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ミセス・シンデレラ研究会コミュの全ストーリー「5th Step」

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 みずほは郡山の病院の洗面所で父・健次郎の病室の花瓶の花を換えていた。「 ぼくが好きなのは君だ 」「 私もあなたのことが好き。でも、私はもう他の男の人の人生の中にいるんだから・・・」 病院のチャペルでの光との別れ、そのあと泰之と過ごした一夜のことをみずほは思い出していた。そこへ看護婦さんがみずほを呼びに来た。東京の香山家から電話があり、至急、かけ直してほしいとのことだった。みずほが病院のロビーの公衆電話から香山家に電話をすると、電話口に出たのは義妹の千恵だった。姑の涼子が家事をしていてぎっくり腰を起こし、亮子に呼ばれて来ているのだという。身重の千恵には家事を手伝うこともできず、みずほに早く帰って来てほしいと千恵は訴えた。「 だいたい、私はよその家に嫁いだ身なんだから、お母さんの看病にしても家事にしても、香山の家のことはみずほさんがすべきでしょう 」

 電話をかけ終わり、新しい花を生けた花瓶を持って父・健次郎の病室に戻ったみずほ。健次郎は隣の木村さんにもらったという草餅の包みを差し出し、お前の好物だろう、あとで一緒に食べようと嬉しそうにみずほに言った、「 やっぱり、飯でもなんでも独りで食うのと二人で食うのとでは美味さが違うからなぁ 」 健次郎は病室の天井を見つめながら、しみじみと言う。みずほはそれを聞いて、申し訳なさそうに、東京の義母がぎっくり腰になって困っているので、戻らなければならなくなったと父に告げた。「 ちょっとでも早く帰ってあげたいんだ。私、これでも結構、頼りにされているから 」「 そうか・・・。それにしても、あっという間だったなぁ 」寂しそうな健次郎。みずほは昼食だけでも一緒にと提案するが、健次郎は意を決したように、「 いや、やっぱり、すぐに帰った方が良い。つまらないことを言って、すまなかったな 」「 お父さん 」 みずほは健次郎の腕をとり、健次郎は娘の顔を見つめる。父娘の短い再会の時は終わろうとしていた。

 その頃、泰之は由佳とホテルのラウンジにいた。みずほが郡山に返っている隙に由佳とホテルに泊まったのだった。「 せっかく、部屋の合鍵まで渡して、ホテル代を浮かしてあげようと思ったのに、奥さんが実家に帰っていると開放感があるんだ 」と由佳に言われ、「 そんなわけじゃないけど・・・ 」 泰之は口ごもった。「 金払ってくる 」そう言って席を立った泰之とすれ違いに、光がラウンジに入って来た。泰之の背中を見送っていた由佳はそれが有名な作曲家・堀井光であることに気づき、席に座った光に「 私、ファンなんです 」と話しかけてハンドバッグから出した白いハンカチーフにサインを頼んだ。光が由佳の求めに応じてサインをしていると、泰之が戻る。電話番号でも聞かれたのか、と泰之は少し気分を害しながら、由佳に言った。「 サインもらっただけよ! 知らないの? 堀井光って有名な作曲家。格好良いでしょう? ハンサムで才能があってお金持ちで、あんな男性に愛されたら、女として最高に幸せでしょうね 」うっとりを光を見つめながら言う由佳に泰之は不機嫌そうに、そんなもんですかと気のない返事をした。光のもとに若い美女、詩織があらわれ、由佳と泰之は口をあけてぼう然と光たちの姿を見た。

 みずほは自宅で亮子の介護をしていた。独りではベッドから起き上がることができない義母をみずほが抱き起すと、亮子はみずほのせいでこんなことになったのだと愚痴を言いはじめる。「 あいたたたた、もうちょっと丁寧にできないの? だいたいね、あなたがいつまでも福島で愚図愚図しているから、こういうことになるのよ。あなたがいない間、お掃除から料理から何もかも独りでやらされて・・・。お洗濯の時にぐきっとなっちゃって。半分はあなたのせいですよ!」「 申し訳ありません 」みずほは謝りながら、亮子の腰に湿布を貼る。「 女の人生はね、じゅんぐりじゅんぐりなの。嫁は姑に仕え、その嫁が姑になって嫁に仕えられる。今、私にこうしていることは、結局は自分のためにしていることなの。そういう心がけを忘れちゃだめよ 」とくどくど続ける亮子に「 はい、気をつけます 」とみずほは返事をした。

