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日本政治思想史談話室コミュの日本(政治)思想史参考文献[古典編]

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 ここでは日本政治思想史及び日本思想史の「古典的通史」として定評ある著作のいくつかを簡単な説明と共に挙げておきたいと思います。但し、紹介者である管理人は恥ずかしながら、いずれも部分的に拾い読みしたりレジュメ化したりした部分はありましたが、「通読」には未だ至っておらず、むしろこのような浩瀚な古典的名著を通読することが、このコミュニティを立ち上げた動機の一つであることを告白しておきます。なるべく速やかに、可能であれば年内にも一読するための励みとして、あえてこのトピックを立てるにことにします。適当に分割しつつ一挙に掲載します。

 政治思想史家・丸山眞男は「近代日本の思想史の方法論の歴史的展開」を次の6段階に分けています。(丸山「近代日本における思想史的方法の形成」(未完・1961年)、『「文明論の概略」を読む』上(岩波新書、1986年)。以下に関しては主として後者を参照しています。)

1.文明論的文明史
田口卯吉『日本開化小史』
藤田茂吉『文明東漸史』他

2.同時代的思想史(明治20年頃〜)
民友社系…竹越與三郎『新日本史』
『日本』系…陸羯南『近時政論考』・三宅雪嶺『同時代史』

3.国民道徳論的思想史(明治30年代〜)
井上哲次郎の三部作
『日本朱子学派之哲学』
『日本古学派之哲学』
『日本陽明学派之哲学』(+『日本折衷学派之哲学』)

4.国民道徳論的思想史批判の二つの潮流
A.文化史的思想史…村岡典嗣・和辻哲郎←ディルタイ/アウグスト・ベーク
B.生活史的思想史…津田左右吉・柳田民俗学

5.唯物史観的思想史…羽仁五郎・永田広志・鳥井博郎・三枝博音ら

6.「日本精神」的思想史(戦時中が最盛期)

 これに、僭越ながら私が付け加えるならば、

7.太平洋戦争後の戦前・戦中世代の学究によるアカデミーの「思想史研究」
丸山眞男、家永三郎、石田一良ら

ということになるでしょうか。この流れの中で、古代以来の日本思想史、日本政治思想史の「通史」として今なお読まれている「古典」的著作をここでは3点紹介しておきます。

(つづく)

コメント(6)

まずは第4期から2点。

?.津田左右吉『文学に現はれたる我が国民思想の研究』(岩波文庫、全8巻)

 津田は周知の通り、日本古代史の「神代史」の実証的研究をはじめ、日本史及び東洋史において膨大な量の業績を残した歴史家で、戦後は文化勲章も受けています。「日本政治思想史」との関連で言うと、昭和14[1939]年、東京帝国大学法学部において「政治学史第3講座(東洋政治思想史)」が時の政府の意向により開設された時、「イデオロギーとは無縁な実証的な研究者の」「あえて外部からの」起用を考えた法学部長・南原繁は早稲田大学教授であった津田に「講師」を委嘱しました。つまり、津田はいわゆる「官学アカデミズム」において最初にアジアの「政治思想史」(津田が東京帝国大学で講じたのは「先秦政治思想史」)を講じた大学教師(の一人)ということになりますが、このことが当時東京帝国大学法学部を「自由主義」の総本山として敵視していた官憲及び右翼勢力に睨まれる一因となり、昭和15[1940]年、津田は大正期に出版されていた著作における「不敬」を理由として出版法違反で岩波書店の岩波茂雄と共に起訴され、教授職を逐われます。
 
