白く、残りは黒髪のロン毛…
髭を蓄えている…確かに電通画像でみたクワン・リーとは特徴が違う


「なるほど…俺をリーだと思っていたのか…」

ロトリはゆっくりと話し始めた


「お前はリーの仲間なのか?」


だがロトリは構わず

「フフフ…リーはこんな物じゃないぞ。お前達は最悪の死神に狙われたのさ」
(課長…これは)


トグサは荒巻に電通を飛ばす

(うむ。事態は急をようするな。狙撃犯を直ちに連行しろ。
それと警視庁の外監の刑事も忘れるな)


(了解。カシマはどうします?)


(うむ。応援がくるまでタチコマに…)


電通はそこで途切れた

と同時にトグサの耳に甲高いかな切り音が襲う


「くっ…これは…」


強烈な音に耳を抑える

「逃げろ」


誰が言ったのか…それを確認はできなかった。

言葉と同時に「空間が歪む」…まさにその表現しかできない状態


そして次の瞬間には強烈な衝撃波がトグサを襲う


時間にして1秒もない…

だがトグサにはそんな刹那な出来事がスローモーションに感じた








もうすぐ車がバトー・トグサ達の現場に到着する…



大爆発はその時に起きた


「今のは…」

急ブレーキを踏んだサイトーは呆然と声をあげる



爆発の爆煙はバトー達の場所から上がっている…

あとわずかで到着だが、距離にして1km程はある

爆発により、通行人やお店の店員も店から出て、爆発した方向を見る


「今の爆発は…」「中華街の方だぜ」「ガス爆発か?」

走行中だった車もほとんどが爆発が起きた為か停車していた。

ドライバー達は車を下りて爆煙を見ている

素子達の車も他の車と同じく停車した


(バトー、トグサ、パズ。状況を報告しろ)

電通には応答がない


「課長、爆発の直前に電通が途切れたわよね?」


「うむ…とにかく現場へ向かうしかあるまい。」


荒巻の表情は険しくなる


「サイトー。このまま課長と車でいけ。」

素子は車を降りると


「課長…もしこの爆発が空港の時と同じだとしたら…」


「まだ結論を出すには早い。今は部下の安否を確認が先決だ」


荒巻の言葉に素子はうなずくと、反動を作る為に両膝を軽く曲げ跳躍をした

素子達のいる場所は中華街からは外れていたが、中華街同様に建物は一軒家タイプが多い。

自分だけなら、屋根づたいに跳躍して行った方がはやい


素子は現場に向かった
















自らの得物を分解しカバンに詰めると、タオはクワン・リーに声を掛ける


「大した事ないな。日本の軍隊は」


だが声を掛けられたリーは舞落ちる雪から目を離さず、また何も返さない…


「リー?聞いているか?」

タオは少し不満気に再度問いかける
タオにもう一回声を掛けられてもリーは雪から目を離さない


綿にも見える雪…

辺りを白く化粧し、空気を凍てつく冷たさにするべく温度を奪っていく


唯一義体化していない右腕はその寒さには応えた


「行くぞ。ここでの仕事は終りだ」


リーはタオの言葉には返さず、後ろの二人にそう告げると歩き出す。


タオは肩をすくめる

「変わった奴だぜ…」

「気にするな」

タバコをふかしながらタオの横にいたアルマは、自らのライフルが入ったカバンを持ち上げる


「腕は確かだかな…我々の雇い主も腕は買っているのさ」


タオとアルマはリーの後を追うように歩き始めた


「無事に日本人から頂戴した荷物は雇い主に届いた

次の仕事だ。この雪ともおさらばだぜ」


3人の足跡が雪原に続いていった
泥沼の中に沈んでいた感覚が全てを支配していた


身体が動かない…いや…動かないのではない、動かせないのだ


泥沼の中からゆっくり浮き上がるように、トグサの五感が徐々に鮮明になっていく


意識が活動レベルまで戻ると、直ぐ様電脳の活躍状況を確認する

強制的に自閉モードにされているが、ハックやその他ウィルスを打ち込まれた形跡はない…


ゆっくりとトグサは目を開く



「よう。気がついたか」

見知った顔が目の前に現れる

義眼の大男…バトーはトグサの傍らに立っていた


口調からも心配している感じは受ける

もっとも寝起きに一番最初に見る顔としては有りがたくはない…

まぁ、それは言うまい



「ここは?」


「9課の本部ビルだ」

トグサはバトーの言葉を聞きながらも、自分の身体を確認する

拘束具が付いている為身体の自由はきかないが、特に目立って外傷はない。


検査の為に眠らされているのだろう


「何がおきたんだ?」

「どうだ?補足できるか?」
軽装甲車内で隊長・・・サワムラは部下の観測員へ訊いた。
「微量ですが、なんとか」
「よし!よくやった、予測されるルートを『カワセミ』と『イタチ』へ送れ。」
「了解」