 ホテルの部屋で、光と詩織は荷物をまとめていた。これまで詩織はローマ、光は東京と、二人は離れて生活していたが、光がローマの交響楽団のオファーを受けたため、活動拠点をローマに移すことになったのだ。「 私、結婚が決まった時よりも嬉しかったのよ。これからはローマと東京で離ればなれに暮らさなくても良いでしょう 」「 あぁ・・ 」 そう返事した光は、ピアノの上に置いたリヤドロの陶製人形を見て、黙ってしまった。それはヨーロッパ演奏旅行の時、みずほのために光が買い求めたお土産だった。フルートを吹く少女の人形を見つめる光の姿に、詩織の心の奥底で彼女自身も意識していない何か「 小さな疑惑 」が芽生えていた。そんな詩織の心の動きなど想像すらできない光は何か思い立ったようにピアノのそばを離れた。

 「 ほったらかしにして。ごめんね 」 みずほはチロとピースケの水と餌を換えながら謝った。鳥かごの中の二羽は幸せそうに寄り添っている。みずほが家事をしていると泰之が帰宅し、福島にいたんじゃなかったのかと意外そうな表情をしながら、みずほに近づく。母・亮子がぎっくり腰になって急いで戻ったことを報告したみずほは「 やっぱり、この家は私がいなくちゃだめよね。泰之さんも私がいない間、外食が多かったでしょうから、明日からきちんとお弁当も作るからね 」 みずほは郡山で泰之と一夜を共にして以来、香山家こそ自分の居場所なのだとあらためて痛感していた。泰之はネクタイを外しながら、明るく家事に励むみずほの姿を複雑な気持ちで眺めていた。

 翌朝、みずほは泰之のお弁当の支度をしている。食卓の上の泰之の手帳をカバンに入れようとして、泰之は「 その手帳は良いんだ 」とあわててみずほの手から手帳を奪う。その時、手帳にはさんであった鍵が床に落ち、チャリンと音をたてて跳ね返った。「 あら?」 みずほがかがんで鍵を拾おうとした時、泰之は顔色を変えて先に拾い上げた。由佳が泰之に預けた彼女の部屋の合鍵だった。泰之はその鍵は会社で使っている倉庫の鍵だと説明し、「 今まで探していたんだよ、なんでこんなところにあるんだろう・・・」と誤魔化し、じゃあ、行ってくるわと玄関に急ぐ。「 泰之さん!」 みずほに名前を呼ばれ、ぎくりとして振り返る泰之にみずほは「 お弁当 」と紙袋を手渡した。泰之は明らかに動揺しており、みずほは夫の不自然な態度に少し首を傾げながら玄関で泰之を見送った。

 整形外科病院の待合室。みずほは待合室の閲覧用新聞に光がローマの交響楽団の専属作曲家になったという記事が掲載されていることに気がつく。「 今月にもローマに・・・」 みずほは熱心に記事を読みふけった。「 みずほさん!」 治療を終え、看護婦に伴われ診察室を出て来た亮子に名前を呼ばれ、みずほはあわてて新聞を置き、亮子のもとに急いだ。看護婦に代わって亮子に肩を貸し、歩き始めたみずほの肩を亮子はぱんぱんと叩く。「 静かに静かに、静かに! もう、こういう時に限って動きが速いんだから 」 亮子は呆れたように叱った。

 光はみずほと出会った思い出の公園の、あのベンチに座り、みずほとの思い出に浸っていた。そこへ詩織が戻って来て、缶ドリンクを手渡しながら、何を考えているのと尋ねた。「 好きな人のことかなぁ 」 詩織の意外な質問に光は飲みかけていた手を止め、どうしてそう思うのかと反対に聞いた。「 それくらいのこと、わかる。でも、私はちっとやそっとのことじゃ揺るがない。二人の歴史を信じているもの。初めての自転車をコーチしてくれたのも光さん、初めて映画館に連れて行ってくれたのも光さん、それから高校の卒業パーティーにエスコートしてくれたのも。今回は初めての浮気だから許す。神は7度まではお許しになるっていうでしょ。私は神様みたいに広い心で光さんを愛しているから、あと6回くらいは許しちゃうかも 」

