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イーチ、リトル、シングコミュの加山凛さん作品集

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『恋愛至上主義』

いいじゃない
惚れた はれたが この世の全て
ならばこそ
愛しき者を
全身全霊で守りぬけ
恐れるな
わき目をふるな
振り向くな
それが 恋愛至上主義



『ヤコブの梯子』

   泣くことはせず
   逝き場のない想いが胸のなかで膨らみ
   かといって
   誰かに打ち明ける気にもなれず
   そんな夕暮れの  
   気まぐれな秋の空
   厚い雲が ふと 細かく途切れ
   降りて来る
   まるで 色の抜けたオーロラ
   あの世界の果てで
   ロンドを踊る
   天使達の羽がひとひら
   降りて来る

                ※雲の切れ間から差し込む
                 幾筋もの神々しい御光は
                 あたかも天と地を行き交うための
                 階段のように思えます。
                 そこでヨーロッパでは これを
                 『天使の梯子』『ヤコブの梯子』
                 などと呼んでいます。
                          高橋健司 著
                          「空の名前」より






『真昼のスピカ 』


真昼のスピカ
あふれんばかりの
露店の花々の前に立ち竦み
想いあまって はばからず
人目も気にせず 泣き出した
もう 少女とは呼べないそのひとの
涙で潤んだ瞳はまるで
          
清らかに そして  淀みなく 
輝く乙女の 遥かな象徴(しるし) 

真昼のスピカ
あなたのこころは 見えねども
真昼のスピカ
あなたの瞳に 勇気が見える
真昼のスピカ
あなたの明日は 知らねども
真昼のスピカ
あなたの瞳に 愛が踊る



『猫と蛍』

 猫が狡猾だと言い出したのは
 何処(いずこ)の
 何方(どなた)でありましょう
 まるきり素にして実直で
 白雪姫の后(きさき)ほど
 嘘を知らない猫なのに

 善悪の彼岸という場所は
 この身が滅び辿り着く
 その時 わたしは 光る球
 猫は月夜の窓辺に座り
 じっと見つめる空中を
 ふわふわ漂う 魂蛍(たまほたる)

 陰陽の回転の只中の
 常識という名の箱庭で
 果てなく続く 満ち欠けの
 月影横切る 猫の群
                 
                 ※ここで言う「彼岸」とは
                  世の煩わしさを捨てた場所
                  仏教用語の涅槃を意味します


『春一番』


  淡い記憶の奥のほう
  鳥の囀(さえず)る声が聴こえてくる。
  あれは、十になっていたのか いなかったのか
  木造家屋の廊下の突き当りの小窓から
  顔を覗かせるほどの背丈は まだ なかった。

  ある晩 
  ふと、気がつけば夜明け前。しきりと風が騒いでいる。
  今はもう、恐ろしい事のない時刻だろうか?と怯えてみる。
  年端のゆかない子供にとって 闇はモノノケ達の底なしの棲家。
  頭のてっぺんまですっぽりと布団の中にもぐりこみ
  過ぎ去るのを待たなければならない。
  ところがいつもとは何やら様子が違う。
  空気がもったりと重たく、闇さえ灰鼠色だ。
 
  あの頃、季節の移ろいを
  そんなにも敏感に感じ取ってはいたものの
  はっきりとした形骸を言葉で表すことは出来なかった。

  その時、朝刊配達のバイクの音がした。
  もう、誰かが起きて働く時刻なのだと確認する。
  そして 音が闇に溶けるを追うように
  かよわい 幽かな 鳴き声が響く。
  チュン チュン チュン  
 
  部屋は階上にあった。
  二段ベッドの下段では弟が寝息をたてていた。
  静かに起き上がり部屋を出て
  廊下の突き当たりまでいってみた。
  背の高い小窓の向こうは 仄明るい。
 
  チュン チュン チュン
  声がまた聴こえる。
  息を止めて、ゆっくりと
  小窓ではなく腰高窓を明けてみる。
  途端、待っていたかのように風が押し寄せ 目を瞑る。
  なんという強風!
  しかも、生暖かい!
  よろけながらも 窓の桟に手を置いて声の主の姿を探す。

  舞い踊る新聞と、揺れる植え込み、
  細かい砂の粒と、等間隔に響く 鳥の囀り。
  身をよじり、大通りの方へ視線を移す。
 
  そしてわたしは 発見したのだ。
  三軒先の集合住宅
  その中のひとつの軒先に吊るされた
  カナリヤの白い鳥かごを。 

  あれは わたしとカナリヤだけが気付いていた
  春が生まれる瞬間の物語。


『プルキニエ・ワームホール』

 常夜灯の点る瞬間を見るたびに はっ とする。
 あたりが青紫に透き通る時刻のほんのわずかな一瞬
 列車で居眠りをしていた旅人が目的の駅に着いて
 あわててホームへ飛び降りるような
 突然 異次元に繋がる穴が開いたたような、
 あの玉響(たまゆら)に出会うたび、そのたびに。 
 
