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創作倉庫 in mixi コミュの春嵐

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こんばんは。
こんな時間だけど、いいかしら?

あら、ありがとうね。
本当に急な雨で、やんなっちゃうわ。
ねぇ、春の雨って容赦ない降り方すると思わない?

そう、春の嵐って言うのかな?
ざぁ〜って来て、パッと止むのよね。
え?コート?
ああ、ちょっと風邪気味だから着たままでもいいかしら?
ごめんなさいね〜一応表で拭いてきたから。
そんなには濡れてなかったのよ、傘は一応持ってたから。
荷物はここでいいかしら?
もう看板なの?
誰もいないのに、私のために閉店できなくて大丈夫?


そうなの?
大変ね、バーっていうのも。
お客さんなんて、水ものだしね。
来たり来なかったり、天気次第だったりもするからね。
今日みたいな天気だと、お客さんも少ないんだ?
じゃあ、私奮発してどんどん飲んじゃおうかなぁ。
そう、今夜は飲みたい気分なの私。
メニューあるかしら?
ありがとう。
まずはビールなんて言ってみたいんだけど、私苦いお酒って駄目なのよ。
だからまずは、カシスソーダあたりにしようかしら。
女の子の定番でしょう?
昔から最初は、カシスソーダかカシスオレンジが多いわ。
やっぱり、そんなお客さん多いの?
デートだと最初はビールとか、言いづらいじゃない?
最初はカクテルで、乾杯〜なんてね。
うちの主人との最初のデートも、こんなお店で飲んだのよ。


え、主婦に見えない?
やだ、お上手ね〜
そう、童顔って言われるけど、結構いってるのよ。
本当だって!
だってもう35歳よ。
本当に見えない?
嬉しいなぁ〜
バーテンダーさんだって、若いでしょう?
隠したって駄目よ、肌が違うもの。
ほら、化粧っけなくても十分綺麗よ。
いくつ?
27歳?
やっぱ二十代はいいわね〜
一番女として、輝いてる年頃じゃない?
しかも一人でお店も切り盛りして、凄いわね!
え、何で一人って解ったのかって?
そんなの勘に、決まってるじゃない。
私、勘が良いのが昔からの自慢なんだから。
テストなんて一夜漬けだったけど、たいてい高得点だったのよ。
ホントホント!
頭もそこそこ、運動も悪くなかったし。
しかも、この童顔でしょう?
ぶっちゃけ、モテたわよぉ〜

あら、笑ったわね!本当なのに。
バブルの時は凄かったわよ!
アッシー、メッシー、その他もろもろ。
毎週のように男をひっかえて、ディスコ巡りよ。
もちろんお立ち台で、男どもの視線釘付けだったわ。
ボディコン、ワンレンなんて、知らないでしょう?
懐かしいわ〜
クイーンなんて言われて、ちやほやされてね。
毎日が華やかだったぁ〜
そんな時に、主人に会ったのよ。
そう普通のサラリーマンで、たまたま接待でディスコに来てたのね。
一目で恋に落ちたわ。
本当よ、一目見た瞬間「この人と結婚する」って思ったんだから。
え?そんなに、素敵な人だったのかって?

普通・・・だったわ。
取り立てて男前でも、スポーツマンでも、お金持ちでもなかった。
でも私には、彼がとても眩しく見えたの。
それまでの彼氏たちなんか、霞んで全く見えなくなった。
ポケベルしかなかったけど、必死で番号を交換して。
初デートはドライブだったわ。
めいいっぱい可愛く清楚な格好して、ウキウキして助手席に座ったわ。


それから私の生活は、一変したわ。
彼だけを見つめて、彼の喜ぶことだけを探して、どんどん私は変わった。
男友達どころか、女友達とも縁を切ったわ。
彼の趣味は野球だったから、野球選手のことも調べて覚えた。
言葉使いも丁寧にしたし、タバコもやめた。
髪型も黒のロングストレート、服装は癒し系。
マネキュアなんて、もってのほか。
地味に、彼だけのための女になったわ。
彼のマンションに住むようになって、家庭料理も勉強して毎晩彼の帰りを待ったわ。
彼も、とても喜んでくれたの。
そして私たち結婚して、とても幸せだった。
お姑さんも最初は嫌がってたけど、ちゃんと努力して認めてもらったわ。
今じゃ二人で、買い物にも行くのよ。

ただ・・・子供だけがね。

どうしても、出来なかったわ。
病院にも行ったけど、どうしても駄目だった。
たぶん彼に問題があったんだけど、それでも私は一言も彼を責めなかった。
だって私は彼がいたら、それだけで十分だったんだもの。
だけど、彼はそうじゃなかった。
自分を責めてて、私の顔色を伺うようになったわ。
私は気にしないでって、何度も言ったのよ。
なのに、最近帰りが遅くなってきたの。
最初は会議が長引いてとか、同僚と飲み行ってなんて言ってた。
でもそのうち出張が続いて、私ピーンときたのよ。
だから会社に電話して、彼が出張に行ってないことなんてすぐにわかったの。
でも、彼には黙ってたわ。
気づいてないフリをしてたの。
だって私、彼を愛してるもの。
だから私のいる家に帰ってくる限り、彼を責めるつもりなんてなかった。


なのに。


なのに今夜に限って、早く帰ってきたのよ。
私嬉しくって、久しぶりに台所で手料理頑張ったのよ。
ちょっと季節外れだけど、お鍋にしようと思ってお魚さばいてたのね。
そしたら台所に彼が来て、改まって話があるって言うの。
私は止めてって、言ったのよ。
聞きたくない、このまま夕飯にしましょうって。
そしたら彼が言ったのよ。


別れてくれって。
別に好きな人が出来て、だから離婚してくれって。


私は嫌だって、言ったわ。
だって、彼を愛してるんだもの。
すぐに他の女のことなんて、忘れるわって。
浮気なんて、風邪みたいなものよ。
すぐに冷めて、私の元に戻ってくるわって。
そしたら彼




子供が出来たって、言ったのよ。



嘘って、叫んだわ。
だって彼は、子供が出来ない体なんだもの。
そしたら彼は、子供が出来ないのは自分じゃなくてお前だって言うの。
何を馬鹿なこと言ってるのって、笑ったわ。
そしたら真面目な顔して、私が思い違いをしているって言うのよ。
勝手に記憶をすり替えてるって、私を指差すのよ。
おかしいでしょう?
だって問題は彼にあるのよ、私は知ってるの。
なのに彼は泣きながら、私の体を揺すって・・・

だから



黙らせたの。
ちょうど手元に魚をさばいてた包丁があったから、ひとつきね。
あっけなかったわ〜
だって変なことばかり言うから、私に病院へ行けって。
精神科なんて、用があるのは彼の方なのに。
可哀相に、私の邪魔ばかりするから。
倒れた彼の上着から、ここのお店の名刺が出てきたの。
だから来たのよ、私。
コートを羽織って、傘を差して、歩いてきたわ。
こんなに近くに、こんな良い店があったなんて知らなかったわ。
彼も私を連れて行ってくれたら良かったのに、死んじゃったらもう一緒に行けないわよねぇ。



あら、どうしたの顔色が悪いわね。
震えてるじゃない?
寒いのかしら、もう春なのに。
私は暑くなってきたから、コートを脱ぐわね。
だってもう見られても平気よね、この返り血。
あなたも悔しいでしょう?
せっかく、子供が出来たのにねぇ〜

他人のもの、盗るからよ。
子供のとき言われたでしょう?
泥棒は死罪って。

あら、違ってたかな?
ま、いいや。





さようなら。

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