 みずほが鳥かごのそばでチロとピースケの世話をしていると、千恵が訪ねて来た。ごめんね、お母さんの世話を押し付けちゃって、と謝りながらも「 ねえ、この前のホテルのロビーにいたの、やっぱり、みずほさんだったんでしょ? お母さんには言わないから、私にだけ教えて 」と意地悪そうな顔で聞いた。あの、ちょっと格好良い人、誰だったの? どこかで見たような気もするんだけど。私ね、みずほさんが浮気しているとは思っていないのよ。主婦って、家の外で男の人と会う時、必要以上に神経を遣うじゃない、何にもなくても家族には言っておかないとね。千恵はそう言って、みずほに白状させようと迫った。「 そうですね 」 みずほは少しはにかみながら、「・・そうですね 」と話しかけたが、その時、亮子が孫を連れて部屋に入って来た。「 来る早々、人に子どもを預けて何をやっているのよ。みずほさんもいつまでも鳥の世話なんてしていないで、早くお夕食の支度をはじめてちょうだい 」 思いがけず亮子の闖入に救われたみずほは「 はい!」と返事して、エプロンを付けはじめる。「 あ〜あ、もう少しだったのになぁ・・・」千恵はせっかくのチャンスを逃したことを不満そうにつぶやいた。

 泰之は由佳と共に夜のバーで、取引先の部長(でんでん)を接待していた。部長は酔って由佳の肩を抱きながらカラオケを気持ちよくデュエットし、由佳の腰に手を回しては時折、彼女の尻を撫でた。その姿をイライラしながら見守っていた泰之は由佳がトイレに立った時、急いであとをついて行くと物陰で小声で注意した。ホステスじゃないんだから、何もあそこまでしなくなって良いんだよ、あんな奴に尻とか胸とか触られて平気なのか、と泰之は由佳を責めた。「 平気じゃないよ! 平気じゃないけど、課長の大事な取引先だから。もし、私のわがままで接待がうまく行かなくて、課長に汚点をつけるわけにはいかないもの 」 毅然として言い切る由佳に泰之は圧倒され、接待の場に戻る由佳の後姿を泰之は見送るしかなかった。取引先の部長はソファで由佳に抱きつき、彼女の身体の感触を楽しむように甘えた。二人の姿を泰之は苦々しく思いながら、グラスを口に運ぼうとして自分のコースターに文字が書かれていることに気がつく。そこには由佳の手書きの「 Don’t Worry このカラダはあなたのものよ 」というメッセージに、由佳の生々しいリップマークが押されていた。驚いて、コースターを持ったまま、由佳の方に目をやる泰之。由佳は取引先に気づかれないよう、微笑みながら左目でウィンクをして答えた。泰之は由佳の妖艶な姿にドキリとし、手にしたコースターの文字をもう一度読み直す。そして、由佳の顔とコースターを交互に見ては満足そうに笑顔を浮かべるのだった。

 自宅で泰之は風呂場で髪を洗っている。みずほは泰之の脱いだ衣服を洗濯機に移す時、ポケットをあらためていて、スラックスのポケットにコースターが入っているのを見つける。「 Don’t Worry?」 みずほは声を出して読み、表情が曇る。居間のテーブルにコースターを置き、物思いにふけるみずほ。そこへ亮子がやって来て、みずほはコースターをあわてて隠す。それを目敏く見つけた涼子は、あなた、今、何を隠したの? 嘘をついてもダメよ、出してみなさい、ホラ。みずほは観念して、コースターを亮子に渡した。「 このカラダはあなたのものよ? これ、泰之の? あ、そ〜う、いつからなの?」 亮子は泰之の浮気について、みずほに尋ねたが、みずほには見当もつかない。「 ちょっと、泰之のこと、問い詰めたりしちゃだめよ、あなた。男の浮気は鼻風邪と同じ。誰でもかかるけど、放っておけば治っちゃうのよ。そういう時に変に騒ぎ立てて事を荒立てると症状が酷くなって、治るものも治らない。ね? こういう時にどれだけどんと大きく構えていられるかが女の器量の見せどころよ 」 亮子はみずほにそう言って聞かせた。
 