サワムラはイスに座ると、煙草に火をつけ呟いた
「ここからはアナログの作戦だ」

程なくカワセミから連絡が入る
「対象を補足、3名の狙撃兵、2名の歩兵かと」
「よし、これから電脳通信を遮断する。そいつらの利き手人差し指を切り取って来い」
サワムラの強い意思と、同胞を殺害された怒りが命令の非情さに表れていた。

通信兵へ指示を出す
「松島航空隊へ連絡、哨戒機による広域ジャミングを要請しろ。陸自のサワムラの命令だと言え」

10分後、松島航空自衛軍基地から、2機の哨戒機が飛び立った。
「そうか…」


軽く目眩はするもののトグサは身体を起こし、バトーから事の顛末を聞いた



あの時…傭兵のロトリを確保した時、突然トグサを襲った衝撃波…

それは新浜空港で起きた爆発と同じものだった


「パズが爆発の前兆に気付かなかったら、俺達もヤバかった…」

バトーはトグサが身体が乗っている診察台に腰掛け話を続けた


「パズは新浜空港の時に、あの爆発を体験したからな… 」


強烈な金属を擦れる音が耳を遅い、空間が歪む感覚に襲われた…


その刹那にトグサの耳に届いた「逃げろ」の言葉…

今から思い返せば、あの声はパズの声だ

パズの言葉に反応し、バトーはロトリとトグサを抱え、義体の性能を最大限に発揮し爆発から逃れた…


「パズは?」


命の恩人の一人の安否を尋ねる


「心配ねぇ。今、あの傭兵野郎の取り調べ中さ。奴さん、まさか自分まで殺されるとは思わなかっただろうな…」

バトーは苦笑いしながら、トグサに語りかけた。


「何か分かったのか?」

トグサも少しずつ調子が戻り始め、目には鋭い光が出始めた。



「色々とね…どうやら我々はリュウ・シェインに一杯食わされていたらしい…」


診察室の入口から声を掛けたのは、聞き慣れた女性の声…草薙素子の声だ




「この画面、懐かしいじゃろう?」
難民居住区内、豊田の店

およそこの貧民街には似つかわしくない大画面には・・・20世紀の戦略ゲーム「大戦略」が映し出されていた。

「松島から2機飛んだな」洋輔は画面上の哨戒機のマーク2つを目で追った。

「ピンポイントでのジャミングに1機、広域の電波不調を引き起こすために1機、これで民間人には電波不調程度にしか思われまい」
「ん?電波障害か?」
タオはアルマに声をかけた。
「そういえば電通が使えないな、田舎だからか?」
「馬鹿言え、衛星通信もダメだぞ・・・」

「俺は離脱するぞ・・・」
リーが口を開いた。

二人は即座に狙われていることに気づいた。




「見つけたぜ、こんどは追いかける番だ」
カワセミと呼ばれる狙撃兵はギリースーツに身を包む「古典的な狙撃兵」である。
相棒の「イタチ」は高性能双眼鏡を覗きながら
「俺たちに分がある、この雪で光学迷彩は意味を持たない」