 津田本人の紹介が長くなりましたが、その津田左右吉による日本の「国民思想」の通史的な概説が本書で、長く日本思想史、及び日本政治思想史に関しても最高水準の通史として遇されてきました。津田は日本人の「国民思想」を体現するものとして文学作品に注目し、日本の歴史を「貴族文学の時代」「武士文学の時代」「平民文学の時代」に分けた上で、それぞれの時代の「国民の思想と実際生活との交渉」を広く文化史的な文脈の中で概観しています。同時代の研究業績にほとんど言及しない個性的な記述は、出版当時から幅広い注目を集めました。当時から、津田より後に生まれた世代のさらに実証的な歴史家(例えば、坂本太郎、井上光貞ら)によって「主観的合理主義」と評され、また近年の「単一民族神話」批判、あるいは「一国知的『日本思想』史」批判の文脈でも厳しい評価を受ける「津田国民思想史」ですが、単一著者による骨太な通史として現在なお一読に値する「古典」であると思います。昭和末期、まだ文庫版がリヴァイバル復刊される前は、古書店市場では全8巻揃いで大変な値段が付いていたことを想い出します。
?.和辻哲郎『日本倫理思想史』上・下(1952年、岩波書店)
 戦前期の東京帝国大学における日本思想研究には、三つの潮流があると思います。一つは東京帝国大学文学部哲学講座をリードした前述の井上哲次郎による「国民道徳論」的日本思想研究、第二に、これに対抗する形で昭和戦前期に文学部倫理学講座を主宰した和辻哲郎による「日本倫理思想史」研究、第三にやや遅れて前述の通り南原繁法学部長の時に開設された「東洋政治思想史」講座の初代専任担当者である助教授・丸山眞男によって本格的に展開される「日本政治思想史」研究です。第一の文学部哲学科の潮流は井上と共に姿を消し、哲学科の本流は西洋哲学の研究・紹介になった観はありますが、第二、第三の潮流は現在の東京大学文学部及び法学部の学部・大学院において継承され、我が国の日本思想史研究・教育において一定の位置を占めているように見受けられます。
 さて、その第二の潮流の創始者、和辻哲郎の戦後における「日本思想史」通史として出されたのがこの2巻本『日本倫理思想史』です。同書の「緒論」によると、和辻が考察しようとしているのは「人類全体に通用しうる普遍的な倫理が、特に日本において歴史的にいかに特殊形態をもって自覚せられたかを理解」することであり、このうち「普遍的な倫理」に関しては、和辻の主著『倫理学』『人間の学としての倫理学』に譲り、後者に関しては「日本における社会構造」の変遷」を取り上げ、そこから「倫理思想の分析や把捉」に進む、とされています。そして、和辻は日本倫理思想史の展開を記述するに当たって、6つの時代区分を設けています。

1.原始時代における国民的統一の成立(清明心の道徳)
2.大化の改新から平安・奈良の王朝国家に至る国家的組織の完成(人倫的国家の理想)
3.私有否定の制度に対する反動としての封建制度の成立(献身の道徳)
4.建武の中興・南北朝の対立によって導き出された武士社会の組織の変化(古代精神の復興)
5.戦国時代に行われた支配階級の実質的な交替〜江戸時代(高貴の道徳、もしくは君子道徳)
6.開国と明治維新の時代(東洋道徳と西洋道徳との統一)

 和辻哲郎という近代日本における特異な「文人的哲学者」(上記和辻=倫理学科の学統を汲む熊野純彦氏の評言)による通史であるだけに、個々の時代の思想・思想家を学ぶテキストというよりも、むしろ和辻哲郎論の素材とするべき著作かもしれませんが、一人の著者による古代から近代に至る思想通史というのは現在なお多くはないので、やはり貴重な参考文献と考えるべきであろうと思います。なお、前掲の学説史整理の中で、丸山眞男は大正期の『日本精神史研究』を始めとする一連の研究を高く評価する反面、昭和期以降の和辻の日本思想史論を「一段階前の国民道徳論の一変種」「国体論の一種のリヴァイヴァル」として低い評価を与えているところが注目されます。
?.丸山眞男『丸山眞男講義録』(全7巻、うち第三冊を除く6巻が日本政治思想史の講義録)
 近代日本の官学アカデミーにおいて、初めて「日本政治思想史」(講座名/講義名は1966年まで「東洋政治思想史」)の専任担当者として講義を行い、戦後思想に対しても―死後10年以上にして未だに「ぶん殴りたい!」とか言われちゃうほど―良きにつけ悪しきにつけ絶大な影響力を持った、丸山眞男の戦後の講義を、残された講義原稿、講義録プリント、学生の筆記ノートを元にその高弟たちがまとめたものです。丸山の学説時期区分の最後に私が勝手に付け加えた「第7期」の代表的通史と言えると思います。1998年から2000年にかけて刊行されたもので、まだ新刊の部類で、そのせいもあってか「アマゾン・レビュー」が一つも書かれていないのが微笑ましいです。早めに一読して書いたろか。いや無理か。