 風呂上がりの泰之を亮子がそっと自分の部屋に呼び出す。亮子は痛い腰をさすりながらベッドにそっと腰を下ろし、泰之に目の前に座るように言った。泰之があぐらをかいて、亮子の前に座ろうとすると、亮子は正座しろと命じ、正座した泰之の目の前にコースターを突きつけた。「 これが何なのか、説明してちょうだい 」 泰之は突然のことに狼狽し、しばし絶句してから、部下がやった悪戯だと弁解をはじめた。下手ね、言い訳が。それじゃ、みずほさんに見抜かれても知らないわよ。「 みずほ、このこと知っているの?」 あわてて亮子に聞く泰之に、「さぁ、どうだか。自分で聞いてみたら?」 男はね、浮気の一度や二度は甲斐性のうちよ。でもね、こんなボロ出すようじゃ、いただけないわね。涼子はコースターを泰之のひざ元に投げ捨てた。浮気しても家は家でちゃんと守って、家には波風を立てないのが一家の大黒柱ってもんじゃないの? 「 何より、あなた。香山家の大切な種を他の畑に蒔いてどうするんですか 」 亮子の呆れたような言葉に泰之は声もなく、うなだれた。

 みずほは寝室でチロとピースケの鳥かごに布をかぶせ、「 おやすみ 」と言った。そこへ亮子の部屋から泰之が戻る。みずほは泰之の気配を感じ、彼に背を向けたまま言った。「 明日は雨かしらね。チロとピースケが肩を寄せ合って小さくなっている時って、翌日に雨が降るの。傘、玄関に出しておくわね 」 泰之はみずほに何といって良いのかわからず、もじもじしているうちに目の前を通り過ぎた。みずほは玄関で泰之のために折り畳み傘を出した。

 イタリア語会話教室の図書室。酷いな、みずほにお姑さんの面倒を押し付けて、自分は勝手に浮気しているなんて。直美が憮然としてみずほに言った。「 でも、泰之さんだけが悪いわけじゃない。私も知らず知らずのうちにいけないこといっぱいしていたんだと思う 」とみずほ。「 だからって、他に女作って良いことにはならないでしょ? みずほが浮気していたわけじゃないんだし 」 そう憤慨する直美の言葉に、みずほは沈黙する。「 していたの? 浮気!」 驚いて突っ込む直美に「 していたわけじゃないけど。でも、心の中でそれに近いことはあったの。だから、私、泰之さんのこと、責められないの・・・」 そこへ教務課のスタッフが、香山さんにお客様お見えですよ、と声をかける。スタッフのあとから、光があらわれた。みずほに微笑む光に、みずほは気まずそうに顔をそむけた。「 ごめん、こんなところまで・・・」 そういう光とみずほ、二人の姿を交互に見比べ、直美はみずほの言葉の意味を悟った。

 イタリア語会話教室の近くの広場。親子がボール遊びをしているそばで、みずほと光は立ち話をしている。チロは元気にしている? そう尋ねた光に、あなたが買ってくれたピースケと仲良くしているとみずほは答えた。「 これ、チロに 」 光は二羽で遊べるブランコをプレゼントした。光は言葉を続けた。「 君が別れ際に言ったこと、あのあと何度も思い出したよ。君は他の男の人の人生にいる。連れ出す権利はぼくにはないんだ。明日、イタリアに帰る。夜9時の飛行機で。今度、ローマに若い人達だけのオーケストラができてね、詩織の父親の雨宮さんがぼくを専属の音楽家として推薦してくれたんだ。詩織のこととは関係なく、ぼくの才能を見込んで頼むと言われた。自分自身のオーケストラを持って、そこでぼくの曲を演奏するのが夢なんだ。だから、この話を聞いた時は夜も眠れなくなるくらい嬉しくってね 」 わかるわ、みずほは光に同意した。「 音楽のことはよくわからないけど、でも、その道を行くのがあなたにとって一番自然で、一番素敵なことだって、私にはわかる。詩織さんと幸せになってね 」 ボール遊びをしていた小さな子どもが両親と手をつないで帰っていく後姿を、みずほは光と見守っていた。

