日本政治思想史談話室コミュの【近刊情報】渡辺浩『日本政治思想史　十七〜十九世紀』（東京大学出版会）

東京大学出版会のHPより転載します。

日本政治思想史　十七〜十九世紀
渡辺 浩
ISBN978-4-13-033100-5, 発売日:2010年02月下旬, 判型:四六, 496頁

内容紹介

「御威光」の支配から文明開化へ――激動の時代に生み出された政治をめぐる思想を，まったく新しい視点でとらえなおす通史．徂徠，宣長，そして武士や女性など，いかに生きるべきかを問い，苦闘する人々の，真摯な思索の軌跡をたどる．

主要目次

序　章　本書への招待
第一章　「中華」の政治思想――儒学
第二章　武士たちの悩み
第三章　「御威光」の構造――徳川政治体制
第四章　「家職国家」と「立身出世」
第五章　魅力的な危険思想――儒学の摂取と軋轢
第六章　隣国の正統――朱子学の体系
第七章　「愛」の逆説――伊藤仁斎（東涯）の思想
第八章　「日本国王」のために――新井白石の思想と政策
第九章　反「近代」の構想――荻生徂徠の思想
第十章　無頼と放伐――徂徠学の崩壊
第十一章　反都市のユートピア――安藤昌益の思想
第十二章　「御百姓」たちと強訴
第十三章　奇妙な「真心」――本居宣長の思想
第十四章　民ヲウカス――海保青陵の思想
第十五章　「日本」とは何か――構造と変化
第十六章　「性」の不思議
第十七章　「西洋」とは何か――構造と変化
第十八章　思想問題としての「開国」
第十九章　「瓦解」と「一新」
第二十章　「文明開化」
第二十一章　福沢諭吉の「誓願」
第二十二章　ルソーと理義――中江兆民の思想
あとがき

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　以前、wikipediaに「松本三之介の弟子」と書かれていたので訂正しておきましたが(笑)、この渡辺浩氏は丸山眞男の最後の弟子で、日本政治学会理事長、東京大学副学長などを歴任されています。彼は師・丸山の「朱子学イデオロギーのヘゲモニーと解体」という徳川期政治思想史に関する定式化を実証的に切り崩し、また中国、朝鮮、ヴェトナムへの目配りによって日本政治思想史の視圏を東アジアに本格的に拡張するなど、斬新な業績を着実に発表してきた研究者で、啓蒙書などに手を染めることがほとんどなかっために一般的な知名度は低いものの、和漢洋にわたる文献の博捜、透徹した論理構成、練り上げられた文体などによって、玄人筋の間ではきわめて評価の高い思想史家です。一流の研究者に限って研究一筋で講義は古ノートの棒読み、というパターンもしばしば微笑ましく語られますが、渡辺氏の―演劇的なまでに？―緻密にかつユーモラスに構成された講義やゼミナールにも定評があり、渡辺氏が教師としても並々ならぬ情熱を傾けてきたことが窺われます。
　
　本書は、現時点では当方は未入手ですが、今年の3月で定年を迎える渡辺氏が長年にわたってその本務校その他で行ってきた講義（師・丸山同様、今年は江戸中期まで、今年は幕末〜明治まで、というように年度によって対象となる時代を変えていたようです。）を、かつて放送大学で授業を担当した時に執筆した薄いテキスト（『近世日本政治思想』放送大学教育振興会）をベースにしてまとめたものであるそうです。ただ、手元にこの放送大学テキストはありますが、この目次と照合する限りほとんど原型を留めていない模様です。とにかく、現在の日本政治思想史学界の最高権威と言える研究者が、ある意味満を持して世に問う本格的な通史であると共に、「御威光体制」としての江戸時代の特質とその特質ゆえの「瓦解」という独自のストーリーに基づく個性的な江戸時代論、明治維新論、という性格も合わせ持っているように思います。
　
　同じく丸山門下の平石直昭氏の通史的テキスト『日本政治思想史-近世を中心に-』（放送大学教育振興会。ある中堅研究者はこの平石テキストのことを「生涯教育用に書かれた一般向けの教科書ってことになっていますが、内容は大学院レベルですね。」と評しておられました。）と共に、前掲の津田、和辻、丸山らの古典的な通史に対して、主として江戸時代を叙述対象とした最新の通史の一つとして、本書は重要な位置を占めることになるように思います。現代の参考文献に関してはまたトピックを立てる予定ですが、入門書としても本格的参考文献としても、本書はお勧めできるのではないかと思います。宜しくチェックのほどを。