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たか☆ひ狼の書庫コミュの0%ヒーロー

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奴らが周辺を破壊して出現するのとは逆に、彼は音もたてず、そして何も壊さず、どこからともなく白い光に包まれて表れてくる。
誰もその正体を知らない、まさに神出鬼没のヒーロー。
そして彼の目的はただひとつ。
…そう、奴らを倒すためであった。

白いインナースーツで全身をぴったりと覆い、腕と脚部、胴体には赤とシルバーに彩られた、細身のアーマーを装着している。
腰アーマーの右にはメイン武器となるレーザーガンが。ホルスターは無く、直接装着されている。
首元には、彼の全てを特徴付ける大きな赤いマフラーが結わえ付けられていた。
ヒーローの身長よりもちょっとだけ短いマフラー。
だけども不思議なことに、このマフラーは風にも、重力の法則にも一切縛られることが無かった。
頭部はおそらくアーマーと同素材な白いヘルメット。
2本の大きく伸びた角に、若干飛び出たバイザー部が、ちょっと日本の兜に似ている。
そして、その奥に光る目。
一迅の風のように現れ、敵を倒したと思ったらまた知らず知らずのうちにいなくなる。
そう、神崎町のヒーローは圧倒的に強かった。
少々時間を食うことこそあれど、彼は一回もダメージを受けたことが無く、その華奢な白いボディを土埃で汚したことも無かった。
TVのヒーローの戦闘に無くてはならない「苦戦」が皆無だった。
一切のスキすら存在しない、まさにパーフェクトなヒーロー。それが彼だった。

しかし、欠点が無いわけでもない。
スーツとアーマーに包まれたヒーローの、唯一確認できる、その瞳。
間近で見た人の話によれば「無機質だった」とか「感情が見えない」「なんか怒ってそう」とかいろいろ。
それは敵に対する怒りそのものなのか、あるいは無感情な…機械なのか。
その瞳はなにも答えてはくれなかった。
第2に、TVヒーローに必要不可欠な「掛け声」が一切皆無なこと。
ジャンプするときも、地を駆けるときも、銃を抜くときも、そして止めを刺すときも。
神崎町のヒーローは、終始無言である。
敵に襲われている住民に「大丈夫でしたか? もう僕が来たからには大丈夫!」とか「お怪我はありませんでしたか?」とか。
暖かさも、心遣いも、そして優しさも、神崎町のヒーローはなにも見せてはくれなかった。

そして蛇足かもしれないけど、その3。
このヒーローは、ちょっと身長が足りない。
推定1,5〜6mくらい、明らかに子供サイズである。
TVから飛び出したかっこいいヒーローを期待している大人には、いささか拍子抜けだった。
しかしそんな大人たちの声とは裏腹に、子供たちには受けがよかった。
その感覚は、TVよりゲームに近いものかもしれない。
けれども安全性を優先してか、戦闘が起きると子供たちは「良識ある大人たちに」真っ先に非難させられてしまう。
確かに。今まで被害者は皆無といえど、いつ何が最悪の事態が起きてしまうとも限らないから。
好奇心旺盛な子供たちが、変に近づいてしまって…ということだって充分にあるのだし。
それに、ヒーロータイムは往々にして平日の昼間が多い。
子供たちは学校の時間に戦闘が発生してしまうので、子供たちは結局、地元ケーブルTVが撮影したニュース映像を見て我慢するほか無かったのだ。

だから…
勝季は嬉しかった、ちょっと距離があるとはいえ、ヒーローの戦いをリアルタイムで見ることができたから。
クラスメートのいたずら友達、カイや恭平だって、もうとっくに家に帰った時間。おそらく家でTV見てるかゲームしてる頃だし。
唯一残念なのは、カメラを持ち合わせていないことだけ。
きっと持っていれば、撮れていれば、明日学校で自慢できるし、見ていた証明にもなる。
それにTV局に応募すれば、きっとクラスで一躍ヒーローになれる!
ヒーローを撮ってヒーロー…という変な考えに一瞬陥ったけど、やっぱカメラは欲しかった。
一応ケータイは持っているけど、イザというとき意外使うなと親に言われているし、何より安物のキッズ仕様なのでカメラが付いてない。
「カメラ持ってればなぁ…」
勝季の欠点は、寝言同様、思っていることがふと口から漏れてしまうことだった。
それがあらぬ誤解を生んでしまうことが時々あったけど、元より根が正直な勝季には、大して欠点にもならない欠点なのかもしれなかった。

「カメラ持ってたって無理だよ、カッチ」
勝季の独り言に反応するように、唯衣が冷静に答えた。
しかし、双眼鏡と視線は以前事件現場に向いたまま。
「ここ立ち入り禁止だからさ、屋上にいたことがバレちゃうもん」
「あ…そっか」
ため息にも似た大きな鼻息が、傍らにいた唯衣の肩口に触れた。

ピッ! ピッピッ!
やめてよその鼻息、と唯衣が言おうとしたその瞬間《掃除機》が先手を打ってきた。
周囲を飛び回っていた蜂のような小さな飛行物体から光線が数発、おおよそ10m先のヒーローに向けて放たれたのだ。
狙いは正確、ヒーローにヒットしたと思い…きや。
『消え…た?』勝季と唯衣が同時に言葉を発した。
元いた場所には着弾したレーザーの跡が、小さな白い煙を駐車場のアスファルトの上に立ち上らせていただけ。
「いや違う、上だ!」
肉眼で見ていたおかげで、小さいながらも全体の視認性は勝季の方が上回っていた。
音も無くジャンプ、それも常人を超える高さで。
《掃除機》の全高が大体5mくらい(?)だから、高さにしてゆうに7〜8mくらいか。
スマートに軽く、きりもみ、そしてクルっと1回転。
オリンピックの体操競技に出場したら、もうこの動きだけで10点満点取れそうなくらい、それほどまでに美しいジャンプだった。
そしてジャンプの頂点からそのまま、ヒーローは《掃除機》の頭部を踏みつけるように、両足キックをきめた。
厚いプラスチックの板が割れるような、メキメキという音が勝季の方にまで聞こえた。
頭部にダメージを受け、大きくのけぞる《掃除機》。
それが目に相当するものかどうかは分からなかったが《掃除機》は頭にいたヒーローをはたき落とすかのように、闇雲にその細い両腕を振り回した。
まるでダダっ子のように。バタバタと。
しかしそんな攻撃など意に介さず、潰れた頭部を踏みしめ、一瞬のうちに、彼はまた軽くジャンプをした。
「すごい…全部避けちゃってる」
こちらに関しては双眼鏡で見ていた唯衣の方が、一枚上手だった。
「つーかさ、唯衣」
「…え?」
「あいつさ、アレまだやってないよね?」
「アレって、首のアレ?」
勝季は、うんと軽く首を縦に振った。

重力に反するかのように、ヒーローは音も無く軽く着地。
彼は一切しゃべらない、そして敵も一切叫んだりわめいたりしない。
レーザーの音や壊れる音すらするが、それはとても静かな戦いだった。
《掃除機》の数m前に着地したヒーローに向けて、今度は両腕のレーザーが火を吹いた。
火を吹く、という言い方はオーバーかもしれないが、しかしその言葉が似合うかのように、細く長い、赤い光が大量に彼を襲った。
飛んでいる蜂も含めた、何十発ものレーザーの雨嵐。
「すげっ!」
思わず勝季も声に出してしまう。
しかし…彼は劣勢というもの自体を知らなかった。
まるで地面に四角のマス目が張り巡らされているかのように、右に、左に…時には後ろに。
歩いていることすら分からない、ちゃんと状況が見えている唯衣にすら見えない、そんな高速ステップで、ヒーローはレーザーの雨を寸分たがわず確実によけていた。
その双眼は、ジッと敵に向けられたまま。
「グオゥガガカッ!」
レーザー音と同じく、騒音の口火を切ったのは、同じく《掃除機》だった。
頭部が破損しているからなのかどうかは分からないが、暗く深い洞穴から風が抜けるようなグオゥという声の後に、プラスチックの板を叩きつけるかのようなガカッという音。
恐らくあの敵の素材は、とても軽いのだと予想できた。

両腕を振り上げ、いかにも「怒ったぞ!」なポーズをとる《掃除機》。
その時だった。
敵の威嚇ポーズに一瞬のスキを垣間見たヒーローは、バックステップの後、腰のレーザーガンに手を添え、そして一気に連射した。
パシュ、パシュッ!
空を切る音が、瞬時に2回。
それは、怒ったぞーと叫んで(いるように見えた)敵にすら把握できなかったかもしれない。

《掃除機》の両肩の付け根から、黒い煙が昇ったと同時に…
あの細い腕が、ボロリと落ちた。
「やった!」
遠めに見ていた勝季が、思わずガッツポーズをとる。
しかしその時だった。
さっきまで爪先でクルクルと回していた勝季の靴が、落ちた。
《掃除機》の腕が落下するのと同時に。同じようにポロリと。
半脱げだったことなんて全然忘れていた。
ヒーローが現れたから。

そんなことすっかり忘れていたから。

                ☆

《掃除機》の破損した腕部は、地面に落ちるや否や、四散する事も無く、瞬時に消滅した。
敵たちのもうひとつの特徴、それは爆発することもなく、一瞬のうちに消えることだった。
だから破片も残らない、とってもクリーンな敵。
しかしその反面、一切の証拠が残らないので、ヒーロー同様、正体も素材も全て不明なこと。
全てが謎の存在、全てが謎の戦い。
全てが、何も無かったかのように消えてしまう…被害をこうむった町だけを残して。

だけどそれとは裏腹に、消滅することも無い勝季のスニーカーは、一直線に地面へと向けて落下していった。
「ちょ、やばっ!」
反射的にぐいっと足を伸ばしたが、それも届かない。
だが、幸か不幸か…
スニーカーはグラウンドに着地せず、校舎の雨よけの短い屋根にかろうじて2/3はみ出すかたちで乗っかった。
このまま落ちていたら、絶対に2階の職員室の先生、もしくは1階の用務員のおじさんに見つかること確実。
それだけは避けたかった、だから雨よけ屋根に乗っかったのは、本当にラッキーだった。
「ゆ…唯衣、あのさ」
戦闘の鑑賞に夢中な唯衣の袖をちょちょいと引っ張り、勝季は申し訳なさそうに小声で話しかける。
「なんなのよ、これからだっていうのに、双眼鏡は貸さないよ」
「じゃなくってさぁ…その」
「だからなんなのよ!? トイレとか?」
ようやく双眼鏡から放れた目は、かなり不機嫌そうだった。
「俺の靴…そこに落ちちゃった」
「…え?」
座りっぱなしで重くなった腰を上げ、立ち上がり足元を見る。
確かに、勝季の右足だけ靴が無かった。
「すごそこなんだ、ちょこっと下の屋根ンとこ」
勝季がちょいちょいと、柵越しに真下を指差す。
恐る恐る首を伸ばすと、確かに…ギリギリの線で勝季の靴が屋根に、かろうじて乗っかっている。
しかし本当に難しいバランスだった、ちょっとした風が吹いたら落ちるくらいに。
「俺今からあれ取るからさ、手伝ってくんない?」
「やだよ、カッチの汚い靴なんて」
唯衣のふくれっ面に、さらに拍車がかかる。
「誰も唯衣が取れなんて言ってねーだろ、俺が取るんだよ、バーカ」
唯衣の的外れな答えに、勝季も思わず苛立つ。
「バカは余計でしょ! ンなの一人で取りなさいよ、柵つかんで足伸ばせばどーにかつまめるじゃない」
唯衣はベーと舌を出すと、勝季の元を離れ、今度は屋上の一番端で観戦を再開した。
木が何本か立ち並んでいて若干見づらいが、とりあえず今は勝季とケンカ中、少しでも離れたかった。
「唯衣のケチ、もう歴史の宿題教えてやんねーからな!」
聞いているかどうか分からない唯衣に向かって、勝季もベーと仕返しした。
確かに戦闘も見ていたい、しかし靴を取る方が先決だ。
靴無いまま帰ったら絶対に家で言われるだろうし、落っことしたらそれ以上にヤバい事態が待っているし。
こうなったら俺一人で取るしかない、っていうか一人で取れるし!
むくれ面のまま、勝季は行動を開始した。
1箇所柵がサビで落ちている場所がある、そこから抜けて、うまく身体を伸ばせば…
いや違う、それだと落ちちゃうかも知れないし! と思い、勝季はまた作戦を巡らす。

ー柵つかんで足伸ばせばー

「あ、そうか」
悩む勝季の脳裏に、唯衣の言った言葉がふっと浮かんだ。
ならば話は簡単、思ったことをすぐ実行に移すのも勝季の性質である。
砂利で足の裏がチクチクするのをちょっと我慢して、すぐさま脇にある柵の穴へ。
「うん、大丈夫…たいした高さじゃないし」
自分の心に言い聞かせるかのように、勝季は小さくつぶやいた。
正面の柵をつかんで、プールの手すり降りるように、後ろ向きに…
靴を履いてる左足はそのまま踏ん張り。後はぐっと下に右足を伸ばして…股が痛いけど。
場所が場所なので、目で確認することは難しい。
それに、ちょっと怖かった…真下を見てしまうのが。
遠くを見渡すことと、真下を見ることでは怖さが全く違う。
恐怖で、手のひらにじっとり汗がにじむ。
「ちょっとだ…もう、ちょい…」
右足の先に、ちょんとスニーカーの感触があった。
「おっし、取れ…!」

バキッ

言い終えないまま、両手につかんでいた柵が、折れた。
「…あ…」
もはや柵は、勝季の加重に耐え切れないくらいに、ボロボロにさび付いていたからだった。
支えが無くなり、宙に駆ける勝季の身体。
「…ちょ…! だ…っ!」



「すっごい! 今度は飛んでるの全部撃ち落してる!」

勝季の声にならない叫びは、唯衣の耳に全く入らなかった。

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