豪雪に埋もれる東北地方で、半ば生きながら伝説になっている中国人スナイパーと、陸上自衛軍の最高のスナイパーが静かな戦いを始めようとしている時…

新浜では新たに動きがでようとした




「つまり、シェインは自らを嵌めた今の中国指導部に復讐する為に逃亡したと…」


「その過程で俺達9課が邪魔になり、排除しようとした…」


素子の話にバトーとトグサはそれぞれ言葉を繋ぐ


「えぇ。彼は自分を陥れた者への復讐を進める場所に日本を選んだ…

中国に近く、繋がりが太いが、お互い深い入りはしづらい関係だからな」


素子は狙撃手ロトリからの供述の内容話した。





だとしても…

トグサには引っ掛かる面があった
雪原に銃声がこだまする。

「逃げろ、タオ!」

アルマは左足に被弾、雪原を鮮血が染める・・・

「畜生!何処だ!」タオは近くの岩に身を潜め、周囲を見渡す・・・
当たり前のことだが何も見つからない。

再び銃声とともにアルマの右腕に着弾。
セオリーどおりの「おびき寄せ」である。



・・・鈍い音とともにアルマの頭部が破裂した・・・
大口径ライフル、サプレッサー、囮を始末する非情さ・・・

「リー!貴様・・・」
タオが振り返ると同時に気を失った。



「やるな・・・仲間を始末しやがった」イタチは双眼鏡を覗きながら呟く
「ああ、流石だな・・・」ライフルスコープ越しにカワセミは同じ光景を見ている。

「ジャミングは6時間、残り4時間であの二人を仕留める」

カワセミとイタチは既にスタンドアローンでの作戦に切り替えていた。
雪は降り止み、辺りは暗くなっていった。
ヴェノム本社の会長室にて、進藤はずっと眼下に広がる景色を見ていた。


秘書は帰らせた


今は自分しかいない…

黄昏は今や闇へとほぼ姿を変え、それに抗わんと建物のイルミネーションはその光の存在感を強調していた


扉が開く音が背後でした


進藤は後ろを見ずに、扉を開けた主に話しかける


「沖田君…北の方では大分騒がしいらしいな。東北自治区の近くで…マズイのではないのかな?」


「まもなく終わります。貴方の茶番もね…」

沖田はゆっくりと拳銃を進藤に向ける


だが、進藤は慌てない
いや…むしろ予想していたようにすら思える
ゆっくりと進藤は沖田の方向に向く

そんな進藤に沖田は語り続けた


「この国は何度もその身を戦火という業火に焼かれ、その度に蘇ってきた…そしてそれは常に貴方のような人間がこの国を蘇らせた」

進藤は拳銃を向けられていても落ち着いていた


「だが、蘇らせた同時にこの国を惰弱に追いやった…倫理が何になる?平和主導が何をもたらした?その結果、この国は強さという物を失った」


沖田は静かに…だが強烈に進藤に言葉をぶつける


「その考えが、かつて日本を暴走させ、数えきれない不幸を呼んだと思わないかね?沖田君…」

進藤は沖田を見据え言葉を返す


「だから過去は繰り返しません…

そう…貴方のように世界に打って出る力を持ちながら、それを平和利用などと夢見がちな考えにしかできない貴方とは違う


これが最後です。カノエは何処にいますか?」


沖田は拳銃の引き金に掛けてある指に力をいれる


「言うと思うかね?比良坂君も命を賭けて守っているのだ…

暴力に脅されるような事だけはせんよ。

傭兵まで雇っても、単なる徒労に終わるだけだぞ」


沖田は進藤の言葉に薄く笑い…


「リーは単なる駒に過ぎません。そう…私と同じでね…


そうですか…残念です。貴方の力を貸して戴ければ、我々が望む国を作れるのに…」


「言った筈だ…私は戦争はお断りなのだよ」

進藤はそう言うと、目を閉じた。

覚悟は決まっている…
そんな感じだ


荒巻さん…勝手で申し訳ないが…あの娘を託します


進藤は心で、そう呟いた


次の瞬間…サイレンサーに音をかき消された凶器は一人の男の命を奪った
あらかた枝をつけた警察無線からの情報を入手すると、素子はボスである荒巻に電通を飛ばす。


(課長…認めたくないけど…やっぱり殺害されたのは進藤会長みたいね…)


(そうか…)


(だが一体誰だ…ヴェノムのトップを殺すとは…日本政財界にどれだけ影響がでるか…)
横から会話を割り込んだバトーも、動揺が隠せない


(もう出てるさ…現に経団連会長が現に与党・幹事長と緊急会談なんぞ…

マスコミにゴシップをやるようなもんだ)


イシカワは各報道機関の行動を、ダイブ装置でモニターしながら電通の会話に加わる

既に各テレビ局・ネット専用の報道機関など報道合戦になっている

(報道管制は引いているの?)

