ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

たか☆ひ狼の書庫コミュの0%ヒーロー2話「自由研究はヒーロー!?」

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ー カンザキ邸。
 そこは、文化財指定されているのも関わらず、誰一人として寄り付かない場所。
 しかし不思議なことに、きちんと刈り揃えられた庭の芝生、曇りひとつない窓ガラス。
 100年近く無人のままこの地を見下ろしているこの建物……いや、この場所自体が、何か特別な力で守られているかのような、そんな超自然的な感覚が、この場所には存在していた。

 そしてここの住民や、子供たちからは幽霊屋敷として延々語り継がれ、怖がられてもいる。
 夜になると淡く青白く光を放つ芝生のこと。
 葉が季節というものを知らないくらい、一年中緑色に生い茂っていること。
 時おり、窓ガラスにぼうっと浮かぶ人影のこと。
 まるでこの場所を守っているかのように、時おり姿をあらわす、黒い犬のこと。

 肝試しでカンザキ邸に入ろうとして、この犬に遭遇した人は言う。
「ドーベルマンみたいなほっそりとした黒い犬なんだけど……毛が無いんだ、鉄みたいな身体で、あちこち尖っていたよ」
「あそこに入ろうとしたら、音もなく背後にいたんだ、マジでこいつは幽霊だと思ったね、犬の幽霊」
「犬みたいな目がないんだよね、真っ黄色な、ロボットみたいな感じ?」
「アレ日本語しゃべってなかった? これ以上近づくなって」

 けれどもその正体は、誰にもわからなかった。


 夜。
 幽霊屋敷と呼ばれるカンザキ邸の2階のテラスに、1匹の黒い犬が立ち、家々に灯る明かりを一つ一つ観察するかのように、じっとそこから見下ろしていた。
 そしてその黒い犬は確かに、生物のものではない、黒く鈍く光る身体をしている。
 尖った鼻先、耳、尻尾……
 定規で一直線に、一気に描いたかのようなシャープさ、そして凛々しさすら感じられる。
 しかし自然界には存在しないその不思議な体格。
 目には瞳が存在せず、感情は読み取れない。
 黄色く光る、カメラのような目。
 しかし街を見下ろすその瞳には、ほんの少しだけ、悲しさのようなものが感じ取れた。
「博士……」その鋭角の口から紡ぎだされた声は、犬の吼え声ではなく、明らかに人語。
「私にはわからなくなってきました、坊ちゃまの考えることが……」
 クイン……と、軽いモーターのような音を響かせ、黒い犬は首を上に上げた。
 そこには白く丸く輝く月。
「なぜ今になってニンゲンという存在に興味を示したのか……あれほど私は止めろと言っておいたのに」
 白い星に問いかけるように、犬はまた小さくささやいた。
「博士、あなたは私にそれ以上のことはなにも…言ってはくれませんでしたね」
 しかし月は冷たく輝くだけで、何も語りはしない。
「これからどうすればいいのでしょう……私は……」
 無言の月を悲しい瞳で見つめた犬は、また街を見下ろした。

「いつまで続くのだ……いったい」
 そして街の明かりも月明かりと同様、彼には何も答えてはくれなかった。


 話はその日の朝にさかのぼる。
 ドォン!!!
 カンザキ邸とは似ても似つかぬ年季の入ったアパートの1階。
 そのさらに左端。102号室から、何かを叩きつけるような大きな音と、振動が辺りに響き渡った。
 下手をすれば、このアパート自体が崩壊してしまうのではないかと思えるくらい。それほどまでにすさまじい音。
 そしてその左となり、101号室の玄関ドアをそおっと開ける少女がいた。
「……行ってきまーっす」
 ボソリと小さい声だけど、元気だけはある。
 その少女……本町 唯衣は、大騒音の出処である隣の102号室を、玄関の隙間からちらっとのぞき見た。
「まだやってる……朝から元気だなぁ」はたからみれば近所迷惑かもしれないその騒動に、少し冷めた口調で彼女は独り言をつぶやいた。
 その直後、金属製の102号室のドアがバァン!と勢いよく開けられ、そこから少年が猛スピードで飛び出てきた。
「いーじゃねーか! ドケチ! クソババア!」
 体勢を立て直しながら、少年は102号室の玄関の先、いわゆるクソババアのいる部屋に向かって、これまた大きな声で怒鳴った。
 102号室の表札には《速坂》の文字が。
「だからさっきから言ってるじゃない! あの靴はお出かけに使う特別なモノだから、きれいにとってあるんだって!」
 少年の言うクソババアには全くそぐわない、若い怒鳴り声が奥から聞こえた。
「今日だって特別じゃないかよ! 明日1学期終業式だからさ、えっと……そう、終業式イブ!」
「なにバカなこと言ってんの! 母さんが仕事から帰ったらおまえと一緒に買いに行くって言ったでしょ! 今日はそれでガマンしなさい!」
 その言葉の直後、スパァン!と、少年の顔面に、勢いよくビーチサンダルが投げつけられた。
 顔面にいきなりの攻撃を食らい、思わずグラリと体勢を崩す。
 そしてよく見るとその少年……速坂 勝季は靴を履いていない、裸足のままだった。
「ンなモン履いて学校行きたくねーよ! 恥ずかしいじゃねーか!」
 少しの沈黙の後、若い声は少しトーンダウンして、勝季につぶやいた。
「ふーん、じゃあそのまま裸足で学校行けば? それで大ケガしたって母さんは一切責任持たないからね」
 その言葉に、今度は勝季が詰まる。
「くっ……」言いようにも言えない思いを押し殺す呻き。
しかしそのまま勝季はぺたぺたと汗ばんだ足音を響かせ、外に向かって歩き出そうとした・・・が。
「あのさーカッチ、一緒に行くあたしだってみんなに笑われるんだからね、ンなことしたらもう絶交だよ」
「唯衣……」
 振り向くと、そこには唯衣の姿が。
「先生に一緒に理由話してあげるからさ、だからそれ履いて」
「……わかったよ」
 軽いため息を一つつき、勝季は面倒くさそうに、落ちていたビーチサンダルを履いた。
「全くもぉ……唯衣ちゃんも母さんも近所の笑いものにされちゃうことぐらい分からないの?」
 102号室の玄関から、困り果てた顔の勝季の母が出てきた。
 それはどちらかというと、母親というより、ちょっと年齢の離れた姉に近いような、そんな面立ち。
 とにかく見た目が若すぎる、普通に街を歩いてても一児の母には見えないくらい。
 肩にかかるこげ茶色の髪を後ろに手で流し、息子同様にため息を軽くついた。
「あ、おはようごさいます!」
「おはよう唯衣ちゃん……っと、今日は父さんと母さんは早出してるんだっけ?」
「ええ、帰ってくるのはいつもどおり夕方近くなんで」
「そっか、んじゃ今日のお昼ご飯、勝季と一緒にね」
「はい、いつもすいません」
 その会話に、勝季がいやな声で応える。
「えー、また唯衣と一緒に昼メシ食うのかよ」