 目次を手がかりに自分なりに各巻のおおまかな内容をメモしておきます。(なお、
「目次」はAmazonのHPで全て閲覧できます。)

第一冊(1948年講義) 徳川時代の政治思想史。(朱子学的世界観の定着と分解、石門心学、国学など。付章として中期朱子学派、安藤昌益。「卒業の諸君へ贈るの辞」を所載。)

第二冊(1949年講義) 明治前期の政治思想史。(Nation及びNationalismの予備的考察に始まり、維新期から征韓期、自由民権期に至るナショナリズムの展開を記述。)

第四冊(1964年講義) 古代から鎌倉に至る政治思想史。(正確には古代政治思想論に鎌倉新仏教に関する考察を付したもので、通史的というよりは問題史的な色彩が強いように思われる。)

第五冊(1965年講義) 武士のエートスとその展開。(恐らく第四冊は「古代政治論」、それに対して本冊の内容は初期武士から戦国武士に至る武士の思想史。これも問題史的と言うべきか。「通史」というのはこうならざるをえない、とも思うが。)

第六冊(1966年講義) キリシタン思想から江戸儒教に至る近世思想史。(第一冊と比較すると個々の思想家論というよりも総論的色彩が強くなっているように見受けられる。)

第七冊(1967年講義) 徳川時代の政治思想史(「歴史意識の『原型』」論に始まり、近世儒教の政治思想、国学思想論を収める。)

 1950年代の講義が全く欠落しているのは気になるところですが、古代から明治中期までの政治思想史が特定テーマに注目する形で展開されているのは、空前にして現在のところ、ほぼ絶後の試みではなかろうか、と思います。なお、各巻冒頭には「政治思想史」研究・記述の原理論的な序論が置かれています。どのあたりから例の「古層」論が現れるようになってきたのか、には興味があります。

 以上、津田、和辻、丸山のこの3点が「日本政治思想史」あるいは広く「日本思想史」における古典、いわば「金字塔」と目して大過ないのではないかと思います。これに準ずる今日なお現役の「古典」的参考文献としては、村岡典嗣(むらおかつねつぐ)の一連の日本思想史研究がありますが、これは「通史」という体裁を取っていませんので今回は外しました。なお、村岡は早稲田大学出身で東北帝国大学で長く教鞭を取った人物で、現在でも日本思想史研究における「東北学派」のプレゼンスは無視できません。津田左右吉の「教壇追放」の後で、南原繁法学部長が東京帝国大学法学部の後継講義担当者として委嘱したのもこの村岡で、津田、村岡両者とも早稲田大学出身の学究である、ということは興味深く思います。村岡が2年ほど仙台からの通いで講義を担当した後、助教授丸山眞男が専任担当者として講義を開始します。この稿はとりあえずここまで。

 

コメントは簡単には修正できないので気が付いた点を補足。

まず、三つの古典の冒頭はMacでのローマ数字の1〜3を付しましたがこれは恐らく機種依存文字でウィンドウズからは見えないかもしれません。

和辻に関して「昭和戦前期に文学部倫理学講座を主宰」と書きましたが、1889年生まれの彼は1949年まで東京大学に在職しています。後、写真で気付かれたと思いますが、和辻『日本倫理思想史』の初版は一巻本で出版されました。

あと、関係ないけど津田左右吉に関して思い出を一つ。数年前に美濃加茂市の「津田左右吉記念館」を訪れましたが、大分県中津市の福沢諭吉記念館などと比べてほとんど手入れされていない糞ショボい記念館で驚きました。ただ、そこに寄贈されていた書物の中に高校時代の、率直に言って馬鹿にしていた老漢文教師の歌集を見いだして一驚しました。そう言えばあの先生早稲田出身だったな…。どうも津田左右吉に親炙していたようです。そうと言ってくれればいつでもインタビューする機会があったのに…。オレは丸山眞男の弟子のゼミにはいたので丸山の孫弟子と言えないことはないんですが、それ以前にすでに高校時代に「津田左右吉の孫弟子」でもあったことに卒然と気付かされた秋の一日でした。

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