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広き心耳な音コミュのリンドロンド その1(正人)

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「時刻は11時50分となりました。お昼のニュースの時間です。」

「首都圏は、夜半過ぎから小雪がちらちくところも・・・」

パチン。

国営放送という大義名分を身にまとった、人畜無害でありつつも、
おもしろみに欠ける放送局の発信するお決まりのニュースを打ち切り、
僕はネクタイを結んでいた。

『面白いってのも考えもんだな。どうしても暴力と性に偏ってしまう。』

ふと金魚と目が合う。

『なに悟ったようなことぬかしてんだ。お前、何様だ!』

そう言われた気がした。

「うるせぇ。200円の価値のお前に言われたくないね。」

『ふん。その200円に少なからず心を癒されているのは誰だ?』

「違うね。お前の存在は俺の自由を認識するためのものだ。」

『へらねぇ口だ。せいぜいその“自由”とやらを謳歌しな。』


台所に向かうと金魚の餌をとり、水槽の上に見せびらかした。

金魚は口はパクパクさせながら今か今かと待ち構えている。

僕は少しの間その様子を見つめた後、トントンと餌を適量落とし、
主従関係をはっきりさせるとともにため息をついた。

「じゃあ留守を頼むよ。」


奴は餌を食べること以外に興味がなく、返事もしなかった。



バタン。
部屋の中は金魚が餌を頬張る音と冷蔵庫の低いモーター音のみとなった。



本八幡駅の改札は混雑していた。

「遅れているんですか?」

人ごみを掻き分け駅員に尋ねる。

「はい。錦糸町駅で人身事故がありまして。」

「動いてるの?次の下りは?」

「約20分後です。」

僕は駅員に軽く頭を下げつつも舌打ちしながら駅前のコーヒーショップへと向かった。

ホットコーヒーを相手にタバコを吸い、右手で携帯電話を操作する。
この店内では5人に3人がそうするのではないかというスタイルだ。

『メール。』



from:京子
to:野中 正人

−件名:今度の日曜日−

今度の日曜日はOKです。
いつものように11時に柏駅前の時計台でいい?

  −ENDー


電車の遅延にうんざりしていたが、これは朗報だった。
年甲斐もなく心が躍った。

今日は木曜だからあと4日後だ。

ニヤニヤを抑えられないままに返信を打つ。


to:京子
from:野中 正人

−件名:Re;今度の日曜日−

OKです。
11時に柏で。

  −END−


どうやら電車が来るようだ。
人の流れが慌しい。


その日の授業はいやにテンションが高かったらしい。
生徒からも同僚からも
「何かいいことがあったのか?」
と問い詰められた。

僕はそっけなく受け答えしたが、
もちろん自分でもわかるぐらいウキウキしている。

予備校という職場の都合上、帰宅が深夜になることも多い。
昨日も終電だったし、今夜もそうだ。

帰宅したときは午前1時になっていた。

「ただいま。おなかすいたろう?」

金魚に餌をやる。
金魚にとってはホントは良くないことだとわかってはいるが、
餌の量が自然と多くなった。

『何かあったのか?』

「聞くなよ。そんなこと。」

その日はなかなか寝られなかった。

次の日もその次の日もウキウキは続いた。
珍しく午前中から早起きし、
日曜に着ていくためのジャケットを新調した。
靴も買おうと思ったが、ふと客観的に見た自分が気持ち悪くなりやめた。

土曜の夜、夢を見た。
自分が空を飛んでいる。
しかし、あまり上手な飛行とは言えず、ふらついているしとても低空飛行だ。
それでも何とか苦難を乗り越え、
アニメで原始人が食べるような骨付き肉を抱え、
ツバメの様に巣に持ち帰ろうとするが、
途中で銃で撃たれ力尽きてしまう夢だった。

あまり良い寝覚めではなかったし、
何も今日、こんな夢を見なくてもと思ったが、
気持ちを切り替え今か今かと待ち構えている目覚まし時計を時限爆弾の処理班よろしく事前に解除した。
目覚まし時計は見せ場を奪われ寂しげだが、そんなことはお構いなしだった。
日差しが眩しい。天気も絶好だ。
夢は夢、現実への暗示ではない。
自分に言い聞かせた。
それに、夢のことは時間が経つにつれ、
その鮮明さが失われていくのとともに頭の隅に消えていった。

シャワーを浴び、念入りに歯を磨く。
コーヒーは飲んだがタバコは吸わなかった。
今日は一日禁煙すると決めている。

柏駅、午前10時30分。

彼女は自分の方が早いとその日一日不機嫌になるので、
待ち合わせの時間にはかなり気を使った。

さすがに今日は30分前、まだ来ていない。
柏駅は日曜の活気に満ちていた。
往来する男女を微笑ましく眺め、彼女の到着を待った。

できるかぎり平静を装おうとしたが、きっと(絶対)変に見られたろう。
何度も腕時計と時計台の針を交互に見比べ、
時間が着実に近づいていることを確認した。

10時52分。
駅の改札に彼女らしき姿を見つけると心臓がトクンと脈打った。

僕は軽く手を挙げ合図する。
相手も自分を認識したようだ。

相手との距離は30m。

駆け寄りたいがここは耐える。

15m。

彼女は駆け出している。

5m。

3m。

2m。

僕は片膝をつき受け止める姿勢をとった。

「パパァ!」

彼女が腕の中に納まった。

父親最高!



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