 駅まで送るよ、という光にみずほは、ここまでにして、と断る。「 あなたに会えて良かった。良い思い出がいっぱいできた。一緒に踊ったし、オペラも行ったし・・・」「 一緒にど根性ガエルも歌った 」と光。「 人って、誰かに認めてもらえないと自分のこと好きになれないのよね。あなたといる時、私、いつもよりちょっとだけ自分のことを好きになれた。ねぇ、ど根性ガエル、もういっぺん一緒に歌わない?」「 え?」 みずほの提案に光は少し驚いた。背中を向けたら一緒に歌い出すの。周りに人がいて恥ずかしいでしょ。先に歌うのをやめたら負け。良い? 「 いち、に、さん!」そう言って、みずほは光に背を向けて歩きながら、ど根性ガエルを歌いはじめた。光はみずほの後姿を見つめていたが、やがて、ど根性ガエルを歌い出すと、みずほとは反対の方に向かって歩き出した。みずほが歌うのをやめ、後ろを振り返ると、光が歌いながら前を向いて歩いていく。光の後姿を寂しそうに見つめるみずほ。光からのプレゼントを両手で持ち、意を決して家路についた。
 
 帰宅して、電気もつけず、真っ暗な居間のソファに腰を下ろしたみずほ。光からもらったプレゼントを愛おしそうにテーブルに置く。文鳥の鳴き声がベランダから聞こえ、あわてて、鳥かごに向かうが、暗いベランダに吊るされた鳥かごの中でピースケが倒れて死んでいた。

 香山家の夕餉の席。みずほは食卓でぼんやりしていて、泰之からお代りのごはん茶碗を目の前に出されても気づかない。亮子にテーブルをとんと叩かれ、やっと我にかえる。「 泰之がたまに早く帰って来た時くらい、もう少し明るい顔をしたら、みずほさん 」とあきれ顔で注意する。文鳥が死んじゃったんですって、新しく買った方。亮子に教えられて、泰之はみずほが落ち込んでいたことに納得した。「 私がうっかりして、暗くなるまで外に出しっぱなしにして、夕方から急に冷え込んだでしょう。たぶん、だいぶ前から具合が悪かったんだと思います。私がもっと早く気がついてあげられたら。。。」 そういって落胆するみずほに「 そうね、文鳥は番にするとあっという間に繁殖して大変だというけれど、そういうこともなかったし。もしかしたら、あなたたちの寝室は子宝に恵まれない方角なんじゃない? 今度、風水の先生に相談してみようかしら 」

 翌日、みずほは公園の池のほとりにピースケの亡骸を埋めてやった。鳥かごで鳴くチロに「 お別れがしたいのね 」と外に出し、ピースケの墓前に置いた。光がプレゼントしてくれたブランコも供えてある。無心に鳴き続けるチロにみずほは言う。もう一目だけ、会いたいのね。でもね、もうダメなの。ピースケと一緒にいたいの? でも、チロ、あなたはかごの外に出たら死んじゃうんだから。お家に帰ろう。ピースケを光に、チロを自分にあてはめているかのように、みずほはチロに語りかけた。チロを両手のひらで包み込みながら顔を寄せ、みずほは涙を流した。

 その頃、光はオーケストラと共に録音スタジオに入っていた。今日が皆さんと顔を合わせる最後です。そして、これが最後の曲ということになります。もともとはオルガンのための小品だったのですが、今日の録音に間に合わせたくて、急いで書き直しました。「 これが、ぼくの一番大切な人に捧げる別れの曲です 」 光がオーケストラの仲間たちに語る言葉を詩織はコントロールルームで聞いていた。そして、「 ぼくの一番大切な人 」が自分ではないことに笑顔が消えた。楽譜を譜面台に置くと、「 Heaven's Song 」という曲名が見える。光は目をつぶって指揮棒をとった。

 みずほが手を滑らせて、キッチンの床にお皿を落として割った。その時、千恵からの電話。亮子が出ると、予定日まで一か月もあるのにお昼からお腹が痛いというのだった。様子を見に、すぐに向かうわという亮子に、旦那がいるんだから、わざわざ出かけなくても良いだろうと泰之。「 こういう時は母親じゃなきゃダメなの。あ〜あ、うちにも早くこういう日が来ると良いわね〜 」 亮子は嫌味っぽい口調で言うと、出かける用意をするため自室に向かった。
 

 ( 工事中 )

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