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広き心耳な音コミュの猫ノ住区

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『川の上を歩くヤギの話を知っている?』

『いや。知らないな。どんな話?』

『パンダの涙の話を知ってる?』

『ごめん。それも知らないや。どんな話なの?』

ん?

「ねぇ、今の話、どこかで君としなかったかな?ミーコ。」
「いいえ、したことないわよ。やっぱあなたって変ね。だって私たちはさっきあったばかりでしょ?」
「・・・・。」
「前の彼女のことじゃない?そういうのってデジャブって言うらしいわよ。」
「そうか。そうだね。」

『ここわ寒いわね。』

えっ?

「ほら。見えてきたわよ。」
そう言ってミーコは斜め前方を見上げた。
最初、僕はどれを指しているのかわからなかった。
しばらく目をこらした時、僕は圧倒された。

天をつきさすようにそれは立っていた。
あった、と表現した方が正しいかもしれない。
それは僕らがこの世にいるずっと前からそこへあったのだろう。
絶対的な存在感だった。

「ねぇ。ちょっとトイレに行ってきていい?」
ミーコが言った。
「いいよ。僕もちょうど一休みしたいところだったんだ。」
「じゃあ、あっちの茂みに行ってくるわね。」
そう言ってミーコは少し離れた草むらに姿を消した。

沈黙に残されふと我に返った。
見渡すと辺りはお墓に囲まれていた。冷たい風が頬をうった。
眼前には変わらずに天を突きさす大仏がいた。
僕のココロの奥の方から何か得体のしれない物体が這いあがってくるようなカンジがした。


そう言えばさっきミーコが言っていた『パンダ』って・・・・・?
聞いたことあるような・・・・。


「あなたはよく知っているはずですよ。」

聞き覚えのある声だった。
冬の空の下、その声は凛とした存在感を放っていた。

「そうでしょ?ワトソン君」

その猫の目は思慮深げで切れ長、鼻は高く自己主張が強い。おもむろにくわえた小枝をピュッとはじいた。
ホームズ。

それはまさしくホームズだった。
群馬に行く途中にはぐれた、トラックと一緒に火柱となったホームズだった。

「驚いていますね?無理もないでしょう。でもいったでしょ?何回も修羅場をくぐりぬけてきたとね。」

突然の出来事に僕は言葉を探していた。
いや正確にいえば違う。
僕は僕を探していたのかもしれない。

ねこ10、ワトソン、イルカ、ホームズ・・・、たくさんの僕が僕の中を去来した。

「ミーコはもどってきませんよ。ミーコの役目はここまでですから。さぁ、先を急ぎましょう。」
ホームズは言った。
「ルナルナも待ちくたびれているでしょうし。」

ルナルナ??

「あっ、その、あなたは・・・、なんで・・・」

「立ち止まっている時間はないですよ。足を進めなさい。あなたの場所へとね。」
そう言うとホームズは大仏へと一歩一歩歩き出した。


僕らは歩いた。
見上げるとエ○ァンゲ○オン、いや大仏の顔がすぐそこまで近づいていた。
月灯りの下、てっぺんのアンテナがよく映えた。

なぜか懐かしかった
「懐かしいですか。そうでしょうね。これはあなたが操縦していたんですものね。」

操縦??

大仏の足もとに着いた時、ホームズはそう言った。


「そんなこと言ってもわからないわよ。」
大仏の陰から声が聞こえた。
「あなただって鎌倉の大仏を操縦していた自分を思い出すのに随分時間がかかったじゃない?」

薄い青色のカラダをひらりと返した時にお尻に三日月の模様が見えた。
「ワタシみたいにネコになっても人間の頭にのったりして記憶を手放さないようにしなくちゃね。」
見間違えるはずがなかった。
ルナルナだった。

僕は言葉を失った。探すことすらできなかった。
僕はそこにただ『ある』ことしかできなかった。
理解している自分と理解していない自分の二つが宙ぶらりんに僕のカラダから離れていくように感じた。

ホームズは言った。
「もう準備は整っていますよ。ワトソン君。いいや、10番。」

ルナルナは言った。
「そうね。ネコ0の、いえ0番の言うとおりだわ。準備はいいかしら?」

「ぼくは、僕はネコ4に会いにきたんです・・・。」

「知ってるわよ。」とルナルナはいた。「最初から全部。」
「そうですよ。最初から全部決まっていたことです。」
「あなたはまだ理解していないようね?」

少しの沈黙の後、ルナルナは言った。
「あなた、自分の顔を見たことある?」

えっ?

そう言えば僕は僕の顔をよく見たことがない。

旅路の中で多くのネコと出会ってきた。一匹一匹の顔はよく思い出せる。
しかし僕は僕の顔をしっかりと思い出すことはできなかった。

「ワトソン君、君はネコじゃないんですよ」
「そうよ。」

ルナルナとワトソンは声をそろえて言った。

『あなたはね・・・・』
『猫科最強ノ虎・・・・・・・・・パンダッ!!』


パンダッ!?


全ての記憶が呼び醒まされた。

僕はひらりと身を返し、一目散で牛久大仏を駆け上った。
そして右耳の穴から器用に身体をくねらせてすっと大仏の中に入った。
そうコックピットへ。

よし。
準備完了。
視界良好。

操縦席のレバーを思いっきり引っ張った。
牛久大仏はガガガと不気味な音を立て目から怪しい光を発し動き出した。

「上等じゃない」とルナルナが言う。
「その調子です」とホームズがうなづく。


そうだ。僕は昔この大仏で海の向こうのフリーダムの女神と戦ったんだ。


・・・・ってバカヤロー!!
急だよ。


僕は自分の頬をひっかえてみようとした。
これは夢なのか、と。

その時、
遠くからかすかに声が聞こえた。
−・・・・行ってみたいの−

その声は徐々にはっきりと言葉としての形をとった。

−10分後へ行ってみたの。10分の間に私は何をするの?どこへ向かうの?なにをしたいの?なにをするべきなの?−


忘れもしないネコ4の声だった。僕を旅へ導いたネコ4の言葉。


目をつむると頭の中にあの日の星空が広がった。


僕は10分後に行くことができたのだろうか?

不思議な雰囲気に包まれながら
僕はその声がする方へ足を進めた。

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