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如意法師様にきいてみよう!コミュの夕食

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「山へ行こう、次の日曜…

残雪に休息する、純白を讃えに…

その次の日曜は、海へ行こう…

波間に踊る、光華を悦びに…

礼拝堂の鐘の音色の中を、ささやかに流れて…

魂だけでそっと…、飛びたって行こう…」




摘みとった菜の花で栞して、読みかけの詩集をそっと閉じた…。
疲れた目を空の彼方にやる…。

まだ見た事のない、ここ以外の何処かを思って…。


◆◆◆

高い城壁に囲われた庭園の内側で、独り戯れる少女は、睨み付くような夏の日差しを逃れて、束の間を林檎の木の下に腰を下ろす。

枝は撓に果実をつけていた。既に熟し切った物が、幾つか地に落ちはじめている。

少女は傍らに転がっていたその果実の一つを拾いあげた。
すぐにも噛じりつきたい衝動にかられる程、良く熟れた爽やかな色彩。

だが少女の目はめざとく見つけてしまう。
僅か親指の爪程度の、その林檎の黒ずんだ腐敗…。
もはや瞳がそこに釘付けになる…。

辺りにそよいでいた風の音が、鳥の囀りが、何時しか擦れ合う金属音のように変わり、やがて視線はずぶずぶとその黒ずみの最中へと潜りこんで行く…。

褐色の汁の滴る、果実の奥深くまで不快にうねり続けながら、ずぶずぶと突き進んで、やがて林檎の中に、窮屈な姿勢で、少女は頭を逆さにしたまま、しばらく動けなくなる…。

◆◆◆

晴れたらいいね 晴れたらいいね 晴れたらいいね 晴れたらいいね 晴れたらいいね 晴れたらいいね 晴れたらいいね 晴れたらいいね 晴れたらいいね 晴れたらいいね ハレタラ…


少女は呟いた。

炎に包まれた人形は焼け爛れた化学変化に表情を隠し、黒煙は青空の蒼に不穏を撒き散らす。

少女は空を見上げた。
そして何かを打ち消すように手を交差させた。

その様子を遠くで見ていた烏は奇声を発し、道無き帰路を急ぐ。


◆◆◆

コツコツと響き渡っていた、歩調の遅い足音がふと止まる…。
薄い明かりに照らされた鏡台の前に、男は一冊の本を見つける。
成り行きのようにそれを手にとり、適当にぱらぱらとめくるが
すぐにも、放り投げるような雑な素振りで元の場所に返す。
冷徹な仮面の向こうに、その表情は悉く抹殺されている…。
本の間に差し挟まれていた一輪の花が、そっと床にこぼれ落ちた…。


◆◆◆

「今日は調子はどう?」少女の母親はドアを開けながらそういって入ってきた。

「いいわ。お母さま。昨日は少し外に出たわ。小鳥たちが飛んでるの。もう春なのね」少女はうっすらと笑った。

「・・・そうね。もう春よ。先生から言われたとおり、今日も日記はつけたかしら?」

「今日の分はまだつけてないわ。お母さま。でも代わりにこれ」

そういって少女は手にしていた本に視線を落とした。
母親が見るとその本の表紙にはホラティウス著、「エポーディ」とあった。

「・・・これ、あなたが読んだの?」母親は怪訝な顔をして訊いた。

「わからないわ。ここに置いてあったの」 少女は首を傾げて、ベッドの脇のテーブルを指した。

「・・・そう。誰かが置いていったのかしら・・・・」母親は無表情になってそう呟いた。

「・・・こんなものは読まないでおきなさい。あまりいい本じゃないわ。・・・それより食事にしましょう」

「お母さま、今日はここで食べたいの」少女は少しだけうつむく。

「そう。・・・じゃお薬とお水を置くから、食べた後にちゃんと飲みなさいね」

「はい。お母様」少女はそう応えるとにっこりと笑った。

「テルー。食事を用意して」母親はドアに向かって、言った。



◆◆◆

何処からか少女の美しい歌声が聞こえてくる。

それが男の三半規管を不快に廻って、重たい頭痛となり、脳裡へとこびりついてくる。

余りの苦痛に頭を抱え込み、その場にひざまずく。

どくんどくん…

床がまるで鼓動のように脈打ちはじめる。

やがて足元から、底無しの沼にでも沈んでゆくように、生温かい人肌の温もりに包まれてゆく…。

ギャアァァァ!!

男はたまらず、壮絶な悲鳴を漏らした…。

◆◆◆

真黒な部屋の中にいた。わずかに灯されたランプの光に顔を上げると、部屋中に人間の死体がぶら下がっていた。辺り一面から硫黄のような臭いがする。

いつまで経ってもここは地獄だ。おれは閉じ込められいる。光を浴びたい。だが外に出ようとすれば、あいつが邪魔をする。あいつを殺したい。おれはここから出たい。

それは部屋から這い出ると、あいつを見つけるために、また暗い廊下を歩きだした。

◆◆◆

城内の2階に設けられた便所。ジョルジュが小用をしていたところにディヌやってきて、同じく小用のためズボンを下ろした。小便をしながらディヌが話しかけた。
「例の噂だが、聞いたか?」
「噂?なんのことだ?」
「深夜に城内を歩いてるっていう、影の話だよ。知らないのか?」
「ああ。その話か。ロミーがそんな話をしてたな」
「詳しい話はおれもあまり知らないんだがな、昨日ナキスがそれらしいものを見たっていうんだよ」
「ほんとうか?」
「見たっていっても実際には音を聞いたってくらいのことらしいんだがな。城内の二度目の最終点検のときに、中央塔の3階の廊下の奥から、コツコツと足音が聞こえたらしい」
「・・・・それで?」
「場内の人間は自分以外は寝てる時間帯だったから、不審に思って音のする方に近づいていった。そしてランプで照らした。―ところがそこには誰もいなかったらしんいんだ」
「ただの空耳だろう」
「いや、ところがそうじゃないんだ。窓が開いていたらしい」
「窓が?」
「ああ。一時間ほど前の一度目の点検のときにはナキスはその窓を閉めてる。しかしその時−二度目の時だな−には開いていたらしいんだ」
「だれかが開けたんじゃないのか?」
「いや、その可能性はないんだ。だって考えてみろ。三階にはだれの部屋もないんだぜ」
「・・・・悪寒のする話だな」
「とにかく充分注意しろよ。城内の警備の徹底は王の勅令だからな」