 ゴン

 母の拳が、勝季の脳天に鈍く響いた。
「痛っだぁ!」
「またとは何だまたとは、夕ご飯だって週に何回かは一緒に食べるでしょうが」
「いつもごめんなさい……」唯衣は照れくさそうに頭を下げた。
 唯衣の両親は手製ランチ弁当を作り、ミニワゴン車でオフィス街で販売をしているのだ。
 自然食を売りにしているその弁当がここのところ口コミで人気が出始め、最近は朝食弁当も作っていた。
 それが勝季の母親の言う、早出。
 場合によっては夕方まで帰れない日もあり、唯衣は土日祭日を除く何日かは、勝季の家で夕食を一緒に食べている。
 生まれた時からずっとお隣同士の仲であるため、勝季の両親も唯衣を同様にかわいがっていた。
「いいんだって唯衣ちゃん、そんな遠慮することないよ」
 と言いつつ、母親はいたずらっぽい横目でじっと勝季をにらんだ。
「私、今日は昼過ぎまでパートから……どうしよ、お昼はチャーハンか焼きそば、どっちにする?」
「チャーハン!」とすかさず勝季。
「んーっと、焼きそばかな」その後に唯衣が続いた。
「よし、んじゃお昼は焼きそばに決定、作っておくからね」勝季の言葉に一切耳を貸さず、母親は即答で唯衣に笑みを返した。
「って、ちょっと、先に言ったの俺じゃねーかよ! ひでぇ! なんで唯衣のほうなのさ!?」
「あのねー勝季、レディファーストって言葉知らないの? それに出来の悪いお前より唯衣ちゃんの方がずっとうちの子にしたいくらいよ」
「ひでー! けど言うと思った! ファーストだかセカンドだか知らねーけど、やっぱクソババア……!」
 勝季がババア宣言をしたその時、彼の身体が、突然ひょいと浮き上がった。
「(うわ……きた)」笑いをかみ殺す唯衣。
「んー、今なんて言った勝季? クソババアだとかなんとか……」
「はな……せ! ちくしょー!」
 勝季は手足をジタバタさせて必死に抵抗するが、小さな身体では母親には届かない。
 その頭は、母親の手によって、さながらソフトボールを鷲掴みにするかの如くがっしりと握られていた。
「クソババアじゃないでしょ、ね? か・つ・き?」
 にこやかに話してはいるものの、その笑みは明らかに沸点寸前の作り笑いそのもの。
「さぁ勝季? なんて呼ぶのかな〜?」
 勝季の身体がだんだん高くなる。ものすごい握力だ。
「か……かあちゃ……ん」
 空中でだらんと力なくうなだれた勝季が、降参の意味を込めて返事する。
「うんうん、で、その次に何か続くでしょ?」
「……ごめんなさい」
 パッと、勝季の身体が空中から解き放たれた。
 しかし唐突な解放に、勝季は対応できず、そのままコンクリートの床にゴン! と尻餅をついた。
「あだだだだぁ〜っ!」たまらず転げまわる勝季。
「はぁ〜やっぱりね……」苦笑いな唯衣。

 はたから見れば虐待とも取れかねない光景だが、唯衣はともかく、近所の人たちにも、もはや見慣れた光景となっていた。
 血気盛んな勝季が何かにつけて母親にケンカを売り、当然の如く叩きのめされる。
 幸いなことに、このアパートの103号室と2階の半分は入居者が誰もいないため、この怒号も地響きにも全く苦情は来ない状態だった。

「ほら、さっさと学校行きなさい2人とも、靴のことは先生に電話しておくから」
「うん……」しかし勝季はまだ煮え切らない様子だった。
「では、いってきます!」
 と、尻を押さえる勝季の手を引っ張り、唯衣はアパートの門を出て行った。

 そしてまた、アパートには本来の静けさを取り戻し始めていった。
「はぁ……ちょっとあたしに似すぎちゃったかなぁ・・・勝季」
 ちょっと寝癖気味の後ろ髪を、ため息交じりに手櫛で直し、勝季の母もまた家の中へと戻っていった。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

たか☆ひ狼の書庫 更新情報

たか☆ひ狼の書庫のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング