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たか☆ひ狼の書庫コミュの0%ヒーロー

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「ぼくの町には、ヒーローがいます。
 白と青のスーツと、よろいに身を包んで、とっても長くて赤いマフラーをした、すごくすばやくて、めちゃくちゃ強いヒーローです。
どこからくるかわからない敵を、かっこよく倒していき、そしてそのヒーローもまた、どこかへと帰っていくのです。
戦いが終わった後は、敵があばれたおかげで、お店とか家とかがちょこっとばかし壊れてしまうけど、みんな笑ってゆるしてくれます。
今までにケガをした人も、なくなった人も、誰もいないからかもしれません。
みんなが、この町を守ってくれるヒーローが大好きなんです。

けど、ひとつだけ欠点があります。


それは…ヒーローに名前がないことかな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ー第1話 夏休み3日前ー

灰色の煙が、辺り一面を覆いつくしている。
肺に入ってくる咳き込む空気を極力抑えながら、一歩一歩、音を立てないように、慎重に歩き続ける。
あいつはまだ近くにいるに違いない。そう自分の感覚が心に警告していた。

周りはもう、原形を留めないほどに破壊しつくされた建物だけ。
生きているものは誰もいない、自分だけだ、きっと。
気持ち悪いくらい何も聞こえない静寂と、そして自分の鼓動のみが、この瓦礫だけの空間を支配していた。

ブゥ…ン
前方に聞きなれた電子音が響いてきた。
その音は着実に自分のほうへと近づきつつある、感づかれたか!?
とっさに身をかがめ、側にある壊れたコンクリートの陰へと身を隠した。
煙のせいでほとんど視界が利かない、だけども「あいつ」はそんな環境なんて意味は無かった。
わずかな電子音と共に、地面を滑るように移動し、そして生きているもの全てを光の束で焼き尽くす。
そして「あいつ」は1体だけではなかった、何百、何千もの同型のタイプが、この町に一度に押し寄せてきたのだ。
全てを焼き尽くした後「あいつら」はまた、別の場所へと侵略の駒を進めていく。
恐らく…今近くにいるのは。わずかな生き残りを消去するためにとどまった奴等であろう。
1体だけ、だが「あいつら」には、地球上の全ての武器が通用しなかった。
さらに我々人類が攻撃を仕掛けるよりも早かったのだ、「あいつら」の攻撃は。

世界には、成す術が無かった。
そう、彼がこの世界から姿を消してから…

ー無理、なのかな…もう滅びるしかー
思わず口からこぼれそうになる言葉を、ぐっと寸前で押し殺した。
そうだ、彼はもういないんだ。ヒーローはこの地球にはもう存在しないんだ。
寂しさと後悔と絶望感が、緊張していた心の隙間へどっと流れ込みそうになった。

ブゥゥゥゥゥゥゥ…ゥゥゥ
それはあまりにも突然だった。
別の方向…背後から「あいつ」がもう1体、高速で自分の元へと近づいてきた。
ーしまった、いつの間に!?
振り向きざまに確認しつつ、隠れていた瓦礫から逃げ出そうと身を乗り出した瞬間だった。
恐らくさっき偵察をしていたであろう同型の機体が、自分の行く手を塞ぐかのように姿を現した。
前、そして後ろ。
冷たいシルバー一色のカラーリングに、球体を模したかのような卵形のボディ。
上面部分には不規則に明滅を続ける赤いライトが1個、さしずめカメラアイの如く不気味に輝いている。
そして身体の左右には、細く長い小型のレーザーガンが、併走するかのように浮いていた。

見つかった。それも2体に。
もはや、自分自身にも成す術はなかった。
……
電子音が止んだ。
赤い目の明滅も止まり、レーザーガンの黒い銃口がゆっくりと、自分に向けられた。
その黒い銃口の奥から、小さな光があふれ出して行く。
それは痛いと感じる間もなく、瞬時に…


「うわあぁあぁぁぁぁぁぁああああああぁぁっ!」
「だぁ!」
ゴン。

「え…?」
暗闇の中、自分の後頭部と鼻っ柱に鈍い衝撃が。
「お、ようやくお目覚めか、勝季」
「え…ちょ、レーザー…?」
じんじん痛む鼻と頭を押さえながら、その少年=勝季は我に帰った。
「おいおいちゃんと目ぇ覚ませよ勝季、57ページのどこにレーザーなんて書いてある?」
無地のTシャツに太い腕、浅黒い肌、いかにも体育会系と言った感じの担任の先生が、にやけた表情で国語の教科書をツンツンと指差していた。
しかし先生はずっと前方、黒板の前だ。
じゃあ、自分を叩いたのは…?
「ばーか、センセに指されていきなり叫ぶ? 全く」
それは、自分の隣の席にいる唯衣の声。
「ビビらさないでよね、もう」
その手には、丸めたノートがしっかりと握られていた。
彼女は口を尖らせ、少しイラつき気味な顔でじっとお隣さんである勝季をにらみつけていた。
「てっめぇ…それで殴ったのかよ」
「なにが悪い? 居眠り常習犯の分際で」

教室の生徒…とは言ってもここ、5年生の生徒はわずか27人、その50個の視線が、突如始まった小さないさかいに注がれていた。
またかと呆れているような、やっちゃえと喜んでいるような。
それもそのはず、この2人のケンカ自体日常茶飯事なのだから。
けれども、見ているほど険悪な関係というわけではない。
口論こそよく行われるが、机が隣同士ということもあってか、忘れた教科書を互いに広げて見せたり、係の選出で同時に手を上げたり。
仲がいいのか悪いのかまったくもって不明だが、これだけは事実だった。
…同じアパートに住む、お隣さん同士だっていうことを。
「うっせーな、昨日暑くって全然寝れなかったんだよ、オマケにクーラー故障しやがるし」
「へーそう? いつものイビキがちゃんと聞こえてたんたけど、あたしが寝れないくらいに」
「ぐ…っ」
原因こそ分からないが、痛いところを突かれて勝季は口ごもった。
「つ、つーかもっと優しく起こしてくれたっていいじゃねーか! 尾てい骨骨折したらどーすんだよ!」
少し赤らんだ鼻を指差しながら、勢いよく勝季は立ち上がった。
「おーい、勝季」ふとその流れをさえぎるように、先生が間に入る。
「な…んだよ先生」
「鼻にあるのは鼻骨だぞ、尾てい骨ってのは尻にある骨だ、間違えんなよ」
唯衣と同様丸めた教科書で、勝季に分かるようにポンポンと自分の尻を叩く。

その瞬間、どっと爆笑の渦が。
「ちょ…あ、びてーこつ…」笑いの渦の中、一気に緊張とこっ恥ずかしさが加速する。
高鳴る心臓が頭の中に流れ込むように、紅潮する勝季の顔。
「んじゃ明日の保険の授業は勝季のリクエストにお答えして、骨のことでもやるか」
クラスの男子サイドから、尾てい骨!尾てい骨! のコールが響き渡る。
ドキドキがおさまらぬまま、力無くドッと椅子に倒れこむ勝季。
「ぷっ、まちがえてやんの」
横目でニヒヒと笑いながら、唯衣がささやく。
けれども猛烈に赤恥をかいた勝季には、もはや反論する気力すら残されていなかった。

「あちゃあ…」ため息と共に、一気に勝季の全身を脱力感が覆った。


                ☆

小学校の屋上。それが勝季の憩いの場所。
屋上に通じるさび付いた入り口のドアには、黄ばんだ紙に「立ち入り禁止!」の文字が書かれていた。
だけど、勝季はあえてそこのドアを使用せず、校舎裏口にある小さな非常階段をつたって、屋上へ行き来していた。
テストで惨憺たる点数を取ったとき、クラスメートと喧嘩して、先生から大目玉を食らったとき。
そんな時は、いつもこの校舎の屋上で、ずっと外の景色を見ていた。
「やっぱりここにいたんだ、カッチ」
風化し、あちこち剥がれかけた屋上の床を小走りに、唯衣が駆け寄ってきた。
カッチとは、勝季のあだ名である。
勝季と書いて「かつき」と読むのだが、いつの間にか「カッキ」と変に省略。そしていつしか「カッチ」へと変換されていた。
長年の風雨にさらされ、錆付き、いつ崩れてもおかしくない柵。
そんな危険な場所に足を投げ出しながら、勝季は広がる景色をただぼんやりと眺めていた。
5階建ての校舎…柵からその真下は雨よけの短い屋根だけ、落ちればすぐにグラウンドだ。
そんな危険な場所で、勝季は動物園のゴリラのように柵で腕を組み、伸ばした足先で脱いだスニーカーをくるくると回していた。
「そこ危ないよって前から言ってるじゃない、落っこっちゃうよ」
「大丈夫だって、ここ全然ボロくないし」
駆け寄ってきた唯衣に振り向きもせず、勝季は応えた。
「みんな帰っちゃったよ、なんでカッチだけ帰らないのさ」
「だーってさー、国語の時間にすっげー恥かいちゃったからさ、休み時間みんなうるせーんだもん、びてーこつびてーこつって」
あー、やっぱりね、と唯衣は直感した。
靴をくるくる回しているのは、彼が手持ちぶさたなときか、ちょっと凹んでいる時の癖であることを、唯衣は知っていたのだ。
確かに、終業後は勝季の寝言プラス尾てい骨発言でクラスは持ちきりだった。
体育と歴史の科目は、常にクラスでトップクラス。
しかしそれ以外は常にビリ街道を突っ走っている速坂勝季は、いつでもクラスの人気者だ。
取り立てて何の特徴も特色もないけど、元気とバカっぽさだけで何かと話題の絶えない少年だった。
ただ、恥をかくことには滅法弱い、それもまた勝季の良さでもあるのだが。
「うん、レーザー尾てい骨ね、あれ大ウケだったもん、久々のヒット!」
唯衣が笑いをかみ殺しながら、勝季の背中にゴロンと自分の背中を預けた。
「だっからよー、翔平も哲矢もみんなすっげーうるさかったから、一人で帰るフリしてこっち来ちゃったんだ」
「まぁ、ここだれも知らないからねー、カッチとっとと帰っちゃったんだとみんな思ってたワケだ」
勝季の背を背もたれ代わりに、唯衣は頭上に広がる青い空を見上げた。
街の中でもちょっと小高い丘の上にあるこの校舎の屋上には、天空を様々な図形に区切る電線も、視界をさえぎる建物も皆無だった。
夏休み直前…授業は全てお昼前に終了していた。
だから、二人で昼近くの空を見るなんてことは、通常ならばありえないこと。
ただ、校舎周りに植樹された木々たちがさわさわと風に揺れるだけ…耳に入るのはそれだけだった。
元気だけが売り物の勝季にしては、えらく場違いな場所。
彼と、幼なじみの唯衣だけしか知らない、ある意味秘密の場所でもあった。
「暑いからどけよ、唯衣」
「ほーれ落ちろ落ちろ、おりゃおりゃ」
唯衣は背もたれに力をかけて、じりじりと勝季を校舎端にまで滑らせてゆく。
2人には聞こえなかったが、柵の土台にはみしみし亀裂が生じていた。

                   ☆

数十年の歴史を持つ小学校なのだが、経年劣化と潮風の影響もあってか、後数年で取り壊しという事態にまで差し掛かっていた。
誰もいない、誰も来ない屋上。
たくさん案は挙がっていた、星空見学会をしようとか、花を植え、緑化しようとか。
けどそれらの全ては、少子化という時の流れでもろくも立ち消えていく。
実際、勝季のいる5年生のクラスも組み分けがなくなり、いつしか全学年1クラスという状態になっていた。
神楽崎市、神崎町。それが勝季たちの住んでいる町の名前。
一言で済ますのなら「お屋敷と大木以外、何もない」町。
ここ町の中心には、その名前の由来となった、重要文化財指定立ち入り禁止の「カンザキ邸」が、小高い丘の上に立っており、そこからは町の全てが見渡せるようになっている。
なんでも、大正時代から昭和初期にかけて活躍していた、かなり有名な学者が住んでいたという話なのだが…真偽のほどは不明である。
真偽は不明なのに、なんでまた「重文」なのかと聞かれると、これもまた詳細は戦火で焼失してしまったとか、話はいろいろ。
とにかく「偉い人が住んでいたお屋敷」であることは確かであった。
そして、その脇にでんと生えている、30mクラスの巨木、それもまた重文指定である。
年中青々とした葉を茂らせている、推定年齢千年あまりの巨大な、そして高い木。
幹も太く、大の大人が10人手をつないで、ようやくギリギリで一周できるくらいのサイズだ。
そしてこれもまた謎に包まれたカンザキ邸と同じく、種別は不明であった。

よく分からないけど大きな洋風建築のお屋敷に、大きな木。
だが、何分にも歴史が不明確なため、観光案内にもほとんど紹介されず、そして周りには柵が張り巡らされ立ち入り禁止なため、これを目当てにこの町へ来る人は全くいなかった。
それに輪をかけるように、数々のミステリーな噂も尽きない。
「誰もいないはずのお屋敷に、灯りがついていた」
「お屋敷の周りで、1匹の黒く光る野犬がうろついていた」
「窓のそばに、白い服を着た人が立っていた」
「真夜中に、木がぼうっと青白く光っていた」

そんな不気味な噂が続くこともあって、いつしかカンザキ邸の周りには誰も近づかなくなってしまった。
町内会でも「お屋敷の近くには凶暴な野犬がいるから、決して近づくことのないように」と通達が来る始末。
しかし…そんな噂で誰も来ないにもかかわらず、屋敷は一向に朽ちる気配がなかった。
整備にも、修復にも、草刈りにも、誰も来た形跡がないのに、である。
2階建ての屋敷は常に手入れが行き届いたかのように、小奇麗に整えられ、庭の芝生は雑草のひとつも生えずに、常に整えられていた。
それもまた、ひとつのミステリーであった。

               ☆

そしてそのカンザキ邸から1キロほど離れたところに、勝季たちの通う小学校がある。
潮風こそ吹いてこないが、その屋上には程よい涼風が吹き、夏休み前の暑いひと時を和らげていた。
「…そろそろ降りて帰ろうよカッチ、おばさん心配してるかもよ」
勝季の背中にもたれて座っていた唯衣が、ちょっとくたびれた声で話しかけた。
唯衣も勝季と同様、どちらかといえば身体を動かしているほうが好きなタイプである。
確かに屋上という場所は好きとはいえ、あまりじっとしているのは彼女の性分ではなかった。
「よっし! 帰るぞ!」
ようやく心が晴れたのか、勝季はぐんと腕を伸ばし、帰り支度を始めようと立ち上がろうとした。

ズン!!

突然、地響きが2人の身体に響き渡った。
「!」
「じ…地震っ」
何か重いものが降ってきたかのような、大きな衝撃が1回。
地震ならば細かい揺れが延々続く。だけど、今の衝撃は1回きりだった。
かなりの衝撃だったのか、校庭の砂が一気に舞い立ち、大量の砂煙を起こしている。
「カッチ…あれだよね、今の地響き、地震じゃなくってあれだよね?」勝季の背後で、唯衣の興奮している声が聞こえた。
「うん…出て来た、それも近くに」
地響きの衝撃音が、町一帯に響き渡っているのが、この屋上からだとはっきり分かる。
柵に腰掛けたまま、勝季は一生懸命目を凝らし、砂煙の中、辺りを見回した。
《やつ》を見つけるために。
普段だったら遠くで感じている衝撃が、結構近かった。
だとしたら、あれはすぐ近くに出てきたはずだ。
「あ…いた」
勝季の予想は当たっていた。
校庭の隅のほう、いつもは走り幅跳びや低学年の遊び場に使われている、大きな砂場。
その砂場を一気に消し去り《やつ》がその姿を現していた。
銀色に光り輝く、高さおよそ5mくらいの大きな直方体が、降り注ぐ砂粒にバチバチと真紅の火花を散らせ、もと砂場のあった場所に《浮いて》いた。
砂場のあった場所は、爆弾でも落とされたかのように大きくえぐれ、その中心地点に浮いている物体。
《宇宙から来た物体》とか《怪獣》とか《謎のロボット》とか、町のみんなは様々な名前で《やつら》を呼称していた。
そして一陣の風がグラウンドに吹き付けると同時に…その直方体は変形を始めていった。
耳を凝らすと、わずかに「チャ…チャッ…」と軽いプラスチック同士が擦れるような音がする。
今まで商店街の中とか、近所の工事現場とかで遠くから見物したことはあったが、こんな目の前で、しかも上から見物することができるなんて。
2人には初めてのことだった。
ボクシングで言えばリングサイド、コンサートで言えばアリーナ席といった所であろうか。
それ故に、すぐに2人の恐怖心は吹き飛び、それはすぐさま好奇心へと移り変わっていった。
「す…すげえ、変形してる、なんかパズルっぽい…!」
柵を握り締める勝季の両手が、興奮でわなわなと震え始めた。
銀色の直方体のあちこちから、キューブ状のデコボコが出たり入ったり。
ある場所は伸び、そしてある場所は縮み、それはだんだんとモノの形を成し始めていく。
「ね、ね、カッチ、今週はどういうのだろう、ロボットかな、それとも怪獣っぽいのかな」
唯衣の言うとおり出現するやつの形状は毎回違っていた。
町の人の証言が毎回違っているのもそのためである。
あるときは人の形であったり、そしてまたあるときはTVの特撮でお目にかかるような怪獣の様相であったり。
四角いまま、丸いまま変形せずに終わるときもある、予測不可能なのだ。

そして、グラウンドに現れた《やつ》が変形を終えた。
時間にして1分もかからないが、間近で見ていた勝季たちの目には、かなりの時間に感じられた。
「…掃除機?」
「っぽいね、カッチの家のにそっくり」
唯衣の応えに、勝季は思わず吹き出しそうになるのをこらえる。

下半身は台形で大きく、その中心から脊柱のように縦に伸びたボディ。
ボディの左右からは、これまた細い腕がひょろりと、数本の細いワイヤーに繋がれ、か弱そうに伸びている。
しかしその先端には、不釣合いに大きな筒が付けられており、いかにも銃口といった感じの穴が開いていた。
例えるのなら、縦型の掃除機に細い両腕を生やした感じのロボット。
しかし持ち手に相当するであろうその頭部は大きく、赤や白、不規則に明滅するセンサー状の突起物が前面にいくつも生えている。

基本的に、この謎のロボットたちは人間を襲うことがない。
毎回出現するたびに、家を半分消し去ったり、街中で暴れまわって破壊することはあるにせよ、その銃口、あるいは武器が人間に向けられたことは一度としてなかった。

第二に、《やつら》には人間の武器が一切通用しない。
警察が威嚇発砲なしに何発か銃弾を浴びせたものの、その光るボディには傷ひとつ付けられなかった。
むしろ、はじき返された銃弾が見物客に当たっては危険…ということで、以降銃器の使用は禁じられている。
その後、工事現場で働いていた人が、面白半分にショベルカーで突撃を試みたこともあった。
結果は惨敗。
敵はいとも簡単にショベル部分を捻じ曲げ、とどめに謎の光線で鉄の塊に。
以降同じく、むやみに奴らに戦いを挑むのは禁止された。

第三に、《やつら》は週に1回しか現れなかった。
日〜月のいつかは全くもって予想できないが、出現した日より3日間は絶対に出ないことは確認されている。
そして時間帯。平均的に朝7時から夕方7時の12時間の間にしか現れない。
早朝、深夜には今まで出現したためしがなかった。

第四…
奴らは、神埼町以外には絶対現れない。
同様に、世界各国でも出現報告はゼロ。
地域限定…それもとりたてて有名なわけでもない、この神崎町にしか、この光る敵物体は現れないのだ。

そして最後に…
《やつら》は、同じくどこからともなく現れる「ヒーロー」によって、必ず倒される。

唯衣は背中にしょっていたカバンから、小さな双眼鏡を取り出し、柵の隙間から敵を確認した。
「へっへー、こっちのほうがよく見えるモンね」
「ずるいよ唯衣、俺にも貸せよ」
勝季は彼女の持っていた双眼鏡をぐいっと横取り、同じく敵をなめるように見回した。
「いいけどさー、あとであたしのお願い聞いてくれるかな?」
「…ん、わかった」いつもと変わらぬ生返事。
大体勝季には予想がついていた、歴史の宿題を教えてくれとか、コーラおごってくれとか。

その返事に唯衣は「よっし」と小さく返事をしたのだが、敵の確認に夢中な勝季には全く聞こえていなかった。

よく見ると、敵の《掃除機》は僅かながら地面から浮いている。
ホバー駆動だろうか、足元からは軽く砂煙が上がっていた。
そして遠目では確認できなかったのだが《掃除機》の周りに、小さい虫のような物体が数個飛び回っているのが見て取れた。
蜂?…いや違う。
双眼鏡の倍率とピントを合わせてもう一度確認すると、それは《掃除機》と同様に銀色に光る、先端の尖った飛行物体だった。
羽根も無く、常に《掃除機》の周りを、一定の間隔で直線に動き、ピタリと正確に止まる。
「なんか分かった? カッチ」
「あぁ…あいつの周りに蜂みたいなのが飛んでる、いっぱいな」
「で、プラズママンを探しているわけだ」
なに変な名前言ってんだこいつ、そんな顔で勝季は唯衣を見返した。
「…プラズママン? 」
「うん、かっこいいでしょ、あたしがさっき考えたんだ」
唯衣は誇らしげな顔で勝季に投げ返す。
「うわ! 超だっせー名前」
「んもぉ、名無しヒーローじゃかっこ悪いんだもん!」
むくれた唯衣は、勝季から双眼鏡をひょいと取り上げた。
「つーか掃除機よりプラズママンだよ、そろそろ来ないとおかしいじゃん!」
取り上げた双眼鏡を手に、唯衣はきょろきょろとグラウンド周辺の観察を始めた。
「だーかーらその名前やめろよ、神楽崎戦士カンザッキーとかかっこいい名前にしろよ」
「…今の、カッチが付けたの?」
「あぁ」
「そっちの方が何百倍もかっこわりーもんねー、あ」
ふと唯衣が、言葉を止めた。
「どした、唯衣?」
「いた…じゃない、来てた、プラズママン」双眼鏡を持つ手が緊張で震えている。
「どこ?」
「あ、えっとね…砂場よりちょっと先、駐車場のあるとこ、見える?」
見えると言いつつも、唯衣の手は双眼鏡をしっかりつかんで離そうとしない。
「駐車場ったって…ンなもん…」
校舎のはずれにある専用駐車場は、ここからだとかなり遠い距離にあった。
双眼鏡を奪われたので、勝季は自身の視力1.5をフル活用するよりほか手段が無かった。
それなりに駐車場を確認することは可能。だがそこに人がいることまでは確認できない。
「木かなんかの見まちがえじゃ…」
そして勝季の言葉もまた…止まった。

「い…た!」
駐車場のちょうど真ん中あたり、例の《掃除機》に向かって、ゆっくりと歩いてくる白い人影。
そいつもまた、敵が出現してきたときと同じように、全身にパチパチと光る放電をまとい、突如として現れていたのだ。
勝季たちは実際何回か戦闘を目撃したことはあったのだが、双方が出てくるところまでは見たことが無かった。
しかも、他に誰もいないこの学校で。
唯衣と自分以外は誰も来ない、この屋上の特等席で!

「双眼鏡…貸して」
「やだ」

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