素子はあまり宜しくない流れになっている状態に、眉をひそめる


(一応な…だが、隠せる事実ではあるまい…
警察がかけてる報道管制も、状況が整うまでの時間稼ぎのようなもんだ。

現にローカルネットや、ネットの書き込みには進藤が何者かに殺害されたのが流され始めている)




進藤が殺された…


この事実が最初に9課にもたらされたのは、丁度進藤への行確を荒巻が指示したところだった…


9課自体を狙った暗殺犯…


それは自らへの監視を逃れる為、そして日本での潜伏・活動を容易にする為に…

リューシェインが、あたかも自分がテロに巻き込まれたかのように自作自演し、行方を眩ました…


荒巻はシェインへの足取りを掴む為、進藤という糸を辿るつもりだったのだ。


だが…



(まさか…こっちの動きを読まれたのか?)

バトーの一言に、全員が押し黙る

(相手は第四次非核大戦で、僅か200人でロシア1個師団を手玉にとった天才戦略家だ…

我々が追おうとしている…いや戦おうとしている相手は、あらゆる面で強敵だ)


(敵ね…)

バトーは荒巻の過剰な発言に、少し反論を込めた口調で独り言風に反応する


9課はその装備・人員は、警察の組織力とはあきらかに一線を画している

少数精鋭の(人員増強し、バックアップ要員は増えたとは言え、他の国家機関に比べれば人員は極少だ)チームとは言え、警察として法務執行には過剰な力であるのは明白だ…

だが…だからこそ、9課の隊員達は自らを警察官だと強く認識する…

特に古参の隊員達程それは強い
(オヤジ…シェインが自分の祖国復讐を日本に遂げる為に9課が邪魔ってのは分かる…

現にヴェノムやシェインに繋がる人物を辿ろうとすると、横槍が入るしな…

だが、だとしてもシェインを意識し過ぎなんじゃねぇか?

まるでシェインと戦争するみたいだぜ)


バトーは荒巻が過剰な反応を示すのを心配していた

行き過ぎとも言える力を持つ自分達が、その力の使い方を間違わない為にも…

警察官としての責務を守る

9課はある意味、堅物な組織かもしれない


法に忠実であれ…


その愚直なまでの信念が9課の最大の武器であり、存在意義だった

(そうかもね…だがバトー。そのシェインは9課を抹殺すべく最強のスナイパーを日本に連れてきた。

奴にとっては9課の抹殺も計画の一つだ。

そう考えれば、課長の反応も理解はできる)

(バトー、警察官は正当防衛が認められている…

攻性の組織である俺達が言うのも何だがな…
場合によっては俺達はシェインの存在自体とやり合うかもしれないんだ)


バトーは素子とイシカワにそれぞれ諭される


(分かってるよ)


バトーもやられぱっなし面白くない。


(で?そのシェインと対峙するにしても、どうするんだ?

進藤は殺されたんだそ…)


(課長…進藤殺しの件を警察からこっちには移せない?)

素子は車の中から、目の前のヴェノム本社に止まっている警察車両をぼんやり眺めていた。

既にマスコミも数社集まってきている


正式な報道も時間の問題だろう


(うむ…シェインとヴェノム社の進藤の繋がりと、この進藤殺しはまだ関連性が見えんからな…

状況だけで指揮権を取れる段階ではないしな…

別のアプローチしかあるまい)


荒巻はそう言うと、一人の女性の画像を9課のメンバー全員に写す

(シェインがヴェノムの研究所に出入りしている時に研究所の主任だった比良坂サツキだ…

今、シェインと繋がりがある人物と言えるだろう

そして、シェインが日本で何をやろうとしているのか…それを知る手掛かりとも言える)

素子が画像の女性を見るのは2度目だ

2度とも画像だが…


ヴェノムとシェインの繋がりを調べる為に、研究所に忍びこんで以来だった

自分の顔に降り積もる雪でタオは目が醒めた。
「イタッ・・・」後頭部に鈍痛が残る。リーに殴られた所だ。

「気がついたか・・・」
目の前には自分に背を向け、銃を構えるリーの姿があった。

「動くな、お前も死ぬぞ」
「あんたが始末したくせに・・・」

タオは悔しかった。リーの判断は戦場において適格である、しかしアルマとは大戦時からの仲間であった。それをどうすることもできなかった・・・

「人間だから迷う・・・迷う余裕があるだけ幸せだ・・・」
「あんた・・・」
「ジャミングは解除されたが、枝がついた。」

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