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広き心耳な音コミュのリンドロンド その3(ラン)

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寒さで目が覚めた。

見渡すと雪がちらついていた。
まだあたりはほんのりと暗い。
夜が朝を迎えに行っている、ちょうどそんな時間なんだろう。
夜の暗さが柔らかい。

『ここに来てどのくらい経つだろう』

ふとそう思った。
あの黒ぶち模様のネコと別れてもう半年が経つ。
そんなこと考えもしなかったのに。
夜が持つ哀愁のせいだろう、と思った。


ワタシは何一つ自分から自由になろうとしなかった。
そんな自分にいやけがさして旅立つことにしたのだ。
旅だった?いや逃げ出した?
ただそんな疑問はワタシの寒さをやわらげることもなかった。

近くに捨てられている新聞紙を拾い集めカラダにぐるっと巻きつけもうひと眠りした。


朝起きていつもようにゴミ捨て場を荒らす。
食料にありつくためにはワタシはどんな苦労もいとわない。
すべては「生きるため」に。

本八幡の駅はいつも通りヒトが行き交う。
足音がいつもと違う。そうか今日は休日か。ま、私にとってはどうでもいいことだけど。
彼らにもそれぞれの生活があり事情があり感情があるのだろう。
でも結局は生き残るためにだけに生きているのだ。結論的にいえば。
私がそうであるように。

食欲を満たしたワタシは昼寝の場所を探す。


白ネコ。

リリィ。
そう呼ばれていた。あの頃がずいぶん遠くに感じる。

いくつかの名前が私にはあった。
でもこの町に来た時にそのすべてを捨てワタシはワタシに名前をつけた。

ワタシにしかわからない名前。

強くしなやかな名前。


『ラン』


そうワタシはラン。
真っ白でただただ純粋で決して黒には染まらない白ネコ。


午後3時。
季節外れの雪は止んでいる。

人間の足音は変わりない。
大きく深呼吸をする。
鼻から入ってくる空気に混じって辺りの人たちの「寂しさ」がワタシのカラダに入ってくる。

あぁ、とため息をこぼす。
「忘れていた」はずなのにな。

首の傷がズキンと痛んだ。




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