 遠い昔、街角には『ガス灯』が立っていて
 それらにはひとつひとつ、番人によって火がいれられていた。
 番人の呼び名は、点燈夫。
 ちいさな星の 王子さまが、
 ふるさとにひとつだけ咲く 大切な花を置き去りにして出た旅で
 5番目に訪れた、24時間ごとに1,440回も日の沈む
 あまりにちっぽけな星に住む男、彼が生涯をかけて担っていた仕事。
 寂しい王子さまが、
 「街灯に火をつけるのは、星をひとつ、よけいにキラキラさせるようなものだ
  でなかったら、花をひとつ、ぽっかりと咲かせるようなものだ」
 そう考えて、たったひとりだけ
 「ともだちにすればよかったなあ」と感じた男が。
 
 やがて王子さまが辿りついた ここ7番目の星にも 
 かつては462、511人の点燈夫がいたのだそうだ。
 100年以上経った今、
 あいにく、もうどこにも点燈夫はいない、おそらくは。
 
 点燈夫……とろとろと泡立ったお砂糖たっぷりのエスプレッソを 
 きゅっ と喉へ流し込むような 小粋な仕事。
 なぜって、人はみな往々にして
 ほの灯りに包まれて愛を語らうのだから。
 揚羽蝶のはばたきと見まごう 恋人のまばたきの奇跡
 その睫の先にガス灯の青い光は、そっと雫をこぼしただろうから。
 ああ、なんて甲斐ある仕事なのだろう!
 在りし日の点燈夫たちを想い出す 常夜灯の点る瞬間との邂逅に
 私はときめかずにはいられない。

 「ねえ、レグルスやスピカにも、
  あの星に住む点燈夫たちが火をともしたのかしら」

 トロワ・リヴィエールブランのモヒートのグラスの中の
 彗星の尾を集めたようなクラッシュドアイス、
 それを細いストローでかき回しながら、私は響くんに尋ねる。
 夕間暮れ直後のシガーバーの窓辺に並んだ
 カウンター席のガラス越し、宵待月が正面に見える。
 だから、私は響くんとではなく、月と向いあっている。
 響くんは右肘をオークのカウンターについて
 人差し指と中指の先でダビドフ・アンバサドリスを挿んだまま、
 親指の爪でおでこを掻く。
 困った時にする 響くんの癖だ。
 その仕草はガラス窓に反射して
 正面を見つめたままの私の視線のはじっこに引っかかる。
 
 「……テントウフ? いきなりなんだよな、縫子さんは、いつも」
 「いいわ、なんでもない。でもね響くん、君にダビドフはまだ早いわ」
 
 私は腰掛けていた椅子から身を乗り出し、響くんへ向き直ると
 彼の指の間からチョコレート色のスティックを抜き取って
 2・3度自分で吹かしてみる。
   
 「まいるなあ」

 大きな爪の長い指をV字に立てたまま
 響くんはまた右手の親指の爪でおでこを掻く。
 私は、響くんの左の手首を握りしめて引き寄せると
 手の甲の親指の付け根にキスをする。
 すると今度は響くんも身体を私に向けて、右の掌を私の鼻先に差し出す。
 そこで私は自分の左手を、響くんのそれに軽く乗せる。
 乗せられた手を、響くんは反転させ、私の掌に強く唇をおしあてる。
 
 「手の上なら尊敬のキス
  掌の上なら懇願のキス」
 
 小さな私の呟きを響くんは聞き逃さない。

 「フランツ・グリルパルツァーの言葉、だよね」
 「あら、よく覚えたわね」
 「ほんと、まいるんだよな……」

 苦笑いをする響くんの右肘のすぐそばの
 クリスタルのアッシュトレイの中、
 折れたダビドフ・アンバサドリスから
 プルキニェのゆがんだ煙が立ち昇る。






コメント(4)

凛さん>
すいません勝手に載せてしまいました 汗
了解宜しくお願いします。
いや、これ外部ブログにしか掲載してなかったと……
しかも、そのブログ、削除したような気がして 笑

凛さん>
そうなんですかー
凛さんの書いた素敵な文章がまだまだ載せたいのが山ほどありますが
自分のパソに保存します。

恋愛至上主義的から見たら今の『婚活』なんてとんでもないですね 笑
そんなんでクラブのお姉さんに説教してしまいました 笑


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