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赤毛のアン 〜闇〜コミュの「闇教会に行く」その?

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 マリラは困惑しきっていた。闇にはお祈りの習慣が無いばかりか、信心がまるきり無く、教会に行くことを進めたが、頑としてこの孤児はそれを受け入れず、しまいには飛んでも無いことを口にし始めたのである。
「教会は行ったことがあってよ。でももう、行きたくないのよ。ねえ、マリラ、あたしが悪魔を信じてる、なんて言うとみんな罰の悪そうな変な顔をしてたしなめるけど、悪魔を信じるのはそんなにいけない事かしら?だって、天使だの神様だのは信じられて、悪魔が信じられないってのは、お天気空の有りがたみだけは感じて、曇りも雨の日もみんな良いお天気の外側にある煩わしい『何か』だと思ってるようなものだわ。悪魔が居て、初めて天使も神様も人の上に居るような気がするんじゃないかしら。」
 マリラはおりから吹いてきた風で窓ガラスが軋みだすのを聞いていた。格子戸を閉めないといけない。マシュウは畑から帰ってくるのであろうか。
 「良く、お聞き。闇、気がするのじゃなくて、神様もその御使いの天使もちゃんと居るんですよ。でもあんたの言う、信じる信じないだのっては感心しないね。それにまかり間違ってもその神様と間逆の物が居るなんて、人前で言うもんじゃないよ。」
 悪魔などとは口に出すのも憚られてあえて真逆と言った人並みの信心を持ち合わせたマリラの言葉に闇は目を憤怒に燃えてカッと見開いてやり返した。掘った穴に染み出した水溜りのように、落ち窪んだ目鼻の奥、鈍く光る目に戸外の雲の陰を不気味に明るく暗くする遠雷が映り込んだ。
「言ってはいけないのはいったい誰のため?マリラの為?協会にいる人たちのため?それに教会ははじめから神様が居ると分かってたらなんで聖書で、何度も同じ箇所を唱えたりするのかしら?それは神様が居ないと困る人たちがそうさせているの?それとも居てはいけないはずの『何か』のほうがきっと人にとっては身近で時には親切な気がするのを知っているからあえて、教会でみんなが眠くなるまでお説教するのじゃないかしら。神様は教会の屋根の上とか、胸のペンダントとかには確かにお印のように居るかもしれないけれど、心の中には居ないから、居るような気がするまで熱心にお祈りしましょう、とそういうわけなのね。教会に行けと言えば行くわ。でもそのお祈りは嘘だってことになるし、嘘をつくお勉強をする場所だって思っていくことにするわ。」
 マリラは喋り殺されてしまった。完敗なのである。マリラはこの痩せぎすの少女の仰々しい言葉の節々に只者ならぬものを感じつつ、何とかして信仰への糸口を闇に示そうとしたが、無駄だった。腐ってしまった牛乳の鉢の何処をかき回しても香りの良い飲めそうな箇所が見当たらないように、また蜂の居なくなった古い巣箱の何処にも賑やかな羽音の無いように、干上がった泉に背中を日光に煌かせて泳ぐ小魚の影が無いように、闇には頭の先から足の先まで、信仰心というものが無かった!人々が日々すがることを美徳とした清らかな戒律、またそれゆえに人と人とが心を同じくして手と手を携えて生きていける無上の知恵、またあるときは見ず知らずの隣人にすら家族以上の暖かい気持ちで接することができる慈しみ・・・そういった信仰心の欠片も無かった。彼女はたしかに恵まれない孤児ではあったが、果たして恵まれていないだけで、こうも心は捻くれてしまうものだろうか?荒れ模様の天候ゆえ、畑仕事に見切りをつけて戻ってきたマシュウは先ほどの闇の言葉を途中から聴いていたようで、戸口でこう言った。
 「そうさのう・・・闇が教会に行くのが嫌だというのじゃから・・・どうだろう・・・そのう・・・行かなければいいのじゃあないかと・・・そう思うわけなのさ・・・闇は・・・いい子だ・・・口は必要以上に達者だが・・・パッチワークもすぐ覚えたし、馬の餌を刻むのが上手いし・・・ちゃんとわしらの役にたっておる・・・そのう・・・教会に行くのが・・・良い子ばかりとは限らんじゃろうて。お祈りも毎日しているようじゃし・・・」
 「兄さんは闇の躾に関しては口を出さないのが、この子を置いておく条件のはずですよ!お祈りの文句が聞いて呆れますよ!」
 マシュウは知らないのだろうか。あの寝る前に闇がつぶやく忌まわしい呪文のどこがお祈りなものか!一筋縄ではいかないこの魂の無い孤児を前にしてほとほと手を焼いていた老女の苛立ちは、闇にとってのよき理解者足ろうとした小心者が苦心の末出した精一杯の助け舟をものの見事に打ち壊した。マシュウはバツが悪そうに目を彷徨わせたが、助けようとした闇もまた、「邪魔立てするな」と言わんばかりの侮蔑を含んだ目つきでマシュウを見たので、この哀れな老人は、タバコを吹かす振りをして馬屋のほうまで退散するしかなかった。馬屋は臭く、昼ごろ藁を変えたばかりなのに湿った空気が立ち込め、居心地が悪かったが、絶え間ない思いやりの無い言葉で相手の心をズタズタに引き裂く女達の言葉を聞かずに済むし、何よりも馬はいななきさえすれど、あの心無いグリーンゲイブルズの同居人たちのように「老いぼれ!」などとは露ほども口にしない。かりに馬がそれに近い言葉を言っていたとしてマシュウはその意味を解さないし、またマシュウが馬に「この駄馬め!」と言ったとしてもまた馬は顔を硬直させていちいち腹を立てて、言った相手をすげない言葉でやり込めたりなぞしない。マシュウは口から涎の泡を吹きだしている馬を撫でながら、こう呟いた。
 「そうさのう・・・救い人がお生まれになった場所が馬屋というのは、案外、理に叶っているんじゃないだろうか。祝いの言葉も無いが、その代わり誰がその出生に関して悪く言えようものか・・・」
 先ほどからの悪天候が、本格的な雨になりだしたので、マシュウはしぶしぶグリーンゲイズルズに戻らなければならなかった。しかし馬屋に行ったままの靴をストーブで乾かすと、マリラにまた罵り殺されるであろうから、雨に濡れながらこの老人は玄関先で丹念に泥と馬草の屑を拭わなければならなかった。
 「しかし・・・なんということだ?雨に濡れて・・・気遣って・・・遠慮して・・・怯え暮らして・・・このグリーンゲイブルズはそもそも、わしの家じゃないのか?あの忌々しい妹め!いつかあのアマっちょを・・・!!!!!」
 雷は陰鬱な空を切り裂き、近くに落ちたとみえ、恐ろしい轟音がマシュウの独り言をかき消し、マシュウは、切なそうに一呼吸して、いとおしき筈の我が家、狂おしい苛立ちと耐え難い苦しみと踏みにじられる良心の残骸が支配するグリーンゲイブルズに恐る恐る踏み込んだ。

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