そうってディヌはズボンを上げると、便所から出て行った。

ジョルジュはしばらくの間、便所のドアを見つめていた。


◆◆◆

ランプに火を灯すと、胡桃色に浮かびあがる一人の男。

男に仮面を被らせたものは、それは恐らく絶望。
仮面の奥深くに、血走らせた目玉を、ぎょろつかせている。

その影は野放しにされて、既に久しい。壁を這い登り、天井から不在の重さでのし掛かる…。


◆◆◆

黄昏の城外の草むらで、子どもたちは一人の女の子を囲んでいた。数人の子供たちが手をつなぎ合わせて円を作り、円の中心に位置する所にいる一人の女の子は、眼をつむって座っている。
子どもたちは女の子の周りを大きな円を描きながらまわり出した。手をつなぎ合わせてゆっくりと、小唄を唄いながら―。



王女の 血の色 紅すぎる
 濃すぎた 血の色 紅すぎる
  月夜の晩に 出てごらん 
真っくらくらの部屋の中
 ぎょろぎょろ ぎょろ目が 動いてる  ・・・・


円の回転が止まった。

子どもたちは一斉に言う。

「さあ、だれだ」

女の子は眼をつむったまま一人の男の子の名前を口にした。

「・・・・」


黄昏の空に数匹、黒い鳥が舞った。鳥たちは子供たちを真似るようにゆっくりと円を描いた。


◆◆◆

少女は眼を開けた。長い時間眠っていたようだ。寝返りをうつと、窓から月光に映し出され、四つ足の椅子が尻を向けているように見えた。

少女は下着の中に手を入れた。
膨らむ前の胸…。それはおぞましい出来事からかろうじて回避することができる魔除けのようなものだと思った。
小さな胸の頂を指で摘む。手汗で乳首が濡れる。体の芯がむず痒く、虫が下半身を這う。
虫を払おうと、少女は秘部に指を伸ばした。
秘唇は湿っていて、少女の指の侵入を拒まない。上手に親指を残し、陰核を廻す。

その時脳裏にはいつも、顔の無い男が覆い被さっている。
多幸感とは言わないおぞましい感覚に襲われて、少女は果てるのだった。
いつからだろう。窓が開いていて、カーテンが風にたなびいている。
六割の月が少女を視姦していたことに気付いて…

少女はベッドから降り、銀の燭台を手にした。
月に愛撫をしてあげないといけない。
階段を降りると、男の影が見えた。
長い長い影だ。

月の使者だろう…

少女は直感的に思った。


◆◆◆

「誰かそこにいるの?」メアリーは銀の燭台をかざした。

廊下に黒い影が見えた、2メートル近い大男の腕は直角に曲がり、手にした物体の形状に見覚えがある。


地下からだろうか?

強い風が吹いた。
蝋燭の炎が今にも死に絶えるかのように呻いた。
色がある。黒を混ぜた原色の塊。

気配を感じ、メアリーは振り向いた。
黒髪が目に入る。


そこには「誰も」いなかった。
ただケビンバーグの「瞑想」の絵画がかけられているだけ。
美しき婦人の背後を見る背むし。


目眩がした。

いや、とうの昔から目眩がしていた事に気付いた。

私の足を返して…

メアリーは呟いた。


◆◆◆

ジョルジュが異変に気付いたのは、夜も深い刻であった。庭から見上げると廊下に陰が通った。

その陰の正体がメアリーであると判断するまでに時間はかからなかった。
(こんな夜中にどこに向かっているんだろう…手洗いなら方向が違う…)

彼はメアリーを追った。

2人の距離は約8メートル。地下へと続く階段の手前で立ち止まった。

ふとメアリーの後ろに大きな男が立った。どこから来たのだろう。
ジョルジュは注意深くメアリーを見張っていた筈だった。まるで壁からすり抜けてきたように、大男は彼と彼女の間に入ってきた。それはきっと、知覚の外からやって来たかのように…初めから彼女の背後にいたかのように、そこに立っていた。

彼は胸騒ぎを覚えた。
剣を抜き、大男を肩から打ちつけた。
大男は前のめりに倒れた。

同時にメアリーがこちらを振り返っていたのが見えた。

「大丈夫ですか?」

彼が口を開いたのと同時にメアリーは倒れた。





そして、メアリーが絶命したのを、彼は翌日牢獄の中で聞いた。



◆◆◆

晴れたらいいね…

少女をのせた黒煙が青空の最も高い地点に到達するまでに人々は忘却するだろう。

すっかり黒ずんだ人形を小脇に抱えたまま、少女は男の手を握り返す。
仮面の向こうでは、安らかに微笑んでいるような…
そして少女はさもそこに確かな安寧があるかのような気高き抱擁をする。

二人の後ろ姿が歩みはじめると、深い霧の中に、溶けてしまうように霞んで消えていった…。

恒久的な安寧はやがて沈殿し、そこが地の底であることを知る。


悲しいことに彼らの行き先は漆黒の闇である。

人間はその業をとうの昔に「黒」だと決めているからだ。

夕食には銀をたずさえて、また朝日も昇ろう。

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